税務情報レポート
MJS税経システム研究所・税務システム研究会の顧問・客員研究員による租税を中心とした多彩な研究成果および最新の税制改正および制度や動向、判例研究等に関するリポートです。
1687 件の結果のうち、 1 から 10 までを表示
-
2025/03/31 消費税
消費税の納税義務判定のポイント解説(第24回) 新設法人の納税義務の免除の特例③ 調整対象固定資産の取得
1.新設法人の納税義務の免除の特例とは新設法人の納税義務の免除の特例(以下「新設法人の特例」といいます。)とは、基準期間のない事業年度の期首資本金が1,000万円以上の新設法人(社会福祉法人を除きます。)について、消費税の納税義務を免除しないとする特例です(消法12の2①)。この特例の概要は、消費税の納税義務判定のポイント解説(第22回)「新設法人の納税義務の免除の特例①」を参照してください。今回は、この特例の対象となる新設法人が調整対象固定資産を取得した場合の取扱いを解説します。2.調整対象固定資産とは調整対象固定資産とは、棚卸資産以外の次の資産のうち一の取引の単位(通常一組又は一式で取引の単位とされるものは一組又は一式)に係る税抜対価の額が100万円以上のものをいいます(消法2①十六、消令5)。<調整対象固定資産の範囲>建物及びその附属設備構築物機械及び装置船舶航空機車両及び運搬具工具、器具及び備品無形固定資産(例:営業権、商標権など)ゴルフ場利用株式生物(例:牛、豚、馬、果樹など)上記の資産に準ずるもの3.新設法人の特例と調整対象固定資産の取得との関係「新設法人の特例」の対象となる新設法人が、基準期間がない事業年度に含まれる各課税期間(通常は設立1期目・2期目)中に調整対象固定資産の仕入れ等をし、かつ、その仕入れ等をした課税期間の申告を「一般課税」で行った場合には、その調整対象固定資産の仕入れ等を行った日の属する課税期間からその課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間にも「新設法人の特例」が適用されます(消法12の2②)。これにより、調整対象固定資産の仕入れ等をした課税期間を含めた3期は課税事業者であることが強制されるため「新設法人の3年縛り」と呼ばれています。具体例で、取扱いを確認してみましょう。【前提条件】X3年4月1日に資本金1,000万円で設立(設立後に減資は行っていない)「課税事業者選択届出書」は提出していないX5年3月期(設立2期目)に調整対象固定資産を取得したX4年3月期(設立1期目)・X5年3月期(設立2期目)の申告を「一般課税」で行った基準期間のないX4年3月期(設立1期目)とX5年3月期(設立2期目)は、いずれもその事業年度開始の日の資本金の額が1,000万円以上であるため、「新設法人の特例」の適用により課税事業者になります(消法12の2①)。このうち、X5年3月期(設立2期目)中に調整対象固定資産の仕入れ等を行い、かつ、その課税期間の申告を「一般課税」で行っているため、「新設法人の3年縛り」が適用されることになります。具体的には、調整対象固定資産の仕入れ等を行った日の属する課税期間(X5年3月期)からその課税期間の初日(X5年3月期の初日であるX4年4月1日)以後3年を経過する日(X7年3月31日)の属する課税期間(X7年3月期)までの各課税期間にも「新設法人の特例」が適用されます(消法12の2②)。ただし、X5年3月期(設立2期目)は、期首資本金が1,000万円以上であることにより既に「新設法人の特例」の適用を受けているため、調整対象固定資産を取得したことにより追加で「新設法人の特例」が適用されるのは、X6年3月期(設立3期目)とX7年3月期(設立4期目)になります。4.「新設法人の特例」の適用を受けない場合の「3年縛り」の適用の有無「新設法人の3年縛り」が適用される新設法人は、基準期間のない事業年度の期首資本金が1,000万円以上である全ての新設法人であることに注意が必要です。これは、その新設法人が基準期間のない課税期間に「新設法人の特例」の適用を受けて課税事業者になったかどうかは問わないということです(消基通1-5-21)。例えば、上記の事例において、X5年3月期(設立2期目)の特定期間であるX3年4月1日から9月30日までの期間の課税売上高と給与等の金額のいずれもが1,000万円を超えていたとします。この場合、X5年3月期(設立2期目)は「新設法人の特例」ではなく、「特定期間における課税売上高による納税義務の免除の特例」(以下「特定期間の特例」といいます。)の適用により課税事業者になります。これは、このように2つ以上の規定の適用が想定される場合には、法律の適用が重複しないように、どちらの規定を優先して適用するかが定められていて、「新設法人の特例」と「特定期間の特例」とでは「特定期間の特例」を優先して適用することになっているからです(消法9の2①、消法12の2①)。X5年3月期(設立2期目)に「新設法人の特例」が適用されないのであれば、この期間中に調整対象固定資産の仕入れ等を行ったとしても「新設法人の3年縛り」は適用されないのではないか?と考えそうですが、ここが要注意ポイントです!「新設法人の3年縛り」が適用される新設法人は、基準期間のない事業年度の期首資本金が1,000万円以上である全ての新設法人であることは先ほど述べた通りです。事例の法人は、X5年3月期(設立2期目)は「新設法人の特例」は適用されませんが、基準期間のない事業年度(X5年3月期)の期首資本金が1,000万円以上である新設法人であることに変わりありません。したがって、X5年3月期(設立2期目)中に調整対象固定資産の仕入れ等をし、かつ、「一般課税」で申告を行った場合には、X6年3月期(設立3期目)とX7年3月期(設立4期目)には「新設法人の特例」が追加で適用されることになります。このように、調整対象固定資産の仕入れ等を行った課税期間が「新設法人の特例」の適用を受けなかったとしても、「新設法人の3年縛り」が適用されることがあるため注意が必要です。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2025/03/31 所得税
相続と所得税 第28回 NISA(少額投資非課税制度)と相続
NISA(ニーサ)とは、少額からの投資を行う「少額投資非課税制度」で、2014年より導入されたが、2024年より新たな制度がスタートしている。イギリスのISA(IndividualSavingsAccount=個人貯蓄口座)をモデルにした日本版ISAとしてNISA(NipponIndividualSavingsAccount)という愛称がつけられている。NISA口座に国内株式など、資産を所有している人が死亡した場合の税務上の取引についてみていく。1.NISA制度の概要(1)NISA口座とは株式、投資信託などの売買や配当等の受取りなど金融商品の取引を行う証券口座がある。口座の種類によって税金などの取扱い方法は異なっている。株式などの売却時の譲渡益、配当等は所得税や住民税の課税対象となるが、証券口座のうちNISA口座で投資した一定の購入分については、その譲渡益、配当等が非課税となる。NISAを利用するためには、証券会社や銀行、郵便局などの金融商品取引業者等(金融機関)において「NISA口座」を開設する必要がある。〔証券口座の主な種類〕(2)NISA制度の概要2024年よりスタートした新しいNISA制度の概要は次のとおりである。〔NISA制度の概要〕(2024年~)出典:『政府広報オンライン(2024年9月30日「NISA」って何?わかりやすく解説』より表をアレンジして掲載①年間の投資上限額「つみたて投資枠」(年間120万円)と「成長投資枠」(年間240万円)の2つの枠があり、一つの口座で併用することができる。②非課税保有期間無期限であり、生涯を通じて投資することができる。③非課税保有限度額非課税保有限度額1,800万円(うち成長投資枠は1,200万円まで)である。非課税保有限度額(総枠1,800万円)は簿価(取得価額)によって管理される。売却した分についてはその枠を翌年以降に再利用することが可能である。また、口座開設期間や非課税保有期間に制限は設けられておらず、いつでもNISAの利用をはじめることができ、非課税保有限度額の範囲内であれば、何度でも新規投資することができる。④投資対象商品金融機関によって購入できる商品が異なるため、NISA口座の開設に当たっては、投資したい金融商品を検討し、金融機関を選ぶとよい。(3)NISAの利用にあたって新たにNISA口座を開設するには、居住者等で、その年1月1日において18歳以上である者に限り、一定の事項を記載した「非課税口座開設届出書」を金融機関へ提出をし、一人一口座開設することができる。(4)NISAにおける税務NISA口座を開設した日以後支払を受けるべき、NISA口座内の上場株式等の配当等については所得税と住民税は課税されない。また、NISA口座を開設した日以後にNISA口座内の上場株式等を譲渡した場合には、その譲渡による所得については所得税と住民税を課税されない。