税務情報レポート
MJS税経システム研究所・税務システム研究会の顧問・客員研究員による租税を中心とした多彩な研究成果および最新の税制改正および制度や動向、判例研究等に関するリポートです。
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2026/09/14 相続・贈与税
贈与税の重要テーマ解説1(その贈与税の申告、贈与事実を確認しましたか)
【ポイント】贈与を受けた方は、受贈価額が110万円を超えた場合、期限までに申告と納税をしなければなりません。単純な贈与税の申告は難しいことではありませんが、贈与税は必ず相続税に繋がります。受贈者に対して贈与事実を明確にしておくこと等、年内にアドバイスをします。将来の禍根とならないために、基本を復習しましょう。【解説】1民法における贈与契約民法第3編第2章第2節第549条において「贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる」契約であるとしています。民法第3編第2章は「契約」を規定しています。財産を渡す人(贈与者)と受け取る人(受贈者)がお互いに了解の上(契約)で財産の移転が行われます。しかも、受贈者に対して対価を請求せず、無償であることが前提です。対価の授受がある場合は、もちろん譲渡となります。贈与とは、相手方に対して自己の財産を与える意思表示をする、諾成片務契約行為をいいます。つまりお互いに「この○○をあなたにあげましょう。」「はい、もらいましょう。」という了解があって初めて贈与契約が成立します。基本的に「諾成契約」ですが、下記の各契約が混在しています。「諾成契約」…契約当事者双方が合意に達すること「片務契約」…当事者の一方だけが相手方に対して何らかの債務を負っている契約のこと「無償契約」…契約当事者の一方の負担に対する対価を求めないこと「不要式契約」…要式を必要としないこと2贈与税の納税義務者贈与とは、何を指すのかは、相続税法に規定はありません。相続税法に規定のない概念は、民法によることから、贈与とは民法第549条の贈与のことを指します。贈与税の納税義務者とは誰のことをいうのでしょうか。相続税法第1条の4は贈与税を納める義務がある者(納税義務者)を規定しています。ここでは第1項及び第2項で「贈与により財産を取得した次に掲げる者」、また、第3項及び第4項で「贈与によりこの法律の施行地にある財産を取得した個人」として贈与を受けた者が納税義務者であるとしています。例外と人格のない社団又は財団(相法66①)、持分の定めのない法人(相法66④)が受贈した場合に課税対象となることがありますが、贈与者が申告と納税をするのではないことを、しっかりと認識します。3贈与税申告の実態(1)原則財産の「贈与を受け」基礎控除110万円を超えた場合、贈与税の申告をしなければならないことは、常識でしょう。贈与税は、もらってうれしい税金です。現金預貯金等金融資産の受贈者は、棚からぼた餅状態で、使い道についてあれこれ想像が膨らみます。うれしいうちに申告と納税をすれば、200万円の贈与を受けても、税額が9万円ですから負担感は少ないでしょう。稀に申告を失念する人もいますが。(2)贈与者からの依頼長い間資産税に携わっていると、この贈与税の申告書は、贈与事実を確認しているだろうか、受贈者が依頼した申告書だろうか、と思う事例に数多く出会います。一端を紹介します。①贈与税の申告書を5件10件とまとめて提出する事例が多くあります。ほとんど税理士が作成し提出します。申告書をよく見ると、同一人から、配偶者子孫に対する贈与で、現金又は預貯金、金額、贈与月日が全く同じです。全く同じでも問題はありませんが、例えば、現金200万円の贈与があったとします。贈与者と住む地域がばらばらである子等に、同一日に贈与したとは考えられない。同一日に振込をしたのかもしれませんが、税理士は、贈与事実を確認したのだろうか、どうやって確認したのだろうか。もしかしたら、贈与者から依頼されてまとめて申告書を作成しているのではないか…という具合です。しかも前年も前々年も同一日に同一金額を贈与した申告事例も数多あります。贈与税の納税義務者は、受贈者です。まさか受贈者の知らないまま、贈与者の依頼に応じて贈与税の申告書を作成しているとは考えられませんが、本当に考えられないのか。納税はどうでしょう。200万円の贈与で9万円の贈与税を受贈者が、自分で納税しているでしょうか。まさか受贈者の知らないまま、贈与者が納税しているとは考えられませんが、本当に考えられないのか。そもそも、契約行為の当事者である相手方(贈与者)が、税理士に受贈者の申告依頼をして納税まですることが出来るのか、疑問に思わないかということです。例えば子、孫10人分200万円の贈与税の申告書を10年間提出したとしましょう。受贈者と称される人たちは、申告事実を知りません。知っていたとしても、受贈されたとする財産は手元にありません。合計で2億円の贈与となり、贈与税は900万円です。このような申告は、贈与者の相続が開始した時に表面化します。相続税の名義財産の認定です。受贈事実がない、贈与者が納税している、受贈財産は贈与者が一括管理している等の事実を証明すれば、相続財産として認定され追徴課税となります。その間コツコツと申告し、900万円を納税したことが水泡に帰します。②受贈者が知らないまま申告すると次のようなことが起こります。筆者の経験です。夫婦A及びBとその子2人の家族がいます。贈与税の申告書が4人分提出されました。贈与者はAの父から現金300万円でした。受贈者の整理をしていると、各人の贈与税の申告書がもう1枚ずつ出てきました。こちらはBの父から、非上場会社の株式の贈与400万円です。これも4人分です。どちらの申告書も税理士の署名があります。担当者が、Aに贈与税の申告書が2枚提出されている旨連絡します。Aは驚いて、贈与税の申告書なんか提出した覚えはない、と明確に答えます。このままでは申告書の処理ができないので、各父親に確認するよう伝えます。結果、両方の申告書を合併し、修正申告となります。税率が跳ね上がり、税額が増加します。これは、それぞれの税理士が、贈与者の意向を受け、贈与した事実を確認しないまま、受贈者に申告事実を知らせずに申告書を提出した典型例です。常識ではありえないように思われるかもしれませんが、実は何度もこのような事例に出会っています。ということは、ごく普通の状況なのかもしれません。③数年前に相続税の調査がありました。特に問題となるような案件ではなかったので、調査官に問題点は何かを尋ねました。調査官は、相続人である現社長が、平成15年に2,500万円の贈与を受け、相続時精算課税を選択して申告しているとのことでした。社長に確認したところ、贈与税の申告をした覚えは一切ない、まして相続時精算課税選択届出書(以下「選択届出書」)を提出したことはないので、申告書等の原本を見せて欲しいといいました。確認した結果、選択届出書の筆跡は社長のものではないということでした。税理士の署名がありました。平成15年に2,500万円の贈与を受けた事実はないかと社長に尋ねたところ、受贈された事実は認めたので、相続税の修正申告をして、事なきを得ました。(3)最後に贈与税は、知名度が高い割にはその実体を知らない人があまりに多いようです。税金のプロである税理士も同様です。「贈与税は申告さえしておけばいい」とのたまった税理士がいました。「申告さえしておけばいい」税目があるでしょうか。実体のない申告は、架空の申告となることを理解していないようです。参考となる裁決があります。「贈与税の申告は贈与税額を具体的に確定させる効力は有するものの、それをもって必ずしも申告の前提となる課税要件の充足(贈与事実の存否)までも明らかにするものではなく、贈与事実の存否の判断に当たって、贈与税の申告及び納税の事実は贈与事実を認定する上での一つの証拠とは認められるものの、贈与事実の存否は飽くまでも具体的な事実関係を総合勘案して判断すべきと解するのが相当である。」(裁決2007年(平成19年)6月26日TAINSF0-3-218)税金の申告は、取引の成立、申告要件の充足、納税者からの依頼、申告書の作成、納税者の了解、申告と納税の手順を踏みます。贈与事実を確認しない、納税義務者の了解を得ていない申告は、様々な問題をはらんでいます。提供:税経システム研究所
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2026/09/11 消費税
消費税の納税義務判定のポイント解説(第30回) 登録の経過措置と簡易課税制度選択届出書の提出に係る特例
