税務情報レポート
MJS税経システム研究所・税務システム研究会の顧問・客員研究員による租税を中心とした多彩な研究成果および最新の税制改正および制度や動向、判例研究等に関するリポートです。
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2024/10/09 所得税
意外に面白い外国法人課税――所得税法だけで完結する? 外国法人への源泉課税
はじめに多くの方がご存知のように、法人への課税要件や税率などは法人税法に規定されています。一方、源泉徴収については、法人税法に規定はなく所得税法に規定されています。そこで、一定の所得があり、源泉徴収が必要になる外国法人の場合、法人税法ではなく所得税法だけで課税関係が完結する場合があります。今回は外国法人にもかかわらず、所得税法だけで課税関係が完結する事例をご紹介していきたいと思います。条文が多く登場して、少し複雑に感じるかもしれませんが、お付き合いください。1.所得税法の外国法人の規定所得税法5条は「納税義務者」です。以下に引用しますが、本稿に関係する部分に下線を引きました。(納税義務者)第5条居住者は、この法律により、所得税を納める義務がある。2非居住者は、次に掲げる場合には、この法律により、所得税を納める義務がある。一161条1項(国内源泉所得)に規定する国内源泉所得(次号において「国内源泉所得」という。)を有するとき(同号に掲げる場合を除く。)。二その引受けを行う法人課税信託の信託財産に帰せられる内国法人課税所得(174条各号(内国法人に係る所得税の課税標準)に掲げる利子等、配当等、給付補塡金、利息、利益、差益、利益の分配又は賞金をいう。以下この条において同じ。)の支払を国内において受けるとき又は当該信託財産に帰せられる外国法人課税所得(国内源泉所得のうち161条1項4号から11号まで又は13号から16号までに掲げるものをいう。以下この条において同じ。)の支払を受けるとき。3内国法人は、国内において内国法人課税所得の支払を受けるとき又はその引受けを行う法人課税信託の信託財産に帰せられる外国法人課税所得の支払を受けるときは、この法律により、所得税を納める義務がある。4外国法人は、外国法人課税所得の支払を受けるとき(中略)は、この法律により、所得税を納める義務がある。所得税法5条4項によると、外国法人には所得税法に基づいて所得税の納税義務があるとされます。そして、課税対象となるのは、「外国法人課税所得」です。次に、外国法人課税所得は、少し上の5条2項2号の最後の方に「所得税法161条1項4号から11号まで+13号から16号までに掲げるもの」と書かれています。所得税法161条1項は、いわゆる国内源泉所得の規定ですので、非居住者だけでなく外国法人にも適用されます。つまり、外国法人課税所得とは、所得税法上の国内源泉所得のうちの一部ということになります。以下では、みなし配当を例にして、具体的に外国法人にどのように所得税法を適用するのかを解説します。2.みなし配当は国内源泉所得に該当(1)所得税法25条のみなし配当所得税法25条は、「法人の株主等が当該法人の非適格分割型分割により金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額が当該法人の資本金等の額のうちその交付の基因となった当該法人の株式又は出資に対応する部分の金額を超えるときは、所得税法の規定の適用については、その超える部分の金額に係る金銭その他の資産は、同法24条1項に規定する剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配又は金銭の分配とみなす」と規定しています。ということで、みなし配当は受取配当と「みなす」ことになるので、所得税法25条に規定するみなし配当は、24条と同じ取扱いをうけることになります。(2)所得税法161条1項9号所得税法161条1項は、国内源泉所得の規定ですが、その中の9号を以下に引用してみます。九24条1項(配当所得)に規定する配当等のうち次に掲げるものイ内国法人から受ける24条1項に規定する剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配、金銭の分配又は基金利息ロ国内にある営業所に信託された投資信託(公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託を除く。)又は特定受益証券発行信託の収益の分配この規定には、25条のことが書かれていません。しかし、上述したように、所得税法25条によると、一定の金銭等の交付を受けた場合にはみなし配当になるので、161条1項9号において、わざわざ25条に言及する必要はありません。3.外国法人課税所得をどのように課税するか(1)国内源泉所得の分離課税普段、あまり意識することはありませんが、所得税法178条では、「外国法人に対して課する所得税の課税標準は、その外国法人が支払を受けるべき161条1項4号から11号まで及び13号から16号まで(国内源泉所得)に掲げる国内源泉所得(政令で定めるものを除く。)の金額(169条1号、2号、4号及び5号(分離課税に係る所得税の課税標準)に掲げる国内源泉所得については、これらの規定に定める金額)とする。」と規定しています。ここでいう「分離課税に係る所得税の課税標準」とは何を意味するのでしょうか。国内源泉所得には、分離課税と総合課税の二種類があります。前者はその所得を分離して課税するという意味であり、後者は他の所得を合算して課税標準を決定するということになります。外国法人が受領する配当(みなし配当を含みます、)については、分離課税とされているので、他の所得に関係なく配当のみを分離して課税関係が終了することを意味しています。そこで、所得税法169条1号、2号、4号及び5号は、分離課税に係る所得税の課税標準となるということを意味しています。このうち、配当については169条2号において、その支払額が課税標準とされると規定されています。そして、170条により利子を除いて、税率が20パーセントと規定されています。課税標準と税率が規定されているということは、支払額に20パーセントを乗じた金額を分離して納税する必要があるということです。(2)所得税法212条1項に規定する源泉徴収義務少し複雑な説明になりましたが、みなし配当の支払額の20パーセントの所得税をどのように納付するかを規定しているのが、所得税法212条1項です。具体的には、「外国法人に対し国内において161条1項4号から11号まで若しくは13号から16号までに掲げる国内源泉所得(中略)の支払をする者は、その支払の際、これらの国内源泉所得について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない。」と規定されています。つまり、外国法人に配当を支払う者は、その配当を支払う際に所得税法170条に規定する20パーセントの税率を差し引いた残りの金額を支払い、その20パーセント部分については、支払日の翌月10日までに納付する義務があるのです。配当の支払者には源泉徴収義務があるということになります。まとめ外国法人が国内源泉所得を有している場合、その所得によっては法人税法の適用がなく、所得税法の規定のみで完結することがあるということを説明してきました。所得税法の条文があちこちに飛んで、わかりにくい説明になったかもしれません。一方、源泉徴収の規定は法人税法にはありません。課税されるのが法人だからといって、法人税法だけを見ていても適切な納税ができないことがあることを紹介したいという意味で今回の解説となりました。税法は本当に複雑にできています。まるでパズルを解くようなものですが、それは意外に面白いという意味にもなると筆者は考えています。読者の皆様もお忙しいとは思いますが、お時間のある時にぜひ一度上に引用した所得税法の条文をご覧になっていただければ幸いです。提供:税経システム研究所
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2024/10/02 所得税
相続と所得税 第26回 令和6年分の所得税の定額減税(納税者が死亡した場合)
令和6年分所得税について、定額による所得税額の(特別控除)定額減税が実施される。この令和6年分所得税の定額減税について、減税対象者である納税者が令和6年中に死亡した場合の取扱いをみていく。1.定額減税定額減税とは、納税者と納税者の扶養親族などの人数により算出される定額減税額を所得税額及び個人住民税所得割額から差し引くことにより、所得税及び個人住民税の負担を軽減する特例措置をいう。令和6年中に、納税者が死亡した場合、死亡した納税者についても、定額減税の適用を受けることができる。2.給与所得者の所得税の定額減税(1)給与所得者(扶養控除等申告書を提出しているいわゆる甲欄適用者)の所得税の定額減税の実施の方法給与所得者に対する所得税の定額減税は、扶養控除等申告書を提出している給与所得者(いわゆる甲欄適用者)に対して、給与の支払者のもとで、その給与等を支払う際に、源泉徴収税額から定額減税額を控除する方法で行われる。給与の支払者は、給与所得者の定額減税の実施にあたり、「月次減税事務」と「年調減税事務」の2つの事務を行う。「月次減税事務」は、令和6年6月1日現在、その給与の支払者に扶養控除等申告書を提出している居住者(基準日在職者)について、令和6年6月1日以後に支払う給与等に対する源泉徴収税額からその時点の定額減税額を控除する事務である。令和6年6月1日以後に支払う給与等に対する源泉徴収税額(控除前税額)から控除する定額減税額を「月次減税額」という。「年調減税事務」は、年末調整の対象となる人について、年末調整の際、年末調整時点の定額減税額に基づき、精算を行う事務である。