口座の開設者がNISA口座内の上場株式等と課税口座(一般口座や特定口座)内の上場株式等の両方を持っているときは、NISA口座内の上場株式等による所得と、課税口座(一般口座や特定口座)内の上場株式等による所得の金額は区分して、計算する。そのため、課税口座(一般口座や特定口座)で、既に保有している商品を、NISA口座に移管することはできない。したがって、商品の買付時にNISA口座を利用するか否かを決める必要がある。NISA口座で取得した上場株式等の売却により生じた損失はないものとみなされる。したがって、NISA口座で生じた売買による損益は、課税口座(一般口座や特定口座)の損益とは通算することができない。また、NISA口座で取得した上場株式等の売却により生じた損失の繰越控除もできない。2.NISA口座の開設者が死亡した場合の所得税の取扱い(1)死亡した開設者のNISA口座の上場株式等の払出し①非課税口座開設者死亡届出書NISA口座の開設者が死亡した場合には、その相続人は、死亡したことを知った日以後、遅滞なく「非課税口座開設者死亡届出書」をNISA口座が開設されている金融機関に提出をしなくてはいけない。②死亡した時までの含み益に対する非課税措置の適用NISA口座の開設者が死亡した日以後、そのNISA口座で支払われるべき配当等がある場合にはその配当等には、非課税措置の適用はない。NISA口座の開設者が死亡した時は、NISA口座に受け入れていた上場株式等はNISA口座より払出される。この際、NISA口座の開設者が死亡した時に、その日の終値に相当する金額により上場株式等を売却したものとみなされる。この場合、NISA口座の開設者が死亡した時までの含み益については、非課税措置の適用がある(譲渡損失についてはなかったものとみなされる)。贈与又は、相続若しくは遺贈により、NISA口座内の上場株式等の払出しがあった場合には、その払出しがあったNISA口座内の上場株式等に、贈与又は相続若しくは遺贈の事由が生じた時に、その払出たときの金額により、NISA制度に基づく譲渡があったものとみなして、このNISA制度その他の所得税に関する法令の規定を適用することとされている(措法37の14④)。(2)死亡した開設者のNISA口座より払出された上場株式等の相続による取得①相続上場株式等移管依頼書死亡した者のNISA口座における上場株式等を、相続人が相続人の口座へ移管する場合には、「相続上場株式等移管依頼書」を金融機関へ提出する。死亡した開設者のNISA口座と相続人の課税口座(特定口座や一般口座)は必ず同一金融機関とする。②相続人が相続した上場株式等の取得価額相続人が取得した死亡した者のNISA口座に受入れられていた上場株式等は、NISA口座の開設者が死亡した時に、死亡した日の終値に相当する金額で相続人が取得したものとみなして、相続人の課税口座(特定口座や一般口座)に移管される。個人が相続(限定承認に係るものを除く)や遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るものを除く)により取得した資産については、その資産を取得した人が初めから引続き所有していたものとみなして、その取得費を計算することとなっている(所法60①)。しかし、死亡した開設者のNISA口座の上場株式等を相続人が、相続人の課税口座(特定口座や一般口座)に移管する場合には、受入れる上場株式等の取得価額は、死亡した日の終値に相当する金額となる。3.死亡したNISA口座の上場株式等における相続税の取扱い死亡した開設者のNISA口座内の上場株式等は、被相続人の相続財産であり、相続税の課税対象である。相続税の計算における相続財産の評価は、原則として相続開始日の時価で行うが、国税庁から公表されている「財産評価基本通達」による評価基準に従って評価することとされている。したがって、原則として、死亡した開設者のNISA口座内の上場株式等については、「財産評価基本通達」による評価基準に従って評価する。【参考文献】金融庁HP「NISAを知る」他国税庁HP政府広報オンライン「「NISAって何?わかりやすく解説」他提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2025/03/12 所得税税制改正
特定の事業用資産の買換えの特例は個人の場合でも事前の届出が必要
令和5年度税制改正により、「特定の事業用資産の買換えの特例」については、令和6年4月1日以後に譲渡資産の譲渡をし、かつ、令和6年4月1日以後に買換資産の取得をする場合、事前に届出を行う必要が生じました。法人における「特定資産の買換えの場合の課税の特例」のみならず、個人についてもこの届出書を提出期限内に提出していなかった場合は、適用を受けることができないという厳しい取扱いになっています。そこで今回は、令和6年分の確定申告における届出の再確認とともに、令和7年分以降に適用を受けようとする際の手続きについて、概要を確認していきたいと思います。1届出の期間この届出は、資産の譲渡の日(同日前に買換資産の取得(建設・製作を含む)をした場合(先行取得の場合)には、その資産の取得の日)を含む三月期間の末日の翌日から2か月以内に行わなければならないこととされています(措令25③)。この場合の「三月期間」とは、1月1日から3月31日まで、4月1日から6月30日まで、7月1日から9月30日まで及び10月1日から12月31日までの各期間をいいます。【国税庁資料】2届出事項届出書の記載事項は次のとおりとなります(措令25③)。①届出者の氏名及び住所②譲渡資産及び買換資産に関する次の事項その譲渡をした譲渡資産及びその三月期間内に取得をした買換資産の種類、構造又は用途、規模(土地等の場合はその面積)、所在地並びに譲渡年月日及び取得年月日譲渡した譲渡資産の価額及び取得費の額その三月期間の末日の翌日以後に取得をする見込みである買換資産の種類、所在地及び取得予定年月日ただし、先行取得の場合においては次の事項となります。その三月期間内に譲渡をした資産及びその取得をした買換資産の種類、構造又は用途、規模(土地等の場合はその面積)、所在地並びに譲渡年月日及び取得年月日取得した買換資産の取得価額その三月期間の末日の翌日以後に譲渡をする見込みである譲渡資産の種類、所在地及び譲渡予定年月日③買換資産のその適用に係る租税特別措置法第37条第1項の表の各号の区分④その他参考となるべき事項なお、この届出書を提出した場合であっても、譲渡資産の譲渡と買換資産の取得を同一年中に行わなかった場合は、「買換(代替)資産の明細書の提出手続」や「先行取得資産に係る買換えの特例の適用に関する届出」の別途手続きが必要となりますのでご注意ください。3おわりにこの届出は令和5年度税制改正により導入され、令和6年4月1日以後の譲渡資産の譲渡等から適用されていますが、実務上の手間が増加するだけであり、この改正の趣旨を理解することができませんでした。当時の財務省の「税制改正の解説」を見ても改正の理由についての記載はなかったのですが、一方で同様に届出が導入された、法人の「特定資産の買換えの場合の課税の特例(圧縮記帳)」では、次のような記載がされていました。本制度は、土地政策又は国土政策の観点から、特定の地域からの追い出し促進や、土地の有効利用促進といった政策目的を達成するための買換えについて課税の特例を認めるものですが、土地等の売買取引を多く行う大企業等において、申告時にその売買取引を並べた上で各措置の要件に合致する譲渡資産と買換資産の組み合わせを事後的に作成し、適用を受けるという実態があることが指摘されていました。制度の適用期限を延長するに当たっては、このような状況を是正し、本制度をインセンティブ措置として適切に機能させる必要があることから、令和5年度税制改正では、譲渡(又は取得)後一定期間内に本制度の適用及び適用を受ける買換え(譲渡資産と買換資産の組み合わせ)に関する事項の届出を適用要件とすることとされました。【財務省ホームページ令和5年度税制改正の解説詳細402頁。下線は筆者による。】個人の場合は、前述の改正の理由のように「申告時にその売買取引を並べた上で各措置の要件に合致する譲渡資産と買換資産の組み合わせを事後的に作成し、適用を受ける」ことは通常あり得ないと思われますが、法人の制度と同様に届出が必要になったことは説明のとおりです。国税庁は昨年の6月にパンフレットを作成し公表していますが(「特定の事業用資産の買換えの特例の適用を受けるためには事前に届出が必要です」https://www.nta.go.jp/publication/pamph/joto-sanrin/0024005-147.pdf)、令和6年分の確定申告において万が一提出期限内の届出を失念していた場合は、申告直前になって適用不可であることが判明するケースや、適用を受けて申告した後、税務署より照会がかかるケースも想定されます。この買換えの特例は令和5年度税制改正により、原則として令和8年12月31日までの譲渡について適用が可能となっています。令和6年分はともかく、令和7年分以降の譲渡に係る届出については充分に注意したいと思います。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2025/03/05 消費税その他の税・法令等国際税務
トランプ関税なんて怖くない?