1.登録の経過措置とは登録の経過措置とは、免税事業者が適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)の登録を受ける場合に、登録を受けた日(以下「登録日」といいます。)から課税事業者となることができる措置をいいます(28年改正法附則44④、消基通21ー1-1)。免税事業者が適格請求書発行事業者の登録を受けるためには、原則として、「課税事業者選択届出書」を提出する必要があります。ただし、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中に、この登録の経過措置により登録を受ける場合には、「課税事業者選択届出書」を提出する必要はなく、「適格請求書発行事業者の登録申請書」の提出のみで手続を行うことができます。2.登録の経過措置と「簡易課税制度選択届出書の提出に係る特例」の関係簡易課税制度の適用を受けようとする場合には、原則として、その適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに、「簡易課税制度選択届出書」を提出しなければなりません(消法37①)。つまり、「簡易課税制度選択届出書」は、原則として、簡易課税制度の適用を受けようとする課税期間の開始前に提出する必要があります。ただし、登録の経過措置により適格請求書発行事業者となる事業者については、「簡易課税制度選択届出書」の提出に関して特例が設けられています。具体的には、登録日の属する課税期間中に、その課税期間から簡易課税制度の適用を受ける旨を記載した「簡易課税制度選択届出書」を提出した場合には、その課税期間の初日の前日に届出書を提出したものとみなされます(改正令附則18)。これにより、「簡易課税制度選択届出書」は事前に提出したものとして取り扱われるため、実際に届出書を提出した課税期間から簡易課税制度の適用を受けることができます。これを「簡易課税制度選択届出書の提出に係る特例」といいます。3.「簡易課税制度選択届出書の提出に係る特例」に係る令和8年度税制改正「簡易課税制度選択届出書の提出に係る特例」には、登録の経過措置により登録を受けた場合のほか、2割特例及び3割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間に簡易課税制度を適用する場合についても、特例が設けられています。令和8年度税制改正では、このうち「2割特例及び3割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間」に係る「簡易課税制度選択届出書」の提出期限が見直されました。以下、【図1】【図2】では、課税期間が1月から12月までの個人事業者を前提に解説します。(1)2割特例・3割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間2割特例及び3割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間に簡易課税制度の適用を受ける場合には、改正前は、その翌課税期間中に、「簡易課税制度選択届出書」を提出する必要がありました。これに対し、改正後は、提出期限が「翌課税期間に係る確定申告期限まで」に延長されました。これにより、翌課税期間に係る確定申告期限までに「簡易課税制度選択届出書」を提出すれば、その翌課税期間から簡易課税制度の適用を受けることができることとされました(28年改正法附則51の2⑥、51の3⑤)【図1】。例えば、令和7年分(令和7年1月1日から同年12月31日までの課税期間)に2割特例の適用を受けた個人事業者が、令和8年分(令和8年1月1日から同年12月31日までの課税期間)から簡易課税制度の適用を受ける場合、改正前の提出期限は令和8年12月31日でした。これに対し、改正後は、個人事業者であれば、令和9年3月31日(令和8年分の消費税の確定申告書の提出期限)までに提出すればよいこととなります。そのため、令和8年分の確定申告書と「簡易課税制度選択届出書」を同時に提出することが可能となります。この改正は、2割特例又は3割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間が、令和8年10月1日以後に終了する課税期間である場合に適用されます(改正法附則1三、90①)。したがって、翌課税期間が令和8年9月30日以前に終了する場合には、従前の取扱いとなります。(2)登録の経過措置により登録を受けた場合の登録日の属する課税期間登録の経過措置により登録を受けた場合の、登録日の属する課税期間に係る「簡易課税制度選択届出書」の提出期限については、今回の改正による変更はありません【図2】。したがって、例えば、令和8年中に登録の経過措置により登録を受け、登録日の属する課税期間(令和8年の登録日から同年12月31日までの課税期間)から簡易課税制度の適用を受けようとする場合には、従来どおり、令和8年12月31日までに「簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。今回の改正では、「簡易課税制度選択届出書の提出に係る特例」のうち、「2割特例及び3割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間」に係る提出期限のみが見直されました。そのため、同じ「簡易課税制度選択届出書の提出に係る特例」であっても、「2割特例及び3割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間」と、「登録の経過措置により登録を受けた場合の登録日の属する課税期間」とでは、「簡易課税制度選択届出書」の提出期限が異なります。したがって、簡易課税制度の適用を受けようとする場合には、どちらの特例に該当するのかを確認し、提出期限を間違えないよう注意が必要です。提供:税経システム研究所
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2026/09/10 所得税法人税税制改正
暗号資産は支払手段から金融商品としての取扱いに~令和8年度税制改正~
暗号資産については、決済手段として資金決済に関する法律に位置づけられていたのですが、近年、暗号資産取引の実態としては一般の経済活動における決済手段としての利用は限定的であり、投資対象としての利用が一層拡大している状況にあるということです(財務省資料より)。そこで、金融商品取引法及び資金決済に関する法律が改正され、暗号資産は金融商品として金融商品取引法に位置付けられることになりました。これを受け、令和8年度税制改正により所得税及び消費税における暗号資産の取扱いが変更されます。1金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律の概要国内外の投資家において暗号資産が投資対象と位置付けられている状況を踏まえ、イノベーション促進の観点にも留意しつつ、利用者保護の充実を図るため、暗号資産取引に係る規制を資金決済法から金商法に移管有価証券とは別の金融商品と位置付け、その性質を踏まえた規制を適用することとされました。この法律は、令和8年4月10日に閣議決定され、令和8年7月15日に成立しています。【金融庁資料】2所得税の改正(1)申告分離課税制度の適用特定暗号資産の譲渡をした場合には、その特定暗号資産の譲渡による事業所得、譲渡所得及び雑所得については、他の所得と区分して、その年中の特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額に対し、15%の税率により所得税が課税されます(措法38の2①)。(2)「特定暗号資産」の意義金融商品取引法等の改正後の金融商品取引法に規定する暗号資産のうち、その名称が金融商品取引業者登録簿に登録されているもの等をいいます(措法38の2①)。(3)特定暗号資産取引に関する年間取引報告書の提出制度居住者又は恒久的施設を有する非居住者との間で特定暗号資産についての売買等を行った、暗号資産取引業者の国内にある主たる営業所又は事務所の長は、その売買等を行った日の属する年の翌年1月31日までに、その居住者又は恒久的施設を有する非居住者の氏名、個人番号、その特定暗号資産の名称等を記載した報告書を作成し、その営業所又は事務所の所在地の所轄税務署長に提出しなければならないこととされました(措法38の2④)。(4)特定暗号資産に係る譲渡損失の繰越控除制度の創設特定暗号資産の譲渡により生じた損失の金額のうちに、その譲渡をした日の属する年分の特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額の計算上控除してもなお控除しきれない金額があるときは、一定の要件の下で、その控除しきれない金額について、その年の翌年以後3年内の各年分の特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額から控除することができることとされました。ただし、その譲渡損失の金額が生じた年分の所得税につき、譲渡損失の金額の計算に関する明細書等の一定の書類の添付がある確定申告書を提出し、かつ、その後において連続して一定の書類の添付がある確定申告書を提出している場合に限られます(措法38の3、措令25の15の3)。【金融庁資料】(5)適用時期これらの改正は、金融商品取引法等改正法の施行の日の属する年の翌年の1月1日以後に行う特定暗号資産の譲渡について適用されます(改正法附則39①)。3消費税の改正(1)改正の内容消費税の非課税取引における暗号資産の位置づけについて、現行「支払手段に類するもの」から「有価証券に類するもの」に変更されます(消法別表2二、消令9①)。それに伴い、暗号資産の譲渡に係る課税売上割合の計算についても有価証券の譲渡と同様に、その譲渡対価の額の5%相当額を資産の譲渡等の対価の額(分母)に算入する(改正前:分母に算入しない)こととされます(消令48⑤)。(2)適用時期金融商品取引法等改正法の施行の日の属する年の翌年の1月1日以後に国内において行う資産の譲渡等及び課税仕入れについて適用されます(改正消令附則3①)。提供:税経システム研究所