年末調整に年調所得税額から控除する定額減税額を「年調減税額」という。(2)年の途中で死亡により退職した人給与の支払者は、年末調整の対象となる人について、年末調整を行うことになっている。年末調整は、その年の最後の給与の支払をするときに行うため、通常は12月になるが、年の途中で死亡により退職した人は、死亡により退職の時に、死亡した時の現況に基づいて年末調整を行うことになっている。①令和6年5月31日以前に死亡した給与所得者令和6年5月31日以前に死亡により退職した人は、給与の支払者のもとで、月次減税事務および年調減税事務が行われていない。したがって、令和6年5月31日以前に死亡により退職した人は、準確定申告により、それまでの期間に得た給与所得について、所得税額から定額減税額を控除する適用を受ける。定額減税額は、死亡の時の現況における同一生計配偶者の有無および扶養親族の人数により求める。②令和6年6月1日(基準日)以後に死亡した給与所得者令和6年6月1日以後に死亡により退職した人は、給与の支払者のもとで基準日在職者として月次減税額の控除対象者となっており、月次減税事務が行われている。そして、死亡により退職した時に給与支払者のもとで年末調整を行い、その年調所得税額から年調減税額を控除することにより定額減税の精算(年調減税事務)を行われることになる。年調減税額は、死亡の時の現況における同一生計配偶者の有無および扶養親族の人数により求める。給与の支払者は、令和6年6月1日以後の死亡による退職で、年末調整をして作成する源泉徴収票の摘要欄には、下記の事項を記載する。所得税の定額減税控除済額と、控除しきれなかった額の記載→「源泉徴収時所得税減税控除済額〇〇円」、「控除外額〇〇円」合計所得金額が1,000万円超である居住者の同一生計配偶者(非控除対象配偶者)分を年調減税額の計算に含めた場合の記載→「源泉徴収時所得税減税控除済額〇〇円」、「控除外額〇〇円」「非控除対象配偶者減税有」非控除対象配偶者が障害者に該当する場合の記載→「源泉徴収時所得税減税控除済額〇〇円」、「控除外額〇〇円」「減税有〇〇〇〇(同配)」3.事業所得者や不動産所得者等の所得税の定額減税(1)事業所得者や不動産所得者等の所得税の定額減税の実施の方法事業所得者や不動産所得者等は、原則として、令和6年分の所得税の確定申告(令和7年1月以降)の際に、所得税額から定額減税額を控除する(注)。(注)予定納税の対象となる人は、確定申告での控除を待たず令和6年6月以後に通知される令和6年分の所得税に係る予定納税額から本人分に係る定額減税額に相当する金額が控除される。また同一生計配偶者又は扶養親族に係る定額減税額に相当する金額は、予定納税額の減額申請手続きにより予定納税額から控除される。この手続きにより減額されるべき予定納税特別控除額(本人及び同一生計配偶者、扶養親族に係る定額減税額に相当する金額)のうち、第1期分の予定納税額から控除しても控除しきれない部分の金額は、第2期分の予定納税額から控除される。(2)年の途中で死亡した事業所得者や不動産所得者等年の中途で死亡した人の場合は、相続人(包括受遺者を含む。以下「相続人等」という)が、1月1日から死亡した日までに確定した所得金額および税額を計算して、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に申告と納税をしなければならない。これを準確定申告という。準確定申告においては、同一生計配偶者の有無および扶養親族の人数などは、納税者が死亡した時の現況により判定する。①令和6年5月31日以前に所得税の準確定申告書を提出している場合定額減税は、令和6年6月1日以後に提出する令和6年分の確定申告書について適用されるので、令和6年5月31日以前に準確定申告書を提出する場合は、適用されない。そこで、令和6年5月31日以前にすでに、相続人等が準確定申告書を提出している場合には、更正の請求書を提出する。令和6年6月1日から令和11年6月1日(月)までに更正の請求を行うことにより、定額減税の適用を受けることができる。なお、既に提出した準確定申告書に係る法定申告期限が到来していない場合には、訂正申告書の提出により定額減税の適用を受けることができる。②令和6年6月1日(基準日)以後に所得税の準確定申告書を提出する場合令和6年6月1日以後に提出する相続人等が行う令和6年分の準確定申告書については、原則として、死亡した時の現況による同一生計配偶者の有無および扶養親族の人数により定額減税額を求めて、準確定申告において、定額減税の適用を受ける。【参考文献】国税庁HP提供:税経システム研究所
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2024/09/25 消費税
消費税の納税義務判定のポイント解説(第22回) 新設法人の納税義務の免除の特例①
1.新設法人の納税義務の免除の特例とはインボイスの登録をしていない事業者は、基準期間における課税売上高や特定期間における課税売上高等が1,000万円以下である場合には、他の判定を経て免税事業者となります。しかし、事業者が設立後、間もない法人である場合には基準期間や特定期間が存在しないことから、これらの期間の売上高等により納税義務を判定することができません。そこで、法人の資本金を用いて納税義務を判定する「新設法人の納税義務の免除の特例」規定が設けられています。事業者免税点制度の全体像は、消費税の納税義務判定のポイント解説(第1回)「事業者免税点制度とは」を参照してください。この特例は、基準期間のない事業年度の期首資本金が1,000万円以上の新設法人(社会福祉法人を除きます。)について、納税義務を免除しないとする特例です(消法12の2①)。特例の適用を受けるのは法人のみで、個人事業者はこの特例の判定は行いません。また、この特例の判定は基準期間のない事業年度についてのみ行うため、一般的には、法人の設立1期目、2期目が判定の対象となります。ここからは、【図1】のX3年4月1日に資本金1,000万円で設立した法人の具体例を用いて、各事業年度の納税義務の判定を解説します。この法人は3月決算で「適格請求書発行事業者の登録申請書」及び「課税事業者選択届出書」は提出しておらず、期中での資本金の増減はないことを前提とします。2.設立1期目の判定設立1期目であるX4年3月期は、基準期間、特定期間のいずれも存在しません。課税事業者選択届出書も提出してないため、「新設法人の納税義務の免除の特例」により判定を行います。設立1期目の期首資本金は、設立時の資本金1,000万円となります。これは特例が適用される「1,000万円以上」に該当するため、特例の適用により課税事業者となります。3.設立2期目の判定設立2期目であるX5年3月期は、基準期間は存在しませんが、特定期間(X3年4月1日からX3年9月30日までの期間)が存在します。したがって、まず特定期間における課税売上高等により納税義務の判定を行います。特定期間の詳細については、消費税の納税義務判定のポイント解説(第10回・第11回)「特定期間における課税売上高による納税義務の免除の特例①②」を参照してください。特定期間の判定により課税事業者にならない場合には、次に「新設法人の納税義務の免除の特例」の判定を行います。設立1期目の期中に資本金の増減がないため、設立2期目の期首資本金は、設立時の資本金1,000万円となります。これは特例が適用される「1,000万円以上」に該当するため、特例の適用により課税事業者となります。4.設立3期目の判定設立3期目であるX6年3月期は、基準期間(X3年4月1日からX4年3月31日までの期間)・特定期間(X4年4月1日からX4年9月30日までの期間)ともに存在します。したがって、まずはそれぞれの期間における課税売上高等により納税義務の判定を行います。基準期間・特定期間の判定により課税事業者とならない場合でも、X6年3月期は「新設法人の納税義務の免除の特例」の判定は行いません。この特例は、基準期間のない事業年度についてのみ適用されるものであるため、【図4】の設立3期目のように基準期間が存在する事業年度においてはこの特例の判定は行いません。基準期間・特定期間の判定により課税事業者とならない場合には、次の「高額特定資産の取得等を行った場合の納税義務の免除の特例」の判定に進むことになります。提供:税経システム研究所
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2024/09/11 相続・贈与税
教育資金一括贈与に係る贈与税の非課税