はじめに去る1月20日、米国第47代大統領としてドナルド・トランプ氏が再任されました。予想通り、この1か月間、世界はトランプ大統領に振り回されてきました。特に、昨年の選挙期間中から主張していた「関税」の発動を続々と表明してきました。最初は、国際緊急経済権限法に基づき、2月4日より隣国のカナダとメキシコからの輸入貨物に25%の関税、中国には10%の追加関税を課すとしました。その後、カナダとメキシコについては、その実施が1か月間延期されました。その後、石破首相との首脳会談では波風が立たなかったにもかかわらず、相互関税のほか、鉄鋼・アルミニウムへの25%関税(3月12日以降)、そして、自動車・自動車部品へも25%を課す(こちらは4月2日に具体案を公表)、と立て続けに表明しました。報道でも明らかなように、これにより日本企業に大きな動揺が広がっています。そこで、今回はトランプ関税について、2025年2月20日現在の情報に基づいて、解説することにします。なお、本文に米ドルが度々登場しますが、ご容赦ください。1ドル=100円又は150円と割り切って換算していただければ幸いです。1.日本の関税とは関税とは、外国から輸入される貨物に対して課される租税をいいます。そして、「その性格は消費税」と言われています(有斐閣『法律学小辞典(第6版)』177頁)。財務省のウェブサイトによると、「関税が課せられると、その分だけコストが増加し、国産品に対して競争力が低下することから、関税の国内産業保護という機能が生まれます。現在では、この産業保護が重要な関税の機能となっています。」とのことです。日本の関税は、関税法によって輸入貨物を輸入する者を納税義務者としていますが、関税の対象となる輸入貨物については、別途関税定率法に定められています。日本で関税を賦課徴収する部署は税関であり、税関を所掌するのは財務省関税局です。令和7年度予算案において、関税収入は9,890億円を見込んでおり、税収全体78.4兆円に占める割合は約1.3%です。2.米国の関税とは(1)第1次トランプ政権以降の中国への制裁関税米国において関税は、通商代表部(USTR)が所掌していますが、関税の賦課徴収は税関国境警備局が担当します。これ以外に、国家安全保障や反ダンピングについては商務省が、貿易調査や救済措置は国際貿易委員会が、さらには経済政策や財政措置の面で財務省が、それぞれ担当しており、かなり複雑なものとなっています。第1次トランプ政権時、米国通商代表部(USTR)のライトハイザー代表が中国に高率の制裁関税を課したことを思い出す読者も多いと思います。米国は中国との貿易赤字が巨額であり、これを「不公正」と断じることで多くの輸入貨物に25%の関税を発動しました。その後、バイデン政権は、そのほとんどを引き継いだだけでなく、2024年5月に電気自動車(EV)や半導体などに高率の関税を中国に課しました。このうち、電気自動車については中国政府からの多大な補助金のために「不公正」とされた一方、半導体については、米国の国際競争力の維持(中国の台頭を許さない)に加えて、IT製品を通じて中国への情報漏洩を防止する目的、つまり国家安全保障を重視したものとされます。バイデン政権までの中国への制裁関税を簡単にまとめたのが、図表1です。【図表1:米国による中国への制裁関税】発動日関税率対象額主な対象品目2018.7.625%340億ドル産業機械、半導体、自動車部品2018.8.2325%160億ドル電子部品、鉄鋼、化学品2018.9.2425%2,000億ドル家具、家電、食品、衣類2019.9.115%→(その後)7.5%1,200億ドル衣類、食品、玩具2024.5.14100%(電気自動車)、50%(太陽電池、半導体)、25%(アルミ、バッテリー、重要鉱物、クレーン、医薬品)(出典:日本経済新聞等から筆者作成)(2)米国の関税収入の推移それでは、第1次トランプ政権以降、米国が中国に制裁関税を課したことで、関税収入がどのように推移していったのか、米国統計局の資料で見ていきましょう。【図表2:米国関税収入の推移】(出典:米国統計局資料より筆者作成。2024年は見積額。)図表2を見ると、中国への制裁関税が本格化した2019年には710億ドルと2015~2017年の2倍程度になり、その後は800~1,000億ドル(1ドル=100円換算で8~10兆円)の間で推移しています。対中制裁関税だけで、450~650億ドルの歳入が増加したことになります。このように、第1次政権での制裁関税に一定の効果はあったのかもしれません。(3)2025年2月20日現在の状況第2次トランプ政権では、さらなる関税の拡大を目指しています。2月20日現在、図表3のようになっています。【図表3:第2次トランプ政権の関税政策】(出典:日本経済新聞電子版2025年2月20日)これに対して、日本政府としては鉄鋼・アルミニウム及び自動車・自動車部品の適用除外を要請しています。また、経済産業大臣は、自動車について「日米政府間で協議を始めた。」とも述べています。さて、たくさんの関税政策を発表してきたトランプ関税ですが、さすがに一段落するようです。日本時間2月20日午前、トランプ大統領は、「今後、議会で税制改正法案を審理してもらう。米国で製造する企業を現在の21%から15%まで引き下げたい。」と表明しました。関税政策から租税政策への転換、特に税制改正法案は大統領の一存では決められません。そこで、現在、上下両院で多数を握る共和党に呼びかけて法人税減税法案を成立させたいと理解できるように思います。(4)相互関税の見方日米貿易については、以前よりたくさんの議論がありました。特に、米国政府は自国に有利な条件を突き付けて、「カリフォルニア米やオレンジ、小麦などをもっと買え。」と要求してきました。今後も同じような話をする可能性はあるでしょう。というのは、日本は米や小麦などの一部を除いて、関税の税率は低いです。ということは、相互関税を仕掛けられたとしても、あまり影響はないと考えられます。ですから、農産物や非関税障壁とされる事項について、以前と似たような議論が交わされることになるでしょう。ただし、トランプ大統領は関税と消費税(欧州の付加価値税)とを同じように見ているので、日本の消費税率10%(食料品は8%)を問題視するかもしれません。トランプ大統領は、Xに次のように投稿しました。「私は相互関税を課税することを決定した。米国政策上、我々は、関税よりもはるかに懲罰的な付加価値税(消費税を含みます)制度を使用する国を、関税のそれと類似しているとみなす。米国は、長年に渡り敵味方を問わず、他の国々から不公平な扱いを受けてきた。相互関税は、複雑で不公平な貿易制度に、公正と繁栄を直ちにもたらすことになる。」少しわかりにくいかもしれませんが、外国からの輸入貨物に対して、多くの国により付加価値税や消費税が課されることは米国の輸出への不当差別であること、米国が同率の関税を課すことで諸外国との間で「公平になるだけでなく、米国の繁栄をもたらす」という主張です。3.消費税としての関税の考え方ここで、関税と消費税を同じと考えるトランプ大統領の真意を探っていきましょう。1で述べたように、関税は消費税と同じ性格を有しています。米国において、関税の納税義務者は輸入者=米国事業者ですが、これは消費税と同じです。また、納税額を製品価格に転嫁することで関税や消費税を最終的に負担するのは最終消費者である米国国民になります。これを示したのが図表4です。【図表4:日米欧の消費税のイメージ図】(出典:筆者作成)図表4に記載したように、米国は輸入する際、輸入消費税・輸入付加価値税が課されていません。現状、中国からの輸入貨物のみ、関税が課されています。これに対して、日本では輸入消費税が10%、ヨーロッパでは輸入付加価値税が英独仏といった主要国で20%、高率の国では25%や27%が課されています。そして、それぞれ若干の関税がプラスして課されています。つまり、米国は国レベルでの消費税・付加価値税を有していないので、その分関税を課する余地があることになります。トランプ大統領は、このことを述べたことになります。4.米国の新たな取り組みはどうなるかトランプ大統領が矢継ぎ早に繰り出す関税政策は、消費税の代わりに(主要製品など)25%といった高率で課するものです。この関税は、最終的には米国民が負担しますが、明らかな保護政策ですので日本や中国からの輸入に大きな影響を与えるかもしれません。ここで、税金の専門家として興味深いのは、関税と消費税を一体化して政策に反映させることです。これまで、米国は消費税については、地方税(州税)とすることで連邦として力を入れてきませんでした。今回、自国産業保護の観点から高率の関税を課して、これを国民に負担させようという新たな取り組みを始めるということです。別の言葉で言えば、長い間自由貿易を進めてきた米国をはじめとする先進国の低関税政策を、一気に保護貿易(反自由貿易)を進めるという時代に逆行した政策の始まりです。国際課税の専門家から言わせると、従来の発想にはない新しい政策、つまり関税を消費税と同じように捉えるという新しい政策を見ることは非常に興味深いことです。しかし、日本の米や小麦、そして、米国の自動車産業などを見ていると、保護政策を取っても長期的に見れば衰退していくように思われます。また、第1次トランプ政権で敵視していた中国のIT企業のファーウェイの業績が良くなったという報道もあります。米国などから締め出されたとしても、自社で優良な製品を生み出すことに成功することができているということを知らされています。このほか、関税は消費税とは異なり、仕入税額控除ができないということがあります。日本やヨーロッパが採用している消費税や付加価値税では仕入税額控除という制度があるので、付加価値の分のみの負担となり、輸出免税もあります。