税務情報レポート
MJS税経システム研究所・税務システム研究会の顧問・客員研究員による租税を中心とした多彩な研究成果および最新の税制改正および制度や動向、判例研究等に関するリポートです。
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2025/12/03 相続・贈与税
相続税の重要テーマポイント解説(相続財産取得の有無による贈与加算)
【ポイント】生前に贈与を受けた財産の価額を相続税の課税価格に加算しますが、暦年課税と相続時精算課税の加算の仕方が異なることに留意します。【解説】1贈与財産価額の加算相続財産とは、相続開始時に被相続人が所有していた財産だけではありません。民法には特別受益という概念があります。遺留分侵害額請求の計算において、被相続人から生前に贈与を受けた財産についても相続財産に加算して計算します。これは生前の不当な財産分散の抑止のためだと考えられます。分与を受けなかった相続人の保護でもあります。また、加算する場合、贈与を受けた時の価額ではなく、相続開始時の価額に引き直して計算します。2相続税法の取扱い被相続人から生前に贈与を受け、受贈金額が110万円を超えた場合、暦年課税の贈与税の申告と納税をします。贈与を受けた財産の価額をとめどもなく加算することは、実務的に大変困難です。そこで、相続開始前7年以内(以下「加算対象期間」といいます。)の贈与財産の価額(以下「加算対象贈与財産」といいます。)及び相続時精算課税の適用を受けた贈与財産の価額を加算することにしています。加算するのは、被災した財産の特例(措法70の3の3)を除き、贈与を受けた時の金額です。相続税法における贈与財産の加算は、もちろん民法の特別受益の概念を引き継いだものでしょう。また、税務の特殊性として相続税回避を狙った贈与が一般的であることから、相続税贈与税の一体課税の一環として加算していると考えられます。とりわけ加算期間を延伸したことが証左となっています。3暦年課税の取扱い(1)加算する者相続税法第19条第1項の規定により、加算対象贈与財産の価額を加算するのは「相続又は遺贈(以下「相続等」といいます。)により財産を取得した者」です。つまり、相続財産を取得しない相続人又は受遺者は、生前いくら贈与を受けていたとしても相続税の対象にならず、加算対象贈与財産の価額を加算しません。相続放棄をした相続人についても同様加算する必要はありません(相基通19-3)。相続放棄したとしても、例えば生命保険金のようなみなし相続財産を取得している場合、相続財産を取得したことになるので加算の対象となることに注意してください。(2)贈与期間生前の贈与を加算する場合の贈与を受けた期間は2024年(令和6年)1月1日以後の相続開始から、相続開始前7年以内です。なお、2023年(令和5年)12月31日以前は相続開始前3年以内の贈与が加算の対象でした(相法19①)。加算対象期間とは、原則として、相続開始日から遡って7年前の応当日をいいますが、経過措置があります(相基通19-2)。(3)加算対象贈与財産の価額加算対象贈与財産は、贈与を受けた時の金額です。民法の規定による相続開始時の時価を加算することは、税務においては煩雑すぎることから贈与時の価額を加算します。ただし、2024年1月1日以後については、相続開始前3年を超え7年以内の贈与は、その合計額から100万円を控除した金額が加算されます。これは、些少な贈与金額まで拾い上げて加算することの煩雑さを避けるためにできた規定です。相続開始前3年以内の贈与については、控除額の規定はありませんので、少額贈与であっても全額加算されます。4相続時精算課税の取扱い相続時精算課税とは受贈財産の価額を「相続の時に精算する」制度です。そのため相続時精算課税の適用を受けている場合、相続財産の取得の有無にかかわらず受贈財産の価額を、特定贈与者(相続時精算課税選択届出書を提出した受贈者に係る贈与者のことをいいます。以下同じ。)の相続税の課税価格に加算します。相続財産を取得しなかった者についての財産は「みなし相続財産」として相続税の課税対象となります。相続等により財産を取得しなかった場合とは相続の放棄も該当します。2024年1月1日以後の贈与については、基礎控除が創設されたことにより、相続税の課税価格の加算は、次の規定となっています。財産の取得者相続税の課税価格条文相続等により財産を取得した相続時精算課税適用者特定贈与者から相続等により財産を取得した相続時精算課税適用者は、特定贈与者からの贈与により取得した財産で第21条の9第3項の規定の適用を受けるものの価額から第21条の11の2第1項の規定による控除(基礎控除)をした残額を相続税の課税価格に加算した価額をもって、相続税の課税価格とする。相法21の15①相基通21の15-2相基通21の15-2の2相続等により財産を取得しなかった相続時精算課税適用者特定贈与者から相続等により財産を取得しなかった相続時精算課税適用者は、特定贈与者からの贈与により取得した財産で第21条の9第3項の規定の適用を受けるものを特定贈与者から相続(相続時精算課税適用者が特定贈与者の相続人以外の者である場合には、遺贈)により取得したものとみなして第1節の規定を適用する。特定贈与者から相続又は遺贈により取得したものとみなされた財産に係る相続時精算課税の規定の適用については、次に定めるところによる。1財産の価額は、贈与の時における価額とする。2財産の価額から基礎控除をした残額を相続税の課税価格に算入する。相続時精算課税に係る基礎控除をした残額を加算する(相基通21の16-1他)。相法21の16①相基通21の16-1(注)5加算のまとめ課税方式相続財産の取得の有無相続財産に加算の有無2024年以後暦年課税取得あり加算する相続開始前3年を超え前7年以内については、合計額から100万円の控除あり取得無し加算しない-相続時精算課税取得あり加算する各年分の贈与について110万円の基礎控除あり取得無し加算する《贈与税の実務判断》暦年課税では、相続財産を取得しなかった場合は相続財産に贈与財産は加算しない。しかし、相続時精算課税を適用した場合、特別控除額が大きいため相続時点で十分財産の贈与を受けたとしても、相続財産を取得しないケースも出てくる可能性がある。このため、相続財産を取得しない場合でも相続税の納税義務が生じるとしたものである。加算しないでよいとするとこの特例の存在意義がなくなる。富裕層が精算課税を適用すると必ず相続税の納税義務者となってしまう。相続税対策としては不都合が生じる。提供:税経システム研究所
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2025/11/26 相続・贈与税財産評価
貸家建付地の評価と小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等における「一時的に賃貸されていなかった家屋(空室)の敷地」に対する判定の相違
1貸家建付地の評価(1)貸家建付地の評価の考え方家屋の借家人は家屋に対する権利を有するほか、その家屋の敷地についても、家屋の賃借権に基づいて、家屋の利用の範囲内で支配権を有していると認められ、逆にその範囲において地主は利用についての受忍義務を負うことになっています。そのため、貸主が借家人の有する支配権を消滅させるためには、いわゆる立退料の支払いを要する場合もあり、また、その支配権が付着したままの状態でその宅地を譲渡する場合にはその支配権が付着していないとした場合における価額より低い価額でしか譲渡できないことになります。そこで、貸家(借家権の目的となっている家屋)の敷地である貸家建付地の価額は、その宅地の自用地としての価額から、その価額にその宅地に係る借地権割合とその貸家に係る借家権割合との相乗積を乗じて計算した価額を控除した価額によって評価するのが相当であると考えられています。(2)貸家建付地の評価貸家(評基通94≪借家権の評価≫に定める借家権の目的となっている家屋)の敷地の用に供されている宅地(以下「貸家建付地」とする)の価額は、次の算式により計算した価額によって評価します(評基通26)。上記の算式における「賃貸割合」は、その貸家に係る各独立部分がある場合に、その各独立部分の賃貸の状況に基づいて、次の算式により計算した割合によります。(3)課税時期に「一時的に賃貸されていなかったと認められる家屋の敷地」について貸家建付地として評価する宅地は、課税時期において現実に貸家の用に供されていたか否かにより判定すべきですが、課税時期において、たまたま一時的に空室になった場合についてまで硬直的な判断を行うことは、実情に即したものとはいえないものと考えられることから、空室の敷地について次のような判定基準を設けています。