1.はじめに教育資金一括贈与の非課税制度については、制度創設以降、税務上のメリットも多い事等から相続税・贈与税の対策手段として、特に祖父母から孫への贈与として実行されているケースをよくみかけます。本件制度は度々延長されて現在に至っていますが、富裕層を優遇しすぎている等の批判も出てきており、制度創設当初のものに比べ、税務上のメリットは徐々に縮小されながら延長されています。基本的に、本件制度の手続きや税務署への申告は、税理士ではなく、金融機関が行いますので、税理士が深く関わることのない制度ですが、顧問先の社長をはじめ、資産家からの制度内容の問い合わせも多く、特に贈与者の相続発生時や本件制度終了時の課税関係等は注意すべき点が多くあります。※以下、国税庁ホームパージ、Q&Aを参照2.制度概要平成25年4月1日から令和8年3月31日までの間に、30歳未満等の一定の要件を満たす受贈者が、直系尊属(祖父母など)から、教育資金に充てるため、金融機関等との一定の契約に基づき、贈与を受けた場合には、その贈与額のうち1,500万円までの金額に相当する部分の価額については贈与税が非課税となります。なお、契約期間中に贈与者が死亡した場合には、原則として、その死亡日における非課税拠出額から教育資金支出額(学校等以外の者に支払われる金銭については、500万円を限度)を控除した残額のうち、一定の計算をした金額を、その贈与者から相続等により取得したものとみなされます。(一定の事由がある場合を除く)また、教育資金口座に係る契約が終了した場合には、非課税拠出額から教育資金支出額を控除(相続等により取得したものとみなされた管理残額がある場合には、その管理残額も控除します。)した残額があるときは、その残額はその契約終了時に贈与があったこととされます。(1)適用期間平成25年4月1日から令和8年3月31日までの間の贈与(2)受贈者➢教育資金管理契約を締結する日において30歳未満の人➢信託受益権または金銭等を取得した日の属する年の前年分の受贈者の所得税に係る合計所得金額が1,000万円以下であること(3)贈与者受贈者の直系尊属である父母や祖父母など(4)非課税金額その信託受益権または金銭等の価額のうち1,500万円までの金額については、受贈者の贈与税が非課税となります。※受贈者ごとに1,500万が限度となります。(5)3つの贈与形式※出典:国税庁Q&Aより①信託銀行方式(信託受益権を取得した場合)②銀行方式(書面による贈与により取得した金銭を銀行等に預入をした場合)③証券会社方式(書面による贈与により取得した金銭等で証券会社等で有価証券を購入した場合)➢上記②又は③の場合には、受贈者は贈与により金銭又は金銭等を取得した後2月以内(通常は贈与契約日後2月以内となります。)に、教育資金管理契約に基づき、金銭を預金等として預入をし、又は金銭等で有価証券を購入しなければなりません。➢上記③の場合で、贈与者の証券口座から受贈者の証券口座へ有価証券を振替えたときは、有価証券の購入があったものとみなされます。➢「金銭等」とは、金銭又は公社債投資信託の受益証券のうち一定のもの(いわゆるMRF又はMMF)をいいます。(6)教育資金の範囲【1】学校等に直接支払われる入学金、授業料その他の金銭入学金、授業料、入園料及び保育料並びに施設設備費入学又は入園のための試験に係る検定料在学証明、成績証明その他学生等の記録の証明に係る手数料及びこれに類する手数料学用品の購入費、修学旅行費又は学校給食費その他学校等における教育に伴って必要な費用に充てるための金銭「学校等」とは、学校教育法で定められた幼稚園、小・中学校、高等学校、大学(院)、専修学校及び各種学校、一定の外国の教育施設、認定こども園又は保育所などをいいます。【2】学校等以外の者に、教育に関する役務の提供の対価として直接支払われる金銭その他の教育を受けるために直接支払われる金銭次に掲げる金銭であって、教育を受けるために支払われるものとして社会通念上相当と認められるものをいいます。ただし、令和元年7月1日以後に支払われる次の①から④までの金銭で、受贈者が23歳に達した日の翌日以後に支払われるものについては、教育訓練を受講するための費用に限ります。教育に関する役務の提供の対価施設の使用料スポーツ又は文化芸術に関する活動その他教養の向上のための活動に係る指導への対価として支払われる金銭①の役務の提供又は③の指導において使用する物品の購入に要する金銭であって、その役務の提供又は指導を行う者に直接支払われるもの【1】④の金銭であって、学生等の全部又は大部分が支払うべきものと学校等が認めたもの通学定期券代外国の教育施設に就学するための渡航費(1回の就学につき1回の往復に要するものに限ります。)又は学校等(外国の教育施設を除きます。)への就学に伴う転居に要する交通費であって公共交通機関に支払われるもの(1回の就学につき1回の往復に要するものに限ります。)「教育訓練」とは、雇用保険法第60条の2第1項に規定する教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練をいいます。これには、専門実践教育訓練及び一般教育訓練として医療・社会福祉関係、技術・製造関係、情報通信関係、事務関係など、各種の職業資格の取得講座などが指定されています。3.契約終了時の課税関係(1)教育資金契約の終了事由教育資金口座に係る契約は、下記表の①〜⑤の事由に応じ、それぞれに定める日のいずれか早い日に終了します。契約の終了事由終了の日①受贈者が30歳に達したこと(その受贈者が30歳に達した日において学校等に在学している場合又は教育訓練を受けている場合(これらの場合に該当することについて金融機関等の営業所等に届け出た場合に限ります。)を除きます。)30歳に達した日②受贈者(30歳以上の者に限ります。③において同じです。)がその年中のいずれかの日において学校等に在学した日又は教育訓練を受けた日があることを、金融機関等の営業所等に届け出なかったことその年の12月31日➂受贈者が40歳に達したこと40歳に達した日④口座の残高が0(ゼロ)になり、かつ、その口座に係る契約を終了させる合意があったこと合意に基づき終了する日➄受贈者が死亡したこと死亡した日(2)残額に対する贈与税課税上記表①~④の事由に該当したことにより、教育資金口座に係る契約が終了した場合に、非課税拠出額から教育資金支出額を控除(相続等により取得したものとみなされた管理残額がある場合には、その管理残額も控除します。)した残額があるときは、その残額が終了の日の属する年の受贈者の贈与税の課税価格に算入されます。適用を受けている受贈者(孫等)が30歳に達した場合には、その終了時の残額に対して贈与税課税がされることになりますので、年齢と残額には留意する必要があります。➢⑤の事由に該当する場合には、贈与税の課税価格に算入されるものはありません。➢暦年課税で申告を行う場合、令和5年4月1日以後に取得した信託受益権等に対応する部分は、一般税率が適用されます。4.契約期間中に贈与者が死亡した場合(1)管理残額に相続税課税契約期間中に贈与者が死亡した場合において、次の①又は②に掲げる場合に該当するときは、贈与者が死亡した旨の金融機関等の営業所等への届出が必要となり、一定の事由に該当する場合を除き、管理残額が相続等により取得したものとみなされます。令和3年4月1日以後にその贈与者から信託受益権等の取得をし、この非課税制度の適用を受けた場合平成31年4月1日から令和3年3月31日までの間にその贈与者から信託受益権等の取得(その死亡前3年以内の取得に限ります。)をし、この非課税制度の適用を受けた場合(2)対象外となる一定の事由受贈者が贈与者の死亡日において、下記の事由に該当する場合には、相続等によって取得したものとはみなされません。23歳未満である場合学校等に在学している場合教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受けている場合②又は③に該当する場合は、その旨を明らかにする書類を上記の届出と併せて提出した場合に限ります。➢令和5年4月1日以後に贈与者から信託受益権等の取得をし、この非課税制度の適用を受けた場合で、同日以後にその贈与者が死亡したときにおいて、その贈与者に係る相続税の課税価格の合計額が5億円を超えるとき(管理残額を加算する前の相続税の課税価格の合計額で判定します。)は、その信託受益権等に対応する部分が、相続等により取得したものとみなされます。➢受贈者が贈与者の子以外(孫など)の一定の者である場合には、管理残額のうち、令和3年4月1日以後に贈与により取得した信託受益権等に対応する部分の相続税額について、相続税額の2割加算が適用されます。【信託受益権又は金銭等の取得時期に応じた贈与者死亡時の相続税の課税関係】信託受益権又は金銭等の取得時期管理残額の相続税課税相続税額の2割加算の適用~平成31年3月31日課税なし加算なし平成31年4月1日~令和3年3月31日贈与者の死亡前3年以内の取得分に限り、課税あり(23歳未満である場合等を除く)加算なし令和3年4月1日~令和5年3月31日課税あり(23歳未満である場合等を除く)加算あり令和5年4月1日~課税あり(23歳未満である場合等で、かつ、贈与者に係る相続税の課税価格の合計額が5億円以下の場合を除く)加算あり提供:税経システム研究所
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2024/09/04 財産評価相続・贈与税
いわゆる「分譲マンション」の評価方法の見直しの経緯とQ&Aの公表