米国が発動しようとしている追加関税や米国の多くの州にある売上税・使用税といった消費税に類似した地方税には、仕入税額控除という制度はありません。そこで、関税+売上税・使用税について、米国事業者はこれらの税を取引価格に上乗せしなければなりません。関税や売上税等を負担するのは米国の最終消費者です。そこで、米国の物価上昇圧力は仕入税額控除のある消費税・付加価値税を採用する日欧に比べると格段に上がります。このようなことは、トランプ政権は百も承知でしょう。高率の関税を、主に取引(ディール)に使用しているのは、そのためだと思います。5.「アメリカ・ファースト」の意味トランプ大統領が盛んに主張する「アメリカ・ファースト」と発言する真意を探ってみましょう。米国は世界一のGDP、軍事力などを持っています。米国金融市場は圧倒的存在感ですし、GAFAMなどのIT企業も絶好調です。しかし、USスチールに代表されるような実物経済は世界では競争力を失っています。米国社会で格差が拡大して、貧困層が増加していることも事実でしょう。そこで、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」発言の背景には、このような実物経済における米国の競争力の明らかな低下があると考えるべきでしょう。ある意味では、トランプ大統領は米国の雇用を生み出すことや貧困層の生活保障のため必死に取り組んでいるのではないでしょうか。第2次トランプ政権の関税政策の背景には、このような米国の国際競争力の低下があると思います。おわりに本稿では、トランプ大統領が主張する高率の制裁関税の背後には、消費税としての性格、米国の国際競争力の低下などがあることを述べました。このような中、日本の企業は何をすべきでしょうか。トランプ大統領の機嫌を取るべきでしょうか。そうではありません。日本は、これまで以上に国際競争力のある商品や製品を生み出して、それを世界に提供することです。天然資源に乏しい日本は、高度な技術に裏打ちされた商品や製品を米国をはじめとする各国に提供することで、外貨を獲得しなければなりません。そして、それを元手に米国をはじめとする各国に投資していく必要があります。トランプ大統領の言動にビビる必要はないのです。なお、2(3)で述べたように、今年は米国で大きな税制改正があるようです。こちらについても、日本企業に関係する部分について、今後解説していきたいと思います。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2025/02/12 所得税
過年度に上場株式等の譲渡損失の申告がなかった場合の救済
❶上場株式等の譲渡損失については、次の2つの特例が認められている上場株式等に係る配当所得等との損益通算譲渡損失の3年間の繰越控除❷上記❶の特例を受けるには、明細の添付等の申告要件が設けられている。❸上記❷の要件には宥恕規定が設けられていないので、この要件を満たしていなければ損益通算や繰越控除が認められず、不測の事態が生じる。❹ただし源泉徴収なしの特定口座の場合は、❷の要件を満たしていなかった場合でも、一定の手続きを取ると上記❶の特例の適用が可能になる1.上場株式等に係る譲渡損失の配当所得等との損益通算上場株式等に係る譲渡損失の金額は、同年分の上場株式等に係る配当所得等の金額と損益通算が認められます(措法37の12の2①)。2.上場株式等に係る譲渡損失の3年間の繰越控除その年の前年以前3年内の各年から繰り越された上場株式等に係る譲渡損失の金額は、その年における上場株式等に係る譲渡所得等の金額及び上場株式等に係る配当所得等の金額から繰越控除が認められます(措法37の12の2⑤)。3.対象となる上場株式等の範囲特例の対象となる上場株式等とは、金融商品取引所に上場されている株式等、投資信託の受益権で一定の公募によって募集されているもの、国債、地方債及び公社債で一定の公募によって募集されているものなどをいいます。4.対象となる譲渡損失の要件特例の対象となる上場株式等に係る譲渡損失は、金融商品取引業者への売委託による譲渡によって生じたものや金融商品取引業者に対する譲渡によって生じたものなどに限られ、個人間の譲渡による損失は対象になりません(措法37の12の2②)。5.配当所得等との損益通算を受ける場合の申告要件上記1の同年分の配当所得等との損益通算を受けるためには、次の要件が設けられています(措法37の12の2③)。確定申告書にこの規定の適用を受けようとする旨の記載があること上場株式等に係る譲渡損失の金額の計算明細書等が添付されていること6.繰越控除を受ける場合の申告要件上記2の上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除を受けるためには、次の要件が設けられています(措法37の12の2⑦)。譲渡損失が生じた年分の申告書に、上場株式等に係る譲渡損失の金額の計算明細書等が添付されていることその後において連続して確定申告書を提出されていること繰越控除の適用を受けようとする年分の確定申告書に、繰越控除を受ける金額の計算明細書等が添付されていること7.上記5又は6の申告要件を満たさなかった場合上記5又は6の申告要件を満たさなかった場合には、これらの譲渡損失に係る特例を受けることができません。従前は、これらの申告要件を満たしていないことについて、税務署長がやむを得ない事情があると認める場合には適用を受けることができるとの宥恕規定が設けられていましたが、平成25年改正によって削除され、平成28年分から適用されています。8.上場株式等に係る譲渡損失の有無についての確認が肝要したがって、税理士が確定申告の依頼を受ける際には、上場株式等の譲渡損の有無について確認しておくことが非常に重要になります。このため、下記のような確認書を受け取っておくのも有効かと思われます。上記の書式は非常に簡単で、特例の対象となる上場株式等に該当するかどうかにも触れていませんが、上場株式等の範囲は非常に複雑で、その上場株式等の範囲を紙面に記載するとかえって煩雑になることから、単に損失の有無だけを尋ね、後は税理士が上場株式等に係る譲渡損失に該当するかどうかを判断すればよいとの発想でまとめています。9.源泉徴収なしの特定口座の場合は後から更正の請求をして救済できる源泉徴収なしの特定口座は、もともと確定申告を行うことが必要とされています。したがって、この特定口座の内容を確定申告に組み入れていなかった場合は、誤りのある申告になって、譲渡益が発生していた場合には修正申告が必要になります。逆に譲渡損失が発生している場合であれば、損失の額が申告書に記載されていませんので、更正の請求を行って損失の額を復活させることになります(通法23①二)。更正の請求が認められて損失の額が復活すると、その申告書には損失の額に関する明細書等の添付があった申告書を提出したこととして扱われます(措通37の12の2-5)。源泉徴収なしの特定口座について、確定申告から漏れていた場合には、上記のプロセスによって、損益通算や繰越控除を後からさかのぼって受けることができるようになります。なお、繰越控除を受ける際には、控除を受ける年分の確定申告書を提出するまで(同日可)に過年分の更正の請求をしておく必要があるとされています。10.なぜ源泉徴収ありの特定口座は更正の請求ができないのか源泉徴収ありの特定口座は、申告分離課税によって申告するほか、申告不要を選択することができ、源泉分離課税と同様の効果が生じます(措法37の11の5)。この申告不要を選択するには特別の手続きが要らず、単に確定申告書に記載しなかった場合には、申告不要を選択したものとされます。更正の請求は、元の確定申告における課税標準や税額の計算が、法律の規定に従っていなかった場合か計算に誤りのある場合に適用され(通法23)、単なる選択違いの場合は、法律に別段の規定がないかぎり行うことができません。過年度の確定申告において源泉徴収ありの特定口座による取引が申告分離課税の計算に含まれていなかった場合には、それは申告不要を選択したものと解され、法律の規定に従った申告であることなりますので、更正の請求を行うことはできないと解されています。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2025/02/05 その他の税・法令等
不動産の取得に係る税金(契約書と印紙税)
不動産の売買契約書や建物の建築工事請負契約書、借入れをする際の金銭消費貸借契約書には印紙税が課税されます。1.売買契約書と印紙税不動産の売買契約書を作成したときは印紙税が課税されます。印紙税は契約書に印紙を貼って印鑑で消印して納めます。契約書を複数作成したときはそれぞれに貼る必要があります。印紙を貼らなかった場合には、過怠税を含めてその3倍が課税されます。印紙は貼ってあるが消印がされていない場合には、その印紙と同額の過怠税が課税されます。平成26年4月1日から令和9年3月31日までの間に作成される不動産売買契約書に係る印紙税の税率は、次表のように引き下げられています。2.請負契約書と印紙税建築工事の請負契約書を作成したときは印紙税が課税されます。平成26年4月1日から令和9年3月31日までの間に作成される工事請負契約に係る印紙税の税率は前表のように引き下げられています。3.金銭消費貸借契約書と印紙税不動産を購入するにあたって借入れをする場合、借入れをする際の金銭消費貸借契約書には印紙税が課税されます。印紙税の金額は、前記1の売買契約書の軽減前(カッコ内)の税率と同じ税率です。4.印紙税と消費税印紙税の金額は前記のように売買契約書や請負契約書に記載された金額によって変わりますが、消費税が売買金額や請負金額と区別して記載されているときは消費税を含めない売買金額や請負金額によって印紙税の金額が計算され、消費税を含めた売買金額や請負金額が記載されているときは消費税を含めた売買金額や請負金額によって印紙税の金額が計算されます。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2025/01/29 経営・運営医療業務
