税務情報レポート
MJS税経システム研究所・税務システム研究会の顧問・客員研究員による租税を中心とした多彩な研究成果および最新の税制改正および制度や動向、判例研究等に関するリポートです。
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2024/11/20 消費税
令和6年度消費税改正③ 国外事業者等における事業者免税点制度の特例等の見直し
1.はじめに令和6年度税制改正では、次の事業者免税点制度の特例等が見直され、免税事業者となる要件が厳しくなりました。国外事業者における「特定期間の課税売上高による納税義務の免除の特例」の見直し外国法人が国内において事業を開始した場合の納税義務の免除の特例の見直し「特定新規設立法人の納税義務の免除の特例」における判定対象者に係る金額基準の見直し恒久的施設を有しない国外事業者における簡易課税制度及び2割特例の適用の見直し今回は、これらの事業者免税点制度の特例等の見直しについて、見ていきます。2.国外事業者における「特定期間の課税売上高による納税義務の免除の特例」の見直し(1)改正前の取扱い基準期間における課税売上高が1,000万円以下である場合で、特定期間における課税売上高が1,000万円を超えるときは、納税義務が免除されません(消法9の2①)。なお、「特定期間における課税売上高」に代え、「特定期間中に支払った給与等の金額」を用いることができます(消法9の2③)。(2)改正内容国外事業者については、上記(1)の「特定期間中に支払った給与等の金額」による判定ができないことになりました(消法9の2③)。〔図表1〕「特定期間の課税売上高による納税義務の免除の特例」の判定出典:国税庁「消費税法等改正のお知らせ(令和6年4月)」3.外国法人が国内において事業を開始した場合の納税義務の免除の特例の見直し(1)制度の概要(改正前)新設法人又は特定新規設立法人は、基準期間がない事業年度に含まれる各課税期間について、納税義務が免除されません(消法12の2①、12の3①)。(2)改正内容その事業年度の基準期間がある外国法人が、その基準期間の末日の翌日以後に、国内において課税資産の譲渡等に係る事業を開始した場合には、その事業年度は基準期間がないものとみなすことになりました(消法12の2③、12の3⑤)。〔図表2〕外国法人が国内において事業を開始した場合の新設法人又は特定新規設立法人の判定出典:国税庁「消費税法等改正のお知らせ(令和6年4月)」4.「特定新規設立法人の納税義務の免除の特例」における判定対象者に係る金額基準の見直し(1)制度の概要(改正前)新規設立法人のうち、次のアとイのいずれにも該当するもの(特定新規設立法人)については、基準期間がない事業年度に含まれる各課税期間について、納税義務が免除されません(消法12の3①)。基準期間がない事業年度開始の日において、特定要件(他の者によりその新規設立法人の株式等の50%超を直接又は間接に保有される場合など、他の者によりその新規設立法人が支配される一定の場合)に該当すること上記アの特定要件に該当するかどうかの判定の基礎となった「他の者」及び「他の者と一定の特殊な関係にある法人」のうちいずれかの者(判定対象者)について、その新規設立法人のその事業年度の基準期間相当期間において、国内における課税売上高が5億円を超えていること(2)改正内容上記(1)イの判定対象者の基準期間相当期間における金額基準について、次のア又はイのいずれかの要件になりました(消法12の3①、消令25の4②)。国内における課税売上高が5億円を超えていること売上金額、収入金額その他の収益の額の合計額が、国外におけるものを含め50億円を超えていること5.恒久的施設を有しない国外事業者における簡易課税制度及び2割特例の適用の見直し(1)制度の概要(改正前)中小事業者は、簡易課税制度を適用することができます。また、免税事業者が適格請求書発行事業者の登録を受けて課税事業者となった場合には、2割特例を適用することができます(平成28年改正法附則51の2①)。(2)改正内容その課税期間の初日において恒久的施設を有しない国外事業者は、簡易課税制度及び2割特例の適用を受けられないことになりました(消法37①、平成28年改正法附則51の2①)。6.改正時期上記2から5の改正は、令和6年10月1日以後に開始する課税期間について、適用します(令和6年改正法附則1三ロリ、13①②③⑩、63)。提供:税経システム研究所
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2024/11/15 相続・贈与税
相続税重要テーマポイント解説25(相続財産が未分割の場合のリスク)
Q父の相続人は母及び兄弟3人です。相続財産は父の居宅である土地建物及びアパートの他わずかな金融資産です。法定相続分に応じた分割をしたいと考えていますが、分割できる財産がないため、相続税の申告期限までに分割が出来そうにありません。分割できなかった場合、未分割として申告することになるようですが、配偶者の税額軽減が受けられるでしょうか。【ポイント】申告期限までに分割できない場合、仮に法定相続分で分割したとして申告及び納税します。申告に当たって「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付します。3年経っても分割できない場合、事情によっては延長が認められますが、リスクがあることに注意します。【解説】1未分割で申告する場合の特例の適用(1)配偶者の税額軽減等の適用相続税の申告に当たって、相続財産が未分割のまま提出せざるを得ない場合があります。近年は、インターネット等による情報収集も格段に簡便になったため、相続人の権利の主張が強くなりました。裁判所のデータである司法統計資料においても相続関連の争いが多くなっていることからもわかります。相続税の申告書の提出期限は、相続開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。分割協議を重ねているうちに申告期限が到来してしまいます。配偶者に対する相続税額の軽減及び小規模宅地等の特例(以下「配偶者の税額軽減等」といいます。)は、遺産分割により取得した者が確定したことにより適用できます。配偶者の税額軽減等は課税価額又は税額の減額割合がかなり高く、適用を無視することはできません。(2)遺産が未分割の場合に適用できない特例相続税の申告期限まで相続財産が未分割である場合、次の特例が適用できません。特に「農地等についての相続税の納税猶予及び免除等」「非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除」等納税猶予の各特例については、申告期限を経過した場合、一切適用できないことに留意してください(措法70の6④他)。未分割の場合に適用できない特例参考条文◎配偶者に対する相続税額の軽減相法19の2②◎小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例措法69の4④◎特定計画山林についての相続税の課税価格の計算の特例措法69の5③◎特定事業用資産についての相続税の課税価格の計算の特例旧措法69の5①(注)○農地等についての相続税の納税猶予及び免除等措法70の6⑤○山林についての相続税の納税猶予及び免除措法70の6の6⑧○特定の美術品についての相続税の納税猶予及び免除措法70の6の7⑦○個人事業者の事業用資産についての相続税の納税猶予及び免除措法70の6の10⑦○非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除措法70の7の2⑦○非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例措法70の7の6⑥○医療法人の持分についての相続税の納税猶予及び免除措法70の7の12④(注)所得税法等の一部を改正する法律(平成21年法律第13号)による改正前の措置法2「申告期限後3年以内の分割見込書」の提出相続財産が未分割であるため配偶者の税額軽減等の適用を受けられなかった場合でも、申告期限から3年以内に分割された場合には用が受けられます(相法19の2②)。ただし、相続税の申告書と同時に「申告期限後3年以内の分割見込書」(以下「分割見込書」といいます。)を提出します。この分割見込書には、次の事項を記入します(相規1の6③二)。配偶者に対する相続税額の軽減等の適用を受けたい旨分割されていない理由分割の見込みの詳細実務的には、後掲の国税庁様式を使用します。遺産分割が確定した場合に適用を受けようとする特例等に該当する箇所全てに○を付します。3相続税の申告期限から3年以内に分割できなかった場合(1)相続税の申告期限から3年以内に分割できなかった場合相続争いは年々増加しており、しかも長期化の傾向があるようです。相続税の申告期限から3年以内に遺産分割が成立すれば法定相続分で納めすぎた税金が還付されることを知っていても、争いが終わらないこともあります。相続財産が未分割である状態が何年も継続していることは納税者、課税庁にとって不都合であることは間違いありません。そのため3年という年限を区切っています。相続税の申告期限から3年以内に遺産分割ができない場合、原則として配偶者の税額軽減等の適用はできません。申告書の提出と同時に分割見込書を提出している場合でも、相続争いが延々と続く状態を課税庁は待っていることはできません。