1相続税法におけるマンションの評価方法(1)評価の原則相続税法では、相続等により取得した財産の価額は「当該財産の取得の時における時価(客観的な交換価値)」によるものとされており(時価主義)(相法22)、その評価方法は国税庁の財産評価基本通達によって定められている(評基通1)。(2)マンションの評価に対する課題マンションの評価について、「相続税評価額」と「市場売買価格(時価)」とが大きく乖離しているケースが把握されており、このような乖離があると、相続税の申告後に国税当局から路線価等に基づく相続税評価額ではなく鑑定価格等による時価で評価し直して課税処分をされるというケースが発生していた。そのようなケースで争われた令和4年4月19日の最高裁判決(国側勝訴)以後、マンションの評価額の乖離に対する批判の高まりや、取引の手控えによる市場への影響を懸念する向きも見られ、課税の公平を図りつつ、納税者の予見可能性を確保する観点からも、早期にマンションの評価に関する通達を見直す必要が指摘されていた。また、令和5年度与党税制改正大綱(与党)においても「相続税におけるマンションの評価方法については、相続税法の時価主義の下、市場価格との乖離の実態を踏まえ、適正化を検討する。」と記載されていた。(3)通達改正の検討前述(2)を背景として、乖離の実態把握とその要因分析を的確に行った上で、不動産業界関係者などを含む有識者の意見も丁寧に聴取しながら、通達改正を検討していくことになった。2「マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議」の設置及び意見等(1)有識者会議の開催状況マンションの評価に対する課題を解決するため、不動産業界関係者だけでなく税理士・不動産鑑定士・大学教授等の構成員により「マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議」が設置され、次のように三回の会議が開催された。なお、会議には総務省・自治税務局、財務省・主税局、国土交通省・住宅局、不動産・建設経済局がオブザーバーとして参加していた。第1回会議令和5年1月30日(月)第2回会議令和5年6月1日(木)第3回会議令和5年6月22日(木)(2)有識者会議での意見第3回会議(令和5年6月22日(木))では、マンションの評価について見直しに向け諸々の意見があり、次の3の見直し案が公表された。3有識者会議における見直し案(1)現行のマンションの評価方法相続等で取得したマンション(一室)の評価額は、不動産鑑定評価や売却価格が通常は不明であることから、次の①と②の合計額としている。(2)評価額と市場価格が乖離する主な要因建物の効用の反映が不十分建物の評価額は再建築価格をベースに算定されているが、市場価格はそれに加えて建物の総階数・マンション一室の所在階も考慮されているほか、評価額への築年数の反映が不十分だと、評価額が市場価格に比べて低くなるケースがある。立地条件の反映が不十分マンション一室を所有するための敷地利用権は、共有持分で按分した面積に平米単価を乗じて評価されるが、この面積は一般的に高層マンションほどより細分化され狭小となるため、このように敷地持分が狭小なケースは立地条件の良好な場所でも、評価額が市場価格に比べて低くなる。(3)乖離を是正するための評価方法の見直し案相続税評価額が市場価格と乖離する要因となっている築年数・総階数(総階数指数)・所在階・敷地持分狭小度の4つの指数に基づいて、評価額を補正する方向で通達の整備が行われることになった。具体的には、これら4指数に基づき統計的手法により乖離率を予測し、その結果、評価額が市場価格理論値の60%(一戸建ての評価の現状を踏まえたもの)に達しない場合は60%に達するまで評価額を補正することになった。4個別通達の発遣令和6年1月1日以後に、相続・遺贈又は贈与により取得した「居住用の区分所有財産」(いわゆる分譲マンション)の価額は、新たに定められた個別通達(令和5年9月28日付2-74ほか1課共同「居住用の区分所有財産の評価について」(法令解釈通達))により評価することになった。(1)評価方法の概要個別通達では、次のように従来の区分所有建物の価額とその敷地の価額に「区分所有補正率」を乗じることにより、課題とされていた評価額と市場価格との乖離を是正することになった。(2)区分所有補正率の計算方法区分所有補正率は、「1評価乖離率」・「2評価水準」・「3区分所有補正率」の順に、次のとおり計算する。(3)個別通達の適用がないもの個別通達の対象物件は、居住用のマンション一室であることから、次のような「事業用のテナント物件など」その他は、個別通達の対象から除外された。物件の使用目的構造・建物の状況等①事業用のテナント物件など構造上、取得して居住の用に供することができるもの以外のもの②一棟所有の賃貸マンションなど区分建物の登記がされていないもの③総階数2以下の低層の集合住宅など地階を除く総階数が2以下のもの④いわゆる二世帯住宅など一棟の区分所有建物に存する居住の用に供する専有部分一室の数が3以下であって、その全てを区分所有者又はその親族の居住の用に供するもの⑤たな卸商品等に該当するもの5居住用の区分所有財産の評価に関するQ&A(情報)(令和6年5月14日国税庁資産評価企画官)https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hyoka/231013/02.htm新しい居住用の区分所有財産(いわゆる分譲マンション)の評価方法その他に関するQ&A(情報)が、令和6年5月14日に公表された。(1)Q&A(情報)の目次Q&A(情報)の目次は、次のように問1から問12までにより構成されている。問1新しい居住用の区分所有財産(いわゆる分譲マンション)の評価方法について教えてください。問2「区分所有補正率」の計算方法について教えてください。問3新しい居住用の区分所有財産の評価方法が適用される不動産について教えてください。問4「一棟の区分所有建物」から除かれる「地階を除く階数が2以下のもの」等について教えてください問5評価乖離率を求める算式における各指数(築年数等)について教えてください。問6一棟の区分所有建物に存する各戸(室)の全てを所有している場合の評価方法について教えてください。問7居住用の区分所有財産を貸し付けている場合における「貸家建付地」及び「貸家」の評価方法について教えてください。問8一棟の区分所有建物に係る敷地利用権が借地権である場合の底地(貸宅地)の評価方法について教えてください。問9本通達の適用がある場合に、評価基本通達6項の適用はありますか。問10具体的な評価方法について教えてください。【具体例1:敷地利用権が敷地権である場合(登記簿上、敷地権の表示がある場合)】問11具体的な評価方法について教えてください。【具体例2:敷地利用権が敷地権でない場合(登記簿上、敷地権の表示がない場合)①】問12具体的な評価方法について教えてください。【具体例3:敷地利用権が敷地権でない場合(登記簿上、敷地権の表示がない場合)②】(2)個別通達と評価通達6項の関係について上記の問1から問12のうち、問9では、個別通達と評価通達6項の関係について記述されている。個別通達の発遣により、課題とされていた評価額と市場価格との乖離が是正されたはずであるが、問9では「個別通達の適用があっても、評価基本通達6項の適用があり得る」との回答になっている。具体的に、どのような場合において「分譲マンションを個別通達により評価しても、評価基本通達6項の適用がある」のか、今後の情報により確認する必要がある。<参考>として、以下にQ&A問9を掲げる。<参考>問9本通達の適用がある場合に、評価基本通達6項の適用はありますか。(答)評価基本通達6((この通達の定めにより難い場合の評価))は、評価基本通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる場合には、個々の財産の態様に応じた適正な時価評価が行えるよう定めており、これは、本通達を適用した場合であっても同様に適用があるため、一室の区分所有権等に係る敷地利用権及び区分所有権の価額について、評価基本通達6の定めにより、本通達を適用した価額よりも高い価額により評価することもあります。また、これまでも、地価の大幅な下落その他路線価等に反映されない事情が存することにより路線価等を基として評価基本通達の定めによって評価することが適当でないと認められる場合には、個別に課税時期における地価を鑑定評価その他の合理的な方法により算定することがあり、これと同様に、マンションの市場価格の大幅な下落その他本通達の定める評価方法に反映されない事情が存することにより、一室の区分所有権等に係る敷地利用権及び区分所有権の価額について、本通達及び評価基本通達の定める評価方法によって評価することが適当でないと認められる場合にも、個別に課税時期における時価を鑑定評価その他合理的な方法により算定することができます。提供:税経システム研究所
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2024/08/28 相続・贈与税
相続税の重要テーマポイント解説24 (相続税の課税方式が変わる…かもしれない)
Q相続税の課税方式の問題点について説明してください。【ポイント】相続税は「法定相続分課税方式」です。この方式は「遺産課税方式」及び「遺産取得課税方式」の利点を組み合わせた合理的な課税方式と言われていますが、欠点が非常に多くあることから、改正要望が強くなっています。【解説】1相続税の課税方式(1)課税方式の変遷相続税の課税方式について、世界の潮流は「遺産課税方式」「遺産取得課税方式」の2つです。基本的に遺産課税方式はアメリカ・イギリスが採用し、遺産取得課税方式はドイツ・フランスが採用しています。イングランド法を起源とする英米法と、ローマ法を起源とする大陸法との相違が相続税の課税方式の違いにも表れているのでしょう。わが国の相続税は日露戦争の戦費調達の手段として1905年(明治38年)に創設されました。当初は遺産課税方式でしたが、1947年(昭和22年)の民法改正を経て相続税の抜本的見直しが行われ、1950年(昭和25年)シャウプ勧告により遺産取得課税方式が採用されました。しかし、遺産取得課税方式における累進税率の回避のための仮装分割が横行している現状を解消する目的もあり、1958年(昭和33年)法定相続分課税方式に改正され、現在に至っています。細かな改正はあったものの基本的な課税方式を変えることなく66年も経ちました。(2)課税方式の特徴現行の法定相続分課税方式の基本は遺産課税方式及び遺産取得課税方式の利点を組み合わせた大変合理的な方式と言われています。相続税の総額の計算は遺産課税方式を、税額を配分する時は遺産取得課税方式で計算する感じでしょうか。次に各課税方式の特質をあげます。なお「相続人等」とは相続又は遺贈により財産を取得した者のことをいいます。①遺産課税方式②遺産取得課税方式➂法定相続分課税方式(現行の課税方式)(3)法定相続分課税方式の欠陥上記の通り法定相続分課税方式は見逃しにできない欠点、というより欠陥がたくさんあります。