税務情報レポート
MJS税経システム研究所・税務システム研究会の顧問・客員研究員による租税を中心とした多彩な研究成果および最新の税制改正および制度や動向、判例研究等に関するリポートです。
1720 件の結果のうち、 1 から 10 までを表示
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2025/10/21 所得税相続・贈与税医療業務
払戻請求権の相続税と所得税課税
1.はじめに医療法人の出資に係る払戻請求権の相続税課税と、被相続人に対する準確定申告によるみなし配当所得課税については、実務においてその取扱いを誤るケースが出てきているのではないかと思われます。その背景には、払戻請求権を取得した相続人にとっては、その権利を行使する以外に相続によって得た経済的価値を実現させる方法がない、ということがあるからだろうと思います。特に医療法人の出資の評価は高額になることが多く(剰余金の配当が禁止されているため)、払戻しがないまま相続税と所得税の両方を負担するのは厳しいと言わざるを得ません。そこで、みなし配当所得課税について準確定申告ではなく、払戻しが実現するまで課税を繰り延べる扱いにできないものなのか、過去の相続税と所得税の二重課税事件の判決を見ながら考えてみたいと思います。2.現状の取扱い死亡により社員資格を喪失した社員(被相続人)は、法人の財産のうち出資額に応ずる分の払戻しを請求する権利を取得することになります。この権利(払戻請求権)は相続財産の課税対象となり、取得した相続人に対して相続税が課されることになります。一方、この払戻請求権のうち出資額を超える部分はみなし配当所得とされ被相続人の所得として準確定申告において配当所得として所得税の課税対象となります。つまり、相続によって得た払戻請求権という経済的利得に対して相続人に相続税を課し、一方払戻請求権のうちみなし配当とされた部分に対しては被相続人に所得税を課す、という取扱いになっています。一見すると二重課税のように見えますが、納税者は相続税については相続人、所得税については被相続人であり、同一納税者ではありません。ただ、払戻請求権の評価額は出資額とそれを超える部分つまりみなし配当部分との合計額であり、みなし配当部分について、納税者が異なるとはいえ相続税と所得税の両方が課せられるのは、所得税法第9条(非課税所得)1項17号(相続等により取得したものには所得税を課さない)に違反するのではないか、あるいは所得税法第67条の4の規定により、未実現の配当は被相続人の所得とせず、相続人において実現した段階で相続人に課税するとして、課税の繰り延べを認めるべきではないか、という印象を多くの人が持つだろうと思います。これらの印象(疑問)に対して、過去の判例ではどう判示されたかを見てみたいと思います。3.生保年金二重課税事件(最高裁平成22年7月6日判決)これは年金払い特約付き生命保険契約に基づいて、死亡時4000万円と年金受給権(年230万×10年評価額1,380万円)を相続税申告において計上したあと、年金受給権に基づいて相続人に毎年支払われる年金230万円について雑所得として更正処分された事件です。年金230万円について、課税庁の主張と裁判所の判決は次のとおりです。課税庁基本権たる年金受給権に基づく権利ではあるが、一定期日の到来によって生み出された支分権、すなわち基本権とは異なる権利に基づいて取得した現金であり、雑所得として課税される。長崎地裁本件年金は、これが行使されることによって基本的な権利である年金受給権が徐々に消滅していく関係にある。相続税法による年金受給権の評価は、将来にわたって受け取る各年金の当該取得時における経済的な利益を現価に引き直したものであるから、これに対して相続税を課税した上、さらに個々の年金に所得税を課税することは、実質的・経済的に同一の資産に関して二重に課税するものであることは明らかである。福岡高裁本件年金は、本件年金受給権とは法的に異なるものであり、被相続人の死亡後に支分権に基づいて発生したものである。年金受給権の取得と個々の年金の取得とは別個の側面があり、年金受給権の取得に相続税を課し、個々の年金の取得に所得税を課することを、二重に課税するものということはできない。最高裁相続税法第3条の「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの」とは「相続等に取得し又は取得したものとみなされる財産そのものを指すのではなく、当該財産の取得によりその者に帰属する所得を指すものと解される。支分権に基づいて支給を受ける年金額のうち相続時における現在価値に相当する部分は、相続税の課税対象となる経済的価値と同一のものということができ、所得税の課税対象とはならない。この最高裁の判決は、二重課税の存在を認めたものであり、これまでの見解と異なる画期的なものでした。4.相続税とみなし配当所得(大阪地裁平成27年4月14日判決納税者敗訴)これは、相続した株式の発行会社から交付を受けた残余財産分配金のうち、みなし配当とされた部分については、相続により取得した残余財産分配金を受ける権利が実現したものの一部にすぎず、所得税法第9条第1項17号(相続等により取得したものには所得税を課さない)の適用を受けるか否かで争われた事件です。大阪地裁みなし配当課税は法人に留保されていた利益を残余財産の分配として取得したものを課税対象とするものであり、当該法人の株式を相続人が相続した場合におけるその株式についての相続税の課税とは課税対象を異にするものである。上記のみなし配当課税は留保されていた利益の分配を原因として実現した経済的利益を課税の原因とするものであるから、その対象となる経済的利益は、非課税規定にいう相続等を原因として取得したものということはできない。つまり、相続税の課税対象である残余財産の分配を受ける権利と、所得税の課税対象である残余財産の分配として取得した経済的利益は、同一のものではない。しかし、上記3で紹介した生保年金二重課税事件における最高裁の判決は、年金受給権とそれに基づいて支払われる年金は、法的に異なるものであっても経済的価値は同一であるとしていますから、異なる見解になっています。5.相続税と配当期待権(大阪地裁令和3年11月26日判決納税者敗訴)配当期待権とは、配当基準日の翌日以後から配当確定日(総会決議)までの間に株主が死亡した場合、配当を受ける権利は相続人が引き継ぎ、被相続人に代わって配当を受ける権利をいいますが、この事件は、配当期待権に係る配当所得は相続人に帰属するのであるから相続税の課税財産にはあたらないか否かで争われた事件です。大阪地裁原告は、配当期待権に係る配当所得は相続人に帰属するのであるから相続税の課税財産にはあたらないと主張するが、配当期待権を相続税の対象とし、実際に支払いを受けた配当金を相続人の所得税の対象とすること(二重課税の問題)については、配当期待権が相続税の課税財産に当たるかという問題と二重課税が許容されるかどうかという問題は別個の問題である。所得税法67条の4は、未実現の配当を被相続人の所得とせず、相続人において実現した段階で相続人に課税するという課税の繰り延べを規定していると解される。相続人に対し、配当期待権を課税財産として相続税を課し、相続開始後に実現した配当所得に所得税を課しても、違法な二重課税にはあたらない。大阪地裁はこのように判示していますが、それでは配当期待権の相続税評価額は源泉徴収されるべき金額を控除した金額とされているけれども、この源泉徴収はどうとらえたらよいのでしょうか。実現した配当所得とは別物であるならば、配当期待権の相続税評価額は源泉徴収控除前の価額でなければならないのではないでしょうか。6.払戻請求権の評価額のうちのみなし配当部分について定款において社員資格を喪失した出資者は出資に応じた払戻しを請求することができるとされていることから、死亡した時点で「出資」は確定した金銭債権という払戻し請求権に代わっていると捉え、そのため被相続人へのみなし配当所得課税が出てくるのですが(権利確定主義を根拠に、払戻請求権が行使されておらず実現されていなくとも死亡した時点でみなし配当所得の実現があったものとして、被相続人にみなし配当所得が生じるとした令和6年6月22日名古屋地裁判決もあります)、一方で、相続人が(法人の社員であることが前提ですが)払戻請求権を行使せず、被相続人の出資を承継した場合には、被相続人に対する配当所得課税は強いて行わないとされています。このような扱いをしているのは、おそらく被相続人から相続により取得した「出資」が、払戻しを受けるだけの権利であるのか、出資持分に相当する権利であるのか、実態に応じて判断すべきとしているからではないかと思います。所得税法第67条の4は、相続等により利子所得、配当所得、一時所得又は雑所得の起因となる資産を取得した場合における当該金利子所得、配当所得、一時所得又は雑所得の金額の計算については、別段の定めがあるものを除き、その者が引き続き当該資産を取得していたものとみなすとしています。払戻しが現実に行われた時点で、被相続人の出資額及び出資した時期を相続人が引き継いだものとみなして、相続人にその値上がり益(みなし配当所得)に対する所得税を課するという扱いにすることはできないものでしょうか。そのような取り扱いを認める税制の改正を強く望みます。提供:税経システム研究所
