わかる 民法(債権法)改正トピックス

「わかる 民法(債権法)改正トピックス」は、平成27(2015)年3月31日に国会に提出された民法改正法案をもとに、第1号(平成27(2015)年11月)から第12号(平成28(2016)年10月)まで改正法案の債権法の部分についての内容を分かりやすく紹介しているコンテンツです。
この法案は平成29(2017)年の第193回国会において「民法の一部を改正する法律」として可決、同年6月2日に公布され(平成29年法律第44号)、令和2(2020)年4月1日から施行されることが決まりました。
公布された改正法は、法案段階から大きな修正はないため、本解説の内容自体に大きな変更はありませんが、施行後の現在、見直しをはかり文言修正版としてコンテンツの差し替えを行いました。
本解説の内容が実務の参考になることを、執筆者一同願っています。

2020/04/01

意思能力規定の新設
敷金に関する規程の新設
条件に関する改正
危険負担
第三者のためにする契約

消滅時効期間の見直し① —貸金等債権一般の場合—

Q
Aは友人のBに100万円貸しましたが、返済してくれません。Aはいつまで返済請求ができるでしょうか?
現行法では10 年ですが、改正法案によれば5年になります。
A

消滅時効期間の見直し② —不法行為債権の場合—

Q
Xは車でひき逃げされ、負傷しました。その車の運転手が見つかれば損害賠償を求める訴えを起こしたいと考えていますが、提訴できるのはいつまででしょうか。
現行法では、(1)損害および加害者を知った時から3 年間、また(2)事故(不法行為)の時から20 年を経過したときですが、改正法案によれば(1)は5 年間、(2)は20 年になります。
A

消滅時効期間の見直し③ —時効の管理—

Q
Xは友人のYに100 万円貸しましたが、返済期限が来ても返済してくれません。返済請求権の消滅時効期間が間近に迫ったことから訴訟を起こす準備をしていましたが、折しも火山の噴火のため避難所に避難することになりました。噴火が収まるまで時効を猶予してもらえないのでしょうか。
一定期間の猶予があります。天災等により訴訟提起ができない場合、現行法では、その障害が消滅した時から「2週間」を経過するまでの間は、時効は完成しないこととしていますが、改正法案では「3か月」に延長されます。
A

意思能力規定の新設

Q
今回の民法改正で「意思能力」という規定が新設されましたが、どのようなことを規定しているのでしょうか。また、この規定はどのようなケースを想定しているのでしょうか。
改正案では、「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする」と規定し、法律行為が有効に成立するためには、意思能力が存在している状態で意思表示をすることが明文化されました(改正法案3条の2)。
また、この意思能力に関する規定は、小学校入学前の幼児と行う取引や認知症などで判断能力が減少している高齢者が行う取引、さらには一時的に意思能力が喪失している泥酔者が行った取引などにおいて適用されることが想定されます。
A

保証人の負担① —個人根保証契約—

Q
Aは、大学時代の先輩Bから、C所有の甲マンションを借りる際の保証人になってほしいと頼まれました。Aは、大学時代、Bに世話になっていたことから、保証人となることにしました。BC間の甲マンションの賃貸借契約書には、「Aは、本件契約から生じるBの一切の債務を負担するものとする」とのがありました。 その後、Bが、賃料を5か月分滞納したまま甲マンションから失踪したことから、Aは、Cより、甲マンションの未払賃料および原状回復費用として、200万円を請求されました。Aは、Cに200万円を支払わなければならないのでしょうか。
改正法案ですと、AC間の根保証契約(ねほしょうけいやく)は無効(改正法案465 条の2第2項)となるため、AはCに200万円を支払わなくてよいことになります。
A

保証人の負担② —事業債務の保証契約—

Q
Xは、株式会社A(A社)の代表取締役で親戚でもあるBより、A社の資金繰りの悪化を理由に、500 万円の貸付を頼まれました。Xは、親戚であるBの頼みのため、貸付を断れませんでしたが、A社の経営状況が悪く、B自身にも資産がないことから、500 万円を返済してもらえるか不安がありました。そこで、Xは、B以外の者にも連帯保証人になってもらうことを条件に、貸付を行うこととしました。Bは、連帯保証を高校時代の友人Yにお願いすることにしました(図1:本件契約関係図参照)。
Xは、Yと連帯保証契約を締結する際に、どのような点に注意すべきでしょうか。
現行法では、連帯保証契約は、書面で締結すれば有効ですが、改正法案では、会社の経営者以外の個人(Y)による会社の事業債務(500 万円の貸金債務)の連帯保証契約は、契約締結日の前1か月以内に公正証書を作成しないと無効となります。
A