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2026/09/04 所得税
居住用不動産の買換え特例について
1.はじめに都心を中心に不動産の価額が高騰しており、築古のマンション等でも高額な価額で売買されるケースが増えています。不動産会社からの積極的な売却のあっせんも多くなっており、好条件であることから所有する自宅を売却することを検討するケースが増えています。この場合、当然に多額の売却益の計上が想定されますので、譲渡所得税への対応が必要となります。居住用財産を譲渡して、売却益が出る場合の特例については、いわゆる「3,000万円控除」(居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例)の制度が有名ですが、「買換え特例」(特定の居住用財産の買換えの特例)という制度もあります。この制度は10年以上住んでいた一定要件を満たす自宅(譲渡資産)を売って、一定の要件を満たす代わりの自宅(買換資産)に買い換えたときは、一定の要件のもと、譲渡益に対する課税を将来に繰り延べることができる制度です。今回はこの「特定の居住用財産の買換えの特例」についてみていきたいと思います。2.譲渡資産に関する要件(1)譲渡する期間・所有期間・居住期間この特例は平成5年4月1日から令和9年12月31日までの間に行われた居住用財産の譲渡に適用することとされています。売却した年の1月1日時点で売った家屋や敷地の所有期間が10年超であること売却した人の居住期間が通算で10年以上であること※居住期間は連続ではなく通算で判断します。(2)住まなくなってから売却するような場合住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却する必要があります。住まなくなってから売却するまでに家屋を取り壊し、土地のみを売却するような場合は、取壊した日から1年以内にその敷地の売買契約を締結し、上記①の期間内で譲渡しなければなりません。また、家屋取壊し後に土地の売買契約を締結するまでの間に、土地の貸付を行うなど別の用途に敷地を使用してしまうと本件特例は受けられなくなってしまいます。(3)その他特別の関係がある人への譲渡ではないこと親子や夫婦など、売主の特別関係者へ自宅を売却した場合には適用ができません。「特別の関係がある人」には、このほか生計を一にする親族、家屋を売った後その売った家屋で同居する親族、内縁関係にある人、特殊な関係のある法人なども含まれます。譲渡資産は日本国内にあること(買換え資産も同様)譲渡対価の額が1億円以下であること(その年以前3年以内又はその翌年若しくは翌々年に譲渡資産と一体利用していた家屋や土地等の譲渡がある場合にはそれらの金額も含めて判定します)3.買換資産に関する要件(1)購入時期・居住開始時期について自宅を売却した年の前年から翌年までの3年間に買換資産(新しい自宅)を購入する必要があります。また、買換え資産には、取得した時期により次の期限までに居住する必要があります。売却年又はその前年に取得したとき:売却年の翌年12月31日まで売却年の翌年に取得したときは、取得した年の翌年12月31日まで(2)面積制限買換資産の建物の床面積(居住部分)が50㎡以上で、かつ、買換資産の土地面積が500㎡以下である必要があります。(3)省エネ要件等新築住宅等令和6年1月1日以後に居住の用に供する(居住見込みを含む)新築住宅等については、一定の省エネルギー基準を満たす必要があります。中古住宅耐火建築物の中古住宅である場合取得の日以前25年以内に建築されたものであること、または一定の建築基準等を満たすものであること。耐火建築物以外の中古住宅である場合取得の日以前25年以内に建築されたものであること、または、取得期限までに一定の建築基準等を満たすものであること。(4)災害危険区域等内に存する場合(令和8年度税制改正)買換資産が建築後使用されたことのない家屋で、令和10年1月1日以後に居住の用に供したとき又は供する見込みであるときには、その家屋が災害危険区域等内に存するもの(その家屋に係る建築確認を受けた時において、その家屋の新築をする土地の全部が災害危険区域等に含まれないものを除く。)は本件特例の対象とならないことになりました。4.他の居住用財産譲渡特例との併用関係売却した年、その前年及び前々年に他の居住用財産の特例の適用を受けている場合には本件買換え特例の適用はできません。【他の居住用不動産の特例】居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例住宅借入金等特別控除については、入居した年、その前年または前々年に、この居住用財産の買換え特例の適用を受けた場合には、その適用を受けることはできません。また、入居した年の翌年から3年目までのいずれかの年中に、住宅借入金等特別控除の対象となる資産以外の資産を譲渡し、この特例の適用を受ける場合にも、住宅借入金等特別控除の適用を受けることはできません。5.3,000万円控除との比較「3,000万円控除特例」は売却後に住む場所についての要件はありませんが、「買換え特例」は一定の要件を満たす買換資産(新しい自宅)の取得が必要です。買換え特例は3,000万円を超える売却益についても課税されませんが、あくまで課税の繰延べであり、単純にこの買換え資産を譲渡した場合には将来課税されることになりますので注意が必要です。買換え特例の適用を受けてから長い時間が経過すると、そもそも買換え特例を適用しているかどうか自体がわからくなってしまったり、いくらで取得費を引き継げばいいのかわからなくなってしまうケースもあります。このような場合には税務署に「取得価額引継整理票」という書類を「開示請求」して確認する等の対応が必要になります。【居住用財産特例の比較表】6.譲渡所得の計算について(1)譲渡資産の譲渡価額≦買換え資産の取得価額譲渡資産の譲渡がなかったものとされ、譲渡所得は生じません(譲渡益全額が繰延べされる)(2)譲渡資産の譲渡価額>買換え資産の取得価額その差額に対応する部分の譲渡資産の譲渡があったものとして、下記計算式による譲渡所得の計算を行います。収入金額:譲渡資産の譲渡価額-買換え資産の取得価額必要経費:(譲渡資産の取得費の額+譲渡費用の額)×①÷譲渡資産の価額譲渡所得の金額:①-②提供:税経システム研究所
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2026/09/01 法人税
防衛特別法人税は税額が「0」であっても申告が必要