中には、漫然と時が経過している案件もあります。ただし、相続税の申告期限から3年以内に分割が確定しないことの理由が、訴えが提起されている等やむを得ない事情がある場合があります。このような場合にまで配偶者に対する税額軽減等の特例の適用ができないとすると納税者にとって酷なことになります。このように相続税の申告期限から3年以内に分割が確定しないことについてやむを得ない事情があり、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書(以下「承認申請書」といいます。後掲)」が提出され、税務署長が認めた時は分割ができる日までその期間を延長することができます。(2)「やむを得ない事情」とは相続税の申告期限から3年を経過する日までに遺産分割ができないやむを得ない事情は、次のとおり限定列挙されています(相令4の2)。その場合、分割ができることとなった日から4か月以内に遺産分割を行い、その日から4か月以内に更正の請求をしなければならないことに留意してください(相法19の2)。やむを得ない事情分割ができることとなった日①相続又は遺贈に係る申告期限の翌日から3年を経過する日において、訴えの提起がされている場合・判決の確定又は訴えの取下げの日等訴訟の完結の日②相続又は遺贈に係る申告期限の翌日から3年を経過する日において、和解、調停又は審判の申立てがされている場合・和解若しくは調停の成立、審判の確定又は申立ての取下げの日等事件の終了の日③相続又は遺贈に係る申告期限の翌日から3年を経過する日において、遺産分割の方法の指定・分割の禁止等の規定により相続の承認若しくは放棄の期間が伸長されている場合・分割が禁止されている期間又は伸長されている期間が経過した日④相続又は遺贈に係る申告期限の翌日から3年を経過する日までに、分割が遅延したことについて税務署長がやむを得ない事情があると認める場合(下記(3)参照)・事情の消滅の日(3)税務署長が認めるやむを得ない事情上記(2)④の税務署長がやむを得ない事情があると認める場合とは、次のことをいいます。やむを得ないと認められるのは限定的であり、かつ客観的な事情がある場合です(相基通19の2−15)。申告期限の翌日から3年を経過する日において、共同相続人又は包括受遺者の一人又は数人が行方不明又は生死不明であり、かつ、その者に係る財産管理人が選任されていない場合申告期限の翌日から3年を経過する日において、共同相続人又は包括受遺者の一人又は数人が精神又は身体の重度の障害疾病ため加療中である場合次の場合において、その職務の内容などに照らして、申告期限の翌日から3年を経過する日までに帰国できないとき申告期限の翌日から3年を経過する日前において、共同相続人又は包括受遺者の一人又は数人が法施行地外にある事務所若しくは事業所等に勤務している場合申告期限の翌日から3年を経過する日前において、長期間の航海、遠洋漁業等に従事している場合申告期限の翌日から3年を経過する日において、法施行令第4条の2第1項第1号から第3号までに掲げる事情(上記(2)①から③の事情)又は①から③までに掲げる事情があった場合、申告期限の翌日から3年を経過する日後にその事情が消滅し、かつ、その事情の消滅前又は消滅後新たに同項第1号から第3号までに掲げる事情又は①から③までに掲げる事情が生じたとき(4)提出期限承認申請書は、法定申告期限から3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日までに提出しなければなりません(相令4の2)。3年を経過する日において、遺産分割が成立しなかったことについてのやむを得ない事情があることの証明が必要であるため、3年を経過する日より早く提出することはできないことに留意してください。(5)やむを得ない事情の内容説明承認申請書は、やむを得ない事情がある場合に限り提出できるものです。相続税の申告書の提出期限から3年を経過する日において、遺産分割ができなかったことについてのやむを得ない事情を説明する必要があります。やむを得ない事情を証する次の書類を添付して提出します(相規1の6)。やむを得ない事情事情を説明する書類①訴えが提起されている場合・訴えが提起されていることを証する書類②和解、調停又は審判の申立がされている場合・和解等の申し立てがされていることを証する書類③遺産分割の方法の指定・分割の禁止等の規定により、相続の承認等の期間が伸長されている場合・分割が禁止されていること等を証する書類④前3号に掲げる事情以外の事情がある場合・財産の分割がされなかった事情の詳細を記載した書類(6)提出者遺産分割の確定により特例等の適用を受ける相続人各人が提出します。ただし、小規模宅地等の特例は、複数の相続人が適用することがありますので、この場合は1枚の承認申請書に連署できます。(7)承認申請書の提出枚数承認申請書は「配偶者に対する相続税額の軽減」「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」等適用を受けようとする特例ごとに作成して提出することとなっています。これは、相続人により受けることができる特例が異なる場合があること等によります。2以上の特例が適用できる場合、提出がない特例について、認められないことにもなります。(8)期間延長承認または却下承認申請書の提出があった場合、税務署長がそれぞれの事情を検討の上、承認若しくは却下の判断を行い、申請者に通知します。承認申請書の提出があった日の翌日から2か月を経過する日までに、その承認申請について税務署長から承認又は却下の処分がなかったときは、その日において承認があったものとみなされます。この自動承認の規定は、税務署長の放置も許さないとしたものと考えられます。4承認申請書の提出を失念した場合(1)提出期限前の提出遺産分割協議が延々と続いていると、承認申請書の提出失念の予防のため、相続税の申告期限後3年を経過する日以前に承認申請書を提出しておこうと考えることがあります。しかし、この承認申請書の大きなポイントは特例の適用を受けようとする相続人が「相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日において」やむを得ない事情があることを説明し、税務署長が判断することにあります(相令4の2)。そのため、3年を経過する日以前に承認申請書を提出することはできません。期日以前に提出しても、法的には意味のない提出ということになります。そもそも、やむを得ない事情が申告期限後3年を経過する日に必ず発生することを予測できないでしょう。(2)提出期限を経過した場合当初申告において相続財産が未分割であった場合でも、相続税の申告期限後3年以内に遺産分割が確定した場合は特例等の適用が認められます。これは相続人や相続財産の確定に日数を要すること、相続人が複数いる場合があること、相続財産に対する相続人の権利が認められていること等から相続開始後10か月の期間では遺産分割が成立できない場合もあるという、相続税の特殊性からの特例的取扱いと考えられます。相続財産の内容や相続関係が複雑である場合や、相続人間の主張が強い場合は3年でも分割できないことも多くあります。そのようなことから、相続税の申告期限後3年を経過する日において、どうしても遺産分割が成立できないという特殊な状況にあり、その日から2か月を経過する日までに税務署長に対してその事情説明を加えて承認申請した場合に限り延伸が認められるものです。その期間を経過した場合、宥恕規定はありませんので特例の適用は認められず、納付した相続税の還付請求はできません。《申告及び調査対応のポイント》遺産分割争いは年々増加しています。とりわけ2015年(平成27年)1月1日から施行された相続税の改正により課税最低限が下がり、相続税の課税件数が倍増しました。財産に対する相続人等の主張が税負担も絡めたところで錯綜し、遺産分割がなかなか確定しにくくなります。当初申告において未分割の場合、法定相続分で申告と納税をします。ところが、その後の争いは相続人に任せられ、遺産分割が確定するまで相続人から情報を得られなくなることもあり、承認申請書の提出を失念してしまうこともあります。承認申請書を期限内に提出しないと特例の適用が一切できません。相続税は高額になりますので、特例の適用ができず税額の還付ができなくなることのリスクは非常に大きいことを十分に認識する必要があります。提供:税経システム研究所
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2024/11/06 経営・運営医療業務
医療法人機関シリーズ(第18回)