医療法人機関シリーズ(第19回)
医療(学)区分―医療についての基本知識です。基礎医学医学の研究・教育で患者の診療に携わらない臨床医学⇒患者の診療に携わる⇒通常税務・会計の顧問をしている部門Ⅰ.医療法人制度で理解しておく必要がある事項第五次医療法改正(平成19年4月施行)で制度の大改正が次のように行われました。∴社団医療法人は出資持分ありか出資持分なしに区分され、平成26年度税制改正で中間法人的考えで認定医療法人が創設されました。(注)種類別の割合は、厚生労働省「医療法人数の推移」令和6年の数値をもとに計算しています。〔社団医療法人の相続税・贈与税の納税猶予〕主旨出資持分あり医療法人の経営者の死亡による相続の発生で持分なし医療法人への移行について支障が生じないよう、計画的な取り組みを行う医療法人を国が認定する仕組みを導入します。認定を受けた医療法人は移行期間中の相続税を猶予し、移行後に免除する措置です。(検討)医療法附則第2条政府は、この法律の施行後5年を目途として、この法律の施行の状況等を勘案し、この法律により改正された医療法等の規定に基づく規制の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。(残余財産に関する経過措置)医療法附則第10条新医療法第44条第4項(残余財産の帰属すべき者)の規定は、施行日以後に申請された同条第1項(設立許可、知事)の認可について適用し、施行日前に申請された同項の認可については、なお従前の例による。2施行日の前に設立された医療法人又は施行日前に医療法第44条第1項の規定による認可の申請をし、施行日以後に設立の認可を受けた医療法人であって、施行日において、その定款又は寄付行為に残余財産の帰属すべき者に関する規定を設けていないもの又は残余財産の帰属すべき者として新医療法第44条第4項に規定する者以外の者を規定しているものについては、当分の間(当該医療法人が、施行日以後に、残余財産の帰属すべき者として、同項に規定する者を定めることを内容とする定款又は寄附行為の変更をした場合には、当該定款又は寄附行為の変更につき医療法第50条第1項(変更)の認可を受けるまでの間)、新医療法第50条第4項(定款等の変更)の規定は適用せず、旧医療法第56条(残余財産の帰属処分)の規定は、なおその効力を有する。医療法附則(新医療法人への円滑な移行)第十条の二政府は、地域において必要とされる医療を確保するため、経過措置医療法人(施行日前に設立された社団たる医療法人又は施行日前に医療法第四十四条第一項の規定による認可の申請をし、施行日以後に設立の認可を受けた社団たる医療法人であって、その定款に残余財産の帰属すべき者に関する規定を設けていないもの及び残余財産の帰属すべき者として同条第五項に規定する者以外の者を規定しているものをいう。次条及び附則第十条の四において同じ。)の新医療法人(社団たる医療法人であって、その定款に残余財産の帰属すべき者として同法第四十四条第五項に規定する者を規定しているものをいう。以下同じ。)への移行が促進されるよう必要な施策の推進に努めるものとする。(移行計画の認定)第十条の三経過措置医療法人であって、新医療法人への移行をしようとするものは、その移行に関する計画(以下「移行計画」という。)を作成し、これを厚生労働大臣に提出して、その移行計画が適当である旨の認定を受けることができる。2移行計画には、次に掲げる事項を記載しなければならない。一新医療法人であって、次に掲げる医療法人のうち移行をしようとするものイ医療法第四十二条の二第一項に規定する社会医療法人ロ特定の医療法人(租税特別措置法(昭和三十二年法律第二十六号)第六十七条の二第一項の規定による国税庁長官の承認を受けた医療法人をいう。)ハ基金拠出型医療法人(その定款に基金(社団たる医療法人に拠出された金銭その他の財産であって、当該社団たる医療法人が当該拠出をした者に対して返還義務(金銭以外の財産については、当該拠出をした時の当該財産の価額に相当する金銭の返還義務)を負うものをいう。)を引き受ける者の募集をすることができる旨を定めた医療法人をいう。)ニイからハまでに掲げる医療法人以外の医療法人(移行計画の変更等)第十条の四前条第一項の規定による移行計画の認定を受けた経過措置医療法人(以下「認定医療法人」という。)は、当該認定に係る移行計画を変更しようとするときは、厚生労働大臣の認定を受けなければならない。2厚生労働大臣は、認定医療法人が前条第一項の認定に係る移行計画(前項の認定があったときは、その変更後のもの。以下「認定移行計画」という。)に従って新医療法人への移行に向けた取組を行っていないと認めるとき、その他厚生労働省令で定めるときは、その認定を取り消すことができる。3厚生労働大臣は、認定医療法人が認定移行計画に記載された前条第二項第四号の移行の期限までに新医療法人にならなかったときは、その認定を取り消すものとする。4前二項の規定により認定を取り消された経過措置医療法人は、更に前条第一項の認定を受けることができない。5前条第四項の規定は、第一項の認定について準用する。Ⅱ.新医療法人への移行経過措置医療法人(平成19年3月31日前に知事に設立・申請された社団医療法人をいう)で、新医療法人(定款に残余財産の帰属すべき者として、国又は地方公共団体等を規定しているもの)への移行をしようとするものは、移行計画を作成し、厚生労働大臣に提出して、まず認定を受けることができます。次に、厚生労働大臣は移行計画が一定の要件を満たすときに、その認定をします。この認定を受けた経過措置医療法人を認定医療法人といいます。認定医療法人は、厚生労働大臣の認定であり、法第54条の9第3項の都道府県知事の認可を受けた医療法人ではありません。よって、厚生労働大臣の認定を受けた認定医療法人では、未だ経過措置医療法人すなわち出資持分有り社団医療法人のままです。次に、厚生労働大臣は、認定医療法人が移行計画に従って、新医療法人への移行に向けた取組を行っていない、又は移行計画に記載された移行期限までに新医療法人にならなかったときは、その認定を取り消します。よって、この場合の認定医療法人は、経過措置医療法人に戻ることとなり、再度の認定申請はできません。最後に、新医療法人は定款に残余財産の帰属すべき者の変更がされたものであり、定款の変更は知事の認可を受けた出資持分なしとして、規則30条の39により、組織変更が行われたものをいいます。〔「出資持分なし」へ移行への判断〕次の判断が必要です。将来解散して残余財産を受け取る要望がある場合将来医療法人を売却する希望がある場合これは出資者に十分確認を要します。移行期限内で、かつ、移行が完了するまでの間、認定日から1年を経過するごとに、3か月以内に厚生労働大臣に移行計画の進捗状況を報告する。移行期限内で、かつ、移行が完了するまでの間、出資者に持分の処分(放棄、払戻、譲渡、相続、贈与等)があった場合、3か月以内に厚生労働大臣に出資の状況を報告する。移行期限までに、残余財産の帰属先に関する定款変更の認可を受け、持分の定めのない医療法人への移行完了後、3か月以内に厚生労働大臣に定款変更の認可を受けた報告を行う。移行完了後、5年を経過するまでの間…1年を経過するごとに、3か月以内に厚生労働大臣に運営状況を報告する。5年を経過してから6年を経過するまでの間…5年10か月を経過する日までに厚生労働大臣に運営状況を報告する。〔医療法附則第2条の考え方〕医療計画医療計画の基本的な役割は、供給目標の設定と連携体制の確保であり、医療計画の役割は、まず、病床規制です。医療法による規制病床数は地域の入院需要に見合って整備されるべきであり、医療計画では病院の計画的整備や、地域配置を実現していく必要があるものと考えます。地域医療連携推進法人―新設医療法附則第10条1項によると施行日前に申請された定款についてはなお従前の例によることとなり、すなわち、現在のモデル定款に記載のとおり、「本社団が解散した場合の残余財産は払込済出資額に応じて分配するものとする。」とされ、そうすると、第54条(剰余金の配当の禁止)にかかわらず、退社社員に対する持分の払戻は、退社当時当該医療法人が有する財産の総額を基準として、当該社員の出資額に応じて払戻すこととなり、昭54.4.17東京高裁53行コ35号においては、「払戻しを請求された持分との比重が大きいため払戻し原資に不足し解散のやむなきに至るということはありうることのように思われるが、そのことによって医療法人が解散のやむなきに至ったとしても……」と判示しています。医療法附則第10条2項に関しては、当分の間、医療法第54条の9第6項(定款又は寄付行為の変更)、は残余財産の帰属すべき者を国若しくは地方公共団体等とされていることの規定は適用せずとしており、よって、施行日以後に設立された医療法人又は、施行日以後に知事に設立認可の申請をした医療法人以外は、原則として、旧定款(1項の事項)が続くこととなります。すなわち、法第54条の9第6項の制限が設けられないこととなりました。何故そのようになったかというと、強制的に法第54条の9第6項の規定を適用することは憲法29条(財産権)の侵害行為の恐れありと考えられたのでしょう、そのように考えると、当該当分の間とは、「ずーっと(半永久的)」と読むことになります。当分の間の解釈で租税特別措置法においての「当分の間」を考えている場合は、まったく関係ありません。税法は政策的なものの法律で、本来税法の「当分の間」は、「遅滞なく」と解釈すべきです。