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2025/10/15 会計制度
リース会計に関する会計と税務(その3) リース会計基準の改正を理解するために
1.令和7年度税制改正でのリースの取扱いリース会計基準の改正に対して、税務での対応は、税制改正の大綱の中で、「オペレーティング・リース取引によりその取引の目的となる資産の賃借を行った場合において、その取引に係る契約に基づきその法人が支払う金額があるときは、その金額のうち債務の確定した部分の金額は、その確定した日の属する事業年度に損金算入する。」(三法人課税4(8))という記述のほかは、延払基準の制度の廃止が示された程度で特別な改正は打ち出されていません。上記の記述の部分は、法人税法第53条の新設という形で規定されています。これは、法人税法においては、償却費以外は、債務が確定しているものに限って損金の額に算入する債務確定主義が取られており、新リース会計基準に基づきオペレーティング・リース取引による費用計上額を損金算入すると、リース期間の初期において賃借料を超える額が損金算入され、債務が確定しない費用の損金算入を認めることになってしまうためであると考えられます。また、新リース会計基準の中でも貸手のオペレーティング・リース取引は、従来通り経済的実態に合わせ「賃貸借取引」に準じた会計処理がなされることとされていることとの平衡、整合を取ることもリース会計基準と異なる処理を求める理由となっています。その結果として、借手の会計処理と税務では以下のような相違点が生じます。リース契約の期間を通じて定額で発生するリース料を損金処理するのに比べ、リース会計基準に基づく資産計上を行う場合には、契約開始初期には利息相当額がリース債務残高に応じて多額に算出され、契約終了に向かって逓減していきます。したがって、オペレーティング・リース取引の場合、リース期間の前半ではリース会計基準に従い資産計上することで、損金算入限度額以上の費用が計上されることになり、その部分を申告調整する必要が出てきます。そして、加算処理の結果、別表五(一)に累積した調整額をリース期間の後半で認容していくという処理が必要になります。そこで、オペレーティング・リース取引について賃貸借処理を行っている場合に、必要となる別表調整の理解が必要ということになります。そこで、別表の記載方法について、前回の取引例を利用して、解説していきます。2.別表調整の具体例(1)前提条件前回、以下のようなリースの支払計算表を基にリース会計基準に基づく仕訳処理を示しました。①リース契約締結時点の仕訳②リース料支払い時の仕訳(2月の初回)②-2リース料支払い時の仕訳(3月)③減価償却費の計上④年間累計での仕訳(①から③の合計)リース会計基準により会計上は、上記のような仕訳が起きていても、税務上の仕訳を想定するならば、法人税法第53条に基づき年間累計ベースでは以下のようになります。ということは、申告調整に必要な会計上の仕訳から税務上の仕訳への「修正仕訳」は次のようになります。なお、本稿では、減価償却費の相手科目を直接控除法で使用権資産としていますが、間接法によっている場合には、減価償却費の相手科目は減価償却累計額となります。(2)別表記載例別表四所得の金額の計算に関する明細書別表五(一)利益積立金額及び資本金等の計算に関する明細書もし、減価償却費の計上で間接法によっている場合には、別表五(一)の記載は、下記のようになります。上記の第1期では、となっているため、別表四で加減算の結果として課税所得が増える形になっています。しかし、リース期間の後半になると利息相当額の金額が落ちてきますので、となります。その結果、課税所得が減る形になり、リース期間が終了する時点で、別表五(一)のリース負債と使用権資産が0円となって、一連の申告調整は終了することになります。3.使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合の取扱いここまでの解説を見ていて、ファイナンス・リース取引となればリース資産を使用権資産として資産計上する必要があり、オペレーティング・リース取引だから賃貸借取引でよいという場合でも、顧問先企業が大企業の非連結会社だったり、公認会計士監査を受けている社会福祉法人だったりすれば、別表調整が必要になってきます。社会福祉法人の場合、収益事業をやっていなければ法人税申告は不要なので、問題はないのですが。そんな中で、前回の解説では、使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合の取扱いをご紹介しました。これらの取扱いによった際にそのリースが、オペレーティング・リース取引だった場合にどうなるのかを検討しておきたいと思います。使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合は、次のいずれかの方法を適用することができます(適用指針第40項(1))。第38項の定めによらず、借手のリース料から利息相当額の合理的な見積額を控除しない方法。この場合、使用権資産及びリース負債は、借手のリース料をもって計上し、支払利息は計上せず、減価償却費のみ計上する。第39項の定めによらず、利息相当額の総額を借手のリース期間中の各期に定額法により配分する方法(1)は、リース料について利息相当額部分とリース負債の元本返済額部分を区分することなく、リース料の支払い総額をリース負債として認識することです。その結果、使用権資産額もリース料支払い総額となるため、利息相当額込みの金額で減価償却することができます。(2)は、利息相当額の総額を借手のリース期間中の各期に配分するにあたって、利息法による(会計基準第36項)という原則に依らなくてもよいということです。(1)第40項(1)による仕訳と税務上記(1)の方法によれば、前述①から③のリース会計の仕訳は次のようになります。計算根拠等は、前回の解説をご覧ください。①リース契約締結時点の仕訳②リース料支払い時の仕訳③減価償却費の計上この結果、前述2.の解説で税務上認識されていた賃借料401,670円と同額の損金が減価償却費として計上されているため、別表四での別表調整は不要だということになります。厳密に考えれば、税務上は上記③の仕訳が不要であるため、①と②については別表五(一)での調整をすべきことになりますが、別表四での調整が不要であることはこれを失念しても納税額を誤ることはないという点で安心です。(2)第40項(2)による仕訳と税務②の利息法によらない利息相当額の処理は、①のリース契約開始時の仕訳は第38項の原則どおりですが、②のリース料支払い時において、利息相当額をリース期間を通じて定額で計上することができるため、支払利息の額が月々で変動しない点がメリットです。支払利息が月々で変動しないということは、利息相当額と減価償却費を加えたものが賃借料に一致し続けていることになります。ということは、第40項(1)と同様に別表四での調整が不要であることになります。このように利便性のある取扱いですが、これを適用するためには、使用権資産総額に重要性が乏しい場合でなければなりません。使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合とは、未経過の借手のリース料の期末残高が当該期末残高、有形固定資産及び無形固定資産の期末残高の合計額に占める割合が10パーセント未満である場合です(適用指針第41項)。(3)税務上のリース資産の取得価額とはリース会計基準では、使用権資産の取得価額は、リース料支払総額から利息相当額を控除したものとされています。第40項(1)の取扱いのようにリース料支払総額で計上するのは例外取引とされています。それでは、税務上はどのようになるのか、改めて気になるところです。これについては、従来から法人税基本通達の中で定めがあり、令和7年度で若干の軸の訂正をしたうえで下記のように示されています。(賃借人におけるリース資産の取得価額)7-6の2-9賃借人におけるリース資産の取得価額は、原則としてそのリース期間中のリース料の額の合計額による。ただし、リース料の額の合計額のうち利息相当額から成る部分の金額を合理的に区分することができる場合には、当該リース料の額の合計額から当該利息相当額を控除した金額を当該リース資産の取得価額とすることができる。(注)1再リース料の額は、原則として、リース資産の取得価額に算入しない。ただし、再リースをすることが明らかな場合には、当該再リース料の額は、リース資産の取得価額に含まれる。2リース資産を事業の用に供するために賃借人が支出する付随費用の額は、リース資産の取得価額に含まれる。3本文ただし書の適用を受ける場合には、当該利息相当額は、リース期間の経過に応じて利息法又は定額法により損金の額に算入する。このようにリース会計基準の原則法であろうと簡便法であろうと税務上は共に認められている方法であり、問題が生じないということになります。提供:税経システム研究所