保証人の負担③ —債権者の情報提供義務—

Q
Xは、親戚であり、株式会社A(A社)の代表取締役Bより、A社が取引先のYから500 万円の貸付を受ける際の保証を頼まれました。Xは、噂で、A社の経営状況が悪いことを聞いていましたが、親戚であるBの頼みであるため、YのA社に対する貸付につき、保証人となることにしました。(図:本件契約関係図参照)。
Xは、保証契約締結後、A社のYに対する支払状況につき、Yより情報を入手できるでしょうか。
現行法では、保証契約における債権者の情報提供義務は規定されていませんが、改正法案では、保証人に対する債権者の情報提供義務に関する規定が新たに設けられており(改正法案458 条の2・458 条の3 第1 項)、Xは、Yより、A社の支払状況の情報を入手することができます。
A

賃貸借に関する改正① —リースバック契約—

Q
「不動産」所有者(A)が賃借人(B)との間で賃貸借契約を結んでいる状態で、その所有不動産を譲受人(C)に譲渡した場合でも、AB間の賃貸借契約は維持できるのでしょうか?
原則として、賃貸不動産が譲渡された場合には、賃貸不動産の賃貸人の地位が当然に譲渡人A(不動産の旧所有者)から譲受人C(不動産の新所有者)に移転しますが、改正法案では、A・C間でリースバック契約を結ぶことで、A・B間の賃貸借契約が継続することになります。
A

賃貸借に関する改正② —判例の条文化などのその他改正—

Q
リースバック特約のほかに賃貸借契約においてはどのような改正がなされるのでしょうか?
賃貸借契約の存続期間の上限の長期化や、賃貸借契約の目的物の修繕関係の明文化、契約終了時の原状回復義務の明確化、敷金に関する規定の新設など社会生活のニーズに応えるためにさまざまな改正が予定されていますが、いずれも今までの判例や実務を明文化したものですので、実務に与える影響は少ないと考えられます。
A

法定利率の見直し① —遅延損害金について—

Q
Xは友人のYに自家用車を100 万円で売却しましたが、代金の支払期限である3月1日がきても返済してくれません。XはYに対して6月1日に返済を求めようとしていますが、いくらの返済を請求できるでしょうか。
代金額100 万円に加えて、損害賠償(遅延損害金)を請求できます。契約で特別に、支払が遅れた場合についての定めをしていない場合は、法定利率によります。現行法では年5%ですが、改正法案では改正法施行時点で年3%になります。
A

法定利率の見直し② —中間利息控除について—

Q
Xは自動車にひかれて負傷し、後遺障害が残ったため、労働能力が減退してしまいました。治療費等に加えて、事故がなかったならば得られたはずの利益(逸失利益)を加害者Yに請求することはできるでしょうか。
XはYに逸失利益を請求することができます。逸失利益の算定にあたって中間利息控除が必要であり、それに法定利率が用いられます。現行法では年5%ですが、改正法案では改正法施行時点で年3%になりますので、注意が必要です。
A

請負契約に関する改正① —注文者から見た改正点—

Q
現在、当社は自社に導入するコンピューターシステムの開発を他社に依頼しており、3年後に実際に導入される予定です。その際に不具合が生じた場合の対応がとても不安です。今回の民法改正に際して、開発を依頼している会社への責任追及に関して何か変更はあるのでしょうか?
仕事を依頼した当事者を注文者といい、仕事を受注した当事者を請負人といいますが、改正法案では、請負人の仕事が不完全な場合の担保責任に関する規定が見直され、現行民法よりも注文者が保護されやすくなる改正が予定されています。
A