欠陥の最たるものは、財産を取得した者、つまり納税義務者が自己の取得した財産の価額を基に納付すべき税額の算出ができないことです。納税者が自己の所得に対する税額が計算できない税制は考えられないでしょう。しかも、他の相続人等が保険金や退職金を受け取っていること、相続開始前の贈与財産の加算があることによって納税額がいつでもいくらでもひっくり返ってしまう税制です。とりわけ法定相続人以外の受遺者にとって、法定相続人に対する数十年前の贈与はあずかり知らぬことです。このような制度が70年近くも運用されていること自体が驚きです。2相続税の課税緩和の基本的な手段(1)贈与による相続税緩和相続税は、本来被相続人が相続開始時に所有していた財産に対して課税されます。しかし、相続税の課税を回避するため、生前に贈与することにより財産を分散させ、課税対象財産を減じることができます。相続税は、所得税の補完税といわれるように、生前の経済活動又は様々な手段による財産の蓄積に対してまとめて課税することを本旨としています。被相続人の財産に課税されようと、相続人が取得した財産に課税されようと税金を支払うのは相続人であることから、生前に被相続人の財産を分散させ、できるだけ課税を回避する対策にのめり込むことになります。そのため、相続税法は生前の財産の分散に対しては高率の贈与税を課税し、歯止めをかけています。ただし、高率の贈与税ではありますが、贈与者の財産に対する想定相続税率より低い税率で贈与し、相続税を緩和する手段は相続税対策の基本です。しかし、このような相続税対策を講じることができるのは、一定の財産を所有する階層であり、本来負担すべき相続税を免れているとの批判もありました。相続税の負担率と、相続を受けた人の過去一定期間における贈与税の負担率を実際の申告を比較した貴重なデータがあります(税制調査会資料)。これによりますと、相続税の対象となる者であっても、相続税の課税価格が3億円以下の場合、贈与税の負担率が相続税の負担率を上回っています。このゾーンには、相続財産の価額にかかわらず相続税対策として生前の贈与が効果的だ、と勘違いしている人たちが相当数いることが想定されます。誤った知識又は無駄なアドバイスによる贈与で、本来納めなくてもよい贈与税を支払っているかもしれません。相続税の課税価格が3億円超の場合、贈与税の負担率が相続税の負担率を下回っていますので、相続税対策を十分に講じていることが分かります。このゾーンの人達は税金のアドバイザーが控えていることが想定され、効果的な贈与をしています。(2)贈与加算の理由被相続人から過去に贈与を受けた財産の価額を、相続税の課税価格に加算します。民法の特別受益の概念を取り入れて、相続税の課税対象とするものです。生前の贈与を効果的に行ったか否かで相続税の課税関係が異なることは、税制としても不都合があることでしょう。そこで生前の贈与財産の価額を相続税の課税価格に加算します。この姿勢は、相続税の創設時から一貫しています。1905年(明治38年)に日露戦争の戦費調達のために相続税が創設されたときに、相続開始前1年以内の贈与財産の価額を相続税の課税価格に加算することとなっていました。その後、相続開始前2年以内、3年以内、3年累積課税等方式の変更はありましたが、加算すること自体は一貫しています。大きく動いたのは2003年(平成15年)の相続時精算課税の創設です。一生涯の贈与財産の価額を加算する新制度であり、暦年課税の特例的な位置付でした。しかも、特別控除2,500万円という大きな飴をぶら下げて鳴り物入りで華々しく登場させたことから、非常に話題となりました。実際、適用開始年である平成15年分以後平成18年分まで適用件数は上昇していました。しかし、近年は長期低迷状態です。「贈与税申告に占める暦年課税。相続時精算課税の件数」(件)(注)2003年から2021年までは財務省、2022年以後は国税庁資料によります。3「資産移転の時期の選択に中立的な税制」の構築(1)「資産移転の時期の選択に中立的」の意味生前に分散した財産の全てを相続税の課税財産に持ち戻して、相続税の税率で計算することが相続税の本質でしょう。贈与がいつ行われたとしても、贈与者の相続税の計算においてその一生涯の贈与財産の価額を加算して相続税の計算をすることを「資産移転の時期の選択に中立的な税制」といいます。一生涯の贈与財産を加算することを「中立的」とすれば、期限を区切った加算は「より中立的」と表現するのでしょう。令和3年度及び令和4年度与党税制改正大綱では「資産移転の時期の選択に中立的」の表現が続きました。令和5年度の税制改正は相続開始前7年以内の贈与を相続税の課税価格に加算することとなりました。大綱では「中立的」が「より中立的」として、この時点で「中立的」であることを微妙に変更しています。相続開始前7年は中立的ではないのでしょう。「より」が入ったことで、今回の改正は暫定的なものであり、将来的に「より」を外す改正がありえます。このことを念頭に置いておく必要があります。「資産移転の時期の選択に中立的な税制」の表現は唐突に出てきたのではなく、相続時精算課税が創設された平成15年の税制改正における「改正税法のすべて」において次のように解説されています。「…将来において相続関係に入る一定の親子間の資産移転について、生前における贈与と相続の間で、資産の移転時期の選択に対する課税の中立性を確保することにより、生前における贈与による資産の移転の円滑化に資することを目的として…」つまり、平成15年度の相続時精算課税の創設の時から相続税及び贈与税の一体課税が定められていることが推認されます。「資産移転の時期の選択に中立的」という理解しにくい表現ですが、要は贈与が何時いくらで行われようと、贈与者の相続開始の時に贈与財産をすべて相続税の課税価格に加算して相続税の税率で賦課するという「贈与税・相続税一体課税」のことをいいます。(2)各国の課税方式我が国の加算方式について考えるに、従前の暦年課税は相続開始前3年以内なので「中立的」とは言えません。アメリカでは一生涯の加算、ドイツでは相続開始前10年以内の加算となっており、欧米諸国と比較すると加算期間が非常に短いことが分かります。また相続時精算課税は、相続時精算課税選択をした年分以降は「より中立的」となりますが、選択は受贈者の選択になることから制度としては中途半端なものであり、そもそも相続税対策の手段とはならない制度です。日本及び欧米諸国の課税方式は次の通りです。(3)令和5年度の改正の概要令和5年度の税制改正において、相続税及び贈与税の見直しが行われ、暦年課税及び相続時精算課税が次のように改正されました。これは「資産移転の時期の選択に中立的な税制」の構築の一環です。将来的には、相続税及び贈与税の一体課税を目指しているのでしょう。暦年課税の加算を厳しく、相続時精算課税の加算を緩く構築されている飴と鞭の改正です。令和6年1月1日以後に贈与を受けた財産について適用されます。相続税の課税価格に加算する暦年課税の贈与財産の価額従前の相続開始前3年以内を4年延伸し、相続開始前7年以内に贈与により取得した財産の価額を、相続税の課税価格に加算する。相続開始前3年を超え、相続開始前7年以内の期間に贈与により取得した財産の価額の合計額から100万円を控除した残りの金額を相続税の課税価格に加算する。少額な贈与財産についても加算の対象であることに留意する。基礎控除以下の金額についても加算の対象である。相続時精算課税の基礎控除の創設相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与を受けた場合、基礎控除110万円を適用できることとなった。特定贈与者の相続財産には、基礎控除額を適用した残額を加算する。4相続税の課税方式の見直しの可能性(1)近年の相続税の課税方式の見直し相続税には課税割合というデータがあります。1年間に死亡した人のうちに相続税を納付した相続人が1人でもいる場合の被相続人の数の割合のことです。課税割合は、地価が異常に高騰したバブル経済ピークの平成3年に6.8%でしたが、平成16年以降は4.2%まで落ち込みました。課税割合を確保する目的もあり、課税方式を根本的に見直し、遺産取得課税方式に改正する機運が高まり、ほぼ「遺産取得課税方式」に決まりかけました。結局、見直すことが見直され、数年後に基礎控除が4割カットされただけで終わった経緯があります。(2)近時の傾向現行の課税方式についての議論がないまま今に至りますが、2023年(令和5年)の半ばから、次の情報が立て続けに公表されました。いよいよ本格的に課税方式が見直される方向に舵を切った感じです。税制調査会(令和5年6月30日)「現行の課税方式では、自らの納税額の計算において、他の相続人の影響を受けてしまう。実際に移転を受けた財産額に応じた課税や、相続税の目的の一つである富の集中の抑制や資産格差の是正といった観点からは、遺産取得課税方式に移行することが適当ではないか」日税連「令和6年度税制改正に関する建議書」(令和5年6月22日)「現行の法定相続分課税方式は、全ての財産が把握できない場合には適正な申告を行うことができないことや水平的公平が担保されないことなどの問題点が指摘されている。さらに近年では、個人の権利意識の高まりにより自己の相続分に応じた税負担を重視する傾向がみられるとともに、生命保険金等のみなし相続財産がある場合にその内容を他の相続人に知られることや親族以外の者が事業承継税制を適用した場合には、親族以外の者にその相続全体の内容が知られることの問題が生じている。そのため相続税の課税方式については、資産移転時期の選択に中立的な税制を構築していくうえでも遺産取得課税方式の導入を視野に入れて、今後検討すべきである。」東京税理士会「令和7年度税制及び税務行政の改正に関する意見書」(令和6年3月19日)「…課税方式変更前後での税収中立の実現、及び事業承継者等の税負担を考慮した上で、現行の課税方式から相続人等が取得した財産のみで税額を確定し申告できる方式「(完全)遺産取得課税方式」に変更すべきである。」