貸家建付地の評価において、課税時期に「一時的に賃貸されていなかったと認められる家屋の敷地」とは、次の①から④のいずれにも該当する場合をいいます(資産評価企画官情報第2号平成11年7月29日、評基通26(注)2)。したがって、次の①から④のいずれか一つでも満たさなかった場合には、貸家建付地の評価が認められず、その宅地は自用地として評価されます。2小規模宅地等の減額特例における貸付事業用宅地等の判定(1)小規模宅地等の減額特例のあらまし相続人等が、相続等によって取得した財産のうち、その相続開始の直前において被相続人等の事業の用(貸付事業用宅地等が含まれる)又は居住の用に供されていた宅地等のうち一定の宅地等がある場合には、その宅地等のうち一定の面積までの部分(貸付事業用宅地等は200㎡が限度)については、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、減額される割合等の区分ごと割合(貸付事業用宅地等は50%)が減額されます(措法69の4)。(2)貸付事業用宅地等の範囲貸付事業用宅地とは、被相続人等の貸付事業(不動産貸付業その他政令で定めるものに限る)の用に供されていた宅地等で、一定の要件を満たす宅地等について相続人等が相続等により取得したもの(相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等などを除く)をいいます(措法69の4③四)。(3)貸付事業用宅地等の判定(原則)相続人等が相続等により取得した宅地等について、「被相続人等の貸付事業の用に供されている宅地等」(措法69の4③四)であるか否かの判定は、課税時期において、その宅地等が現実に貸付事業の用に供されていたか否かにより判定します。(4)上記(3)の緩和措置課税時期において、従前から行っていた貸付事業がたまたま一時的に中断されたに過ぎない場合にまで、前記(3)と同様の判定を行うことは、実情に即したものとはいえないものと考えられることから、措置法通達69の4-24の2では、被相続人等の貸付事業の用に供されている宅地等(措法69の4③四)には、貸付事業に係る建物等のうち相続開始時において一時的に賃貸されていなかったと認められる部分がある場合におけるその部分に係る宅地等の部分が含まれることを留意的に明らかにしています。(5)共同住宅の一部が空室となっていた場合令和3年4月1日付で公表された「資産課税課情報(第9号国税庁資産課税課(事例6)共同住宅の一部が空室となっていた場合)では、19頁(参考)で次のような記述があります。被相続人等の事業の用に供されていた宅地等とは、相続開始の直前において、被相続人等の事業の用に供されていた宅地等で、その宅地等のうちに被相続人等の事業の用に供されていた宅地等以外の用に供されていた部分があるときは、その被相続人等の事業の用に供されていた部分に限られる(措令40の2④)。例えば、相続開始の直前に空室となったアパートの1室については、相続開始時において継続的に貸付事業の用に供していたものと取り扱うことができるか疑義が生ずるところであるが、空室となった直後から不動産業者を通じて新規の入居者を募集しているなど、いつでも入居可能な状態に空室を管理している場合は相続開始時においても被相続人の貸付事業の用に供されているものと認められ、また、申告期限においても相続開始時と同様の状況にあれば被相続人の貸付事業は継続されているものと認められる。したがって、そのような場合は、空室部分に対応する敷地部分も含めて、アパートの敷地全部が貸付事業用宅地等に該当することとなる。3貸家建付地の評価と貸付事業用宅地等の減額特例における空室判定の比較「一時的に賃貸されていなかったと認められる家屋の敷地」の判定について、貸家建付地の評価と貸付事業用宅地等の減額特例を比較すると、上記1(3)および2(3)・(4)・(5)から下表のようになります。貸家建付地の評価貸付事業用宅地等の減額特例①各独立部分が課税時期前に継続的に賃貸されてきたものであること。①同左②賃借人の退去後速やかに新たな賃借人の募集が行われ、空室の期間中、他の用途に供されていないこと。②同左③賃貸されていない期間が、課税時期の前後の例えば1か月程度であるなど一時的な期間であること③賃貸されていない期間について1か月程度の言及なし。④課税時期後の賃貸が一時的なものではないこと。④同左4実務上の対応(1)貸家建付地の評価貸付事業用宅地等における「空室期間が1か月程度であるなど一時的な期間であること」について、納税者の主張が認められた裁決もありますが(平成20年6月12日:取消し)、ほとんどの争いで納税者の主張が退けられています(平成28年12月7日:棄却他)。実務上は、空室期間が「課税時期の前後の1か月程度」を超えた場合には、空室部分の家屋の敷地は貸家建付地の評価が認められないと考えるべきと思われます。(2)貸付事業用宅地等の減額特例貸付事業用宅地等の減額特例では課税時期に賃貸されていることを原則としつつ緩和措置を設けており、その緩和措置では1か月程度の期間制限に言及していません。そのため、空室期間が1か月程度を超えて数か月が経過したとしても貸付事業用宅地等の減額特例が適用されるものと想定されます。しかし、空室期間の言及がないとしても、相続税の申告期限(10か月)まで空室であったとすれば、空室期間が長期化していることから、貸付事業用宅地等の減額特例の適用は認められないと考えるべきと思われます。提供:税経システム研究所
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2025/11/21 所得税税制改正
大学生世代親族の控除について~特定扶養親族・特定親族・源泉控除対象親族の整理~
令和7年度税制改正により、一定の大学生世代の親族に対する「特定親族特別控除」が創設されました。この世代の一定の扶養親族については、昨年までは扶養控除の中の「特定扶養親族」として63万円の控除がありましたが、今回は、この「特定扶養親族」と創設された「特定親族」の範囲の違いと「特定親族特別控除」の概要、また、やはり改正された源泉徴収事務に係る「源泉控除対象親族」の範囲も踏まえて、大学生世代親族の控除について整理をしていきたいと思います。1特定扶養親族の範囲(1)控除対象扶養親族控除対象扶養親族とは、生計を一にしている合計所得金額58万円(改正前は48万円)以下の親族のうち、年齢が16歳以上の者をいいます(所法2①三十四・三十四の二)。(2)特定扶養親族特定扶養親族とは、控除対象扶養親族のうち、年齢が19歳以上23歳未満の親族等をいい(所法2①三十四の三)、控除対象扶養親族に該当していることを前提として、その親族の合計所得金額の要件が58万円に引き上げられました(改正前48万円)。特定扶養親族を有する場合は、63万円の控除を受けることができます(所法84①かっこ書き)。この63万円の控除額については改正前と変更はありません。2特定親族の範囲特定親族とは、生計を一にする年齢が19歳以上23歳未満であり、合計所得金額が123万円(給与収入188万円に相当)以下の親族で控除対象扶養親族に該当しない者(合計所得金額が58万円超の者)をいいます(所法84の2①)。3特定扶養親族と特定親族の相違特定扶養親族と特定親族とも、大学生世代の親族の年齢はいずれも19歳以上23歳未満ですが、その親族の合計所得金額が58万円以下であるか、58万円超123万円以下であるかの相違があります。4特定親族特別控除の創設居住者が特定親族を有する場合には、特定親族特別控除として、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から、その特定親族1人につき、その特定親族の合計所得金額に応じ、次のとおりの控除額を控除することとされました(所法84の2①③)。【国税庁資料】5特定扶養控除と特定親族特別控除の関係「特定扶養親族と特定親族の相違」の関係を示すと、次の図のようになります。大学生世代の親族の合計所得金額が58万円以下であれば(特定扶養親族の範囲に含まれます)、扶養控除として63万円が控除され、合計所得金額が58万円超123万円以下であれば(特定扶養親族の範囲から除かれます)、特定親族として63万円から3万円までの特別控除を受けることができます。