請負契約に関する改正② —請負人から見た改正点—

Q
私は賃貸マンションや賃貸アパートなどの賃貸用不動産のリフォーム工事を専門とする小さな工務店X1社を経営しています。毎年1月から3月はリフォーム工事が多く、とても人手が足りませんので、知り合いの工務店X2社から職人を回してもらい、お互いに協力しながら仕事を受注しています。このように仕事は分担していますが、X1社とX2社は、注文者(Y)との間でどういう契約関係に立つのでしょうか?また、この契約の中で何か注意すべき点はありますか?特に今回の民法改正の中で、私のような仕事に関係する改正はおこなわれるのでしょうか?
X1社とX2社の関係は請負契約のうちいわゆる「下請け」と呼ばれる契約となります。請負契約は、請負人(X1社)が注文者(Y)からの仕事の依頼に対し、その仕事を完成させることが契約の主な内容となりますので別の第三者(X2社)が仕事を完成させたとしても、原則として請負契約における注文者への請負人の義務は果たされます。
A

債権譲渡① —譲渡制限特約の効力—

Q
A社は、Y社に対する500 万円の売買代金債権(弁済期3か月後)を有していたところ、急な資金調達の必要が生じたことから、X社に対し、Y社に対する500 万円の売買代金債権を400 万円で譲渡し、Y社に対して、内容証明郵便で譲渡通知をしました(図:本件契約関係図参照)。3か月後、X社がY社に対し、A社から譲り受けた500 万円の売買代金債権の履行を求めたところ、Y社は、500 万円の売買代金債権には譲渡制限特約が付されており、AX間の債権譲渡は無効であると主張しています。
X社は、Y社に対し、500 万円の支払請求ができるでしょうか。
X社が譲渡制限特約につき悪意または重過失の場合、現行法では、X社は、Y社に対し、500万円の支払請求をできませんが、改正法案では、X社がY社に対し履行の催告をすることによって、X社がY社に対し支払請求できる場合があります。
A

債権譲渡② —将来債権の譲渡性—

Q
医師Aは、最新の医療機器を自己の開業する医院に導入することを検討していましたが、資金に余裕がありませんでした。そこで、Aは、リース業者X社と、医療機器のリース契約を締結し、今後3年間の間に、Aが患者を診療したことによって、Y基金(社会保険診療報酬支払基金)から支払を受ける各月の診療報酬債権のうち各一定額を譲渡することにより、リース料を支払うこととしました。Aは、X社より医療機器の引渡しを受け、Y基金に対し、内容証明郵便で将来の診療報酬債権の譲渡通知をしました(図:本件契約関係図参照)。
X社は、Aとの債権譲渡契約により、未だ発生していない将来の診療報酬債権を取得することができるでしょうか。
現行民法では、将来債権の譲渡の有効性につき明文はありませんが、改正法案では、将来債権の譲渡について明文が設けられ、その有効性が認められています。そのため、診療報酬債権が発生すると、X社は、当然に、診療報酬債権を取得し、Y基金に対し、その支払いを請求することができます。
A

意思表示に関する改正① -錯誤について-

Q
ダイビングを趣味とするXは、防水性の高い腕時計を買おうと思い、時計店Yで見つけた腕時計を購入しました。ところが後で説明書を読むと、ダイビングに使えるほど防水性は高くありませんでした。この場合に、Xは、勘違いしたことを理由としてにYに腕時計を返品して返金を求めることができるでしょうか。
Xが契約をした動機に勘違い(錯誤)があった場合において、防水性の高い腕時計を買いたいという動機を示していれば、保護される可能性があります。改正法案は錯誤に関する現行民法の規定をわかりやすい用語で規定します。
A

意思表示に関する改正② -契約の成立時期について-

Q
友人Yのバイオリンが欲しくなったXは、バイオリンを30万円で譲って欲しいという手紙をYに送りました。Yから30万円で売りますという手紙の返事をもらいました。バイオリンの売買契約は成立しているでしょうか。高額ですから、やはり契約書を取り交わすべきでしょうか。
契約当事者の一方が申込み、相手方が承諾すれば契約は成立します。現行民法ではYが承諾の通知を発した時ですが、改正法案では返事がXのところに到達した時に成立することになります。契約の成立には契約書は必要ではありませんが、契約書は取り交わしておく方がよいでしょう。
A

敷金に関する規定の新設

Q
私は居住用マンションやアパート、オフィスビルの賃貸業を行いながら、その賃料収入を主として生計を立てています。今回の民法改正の中で、敷金に関する規定が新設されるということですが、具体的にはどのような改正がおこなわれるのでしょうか。また、敷金の規定が新設されることによって、貸主・借主として何か注意すべきことはありますでしょうか。
改正法案では、敷金に関する定義規定を新設し、併せて敷金の返還時期や充当に関する規定を明文化することを予定しています。これによって、賃貸借契約における敷金の位置付けが明確になり、敷金返還に関するトラブルが少しでも減少することが期待されています。この民法改正後は、特に貸主側として、ご自身が使用されている賃貸借契約書の敷金に関する部分を見直し、将来的なトラブルが生じないようにする努力が必要となると考えられます。
A