1防衛特別法人税の創設の背景抜本的に強化される防衛力は、将来にわたって維持・強化していかねばならず、この防衛力を支えるために必要、かつ、安定的な財源を確保することは重要な課題であるといえます。財源確保のための税制措置について、「令和5年度税制改正の大綱(令和4年12月23日閣議決定)」では、令和9年度に向けて複数年かけて段階的に実施することとされ、「令和6年度税制改正の大綱(令和5年12月22日閣議決定)」「所得税法等の一部を改正する法律(令和6年法律第8号)附則第74条」及び「経済財政運営と改革の基本方針2024(令和6年6月21日閣議決定)」において適当な時期に必要な法制上の措置を講ずることとされていました。財源の確保は防衛力の抜本的強化のため不可欠なものであることから、防衛省から改めて既往の閣議決定にある措置の実施による財源の確保が要望されていました。2防衛特別法人税の概要令和7年3月31日に公布された「所得税法等の一部を改正する法律」により「我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法(以下「防確法」とします)」が改正され、防衛特別法人税が創設されました。これに伴い、令和8年4月1日以後に開始する事業年度から、各事業年度の所得に対する法人税が課される法人は防衛特別法人税の納税義務者となり、防衛特別法人税確定申告書の提出が必要になりました。防衛特別法人税の申告書は、法人税及び地方法人税の申告書と一体の様式となっており、防衛特別法人税額が「0」であっても申告は必要となります。なお、別表一及び別表一の二の様式では防衛特別法人税の記載欄は法人税及び地方法人税の記載欄とは別葉になるため、提出失念に留意しなければなりません。3防衛特別法人税の仕組み各事業年度の所得に対する法人税が課される法人は、令和8年4月1日以後に開始する各事業年度において、所得税額控除など一定の税額控除を適用しないで計算した法人税の額から年500万円を控除した金額に4%の税率を乗じて計算した金額について、防衛特別法人税額として申告し納付することが必要となりました。(1)納税義務者防衛特別法人税の納税義務者は、各事業年度の所得に対する法人税が課される法人とされています(防確法8)。(2)課税事業年度①通算法人以外の法人防衛特別法人税の課税の対象となる事業年度(以下「課税事業年度」とします)は、通算法人以外の法人であれば、その法人の令和8年4月1日以後に開始する各事業年度とされています(防確法11)。②通算法人の場合その法人が通算子法人である場合には、その法人に係る通算親法人の令和8年4月1日以後に開始する事業年度の期間内に開始するその法人の事業年度が課税事業年度とされています(防確法11)。つまり、通算子法人については、その通算子法人に係る通算親法人の事業年度が令和8年4月1日以後に開始する事業年度か否かにより課税事業年度に該当するかどうかを判定することになります。(3)基準法人税額防衛特別法人税の基準法人税額は、内国法人の場合には、その内国法人の法人税の課税標準である各事業年度の所得金額につき、法人税法その他の法人税の税額の計算に関する法令の規定により計算した法人税の額(附帯税の額を除きます)とされています(防確法10一)。なお、法人税の税額の計算に関する法令の規定には、次の規定を含みません(防確法10一)。所得税額の控除(法法68)外国税額の控除(法法69)分配時調整外国税相当額の控除(法法69の2)仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に伴う法人税額の控除(法法70)税額控除の順序(法法70の2)戦略分野国内生産促進税制のうち特定産業競争力基盤強化商品に係る措置の税額控除(措法42の12の6⑥⑦)通算法人の仮装経理に基づく過大申告の場合等の法人税額(⑥の措置に係る部分に限ります)(措法42の14①・④)外国関係会社等に係る控除対象所得税額等相当額の控除(措法66の7④、66の9の3③)(4)課税標準防衛特別法人税の課税標準は、各課税事業年度の課税標準法人税額とされており、内国法人の場合には、次の場合の区分に応じそれぞれ次の金額となります(防確法13①・②)。①次の②以外の場合各課税事業年度の基準法人税額から基礎控除額を控除した金額になります。②各課税事業年度の基準法人税額に特定同族会社の特別税率(法法67①:留保金課税制度)により加算された金額がある場合次のイとロの金額の合計額(下記の<計算イメージ>を参照)になります。その課税事業年度の加算前基準法人税額から基礎控除額を控除した金額なお、加算前基準法人税額とは、基準法人税額から留保金課税制度により加算された金額を控除した金額をいいます(防確法13②二イ)。その課税事業年度の基準法人税加算額から上記イで控除しきれなかった基礎控除額(基礎控除残額)を控除した金額なお、基準法人税加算額とは、基準法人税額のうち留保金課税制度により加算された金額をいいます(防確法13②二ロ)。(5)用語の定義①基礎控除額通算法人以外の法人の基礎控除通算法人以外の法人の基礎控除額は、年500万円とされています(防確法13③一)。なお、課税事業年度が1年に満たない法人は、「500万円を12で除し、これにその課税事業年度の月数(1月未満の端数は切り上げ)を乗じて計算した金額」となります(防確法13⑧・⑨)。通算法人の場合通算法人の場合には、500万円を各通算法人の基準法人税額又は加算前基準法人税額の比で配分した金額とされています(防確法13③二)。②基礎控除残額通算法人以外の法人の基礎控除残額通算法人以外の法人の基礎控除残額は、上記の基礎控除額から加算前基準法人税額を控除した金額とされています(防確法13④一)。通算法人以外の法人の基礎控除残額通算法人の場合には、基礎控除額の残額を各通算法人の基準法人税加算額の比で配分した金額とされています(防確法13④二)。(6)税額の計算防衛特別法人税の額は、各課税事業年度の課税標準法人税額に4%の税率を乗じた金額となります(防確法14①、15)。なお、法人税及び地方法人税において外国税額控除の適用を受ける場合で、法人税の額及び地方法人税の額から控除しきれない金額があるときは、防衛特別法人税においても外国税額控除の適用を受けることができます(防確法16)。また、外国税額控除のほか、税額控除規定として分配時調整外国税相当額の控除(防確法17)・控除対象所得税額等相当額の控除(防確法18)及び仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に伴う防衛特別法人税額の控除(防確法19)が設けられています。税額控除の順序は、①分配時調整外国税相当額の控除・②控除対象所得税額等相当額の控除・③仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に伴う防衛特別法人税額の控除・④外国税額控除の順序で行うこととされています(防確法20)。(7)確定申告防衛特別法人税確定申告書は、原則として、各課税事業年度終了の日の翌日から2月以内に納税地の所轄税務署長に提出しなければなりません(防確法25)。なお、所得金額が欠損等の理由により基準法人税額が「0」となる場合や基礎控除額(年500万円)の控除により課税標準法人税額が「0」となる場合であっても、防衛特別法人税確定申告書を提出する必要があるため、別表一次葉一の「課税標準法人税額の計算」及び「防衛特別法人税額の計算」の各欄を記載し、同表の「防衛特別法人税額」及び「防衛特別法人税額計」の各欄に「0」と記載して提出することになります。また、法人税確定申告書の提出期限が延長されている場合には、防衛特別法人税確定申告書の提出期限は、その延長された提出期限となります(防確法25④)。なお、各事業年度の所得に対する法人税の納税義務がない法人(例えば、公益法人等及び人格のない社団等で収益事業を行っていないものや国内源泉所得を有しない外国法人)や清算所得に対する法人税を課される平成22年9月30日以前に解散した内国法人である普通法人又は協同組合等については、防衛特別法人税確定申告書を提出する必要はありません。(8)中間申告令和9年4月1日以後に開始する課税事業年度において、法人税の中間申告書を提出すべき法人は、防衛特別法人税についても中間申告書を提出する必要があります(防確法21)。なお、その法人が通算子法人である場合には、その法人に係る通算親法人の令和9年4月1日以後に開始する課税事業年度の期間内に開始するその法人の課税事業年度とされています(令7改正法附則62②)。提供:税経システム研究所
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2026/08/28 消費税
令和8年度消費税改正③ 2割特例・3割特例を適用した翌課税期間の「消費税簡易課税選択届出書」の提出期限