医療法附則の「当分の間」は憲法29条「財産権」の没収の話であり、このように「当分の間」の解釈はまったく異なります。最高裁では次のように述べています。「持分あり社団」を一気に「持分なし社団」等に移行することは財産権を一挙に剥奪するという重大問題を孕んでいるといわなければなりません。出資持分という財産権を不当に侵害する結果になって、何人もこれを納得させることができないといわなければなりません。ここに、附則第2条(検討)の解釈で誤解があるようであるので注意して下さい。さて、ここで問題となるのは、法第54条の9第6項による定款変更をする場合の、定款変更を反対する出資社員の出資持分の処分である。当該社員が退社する場合の出資持分は誰が購入するのか。ちなみに医療法人は原則として、自己資本の取得は禁止されているものと解します。そうすると、相対取引で他の出資社員が購入せざるを得なくなります。この場合の価格はいくらにするのかも問題が生じます。次に、反対する出資社員について出資持分は財産権に関することなので強制的に法第54条の9第6項により定款変更することは、憲法違反になるのではないかと考えられます。いずれにしても、当分の間の意味は記載のとおり重要であると思料します。〔脱退社員の財産権(出資持分)について〕医療法人社団にあっては、出資をした社員は出資額に応じた法人の資産に対する分け前としての財産権(出資持分)を有するものとし、出資持分を有する社員が退会したときその他社員資格を喪失した場合においては定款において、当該社員に対して出資持分に相当する資産の払戻しを請求することができるとされており、このように定款の定めは、社員資格を喪失した社員(脱退社員)に対して財産権としての出資持分の払戻しを認めるものであって、一部清算としての実質を持つものであります。(東京高裁平7.6.14判決)次に平15.3.25裁決の判断においても、次のように解釈されています。すなわち、出資持分の定めがある社団医療法人の社員は、出資に対する持分権を有し、その持分は譲渡や相続又は贈与の対象となり、ひとつの財産権と解されると判断されています。尚、反対する出資社員への対策は、定款において、社員の退社は、社員総会の承認を要するとして社員の任意退社を拒否する方法があります。医療法第四十四条医療法人は、その主たる事務所の所在地の都道府県知事(以下この章(第三項及び第六十六条の三を除く。)において単に「都道府県知事」という。)の認可を受けなければ、これを設立することができない。2医療法人を設立しようとする者は、定款又は寄附行為をもつて、少なくとも次に掲げる事項を定めなければならない。一目的二名称三その開設しようとする病院、診療所、介護老人保健施設又は介護医療院(地方自治法第二百四十四条の二第三項に規定する指定管理者として管理しようとする公の施設である病院、診療所、介護老人保健施設又は介護医療院を含む。)の名称及び開設場所四事務所の所在地五資産及び会計に関する規定六役員に関する規定七理事会に関する規定八社団たる医療法人にあつては、社員総会及び社員たる資格の得喪に関する規定九財団たる医療法人にあつては、評議員会及び評議員に関する規定十解散に関する規定十一定款又は寄附行為の変更に関する規定十二公告の方法3財団たる医療法人を設立しようとする者が、その名称、事務所の所在地又は理事の任免の方法を定めないで死亡したときは、都道府県知事は、利害関係人の請求により又は職権で、これを定めなければならない。4医療法人の設立当初の役員は、定款又は寄附行為をもつて定めなければならない。5第二項第十号に掲げる事項中に、残余財産の帰属すべき者に関する規定を設ける場合には、その者は、国若しくは地方公共団体又は医療法人その他の医療を提供する者であつて厚生労働省令で定めるもののうちから選定されるようにしなければならない。6この節に定めるもののほか、医療法人の設立認可の申請に関して必要な事項は、厚生労働省令で定める。医療法第54条の9第3項定款又は寄附行為の変更(厚生労働省令で定める事項に係るものを除く。)は、都道府県知事の認可を受けなければ、その効力を生じない。第4項都道府県知事は、前項の規定による認可の申請があった場合には、第45条に規定する事項及び定款又は寄附行為の変更の手続が法令又は定款若しくは寄附行為に違反していないかどうかを審査した上で、その認可を決定しなければならない。医療法第54条の9第4項により、都道府県知事は定款変更の手続が法令等に違反していないかどうかを審査した上で、定款変更の認可を決定しなければならず、その定款変更の内容(法令違反を除く。)について審査するものではありません。すなわち、定款の私的自治(自律)の原則があります。ただし、新医療法適用法人については、医療法第54条の9第6項(残余財産の帰属者)の縛りがあることはいうまでもありません。なお、旧法による経過措置型医療法人である場合、定款の内容に法令違反がある場合は、(定款の私的自治(自律)の原則があるといっても)定款変更の認可を受けられないことは勿論です。例えば、医療法人運営管理指導要綱の資産管理に基本財産と運用財産を明確に区分し、定款において仮に基本財産の処分を禁じていても、いつでも再度定款変更により処分可能とすることについては、知事の定款認可が受けられないものではありません。ここに、今回のテーマの場合には、医療法54条の9第3項、4項を十分理解する必要があります。したがって定款内容の変更は、法令違反がない限り、知事の定款認可を受けることが可能です。医療法施行規則30条の39(持分の定めのある医療法人から持分の定めのない医療法人への移行)第三十条の三十九社団である医療法人で持分の定めのあるものは、定款を変更して、社団である医療法人で持分の定めのないものに移行することができる。2社団である医療法人で持分の定めのないものは、社団である医療法人で持分の定めのあるものへ移行できないものとする。〔出資持分なしへ移行の方法〕出資持分なしへの移行には次の3つが考えられます。相続税法66条④により課税を選択する相令33③保証基準は除く相法66④親族経営OK相令33③親族経営を廃除が条件認定医療法人化から新医療法人化へ将来において「国・地方公共団体」に帰属されることが医療機関にとって本当に「ためになるのか」を検討してほしい。相令33③より選択し易いのでは?6年間の堅実経営ができないのでは?個別通達の活用最後に今回で、この連載は最後となります。長い間拙い文章に付き合って戴き感謝いたします。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2025/01/24 会計制度経営・運営公益法人
新公益法人制度と会計(第2回)
新公益法人制度と会計について、前回は特に実務上重要論点となる新公益法人会計制度についての検討状況を記載させて頂きました。但し、この会計制度は、新公益法人制度の法改正をベースに構成されているため、改正法の生成過程を把握しなければ理解が深まりません。そのため、第2回では、令和7年度以降の改正等のスケジュールを把握して、公益法人制度がどのように変貌するのかを考察したいと思います。(1)新公益法人制度と会計に関するスケジュールと概要①改正法公布→令和6年5月22日この改正の趣旨は、公益法人は、民間公益を担う主体として大きな潜在力を有していますが(法人数9700、職員数約29万人、公益目的事業費年間5兆円、総資産31兆円)、現行制度の財務規律や手続の下では、その潜在力を発揮しにくいとの声がありました。そのため、①財務規律等を見直し、法人の経営判断で社会的課題への機動的な取組を可能にするとともに、②法人自らの透明性向上やガバナンス充実に向けた取組を促し、国民からの信頼・支援を得やすくすることにより、より使いやすい制度へと見直しを行い、民間公益の活性化を図ることになりました。②会計研究会(※)報告書→令和6年5月24日公益法人の会計に関する研究会(平成25年8月5日から令和6年11月27日までの全72回で引続き開催中)会計研究会は、公益法人の会計に関する実務上の課題、公益法人を取り巻く新たな環境変化に伴う会計事象等に的確に対応するため、平成25年8月から、内閣府公益認定等委員会の下に開催しています。現在、「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」の最終報告(令和5年6月2日。以下「最終報告」という。)を踏まえた公益法人制度改革(以下「制度改革」という。)が進められており、公益認定法の改正法(以下「改正法」という。)が国会で成立しました。今後は、新制度の施行に向け、政令や内閣府令、ガイドライン等の見直しが進められています。公益法人会計基準についても、新制度に整合したものとする必要があるほか、最終報告において掲げられた「わかりやすい財務情報の開示」の具体的な在り方を検討し、見直しを進めていくことになります。③有識者会議(※)最終報告→令和5年6月2日新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議(令和4年10月4日から令和5年5月30日までの全11回)この会議は、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」(令和4年6月7日閣議決定)及び「経済財政運営と改革の基本方針2022」(令和4年6月7日閣議決定)に基づき、民間による社会的課題解決に向けた公益的活動を一層活性化し「新しい資本主義」の実現に資する観点から、公益認定の基準を始め現行の公益法人制度の在り方を見直し、制度改正及び運用改善の方向性について検討を行うため、内閣府特命担当大臣(経済財政政策)の下、令和4年10月4日に第1回を開催し、法人の実情に関するヒアリングや国民からの幅広い意見募集を行いつつ、合計11回にわたり議論を重ねてきたものです。