近畿税理士会「令和7年度税制改正に関する意見書」(令和6年3月28日)「個人の権利意識が高まり、各相続人が相続財産を実際に分割することが定着した現在においては、遺産の仮装分割の問題は生じにくくなっていることも踏まえ、相続税の課税方式は純粋な遺産取得課税方式に変更すべきである。」(3)見直しの理由「資産移転の時期の選択に中立的な税制」が構築されつつある令和5年度の税制改正の方向性から、見直しは必須です。見直し理由は様々挙げられていますが、現行の課税方式の大きな欠陥を是正することに尽きます。相続開始前3年以内の贈与については被相続人の預金の動き等からある程度推測することはできます。しかし、相続税の申告に当たって7年前の贈与について一つ一つ確認することは煩雑な作業です。また20年30年前の相続時精算課税の申告について相続人に確認してもまず覚えていないでしょう。相続時精算課税を勧めて申告した税理士にとっても、数十年後の相続の時の対応まで責任は持てません。贈与税の申告がある場合、相続税法第49条第1項の規定に基づく開示請求により過去の申告情報を得ることができます。しかし、贈与加算期間が延伸したことで、確実な相続税の申告書を作成するには全案件を開示請求しなければならない事態になるでしょう。これは、税理士にとってとんでもない作業になり、税務署の事務の阻害ともなることでしょう。遺産取得課税方式であれば、納税者個人が申告を是正すればよく、他の相続人に影響を及ぼしません。原則として当初申告で相続税額が確定します。また、相続財産の漏れがあったとしても、その財産を取得した者が修正申告すればよくなります。将来の申告作業の簡便さのことも考えれば、課税方式の見直しは必須と言えます。提供:税経システム研究所
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2024/08/21 消費税
令和6年度消費税改正② 仕入税額控除の制限
1.はじめに令和6年度税制改正では、仕入税額控除に関して、次の2つの制限が設けられました。免税事業者等からの仕入れに係る経過措置の適用の制限免税品と知りながら行った課税仕入れに係る仕入税額控除の制限今回は、この2つの仕入税額控除の制限について、見ていきます。2.免税事業者等からの仕入れに係る経過措置の適用の制限(1)免税事業者等からの仕入れに係る経過措置の概要(改正前)課税事業者が、適格請求書発行事業者以外の者(以下「免税事業者等」といいます。)から行った課税仕入れについて、帳簿及び請求書等(区分記載請求書等)を保存している場合には、次の①と②の経過措置が定められています(平成28年改正法附則52①、53①、〔図表〕参照)。令和5年10月1日から令和8年9月30日までの間に国内において免税事業者等から行った課税仕入れについては、課税仕入れに係る消費税額相当額に80%を乗じた額が仕入税額控除の対象となります。令和8年10月1日から令和11年9月30日までの間に国内において免税事業者等から行った課税仕入れについては、課税仕入れに係る消費税額相当額に50%を乗じた額が仕入税額控除の対象となります。〔図表〕免税事業者等からの仕入れに係る経過措置(2)改正の趣旨免税事業者等を利用した租税回避行為を防止するため、一の免税事業者等からの高額な課税仕入れについて、経過措置(80%控除・50%控除)の金額制限を設けることとなりました。(3)改正内容一の免税事業者等から行う経過措置(80%控除・50%控除)の対象となる課税仕入れの合計額(税込金額)がその事業年度(個人事業者はその年)で10億円を超える場合には、その超えた部分の課税仕入れについて、経過措置(80%控除・50%控除)の適用を受けることができないこととなりました(平成28年改正法附則52①)。(4)改正時期上記(3)の改正は、令和6年10月1日以後に開始する課税期間について、適用します(令和6年改正法附則63)。3.免税品と知りながら行った課税仕入れに係る仕入税額控除の制限(1)仕入税額控除の概要(改正前)課税事業者が、国内において行う課税仕入れについて、帳簿及び請求書等(適格請求書又は適格簡易請求書)を保存している場合には、仕入税額控除の適用があります(消法30①⑦)。ただし、請求書等の交付を受けることが困難であるなどの理由により、一定の取引については、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められています(消令49①、消規15の4)。また、免税事業者等からの課税仕入れについては、上記2(1)の「免税事業者等からの仕入れに係る経過措置」による仕入税額控除の適用があります。これらの規定により、外国人旅行者からの国内において行う課税仕入れについても、仕入税額控除が可能な取扱いとなっています。(2)改正の趣旨輸出物品販売場(いわゆる免税店)による免税販売手続が電子化され、国税庁において購入記録情報をデータで把握することが可能となったことにより、外国人旅行者による国内での譲渡・横流しが疑われる免税販売・購入の実態が明らかになりました。こうした不正に対応するため、課税事業者が、免税購入品(消費税が免除された物品)であることを知りながら仕入れた場合には、仕入税額控除が制限されることとなりました。(3)改正内容課税事業者が、輸出物品販売場で消費税が免除された物品であることを知りながら、その物品を仕入れた場合、その課税仕入れに係る消費税額について、仕入税額控除の適用を受けることができないこととされました(消法30⑫)。(4)改正時期上記(3)の改正は、令和6年4月1日以後に国内において事業者が行う課税仕入れについて、適用します(令和6年改正法附則13⑨)。提供:税経システム研究所
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2024/08/09 経営・運営医療業務
医療法人機関シリーズ(第17回)
前回触れたように、医療法人は都道府県知事の認可主義です。そこで今回は、都道府県の医療審議会について、以下の通知文書に沿って説明します。(フローチャートと〔〕内は筆者加筆)【改正後全文】健政発第410号昭和61年6月26日最終改正医政発0330第33号平成30年3月30日各都道府県知事殿厚生労働省医政局長医療法人制度の改正及び都道府県医療審議会について昨年12月27日法律第109号をもって公布された医療法の一部を改正する法律(以下「改正法」という。)のうち、医療法人の役員、医療法人の指導監督に関する規定、新たに設置される医療審議会及び都道府県医療審議会等に関する規定については、本年6月27日から施行され、医師又は歯科医師が常時一人又は二人勤務する診療所を開設する医療法人、複数の都道府県において病院又は診療所を開設する医療法人に係る特例に関する規定については、医療法の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令(昭和61年政令第213号。以下「施行期日政令」という。別添1参照。)により、本年10月1日から施行されることとなった。これに伴い、医療法施行令等の一部を改正する等の政令(昭和61年政令第214号。以下「改正政令」という。別添2参照。)が本年6月17日に、医療法施行規則の一部を改正する省令(昭和61年厚生省令第36号。以下「改正省令」という。別添3参照。)が本年6月25日にそれぞれ公布されたところである。これらの施行に当たっては、特に左記事項に留意の上、その運用に遺憾なきを期されたい。なお、医療計画に関する事項については、追って通知する予定である。記第一医療法人制度に関する事項1(削除)2医師又は歯科医師が常時一人又は二人勤務する診療所を開設する医療法人医師又は歯科医師が常時一人又は二人勤務する診療所を開設しようとする社団又は財団についても医療法人の設立ができるものとされたこと。今後とも、医療事業の経営の合理化、組織の適正化を図る観点から医療法人の設立に係る指導を行われたいこと。〔すなわち、いわゆる1人医療法人のことをいう。〕3医療法人の設立に係る手続等医療法人の設立に係る手続等について次のように改めることとしたこと。医療法人の定款例及び寄附行為例について〔出資持分有り〕医療法人の定款例(及び寄附行為例)を別添のとおり定めることとしたこと。設立認可申請の提出書類について規則第31条第3号に掲げる設立決議録のうち、他の申請書類と重複するものについては、その旨を記載した上で提出を省略することができるものとすること。既に法第7条の規定に基づき〔開設〕許可を受け、又は法第8条の規定に基づき〔医師(歯科医師)が開設の〕届出をした病院又は診療所を経営することを目的とする医療法人の設立の申請をしようとする場合は、規則第31条第5号に掲げる当該病院又は診療所の敷地及び建物の構造設備に関する事項を省略した書類に代えることができるものとすること。〔一般的には既に開設許可を受けています。〕4医療法人の理事数法第46条の5第1項ただし書の規定に基づ〔き理事について一人又は二人の〕都道府県知事の認可〔を受けた場合〕は、医師又は歯科医師が常時一人又は二人勤務する診療所を一箇所のみ開設する医療法人に限り行われるものとすること。その場合においても、可能な限り、理事二人を置くことが望ましいこと。5医療法人の理事長法第46条の6第1項〔理事長の選出〕の規定の趣旨は、医師又は歯科医師でない者の実質的な支配下にある医療法人において、医学的知識の欠落に起因し問題が惹起されるような事態を未然に防止しようとするものであること。〔すなわち理事長は原則医師又は歯科医師とする。