相殺に関する改正① -相殺が禁止される場合-

Q
Xは、Yに対して100 万円を貸していましたが、期限を過ぎても返してもらえません。Xは、車を運転中にたまたま駐車中のYの車を見つけたので、①腹いせにXの車をYの車にぶつけた場合において、Yから車の修理代金100 万円の支払いを求められたならば、Yへの100 万円の貸金と相殺できるでしょうか。②過失(不注意)によりYの車にぶつけてしまった場合はどうでしょうか。
①の場合、現行民法・改正法案ともに、Xは相殺することはできません。②の場合、現行民法では相殺が禁止されますが、改正法案のもとでは相殺をすることができます。
A

相殺に関する改正② -差押えを受けた場合-

Q
A銀行は、Bに対して100 万円を融資し、貸金債権100 万円を持っています。一方、Bは、A銀行に100 万円を預けており、預金債権100 万円を持っています。このような状況において、Bが、国税100 万円を滞納したので、C(国)は、Bの預金債権を差押えました。このとき、A銀行は、Bに対する貸付債権100 万円を自働債権、BのA銀行に対する預金債権100 万円を受働債権として、相殺をすることができるでしょうか。
このQにおいては、A銀行は、現行民法、改正法案いずれのもとでも相殺をすることができます。ただし、改正法案においては、相殺をできる場合が拡張されることになります。
A

契約の解除① -帰責性の有無-

Q
Xは、平成28年5月9日、商品Aを販売するY社に対し、商品A(代金50万円)の注文をしました。これに対して、Y社は、Xに対し、商品Aを5月23日までに、配送する旨を伝えました。そして、Xは、Y社の銀行口座に、商品Aの代金50万円を振込みました。
ところが、5月19日、Y社の商品Aを取り扱う工場が、落雷によって全焼してしまいました。そのため、5月23日を経過しても、Y社は、商品AをXに配送することができません。
このような場合、Xは、Y社との商品Aの売買契約を解除して、支払済みの50万円の返還を求めることができるでしょうか。また、Y社の工場が全焼した原因が仮にXによる放火であった場合、XはY社との売買契約を解除することができるでしょうか。
現行法ですと、契約の解除の要件として、債務者の帰責性(きせきせい)が必要とされており、QにおいてはY社に帰責性がないため、Xは契約の解除をできませんでした。これに対して、改正法案によりますと、解除の要件として、債務者の帰責性が不要とされており、QにおけるXは、契約を解除して、Y社に対して50万円の返還を求めることができます。他方、Y社の工場の全焼がXによる放火であった場合は、改正法案によりますと、Xは、契約の解除をすることができません。
A

契約の解除② -軽微な債務不履行-

Q
Xは、Yとの間で、平成26 年7 月7 日、甲土地を代金5000万円で購入する売買契約を締結しました。そして、Xは、Yに対し、売買代金5000万円を支払い、甲土地の引渡しを受けました。しかしながら、Xは、甲土地について、転売予定のため、直ちに所有権移転登記を行わない意向でした。そこで、Xは、Yとの間で、売買契約の際に、所有権移転登記を直ちに行わない代わりに、甲土地の固定資産税相当額について、XがYに支払うことで合意しました(本件契約関係図参照)。平成27 年に、甲土地の固定資産税の請求書がYの住所宛に届きました。Yは、Xに対して、売買契約時の合意に基づき、甲土地の固定資産税相当額を支払うよう期限を定めて請求しました。しかしながら、Xが固定資産税相当額を支払われなかったことから、Yはやむを得ず、平成27 年分の甲土地の固定資産税を支払いました。
平成28 年になり、転売先が見つかったことから、Xが甲土地について所有権移転登記を行うべく、Yに協力を求めたところ、YからXに対して、Xが平成27 年に甲土地の固定資産税相当額を支払わなかったことから、債務不履行により、甲土地の売買契約を解除する旨の内容証明郵便が届けられました。
このような場合、Xは、Yに対して、Yによる解除は認められないとして、甲土地の所有権移転登記手続を求めることができるでしょうか。
現行民法ですと、契約解除の要件として、債務の不履行が社会通念に照らして軽微でないことは明文上必要とされていません。これに対して、改正法案によりますと、債務の不履行がその契約および取引上の社会通念に照らして軽微な場合には契約解除ができないことになります。QにおけるXの固定資産税相当額の不払いは、XY間の甲土地の売買契約および社会通念に照らして、軽微といえ、Yは、売買契約の解除をすることができません。
A