いまだに社団医療法人の66%が出資持分有りです。現実は出資者が出資持分の払戻しを期待しているので認定医療法人(出資持分なしの医療法人)へ移行しないことが多いです。純資産が、10億円未満の出資持分有り医療法人にあっては役員退職金の支払において純資産を減少することが可能です。よって出資持分有り医療法人のまま事業承継が行われるのが現状です。純資産の減少に因る事業承継の方法と、次に医療法人の事業承継としては、出資金の譲渡があります。すなわち出資持分有り医療法人に限り有価証券の譲渡として事業承継が可能となります。これらが出資持分有り医療法人が存続する理由と考えます。出資持分有りの財産評価等の解説〔出資持分有りの社団医療法人モデル定款〕(厚生労働省の公表による)医療法人○○会定款第1章名称及び事務所第1条本社団は、医療法人○○会と称する。第2条本社団は、事務所を○○県○○郡(市)○○町(村)○○番地に置く。第2章目的及び事業第3条本社団は、病院(診療所、介護老人保健施設)を経営し、科学的でかつ適正な医療(及び疾病・負傷等により寝たきりの状態等にある老人に対し、看護、医学的管理下の介護及び必要な医療等)を普及することを目的とする。第4条本社団の開設する病院(診療所、介護老人保健施設)の名称及び開設場所は、次のとおりとする。2本社団が○○市(町、村)から指定管理者として指定を受けて管理する病院(診療所、介護老人保健施設)の名称及び開設場所は、次のとおりとする。第5条本社団は、前条に掲げる病院(診療所、介護老人保健施設)を経営するほか、次の業務を行う。○○看護師養成所の経営第3章社員第6条本社団の社員になろうとする者は、社員総会の承認を得なければならない。(入社)2本社団は、社員名簿を備え置き、社員の変更があるごとに必要な変更を加えなければならない。第7条社員は、次に掲げる理由によりその資格を失う。除名死亡退社2社員であって、社員たる義務を履行せず本社団の定款に違反し又は品位を傷つける行為のあった者は、社員総会の議決を経て除名することができる。第8条やむを得ない理由のあるときは、社員はその旨を理事長に届け出て、その同意を得て退社することができる。第9条社員資格を喪失した者は、その出資額に応じて払戻しを請求することができる。次に「その出資額に応じて」とは出資社員の退社に応じて「払戻しを請求」することで、いくらを請求するかは、原則定款第34条に応じて解散した場合の残余財産すなわち清算金額(以下時価という)としての金銭債権により払戻すこととなります(前橋事件)。最高裁で確定しました。類似事件の名古屋事件が問題となっております。これは、死亡により退社した払戻し額事件で、税理士が医療法人の出資持分の評価を相続税法と評基通194-2に基づき、有価証券として評価して税務申告をし、その後、相続人は社員の死亡退社をした場合の前橋事件を参考に医療法人に金銭債権としての時価により「払戻しを請求」しましたが、名古屋高裁で、一度有価証券として選択し、相続税の申告をした以上は、金銭債権としての時価払戻しは認められないと判断しています。―税賠事件となったかは不明―死亡退社の場合の相続税の申告には、相続人に十分説明した後、医療法人の出資持分評価をすべきでしょう。次に、仮に、相続税申告前に出資社員の死亡退社に伴う出資持分払戻しを通常通り時価で払戻しを受けた後、相続税の申告において有価証券の評価(評基通194-2)が認められるかですが、個人的には相法22条時価評価によるものと考え、相続税法上の有価証券としての評価は認められないのではと考えます。[医療法人の死亡退社に因る出資持分の課税関係(私見)]第4章資産及び会計第10条本社団の資産のうち、次に掲げる財産を基本財産とする。・・・・・・・・・2基本財産は処分し、又は担保に供してはならない。ただし、特別の理由のある場合には、理事会及び社員総会の議決を経て、処分し、又は担保に供することができる。(解説)【定款10条2項】基本財産は処分し、又は担保に供してはならない。――しかし定款変更は知事の認可(法54条の9は後述します)が必要ですが、医療審議会への諮問、審議する必要はありませんし、また、知事の承認を受けなければ基本財産を処分し、又は担保に供したりすることができない訳ではありません。→法律では定められていない。――医療法人の相続税の財産評価において、基本財産を財産評価から除外することは認められないこととなります。法54条の9第4項を理解する必要があります。[出資持分有り社団医療法人の基本財産と運用財産]基本財産と運用財産とは明確に区分管理され、法人の所有する不動産等重要な資産は基本財産として定款に記載することが望ましく、かつ、基本財産の処分又は担保の提供については、定款の定めにより適正になされていることとされますが、ここに定款で基本財産の処分について禁止条項を設け基本財産の処分を禁止することとした場合であっても、出資持分有り社団医療法人の出資持分の評価に関しては、基本財産と運用財産を含めたところでその時の時価により評価することとなります。すなわち、医療法第54条の9第4項により都道府県知事は、定款の認可申請があった場合には、定款変更の手続きが法令又は定款に違反していないかどうかを審査した上で都道府県知事はその認可を決定しなければならず、すなわち知事は定款変更の手続き及び定款内容に法令違反がない限り、いつでも定款変更が可能であることから、出資持分の評価は基本財産と運用財産を区分して評価することは許されないこととなります。第11条本社団の資産は、社員総会で定めた方法によって、理事長が管理する。社員総会とは社団(医)の経営最高意思決定機関です。理事長とは職務執行統括者です。第12条資産のうち現金は、日本郵政公社、確実な銀行又は信託会社に預け入れ若しくは信託し、又は国公債若しくは確実な有価証券に換え保管するものとする。第13条本社団の収支予算は、毎会計年度開始前に理事会及び社員総会の議決を経て定める。理事会は職務執行機関第14条本社団の会計年度は、毎年4月1日に始まり翌年3月31日に終る。第15条本社団の決算については、毎会計年度終了後2月以内に、理事会の議決後の事業報告書、財産目録、貸借対照表及び損益計算書(以下「事業報告書等」という。)を作成しなければならない。2本社団は、事業報告書等、監事の監査報告書及び本社団の定款を事務所に備えて置き、社員又は債権者から請求があった場合には、正当な理由がある場合を除いて、これを閲覧に供しなければならない。3本社団は、毎会計年度終了後3月以内に、事業報告書等及び監事の監査報告書を○○県知事(○○厚生局長)に届け出なければならない。=定時社員総会の議決第16条決算の結果、剰余金を生じたときは、理事会及び社員総会の議決を経てその全部又は一部を基本財産に繰り入れ、又は積立金として積み立てるものとし、配当してはならない。第5章役員第17条本社団に、次の役員を置く。理事○名以上○名以内うち理事長1名監事○名第18条理事及び監事は、社員総会において選任する。2理事長は、理事の互選によって定める。3本社団が開設(指定管理者として管理する場合を含む。)する病院(診療所、介護老人保健施設)の管理者は、必ず理事に加えなければならない。4前項の理事は、管理者の職を退いたときは、理事の職を失うものとする。5理事又は監事のうち、その定数の5分の1を超える者が欠けたときは、1月以内に補充しなければならない。第19条理事長のみが本社団を代表する。2理事長は本社団の業務を総理する。3理事は、本社団の常務を処理し、理事長に事故があるときは、理事長があらかじめ定めた順位に従い、理事がその職務を行う。4監事は、次の職務を行う。本社団の業務を監査すること。本社団の財産の状況を監査すること。本社団の業務又は財産の状況について、毎会計年度、監査報告書を作成し、当該会計年度終了後3月以内に社員総会又は理事に提出すること。第1号又は第2号による監査の結果、本社団の業務又は財産に関し不正の行為又は法令若しくはこの定款に違反する重大な事実があることを発見したときは、これを○○県知事(○○厚生局長)又は社員総会に報告すること。第4号の報告をするために必要があるときは、社員総会を招集すること。本社団の業務又は財産の状況について、理事に対して意見を述べること。5監事は、本社団の理事又は職員(本社団の開設する病院、診療所又は介護老人保健施設(指定管理者として管理する病院等を含む。)の管理者その他の職員を含む。)を兼ねてはならない。第20条役員の任期は2年とする。ただし、再任を妨げない。2補欠により就任した役員の任期は、前任者の残任期間とする。3役員は、任期満了後といえども、後任者が就任するまでは、その職務を行うものとする。第6章会議第21条会議は、社員総会及び理事会の2つとし、社員総会はこれを定時総会と臨時総会に分ける。第22条定時総会は、毎年2回、○月及び○月に開催する。第23条理事長は、必要があると認めるときは、いつでも臨時総会及び理事会を招集することができる。2社員総会の議長は、社員総会において選任し、理事会の議長は、理事長をもってあてる。3理事長は、総社員の5分の1以上の社員から会議に付議すべき事項を示して臨時総会の招集を請求された場合には、その請求のあった日から20日以内に、これを招集しなければならない。4理事会を構成する理事の3分の1以上から連名をもって理事会の目的たる事項を示して請求があったときは、理事長は理事会を招集しなければならない。第24条次の事項は、社員総会の議決を経なければならない。定款の変更基本財産の設定及び処分(担保提供を含む。)毎事業年度の事業計画の決定及び変更収支予算及び決算の決定剰余金又は損失金の処理借入金額の最高限度の決定社員の入社及び除名本社団の解散他の医療法人との合併契約の締結その他重要な事項第25条社員総会は、総社員の過半数の出席がなければ、その議事を開き、議決することができない。2社員総会の議事は、出席した社員の過半数で決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。3前項の場合において、議長は、社員として議決に加わることができない。第26条社員総会の招集は、期日の少なくとも5日前までに会議の目的である事項、日時及び場所を記載し、理事長がこれに記名した書面で社員に通知しなければならない。2社員総会においては、前項の規定によってあらかじめ通知した事項のほか議決することができない。