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2025/10/08 所得税
相続と所得税 第30回 遺産分割の方法と資産の移転による所得税の取扱い その2
遺産相続について、今回は、換価分割により資産が移転したときの所得税の取扱いをみていく。1.換価分割とは民法においては、相続人が数人いるときは、相続財産はその共有に属するとされる。したがって、共同相続の共有に属している相続財産は、単有や新たな共有の形に移行させ、最終取得者を決める「遺産分割の手続き」が必要である。相続人全員による遺産分割協議や調停では、いわゆる現物分割、代償分割、換価分割、共有分割の4つの遺産分割の型式がある。このうち、換価分割とは、家庭裁判所の審判において、「遺産の分割の審判のために必要があると認めるときは、相続人に対し、遺産の全部又は一部を競売することを命ずることができる(家事事件手続法194条1項)」とされる。また、「遺産の分割の審判をするため必要があり、かつ、相当と認めるときは、相続人の意見を聴き、相続人に対し、遺産の全部または一部について任意に売却して換価することを命ずることができる。ただし、共同相続人中に競売によるべき旨の意思を表示した者があるときは、この限りでない(家事事件手続法194条2項)」とされる。換価分割は、共同相続した相続財産を直接分割の対象とはせず、換価してその対価である現金を共同相続人間で分割する方法である。現物分割、代償分割ができない場合の「遺産分割の手続き」の方法の順序となる。2.相続税の取扱い(1)相続税の課税価格に算入する金額「財産を換価する」とは、財産を売却して現金に換えることをいう。換価分割は、共同で相続した遺産(換価遺産)を未分割のまま、第三者へ売却をして現金に代えて(換価し)、その現金(換価代金)を相続人同士で分けることである。換価時に、換価代金の取得割合を定めることは、「換価遺産の所有割合につい換価代金の取得割合と同じ割合とすること」を定めることにほかならない。したがって、各相続人は、遺産を売却した売却代金の取得割合と同じ所有割合で換価したことになる。換価分割における各相続人の相続税の課税価格に算入する金額は、換価財産の相続開始時の相続税評価額を、各相続人が換価代金を取得する割合に応じて計算する金額である。(2)小規模宅地等の特例小規模宅地等の特例(租税特別措置法第69条の4)の適用を受けるためには、原則として、相続開始の直前から相続税の申告期限までに引続きその建物に居住し、かつ、その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限までに有していることが適用要件のひとつにある(配偶者が取得した特定居住用宅地等は除く)。したがって、換価遺産が小規模宅地等の特例の対象であるときは、相続税の申告期限までに換価分割のために譲渡した場合は、原則として、その宅地等については小規模宅地等の特例の適用はない。3.所得税の取扱い---換価分割による資産の移転遺産分割は、それに伴い、相続人が資産を取得する、資産を売却する、など資産の移転が生じる。今回は、換価分割による資産の移転に係る所得税の取扱いをみていく。換価遺産の売却は、被相続人の保有期間に係る資産の値上がり益に対し、相続人段階で課税が行われるため、所得税の譲渡所得の対象である。(1)譲渡所得の申告①遺産換価時に換価代金の取得割合が確定している場合ケース譲渡所得の申告をするときの割合遺産換価時に換価代金の取得割合が確定している換価遺産に有する所有割合について、法定相続分で換価し、各法定相続分に応じて換価代金を取得する場合譲渡所得は換価遺産の所有割合(=法定相続分)に応じて各相続人が申告をする。あらかじめ換価時までに換価代金の取得割合を定めている(分割済)の場合譲渡所得は換価遺産の所有割合(=換価代金の取得割合)に応じて、各相続人が申告をする。②換価時に換価代金の取得割合が確定しておらず、後日換価される場合遺産分割審判における換価分割や、換価代金を遺産分割の対象に含める合意をするなど特別の事情がある場合に、換価後に換価代金を分割したとしても、譲渡所得は、換価時における換価資産の所有割合(=法定相続分)により、各相続人が申告をする。ケース譲渡所得の申告をするときの割合遺産換価時に換価代金の取得割合が確定していない遺産換価時に換価代金の取得割合が確定しておらず、後日換価される場合譲渡所得は、換価時における換価資産の所有割合(=法定相続分)により、各相続人が申告をする。遺産換価時に換価代金の取得割合が確定しておらず、後日換価される場合、譲渡所得の申告をするときの割合を、換価時の換価遺産の所有割合(=法定相続分)とする理由は、下記のとおりである。譲渡所得に対する課税は、その資産が所有者の手を離れて他に移転することを機会にこれを清算して課税するものであること。譲渡所得の収入すべき時期は、資産の引き渡しがあった日によるものであること。相続人が数人あるときは、相続財産はその共有に属し、その共有状態にある遺産を共同相続人が換価した事実がなくなるものではないこと。遺産分割の対象は換価した遺産ではなく、換価により得た代金であること。ただし、上記(換価時に換価代金の取得割合が確定しておらず、後日換価される)の場合であっても、所得税の確定申告期限までの換価代金の分割等が行われるか、否かにより、下記のとおりの対応となる。ケース対応所得税の確定申告期限までに換価代金が分割され、共同相続人の全員が換価代金の所有割合に基づき譲渡所得の申告をした場合換価代金の所有割合に基づく譲渡所得の申告は認められる所得税の確定申告期限までに換価代金の分割が行われていない場合法定相続分により申告する。法定相続分により申告をした後にその換価代金が分割されたとしても、法定相続分による譲渡に異動が生じるものではないので、更正の請求等をすることはできない。(2)相続財産を譲渡した場合の取得費加算相続により、取得した土地などの財産を、一定期間内(相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで)に譲渡した場合、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算することができる「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」がある(租税特別措置法39条)。換価分割のための譲渡が行われた場合、要件に当てはまれば、譲渡所得の金額の計算上、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」の適用を受けることができる。4.相続登記と贈与税換価分割にあたり、都合上、共同相続人のうち1人の名義で相続登記をしたうえで換価し、その後換価代金を分配しても、その分配により取得する換価代金は、贈与税の課税はされない。共同相続人のうち1人の名義で相続登記したことが、たんに換価のための便宜のものであり、その代金が分割に関する調停等の内容に従って、実際に分配される場合には、贈与税の課税が問題となることはない。【参考文献】国税庁HP所得税基本通達逐条解説(一般財団法人大蔵財務協会)譲渡所得・山林所得・株式との譲渡所得等関係租税特別措置法通達逐条解説(一般財団法人大蔵財務協会)提供:税経システム研究所
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2025/10/01 消費税
消費税の納税義務判定のポイント解説(第25回) 令和8年1月にインボイス登録を希望する個人事業者の留意点