【国税庁資料】6源泉控除対象親族の範囲(1)源泉徴収税額表の改正令和8年1月1日以後に支払うべき給与については、「令和8年分源泉徴収税額表」を使用して源泉徴収税額を求めることになります。なお、基礎控除額58万円に、37万円・30万円・10万円又は5万円が加算される特例については、令和8年分以後の「源泉徴収税額表」には織り込まれておらず、これらの特例については、年末調整又は確定申告の際に適用を受けることになります。(2)扶養親族等の数の算定方法の変更各月(日)の給与に係る源泉徴収税額は、源泉徴収税額表によって求めますが、その税額は、従業員から提出を受けた扶養控除等申告書等に記載された扶養親族等の数によって異なります。令和7年分までの源泉徴収事務においては、「源泉控除対象配偶者」及び「控除対象扶養親族」の数などを基に扶養親族等の数を算定していましたが、令和8年分以後においては、「源泉控除対象配偶者」及び「源泉控除対象親族」の数などを基に扶養親族等の数を算定することになりました。(3)源泉控除対象親族の範囲源泉控除対象親族とは、次の①又は②のいずれかに該当する者をいいます。控除対象扶養親族居住者と生計を一にする親族のうち、年齢19歳以上23歳未満で合計所得金額が58万円超100万円以下の者したがって、大学生世代の親族でその年の給与収入が123万円超165万円以下と見込まれる者は、源泉徴収税額表における扶養親族等に該当することになります。【国税庁資料】提供:税経システム研究所
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2025/11/19 法人税
自社株式承継とみなし役員への該当のタイミングに注意
1.はじめに今回とりあげるのは、会社の後継者である自分の子供が、まだ役員に就任していないのにも関わらず税務上は役員とみなされてしまうケースをみていきます。特に後継者に株式の承継を進めていきながら、徐々に職制や権限を上昇させていくような場合、気づかないうちにこの状況になってしまうこともありますので注意したいところです。2.事案甲社の創業者である代表取締役社長Aには2人の子供(長男Bと次男C)がいます。この2人については大学卒業後に上場企業での勤務を経て、数年前より甲社に入社しています。将来的にはこの2人に会社を継いでもらう予定であり、Aが保有する甲社株式についても毎年2人に少しずつ承継を進めています。2人については、役員にはまだ就任しておらず、他の従業員に比べて速いペースで昇格させていますが、支給する給与と賞与については、同じ職制の他の従業員と同じ基準で支給していますので、給与面で特別待遇をしているようなことはありません。今般、税務調査で長男Bについては、みなし役員に該当するため、Bへの給与・賞与の支給は役員報酬としての取扱いとなるとの指摘を受けてしまいました。■長男Bについて年齢:40歳経営企画部長甲社株式保有割合7%人事・採用面や会社の経営企画の最終決定をしている等社内における重要事項の決裁を行っている■次男Cについて年齢35歳経理部課長甲社株式保有割合6%経営上の主要な決定には関与しておらず、経理課長として一定の責任を持ちながら通常の経理業務を行っている。3.みなし役員の判定(1)対象者会社法上の役員は「取締役」「監査役」「会計参与」等となりますが、税務上は、一定の要件を満たす者について、役員とみなして、税務上の取扱い規定が適用されることになります。(「みなし役員」と言われています)このみなし役員は下記①と②の2つに大別されます。①法人の使用人(職制上使用人としての地位のみを有する者に限ります。)以外の者で、その法人の経営に従事しているもの【法人の使用人以外の者】取締役または理事となっていない総裁、副総裁、会長、副会長、理事長、副理事長、組合長等合名会社、合資会社および合同会社の業務執行社員人格のない社団等の代表者または管理人相談役、顧問などで、その法人内における地位、職務等からみて実質的に法人の経営に従事していると認められるもの②同族会社の使用人(職制上使用人としての地位のみを有する者に限ります。)のうち下記の持株要件の全てを満たすもので、法人の経営に従事しているもの【持株要件】その会社の株主グループをその所有割合の大きいものから順に並べた場合に、その使用人が所有割合50%を超える第一順位の株主グループに属しているか、または第一順位と第二順位の株主グループの所有割合を合計したときに初めて50%を超える場合のこれらの株主グループに属しているか、あるいは第一順位から第三順位までの株主グループの所有割合を合計したときに初めて50%を超える場合のこれらの株主グループに属していること。その使用人の属する株主グループの所有割合が10%を超えていること。その使用人(その配偶者およびこれらの者の所有割合が50%を超える場合における他の会社を含みます。)の所有割合が5%を超えていること。(2)法人の経営に従事しているものこのみなし役員の判定は、上記(1)①、②のいずれにおいても、「法人の経営に従事しているもの」が要件となっています。「法人の経営に従事しているもの」については、明確に定めはありませんが、法人の主要な業務執行の意志決定に参画することをいうとされており、具体的には経営方針に参画して、下記のような事項についての計画・決定に自己の意志を表明し反映させるような場合が該当すると考えられています。人事・給与販売・仕入・製造・重要な経営計画資金調達・設備投資4.今回の事案について長男B、次男Cともに職制上の使用人としての地位のみを有していますので、3(1)②の区分での判定になります。持株要件の判定では、同族関係者で100%保有していますので持株要件のイ)、ロ)の要件を満たし、BとCともに本人で5%超を保有していますので、持株要件のハ)の要件も満たします。Bについては、人事採用や経営企画面での最終決定をおこなっている等経営上の重要事項の決定をおこなっていますので、「法人の経営に従事しているもの」の要件に十分該当し「みなし役員」に該当するものと考えられます。一方、Cについては、持株要件は満たしていますが、通常の経理業務のみをおこなっているため「法人の経営に従事しているもの」にはあたらないと考えられますので「みなし役員」には該当しないものと考えられます。みなし役員へ該当する場合、その該当する者への給与は税務上、役員報酬としての取扱いになってしまいます。毎月の給与については「定期同額給与」、賞与については「事前確定届出給与」に該当しない場合は、基本的に損金不算入となってしまうため、厳しい状況になる可能性があります。本件のように、後継者候補の親族が会社に入社し、自社株式の承継を進めながら、職制も上昇していくような場合は、このみなし役員の判定には常に気をつけていく必要があります。提供:税経システム研究所
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2025/11/12 消費税
外国人旅行者向け消費税免税制度の見直し③ 「リファンド方式」における免税対象物品の範囲等と免税販売手続等
1.はじめに外国人旅行者向け消費税免税制度については、不正利用を排除し、輸出物品販売場を経営する事業者(以下「免税店」といいます。)が不正の排除のために負担を負うことのない制度とするため、令和8年11月1日以後の免税対象物品の譲渡については、出国時に持出しが確認された場合に免税販売が成立する「リファンド方式」に見直されます。今回は、リファンド方式における免税対象物品の範囲等の見直しと免税販売手続等の見直しについて見ていきます。2.免税対象物品の範囲等の見直し(1)免税対象物品の範囲等免税対象物品の範囲等については、図表1のとおり見直されます(消法8①、消令18④、「輸出物品販売場制度に関するQ&A(リファンド方式・概要編)」(以下「リファンド方式Q&A」といいます。)問4)。図表1免税対象物品の範囲等の見直し出典:国税庁「【令和7年度税制改正】輸出物品販売場制度は令和8年11月からリファンド方式に移行します」(2)免税対象物品上記(1)の免税対象物品とは、次のア~ウ以外の物品をいいます(消法8①、消規6)。金及び白金の地金金貨及び白金貨消費税が非課税とされる物品3.免税販売手続等の見直し(1)免税購入対象者免税店における免税販売は、外国人旅行者等の「免税購入対象者」に対する販売に限られます(消法8①、消令18①)。この「免税購入対象者」に関する改正はなく、図表2のとおりです(リファンド方式Q&A問3)。