④公益認定等ガイドライン検討会開催→令和6年6月6日(引続き開催中)このガイドラインは、法令の適用に当たり留意すべき事項(法令等の解釈・運用)及び審査・処分の基準・考え方を示すものであり、以下の3点を活用することを想定しています。公益法人(公益認定を検討する者を含む。)が、法人自治の下で、各種申請や事業遂行を行う際の参考(行政庁の対応についての予見可能性の向上)となるもの。行政庁である内閣総理大臣(公益法人行政担当室職員を含む。)及び公益認定等委員会(事務局職員を含む。)が職務を遂行する上での指針となるもの。公益法人の活動を支援し、チェックする国民の物差しとして使用されること。また、本ガイドラインは、技術的助言として都道府県知事に通知することも想定しており、行政庁である都道府県知事(職員を含む。)及び合議制機関(その庶務を司る職員を含む。)の指針として活用されることを期待されています。具体的には、以下の3点を想定しています。行政庁及び公益認定等委員会は、ガイドラインを踏まえた判断を行うことが求められる。これは、杓子定規の取扱いを求めるものではない。法令の規定及び趣旨を勘案した上で、個別の事情に応じて、又は社会経済の変化を踏まえ、柔軟な対応を行うことは当然であり、合議制機関を置くこととした制度の趣旨に合致する取扱いといえる。ガイドラインは、社会情勢の変化、判断の蓄積、関係者(公益法人、都道府県、国民・企業等)の要望等を踏まえ、少なくとも年に1回は見直しを検討するものとする。また、法運用の透明性を確保し、正確な理解を促進する観点から、具体的事情を踏まえた判断事例を明らかにすることが重要であることを踏まえ、認定法等に係る各種判断について、「事例集」を作成し、ガイドラインの付属資料として位置づけるものとする。次回も引き続き、新公益法人制度と会計についてご説明させて頂きます。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2025/01/21 相続・贈与税医療業務
社団医療法人の出資社員が死亡した場合の払戻し請求権に対する課税への疑問
1.問題点ほとんどの社団医療法人は、厚生労働省の定款作成例(いわゆるモデル定款)に従って定款を作成しており、その定款において「社員資格を喪失した者は、その出資額に応じて払戻しを請求することができる」と定めています。出資持分とは、出資者が当該法人の財産について出資額に応じて有する財産権をいい、この財産権について、社員資格を喪失した時に払戻請求をすることができると定款で定められているということです。では、死亡した場合、この財産権は当然のことながら相続財産となるが、その財産の払戻し請求権(及びそこに含まれるみなし配当所得)というのは、どのタイミングで認識されるのでしょうか(あるいはされるべきなのでしょうか)。2.みなし配当所得は死亡した時点で被相続人に帰属する?出資社員の払戻し請求権は、その者が死亡により退社した時点で、具体的な金銭債権として確定した請求権であるとすれば、その確定した金銭債権の額のうち出資額を超える部分はみなし配当所得となるのであるから、退社した時点(死亡した時点)において死亡した社員つまり被相続人の所得として認識されることになります。そうするとこの配当とみなされる部分については被相続人の所得として準確定申告をしなければなりません。遺産分割協議がなされているかいないかには関係なく、ということになります。もちろんこの場合には、準確定申告において配当控除の適用を受けることができ、さらに配当に係る源泉徴収税額は相続税の申告において債務控除することができることになります。3.配当所得に係る源泉徴収税額の納付時期はいつか?医療法人には源泉徴収税額を納付する義務が生じますが、その納付のタイミングはいつなのでしょうか。通常ならば払戻しを行った翌月10日が納付期限と定められていますが、配当所得が認識された時点(死亡した時点)ではまだ払戻しは行われていません。もし、「確定した金銭債権である払戻し請求権」を相続により取得した相続人が、この請求権をずっと行使しなかった場合はどうなるのでしょうか。金銭債権の時効は10年(権利を行使することができることを「知った時」からは5年)ですから、10年又は5年を超えると請求権は消滅することになりますが、源泉徴収税額の納付はどうなるのでしょうか。上記2.の解釈に従えば、死亡した時点で被相続人の所得と認識される訳ですが、それでも源泉徴収税額の納付期限は、払戻しがあった日の翌月10日と考えていいのでしょうか。あるいは分割協議が成立し、相続により取得した者が確定した日の翌月10日と考えるのでしょうか。あるいは、死亡した日(確定した日)の翌月10日とされてしまうのでしょうか。4.死亡後相当期間経過後に払戻があった場合の取扱いは?では死亡後相当期間経過後に払戻しがあった場合、取扱いはどうすべきなのでしょうか。この場合には、相続人が被相続人の社員としての地位を事実上承継していると認められる場合は、その相続人に対する配当所得として取り扱う、との解釈があるようですが、「事実上承継していると認められる」とはいったいどういうことなのでしょうか。そもそも社員としての地位は一身専属であり、相続により承継することはありません。社員としての地位を「引き継ぐ」ならば、相続人は社員総会において自らが社員となることの承認を受けなければなりません(もしくは既に社員である必要があります)。そして、払戻しを受けることができるのは「社員資格を喪失した者」に限られるのであって、社員である者が退社した時に初めて払戻し請求権を取得し、みなし配当所得もその退社した社員の所得として認識されると考えるならば、相続人が払戻しを請求するのは、単に相続した金銭債権の法人への支払い請求にすぎないと考えるべきではないのでしょうか。「事実上承継していると認められる者が払戻しを受けたのだからその者の配当所得とする」解釈は法理的に整合性がないように思えます。「事実上承継していると認められる者」とは、社員でない相続人のことを指していると思われますが、定款の定めを無視した解釈と言わざるを得ません。それとも定款に定められていても、例外として取り扱っていいということなのでしょうか。とはいえ、実際に払戻しを受けた時に、その者の配当所得として課税するほうが、よほどすっきりするとは言えますが。5.払戻しを受けず出資を引継ぐとした場合の取扱いは?では、相続人がもともと法人の社員、もしくは相続開始後に法人の社員総会で社員として承認された者であり、相続により取得した払戻し請求権を行使せず、自分の持分とした(出資を承継した)場合はどういう扱いになるのでしょうか。この場合には、相続時には被相続人に対する準確定申告によるみなし配当課税は強いて行わないという取扱いになっているようですが、これは社員である相続人が将来、社員資格を喪失した時(退社あるいは死亡等の時)に、その者に発生する「退社の時点での具体的な金銭債権として確定した」払戻請求権について出資額を超える部分をみなし配当所得として課税すればよいという考え方(ある意味課税の繰り延べ)に拠っているものと思われます。しかし、それで被相続人に帰属する配当所得に対する課税の整合性がとれるのでしょうか。当初から、みなし配当所得は、払戻しがあった時点でその払戻しを受けた者の所得として課税する、ということで統一されていれば問題はありませんが、出資社員の払戻請求権は、その者の死亡による退社の時点で、具体的な金銭債権として確定した請求権であるとの考え方からすれば、あくまでもみなし配当所得は被相続人の所得であって、相続により取得した相続人の所得ではないのであるけれども、払戻しを受けない(出資のまま引き継ぐ)場合には、例外として取り扱うということなのでしょうか。しかし出資の評価は法人の経営状況により刻々と変化します。被相続人の死亡時には1億円(例えば出資金1千万円+配当とみなされる部分9千万円)と評価されたものが、将来相続人が退社した時は2千万円(出資金1千万円+配当とみなされる部分1千万円)の評価に下がっているということもあり得ます。そういう場合であっても、相続時には被相続人に9千万円の配当所得課税をし、例外として上記4や上記5の場合のように払戻しが長期間行われず、あるいは相続人が法人を退社した時にはその者に1千万円の配当所得課税をする、という取扱いでよいのでしょうか。また、法人が納付すべき源泉徴収税額の納付時期と金額はどうなるのでしょうか。「相続時においては強いて課税しない」という例外的取り扱いは、このような問題を含んでいるのではないかと思います。とはいえ、課税実務から考えると、将来相続人が退社により払戻し請求権を取得した時に出資額を超える部分を配当所得として取り扱ったほうが計算しやすい、ということは言えると思いますが。6.まとめ出資社員が死亡した時の「社員資格を喪失した者は、その出資額に応じて払戻しを請求することができる」という払戻し請求権とは、その者の死亡による退社の時点で、具体的な金銭債権として確定した請求権である。この金銭債権の額は出資額と配当とみなされる部分との合計額である。したがって配当とみなされる部分の所得は被相続人に帰属し、準確定申告するとともに、相続税申告においてはその所得に係る源泉徴収税額は債務控除の対象となる。法人が納付すべき源泉徴収税額は、払戻しが行われた時に、その翌月10日を納付期限として納付される。払い戻しが行われるまでは納付しなくてよいということか。払戻し請求がずっと行使されなかった場合は時効となり、権利は消滅する。時効の期限は10年又は権利を行使することができることを「知った時」からは5年である。時効で権利が消滅した場合、残存出資者の出資の評価はどうなるのか。みなし贈与課税の問題が出てくるのではないか。法人に「免除益」が生ずるのではないか。