インボイス制度が導入されて2年が経過しようとしています。インボイス制度導入当初は登録を見合わせていた事業者が、制度の理解が進んだところで今後登録を希望することも考えられます。個人事業者では課税期間の初日である1月1日に登録を希望するケースが多いようですが、その個人事業者の状況によって登録の手続きなどに違いがあります。今回は、来年令和8年1月1日に登録を希望する個人の免税事業者を題材に、登録の際の手続きや簡易課税制度を選択する際の留意点を解説します。1.免税事業者がインボイス登録をする際の手続き免税事業者が登録申請を行う場合には、原則的な取扱いである「翌課税期間の初日から登録をする方法(消法57の2②)」と、経過措置により「登録希望日から登録をする方法(平成30年改正令附則15②)」の2つの方法があり、登録申請書の提出時期はそれぞれ次のようになっています。登録の時期登録申請書の提出時期【原則】翌課税期間の初日から登録登録を受けようとする課税期間の初日から起算して15日前の日までに提出【登録の経過措置】登録希望日から登録登録希望日(申請書を提出する日から15日を経過する日以後の日)を記載して提出【原則】である「翌課税期間の初日から登録をする方法」は、免税事業者が「課税事業者選択届出書」の提出や基準期間における課税売上高が1,000万円を超えたこと等により翌課税期間の初日から課税事業者になる事業者が、同日(課税事業者となる日)から登録をする場合に適用する方法です。課税事業者になるかどうかの判定については、消費税の納税義務判定のポイント解説(第1回)「事業者免税点制度とは」を参照してください。これに対して【登録の経過措置】は、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間において、「課税事業者選択届出書」を提出せず登録申請書のみで希望する日から登録をすることができる方法です(消基通21-1-1)。登録申請書に記載する「登録希望日」は、登録申請書を提出する日から15日を経過する日以後の日を記載することができます。【登録の経過措置】は期間限定の簡便的な申請方法であるため、適用期間が終了した後に免税事業者が登録をしようとする場合には、「課税事業者選択届出書」を提出して課税事業者になった上で、【原則】の方法により登録をすることになります。令和8年1月1日に登録を希望する個人事業者が、【原則】と【登録の経過措置】のどちらの方法により登録をするかは個人事業者の状況により異なります。この個人事業者が令和7年中に「課税事業者選択届出書」を提出している、または、令和8年の基準期間である令和6年の課税売上高が1,000万円を超えたこと等により、翌課税期間の初日である令和8年1月1日から課税事業者になる予定である場合には【原則】の方法によります。この場合には、令和8年1月1日から起算して15日前の日である令和7年12月17日が登録申請書の提出期限になります。これに対して、この個人事業者が「課税事業者選択届出書」を提出しているなどの事情がない、つまりインボイスの登録をしなければ免税事業者のままである場合には【登録の経過措置】によります。令和8年1月1日に登録を希望する場合には、登録申請書の「登録希望日」の欄に「令和8年1月1日」と記載し、令和7年12月17日までに提出をします。どちらの方法によって登録する場合でも登録申請書の提出時期は令和7年12月17日ですが、登録申請書(次葉)「免税事業者の確認」欄の記載する箇所が異なる点に注意しなければなりません。①:【登録の経過措置】により登録する場合②③:【原則】の方法により登録をする場合(③は翌課税期間の初日から起算して15日前の日を過ぎて申請書を提出する場合)なお、国税庁のホームページでは、今回解説をした免税事業者が登録をするケースのほか、課税事業者が登録をするケースなど、ケース別に登録申請書の記載方法をフローチャート形式で解説しています。登録申請書を作成する際の参考になります。「相続により適格請求書発行事業者の事業を承継していない個人事業者・法人用」https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shohi/annai/pdf/0022012-012.pdf「相続により適格請求書発行事業者の事業を承継した個人事業者用」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0024009-069_01.pdf2.簡易課税制度を選択する際の留意点「簡易課税制度選択届出書」は、原則として、適用を受けようとする課税期間の初日の前日まで、つまり事前に提出しなければなりません(消法37①)。したがって、令和8年から簡易課税制度の適用を希望する個人事業者は、令和7年12月31日までに提出しなければなりません。ただし、上記の【登録の経過措置】の適用を受けた場合には、簡易課税制度の選択についても「簡易課税制度選択届出書の提出の特例」制度が設けられています。具体的には、登録の経過措置の適用を受ける事業者が、登録日の属する課税期間中にその課税期間から簡易課税制度の適用を受ける旨を「簡易課税制度選択届出書」に記載して納税地を所轄する税務署長に提出した場合には、その課税期間の初日の前日に「簡易課税制度選択届出書」を提出したものとみなされます(改正令附則18)。つまり、この個人事業者が登録の経過措置の適用を受けて令和8年1月1日に登録をした場合には、令和8年中に一定の事項を記載した「簡易課税制度選択届出書」を提出すれば、令和8年から簡易課税制度の適用が受けられるということです。これに対して登録の経過措置の適用を受けない場合には、「簡易課税制度選択届出書の提出の特例」も適用を受けることができません。この場合には、原則通り、事前(この事例では令和7年12月31日まで)に「簡易課税制度選択届出書」を提出しなければなりません。令和8年1月1日にインボイスの登録を行い、令和8年分から簡易課税制度の適用を希望する個人の免税事業者について、インボイスの登録方法と簡易課税制度選択届出書の提出期限の関係をまとめると次のようになります。インボイスの登録方法簡易課税制度選択届出書の提出期限【登録の経過措置】による登録令和8年12月31日「簡易課税制度選択届出書の提出の特例」の適用あり【原則】の方法による登録令和7年12月31日「簡易課税制度選択届出書の提出の特例」の適用なし令和8年1月1日に登録を希望する個人事業者は、その個人事業者の状況に応じてインボイス登録や簡易課税制度選択の手続きを漏れなくできるよう入念に準備を行いましょう。提供:税経システム研究所
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2025/09/24 所得税税制改正
退職所得控除の調整規定等の見直し――令和7年度税制改正の注意点
1老齢給付金の受給に係る課税関係確定給付企業年金(DB)、企業型確定拠出年金(DC)、個人型確定拠出年金(iDeCo)等の、いわゆる老齢給付金については、受給者は年金給、一時金、年金と一時金の併用による受け取りを選択することができます。そして、これらの給付金は税務上、年金による受け取りは雑所得(所法35③、所令82の2)、一時金による受け取りはみなし退職所得(所法31、所令72)として課税されます。2退職所得課税における問題点厚生労働省の資料によると、特にDC、iDeCoは約9割が一時金による受給を選択しているという実態があるようです。【厚生労働省資料】前述のように、老齢給付金を一時金で受け取る場合は退職所得としての課税が行われることになりますが、周知のとおり、原則として退職手当等の収入金額から「退職所得控除額」を控除した残額の2分の1を課税対象とする措置が講じられており(所法30②⑥)、他の所得に比べ税負担が軽減されています。そのため、その退職手当等を受給する年の前年以前4年内に他の退職手当等の支払を受けていた場合において、これらの退職手当等に係る勤続期間等の全部又は一部が重複しているときは、その重複について調整したうえで「退職所得控除額」を計算することとされています(所令70①二)。ただし、老齢給付金の一時金については、その受給者が60歳から75歳までの間にその受給日を任意に選べることを踏まえ、課税の公平性の観点から、その一時金を受給する前年以前19年内に他の退職手当等の支払を受けていた場合において、その重複について「退職所得控除額」を調整することとされています(所令70①二かっこ書)。ところが、先に一時金の受給を受け、その後に他の退職手当等の支払を受けた場合には、勤続期間等の重複について調整をする対象の退職手当等は、原則どおり、その退職手当等を受給する年の前年以前4年内に支払を受けたものに限られていました。