消費貸借① -契約の成立-

Q
Xは、友人Yに対して、100万円を貸す口約束をしました。しかし、100万円の捻出が難しくなったので、見送りたいと考えていますが、認められるでしょうか。
ご質問の事例は、金銭の貸し借りですから、民法の消費貸借契約(民法587条)の典型例です。同契約は金銭の交付を必要としますから、この事例において同契約は成立していないと考えられます。
A

消費貸借② -消費貸借にまつわる改正-

Q
Xが友人Yに対して100 万円を貸すという契約書を交わしたところ、
(1)Yはより安い金利で貸してくれる貸主Zを見付けたため、Xから借りる必要がなくなりました。それでもXから貸りなければならないのでしょうか。
(2)Yの資金繰りが悪化し、破産することになりました。この場合でもXはYに対して100 万円を貸さなければならないのでしょうか。
(1)Yは、Xから100 万円を受け取るまでは契約を解除できます。ただし、Xは、Yに対し損害の賠償を請求することができます(後記2.で説明します)。
A

条件に関する改正 -不正な条件成就について-

Q
X社は、ライバル会社Y社との間で、「Y社のデザインをまねた商品を製造販売しない」こととし、違反した場合には違約金を支払うと契約で定めていました。ところがY社は関連会社社員Zに客のふりをしてX社の販売店舗を訪ね、Y社のデザインとそっくりの商品の製造・販売を依頼しました。Zがしつこく要求するので、X社の従業員は断り切れずに依頼に応じました。その後、Y社は、X社に対して違約金の支払いを求めることはできるでしょうか。
これは、Y社が不正に条件を成就させたことになります。この場合、判例では条件不成就とみなすことができると解されていますが、現行民法では規定が置かれていません。これに対して、改正法案ではこれについての明文の規定を設けることにしています。
A

-売買における売主の責任①-

Q
当社(X社)は、プラスチックを加工して箱型にしたものを販売しているメーカーです。当社が販売している商品は最終的に各メーカーのさらなる加工により様々な製品として販売されています。今回の民法改正により売買契約における売主の責任に関する規定が改正されたと聞きましたが、当社のように加工品を販売しているメーカーはどのような責任を負うことになるのでしょうか。
売買契約における売主の基本的な義務は、売買契約の目的物を買主に引渡すことです。ただし、売主は目的物を引渡すことで売買契約における義務を完全に果たしたというわけではなく、売買代金を受領している以上、不完全な目的物の引渡しをした場合には、売主の義務として契約上の責任を負うことになります。今回の民法改正により売主が不完全な目的物を引渡した後の責任として、買主に①追完請求②代金減額請求③損害賠償請求④解除権の行使という4種類の方法による権利が与えられることになり、現行民法よりも売主の売買契約に関する責任の規定が整理されたといえます。したがって、貴社はこの点に十分注意して製品を加工・販売する必要があります。
A

-売買における売主の責任②(期間・方法について)-

Q
先日、私(X)が半年ほど前に購入した家具(テーブルセット)に不具合があることが分かり、それを購入したお店(Y店)に伝えたところ、半年も前のことなので、交換や補修の対応できませんと言われてしまいました。お店側としては日常的に使用している中で不具合が発生したのではないかということも言っていて、その言い分もわかるのですが、決して安いとは言えない金額でしたので私としてはお店(Y店)の対応に納得できません。何か解決策はありませんでしょうか。
売買契約における売主は、売買代金を受領している以上、不完全な目的物の引渡しをした場合には、売主(Y 店)の義務として契約上の責任を負うことになります。改正法案において、買主であるXさんから①追完請求②代金減額請求③損害賠償請求④解除権の行使という4種類の方法により責任追及することが可能といえますが、売買契約の法的安定性という観点からもXさんからの責任追及は、引き渡された契約の目的物が契約内容と不適合であることを知った時から1年以内にその旨を売主であるY店に通知する必要があります。
A