死亡後相当の期間経過した後に(時効成立までの期間内で)、払戻しが行われた場合であっても、行使した相続人の行為は、金銭債権の回収にすぎないと考えるべきではないか。払戻し請求権が発生するのは、出資社員が社員資格を喪失した時であり、だからこそみなし配当部分はその社員に帰属すべきものとして確定申告(死亡を原因とする場合は準確定申告)が必要となるのである。法人の社員である相続人が、払戻し請求をせずに、その出資持分という財産を引継いだ場合には、相続時には強いて課税せず、その相続人が将来「社員資格を喪失した時」に、みなし配当課税するという取扱いのようだが、それでよいのか。既に準確定申告をしているのだから、更正の請求をすることになるだろうが。最後に、出資持分には払戻し請求権と解散した時に受ける残余財産分配請求権という2つの権利がありますが、死亡した出資社員がもつ出資持分には払戻し請求権があるのみです。なぜなら解散前に社員資格を喪失したのですから、権利は払戻し請求権しか存在しません。ということは、社員でない相続人が払戻しを請求しないまま、法人が解散した時、その相続人は残余財産の分配を受けることはできないことになります。しかし実際には、解散とわかれば払戻しを請求するであろうし、法人は払戻しをした後の残余財産を出資社員に分配することになると思われます。この時の払戻しすべき金額は、相続時に確定した金銭債権としての金額ですから、果たして額面どおりの額を払えるかという、実務上大きな問題が出てきます。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2025/01/15 法人税事業承継
組織再編税制(会社分割)を利用した事業承継
組織再編税制については、大企業を対象とするものであり、中小企業には関係のない税制であるといった話を耳にすることがあります。しかし、この組織再編税制が個人や中小企業の事業の承継にも利用できる制度であることを相続が生じる前の会社分割の事例(注1)に基づき確認したいと思います。1.事例の概要Ⅹ社は、甲(個人)の100%出資により設立された株式会社です。Ⅹ社においては、次の図のように甲の長男乙と次男丙がそれぞれ異なる事業(A部門とB部門)の経営を担っています。また、Ⅹ社全体の経営方針等を巡って乙と丙が対立しています。このような場合、将来、乙と丙が互いに独立して事業を進めることができるように、Ⅹ社のB部門について新設分割(分割型分割)を行って新会社を設立し、新会社株式を直ちに甲に交付します。いずれの会社も甲が100%保有する形態にしておくことによって、相続時に分割後のⅩ社株式を乙に、新会社株式を丙に承継させることで円滑に事業承継ができます。2.Ⅹ社の課税関係(1)適格要件分割が適格分割となる場合とは、①完全支配関係の場合、②支配関係の場合、③共同事業を行う場合、④事業を独立して行う場合(分割型分割の場合のみ)の4つの類型に分かれます。この事例の場合、「①完全支配関係の場合」の要件に該当するか否かをまず検討することになり、この場合の適格要件は、①金銭等不交付要件と②完全支配関係継続要件の2つになります(法人税法2条12号の11イ、法人税法施行令4条の3第6項他)。(2)金銭等不交付要件金銭等不交付要件とは、分割対価資産として分割承継法人又は分割承継親法人(注2)のうちいずれか一の法人の株式以外の資産が交付されないこと(株式が交付される分割型分割にあっては、その株式が分割法人の発行済株式(自己株式を除きます。)の総数のうちに占める分割法人の各株主の有する分割法人の株式の数の割合に応じて交付されるもの(按分型の分割型分割)に限ります。)をいいます(法人税法2条12号の11、法人税法施行令4条の3第5項)。この事例の場合、新設分割において新会社の株式のみが分割対価資産としていったんⅩ社に交付され、それが直ちにⅩ社の株主である甲に全部交付されます。分割対価資産として分割承継法人(新会社)の株式以外の資産は交付されず、分割承継法人(新会社)の株式は、分割法人(Ⅹ社)の100%株主である甲に全部交付されることで按分型の分割型分割に該当します。したがって、金銭等不交付要件を満たすことになります。(3)完全支配関係継続要件イ基本的な取扱い完全支配関係継続要件は、①当事者間の完全支配関係の場合と②同一の者による完全支配関係(法人相互の完全支配関係)の場合の2つに区分されます。この事例では、「②同一の者による完全支配関係(法人相互の完全支配関係)の場合」が対象となります。基本的には分割前に分割法人と分割承継法人との間に同一の者による完全支配関係があり、かつ、分割後に分割法人と分割承継法人との間に同一の者による完全支配関係が継続することが見込まれている(注3)ことをいいます(法人税法施行令4条の3第6項2号)(注4)。単独新設分割の場合には、分割前に分割承継法人は存在しないため、基本的に分割後に分割法人と分割承継法人との間に同一の者による完全支配関係が継続することが見込まれていることをいいます(法人税法施行令4条の3第6項2号ハ(2))。ロ分割型分割の場合の例外分割型分割(注5)の場合には、上記「イ基本的な取扱い」に対する例外が規定されており、単独新設分割である分割型分割が行われた場合には、分割型分割後に同一の者と分割承継法人との間に同一の者による完全支配関係が継続することが見込まれていることが完全支配関係継続要件とされ、同一の者と分割法人との間に同一の者による完全支配関係が継続することが見込まれていることが不要とされています(法人税法施行令4条の3第6項2号ハ(1)(注6))。(4)事例の適格性この事例の場合、分割対価として新会社の株式以外の資産が交付されませんので、金銭等不交付要件を満たします。また、単独新設分割である分割型分割に該当するこの事例の場合、その分割後に分割法人(Ⅹ社)と分割承継法人(新会社)との間に同一の者(甲)による完全支配関係が生ずることになりますが、完全支配関係の継続が見込まれることが求められるのは、甲と分割承継法人(新会社)との間の完全支配関係となります(注7)。また、同一の者の範囲には、甲自身以外にその親族等の特殊関係者が含まれます(法人税法施行令4条1項、4条の2第2項)。甲がいずれ分割承継法人(新会社)の株式を丙に承継させることを想定しているため、仮に甲と分割承継法人(新会社)との間の完全支配関係の継続が見込まれないとしても、同一の者には丙も含まれるため、同一の者(甲と丙)と分割承継法人(新会社)との間の完全支配関係の継続が見込まれるため、完全支配関係継続要件を満たすことになります。したがって、この分割は適格分割に該当することになります。(5)資産及び負債の移転価額適格分割により、資産及び負債を移転した場合には、帳簿価額による引継ぎをしたものとして所得の計算をすることとされています(法人税法62条の2第2項)。したがって、B部門の分割に係る資産及び負債の移転に関する譲渡損益は生じません。移転するこれらの含み損益は、新会社においてその譲渡等が行われたときに新会社において課税されます。3.個人株主(甲)の課税関係株式以外の資産の交付がされなかった場合には、一般株式等に係る譲渡所得は生じません(租税特別措置法37条の10第3項2号)。また、分割承継法人(新会社)の株式の取得価額は、分割法人(X社)の株式の取得価額に分割法人(Ⅹ社)の前期末の簿価純資産価額のうちに分割により移転する簿価純資産価額の占める割合を乗じた金額となります(所得税法施行令113条1項、3項)。4.参考ここでは相続前における会社分割での事業承継を解説しましたが、相続後においても会社分割により、この事例と同様なことが可能となります(注8)。<注釈>この事例は、平成27年10月21日開催の九州北部税理士会「事業承継のための新たな手法」で解説した事例の一つで、その後もいくつかの税理士会で内容等を修正等して解説しており、直近では本年5月に東京税理士会第7回会員研修会でも取り上げています。書籍としては、本職事務所客員税理士の小松誠志氏が『事例検討法人税の視点からみた事業承継・M&Aの実務ポイント』(大蔵財務協会、令和3年)に取りまとめています。基本的に分割の直前に分割承継法人と分割承継法人以外の法人との間にその法人による完全支配関係(「直前完全支配関係」といいます。)があり、かつ、分割後に分割承継法人とその法人との間にその法人による完全支配関係が継続することが見込まれている場合におけるその直前完全支配関係がある法人をいいます。IDCF事件(東京地判平成26年3月18日(税務訴訟資料第264号-順号12436))において「見込まれている」の解釈を「これらの規定(編注:法人税法2条12号の11、法人税法施行令4条の3第6項)は、分割の時点で、分割後に当事者間の完全支配関係等が継続することが見込まれていれば、『移転資産に対する支配』が分割後も継続していると認められることから、そのような分割を適格分割として取り扱うものとしたものと解される。そうすると、法人税法施行令4条の2第6項にいう『見込まれている』とは、当事者間の完全支配関係等が継続することが具体的に予定されていることをいうと解することが相当である。」と判示しています。分割後に適格合併等が行われることが見込まれている場合には一定の特例があります。分割対価を分割法人の株主と分割法人に交付する中間型の分割を除きます。平成29年度税制改正において、このような適格要件の見直しがされました。甲と分割法人(X社)との間の完全支配関係が継続することが見込まれているとしても適格性に影響はありません。詳細をお知りになりたい方は、前掲注1の東京税理士会第7回会員研修会資料(24頁)又は書籍(162頁)を参照ください。提供:税経システム研究所
続きを読む
1687 件の結果のうち、 1 から 10 までを表示