1.はじめにインボイス制度の経過措置である2割特例は、令和8年9月30日の属する課税期間をもって終了します。令和8年度税制改正では、個人事業者である適格請求書発行事業者の令和9年及び令和10年の各課税期間に限り、3割特例が認められることになりました。令和8年10月1日以後、2割特例(又は3割特例)から簡易課税制度へ移行する適格請求書発行事業者に対し、2割特例(又は3割特例)の適用を受けた課税期間の翌課税期間に係る確定申告期限までに、「消費税簡易課税制度選択届出書」を所轄税務署長に提出したときは、その翌課税期間から簡易課税制度の適用ができるようになりました。なお、令和8年度税制改正に伴い、「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」(以下「インボイスQ&A」といいます。)が改訂されました。2.2割特例・3割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間(1)令和8年9月30日以前に終了する課税期間(改正なし)2割特例の適用を受けた適格請求書発行事業者が、その適用を受けた課税期間の翌課税期間中に、「消費税簡易課税制度選択届出書」を所轄税務署長に提出したときは、その提出した日の属する課税期間から簡易課税制度を適用することができます。(2)令和8年10月1日以後に終了する課税期間(改正あり)3割特例の適用を受けた適格請求書発行事業者が、その適用を受けた課税期間の翌課税期間に係る確定申告期限までに、「消費税簡易課税制度選択届出書」を所轄税務署長に提出したときは、その翌課税期間から簡易課税制度を適用することができます(平成28年改正法附則51の3⑤、インボイスQ&A問117)。なお、2割特例の適用を受けた適格請求書発行事業者についても、上記と同様に、2割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間に係る確定申告期限までに、「消費税簡易課税制度選択届出書」を所轄税務署長に提出したときは、その翌課税期間から簡易課税制度を適用することができ、令和8年10月1日以後に終了する課税期間から適用することができます(平成28年改正法附則51の2⑥、令和8年改正法附則90①)。図表12割特例を適用した翌課税期間の簡易課税選択届出書の提出期限区分2割特例を適用した翌課税期間簡易課税選択届出書の提出期限法人令和8年7月31日に終了する課税期間令和8年7月31日(金)令和8年8月31日に終了する課税期間令和8年8月31日(月)令和8年9月30日に終了する課税期間令和8年9月30日(水)〔図表2〕令和8年10月31日に終了する課税期間令和9年1月4日(月)〔図表3〕令和8年11月30日に終了する課税期間令和9年2月1日(月)令和8年12月31日に終了する課税期間令和9年3月1日(月)個人令和8年12月31日に終了する課税期間令和9年3月31日(水)〔図表4〕(注)翌課税期間に係る確定申告期限が、日曜日、国民の祝日に関する法律に規定する休日その他一般の休日、土曜日又は12月29日~31日に当たる場合はこれらの日の翌日、法人の確定申告書の提出期限の特例(消法45の2①)その他の規定により消費税申告書の提出期限が延長される場合は、その延長後の提出期限となります。図表2法人(9月決算)が令和7年9月期に2割特例の適用を受けた場合において、その翌課税期間(令和8年9月期)から簡易課税制度の適用を受けるとき(出典:インボイスQ&A問117)図表3法人(10月決算)が令和7年10月期に2割特例の適用を受けた場合において、その翌課税期間(令和8年10月期)から簡易課税制度の適用を受けるとき(出典:インボイスQ&A問117)図表4個人事業者が令和7年に2割特例の適用を受けた場合において、その翌課税期間(令和8年)から簡易課税制度の適用を受けるとき(出典:インボイスQ&A問117)3.改正後の簡易課税制度の適用開始課税期間簡易課税制度の適用開始課税期間は、上記2の改正により、図表5のようになります。図表5簡易課税制度の適用開始課税期間区分適用開始課税期間原則提出日の翌課税期間特例事業開始提出日の課税期間相続(被相続人が簡易課税制度を適用)合併(被合併法人が簡易課税制度を適用)吸収分割(分割法人が簡易課税制度を適用)インボイス制度の経過措置登録日から課税事業者となる経過措置の適用を受ける事業者の登録日の属する課税期間【令和8年9月30日以前に終了する課税期間】2割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間【令和8年10月1日以後に終了する課税期間】2割特例・3割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間確定申告期限までに簡易課税制度選択届出書を提出することにより簡易課税適用可(注)「提出日の課税期間からの適用」と、「提出日の翌課税期間からの適用」との選択をすることができるため、「消費税簡易課税制度選択届出書」において、適用開始課税期間を明確にしなければなりません(消基通13-1-5)。なお、インボイス制度の経過措置の適用を受ける場合には、下記4の改訂後の「消費税簡易課税制度選択届出書」の「所得税法等の一部を改正する法律(平成28年法律第15号)附則第51条の2第6項の規定又は消費税法施行令等の一部を改正する政令(平成30年政令第135号)附則第18条の規定により消費税法第37条第1項に規定する簡易課税制度の適用を受けたいので、届出します。」欄(G01)に「1」と記載します。4.消費税簡易課税制度選択届出書の改訂国税庁は、令和8年6月30日「「消費税関係申告書等の様式の制定について」の一部改正等について(法令解釈通達)」を発遣しました。この改正により、「消費税簡易課税制度選択届出書」の様式が次のように改訂されました。提供:税経システム研究所
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2026/08/25 税務行政
「デジタル社会の実現に向けた重点計画」の閣議決定
はじめに2026年7月21日、政府は、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を閣議決定しました。デジタル庁ができたのは、令和3年(2021年)9月1日です。同じタイトルの閣議決定は、令和3年以降毎年行われているので、今回で6回目となります。政府が閣議決定しているということは、政府全体の公式な見解ですので、税務に関係する箇所をまとめて記載していこうと思います。1.マイナンバーカード・マイナポータルを活用した確定申告の利便性向上(1)マイナポータルの連携拡大UI(*)、操作性等の改善により確定申告の一層の利便性向上を図るため、マイナポータル連携(控除証明書等のデータを一括取得し、各種申告書の該当項目へ自動入力する機能)に必要な外部サービスとの連携設定の簡素化について、令和8年度中を目途に要件を整理し、令和9年度以降の実現を目指します。あわせて、社会保険料控除の対象となる医療・介護保険料をマイナポータル連携の対象とするため、国税庁は厚生労働省等と連携し、令和8年度中を目途に要件を整理した上で、令和9年度以降の実現を目指します。なお、マイナンバーカード・マイナポータルを用いたe-Taxの推進を図るため、マイナンバーカードが普及するまでの暫定的な措置である「ID・パスワードによる申告」は、令和8年分確定申告期における納税者への周知の後、令和9年の早期に終了することとされます。(*)UIとは、ユーザー・インターフェースの略ですが、ここでは、マイナポータルやe-Taxといった確定申告等に用いるシステムの画面を、利用者にとってより見やすく、直感的に操作しやすいデザインに改善していくことを意味していると考えられます。(2)マイナポータルの地方税との連携拡大令和9年1月以降、給与支払報告書を市区町村に提出した場合、税務署に給与所得の源泉徴収票を提出したものとみなされ、eLTAXで提出された給与支払報告書が給与情報のマイナポータル連携の対象となることについて、政府を挙げて企業等へ周知し、マイナポータル連携の利用拡大を図ります。2.国税地方税連携の推進国税・地方税当局間で情報連携の仕組みを構築し、所得税・法人税申告書・法定調書等の情報について、連携対象となる情報の拡大を図ることで両当局間での書面による照会・回答や対面による閲覧事務を始めとした課税・徴収事務について一層の効率化に取り組んできました。今後、令和8年度から令和9年度までに順次、連携対象となる情報の更なる範囲拡大及び国税・地方税当局間での照会・回答業務のデジタル化を目指し、更なる事務効率化を図ることになります。3.生成AIを用いたチャットボット税務署窓口・電話相談からデジタルにもつながる施策として、令和8年度に実施する概念実証を踏まえ、令和10年度中の生成AIを活用したチャットボット構築に向けて検討を進めていきます。国税庁は、以前より、確定申告時期にチャットボットを活用してきましたが、こちらには生成AIは使用されていなかったようです。4.KSK2の推進こちらは、前回(2026年6月5日)にも本リポートに記載したことです。KSK2は、「納税者の利便性の向上」と「課税・徴収の効率化・高度化」を実現するためのインフラとして、①紙からデータ、②縦割りシステムの解消、③メインフレームからの脱却をコンセプトとしており、システム改修や機器運用等の経費の低減、AI等の最新技術の導入やデータ活用を容易にすることを目指すことになります。引き続き、税制改正に対応するための開発、テストやデータ移行など、令和8年9月の円滑なリリースに向けて計画的に作業を進めます。5.法人ベース・レジストリとの連携令和10年度を目標として、行政機関等が制度横断で利用できる法人ベース・レジストリ(企業の基本情報(社名や所在地など)をまとめた共通のデータベース)を整備する予定です。国税庁は、法人のマイナンバーを管理していますが、将来的には、法人データ・レジストリから直接データを取り込む予定です。6.デジタルインボイスの定着デジタルインボイスについては、その標準仕様(JPPINT)の安定的な管理を引き続き実現していきます。