図表2免税購入対象者国籍免税購入対象者外国籍非居住者のうち、次のア~ウのいずれかに該当する者「短期滞在」、「外交」、「公用」の在留資格をもって在留する者寄港地上陸許可、船舶観光上陸許可、通過上陸許可、乗員上陸許可、緊急上陸許可、遭難による上陸許可を受けて在留する者合衆国軍隊の構成員等日本国籍非居住者であって、国内以外の地域に引き続き2年以上住所又は居所を有する者(2)免税購入対象者の確認方法等の見直し免税店は、免税購入対象者本人から旅券等の提示を受けて購入者が免税購入対象者であることを確認し、その旅券等に記載された情報の提供を受ける必要があります。この確認する際の提示書類等について、図表3のとおり見直されます(消令18②)。図表3免税購入対象者の確認方法等(下線部分が主な変更点です)出典:国税庁「【令和7年度税制改正】輸出物品販売場制度は令和8年11月からリファンド方式に移行します」(3)購入記録情報として提供する項目の見直し単価100万円(税抜価額)以上の商品を販売した場合、商品の属性に応じ、次のア~イの事項を組み合わせて「免税対象物品を特定するに足りる事項(商品情報詳細)」を提供することとされています(消法8②、消令18⑥、消規6の4①、図表4参照)。免税対象物品の具体的な名称、ブランド名、型番号、形状若しくは色彩等の特徴又は鑑定書(鑑別書)若しくは保証書付きである旨シリアル番号の付された腕時計のような商品は、上記の事項に加えそのシリアル番号図表4商品情報詳細の設定例出典:国税庁「【令和7年度税制改正】輸出物品販売場制度は令和8年11月からリファンド方式に移行します」(4)直送制度の見直し免税購入対象者が免税店で運送契約を締結し、その場で免税対象物品を運送事業者へ引き渡す免税販売方式(いわゆる直送制度)については、現行制度に代えて消費税法第7条(輸出免税制度)により免税の適用を受けることができることとされます。そのため、リファンド方式移行後に直送制度を適用する場合、免税店における一連の免税販売手続や購入記録情報の提供は不要となります(リファンド方式Q&A問22)。なお、免税店で購入した免税対象物品の別送の取扱いは、令和7年3月31日をもって廃止されました(リファンド方式Q&A問23)。図表5リファンド方式における別送と直送の適用関係の違い出典:国税庁「リファンド方式Q&A問23」提供:税経システム研究所
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2025/11/05 法人税
口頭による債権放棄と貸倒損失の計上
今回は、口頭による債権放棄をした場合の法人税基本通達9-6-1の適用を認めなかった裁決を題材に確認・検討してみることにする。1.法人税基本通達の確認法人税基本通達9-6-1は、貸倒れとして損金の額に算入できる事実と金額について規定しており、同通達(4)では、次のとおり、法人の有する金銭債権について、「債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合」をその事実とし、その金銭債権の額のうち、「その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額」を損金算入できる金額としている。(4)債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額2.国税不服審判所裁決この事案(注1)では、債権者は債務者に対する債権を放棄する意思を有していたと認められ、これに沿った会計処理も債権者及び債務者において行われていたが、書面による債務免除がされていないとして法人税基本通達9-6-1(4)の適用が否定された。この裁決書の概要は次のとおりです。1事実(4)基礎事実以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いはなく、国税不服審判所(以下「審判所」という。)の調査の結果によってもその事実が認められる。リ請求人は、債務者に対し有していた設備の賃貸料に係る売掛金の全額4,800,000円(以下「本件債権」という。)を放棄したとして、同額を雑損失として平成24年12月31日付で計上した(以下、請求人がしたとする本件債権の放棄を「本件債権放棄」という。)。ヌ債務者は、請求人が上記リの本件債権放棄をしたとして計上した本件債権放棄の額に相当する金額を債務免除益として平成24年12月31日付で計上し、これを平成24年分の所得税に係る事業所得の金額の計算上、収入金額に含めて同年分の所得税の確定申告をした。3判断(2)争点2(請求人が本件債権放棄をしたとして計上した雑損失の金額は、貸倒損失として損金の額に算入されるか否か。)についてイ法令解釈等(イ)・・・また、法人税基本通達9-6-1は、法律上金銭債権が消滅した場合の貸倒れの基準を定め、同通達の(4)は、その基準の一つとして、書面による債権放棄の場合における金銭債権の貸倒れに係る損失の額を当該事業年度の損金の額に算入するためには、法人の有する金銭債権について、①債務者の債務超過の状態が相当期間継続し(債務超過状態継続の要件)、②その金銭債権の弁済を受けることができないと認められること(回収不能の要件)のいずれの要件も満たすことが必要である旨定めているところ、この取扱いは、書面による債権放棄が、その債権が回収不能となったことにより行われた場合には、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額を貸倒れとして損金の額に算入することを明らかにしたものであり、当審判所においても相当であると認められる。(ロ)そして、回収不能であるか否かの判断は、債務者の返済能力という不可視的事由に関わるから、その判断の公正を期するためには客観的かつ外観的事実に基づいて行われることを要するというべきである。(ハ)また、回収不能とはいえない債権を放棄した場合、その実質は、対価なくして経済的価値を有する債権を債権者が任意に処分したことになり、他方、債務者にとっては、経済的利益の供与を無償で受けたといえるのであるから、その行為について通常の経済取引として是認できる合理的な理由が存在しない限り、これを寄附金として扱うべきであると解するのが相当である。ハ当てはめ及び当事者の主張の当否(イ)本件債権を放棄した事実の有無債権放棄は債権者の単独行為であり、かつ、その意思表示は何ら方式が限定されないところ、請求人は、本件事業年度末頃において債務者に対する本件債権を放棄する意思を有していたと認められること、また、これに沿った会計処理が請求人及び債務者において行われたことからすると、請求人は本件債権を放棄する意思表示をしたと認められ、請求人が本件事業年度末において本件債権を放棄した事実が認められる。(ロ)本件債権放棄による損失の額の貸倒損失に該当するか否か債権放棄により法律上金銭債権が消滅した場合の貸倒れの基準の一つを示したのが法人税基本通達9-6-1の(4)であるところ、本件債権の放棄が行われた本件事業年度末の前後における債務者の収入の状況は、・・・のとおりであり、本件事業年度中の債務者からの売掛金の回収状況も、・・・のとおりであるから、本件債権の全額が回収不能とは認められない。また、・・・のとおり、本件債権を放棄した事実は認められるが、本件債権放棄が書面により行われたことを示す証拠がないことからすれば、債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額はないのであるから、本件債権放棄は法人税基本通達の(4)に掲げる事実に該当しない。・・・・・・・・・・・・(略)・・・・・・・・・・・・・・・・・・したがって、本件債権放棄は法人税基本通達9-6-1に定める法律上の貸倒れに該当せず、請求人が本件債権放棄をしたとして計上した雑損失の金額は、貸倒損失として損金の額に算入されない。そして、本件債権放棄は、上記のとおり、回収不能とはいえない債権を放棄したものであるから、対価なくして経済的価値を有する債権を債権者が任意に処分したものであり、かつ、その行為について通常の経済取引として是認できる合理的な理由が存在するとは認められないから、請求人が本件債権放棄をしたとして計上した雑損失の金額は、寄附金の額に該当する。(下線は筆者による)3.「書面」による債務免除について「書面」による債務免除とは、必ずしも当事者間の協議により締結された契約による必要はなく、債権者から債務者に対して書面により債務免除の事実を明らかにしていれば足りるとされている(注2)(注3)。