ただし、急を要する場合はこの限りではない。第27条社員は、社員総会において1個の議決権及び選挙権を有する。第28条社員は、あらかじめ通知のあった事項についてのみ書面又は代理人をもって議決権及び選挙権を行使することができる。ただし、代理人は社員でなければならない。2代理人は、代理権を証する書面を議長に提出しなければならない。第29条会議の議決事項につき特別の利害関係を有する者は、当該事項につきその議決権を行使できない。第30条社員総会の議事についての細則は、社員総会で定める。2理事会の議事についての細則は、理事会で定める。第7章定款の変更第31条この定款は、社員総会の議決を経、かつ、○○県知事(○○厚生局長)の認可を得なければ変更することができない。第8章解散及び合併第32条本社団は、次の事由によって解散する。目的たる業務の成功の不能社員総会の決議社員の欠亡他の医療法人との合併破産手続開始の決定設立認可の取消し2本社団は、総社員の4分の3以上の賛成がなければ、前項第2号の社員総会の決議をすることができない。3第1項第1号又は第2号の事由により解散する場合は、○○県知事(厚生労働大臣)の認可を受けなければならない。第33条本社団が解散したときは、合併及び破産手続開始の決定による解散の場合を除き、理事がその清算人となる。ただし、社員総会の議決によって理事以外の者を選任することができる。2清算人は、社員の欠亡による事由によって本社団が解散した場合には、○○県知事(厚生労働大臣)にその旨を届け出なければならない。3清算人は、次の各号に掲げる職務を行い、又、当該職務を行うために必要な一切の行為をすることができる。現務の結了債権の取立て及び債務の弁済残余財産の引渡し第34条本社団が解散した場合の残余財産は、払込済出資額に応じて分配するものとする。第35条本社団は、総社員の同意があるときは、○○県知事(厚生労働大臣)の認可を得て、他の社団医療法人と合併することができる。第9章雑則第36条本社団の公告は、官報(及び○○新聞)によって行う。第37条この定款の施行細則は、理事会及び社員総会の議決を経て定める。附則本社団設立当初の役員は、次のとおりとする。(解説)第10条の基本財産については、社会福祉法人の「基本財産」のように、自治体の承認を受けなければ処分したり担保としたりすることができない訳ではありません。また、医療法54条の9第4項により、定款第10条の変更はいつでも可能となります。◆医療法人の社員の退社について厚生省健康政策局指導課長回答より医療法人の出資社員については、社団の医療法人に存在するものであるが、社員の身分は社員総会の承認を得て取得することとなる。出資持分とは、法人の設立時等に出資した額に応じて法人の資産に対して持分相当の財産権を持つというものである。出資持分を持っている社員が社員資格を喪失した場合は、その持分に相当する資産の払戻しを請求する権利を有することとなる。また、法人が解散した場合についても、残余財産の分配の権限を有することとなる。しかし、この出資持分については、社員の身分を保持している状況では財産権に対する権限の行使はできないものであり、あくまで社員資格の喪失等の事由が生じた時に限り、払戻しを請求する権利が生じるものである。〔判決ポイント〕また、定款には、必要的記載事項として「社団たる医療法人にあっては、社員資格の得喪に関する規定」を必ず定めることとしている。つまり、社員が退社する場合は定款に基づき処理されなければならず、これを拒否する理由に関して医療法等の法的根拠はないと判断する。このことから、定款に「社員の退社については社員総会(意思決定機関)の同意を要する」と記載し、知事の認可を受ければ良いでしょう。(私見)〔判決ポイント〕Ⅰ.定款8条「退社した社員はその出資額に応じて返還を請求することができる。」の解釈この定款8条の解釈は、出資社員は、退社時に同時点における財産の評価額に、同時点における総出資額中の当該出資社員の出資額が占める割合を乗じて算定される額の返還を請求することができることを規定したものと解するのが相当であるとしています。(最判)(定款8条の理解:重要)旧社団医療法人(経過措置型医療法人)の理解(私見)旧社団医療法人(平成19年4月1日前に設立された医療法人。)で現在でも66%強が持分の定めのあるもの(すなわち一般的な社団医療法人をいいます。)を経過措置型医療法人といいます。この医療法人の理解について次の文言すなわち1.出資社員2.出資者3.社員を理解することが重要です。出資社員出資社員とは、当医療法人への出資者であり、かつ、社員として社員総会で(意思決定機関)承認された個人をいいますが、一般的には原始出資者は、社員総会でも社員として承認されています。出資者出資者とは、当医療法人の財産権を所有する者で、当医療法人に資本金として出資した者であり個人に限らず会社(法人を含む)も認められます。又、憲法第29条(財産権)により出資者は財産権が保証されていますが議決権に制限のある者です。但し、出資者は、剰余金の配当禁止となり、又、残余財産分配請求権のみ(定款上、出資払戻請求権はありません。)を保有します。社員医療法人の社員は出資者とは切り離され社員総会で承認を得た個人(自然人)に限ります。なお、社員は、当該医療法人の重要事項についての議決権のある者(意思決定権者)であり、すなわち当該医療法人の支配権者といえる。社団医療法人の実務(定款の私的自治(自律)の原則)―――会社と考え方を異にします。医療法50条①②の理解理事の職務(旧民法53条、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律76条①)理事は医療法人の業務について執行(業務執行者)しますが、定款(医療法人の憲法)への違反行為は認められません。社員の役割(医療法48条の4、医療法人運営管理指導要綱)社員は社員総会において法人運営の重要事項についての議決権を行使する者であります。すなわち、社員が医療法人を支配することとなります。問題点(出資者名簿の備え置き等)出資者について(定款の内容について不足している事項)〔出資社員の退社と純資産について〕(私見)「退社した社員はその出資額に応じて返還を請求することができる」生存退社―出資社員の意向により返還請求を実行した時にみなし配当とされる死亡退社―死亡による出資社員の退社は相続人が返還請求した時に死亡時の返還請求の実行とされ死亡の時のみなし配当とされる。「出資金」の姿出資社員が1人で他の社員は出資額が零の場合。医療法上は定款変更がないので「出資持分有り医療法人」のまま存続、しかし税法上は1人の全額の出資社員が退社することにより「出資金」(資本)は零となり、よって「出資持分なしの医療法人」となる。純資産への影響退職金について(出資社員が役員の場合)生存退社―役員を退任し、理事会、社員総会の承認の手続きを得て役員退職金を支払い、退社することにより、純資産を減少させることによりみなし配当を減少させることが可能となる。死亡退社―死亡の時にみなし配当の計算がされる。役員への死亡退職金はみなし配当支払後に一定の手続きを経て確定することとなる。よって、純資産減少後のみなし配当は不可能と考える。提供:税経システム研究所
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2024/10/30 相続・贈与税医療業務
認定医療法人の認定要件のうちの運営要件について その2
1.認定医療法人の認定を受けるための要件前回の税務情報レポート(認定医療法人の認定要件のうちの運営要件についてその1)では、下記の8つの運営要件のうち、イ・ロ・ハ・ニの4要件について説明をしました。今回は残りのホ・ヘ・ト・チの4要件についての説明を行います。8つの要件(医療法施行規則附則第57条の2第1項第1号)。法人関係者に特別の利益を与えないこと役員に対する報酬等が不当に高額にならないような支払基準を定めていること株式会社等に特別の利益を与えないこと遊休財産額は、事業に係る費用の額を超えないこと法令違反、隠ぺい等の事実その他公益に反する事実がないこと社会保険診療収入(介護保険給付収入、助産に係る収入、予防接種収入も含む)が全収入の80%超であること自費請求金額は、保険診療と同一の基準(単価)によること医業収入が医業費用の150%以内であること2.ホ法令違反、隠ぺい等の事実その他公益に反する事実がないこと(医療法施行規則附則第57条の2第1項第1号ホ)申請日の属する会計年度及び前会計年度において、法令違反等の事実があったかどうかについての報告書を提出します。このホの項目について提出する報告書は次のような様式です。タイトル:法令違反(規則附則第57条の2第1項第1号ホ)上記に記載する事実として、次のケースが示されています。医療に関する法律に基づき医療法人又はその理事長が罰金刑以上の刑事処分を受けた場合医療法人の開設する医療機関に対する医療監視の結果、重大な不適合事項があり、都道府県知事から改善勧告が行われたが是正されない場合医療法第30条の11の規定に基づく都道府県知事の勧告に反する病院の開設、増床又は病床種別の変更が行われた場合医療法人の業務若しくは会計が法令、法令に基づく都道府県知事の処分、定款若しくは寄附行為に違反し、又はその運営が著しく適正を欠くと認められた場合であって、医療法第64条第1項の必要な措置をとるべき旨の命令若しくは第2項の業務の全部若しくは一部の停止の命令又は役員の解任の勧告が発せられた場合その他①から④までに相当する法令についての重大な違反事実があった場合帳簿書類に取引の全部若しくは一部を隠蔽し、又は仮装して記録若しくは記載をしている事実これらの事実は無いことの報告をする必要があります。