〕同項ただし書の規定に基づく都道府県知事の認可は、理事長が死亡し、又は重度の傷病により理事長の職務を継続することが不可能となった際に、その子女が、医科又は歯科大学(医学部又は歯学部)在学中か、又は卒業後、臨床研修その他の研修を終えるまでの間、医師又は歯科医師でない配偶者等が理事長に就任しようとするような場合には、行われるものであること。〔すなわち、例外として医師又は歯科医師でない理事長の選出です。〕次に掲げるいずれかに該当する医療法人については、同項ただし書の規定に基づく都道府県知事の認可が行われるものであること。〔次に掲げる医療法人には、上記(2)要件はありません。〕特定医療法人又は社会医療法人地域医療支援病院を経営している医療法人公益財団法人日本医療機能評価機構が行う病院機能評価による認定を受けた医療機関を経営している医療法人(3)に掲げる要件に該当する以外の医療法人については、候補者の経歴、理事会構成(医師又は歯科医師の占める割合が一定以上であることや、親族関係など特殊の関係のある者の占める割合が一定以下であること。)等を総合的に勘案し、適正かつ安定的な法人運営を損なうおそれがないと認められる場合には、都道府県知事の認可が行われるものであること。〔すなわち(3)に該当する医療法人には、この適用はありません。また、診療所にあっては医師1人以上、病院にあっては医師3人以上が要件となります。〕この場合、認可の可否に関する審査に際しては、あらかじめ都道府県医療審議会の意見を聴くこと。(3)及び(4)の取扱いに当たっては、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号)第2条第2号に規定する組織の構成員又は関係者が役員に就任していないこと、また、就任するおそれがないことを十分確認すること。〔最近このような事例を見聞します。〕6病院、診療所、介護老人保健施設又は介護医療院(以下「病院等」という。)の〔管理者の〕理事就任〔法第46条の5第6項〕法第46条の5第6項の規定の趣旨は、医療施設において医療業務に関する実質的な責任を有している管理者の意向を法人の運営に正しく反映させることを目的としたものであること。〔管理者は一般的には院長と呼ばれ、原則として理事就任となります。〕2以上の病院等を開設する場合における同項ただし書の規定に基づく都道府県知事の認可は、病院等の立地及び機能等を総合的に勘案し、同項の規定の趣旨を踏まえた法人運営が行われると認められるときに行われるものであること(例えば、病院等が隣接し業務に緊密な連携がある場合や病院等が法人の主たる事務所から遠隔地にある場合などが考えられるが、これらに限定されるものではないこと。)。なお、恣意的な理由ではなく、社員総会等の議決など正当な手続きを経ていること等を確認すること。〔原則として分院の管理者を理事に加えなければなりませんが、ただし書きで分院管理者を理事に加えない場合の知事の認可です。〕同項ただし書の規定に基づく認可について、医療法人の定款又は寄附行為において、理事に加えないことができる管理者が管理する病院等を明らかにしているときは、当該病院等の管理者が交替した場合でも当該認可は継続できるものとすること。〔上記(2)の継続は可能ということ。〕7(削除)8医療法人の会計年度法第53条ただし書の規定に基づき、会計年度の区分を変更する場合において、その変更が行われる会計年度の終期については、変更後の会計年度の終期と同一の月日としても差し支えないこと。〔医療法人の会計年度は原則4月1日~翌年3月31日の1年間としています。ただし、定款等に別段の定めを認める。ただし会計年度は、基本は1年間です。〕9医療法人の事務所への立入検査及び医療法人に対する改善命令法第63条又は法第64条に規定する「運営が著しく適正を欠く」場合とは、附帯業務に多額の投資を行うことによって法人の経営状態が悪化する等法人の附帯業務の継続が法人本来の業務である病院等の経営に支障があると認められる場合や法人の資金を役員個人又は関連企業に不当に流用し、病院等の経営の悪化を招いていると認められる場合等をいうものであること。〔診療所の場合は、ほとんど医療法人の事務所への立入検査は見受けませんが、病院の場合には、決算書の内容をチェックし数年に1回医療法人の立入検査があります。〕法第63条第2項の規定に基づき、医療法人の事務所に立ち入り、業務若しくは会計の状況を検査する職員の身分を示す証票の様式を新たに定めたこと。また、法第64条の規定に基づく「必要な措置」の例として、不動産の買占め、不動産賃貸業等附帯業務の範囲を超える事業を行っている場合のその事業の中止、附帯業務の継続が、法人本来の業務である病院等の運営に支障があると認められる場合のその附帯業務の中止、縮小等が考えられること。〔理事長への舎宅貸付は十分注意して下さい。投資有価証券の保有は基本的には認められません。医療法人の附帯業務(法42条)は、その業務に支障のない限り、定款等の定めるところにより一定の業務を行うことができることとされているが、この事例の附帯業務は認められていません。〕10医療法人の役員の変更の届出医療法施行令第5条の13の規定により、役員の変更があった場合には、都道府県知事に対し、その役員に係る就任承諾書及び履歴書を届け出る(すなわち認可は不要)ものとされたこと。この届出の受理に当たっては、変更後の役員について法第46条の5第5項により準用する法第46条の4第2項に規定する欠格事由の有無について確認されたいこと。〔すなわち、次の者は医療法人の役員になることができません。①法人②心身の故障者で一定の者③医師法(歯科医師法)で罰金以上の刑に処せられ一定の者④禁錮以上の刑に処せられた者―よって、医師(又は歯科医師)で自己破産をした者は役員就任が可能です。〕第二都道府県医療審議会に関する事項1改正政令において、都道府県医療審議会の組織及び運営に関し必要な事項が定められたこと。都道府県医療審議会の委員の人数、専門委員の設置及びその人数並びに部会については、各都道府県においてそれぞれの実情に即し判断されたいこと。都道府県医療審議会の委員構成については、以下の点に留意されたいこと。医師、歯科医師、薬剤師としては、医師会、歯科医師会又は薬剤師会を代表する者のほか、公・私立の病院又は医療法人の経営に携わっている者を加えるよう配慮すること。医療を受ける立場にある者としては、市町村の代表者、医療保険の保険者を代表する者等を加えることが考えられること。学識経験のある者としては、医学、公衆衛生をはじめ、看護、病院の管理、救急業務その他医療に関する事項についての学識経験者を加えることが考えられること。専門委員については、専門の事項を調査審議するため必要がある場合には、医療に関する専門家等を充てる趣旨であること。〔上記の人材の集合に成ることから、年2回位が都道府県医療審議会の開催と考えられます。〕部会については、例えば、医師又は歯科医師が常時一人又は二人勤務する診療所を開設する医療法人に係る設立認可に当たっての意見聴取等医療法人に係る審議案件が急増することが予想される場合に、医療法人部会を設け、同部会の決議をもって審議会の決議とすることが考えられること。〔定款変更のみ審議要件には入っていません。〕2医療機関整備審議会の廃止に関する規定の施行日については、施行期日政令により、本年8月1日とされたので、同審議会に係る条例の廃止等所要の措置を講じられたいこと。(前回より再掲)医療法人の運用は知事の認可主義次のように医療法人は①社員総会の同意を得る手続を経ての②知事の認可主義であり、かつ都道府県知事は③医療審議会での審議をすること〔医療審議会は年2回と考えられる。〕が基本です。提供:税経システム研究所
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2024/08/06 医療業務相続・贈与税
認定医療法人の認定要件のうちの運営要件について その1
1.認定医療法人の認定を受けるための要件持分ありの医療法人が持分なしの医療法人へ移行するための促進策として平成26年に創設された認定医療法人制度(医療法上の制度)及びこれと関連して医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予制度(税法上の制度)は、平成29年に医療法及び税法の改正が行われ、さらに令和5年度税制改正で適用期限が令和8年12月31日まで延長され、医療法改正においては、認定を受けてから持分なしに移行するまでの移行計画期間が3年から5年に延長されています。認定医療法人の認定を受けるには、社員総会の議決があること移行計画が有効かつ適正であること上記の移行計画において、移行計画期間が5年以内とされていること法人の運営が適正であること以上の4つの要件を満たさなければなりません(医療法附則第10条の3)。このうち④の「運営が適正であること」については、次の8つの要件(これを運営要件といいます)を満たす必要があります(医療法施行規則附則第57条の2第1項第1号及び第2号)。法人関係者に特別の利益を与えないこと(第1号イ)役員に対する報酬等が不当に高額にならないような支払基準を定めていること(第1号ロ)株式会社等に特別の利益を与えないこと(第1号ハ)遊休財産額は、事業に係る費用の額を超えないこと(第1号ニ)法令違反、隠ぺい等の事実その他公益に反する事実がないこと(第1号ホ)社会保険診療収入(介護保険給付収入、助産に係る収入、予防接種収入も含む)が全収入の80%超であること(第2号イ)自費請求金額は、保険診療と同一の基準(単価)によること(第2号ロ)医業収入が医業費用の150%以内であること(第2号ハ)更に、上記の運営要件は持分なしの法人へ移行した後6年間維持しなければなりません。そのため運営要件を満たしているかどうかの状況を6年間にわたり、毎年厚生労働省へ報告することも義務付けられています(医療法附則10条の8)。