したがって、例えば60歳で老齢給付金の一時金の受給を受け、65歳で勤務先から退職金の支払を受けた場合には、結果として、これらの一時金及び退職金の両方とも「退職所得控除額」の調整を行う必要がありませんでした。3令和7年度税制改正による留意点上記2については、今までも皆様方が実務で対応されていたことと思われ、また、金融機関等のホームページなどで、老齢給付金を一時金で受け取る場合の検討事項として掲載されていたものを見た覚えがあります。これからは、定年の引き上げなどにより、勤務先からの退職手当等の受給年齢が65歳以降となるケースが増加することが見込まれ、老齢給付金の一時金とそれ以外の退職手当等の受給の間隔が5年より長くなる場合も多くなると想定されます。そこで、先に老齢給付金の一時金の受給を受け、後に他の退職手当等の支払を受けた場合には、勤続期間等の重複について「退職所得控除額」の調整をする対象の退職手当等は、その退職手当等を受給する年の前年以前4年以内から、9年内に支払を受けたものと改正され、令和8年1月1日以後に支払を受けた退職手当等について適用されることになりました(所令70①二(1))。なお、この改正に関連して、退職所得の源泉徴収票の提出省略範囲を定める規定が廃止され、法人の役員以外の居住者に対して支払う退職手当等に係る退職所得の源泉徴収票についても、税務署長に提出しなければならないこととされました(旧所規94②)。令和8年1月1日以後に支払うべき退職手当等について提出し、又は交付する源泉徴収票について適用されることになるため、同日前(令和7年中)に支払うべき退職手当等について提出し、又は交付した源泉徴収票については従前どおりとされています(改正所規附則8、10③)。提供:税経システム研究所
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2025/09/19 会計制度
リース会計に関する会計と税務(その2) リース会計基準の改正を理解するために
1.リース資産計上の理解リース会計基準が改正により法人税法や消費税法での取り扱いなども明らかになってきています。しかし、これらの理解をするためには、まずリースを資産計上する際の会計処理を理解している必要があります。そして、今回は、多くの企業が直面するであろう、リースの借手側の処理について解説します。なお、従来は、資産計上する際の科目名は「リース資産」とすることが多かったと思いますが、改正リース会計基準では「使用権資産」という科目名を用いることとされています(新リース会計基準10項、以下「新基準10」と表記します。)。(1)使用権資産の計上(原則)新基準では、リースと識別されれば、ファイナンス・リース取引、オペレーティング・リース取引といった旧基準の考え方とは関係なく使用権資産として資産計上をすることになりました。この使用権資産の計上額決定の前に、まずリース負債の額を算定します。リース負債の計上額を算定するにあたっては、原則として、リース開始日において未払である借手のリース料からこれに含まれている利息相当額の合理的な見積額を控除し、現在価値により算定する方法によります(新基準34)。こうしてリース負債が算定されたところで、このリース負債の額にリース開始日までに支払った借手のリース料、付随費用及び資産除去債務に対応する除去費用を加算し、受け取ったリース・インセンティブを控除した額により使用権資産を計上します(新基準33)。(2)会計処理の検討会計処理を理解するために、実際のリース契約の数値例を掲げます。ここでは、付随費用や資産除去債務などはないこととして、使用権資産の計上額とリース負債の計上額は等しいものとします。なお、2024年2月に2回のリース料の支払いが発生していますが、これは1月下旬にリース契約を締結し、2月分のリース料と3月分の前払いをあわせて支払ったためです。①リース契約締結時点の仕訳(1)で説明したようにリース開始日における未払の借手リース料からこれに含まれている利息相当額の合理的な見積額を控除してリース負債を計上することになります。リース支払総額が8,033,400円で利息相当額194,895円を控除すると7,838,505円です。したがって、1月下旬のリース契約の締結日での仕訳は以下のようになります。②リース料支払い時の仕訳続いて各月のリース料支払い時の仕訳を検討してみましょう。まず、2回分の支払いがある2月は以下のようになります。リース負債には利息相当額は計上されていませんので、元本相当額126,590円をリース負債の減少として計上し、差額が支払利息ということになります(企業会計基準適用指針第33号リースに関する会計基準の適用指針(以下、「適用指針」という。)38項)。次月の3月の仕訳は以下の通りです。③減価償却費の計上3月までのリース料を払ったところで、3月末日が決算日だったとします。ここで減価償却費を計上することになります。減価償却費は、借手のリース期間を耐用年数とし、残存価額をゼロとして計算します(会計基準第38項)。7,838,505×1年÷5年×3か月÷12か月=391,925したがって、仕訳は次のようになります(減価償却累計額を使わない直接法の場合)。翌会計年度以降も同様に仕訳を継続していけば、リース契約が終了する会計年度で使用権資産とリース負債が0円となります。次回にご説明するリースに係る法人税法の取扱いを理解するうえで、利息相当額がリース負債の残高に比例して、当初は多めに計上され、終了年度に向かって減少していくということを留意しておいてください。2.使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合の取扱い先ほどのリース会計基準による仕訳例を見ていて、「これではリース料の仕訳を切る際には元利均等払いの借入金の返済時と同様に常に支払い予定表を手元に置いておかなければいけなくて面倒だ」と感じられた方もいらっしゃると思います。さらに「利息相当額を把握するのもリース会社からの資料によることになり、自社で計算するのが困難なのはどうしたものか」と感じられた方もいらっしゃるはず。おそらくはそうした実務の要請に応えたものと思われますが、借手のリース料から利息相当額の合理的な見積額を控除しないで会計処理する方法が認められています。具体的には使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合は、次のいずれかの方法を適用することができるというものです(適用指針第40項(1))。第38項の定めによらず、借手のリース料から利息相当額の合理的な見積額を控除しない方法。この場合、使用権資産及びリース負債は、借手のリース料をもって計上し、支払利息は計上せず、減価償却費のみ計上する。第39項の定めによらず、利息相当額の総額を借手のリース期間中の各期に定額法により配分する方法(1)は、リース料について利息相当額部分とリース負債の元本返済額部分を区分することなく、リース料の支払い総額をリース負債として認識することです。その結果、使用権資産額もリース料支払い総額となるため、利息相当額込みの金額で減価償却することができます。(2)は、利息相当額の総額を借手のリース期間中の各期に配分にあたって、利息法による(会計基準第36項)という原則に依らなくてもよいということです。(1)第40項(1)による仕訳例上記(1)の方法によれば、前述①から③のリース会計の仕訳は次のようになります。①リース契約締結時点の仕訳リース支払総額が8,033,400円で利息相当額を区分する必要がないため、この金額がリース負債及び使用権資産の計上額となります。したがって、1月下旬のリース契約の締結日での仕訳は以下のようになります。②リース料支払い時の仕訳①の結果として、各月のリース料支払い時の仕訳以下のようになります。③減価償却費の計上3月末日の決算日の減価償却費の計算は次の通りです。8,033,400×1年÷5年×3か月÷12か月=401,670したがって、仕訳は次のようになります(減価償却累計額を使わない直接法の場合)。これならリース料支払い時の仕訳も容易で、契約開始時点での資産計上も簡単です。(2)第40項(2)による仕訳例(2)の利息法によらない利息相当額の処理は、①のリース契約開始時の仕訳は第38項の原則どおりですが、②のリース料支払い時において、利息相当額をリース期間を通じて定額で計上することができるため、支払利息の額が月々で変動しない点がメリットです。仕訳例にすると次のようになります。このように利便性のある取扱いですが、これを適用するためには、使用権資産総額に重要性が乏しい場合でなければなりません。使用権資産総額が重要性に乏しいと認められるのは、未経過の借手のリース料の期末残高が当該期末残高、有形固定資産及び無形固定資産の期末残高の合計額に占める割合が10パーセント未満である場合です(適用指針第41項)。以上のようなリース会計基準の会計処理を理解したうえで、令和7年度税制改正等で明らかにされた税務上の取扱いについて次回触れていきたいと思います。提供:税経システム研究所