3.ヘ社会保険診療収入(介護保険給付収入、助産に係る収入、予防接種収入も含む)が全収入の80%超であること(医療法施行規則附則第57条の2第1項第2号イ)社会保険診療等に係る収入金額が、全収入金額の80%を超えていることが要件ですが、ここでいう社会保険診療等の「等」には、労災による診療報酬、予防接種(健康診断含む)事業による収入、助産に係る収入、介護保険事業による収入が含まれます。このヘの項目について提出する報告書は次のような様式です。タイトル:収入金額(規則附則第57条の2第1項第2号イ)上記の表の区分のうち「その他」の欄に、社会保険診療報酬等以外の収入金金額が記載され、その診療割合が20%を超えないように記載しなければなりません。(記載上の注意事項)直近に終了した会計年度の診療等について、病院、診療所及び介護老人保健施設等の別に記載すること。合計①~⑦の合計額が、損益計算書の本来業務事業損益、附帯業務事業損益にかかる事業収益の合計額と一致すること。なお、この報告書に加えて、次の様式の報告書も作成する必要があります。○労働者災害補償保険法による患者の診療報酬○健康診査に係る収入の明細〇予防接種に係る収入の明細○助産に係る収入の明細助産に係る収入については、収入金額報告書の「助産」欄に記載する(できる)金額は、上記の明細の金額のうち、どちらか少ない金額です。つまり社会保険診療報酬等として認められる限度額は、分娩件数×50万円の金額までで、もし実際の収入金額のほうが大きいときは、限度額を超える部分の金額は、報告書の「その他」欄に含めて記載しなければなりません。○介護保険法のサービス・事業(社会保険診療に含まれるものを除く)に係る収入の明細介護事業に係る収入には、居宅(予防含む)系サービスの介護報酬と、医師・看護師・理学療法士などの医療従事者が行える医療系サービスの介護報酬とがあります。このうち医療従事者が行う医療系の介護報酬(例えば訪問看護やデイケアや居宅療養管理指導など)は社会保険診療報酬に該当し、収入金額報告書の「社会保険診療」に含まれて記載されますので、「介護事業」に記載するのは居宅サービス系の介護報酬の金額となります。その「介護事業」欄に記載する金額の明細が上記の表になります。4.ト自費患者に対し請求する金額(規則附則第57条の2第1項第2号ロ)5.チ医業収入が医業費用の150%以内であること(規則附則第57条の2第1項第2号ハ)このチの項目について提出する報告書は次のような様式です。医療に係る経費等(規則附則第57条の2第1項第2号ハ)(記載上の注意事項)直近に終了した会計年度の診療について、病院、診療所及び介護老人保健施設等の別に記載すること。医療診療により収入する金額合計⑳が、損益計算書の本来業務事業損益にかかる事業収益の金額と一致すること。患者のために直接必要な経費の額合計㉑が、損益計算書の本来業務事業損益にかかる事業費用の金額と一致すること。6.付表書類上記の報告書提出に合わせていくつかの付表も作成しなければなりません。表の様式は省略し、項目だけ示しておきます。書類付表1理事、監事、これらに準ずる者、社員及び出資者に関する明細表書類付表2経理等に関する明細書医療法人の関係者等の施設の利用明細財産の運用及び事業の運営医療法人の関係者等に対する貸付金の明細医療法人の関係者等に対する譲渡資産の明細財産の借入等医療法人の関係者等からの借用物件の明細医療法人の関係者等からの借入金の明細医療法人の関係者等からの譲受資産の明細医療法人の業務に従事している関係者等である従業員の明細医療法人の関係者等に対する債務の保証等医療法人の関係者等が社員等になっている他の法人との取引等の明細医療法人の関係者等への寄附・贈与等書類付表3保有する資産の明細表総括表業務の用に供する財産の明細保有財産の明細減価償却引き当て特定預金の明細特定事業準備資金の明細土地の明細建物の明細医療用器械備品の明細提供:税経システム研究所
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2024/10/25 法人税
通達等を読んでいて気になる細かな点 -「その他の」と「その他」の使い分け-
近頃、貸倒損失の計上の可否について相談を受ける機会が増えてきている。御承知のとおり、法人税法には具体的な貸倒損失の規定は存在しないものの、法人税法22条3項3号の「損失」に該当し、法人税基本通達9−6−1から同9−6−3に具体的な貸倒れに関する取扱いが示されている。そこで、貸倒れの判断においては、これら通達を確認することが重要になる。もちろん、貸倒れに関する判例等(注1)の確認を行うことは言うまでもない。1法人税の取扱い上記の法人税基本通達9−6−1から同9−6−3を確認すると法人税基本通達9−6−1(3)は次のように規定されている。(3)法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるものにより切り捨てられることとなった部分の金額イ債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているものロ行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容がイに準ずるもの(下線は筆者による)ところで、この通達の定めに似たものに、長期棚上げ等があった場合の貸倒引当金に関する規定である法人税法施行規則25条の2があり(注2)、そこでは次のように規定されている。(更生計画認可の決定等に準ずる事由)第二十五条の二令第九十六条第一項第一号ホ(貸倒引当金勘定への繰入限度額)に規定する財務省令で定める事由は、法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるもの(同号ニに掲げる事由を除く。)とする。一債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの二行政機関、金融機関その他第三者のあつせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容が前号に準ずるもの(下線は筆者による)細かいことだが、通達は「その他の」であり、省令は「その他」となっている。「の」があるか無いかであり、誤植とも考えられなくもないので、次項で所得税等の取扱いを確認しておくことにする。2所得税等の取扱い所得税の貸倒れに関して法人税の上記通達と同様の取り扱いを定めた所得税基本通達51−11においても、次のように法人税基本通達9−6−1(3)と同様に定められている。(3)法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で、次に掲げるものにより切り捨てられたこと。その切り捨てられることとなった部分の金額イ債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているものロ行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容がイに準ずるもの(下線は筆者による)法人税と同様に所得税における貸倒引当金に関する規定である所得税法施行規則35条は次のように規定されている。(更生計画認可の決定等に準ずる事由)第三十五条令第百四十四条第一項第一号ホ(個別評価貸金等に係る貸倒引当金勘定への繰入限度額)に規定する財務省令で定める事由は、法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるもの(同号ニに掲げる事由を除く。)とする。一債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの二行政機関、金融機関その他第三者のあつせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容が前号に準ずるもの(下線は筆者による)因みに、消費税では貸倒れの範囲を次のように消費税法施行規則18条に規定してある(注3)。(貸倒れの範囲)第十八条令第五十九条第四号に規定する財務省令で定める事実は、次に掲げる事実とする。一法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるものにより債権の切捨てがあつたこと。イ債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているものロ行政機関又は金融機関その他の第三者のあつせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容がイに準ずるもの(下線は筆者による)3各税法との比較等による推論通達が「その他の」であり、省令は「その他」となっているのは、誤植ではなく、意識的に使い分けられているように思われる。そもそも「その他の」と「その他」は、似ている言葉ではあるが、法律用語としては厳密に使い分けられている(注4)。「Aその他のB」という場合には、AとBは例示の関係にあり、AはBに含まれる。一方、「Aその他B」という場合には、AとBが並列の関係にあり、AはBに含まれない。