なお、令和8年度税制改正において、JPPINTに対応した電子計算機処理システムを使用して電子取引データの授受・保存を行うことで、青色申告特別控除(75万円)の適用を受けることが可能とされました。そのような取り巻く環境の変化も踏まえ、事業者のグッドプラクティス(*)の継続的な発信や政府調達におけるデジタルインボイスの利用(政府調達システムでのデジタルインボイスの受付)をより一層進めていくこととされます。(*)ここでいう「事業者のグッドプラクティス」とは、経理業務の大幅な効率化やコスト削減などの優れた成果を上げた企業の「優良事例」や「効果的な活用ノウハウ」などを指します。7.将来の「給付付き税額控除」を見据えたインフラ構築給付サービスについて、給付付き税額控除などの将来的な給付を念頭に、プッシュ型への対応、国による給付への対応等を含めた抜本的な機能拡充を検討していきます。8.不動産ベース・レジストリの課税事務への活用(地方税等)今後整備される「不動産ベース・レジストリ(*)」から個別に抽出した登記情報に係る特定の異動情報等(登記データセット)を利用する行政業務の例として、「課税に係る事務」が挙げられており、令和10年度の中頃のサービス提供を目指して検討されています。(*)不動産ベース・レジストリには、不動産登記情報、地図情報・各種図面情報、国籍情報を含む土地所有者情報などが含まれることになっています。日本は不動産情報のデータ化が、他の主要先進国に比べると遅れています。なお、「課税に係る事務」の詳細は、明らかになっていませんが、固定資産税、不動産取得税、登録免許税などが想定されます。まとめ日本は、他の主要先進国に比べると、デジタル化が遅れているということもあります。政府が毎年この時期(いつもは6月)に閣議決定する「デジタル社会の実現に向けた重点計画」は、デジタル化に向けた基本計画であると理解できます。税務関係も、e-Taxやマイナンバーカードとの連携、今年9月24日に更改されるKSK2など、今後もより一層のデジタル化が進行していくと考えられます。提供:税経システム研究所
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2026/08/19 相続・贈与税
贈与税の重要テーマ解説4(みなし贈与2 生命保険金)
【ポイント】みなし贈与関係でなじみ深いのは生命保険金でしょう。生命保険金は契約者、受取人等登場人物が多く、受取原因も異なるため課税判断に迷います。ここで整理します。【解説】1生命保険金等の受取の課税区分(1)契約にかかわる人物生命保険金の契約には「契約者」「被保険者」「保険料負担者」「保険金受取人」と、多数の登場人物がいます。生命保険契約をするにあたって、それぞれ異なる人物でもいいし、すべて同一人でも構いません。生命保険金の課税区分は多岐に渡ります。保険料負担者、被保険者、受取人の区分によって課税関係が異なります。ただし、課税関係で重要なのは、原則として、「保険料負担者」と「保険金受取人」です。要するに、誰が支払った金が、誰のところに行くのか、そしてその原因は何か、というスタンスで検討します。(2)保険金とともに支払いを受ける剰余金等の取扱い保険金とは、支払われる保険金そのものだけをいうのではなく「剰余金」「割戻金」「払い戻しを受ける前納保険料」も含まれます(相基通3-8、5-1)。(3)生命保険金の受取りのパターンと課税関係みなし財産として検討すべきは、満期保険金又は死亡保険金を保険料負担者以外の者が受取る場合です。満期保険金を保険料負担者が受け取るのが本来的な姿で、受取生命保険金と保険料の総額との差額について一時所得として所得税の対象になります(所令183②)。ところが保険料負担者以外の者が受取った場合、その金額を贈与により取得したものとみなされます。生命保険金を受取ることができる原因(保険事故等)には満期及び死亡があり、また、受取人を指定できることから、課税関係が複雑となります。下記は、生命保険契約による課税関係を表したものです。2贈与により取得したものとみなされる保険金(1)規定相続税法第5条第1項は、みなし贈与として次のように規定しています。「生命保険契約の保険事故(傷害、疾病その他これらに類する保険事故で死亡を伴わないものを除く。)又は損害保険契約の保険事故(偶然な事故に基因する保険事故で死亡を伴うものに限る。)が発生した場合において、これらの契約に係る保険料の全部又は一部が保険金受取人以外の者によって負担されたものであるときは、…保険事故が発生した時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分を当該保険料を負担した者から贈与により取得したものとみなす。」(2)みなし贈与の対象となる生命保険金等みなし贈与の対象となる生命保険金等とは、次のものをいいます(相法5①)。区分内容生命保険金被保険者の死亡に伴い支払われる死亡保険金傷害、疾病その他これらに類する保険事故で死亡を伴わないものを除く損害保険金偶然な事故に基因する保険事故で、死亡を伴うものに限る死亡の直接の起因となった傷害も該当する損害保険金は別途相続税法施行令第1条の4及び相続税法基本通達5-4に定められている。(3)みなされる金額の計算みなし贈与の対象となるのは、保険金受取人以外の者が支払った保険料の割合に相当する保険金の額です(相法⑤)。次の算式で計算します。受取人が一部負担していた場合A及びBが保険料を負担していた満期生命保険金4,000万円をBが受け取った。満期の時まで払い込まれていた保険料総額200万円のうち、Aが150万円、Bが50万円を負担していた。この場合、贈与により取得したとみなされる金額は次のとおり3,000万円である。受取人が負担していた部分1,000万円は、Bの一時所得となる。3保険金の実質受取人の判定保険金の受取人とは、保険契約に基づいて保険金を受け取る者のことをいいます(相基通3-11、5-2)。保険契約を締結するにあたって、保険事故が発生した場合の保険金の受取人は慎重に指定するでしょう。しかし、深く考えずに第三者や幼児を指定することがあります。保険料負担者以外を受取人として掛けていた保険が満期となり、その満期保険金を保険料負担者が使用することもあります。このような場合、契約上の受取人が、保険金受取人であると断定してしまうと、保険金の受取人に対して相続税等が課税され、さらに、その保険金を使用した保険金の負担者に贈与税が課税されるという、煩雑な課税関係が生じます。保険契約上の保険金受取人以外の者が、現実に保険金を取得している場合、次のように、実質的に受け取った者が、保険金の受取人と取り扱われます(相基通3-12)。保険金受取人の変更の手続がなされていなかったことについて、やむを得ない事情があると認められる場合現実に保険金を取得した者がその保険金を取得することについて、相当な理由があると認められる場合なお、保険契約上の保険金受取人以外の者が保険金を受け取った場合、上記①②に該当する場合を除き、保険金受取人が受け取った後に実質的受取人に対する贈与になることに留意します。やむを得ない事情の判断は大変難しくなります。《贈与税の実務判断》生命保険金の課税関係は煩雑である。支払者である生命保険会社は、契約に基づき、支払調書を国税に提出する。支払調書に基づいた申告書が提出されない場合、税務調査が行われ、実質的受取人が保険料の負担者である説明と立証に、時間を費やすことになる。実質的な受取人が、保険料の支払者となるような場合は、生命保険契約を見直し、契約を変更する必要がある。【参考判決・裁決事例】【大阪高裁判決1964年(昭和39年)12月21日】(保険金の受取人は実質で判断することもある)相続税法5条1項にいう保険金受取人は、保険契約によって決定された契約上(但し名義人という趣旨ではない)の受取人であること、右受取人が保険事故発生により取得する保険者に対する保険金債権が、右法案の所定要件を具(そな)えるときは、同法の課税対象になるものであることは、洵(まこと)に控訴人等主張の通りであり、また本件保険契約上、保険金受取人の名義が被控訴人となっていたことについては、被控訴人自ら認めるところであるが、保険契約上殊に保険証券等の文書上に受取人として記載された者即ち名義人が、控訴人主張のように、常に右法条の受取人に該当するものと解することはできない。けだし、保険契約者が保険契約の表面上、通名、仮名、虚無人名又は自己の幼少の子女、家族若しくは雇人等、自己の事実上支配、使用し得る名義を用いて、その名義人以外の者、多くの場合、自己自身を示す氏名として用いることがあることは、世上往々にして見られるところであるから、かような場合はすでに当該保険契約上、保険者との関係においても、実質的な契約上の受取人は右名義人とは別人であって、もしその必要が生ずるときは、右契約においても真実の受取人を探究する要があるけれども、保険者は右名義人に支払うことにより通常免責を受けるものであるから、多くの場合その探索の必要を見ないものであるに過ぎない。