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2025/09/16 消費税国際税務
トランプ関税に負ける日本経済――消費税が転嫁できない日本企業に再びおとずれたチャンス
はじめに去る7月22日(現地時間)、日米関税交渉が合意に達しました。米国は、日本からの自動車を含む大部分の輸入貨物に対して、15パーセントの関税を課すことなどで合意したことになります。これに対して、経団連など経済界は概ね好意的な反応を示しています。一方、日本政府は、中小企業への資金繰り支援を行うとのことです。ところで、日本経済は「失われた30年」を過ごしてきました。本稿は、関税が消費税と同じ性格を持っていること、日本企業は消費税を転嫁することなく販売価格を下げる方策を取り続けてデフレを誘発したと考えられることから、速やかに関税分を転嫁すべきことを主張するものです。1.消費税の転嫁に失敗してきた歴史を振り返る1989年4月、消費税は3%の税率で導入されました。その後、1997年4月に5%に、2014年4月に8%に、そして、2019年10月に原則10%に引き上げられて今日に至っています。消費税は、理論的には取引段階毎に転嫁されて最終小売価格に含まれることになるので、消費税の税率分だけ消費者物価が上昇することになります。そして、その状態が継続することになります。ところが、実際はそうではなさそうです。日本の消費者物価指数(CPI)の資料を見てみましょう。この資料は、2020年を100とした場合の消費者物価指数の推移を示したものです。【図表1:日本の消費者物価指数の推移】(出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構資料)図表1(特に、1990年以降の拡大図)を見ていただくと、消費税率の引き上げが行われると、その都度消費者物価指数も上がるのですが、その翌年には逆に下がるように見えます。例えば、1997年4月に5%になったので、2%の物価上昇があったものの1998年以降物価が下がっています。2014年4月には8%になったのですが、2015年に物価が少し下がっているように見えます。2019年10月以降も類似しています。つまり、消費税率が引き上げられると消費が減少するので、日本企業はその分を吸収すべく企業努力をしてしまうので、物価が下がってしまった。その結果、「失われた30年」になってしまったと言われているのです。そして、その間、日本人の給与はほとんど上がることがありませんでした。2.トランプ関税を転嫁できていない現状を確認する次に、4月以降、25%の追加関税措置により、27.5%に引き上げられた米国の自動車関税に日本企業はどのように対処したのか、です。2では、自動車業界を見ていきます。自動車については、財務省の貿易統計でトランプ関税の影響を確認することができます。【図表2:令和7年6月の自動車・自動車部品の対米輸出(抜粋)】(出典:財務省貿易統計)図表2は、2025年7月30日に公表された財務省貿易統計の中から対米輸出の自動車・自動車部品のみを抜粋したものです。これによると、令和7年6月に米国向けの自動車は、令和6年6月と比べると、台数では3.4%増加したのに対して、価額では伸率-26.7%と大幅に減少しています。これは、25%の追加関税のすべて又は大部分を日本側で負担したことを意味します。一方の自動車部品は、数量は微減しているので、少しですが一部は米国側で負担させたものと思われます。なぜ、このようなことをしたのでしょうか。それは、米国内の小売価格を値上げしたくないからです。これは、米国内における競合企業の動向を考慮して、自社の価格競争力を減らさないようにするためです。簡単に言えば、「ガマン比べ」です。なお、2025年8月28日に公表された財務省貿易統計でも、上と類似した結果となりました。3.日本の消費税と同じ対応をトランプ関税でも続けるかここで問題になるのは、自動車業界をはじめとする対米輸出企業が日本の消費税への対応と同じことを対米輸出で続けるか、ということです。昔からの日本企業のウリは、「良いものを安く売ること」です。レクサスなどの高級ブランドを構築したものの、自動車も引き続き同じかもしれません。これを今後も続けると、「失われた30年」と同じことになるかもしれません。そうすると、再び日本の給与が上がらない状態に逆戻りするかもしれません。さて、7月27日には米国とEUとの関税交渉がまとまり、日本と同じ15%の関税が適用されることになりました。これで、中国と韓国(早期に合意するでしょう。)を除いた主要国との関税交渉がまとまったことで、米国自動車業界が関税をどの程度転嫁するのか、に焦点が移ります。米国メーカーも自動車や自動車部品を海外から仕入れる場合もあるので、本格的に関税を転嫁した価格競争が行われることになるでしょう。個人的には、日本の自動車会社が、早期に関税を転嫁した自動車を米国内で販売することを期待しています。自動車は数年おきにモデルチェンジを行うので、その時まではできない、という意見もあります。しかし、図表2のように、関税を輸出元の日本で被ると、すべてを大企業が負担してくれればいいのですが、一部は中小企業に及ぶでしょう。それを前提とするかのように、日本政府は中小企業への資金繰り支援を行うと報道されています。おわりにトランプ大統領が再任されたことで、日本からの輸出品に高率の関税が課せられることになりました。関税は消費税と同じように、理論上は最終小売価格に転嫁されて消費者が負担すべきものです。しかし、日本企業は、これまで消費税への対応を上手くできずにデフレが続きました。その結果、消費税への根拠のない批判が国民に浸透してきました。一方、ここ数年は、ロシアのウクライナ侵攻を契機とする円安による輸入品の価格高騰、給与の引き上げに伴う物価上昇などにより消費者物価指数は上昇してきました。さて、トランプ関税は、日本企業にある意味でチャンスを与えてくれるものと考えられます。関税分を価格に転嫁して、米国内でより高価で販売していくことにより米国の物価上昇を促すべきです。関税を反映したインフレが生じることにより、トランプ政権の経済政策の誤りを是正させて、関税率を引き下げさせることで世界経済を正常化の方向に向かわせるべきでしょう。消費税への対応で失敗した日本企業は、今度はトランプ関税でその力を試されていると考えることができるのではないでしょうか。今度こそ、失敗しないでほしいと願っています。提供:税経システム研究所
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2025/09/10 相続・贈与税
代償分割と相続税計算の注意点
1.はじめに今回は相続における遺産分割方法の1つである「代償分割」についてみていきたいと思います。被相続人の財産のほとんどが不動産や自社株式であるような場合のほか、財産の取得者を個別に決定するのが煩雑な場合など、相続実務においては、遺産規模の大小にかかわらずよく検討される方法になります。実務上注意すべき点もありますので、下記事案をもとに代償分割と相続税計算における注意点等をみていきたいと思います。2.事案(1)前提事項被相続人:母A相続人:長男B(Aと同居)、次男C相続財産(みなし相続財産も含む)Aの自宅土地と建物(相続税評価額1.2億円、時価1.5億円):長男Bが取得現金2,000万円:次男Cが取得死亡保険金:3,000万円:長男Bが取得代償金:7,500万円(長男Bから次男Cへ支払い)長男Bが自宅土地と建物を取得する代わりに、長男Bから次男Cへ代償金を支払う。代償金の算定については、自宅土地建物の時価の1/2で算定している。(1.5億円×1/2=7,500万円)3.代償分割について(1)意義代償分割とは、遺産分割の方法のうちの1つで、遺産の分割に当たって相続人などのうちの1人または数人に相続財産を現物で取得させ、その現物を取得した人が他の相続人などに対して債務を負担するもので、一般的に現物分割が困難な場合等に行われる方法です。