そして、6年を経過する日までの間に運営要件を満たさない事項が生じ、認定が取り消された場合には、当該医療法人に対して贈与税が課されることになります。なぜそうなるかというと、持分なしの医療法人に移行するために出資者は持分を放棄することになりますが、その放棄によって医療法人に生じた経済的利益(出資者に払い戻す義務がなくなったことによる利益、いうならば払戻義務免除益)に対して相続税法第66条4項が適用され、法人を個人とみなして贈与税が課されることになります。これについて、医療法に規定する認定医療法人の認定を受けた医療法人は、税法上の「医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予制度」の適用を受けることができ、持分の放棄があったときに、法人としてこの制度の適用を受ける旨を記載した贈与税の申告書(納付額をゼロとして)を提出します。その後、要件を満たさないことになり認定医療法人の認定を取消された時は、この贈与税の申告書について修正申告をしなければならないというわけです。認定が取り消されたのだから、持分ありの医療法人に戻るのではないか、とはなりません。持分なしの医療法人に移行してしまっていますから、医療法による「持分のない医療法人は持分のある医療法人に移行することはできない」という規定が働き、もう戻ることはできません。戻れないからこそ、贈与税がかかってくるのです。持分なしの医療法人への移行について慎重に検討する必要があるといわれるのは、いったん移行するともう後戻りはできない、という規定があるからです。今回は、認定医療法人の認定要件の1つである「8つの運営要件」のうち、イ法人関係者に特別の利益を与えないこと、ロ役員に対する報酬等が不当に高額にならないような支払基準を定めていること、ハ株式会社等に特別の利益を与えないこと、ニ遊休財産額は事業に係る費用の額を超えないこと、の4項目について、その内容を見ていきます。2.イ法人関係者に特別の利益を与えないこと及びハ株式会社等に特別の利益をあたえないこと(医療法施行規則附則第57条の2第1項第1号イ及びハ)これは社員、役員、使用人その他法人関係者及び株式会社や特定の個人、団体等に対して、特別の利益を与える行為を行ってはならないということです。なお、過去にそういう行為があったとしても、認可申請段階で解消されていれば問題ありません。このイ及びハの項目について提出する報告書は次のような様式です。上記の報告書を提出するときは、すべての項目について「無」に該当しないと要件を満たさないことになります。なお、「有」に該当する行為として、次の参考事例が示されています。3.ロ役員に対する報酬等が不当に高額にならないような支払基準を定めていること(医療法施行規則附則第57条の2第1項第1号ロ)ここにいう「報酬等」とは、報酬、賞与、その他の職務遂行の対価として受ける財産上の利益及び退職手当をいうとされています。なお、認可申請時点で、不当に高額でない水準に下げた報酬規程等が適用されていれば問題はありません。具体的な金額の明示はありませんが、参考として特定医療法人の認定基準が示されています。「役員一人につき年間の給与総額(俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与の総額)が3,600万円を超えないこと」このロの項目について提出する報告書は次のような様式です。4.ニ遊休財産額は、事業に係る費用の額を超えないこと(医療法施行規則附則第57条の2第1項第1号ニ)これは、毎会計年度末の遊休財産額が、直近に終了した会計年度の損益計算書に計上した事業(付帯業務は除く)に係る費用の額を超えてはならない、というもので、逆にいえば本来業務の事業費用の額までは遊休財産額の保有は可能としたものです。遊休財産額とは何か、算式的に一言でいえば、資産の総額から遊休財産額とはならない財産の総額を控除した残額を遊休財産額とする、ということになります。では「遊休財産額とはならない財産」とは何か、これについては次の財産とされています。本来業務の用に供する財産附帯業務の用に供する財産(付帯業務は計算上除くため)本来業務及び付帯業務を行うために保有する財産減価償却引当特定預金特定事業準備資金したがって、遊休財産額=資産の総額-(①+②+③+④+⑤)となります。上記の①から⑤までの合計額を「控除対象財産額」といいます。そして上記の金額に純資産割合(純資産額÷資産の総額で算出した割合)を乗じた金額を、ここでいう遊休財産額とみなし、この金額が事業費用を超えてはならないとしています。なぜ純資産割合を乗ずるのかということについては、おそらく遊休財産の取得に係る債務(借入金等)もあることも予想されるので、それら債務の額を差引いて純額の遊休財産額を算出するための便宜的算式ではないのかなと思われます。このニの項目について提出する報告書は次のような様式です。E遊休財産額≦F事業費用の額になるように記載する必要があります。次回は、残りの4つの運営要件の内容を見ます。提供:税経システム研究所
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2024/08/01 公益法人経営・運営
社会福祉連携推進法人の運営と会計制度(第12回)
前回以前より、令和2年の6月の「地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律」の公布を受けて、「社会福祉連携推進法人の運営の在り方等に関する検討会」の設置について言及しました。この検討会は、令和3年の5月に論点整理の取りまとめが行われました。今回は、社会福祉連携推進法人が法制化され、当時に会計基準が制定されていることから、その概要をお示しいたし致します。1.社会福祉連携推進法人会計基準の概要社会福祉連携推進法人会計基準は、令和3年11月12日に制定されました。基本的に、平成28年3月31日に交布された省令である社会福祉法人会計基準に準拠しています。社会福祉連携推進法人会計基準が制定された背景には、人口動態の変化や福祉ニーズの複雑化・複合化の中といった社会福祉法人と取り巻く経営環境の変化により、社会福祉法人の経営基盤を強化する等の目的から、社会福祉連携推進法人(以下、「連携法人」という。)を創設する必要性があったからです。この連携法人制度が令和4年4月1日から開始されています。2.社会福祉法人会計基準と社会福祉連携推進法人会計基準の相違点社会福法人会計基準と社会福祉連携推進法人会計基準は、それぞれ厚生労働省令により示されています。両基準の構成については、以下の通りとなります。図表1社会福祉法人会計基準(省令79号)社会福祉連携推進法人会計基準(省令177号)第一章総則(第一条-第二条の三)第二章会計帳簿(第三条-第六条)第三章計算関係書類第一節総則(第七条-第十一条)第二節資金収支計算書(第十二条-第十八条)第三節事業活動計算書(第十九条-第二十四条)第四節貸借対照表(第二十五条-第二十八条)第五節計算書類の注記(第二十九条)第六節附属明細書(第三十条)第四章財産目録(第三十一条-第三十四条)附則第一章総則(第一条-第四条)第二章会計帳簿(第五条-第八条)第三章計算関係書類第一節総則(第九条-第十一条)第二節貸借対照表(第十二条-第十四条)第三節損益計算書(第十五条-第十九条)第四節計算書類の注記(第二十条)第五節附属明細書(第二十一条)第四章財産目録(第二十二条-第二十五条)附則上記図表1に示すように、一見すると同様の構成に見えますが、根本的に異なるのは、法人格から派生する会計上の取扱いです。社会福祉法人会計基準は、社会福祉法(以下、「法」という。)を根拠とする社会福祉法人としての法人格を持ち、一方で社会福祉連携法人会計基準は、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律の一般社団法人(以下、「法人法」という。)をその根拠としています。また、社会福祉連携推進法人会計基準は、法人法に定めのない会計ルールについて社会福祉法人会計基準を斟酌して作られているといえます。両会計基準は、図表1において第三章第一節までは基本的に同様です。しかしながら、計算書類の構造が異なります。つまり、社会福祉法人会計基準では、計算書類を資金収支計算書、事業活動計算書及び貸借対照表として捉え、社会福祉連携推進法人会計基準は、貸借対照表と損益計算書を計算書類として位置付けています。社会福祉法人会計基準の計算書類は、いわゆる財務3表で構成されています。これは、社会福祉法人は予算準拠主義に基づく経営をしているため、資金収支計算書を重要視していることに他なりません。一方、社会福祉連携推進法人会計基準は、法人法の会計に関する規程により計算書類を定義しているのですが、これは、法人法が会社法を基本として制定されているためです。また、社会福祉連携推進法人会計基準を適用する一般社団法人は、社会福祉法第125条による認定を受けると社会福祉連携推進目的事業財産に関する計算を厚生労働省令に基づいて計算することになります。これは、一般社団法人が公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(平成18年6月2日法律第49号)の4条の公益認定を受けて、同法(以下、「認定法」という。)の第18条による公益目的事業財産に関する計算を内閣府令により行うという考え方を踏襲しています。このように考えると、社会福祉連携推進法人会計基準は、一義的には社会福祉法人会計基準を斟酌しているものの、法人法に関連して制定されたいわゆる公益法人改革関連3法の一つである認定法とその関連法令を理解して実務対応する必要性があると言えます。提供:税経システム研究所
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