代理に関する改正① -制限行為能力者が代理人になる場合-

Q
Xは精神上の疾患から十分な判断能力を失ったため、成年後見開始の審判を受けることになりました。「成年後見人にはZ」が就任しました。ところで、Xには15 歳になった「子供W」がいます。Xの「亡妻V」の遺産をWは保有しています。もしXがWを代理したと言って勝手にその財産を使ってYと高額商品の売買契約を結んでしまった場合、それを取り消すことはできるでしょうか。
現行民法では、代理人に十分な判断能力があることが必要とはされていません。法定代理人Xには十分な判断能力がないため、取り消すべきかどうか判断することは困難です。改正法案は、Zが取り消すことができることを明らかにして、現行民法よりもWの保護が図られるようにしています。
A

代理に関する改正② -代理権が濫用された場合-

Q
Y会社の商品の仕入担当の権限をもつ営業部主任のSは、Tに転売して自己の利益を上げる目的で、Y会社の代理人としてX会社から商品を購入しました。(1)X会社がY会社に代金請求をしましたが、認められるでしょうか。(2)その後、この取引に関与したX会社の支配人Uが、Sの私益目的であるという事情を知って取引に応じていた場合にはどうでしょうか。
現行民法では、このような代理権の濫用を直接規律する規定はなく、判例で規律しています。改正法案はその判例法理を条文で明文化します。
A

代理に関する改正③ -利益相反行為になる場合-

Q
Xは、Yの土地と建物を借りる賃貸借契約を結ぶ際に、Yの要求に応じて白紙委任状(委任事項や受任者等を空欄にしたまま委任者が署名した委任状)を渡していました。その後Xは勤めていた会社をリストラされたことから賃料の支払いが滞りがちになりました。Yは、白紙委任状を使ってXの代理人としてWを選任し、WとYとの間で未払賃料に加えて違約金を直ちに支払う等というYに有利な和解をしました。このような代理契約は有効でしょうか。
代理契約は判例により無効と解されています。現行民法では、このような代理人の利益相反行為を直接規律する規定はありませんが、改正法案はその判例法理を条文で明文化します。
A

代理に関する改正④ -表見代理規定が明確に—

Q
(1)Yは、まだ入社2年目のWを、取引先であるXに紹介したとき、「Wは仕事もてきぱきできるから、この店の仕入れは全部Wに任せているんだ」と述べました。これは、新人のWを引き立ててXの信頼をえるために話しただけであって、実際には仕入れの代理権は与えていませんでした。
しかし後日、Wが、Yの代理人といって、Xのもとに商品を買い入れに来ました。Xは、Wが仕入れの代理権をもっていると考えて商品を売りました。その代金をXはYに請求できるでしょうか。
(2)Wが、Yの代理人といって、店舗を移転するので別の建物を借りる契約をXと結んだ場合に、XはYに賃貸借契約の履行を請求できるでしょうか。
これは、表見代理(実際には与えていないのに代理権を授与したと表示)に当たります。(1)の法規制は現行民法に規定がありますが、(2)は改正法案で新設されます(判例法理の明文化です)。
A

定型約款に関する民法改正① -定型約款が契約の内容となる場合-

Q
A社は、パソコン用ソフトBを開発・販売しています。ユーザーが、Bを利用しようとする場合、「本利用規約はお客様との間の契約内容になります。」との条項を含むパソコンの画面上に表示される利用規約に同意する必要があります。その利用規約の内容は、画面をスクロールすればすべて読めるようになっています。A社は、改正法案のもとで、Bの利用規約に同意したユーザーに対し、利用規約の内容が契約内容になっていると主張することができるでしょうか。
A社は、改正法案のもとで、Bの利用規約に同意したユーザーに対し、利用規約の内容が契約内容になっていると主張することができます(なお、ユーザーが同意をしていても、ある特定の条項が契約内容とならない場合がありますが、それについては「定型約款に関する民法改正②」にて取扱います。)。
A