参考)遺産分割の主な方法の概要現物分割遺産をそのままの形(現物)で分割する方法共有分割遺産を共同(共有名義)で分割する方法換価分割遺産を売却して現金化して分割する方法代償分割遺産を現物取得した人が、他の相続人には代償金として支払うことにより分割する方法■相続税基本通達11の2-9注書き「代償分割」とは、共同相続人又は包括受遺者のうち1人又は数人が相続又は包括遺贈により取得した財産の現物を取得し、その現物を取得した者が他の共同相続人又は包括受遺者に対して債務を負担する分割の方法をいいます。(2)代償分割の活用が想定される主な遺産分割のケース相続財産の大半が自宅不動産や自社株式等の場合で、共有や分散しての取得が状況に適していないような場合に、取得すべき者(自宅不動産であれば同居親族、自社株式であれば会社の後継者等)が取得して、他の相続人には代償金として支払うようなケース預貯金や有価証券の口座数が多すぎる等、個別に取得者を定めて分割を行うことが実務上煩雑となるような場合に、いったん相続人のうちの一人が全てを取得して、他の相続人には代償金として支払うようなケース(3)代償金の金額は自由に設定できる代償金は相続人間で合意すれば、金額や支払方法を自由に決めることができます。ただし、現物財産を取得した相続人は、他の相続人へ支払う代償金を工面する必要がありますので注意が必要です。(4)他の分割手法に比べ小規模宅地特例の適用を有利に行える場合がある遺産が不動産の場合、小規模宅地特例の適用は相続税計算において大きなポイントとなりますが、遺産分割方法の観点から見ると、換価分割では売却が絡みますので、申告期限までの所有の要件等に抵触する可能性があり、また、共有分割では全ての共有者が適用要件を満たすとは限りませんのでフルに特例の適用が受けられない可能性があります。一方、代償分割による取得の場合は、特例の適用を受けられる者に全て現物取得させることで、特例をフルに受けられる可能性が高く、他の分割手法に比べて、小規模宅地特例の適用を有利に行える可能性があります。上記2の事案でも同居親族の長男Bが自宅を全て取得すれば、小規模宅地特例(特定居住用宅地)をフルに適用することができます。3.代償財産の価額と相続税の課税価格へ算入する金額代償金の算定については、対象となる現物財産を「相続税評価額」若しくは「時価」のどちらをベースに算定するか等算定のベースとなる価格について、時に相続人間で大きく争いになることもあります。代償金の決定は相続人間で自由に決めることができますが、相続税の課税価格の計算においては相続税基本通達11の2-9、相続税基本通達11の2-10を基に決めることになります。上記2の事案においては、長男Bが次男Cへ交付した代償金は7,500万円ですが、この代償金の算定は、特定されている現物財産(自宅土地建物)の時価ベースで算定がされていますので、相続税の課税価格計算上は下記の通りこれを相続税評価額ベースに引き直して計算を行うことになります。※相続税基本通達11の2-10(1)の方法による場合はその方法も認められます。■相続税基本通達11の2-9(代償分割が行われた場合の課税価格の計算)代償分割の方法により相続財産の全部又は一部の分割が行われた場合における法第11条の2第1項又は第2項の規定による相続税の課税価格の計算は、次に掲げる者の区分に応じ、それぞれ次に掲げるところによるものとする。代償財産の交付を受けた者相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額と交付を受けた代償財産の価額との合計額代償財産の交付をした者相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額から交付をした代償財産の価額を控除した金額(注)「代償分割」とは、共同相続人又は包括受遺者のうち1人又は数人が相続又は包括遺贈により取得した財産の現物を取得し、その現物を取得した者が他の共同相続人又は包括受遺者に対して債務を負担する分割の方法をいうのであるから留意する。■相続税基本通達11の2-10(代償財産の価額)11の2-9の(1)及び(2)の代償財産の価額は、代償分割の対象となった財産を現物で取得した者が他の共同相続人又は包括受遺者に対して負担した債務(以下「代償債務」という。)の額の相続開始の時における金額によるものとする。ただし、次に掲げる場合に該当するときは、当該代償財産の価額はそれぞれ次に掲げるところによるものとする。共同相続人及び包括受遺者の全員の協議に基づいて代償財産の額を次の(2)に掲げる算式に準じて又は合理的と認められる方法によって計算して申告があった場合当該申告があった金額(1)以外の場合で、代償債務の額が、代償分割の対象となった財産が特定され、かつ、当該財産の代償分割の時における通常の取引価額を基として決定されているとき次の算式により計算した金額A×(C÷B)(注)算式中の符号は、次のとおりである。Aは、代償債務の額Bは、代償債務の額の決定の基となった代償分割の対象となった財産の代償分割の時における価額Cは、代償分割の対象となった財産の相続開始の時における価額(評価基本通達の定めにより評価した価額をいう。)4.代償分割を行った場合の相続税計算にあたり留意すべきその他のポイント(1)遺産分割協議書への記載は必須遺産分割協議書に、代償金の支払いが代償分割によるものであることの記載がない場合には、単純に金銭を贈与したものと判断される恐れがありますので注意が必要です。贈与とみなされることのないように、遺産分割協議書には代償分割であること、代償金の支払い内容について明確に記載します。(2)取得した遺産額を超えて代償金の支払いをした場合取得した遺産額を超えて代償金の支払いをした場合にはその超える部分は金銭の贈与があったものとして贈与税課税の対象になる可能性があります特に、死亡保険金を取得して代償金を支払う場合がありますが、死亡保険金は税務上はみなし相続財産として相続税の課税価格に算入しますが、民法上は受取人固有の財産であるため被相続人の遺産には含まれません。死亡保険金を取得した者が他に取得した遺産が少ないような場合で、代償金の交付額がその取得遺産額を超えてしまうような場合は、その超えた部分は贈与となってしまいますので注意が必要です。(3)不動産等の現物で代償金支払いをした場合代償金の支払いを現金で行わずに、不動産等の現物で支払いを行うことも可能ですが、その場合、不動産等の譲渡になりますので、譲渡所得税の対象となります。提供:税経システム研究所
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2025/09/03 相続・贈与税
相続税の重要テーマポイント解説27(換価分割と相続税・所得税の申告)
【ポイント】換価分割による遺産分割であっても、相続税の課税価格に加算される相続財産の価額は、財産評価基本通達に基づく価額です。ただし、換価代金の配分により財産の取得割合が異なります。【解説】1相続税の申告(1)相続税の課税価格換価分割は相続財産を譲渡してその代金を分配する分割ですが、事実上所得税や住民税等が控除された金額が実質的に手元に残ります。相続人各人が取得する価額は、換価処分の時期や処分代金の配分時期によって変動します。しかし、相続税の申告における財産の価額は、換価処分の時期や金額にかかわらず相続開始日現在の価額、つまり財産評価基本通達に基づいた価額です。(2)換価分割の態様相続財産を換価して分割することは、実際的な分割の一手段としてよく活用されています。ただし、換価時期を相続税の申告期限と平仄を合わせる必要はなく、相続人や買い手の都合により千差万別です。相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内と定められているため、原則として換価代金の配分を取り決めておく必要があります。配分される金額により課税価格が異なるからです。申告期限前に換価されたとしても、その代金の配分が決められている場合と、決められていない場合の課税価格が異なります。また、換価が申告期限後になることも多いことから、相続税の申告期限前又は申告期限後により、取扱いが異なることに留意します。更に、換価分割は譲渡所得の対象なりますので、譲渡収入金額の配分にも影響があります。2換価の時期による相続税の課税価格の計算相続税の申告にあたって、換価代金の配分割合(以下「取得割合」といいます。)をどのようにするか、態様別に解説します。(1)相続税の申告期限までに換価が行われている場合取得割合があらかじめ確定している場合法定相続分で配分することがあらかじめ決められている場合相続財産の価額に法定相続分割合を乗じた価額です。法定相続分での配分とした場合、未分割の状態であるかのような状況にも解釈されることがあるので、書面で明確に法定相続分により配分した事実を残しておきます。