(TAINSZ038-1347)4生命保険料の負担者の判定(1)生命保険料の負担者生命保険契約において、一般的には契約者が保険料負担をする契約をします。課税関係では契約者名義より負担者の地位が大変重要です。要は、誰が支払っていた権利(果実)を誰が取得するのか、という単純な理屈です。(2)負担の違いによる課税関係保険料を支払った者が満期生命保険金を取得すれば一時所得であり、支払っていない者が取得すれば贈与税の課税対象となります。次の関係です。父Aが、満期保険金を18歳未満の収入がない子Bに取得させたいと考え生命保険契約をした。満期生命保険金2,000万円をBが取得すれば贈与税は695万円(一般税率。特例税率の場合、585万円)です。もし満期生命保険金を取得するBが掛け金を支払っていれば、一時所得となります。Bの一時所得は975万円((2,000万円-50万円)×1/2)となり、税負担が緩和されます。(3)保険料の支払い原資を贈与できるか生命保険金の受取りに対する課税は、生命保険会社から提出される支払調書に基づいています。契約者(保険料支払い者とみる)受取人が記載されており、それに基づいて相続税等の課税関係を判断していました。中には、契約は父だが保険料を子に贈与して支払っていたという主張がありましたが、殆ど応えることなく支払調書のみで判断していました。税務署の窓口では贈与事実を細かく判断することが困難であったからです。しかし保険会社がスキームを作ったのかもしれませんが、このような事例が頻発したため昭和59年9月14日付国税庁直税部資産税課長名で「生命保険料の負担者の判定について」が発遣され、生命保険料支払い資金の贈与について、贈与事実の心証が得られたものについて認めることとされました。たとえは次のような事実です。毎年の贈与契約書過去の贈与税申告書所得税の確定申告書等における生命保険料控除の状況その他の贈与事実が認定できるものこれは昭和58年10月6日付生命保険業協会事務局長名で照会があったものの回答として公表されました。ということは、当時の生命保険の販促の目玉商品だったと思われます。なお、公表文書の補足説明で次のような説明があります。問子供等は、生命保険契約及び贈与契約を締結することができるか。答未成年者の法律行為は、親権者又は後見人が同意を与えることで有効であり、また、単に負担のない贈与、債務免除を受けることは同意も必要としない。従って、父子間の贈与は、受贈者が0歳児であっても有効に成立し、また0歳児を契約者とする生命保険契約も同様に有効に成立するが、要は0歳児が実際に現金の贈与を受け、その現金で保険料を支払ったことを確認できるものが必要であるということである。《相続税・贈与税の実務判断》生命保険料の支払資金を贈与することは、満期で受け取った場合に課税が緩和される。しかし、贈与行為そのものの法効果をおろそかにして、贈与と認定されない危惧もある。生命保険料の支払資金の贈与は贈与税の課税対象である。相続等により財産を取得した者は、相続開始前7年以内の贈与加算の対象ともなることに留意する。【参考判決・裁決事例】【裁決1999年(昭和59年)2月27日】(保険金の実質支払者)未成年者である請求人が受け取った保険金については、1)その保険契約を被相続人が親権者として代行し、保険料の支払に当たっては、その都度被相続人が自己の預金を引き出して、これを請求人名義の預金口座に入金させ、その預金から保険料を払い込んだものであること、2)保険料は、被相続人の所得税の確定申告において生命保険料控除をしていないこと、3)請求人は、贈与のあつた年分において贈与税の申告書を提出し納税していることから請求人は贈与により取得した預金をもつて保険料の払込みをしたものと認められるので当該保険金を相続財産とした更正処分は取消しを免れない。(要旨)(TAINSJ27-4-01)提供:税経システム研究所
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2026/08/10 法人税
企業グループ間取引での留意点~シェアードサービスなどで注意すべき点~
1.企業グループ間取引での書類保存の特例の創設令和8年度税制改正では、青色申告法人がその関連者との間で関連者間取引と呼ばれる特定の取引を行った場合には、取引関連書類等に図表1の事項の記載または記録がないときは、その記載または記録がない事項を明らかにする書類を取得し、または作成し、かつ、これを保存しなければならないこととなりました。(1)創設された特例の概要青色申告法人がその関連者との間で次表に掲げる取引を行った場合、その関連者間取引に関して受領し、または作成した注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類などは法人税に関する法令の規定により保存しなければならないものとされました。さらに次表の取引区分ごとに掲げる事項の記載または記録がないときは、その記載または記録がない事項を明らかにする書類を取得し、または作成し、当該特定事項記載書類を整理し保存しなければなりません。この特例は、令和8年4月1日開始事業年度から適用されることになります。そして、原則として起算日(事業年度終了日の翌日から)から7年間、納税地等で保存する必要があります。図表1関連者間取引に係る書類の整理保存の特例の概要取引区分事項工業所有権等の譲渡又は貸付け工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式もしくはこれらに準ずるもの①その譲渡または貸付けに係る工業所有権等の明細②その譲渡または貸付けに係る工業所有権等の当該青色申告法人において果たす機能③その譲渡または貸付けに係る対価の額の明細及び当該対価の額の設定の方法著作権プログラムの著作物関連者が当該青色申告法人に対して行う役務の提供右の事業活動で、事業活動に要する費用の全部または一部をその役務の提供を受ける者が負担することを定めている契約または協定に基づき行うものその役務の提供をする者が有する産業、商業または学術に関する知識経験その他有する経営資源を活用して行われる研究開発、広告宣伝その他の事業活動当該契約または協定に基づいて行った当該事業活動の内容及び当該契約または協定に基づき当該青色申告法人が負担することとなる費用の額の計算の方法専用資産を使用させる行為並びにその使用に係る当該専用資産の維持及び管理役務提供者が行う経営の管理または指導、情報の提供その他の役務の提供で、役務提供者が有する産業、商業または学術に関する知識経験に基づき行うもの当該役務の提供の明細及び内容並びに当該役務の提供に係る対価の額の明細及び計算の方法上記のほか、これらの役務の提供に類するもの出典:筆者作成(2)用語の定義この特例における用語の定義は次のようになっています。関連者発行済株式等の50%を直接・間接に保有する親子関係、同一の者によって発行済株式等の50%を直接・間接に保有される兄弟関係、役員の2分の1以上の兼務により一方の法人が他方の法人の事業方針を実質的に決定できる関係などということになります(法規59の2③)。関連者間取引上記の図表1に掲げる各取引です(法規59の2①)。特定事項特定事項とは、法人税に関する法令の規定により保存しなければならないとされているものについて、当該関連者間取引の区分ごとに定められる事項の記載または記録がないときのその記載がない事項を言います。図表1の事項欄の事項を記載した書類がない場合、それが特定事項です(法規59の2①)。特定事項記載書類上記③の特定事項がある場合、その内容を明らかにする書類の作成・保存が必要になりますが、それが明らかにされている書類を特定事項記載書類といいます(法規59の2①)。(3)具体的な適用事例工業所有権等の譲渡又は貸付けを親子会社間で行うような場合、対象となる生産物があったり、その生産に当たって月次で原価計算をしたりするうえでも、事前に対価の額の明細及び当該対価の額の設定の方法を決めることになるはずです。また、関連者が海外にあるような場合、移転価格税制などにも留意する必要があるため、事前に厳密な対価の算定が行われると思われます。それに対して、「役務提供者が行う経営の管理または指導、情報の提供その他の役務の提供で、役務提供者が有する産業、商業または学術に関する知識経験に基づき行うもの」というのは、典型的には親会社や持株会社が子会社に対して請求する経営指導料や経理・総務機能のシェアードサービスの対価の請求が該当します。こちらでの「当該役務の提供の明細及び内容並びに当該役務の提供に係る対価の額の明細及び計算の方法」が問題になることが多いように考えています。というのは、子会社の中には、収益性が高く利益を出している企業もある反面、収益性が高くないビジネスを担当している結果、利益が少なかったり、赤字だったりする企業も含まれており、親会社・持株会社の側からみると、その支払い能力の側面に目が行くという傾向があります。