定型約款に関する民法改正② -特定条項が契約内容から除外される場合—

Q
A社は、B社との間で、B社が開発・販売するパソコン用動画編集ソフト甲の利用に関する契約を締結しています。A社は、「本利用規約はA社とユーザーとの間の契約内容になるものとする。」との条項を含む甲利用規約に同意する必要があったので、これに同意していますが、甲利用規約をすべて見ておらず、月額料金額および契約期間の認識がある程度でした。ところが、甲利用規約には、①契約期間内に解約した場合には違約金1000 万円を支払うことおよび②甲利用中に外国語教材が有料で供給される旨の条項が記載されていました。A社は、B社から、①および②の条項について説明を受けていなかったため、契約後にこれらの条項の存在を知りました。A社は、B社に対し、①及び②の条項が、契約内容から除外されると主張することができるでしょうか。
A社は、改正法案のもとで、B社に対し、①および②の条項が契約内容から除外されると主張することができます。
A

危険負担

Q
Xは、Yとの間で、平成〇〇年9 月1 日、世界的に著名な画家の絵画甲を代金5000万円で購入する売買契約を締結しました(本件契約関係図参照)。絵画甲の売買契約においては、同年10 月1日に、YがXに対し絵画甲を引き渡し、XがYに対し代金を支払うこととなっていました。
しかしながら、同年9 月15 日、絵画甲を保管していた倉庫が火災により、絵画甲と共に、焼失してしまいました(本件契約関係図参照)。当該火災の発生について、XとYいずれにも落ち度はありませんでした。
このような場合、Xは、Yからの絵画甲の代金5000万円の支払請求を拒むことができるでしょうか。
現行民法ですと、特定物に関する危険負担の債権者主義が適用され、XのYに対する5000万円の代金支払債務は存続し、Xは、Yからの請求を拒めないことになります。これに対して、改正法案によりますと、特定物に関する危険負担の債権者主義について定めた規定が削除され、XはYからの5000万円の支払請求に対して、改正法案536 条1 項に基づき、支払を拒絶することができます。
A

第三者のためにする契約 -新・中間省略登記—

Q
Xは所有する甲土地を売りたいと考え、知人の宅地建物取扱業者であるYに相談しました。甲土地は商店街の空き地であったため、Yは地元商工会議所のメンバーであるZが駐車場用地として甲土地を欲しがっていたことを思い出しました。そこで、Zにこの話を持ち掛けたところ、Zは購入の意思を示しました。ところが、ZはW株式会社の設立手続中であり、会社名義で甲土地の登記名義を取得しようと考えています。
(1)この場合、設立前のW株式会社はXとの間で通常の売買契約を締結し、W株式会社の登記名義を取得することはできるでしょうか。
(2)仮に(1)が認められない場合、どのような契約による必要があるでしょうか。
(1)W株式会社は設立の登記手続が完了するまでは法人格を取得しないため(会社法3条、49 条、現行民法33 条)、登記名義を取得することはできません。
(2)XY間で売買契約①を、YW株式会社間の売買契約②を、というように二つの売買契約をし(詳しくは1で説明します)、その契約の際に特約事項として第三者のためにする契約(現行民法537 条)(詳しくは2で説明します)をする必要があります。なお、現行民法では第三者のためにする契約の規定はありますが、中間省略登記の方法に対応する規定はありません。
改正法案ではこれに関する明文の規定が置かれます(改正法案537 条2項新設)
A

—組合に関する民法改正(民法上の組合について)—

Q
私Xはホームページなどのデザインを中心としたWebデザイナーとしてデザインを提案する会社に勤めていますが、近い時期に独立しようと考えています。同じ会社のY(Xと同様Webデザイナー)とは仕事に対する考え方や将来の夢など気のあう部分が多く、「XY デザイン」という名前で一緒に独立しようという話が進んでいます。
一緒にデザイン事業をすることは決まったのですが、私もYもいきなり会社を設立するのではなく、まずは個人事業として行うことを希望しています。その際は「XY デザイン」という共通の屋号を使用して互いに補完しながら事業を行う予定です。しかし、私もYも法律に詳しくありませんので、どのような法律関係になるのかほとんど理解ができていません。
近々、取引に関する法律である民法が改正されると聞きましたが、私とYのような共同事業を行う者にも何か影響はあるのでしょうか。
XさんとYさんが共同して事業を行う場合、その共同事業体を会社組織にせず個人事業として行うのであれば、民法上の組合に該当するといえます。今回の法改正で民法上の組合に関する規定は今までの考え方や判例理論を整理し、明文化することが予定されていますので、一緒に事業するYさんとのルール作りの根拠が分かりやすくなることが予想されます。
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