しかし、債務免除は、民法において債権者の一方的な意思表示(単独行為)によってされ、かつ、その意思表示の方式は限定されない(民法519(注4))ことから、口頭による債務免除の場合も適用が認められるのではないかと考えられるが、法人税基本通達9-6-1(4)の適用に当たっては、客観的、外観的事実に基づいて行われたことを要する(注5)として、債務免除を書面により行うことを求めているので、口頭による場合のように債務免除を行ったことを示す証拠がない場合には、同通達の適用が認められないとされている。4.検討等この事案の場合、審判所は法人税基本通達9-6-1(4)の適用について、通達の文言を忠実に読み、「本件債権を放棄した事実は認められるが、本件債権放棄が書面により行われたことを示す証拠がないことからすれば、債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額はないのであるから、本件債権放棄は法人税基本通達の(4)に掲げる事実に該当しない。」、「本件債権放棄は法人税基本通達9-6-1に定める法律上の貸倒れに該当せず、請求人が本件債権放棄をしたとして計上した雑損失の金額は、貸倒損失として損金の額に算入されない。」として、債権放棄の事実を認めつつも、書面により明らかにされた債務免除額がないことから、同通達の適用を否定している。確かに、「回収不能であるか否かの判断は、債務者の返済能力という不可視的事由に関わるから、その判断の公正を期するためには客観的かつ外観的事実に基づいて行われることを要する」ことから、書面によることを求めていると考えることができる。この事案の場合、請求人が書面による免除を行ったかは確認できていないものの、債務免除は、民法において債権者の一方的な意思表示(単独行為)によってされ、かつ、その意思表示の方式は限定されていない(民法519)。また、債務免除の効力は、免除する意思が示された通知が相手方に到達することが必要とされている(民法97①)。本件債権放棄については、上記裁決1(4)リ及びヌのとおり、請求人は本件債権を放棄したとして、平成24年12月31日付で貸倒損失を計上しており、また、債務者も同日に債務免除益を計上していることから、請求人から債務者に債務免除の意思表示がされ、その通知が債務者に到達していると考えるのが素直な判断と考える。加えて、請求人の代表社員が債務者自身である事実からもこのように考えることに異論はないと考える。そうすると、審判所の本件債権放棄が書面により行われたことを示す証拠がないことから貸倒損失として損金の額に算入されないという判断は、あまりにも通達の字面を重視した判断と考える(注6)。5.その他(1)寄附金該当性についてこの裁決において審判所は、本件債権放棄についての処分を寄附金の額に該当すると判断している。寄附金の範囲については、法人税法37条7項において「寄附金の額は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもつてするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く。次項において同じ。)をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする。」と規定しており、「資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」をその前提としていることからすれば、これらの行為が給与に該当する場合には、寄附金には該当しないことになる。(2)給与該当性について法人税法34条4項は、「前三項に規定する給与には、債務の免除による利益その他の経済的な利益を含むものとする。」と規定し、法人税基本通達9-2-9では、その例として「(4)役員等に対して有する債権を放棄し又は免除した場合(貸倒れに該当する場合を除く。)におけるその放棄し又は免除した債権の額に相当する金額」を掲げている。(3)まとめ以上の検討から、この事案において審判所が、貸倒損失の計上を否認し、寄附金としたことに疑問が残る。筆者は、寄附金ではなく、給与とすべきではないかと考える。なお、筆者の経験では、給与とされる場合でも、①金銭消費貸借契約の作成、②貸付けに関する株主総会決議及び③受入れのための会計伝票の作成を条件に貸付金処理が認められていると理解している。<注釈>国審平成28年2月8日(裁決事例集№102)松尾公二編著『法人税基本通達逐条解説(十一訂版)』1105頁(税務研究会出版局、令和5年)国税庁(質疑応答事例)〔貸倒損失〕1第三者に対して債務免除を行った場合の貸倒れ債権者が債務者に対して債務を免除する意思を表示したときは、その債権は、消滅する。宇都宮地判平成15年5月29日(税資253号順号9355)日本税理士連合会「令和8年度税制改正に関する建議書」(令和7年6月25日)15頁では、貸倒損失に関する改正要望を明らかにしており、今後の動向に注目したい。提供:税経システム研究所
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2025/10/29 経営・運営公益法人
新公益法人制度と会計(第5回)
新公益法人制度と会計について、前回は公益認定法の改正点として公益法人等の責務と中期的収支均衡について記載させて頂きました。第5回では、引き続き中期的収支均衡の内容について解説させて頂きます。(1)中期的収支均衡の定義中期的に収支を均衡しなければならないという規定は、公益認定法第14条で定義されています。その具体的な計算方法や中期的に収支を均衡させなければならない期間は、公益認定法施行規則により規定されています。具体的内容は、当該規則の第15条から第23条までで構成されています。まず、第15条で以下のように中期的均衡期間を定め、第16条では年度剰余額又は年度欠損額の計算方法等を定義しています。第15条(中期的収支均衡)法第14条に規定する内閣府令で定める期間(以下「中期均衡期間」という。)は五年間とし、同条の規定により、公益法人が公益目的事業を行うに当たって当該期間に図られるようにしなければならない収支の均衡(以下「中期的収支均衡」という。)については、この款に定めるところによる。第16条(年度剰余額等の算定)公益法人は、毎事業年度の終了後、次項の規定により当該終了した事業年度(以下この款において「当該事業年度」という。)に生じた年度剰余額又は年度欠損額を、第3項又は第4項の規定により当該事業年度に係る暫定残存剰余額又は残存欠損額を、それぞれ算定するものとする。2当該事業年度に生じた年度剰余額は、第一号に掲げる額(以下この項において「収入額」という。)が第2号に掲げる額(以下この項において「費用額」という。)以上である場合において、収入額から費用額を控除した額とし、当該事業年度に生じた年度欠損額は、収入額が費用額を下回る場合において、費用額から収入額を控除した額とする。ただし、収入額が費用額を下回る場合において、年度欠損額を零とすることができる。一次に掲げる額の合計額イ当該事業年度の損益計算書に計上すべき公益目的事業に係る経常収益(一般純資産に係るものに限る。)の額ロ当該事業年度の公益充実資金(第23条第1項に規定する公益充実資金をいう。以下この条及び第19条において同じ。)の取崩額(取崩額の全部又は一部を第36条第3項第1号に掲げる財産(以下この条、次条、第19条、第23条及び第30条において「公益目的保有財産」という。)に係る資産の取得又は改良に充てた場合にあっては、当該公益目的保有財産に係る資産の取得又は改良に充てた額を控除した額)ハ収益事業等を行う公益法人にあっては、当該事業年度に収益事業等から生じた収益(収益事業等における収益から、管理費のうち収益事業等に按分される額を控除した額)に100分の50を乗じて得た額二次に掲げる額の合計額イ当該事業年度の損益計算書に計上すべき公益目的事業に係る経常費用(一般純資産に係るものに限る。)の額(公益充実資金の取崩しにより又は次条第1号に掲げる使途として取得又は改良した公益目的保有財産に係る減価償却費の額が含まれる場合には、当該減価償却費の額のうち、当該公益目的保有財産の取得又は改良に係る価額のうち当該取崩しの額又は当該使途に充てることにより解消額とした額に相当する部分の額を除く。)ロ当該事業年度の公益充実資金の積立額3当該事業年度において年度剰余額が生じた場合、当該事業年度に係る暫定残存剰余額は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める額とする。一過年度残存剰余額(当該事業年度の前事業年度における当該前事業年度以前の各事業年度(第19条第1項の規定により特例残存欠損額を算定した事業年度を除く。)