法人税基本通達9−6−1(3)ロでは、第三者(注5)の例示として行政機関・金融機関が挙げられており、第三者によるあっせんとして行政機関・金融機関によるあっせんが認められている。また、法人税法施行規則25条の2第2号においては、第三者に並列するものとして行政機関・金融機関が挙げられており、第三者によるあっせんのほか、行政機関・金融機関によるあっせんも認められることになる。つまり、いずれの規定にあっても第三者・行政機関・金融機関によるあっせんが認められるということになり、その規定されている内容に違いはないことから、通達と省令で「その他の」と「その他」を使い分ける必要がないのではないかと考えられる。なお、「その他の」と「その他」の使い分けの例外として、語呂や語感等を考慮して「その他の」とすべきところを「その他」とすることがあるとされ、例えば、憲法21条1項では、「言論、出版その他一切の表現の自由」として、本来ならば「その他の」を用いるべきところ、語呂の都合で「その他」が用いられているとされている(注6)。しかしながら、法人税基本通達9−6−1(3)ロと法人税法施行規則25条の2第2号は、ほぼ同じ文言で規定されているため、法人税法施行規則25条の2第2号のみ語呂や語感等を考慮して「その他」とする必要はなく、この例外にも当てはまらないと考えられる。細かいことなので気にすることはないのかもしれないが、規定されている内容が同じであるにもかかわらず、通達と省令で文言が異なっているのに違和感を覚えるのは多分筆者だけだろう。<注釈>(注)本稿は、筆者HP平成25年6月21日付で掲載した内容を補正等したものである。貸倒れに関する判例としては、最高裁平成16年12月24日第二小法廷判決(いわゆる興銀事件)がある。筆者は、規定の類似性から貸倒損失の計上事由の理解が貸倒引当金の計上理由の理解につながると考えている。消費税に関しては貸倒引当金に関する規定等は存在しない。『似たもの法律用語のちがい(三訂補訂第二版)』14頁(法曹会、平成16年)債権者・債務者と利害関係を共通する立場にある者などは、第三者として認められないと考えられるが、商社や主要取引先、弁護士等によるあっせんは、第三者によるあっせんとして認められると考えられる(田中豊『不良債権の税務』51頁(大蔵財務協会、平成6年)、松尾公二編『法人税基本通達逐条解説(十一版)』1105頁(税務研究会出版局、令和5年))。林修三『新版法令用語の常識』16頁(日本評論社、昭和47年)提供:税経システム研究所
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2024/10/22 その他の税・法令等財産評価
不動産の見方(不動産の基礎知識)
1.登記簿謄本、固定資産評価証明書など(1)登記簿謄本所轄法務局(登記所)で誰でも見る、謄本を取ることができる(有料)。記載内容表題部:土地、建物の表示に関する事項甲区:所有権に関する事項乙区:所有権以外の権利に関する事項効力対抗力:登記がなければ、権利変動を第三者に対抗できない。公信力:登記には公信力はない。真実の権利を反映しない登記を信頼し、取引きしても保護されない。借地権の対抗力:借地上の建物について借地権者の登記があれば、借地権についても対抗力がある。(2)固定資産税評価証明書、名寄せ帳本人または本人の委任状を持参しないと取り寄せたり見たりすることができない(市町村の固定資産税課)。なお、借地人、借家人などについては閲覧制度の対象とされる。(3)不動産の価格公示価格:100%路線価(相続税評価額):毎年の公示価格の80%程度となっている。固定資産税評価額:基準年度の前年の公示価格の70%程度となっている。(4)市街化区域と市街化調整区域市街化区域:すでに市街地を形成している区域およびおおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域をいう。市街化調整区域:市街化を抑制すべき区域をいう。非線引き都市計画区域:市街化区域と市街化調整区域に区分されている(線引き)都市計画区域と区分されていない(非線引き)都市計画区域がある。2.売買契約の基礎知識(1)手付金相手方が契約の履行に着手するまでは、買主は交付した手付金を放棄して契約を解除できる。また、売主は手付金の倍額を償還して契約を解除できる。宅地建物取引業者が自ら売主となる場合には、代金の2割を超える手付金を受領してはならない。(2)公簿取引と実測取引公簿取引登記面積で売買し、実測面積が登記面積と異なっても増減精算しない。実測取引実測面積と登記面積との差につき、一定の単価で売買代金を増減する。(3)危険負担民法上は「売買契約締結後引渡し前の危険(建物の類焼、土地の陥没等)は、買主の負担であり、売主は代金全額の請求ができる。」とされていたが、2020年の民法改正により当事者双方の責めに帰することができない事由により債務を履行することができなくなった場合は、買い主は売買代金の支払いを拒むことができることとされた。(4)契約不適合責任売主が買主に引き渡した不動産が、品質などに関して契約内容に適合しない場合は、買主は売主に対して追完請求(補修請求など)・代金減額請求・損害賠償請求・契約解除を求めることができる。なお、買主がその不適合を知ったときから1年以内にその旨を売主に通知しなければ、原則として買主は追完請求(補修請求など)・代金減額請求・損害賠償請求・契約解除をすることができなくなる。3.建築基準法(1)接道義務:都市計画区域・準都市計画区域内の建築物の敷地は、原則として、幅員4m(特定行政庁指定区域は6m)以上の道路に2m以上接していなければならない。(2)セットバック:幅員が4m未満の道路で特定行政庁の指定があったものは、原則として、道路中心線から2mずつ後退した線が道路境界線とみなされる。(3)建ぺい率:建ぺい率とは、建築面積の敷地面積に対する割合をいう。防火地域内にある耐火建築物は、指定された建ぺい率に10%プラスされる。また、建ぺい率が80%の地域内では制限がなくなる。角地・三方路地・四方路地で特定行政庁が指定したものは指定された建ぺい率に10%プラスされる。敷地が2以上の地域にわたる場合には、加重平均とされる。(4)容積率:容積率とは、延床面積の敷地面積に対する割合をいう。前面道路の幅員による容積率の制限:容積率は都市計画で指定された指定容積率であるが、前面道路の幅員が12m未満の場合には前面道路の幅員×10分の4(住居系以外は10分の6)が限度となる。敷地が2以上の地域にわたる場合には、加重平均とされる。提供:税経システム研究所
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2024/10/16 会計制度経営・運営公益法人
新公益法人制度と会計(第1回)
令和7年4月より公益法人制度と公益法人会計基準が17年ぶりに改正となります。この改正は、「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」の最終報告(令和5年6月2日。以下「最終報告」という。)を踏まえたものとなります。また、新会計基準は、内閣府公益認定等委員会の「公益法人の会計に関する研究会」(以下「研究会」という。)で討議された内容が反映され、制度変更に合わせて財務諸表の様式等が大幅な変更となります。今回は、その概要をご説明させて頂きます。研究会は、公益法人を巡る会計事象の変化や実務上の課題に的確に対応するため開催しているものです。令和5年度には、公益法人制度の見直しに伴う公益法人会計基準の見直しなど公益法人の会計上の諸課題に対応するため、以下の趣旨で開催されました。検討事項公益法人制度の見直しに伴う公益法人会計基準の見直し公益法人に作成を求める財務諸表等と定期提出書類の整理その他検討体制研究会は、必要に応じ、学識経験者、法人関係者等から意見を聴取するとともに、委員との認識の共有を図る。現在、研究会では、新会計基準の策定を検討しています。研究会での検討内容は、以下のとおりになります。1.公益法人会計基準の見直しの必要性と意義財務規律の柔軟化・明確化に伴う法人の説明責任として、財務諸表における情報開示を充実する。区分経理の実施を原則化し、公益目的事業財産の状況の可視化を促し、公益目的取得財産残額の把握方法の簡素化を検討する。財務諸表における情報開示の充実に伴い、定期提出書類を簡素化する。公益法人のステークホルダー等の多様化に対応し、財務諸表全体をわかりやすい形に見直しをする。2.公益法人会計基準の見直しの基本的な考え方本表(貸借対照表、活動計算書等)は簡素でわかりやすく、詳細情報は注記等で開示する。正味財産増減計算書の名称・記載事項、貸借対照表・正味財産増減計算書の内訳の位置付け等の公益法人会計特有の考え方を整理・見直しをする。制度改革との整合性確保、法人等への周知・円滑な移行、小規模法人の負担軽減方策の検討をする。3.公益法人会計基準の具体的な見直しの方向性全体枠組み財務報告の目的である資源提供者その他のステークホルダーへの情報開示を明記公益法人の組織特性や財務報告の目的を踏まえた体系を整理貸借対照表資産について、本表は流動資産・固定資産の区分を表示基本財産・特定資産は必要に応じ注記で区分使途拘束資産を表示し、控除対象財産(資産)、一般純資産・指定純資産(純資産)を注記等で区分内訳表は、注記事項に注記で会計区分別内訳を作成し、棚卸的な整理による作成を許容活動計算書(正味財産増減計算書から名称を変更)本表では一般純資産・指定純資産を区分せず、純資産全体の増減を経常活動・その他活動に区分費用科目は、活動別分類(公1事業費、収益事業費、管理費等)で表示内訳表は、注記事項として会計・事業区分別内訳を作成注記・附属明細書貸借対照表関係では、会計区分別内訳、資産及び負債の状況、使途拘束資産の内訳を記載活動計算書関係では、財源区分別内訳(※)、一般純資産の会計・事業区分別内訳、指定純資産の内訳、控除対象財産(6号財産)の発生年度別残高等、事業費・管理費の形態別区分(※)財源区分別内訳一般純資産と指定純資産を並列表示し、振替処理は行わない。控除対象財産(6号財産)の果実は指定純資産から除外する。その他(財務規律適合性に関する情報等)財産目録は、資産及び負債の状況の注記との関係を整理次回も引き続き、新公益法人制度と会計についてご説明させて頂きます。提供:税経システム研究所