当然、遺産分割協議書に記載があればよいことになります。換価代金の取得割合が決められている場合換価代金の取得割合が相続人間であらかじめ決められているときは、その割合を相続財産の価額に乗じて計算した価額です。様々なパターンが想定されますが、取得割合の合計は1.0になることに留意します。換価代金があらかじめ確定していない場合換価の時点では換価代金の配分が決められていないが、相続税の申告期限までに決まった場合相続税の申告期限までに決まった配分価額によります。取得割合が決まっている場合は、その取得割合を相続財産の価額に乗じて計算した価額です。換価の時点及び相続税の申告期限までに取得割合が確定していない場合取得割合が確定していない場合は、未分割と同じですので、換価した相続財産の相続時現在の評価額に法定相続分割合を乗じて算出した金額で申告します。この場合は通常、未分割として相続税の申告期限を経過しているため、実際に配分することにより相続税の課税価格に異動が生じます。分割が確定した時に相続税法第32条第1号に基づく更正の請求又は同法第31条第1項に基づく修正申告を行い納税額の是正をします。(2)相続税の申告期限までに換価が行われていない場合取得割合があらかじめ確定している場合あらかじめ配分割合が確定している場合は、相続税の価額は配分された金額に応ずるものとなりますので、相続財産の価額にその割合を乗じた金額を取得したとして計算し申告します。取得割合が確定していないが、換価代金を遺産分割の対象とするなどの合意がある場合上記(1)②ロと同様、未分割と同じ取扱いとなります。3所得税(譲渡所得)の取扱い換価分割により譲渡益が生じる場合、換価対象財産を取得した相続人には譲渡所得が発生します。相続人が複数の場合、どの相続人がどのような申告を行うかが問題となります。実務的には次のように取り扱います。(1)換価時に取得割合が確定している場合換価代金を法定相続分割合で取得する、もしくは法定相続分で取得することが取り決められている場合換価代金を、後日遺産分割の対象に含める合意をするなどの特別の事情がない等、換価代金が法定相続分で配分されることが取り決められていることから、譲渡所得は、各相続人が換価代金に法定相続分割合を乗じて収入金額を算出します。換価の時までに取得割合が確定している場合この場合は、相続財産の一部の遺産分割の確定になります。当然、譲渡所得は、各相続人が換価代金に取得割合を乗じて収入金額を算出します。(2)換価時に換価代金の取得割合が確定していない場合所得税の申告期限までに取得割合が確定していない場合相続人が複数の場合、その財産は法定相続分の共有状態にあります。共有状態の財産の譲渡所得の申告は、共有割合で行います。換価代金を後日遺産分割の対象に含める合意をするなどの特別の事情があり、その後、換価代金の分割が行われたとしても、共有持分による譲渡所得に異動が生じるものではないことから、更正の請求や修正申告をすることはできません。所得税の申告期限までに換価代金の取得割合が確定している場合所得税の確定申告の期限までに換価代金が分割され、それに基づいて申告があった場合は、その申告は認められます。4換価するにあたって、一人の名義で譲渡した場合の取扱い複数の相続人等が相続財産を換価分割するにあたって、譲渡費用や手数の関係で相続人等のうち一人の名義に相続登記をして譲渡することがあります。これは、換価手段の一つで、便法であることから贈与の問題は生じません(国税庁質疑応答事例「遺産の換価分割のための相続登記と贈与税」)。ただし、換価代金や経費等の配分は適切に行います。5相続税の実務対応換価分割は、相続税の課税価格に大きな影響を及ぼします。遺産分割の一態様であることから、その配分により相続税の負担の問題が起きます。当然譲渡所得の申告と納税手続きも必須です。相続人が複数いる場合、丁寧な説明と税負担に対するシミュレーションが必要です。譲渡に係る所得税・住民税の負担を事前に計算して分割割合等を提案します。例えば、被相続人と同居していた相続人A及び同居していなかったBが、被相続人の居住用土地建物を2分の1ずつ取得したような場合、小規模宅地等の特例を受けることができるのはAが取得した2分の1です。このような場合、Aが宅地全体を取得し、代償金として相応の対価をBに支払う遺産分割をすれば、相続税の負担の緩和となります。ただし、Aは譲渡所得に係る所得税の負担が生じますが、代償金等の額で調整することができます。提供:税経システム研究所
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2025/08/27 消費税
外国人旅行者向け消費税免税制度の見直し② 「リファンド方式」における免税販売手続の方法等
1.はじめに前回は、令和8年11月1日以後の免税対象物品の譲渡について、出国時に持出しが確認された場合に免税販売が成立する「リファンド方式」の概要と改正後の輸出物品販売場を経営する事業者(以下「免税店」といいます。)の会計処理について、解説しました。今回は、リファンド方式における免税販売手続の方法等を具体的に見ていきます。2.免税販売手続の方法等令和8年11月1日以後の外国人旅行者等(以下「免税購入対象者」といいます。)に対する免税販売手続の方法等は、次の図のようになります。図の①~⑧の順番に解説いたします。出典:国税庁「輸出物品販売場制度に関するQ&A(リファンド方式・概要編)問2」旅券等の提示・情報の提供免税店は、免税購入対象者本人から旅券等の提示を受け、その旅券等に記載された情報の提供を受けます(消令18②)。次の免税購入対象者の区分に応じた旅券等の提示がない場合は、免税販売手続を行うことはできません。イ以外の免税購入対象者……旅券各種上陸許可を受けて在留した免税購入対象者……各種上陸許可書及び旅券なお、日本国籍を有する免税購入対象者(国外に2年以上居住する者)に対して免税販売手続を行う場合は、旅券に加え「在留証明」「戸籍の附票の写し」又は「個人番号カード」(以下「証明書類」といいます。)の提示を受け、旅券及び証明書類に記載された情報の提供を受けます(消規6の2)。免税購入対象者であることを確認免税店は、①で提示を受けた旅券等により、購入者が免税購入対象者であることを確認します。免税購入対象者に対して必要事項を説明免税店は、免税販売手続の際、免税購入対象者に対して、次のア及びイの旨を説明しなければなりません(消令18③、消規6の3)。税関の確認は購入日から90日以内の出国時に旅券を提示等し、かつ、免税購入対象者は税関の求めに応じて免税対象物品を提示できるようにしなければならないこと税関の確認を受けた免税対象物品を遅滞なく輸出しなければならず、それを輸出しなかった場合には、免除された消費税額に相当する消費税を徴収され、かつ、罰則の適用対象となること免税対象物品の引渡し(税込価格で販売)免税店は、免税対象物品を免税購入対象者本人に引き渡します。なお、現行制度の免税価格(税抜価格)での販売から課税価格(税込価格)での販売に変更されることとなります。また、一般物品と消耗品の区分が廃止されることに伴い、消耗品の購入上限額及び特殊包装要件は廃止され、購入下限額(5千円)の判定はこれらの区分をせずに行うこととされます。購入記録情報の提供免税店は、免税販売手続の際、遅滞なく国税庁(免税販売管理システム)に購入記録情報を提供しなければなりません(消法8②)。税関確認情報の取得免税店は、免税購入対象者が免税対象物品を持ち出す(輸出する)ことにつき、その購入日から90日以内の出国時に税関の確認を受けた旨の情報(税関確認情報)について、国税庁(免税販売管理システム)から取得します(消令18⑨)。購入記録情報及び税関確認情報の保存免税店は、国税庁(免税販売管理システム)に提供した購入記録情報及び取得した税関確認情報を整理して、免税対象物品の譲渡を行った日の属する課税期間の末日の翌日から2月を経過した日から7年間、これを納税地又はその取引に係る事務所等に保存しなければなりません(消法8④、消令18⑩)。なお、購入記録情報及び税関確認情報の保存がない場合、免税購入対象者に対する販売であっても免税の適用を受けることはできません。ただし、事業者が災害その他やむを得ない事情により保存できなかったことを証明した場合には、この限りではありません(消法8④但書、消基通8-1-7)。免税が成立し、免税購入対象者へ返金取得した税関確認情報等に基づき、免税対象物品に係る消費税相当額を免税購入対象者に返金します。提供:税経システム研究所
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