に係る残存剰余額をいう。以下同じ。)の合計額が零以上の場合(次号及び第3号に掲げる場合を除く。)当該年度剰余額二過年度残存欠損額(当該事業年度の前事業年度における当該前事業年度以前の各事業年度(当該事業年度の開始の日前4年以内に開始した事業年度に限るものとし、第19条第1項の規定により特例残存欠損額を算定した事業年度を除く。)に係る残存欠損額をいう。以下同じ。)の合計額が当該年度剰余額以上の場合零三前号に掲げる場合のほか、過年度残存欠損額の合計額が零を超える場合当該年度剰余額から当該合計額を控除した額4当該事業年度において年度欠損額が生じた場合、当該事業年度に係る残存欠損額は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める額とする。一過年度残存欠損額の合計額が零以上の場合(次号及び第3号に掲げる場合を除く。)当該年度欠損額二過年度残存剰余額の合計額が当該年度欠損額以上の場合零三前号に掲げる場合のほか、過年度残存剰余額の合計額が零を超える場合当該年度欠損額から当該合計額を控除した額上記のように、第16条の規定は第4項までの内容として、旧法にはない複雑な計算方法を行う点に留意する必要があります。今回は、紙面の都合上、条文の列挙にとどめ、次回以降で当該規程の用語の整理と図解を用いた具体的な計算方法を説明します。次回も引き続き、新公益法人制度(中期的収支均衡)についてご説明させて頂きます。提供:税経システム研究所
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2025/10/24 所得税
住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)
居住者が、自己の居住用家屋を取得(家屋とともに取得したその敷地である土地等を含む)または増改築等をした場合に、その資金を住宅ローン等により調達した場合は住宅借入金等特別控除が適用されます。1.適用要件個人が住宅ローン等を利用してマイホームの新築、取得または増改築等(以下「取得等」をし、2022年1月1日から2025年12月31日までの間に自己の居住の用に供した場合で一定の要件を満たすときは、所得税の住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)の適用を受けることができます。家屋の取得等から原則として6ヵ月以内に居住の用に供し、適用年の年末まで引き続き居住の用に供していること(一定の場合は再入居の場合でも適用あり)控除を受ける年の合計所得金額が2,000万円以下であること家屋の床面積が原則として50㎡以上で2分の1以上が居住用であることただし、床面積が40㎡以上50㎡未満の住宅用家屋で2023年12月31日以前に建築確認を受けたものの新築またはその家屋で建築後使用されたことのないものの取得については、合計所得金額が1,000万円以下の年に限り適用対象になる中古住宅については、新耐震基準に適合している住宅用家屋(登記簿上の建築日付が1982年1月1日以降の家屋については、新耐震基準に適合している住宅用家屋とみなす)であること10年以上にわたり分割して返済する方法になっている一定の借入金または債務があること増改築、リフォーム等の場合は、工事費用が100万円を超えるなどの条件を満たすものであること2.控除額の計算(1)原則①所得税住宅ローン控除額は、原則として、住宅借入金等の年末残高(限度額あり)に次表の控除率を乗じて計算します。適用する控除率などは、取得形態や居住開始年などにより異なります。イ.新築・買取再販等住宅の取得等が居住用家屋の新築、居住用家屋で建築後使用されたことのないものの取得または宅地建物取引業者により一定の増改築等が行われた一定の居住用家屋の取得の場合ロ.中古住宅の取得または増改築等上記イ.の新築・買取再販等以外の場合認定住宅等とは、認定住宅(認定長期優良住宅および認定低炭素住宅)、ZEH水準省エネ住宅(「ゼッチ(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」断熱性を高めるなど大幅な省エネを実現したうえで、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅)、省エネ基準適合住宅をいう。②住民税住宅ローン控除額は所得税の控除額ですが、所得税額から控除しきれない部分については、次の金額を限度として翌年度分の個人住民税額から控除できます。所得税の課税総所得金額×5%(最高9万7,500円)3.省エネ基準を満たさない場合の適用除外2022年度税制改正により、2024年1月1日以後に建築確認を受ける住宅の用に供する家屋(登記簿上の建築日付が同年6月30日以前のものを除く)または建築確認を受けない住宅の用に供する家屋で登記簿上の建築日付が同年7月1日以降のもののうち、一定の省エネ基準を満たさないものの新築または当該家屋で建築後使用されたことのないものの取得については、住宅ローン控除の適用ができないこととされます。4.他の特例との重複適用は不可居住した年、その前2年、その後3年の6年間に従前居住用財産を売却して「居住用財産の3,000万円特別控除」「居住用財産の買換えの特例」等の適用を受けている場合は、住宅借入金等特別控除の適用は受けられません。なお、「居住用財産の譲渡損失の繰越控除」との併用は認められます。5.確定申告の添付書類住宅借入金等特別控除の特例は、1年目は次の書類を添付して確定申告をする必要があります。登記事項証明書建築工事請負契約書または売買契約書住宅取得資金に係る借入金の年末残高証明書住宅借入金等の年末残高の計算明細書認定住宅等の場合には、上記①~④に加え、認定住宅等に該当することを確認するための所定の書類の添付が必要給与所得者の場合、2年目以後は税務署から送られてくる「給与所得者の住宅借入金等特別控除申告書」に所要の事項を記載して、「住宅取得資金に係る借入金の年末残高証明書」とともに勤務先へ提出して年末調整によりこの控除を受けることができます。なお、2022年度税制改正により、2023年1月1日以後に居住の用に供する家屋について住宅ローン控除の適用を受けようとする個人は、その住宅ローンに係る銀行等に対して、その個人の氏名および住所、個人番号その他の一定の事項を記載した申請書(住宅ローン控除申請書)の提出をしなければならないこととされます。これにより、住宅取得資金に係る借入金の年末残高証明書および新築の工事の請負契約書の写し等については、確定申告書への添付が不要になります。また給与所得者の年末調整についても住宅取得資金に係る借入金の年末残高証明書の添付が不要になります。6.子育て世帯等に対する2024年と2025年入居等の特例子育て世帯と若者夫婦世帯について、2024年と2025年中の入居に限り、新築・買取再販等の場合の借入限度額が拡充され、床面積要件についても緩和されます。(1)対象者(子育て特例対象個人)年齢40歳未満で配偶者を有する者年齢40歳以上であって年齢40歳未満の配偶者を有する者年齢19歳未満の扶養親族を有する者(2)認定住宅等の新築・買取再販等の場合の借入限度額・控除額等(3)認定住宅等の新築等の場合の床面積要件合計所得金額1,000万円以下の者に限り、床面積40㎡以上で適用対象となります。この規定は、2024年12月31日以前に建築確認を受けた家屋に適用されます。提供:税経システム研究所
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2025/10/21 所得税相続・贈与税医療業務
払戻請求権の相続税と所得税課税
