公認会計士が伝える!シリーズ

公認会計士が伝える! 中小企業の経営指標の活用術 第9回

財務安全性関連指標の業種別・売上高階級別分析①

2025/12/19

著者 :  中島 努

1.はじめに

P/LやB/Sなどの決算書を分析する上で、決算書に実際に載っている数値自体を分析(前期の数値と比較するなど)することはもちろん重要ですが、それだけでは課題に気付きにくいことがあります。そんなとき、「経営指標」を使えば、課題なども浮き彫りになりやすくなります。そこで、本稿「公認会計士が伝える! 中小企業の経営指標の活用術」では、いろいろな経営指標を取り上げながら、その活用について考えていこうと思います。

本稿ではこれまでの第1~8回を通じて、財務安全性に関連する経営指標である「流動比率」「当座比率」「固定比率」「固定長期適合率」「債務償還年数」「インタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)」を取り上げ、業種別の分析をしてきました(注)。

(注)この他、「自己資本比率」については、「速くてもミスしない! 公認会計士の仕事術講座 第82回」などで取り上げています。

今回からは、これら財務安全性関連の経営指標(自己資本比率を含む)について、業種別・売上高階級別に分析してみます。

2.中小企業の財務安全性関連の経営指標を業種別・売上高階級別に分析してみよう

(1)全業種平均での売上高階級別の分析

中小企業実態基本調査(中小企業庁)は、2025年 7月30日に2023年度実績が公表され、業種別(大分類の11業種)の切り口をさらに「従業者規模別「売上高階級別」「資本金階級別」「設立年別」という切り口でブレイクダウンしたExcel統計表も公表されています。そこで今回からは「業種別・売上高階級別」の切り口での分析をしてみようと思います。

まずは全業種平均で売上高階級別の分析から始めることにします。【図表1】は、中小企業実態基本調査のデータを活用して、財務安全性関連の経営指標の中から7つの指標を算出してみた結果を示しています。

【図表1】「全業種平均」での売上高階級別の財務安全性関連の経営指標(2023年度実績)

【図表1】から売上高階級別の財務安全性関連指標についての傾向を見てみると、次のような傾向が読み取れます。

✓売上高が低い階級ほど財務安全性が低い傾向が見られる

  • 流動比率や当座比率が低く、特に「500万円以下」の階級では流動比率76%、当座比率68%と、100%を大きく下回る水準にとどまっています。
  • 固定比率が、「500万円以下」の階級ではマイナス値となっています。同階級では自己資本比率が△9%とマイナスで、債務超過の状況に陥っているためです。また、売上高が低めの「500万円~5千万円」の各階級は200%以上となっており、固定資産に対して純資産が大きく不足している様子が読み取れます。

✓債務償還年数やインタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)に異常値が多い

  • 「500万円以下」や「500万円超~1千万円」の階級では、債務償還年数が△19年、△166年とマイナス値で、利益やキャッシュフローが確保できていないことがわかります。ただし、これらの階級における借入には金融機関以外からの借入(役員等からの借入と想定される)が相当程度含まれており、役員等からの借入でしのいでいる様子がうかがわれる点は補足しておきます。
  • ICRも△25倍、△20倍とマイナスで、支払利息を営業利益で賄えていない状態です。

✓売上高が増えるにつれて指標に改善傾向が見られる

  • 「1億円超~5億円」や「5億円超~10億円」の階級では、流動比率・当座比率・自己資本比率などで全体平均よりも良い数値を示しているものが多く、財務の健全性が高まっている傾向が見られます。
  • 「3千万円超」の各階級では、債務償還年数も5~9年程度で、健全な水準に収まっています。
  • 「1億円超」の各階級では、ICRも5~15倍と、利息の支払能力が高い状況にあります。

(2)財務安全性関連の指標(全業種平均)の売上高階級別分析を踏まえた留意点

✓売上高階級の低い企業

売上高の少ない小規模企業ほど財務安全性関連の財務指標に課題が多く見受けられ、資金繰りや借入依存に注意が必要と考えられます。

✓売上高の成長と財務安全性

売上高の成長に伴い、財務安全性は改善する傾向はありますが、成長のためには投資並びに借入を増やす必要が生じることが多いでしょう。このため、成長戦略と財務管理の両立が重要と考えられます。

✓債務償還年数やICRでマイナス値

債務償還年数やICRでマイナス値になっているのは、利益が出ていないという問題が大きく、収益性の改善策の検討が必要と考えられます。

✓経営指標の定期的な確認

経営指標を定期的に確認し、目安値や同業種平均などに照らして自社の状況を分析したり、年度別の推移を分析するなどし、問題があれば財務体質の見直しなど必要な対策をとることが有効です。

3.おわりに

本稿では、中小企業の財務安全性関連の経営指標の中から「流動比率」「当座比率」「固定比率」「固定長期適合率」「債務償還年数」「インタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)」「自己資本比率」を取り上げ、売上高階級別別の分析を進めています。

今回の分析は全体的な傾向をつかむために、まずは全業種平均での分析をしてみました。売上高が低い企業と高い企業とでは財務安全性に違いがあることが実際の数値で確認いただけたことと思います。

次回はさらに、中小企業の財務安全性関連の経営指標について、売上高階級別の分析を業種別にブレイクダウンしてみていきたいと思います。次回以降も引き続き、「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を活用しながら、経営指標の活用法を考えていきたいと思いますので、そちらも併せてお読みいただき、実務上の参考にしていただければ幸いです。

提供:税経システム研究所

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