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2024/10/09 所得税
意外に面白い外国法人課税――所得税法だけで完結する? 外国法人への源泉課税
はじめに多くの方がご存知のように、法人への課税要件や税率などは法人税法に規定されています。一方、源泉徴収については、法人税法に規定はなく所得税法に規定されています。そこで、一定の所得があり、源泉徴収が必要になる外国法人の場合、法人税法ではなく所得税法だけで課税関係が完結する場合があります。今回は外国法人にもかかわらず、所得税法だけで課税関係が完結する事例をご紹介していきたいと思います。条文が多く登場して、少し複雑に感じるかもしれませんが、お付き合いください。1.所得税法の外国法人の規定所得税法5条は「納税義務者」です。以下に引用しますが、本稿に関係する部分に下線を引きました。(納税義務者)第5条居住者は、この法律により、所得税を納める義務がある。2非居住者は、次に掲げる場合には、この法律により、所得税を納める義務がある。一161条1項(国内源泉所得)に規定する国内源泉所得(次号において「国内源泉所得」という。)を有するとき(同号に掲げる場合を除く。)。二その引受けを行う法人課税信託の信託財産に帰せられる内国法人課税所得(174条各号(内国法人に係る所得税の課税標準)に掲げる利子等、配当等、給付補塡金、利息、利益、差益、利益の分配又は賞金をいう。以下この条において同じ。)の支払を国内において受けるとき又は当該信託財産に帰せられる外国法人課税所得(国内源泉所得のうち161条1項4号から11号まで又は13号から16号までに掲げるものをいう。以下この条において同じ。)の支払を受けるとき。3内国法人は、国内において内国法人課税所得の支払を受けるとき又はその引受けを行う法人課税信託の信託財産に帰せられる外国法人課税所得の支払を受けるときは、この法律により、所得税を納める義務がある。4外国法人は、外国法人課税所得の支払を受けるとき(中略)は、この法律により、所得税を納める義務がある。所得税法5条4項によると、外国法人には所得税法に基づいて所得税の納税義務があるとされます。そして、課税対象となるのは、「外国法人課税所得」です。次に、外国法人課税所得は、少し上の5条2項2号の最後の方に「所得税法161条1項4号から11号まで+13号から16号までに掲げるもの」と書かれています。所得税法161条1項は、いわゆる国内源泉所得の規定ですので、非居住者だけでなく外国法人にも適用されます。つまり、外国法人課税所得とは、所得税法上の国内源泉所得のうちの一部ということになります。以下では、みなし配当を例にして、具体的に外国法人にどのように所得税法を適用するのかを解説します。2.みなし配当は国内源泉所得に該当(1)所得税法25条のみなし配当所得税法25条は、「法人の株主等が当該法人の非適格分割型分割により金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額が当該法人の資本金等の額のうちその交付の基因となった当該法人の株式又は出資に対応する部分の金額を超えるときは、所得税法の規定の適用については、その超える部分の金額に係る金銭その他の資産は、同法24条1項に規定する剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配又は金銭の分配とみなす」と規定しています。ということで、みなし配当は受取配当と「みなす」ことになるので、所得税法25条に規定するみなし配当は、24条と同じ取扱いをうけることになります。(2)所得税法161条1項9号所得税法161条1項は、国内源泉所得の規定ですが、その中の9号を以下に引用してみます。九24条1項(配当所得)に規定する配当等のうち次に掲げるものイ内国法人から受ける24条1項に規定する剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配、金銭の分配又は基金利息ロ国内にある営業所に信託された投資信託(公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託を除く。)又は特定受益証券発行信託の収益の分配この規定には、25条のことが書かれていません。しかし、上述したように、所得税法25条によると、一定の金銭等の交付を受けた場合にはみなし配当になるので、161条1項9号において、わざわざ25条に言及する必要はありません。3.外国法人課税所得をどのように課税するか(1)国内源泉所得の分離課税普段、あまり意識することはありませんが、所得税法178条では、「外国法人に対して課する所得税の課税標準は、その外国法人が支払を受けるべき161条1項4号から11号まで及び13号から16号まで(国内源泉所得)に掲げる国内源泉所得(政令で定めるものを除く。)の金額(169条1号、2号、4号及び5号(分離課税に係る所得税の課税標準)に掲げる国内源泉所得については、これらの規定に定める金額)とする。」と規定しています。ここでいう「分離課税に係る所得税の課税標準」とは何を意味するのでしょうか。国内源泉所得には、分離課税と総合課税の二種類があります。前者はその所得を分離して課税するという意味であり、後者は他の所得を合算して課税標準を決定するということになります。外国法人が受領する配当(みなし配当を含みます、)については、分離課税とされているので、他の所得に関係なく配当のみを分離して課税関係が終了することを意味しています。そこで、所得税法169条1号、2号、4号及び5号は、分離課税に係る所得税の課税標準となるということを意味しています。このうち、配当については169条2号において、その支払額が課税標準とされると規定されています。そして、170条により利子を除いて、税率が20パーセントと規定されています。課税標準と税率が規定されているということは、支払額に20パーセントを乗じた金額を分離して納税する必要があるということです。(2)所得税法212条1項に規定する源泉徴収義務少し複雑な説明になりましたが、みなし配当の支払額の20パーセントの所得税をどのように納付するかを規定しているのが、所得税法212条1項です。具体的には、「外国法人に対し国内において161条1項4号から11号まで若しくは13号から16号までに掲げる国内源泉所得(中略)の支払をする者は、その支払の際、これらの国内源泉所得について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない。」と規定されています。つまり、外国法人に配当を支払う者は、その配当を支払う際に所得税法170条に規定する20パーセントの税率を差し引いた残りの金額を支払い、その20パーセント部分については、支払日の翌月10日までに納付する義務があるのです。配当の支払者には源泉徴収義務があるということになります。まとめ外国法人が国内源泉所得を有している場合、その所得によっては法人税法の適用がなく、所得税法の規定のみで完結することがあるということを説明してきました。所得税法の条文があちこちに飛んで、わかりにくい説明になったかもしれません。一方、源泉徴収の規定は法人税法にはありません。課税されるのが法人だからといって、法人税法だけを見ていても適切な納税ができないことがあることを紹介したいという意味で今回の解説となりました。税法は本当に複雑にできています。まるでパズルを解くようなものですが、それは意外に面白いという意味にもなると筆者は考えています。読者の皆様もお忙しいとは思いますが、お時間のある時にぜひ一度上に引用した所得税法の条文をご覧になっていただければ幸いです。提供:税経システム研究所
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2024/10/02 所得税
相続と所得税 第26回 令和6年分の所得税の定額減税(納税者が死亡した場合)