1.はじめに医療法人の出資に係る払戻請求権の相続税課税と、被相続人に対する準確定申告によるみなし配当所得課税については、実務においてその取扱いを誤るケースが出てきているのではないかと思われます。その背景には、払戻請求権を取得した相続人にとっては、その権利を行使する以外に相続によって得た経済的価値を実現させる方法がない、ということがあるからだろうと思います。特に医療法人の出資の評価は高額になることが多く(剰余金の配当が禁止されているため)、払戻しがないまま相続税と所得税の両方を負担するのは厳しいと言わざるを得ません。そこで、みなし配当所得課税について準確定申告ではなく、払戻しが実現するまで課税を繰り延べる扱いにできないものなのか、過去の相続税と所得税の二重課税事件の判決を見ながら考えてみたいと思います。2.現状の取扱い死亡により社員資格を喪失した社員(被相続人)は、法人の財産のうち出資額に応ずる分の払戻しを請求する権利を取得することになります。この権利(払戻請求権)は相続財産の課税対象となり、取得した相続人に対して相続税が課されることになります。一方、この払戻請求権のうち出資額を超える部分はみなし配当所得とされ被相続人の所得として準確定申告において配当所得として所得税の課税対象となります。つまり、相続によって得た払戻請求権という経済的利得に対して相続人に相続税を課し、一方払戻請求権のうちみなし配当とされた部分に対しては被相続人に所得税を課す、という取扱いになっています。一見すると二重課税のように見えますが、納税者は相続税については相続人、所得税については被相続人であり、同一納税者ではありません。ただ、払戻請求権の評価額は出資額とそれを超える部分つまりみなし配当部分との合計額であり、みなし配当部分について、納税者が異なるとはいえ相続税と所得税の両方が課せられるのは、所得税法第9条(非課税所得)1項17号(相続等により取得したものには所得税を課さない)に違反するのではないか、あるいは所得税法第67条の4の規定により、未実現の配当は被相続人の所得とせず、相続人において実現した段階で相続人に課税するとして、課税の繰り延べを認めるべきではないか、という印象を多くの人が持つだろうと思います。これらの印象(疑問)に対して、過去の判例ではどう判示されたかを見てみたいと思います。3.生保年金二重課税事件(最高裁平成22年7月6日判決)これは年金払い特約付き生命保険契約に基づいて、死亡時4000万円と年金受給権(年230万×10年評価額1,380万円)を相続税申告において計上したあと、年金受給権に基づいて相続人に毎年支払われる年金230万円について雑所得として更正処分された事件です。年金230万円について、課税庁の主張と裁判所の判決は次のとおりです。課税庁基本権たる年金受給権に基づく権利ではあるが、一定期日の到来によって生み出された支分権、すなわち基本権とは異なる権利に基づいて取得した現金であり、雑所得として課税される。長崎地裁本件年金は、これが行使されることによって基本的な権利である年金受給権が徐々に消滅していく関係にある。相続税法による年金受給権の評価は、将来にわたって受け取る各年金の当該取得時における経済的な利益を現価に引き直したものであるから、これに対して相続税を課税した上、さらに個々の年金に所得税を課税することは、実質的・経済的に同一の資産に関して二重に課税するものであることは明らかである。福岡高裁本件年金は、本件年金受給権とは法的に異なるものであり、被相続人の死亡後に支分権に基づいて発生したものである。年金受給権の取得と個々の年金の取得とは別個の側面があり、年金受給権の取得に相続税を課し、個々の年金の取得に所得税を課することを、二重に課税するものということはできない。最高裁相続税法第3条の「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの」とは「相続等に取得し又は取得したものとみなされる財産そのものを指すのではなく、当該財産の取得によりその者に帰属する所得を指すものと解される。支分権に基づいて支給を受ける年金額のうち相続時における現在価値に相当する部分は、相続税の課税対象となる経済的価値と同一のものということができ、所得税の課税対象とはならない。この最高裁の判決は、二重課税の存在を認めたものであり、これまでの見解と異なる画期的なものでした。4.相続税とみなし配当所得(大阪地裁平成27年4月14日判決納税者敗訴)これは、相続した株式の発行会社から交付を受けた残余財産分配金のうち、みなし配当とされた部分については、相続により取得した残余財産分配金を受ける権利が実現したものの一部にすぎず、所得税法第9条第1項17号(相続等により取得したものには所得税を課さない)の適用を受けるか否かで争われた事件です。大阪地裁みなし配当課税は法人に留保されていた利益を残余財産の分配として取得したものを課税対象とするものであり、当該法人の株式を相続人が相続した場合におけるその株式についての相続税の課税とは課税対象を異にするものである。上記のみなし配当課税は留保されていた利益の分配を原因として実現した経済的利益を課税の原因とするものであるから、その対象となる経済的利益は、非課税規定にいう相続等を原因として取得したものということはできない。つまり、相続税の課税対象である残余財産の分配を受ける権利と、所得税の課税対象である残余財産の分配として取得した経済的利益は、同一のものではない。しかし、上記3で紹介した生保年金二重課税事件における最高裁の判決は、年金受給権とそれに基づいて支払われる年金は、法的に異なるものであっても経済的価値は同一であるとしていますから、異なる見解になっています。5.相続税と配当期待権(大阪地裁令和3年11月26日判決納税者敗訴)配当期待権とは、配当基準日の翌日以後から配当確定日(総会決議)までの間に株主が死亡した場合、配当を受ける権利は相続人が引き継ぎ、被相続人に代わって配当を受ける権利をいいますが、この事件は、配当期待権に係る配当所得は相続人に帰属するのであるから相続税の課税財産にはあたらないか否かで争われた事件です。大阪地裁原告は、配当期待権に係る配当所得は相続人に帰属するのであるから相続税の課税財産にはあたらないと主張するが、配当期待権を相続税の対象とし、実際に支払いを受けた配当金を相続人の所得税の対象とすること(二重課税の問題)については、配当期待権が相続税の課税財産に当たるかという問題と二重課税が許容されるかどうかという問題は別個の問題である。所得税法67条の4は、未実現の配当を被相続人の所得とせず、相続人において実現した段階で相続人に課税するという課税の繰り延べを規定していると解される。相続人に対し、配当期待権を課税財産として相続税を課し、相続開始後に実現した配当所得に所得税を課しても、違法な二重課税にはあたらない。大阪地裁はこのように判示していますが、それでは配当期待権の相続税評価額は源泉徴収されるべき金額を控除した金額とされているけれども、この源泉徴収はどうとらえたらよいのでしょうか。実現した配当所得とは別物であるならば、配当期待権の相続税評価額は源泉徴収控除前の価額でなければならないのではないでしょうか。6.払戻請求権の評価額のうちのみなし配当部分について定款において社員資格を喪失した出資者は出資に応じた払戻しを請求することができるとされていることから、死亡した時点で「出資」は確定した金銭債権という払戻し請求権に代わっていると捉え、そのため被相続人へのみなし配当所得課税が出てくるのですが(権利確定主義を根拠に、払戻請求権が行使されておらず実現されていなくとも死亡した時点でみなし配当所得の実現があったものとして、被相続人にみなし配当所得が生じるとした令和6年6月22日名古屋地裁判決もあります)、一方で、相続人が(法人の社員であることが前提ですが)払戻請求権を行使せず、被相続人の出資を承継した場合には、被相続人に対する配当所得課税は強いて行わないとされています。このような扱いをしているのは、おそらく被相続人から相続により取得した「出資」が、払戻しを受けるだけの権利であるのか、出資持分に相当する権利であるのか、実態に応じて判断すべきとしているからではないかと思います。所得税法第67条の4は、相続等により利子所得、配当所得、一時所得又は雑所得の起因となる資産を取得した場合における当該金利子所得、配当所得、一時所得又は雑所得の金額の計算については、別段の定めがあるものを除き、その者が引き続き当該資産を取得していたものとみなすとしています。払戻しが現実に行われた時点で、被相続人の出資額及び出資した時期を相続人が引き継いだものとみなして、相続人にその値上がり益(みなし配当所得)に対する所得税を課するという扱いにすることはできないものでしょうか。そのような取り扱いを認める税制の改正を強く望みます。提供:税経システム研究所
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2025/10/15 会計制度
リース会計に関する会計と税務(その3) リース会計基準の改正を理解するために