令和6年分所得税について、定額による所得税額の(特別控除)定額減税が実施される。この令和6年分所得税の定額減税について、減税対象者である納税者が令和6年中に死亡した場合の取扱いをみていく。1.定額減税定額減税とは、納税者と納税者の扶養親族などの人数により算出される定額減税額を所得税額及び個人住民税所得割額から差し引くことにより、所得税及び個人住民税の負担を軽減する特例措置をいう。令和6年中に、納税者が死亡した場合、死亡した納税者についても、定額減税の適用を受けることができる。2.給与所得者の所得税の定額減税(1)給与所得者(扶養控除等申告書を提出しているいわゆる甲欄適用者)の所得税の定額減税の実施の方法給与所得者に対する所得税の定額減税は、扶養控除等申告書を提出している給与所得者(いわゆる甲欄適用者)に対して、給与の支払者のもとで、その給与等を支払う際に、源泉徴収税額から定額減税額を控除する方法で行われる。給与の支払者は、給与所得者の定額減税の実施にあたり、「月次減税事務」と「年調減税事務」の2つの事務を行う。「月次減税事務」は、令和6年6月1日現在、その給与の支払者に扶養控除等申告書を提出している居住者(基準日在職者)について、令和6年6月1日以後に支払う給与等に対する源泉徴収税額からその時点の定額減税額を控除する事務である。令和6年6月1日以後に支払う給与等に対する源泉徴収税額(控除前税額)から控除する定額減税額を「月次減税額」という。「年調減税事務」は、年末調整の対象となる人について、年末調整の際、年末調整時点の定額減税額に基づき、精算を行う事務である。年末調整に年調所得税額から控除する定額減税額を「年調減税額」という。(2)年の途中で死亡により退職した人給与の支払者は、年末調整の対象となる人について、年末調整を行うことになっている。年末調整は、その年の最後の給与の支払をするときに行うため、通常は12月になるが、年の途中で死亡により退職した人は、死亡により退職の時に、死亡した時の現況に基づいて年末調整を行うことになっている。①令和6年5月31日以前に死亡した給与所得者令和6年5月31日以前に死亡により退職した人は、給与の支払者のもとで、月次減税事務および年調減税事務が行われていない。したがって、令和6年5月31日以前に死亡により退職した人は、準確定申告により、それまでの期間に得た給与所得について、所得税額から定額減税額を控除する適用を受ける。定額減税額は、死亡の時の現況における同一生計配偶者の有無および扶養親族の人数により求める。②令和6年6月1日(基準日)以後に死亡した給与所得者令和6年6月1日以後に死亡により退職した人は、給与の支払者のもとで基準日在職者として月次減税額の控除対象者となっており、月次減税事務が行われている。そして、死亡により退職した時に給与支払者のもとで年末調整を行い、その年調所得税額から年調減税額を控除することにより定額減税の精算(年調減税事務)を行われることになる。年調減税額は、死亡の時の現況における同一生計配偶者の有無および扶養親族の人数により求める。給与の支払者は、令和6年6月1日以後の死亡による退職で、年末調整をして作成する源泉徴収票の摘要欄には、下記の事項を記載する。所得税の定額減税控除済額と、控除しきれなかった額の記載→「源泉徴収時所得税減税控除済額〇〇円」、「控除外額〇〇円」合計所得金額が1,000万円超である居住者の同一生計配偶者(非控除対象配偶者)分を年調減税額の計算に含めた場合の記載→「源泉徴収時所得税減税控除済額〇〇円」、「控除外額〇〇円」「非控除対象配偶者減税有」非控除対象配偶者が障害者に該当する場合の記載→「源泉徴収時所得税減税控除済額〇〇円」、「控除外額〇〇円」「減税有〇〇〇〇(同配)」3.事業所得者や不動産所得者等の所得税の定額減税(1)事業所得者や不動産所得者等の所得税の定額減税の実施の方法事業所得者や不動産所得者等は、原則として、令和6年分の所得税の確定申告(令和7年1月以降)の際に、所得税額から定額減税額を控除する(注)。(注)予定納税の対象となる人は、確定申告での控除を待たず令和6年6月以後に通知される令和6年分の所得税に係る予定納税額から本人分に係る定額減税額に相当する金額が控除される。また同一生計配偶者又は扶養親族に係る定額減税額に相当する金額は、予定納税額の減額申請手続きにより予定納税額から控除される。この手続きにより減額されるべき予定納税特別控除額(本人及び同一生計配偶者、扶養親族に係る定額減税額に相当する金額)のうち、第1期分の予定納税額から控除しても控除しきれない部分の金額は、第2期分の予定納税額から控除される。(2)年の途中で死亡した事業所得者や不動産所得者等年の中途で死亡した人の場合は、相続人(包括受遺者を含む。以下「相続人等」という)が、1月1日から死亡した日までに確定した所得金額および税額を計算して、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に申告と納税をしなければならない。これを準確定申告という。準確定申告においては、同一生計配偶者の有無および扶養親族の人数などは、納税者が死亡した時の現況により判定する。①令和6年5月31日以前に所得税の準確定申告書を提出している場合定額減税は、令和6年6月1日以後に提出する令和6年分の確定申告書について適用されるので、令和6年5月31日以前に準確定申告書を提出する場合は、適用されない。そこで、令和6年5月31日以前にすでに、相続人等が準確定申告書を提出している場合には、更正の請求書を提出する。令和6年6月1日から令和11年6月1日(月)までに更正の請求を行うことにより、定額減税の適用を受けることができる。なお、既に提出した準確定申告書に係る法定申告期限が到来していない場合には、訂正申告書の提出により定額減税の適用を受けることができる。②令和6年6月1日(基準日)以後に所得税の準確定申告書を提出する場合令和6年6月1日以後に提出する相続人等が行う令和6年分の準確定申告書については、原則として、死亡した時の現況による同一生計配偶者の有無および扶養親族の人数により定額減税額を求めて、準確定申告において、定額減税の適用を受ける。【参考文献】国税庁HP提供:税経システム研究所
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2024/09/25 消費税
消費税の納税義務判定のポイント解説(第22回) 新設法人の納税義務の免除の特例①
1.新設法人の納税義務の免除の特例とはインボイスの登録をしていない事業者は、基準期間における課税売上高や特定期間における課税売上高等が1,000万円以下である場合には、他の判定を経て免税事業者となります。しかし、事業者が設立後、間もない法人である場合には基準期間や特定期間が存在しないことから、これらの期間の売上高等により納税義務を判定することができません。そこで、法人の資本金を用いて納税義務を判定する「新設法人の納税義務の免除の特例」規定が設けられています。事業者免税点制度の全体像は、消費税の納税義務判定のポイント解説(第1回)「事業者免税点制度とは」を参照してください。この特例は、基準期間のない事業年度の期首資本金が1,000万円以上の新設法人(社会福祉法人を除きます。)について、納税義務を免除しないとする特例です(消法12の2①)。特例の適用を受けるのは法人のみで、個人事業者はこの特例の判定は行いません。また、この特例の判定は基準期間のない事業年度についてのみ行うため、一般的には、法人の設立1期目、2期目が判定の対象となります。ここからは、【図1】のX3年4月1日に資本金1,000万円で設立した法人の具体例を用いて、各事業年度の納税義務の判定を解説します。この法人は3月決算で「適格請求書発行事業者の登録申請書」及び「課税事業者選択届出書」は提出しておらず、期中での資本金の増減はないことを前提とします。2.設立1期目の判定設立1期目であるX4年3月期は、基準期間、特定期間のいずれも存在しません。課税事業者選択届出書も提出してないため、「新設法人の納税義務の免除の特例」により判定を行います。設立1期目の期首資本金は、設立時の資本金1,000万円となります。これは特例が適用される「1,000万円以上」に該当するため、特例の適用により課税事業者となります。3.設立2期目の判定設立2期目であるX5年3月期は、基準期間は存在しませんが、特定期間(X3年4月1日からX3年9月30日までの期間)が存在します。したがって、まず特定期間における課税売上高等により納税義務の判定を行います。特定期間の詳細については、消費税の納税義務判定のポイント解説(第10回・第11回)「特定期間における課税売上高による納税義務の免除の特例①②」を参照してください。特定期間の判定により課税事業者にならない場合には、次に「新設法人の納税義務の免除の特例」の判定を行います。設立1期目の期中に資本金の増減がないため、設立2期目の期首資本金は、設立時の資本金1,000万円となります。これは特例が適用される「1,000万円以上」に該当するため、特例の適用により課税事業者となります。4.設立3期目の判定設立3期目であるX6年3月期は、基準期間(X3年4月1日からX4年3月31日までの期間)・特定期間(X4年4月1日からX4年9月30日までの期間)ともに存在します。したがって、まずはそれぞれの期間における課税売上高等により納税義務の判定を行います。基準期間・特定期間の判定により課税事業者とならない場合でも、X6年3月期は「新設法人の納税義務の免除の特例」の判定は行いません。この特例は、基準期間のない事業年度についてのみ適用されるものであるため、【図4】の設立3期目のように基準期間が存在する事業年度においてはこの特例の判定は行いません。基準期間・特定期間の判定により課税事業者とならない場合には、次の「高額特定資産の取得等を行った場合の納税義務の免除の特例」の判定に進むことになります。提供:税経システム研究所
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