1.令和7年度税制改正でのリースの取扱いリース会計基準の改正に対して、税務での対応は、税制改正の大綱の中で、「オペレーティング・リース取引によりその取引の目的となる資産の賃借を行った場合において、その取引に係る契約に基づきその法人が支払う金額があるときは、その金額のうち債務の確定した部分の金額は、その確定した日の属する事業年度に損金算入する。」(三法人課税4(8))という記述のほかは、延払基準の制度の廃止が示された程度で特別な改正は打ち出されていません。上記の記述の部分は、法人税法第53条の新設という形で規定されています。これは、法人税法においては、償却費以外は、債務が確定しているものに限って損金の額に算入する債務確定主義が取られており、新リース会計基準に基づきオペレーティング・リース取引による費用計上額を損金算入すると、リース期間の初期において賃借料を超える額が損金算入され、債務が確定しない費用の損金算入を認めることになってしまうためであると考えられます。また、新リース会計基準の中でも貸手のオペレーティング・リース取引は、従来通り経済的実態に合わせ「賃貸借取引」に準じた会計処理がなされることとされていることとの平衡、整合を取ることもリース会計基準と異なる処理を求める理由となっています。その結果として、借手の会計処理と税務では以下のような相違点が生じます。リース契約の期間を通じて定額で発生するリース料を損金処理するのに比べ、リース会計基準に基づく資産計上を行う場合には、契約開始初期には利息相当額がリース債務残高に応じて多額に算出され、契約終了に向かって逓減していきます。したがって、オペレーティング・リース取引の場合、リース期間の前半ではリース会計基準に従い資産計上することで、損金算入限度額以上の費用が計上されることになり、その部分を申告調整する必要が出てきます。そして、加算処理の結果、別表五(一)に累積した調整額をリース期間の後半で認容していくという処理が必要になります。そこで、オペレーティング・リース取引について賃貸借処理を行っている場合に、必要となる別表調整の理解が必要ということになります。そこで、別表の記載方法について、前回の取引例を利用して、解説していきます。2.別表調整の具体例(1)前提条件前回、以下のようなリースの支払計算表を基にリース会計基準に基づく仕訳処理を示しました。①リース契約締結時点の仕訳②リース料支払い時の仕訳(2月の初回)②-2リース料支払い時の仕訳(3月)③減価償却費の計上④年間累計での仕訳(①から③の合計)リース会計基準により会計上は、上記のような仕訳が起きていても、税務上の仕訳を想定するならば、法人税法第53条に基づき年間累計ベースでは以下のようになります。ということは、申告調整に必要な会計上の仕訳から税務上の仕訳への「修正仕訳」は次のようになります。なお、本稿では、減価償却費の相手科目を直接控除法で使用権資産としていますが、間接法によっている場合には、減価償却費の相手科目は減価償却累計額となります。(2)別表記載例別表四所得の金額の計算に関する明細書別表五(一)利益積立金額及び資本金等の計算に関する明細書もし、減価償却費の計上で間接法によっている場合には、別表五(一)の記載は、下記のようになります。上記の第1期では、となっているため、別表四で加減算の結果として課税所得が増える形になっています。しかし、リース期間の後半になると利息相当額の金額が落ちてきますので、となります。その結果、課税所得が減る形になり、リース期間が終了する時点で、別表五(一)のリース負債と使用権資産が0円となって、一連の申告調整は終了することになります。3.使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合の取扱いここまでの解説を見ていて、ファイナンス・リース取引となればリース資産を使用権資産として資産計上する必要があり、オペレーティング・リース取引だから賃貸借取引でよいという場合でも、顧問先企業が大企業の非連結会社だったり、公認会計士監査を受けている社会福祉法人だったりすれば、別表調整が必要になってきます。社会福祉法人の場合、収益事業をやっていなければ法人税申告は不要なので、問題はないのですが。そんな中で、前回の解説では、使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合の取扱いをご紹介しました。これらの取扱いによった際にそのリースが、オペレーティング・リース取引だった場合にどうなるのかを検討しておきたいと思います。使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合は、次のいずれかの方法を適用することができます(適用指針第40項(1))。第38項の定めによらず、借手のリース料から利息相当額の合理的な見積額を控除しない方法。この場合、使用権資産及びリース負債は、借手のリース料をもって計上し、支払利息は計上せず、減価償却費のみ計上する。第39項の定めによらず、利息相当額の総額を借手のリース期間中の各期に定額法により配分する方法(1)は、リース料について利息相当額部分とリース負債の元本返済額部分を区分することなく、リース料の支払い総額をリース負債として認識することです。その結果、使用権資産額もリース料支払い総額となるため、利息相当額込みの金額で減価償却することができます。(2)は、利息相当額の総額を借手のリース期間中の各期に配分するにあたって、利息法による(会計基準第36項)という原則に依らなくてもよいということです。(1)第40項(1)による仕訳と税務上記(1)の方法によれば、前述①から③のリース会計の仕訳は次のようになります。計算根拠等は、前回の解説をご覧ください。①リース契約締結時点の仕訳②リース料支払い時の仕訳③減価償却費の計上この結果、前述2.の解説で税務上認識されていた賃借料401,670円と同額の損金が減価償却費として計上されているため、別表四での別表調整は不要だということになります。厳密に考えれば、税務上は上記③の仕訳が不要であるため、①と②については別表五(一)での調整をすべきことになりますが、別表四での調整が不要であることはこれを失念しても納税額を誤ることはないという点で安心です。(2)第40項(2)による仕訳と税務②の利息法によらない利息相当額の処理は、①のリース契約開始時の仕訳は第38項の原則どおりですが、②のリース料支払い時において、利息相当額をリース期間を通じて定額で計上することができるため、支払利息の額が月々で変動しない点がメリットです。支払利息が月々で変動しないということは、利息相当額と減価償却費を加えたものが賃借料に一致し続けていることになります。ということは、第40項(1)と同様に別表四での調整が不要であることになります。このように利便性のある取扱いですが、これを適用するためには、使用権資産総額に重要性が乏しい場合でなければなりません。使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合とは、未経過の借手のリース料の期末残高が当該期末残高、有形固定資産及び無形固定資産の期末残高の合計額に占める割合が10パーセント未満である場合です(適用指針第41項)。(3)税務上のリース資産の取得価額とはリース会計基準では、使用権資産の取得価額は、リース料支払総額から利息相当額を控除したものとされています。第40項(1)の取扱いのようにリース料支払総額で計上するのは例外取引とされています。それでは、税務上はどのようになるのか、改めて気になるところです。これについては、従来から法人税基本通達の中で定めがあり、令和7年度で若干の軸の訂正をしたうえで下記のように示されています。(賃借人におけるリース資産の取得価額)7-6の2-9賃借人におけるリース資産の取得価額は、原則としてそのリース期間中のリース料の額の合計額による。ただし、リース料の額の合計額のうち利息相当額から成る部分の金額を合理的に区分することができる場合には、当該リース料の額の合計額から当該利息相当額を控除した金額を当該リース資産の取得価額とすることができる。(注)1再リース料の額は、原則として、リース資産の取得価額に算入しない。ただし、再リースをすることが明らかな場合には、当該再リース料の額は、リース資産の取得価額に含まれる。2リース資産を事業の用に供するために賃借人が支出する付随費用の額は、リース資産の取得価額に含まれる。3本文ただし書の適用を受ける場合には、当該利息相当額は、リース期間の経過に応じて利息法又は定額法により損金の額に算入する。このようにリース会計基準の原則法であろうと簡便法であろうと税務上は共に認められている方法であり、問題が生じないということになります。提供:税経システム研究所
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