筆者の経験では、毎月概算額での支払いをしつつも、年度末に精算を行う、年度末に1度に支払う、対価の計算方法を毎年のように変更するといった会社が少なくないように思えます。あらかじめ定めた計算方法で請求をするのが望ましいとはわかっていても、支払い能力を超えた請求額になれば、資金繰りへの対処として追加の貸し付けを行うなど、別途の課題が生じるということがあるからだと考えられます。本稿で関連者間取引を取り上げたのは、こうした問題をどのように考えるかあらためて考えてみたかったからです。2.持株会社やシェアードサービス会社を有する場合の注意点(1)事前決定の必要性持株会社や親会社が子会社に対して経営指導料や経理・総務のシェアードサービス報酬をどのように請求するか、これが本稿の検討テーマです。経理・総務のサービスを提供するシェアードサービス子会社を有している場合、事前に報酬計算のルールを定めておかないとシェアードサービス子会社の事業計画や予算の作成ができません。したがって、シェアードサービス子会社が経理・総務サービスを提供している場合の報酬については、問題は生じにくいという可能性が高いと思われます。今回の関連者間取引における取引関連書類等の書類の作成・取得、保存の特例の創設は、関連者間取引における「当該役務の提供の明細及び内容並びに当該役務の提供に係る対価の額の明細及び計算の方法」を精緻化していくきっかけになると考えています。そもそも、一般的に、こうした役務提供の対価の額の明細や計算の方法というのは、どのように決めるものでしょうか。シェアードサービスについて触れた文献は多いとはいえませんが、シェアードサービスは、ブレークイーブンを目指すべきであるという前提のもとに次のような方式をあげる文献があります。図表2価格戦略の選択肢(注1)選択肢価格戦略の内容①コストセンター方式コストセンターとして取り扱うため、価格設定は必要としない。しかし、コストに関する情報収集と効果的なベンチマークができない。価格戦略を策定するための有益な基礎データを収集することができる。②配賦方式業務処理量のうち、業務を行う部署ごとの取引処理量の割合に応じて請求が行われる。しかし、事業部門からのインプットが何であれ、また、シェアードサービス業務が行った処理の難易度を問わずすべての処理が同じ価格で提供されてしまう。③振替価格方式コストプラス利益をもって販売価格とすることで、シェアードサービス部門をプロフィットセンターとする。しかし、コストプラス利益のモデルの性格上、コスト削減に対して何の動機付けも生じない。④市場価格方式シェアードサービスの対価を実際の市場価格で請求する。⑤バリューマネジメント方式事前に両者間で同意されたバリューと価格に対する基準に沿って、サービスの請求価格を変動させる。この文献によれば、④市場価格方式もしくは⑤バリューマネジメント方式で価格を設定することが好ましいというニュアンスが窺えます。しかし、では、市場価格をどのように設定するのか、バリューとそれに見合った価格をどのように定めるのかという具体論についての言及がありません。結局、法人税法施行規則第59条の2が求める「当該役務の提供の明細及び内容並びに当該役務の提供に係る対価の額の明細及び計算の方法」のヒントはないということになります。(2)実務家としてする考えるべきこと結局、筆者の探索の限りでは、上記の書籍にせよ、実証的研究をされた学者の書籍、実務家が持株会社の実務について書かれた書籍などでも「具体的な方法」は見出すことができていません。結果として、実務家として試行錯誤しながら、「価額の明細及び計算の方法」を各企業の状況に応じて見つけていくしかないのかもしれません。ここで重要なのは取引開始前である期首において契約書等でこの「価額の明細及び計算の方法」を定めて、これにより運用をすることです。実務的な要望としては、「赤字の子会社には大きな負担をさせたくない」などがあるのは確かですが、これをやってはいけないということになります。すなわち、子会社の利益調整のツールとして、経営指導料や経理・総務のシェアードサービス報酬を利用すべきではないということになります。この点さえ守っていれば問題は出ないはずで、前掲した価格戦略の選択肢のどれを利用しようと、あるいはそれ以外の選択肢から設定をしようと問題はないのだろうと思います。できることなら、通達等で、認められうる価格設定方法の例示や問題ないとされる契約改定の頻度などが明らかにされれば、企業の側でも安心して実務の精度アップへの試行錯誤ができるのではないかと考える次第です。(3)国税庁事務運営指針での取扱い令和8年6月30日に「関連者間取引に係る書類の整理保存の特例の運用に当たっての基本的な考え方及び取扱いについて」が国税庁から公表されました。この中では、「価額の明細及び計算の方法」に関して、類型に応じて次に掲げる情報により当該取引の実態を把握できると認められるものは特定事項の内容に該当するとされています。(イ)費用分担等に係る事業活動として行われる場合には、当該事業活動の内容、その実施方法、場所及び回数並びに当該事業活動により内国法人が受ける利益の内容並びに当該内国法人が負担する費用の額を算出する根拠となった計算方法等に関する情報(ロ)経営の管理又は指導等に係る役務の提供として行われる場合には、その役務の具体的内容、その提供の態様、提供の頻度又は期間及び当該役務の提供に係る対価の額の計算方法等に関する情報(ハ)その他これらに類する役務の提供として行われる場合には、その役務の提供の日時、場所、期間又は回数、その具体的内容、対価の額の内訳及びその計算方法等に関する情報これらを読んでも、どのように役務提供の対価を決定すればよいのかのヒントはありません。関連者間取引がある企業グループでは、関連者への役務提供を役務の内容に応じて、費用の計算方法等を定め、あらかじめ費用発生額を予算化しておくことで、支払い能力の低い会社においては必要な資金調達の目途なども検討しておくことが必要になるのだと思われます。そして、計算方法等の精緻化は、各社の試行錯誤や年数を経ることによる事例の集積を通じて、行っていかざるをえないということになりそうです。<注釈>プライスウォーターハウスクーパース(シェルマン、ハマー、ラスク、ダンレビー著)「実践モデルシェアードサービス」P.182~184を筆者が要約、2000年、東洋経済新報社提供:税経システム研究所
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2026/08/05 所得税
相続と所得税 第33回 賃貸併用住宅
マイホームの取得は、住宅価格の高騰、ローンの金利上昇などにより、そのハードルはこれまでに比べて高くなっている。また、住宅を賃借するも、家賃の上昇が続いている地域もある。住まいについて、買うべきか、借り続けるべきか、ライフスタイルが多様化する今日において、住まいをどのように確保するかは、人生設計における大きなテーマである。そのようななか、立地や間取り、堅実な事業計画などのもと、賃貸需要が見込めれば「賃貸併用住宅」の取得という方法がある。「賃貸併用住宅」とは、オーナーが住む「自宅部分」と賃貸により家賃収入を得る「賃貸部分」を一つの建物内に併せ持つ住宅である。「賃貸併用住宅」における税務の取扱いについてみていこうと思う。1.貸併用住宅とはローンにて土地や建物を取得する場合、建物に自宅部分と賃貸部分を併せて設けることで、家賃収入をローンの返済へ充てることができる。また、ローン完済後は、家賃収入を老後の資金等の収入源などに見込むこともできる。賃貸部分における諸費用は不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入することができ、さらに、自宅部分は要件を満たせば、所得税の住宅借入金等特別控除(以下「住宅ローン控除」という)や相続税の小規模宅地等の特例などの優遇措置を受けることも可能である。2.所得税住宅ローン等を利用して住宅を新築、取得、増改築等した場合で、一定の要件を満たすときは、所得税が減税される「住宅ローン控除」の制度がある(租税特別措置法第41条、第41条の2、第41条の2の2)。以下、賃貸併用住宅をローンにより取得した場合における「住宅ローン控除」の取扱いについてみていく。(1)住宅ローンを利用する場合住宅ローンは、事業用ローンに比べて金利が低いなどの優遇措置がある。住宅ローンは、賃貸を目的とした事業用物件には、原則として利用できない。しかし、賃貸併用住宅は、オーナーの自宅の取得を兼ねており、条件を満たせば、賃貸部分を含めて、その物件に住宅ローンを利用できる金融機関もある。その条件には、建物全体の床面積のうち、居住用面積が50%以上であること等がある(ただし、金融機関により取り扱いは異なる)。また、住宅ローンを利用して自宅を取得し一定の要件を満たす場合、所得税の住宅ローン控除の適用を受けることができる。住宅ローン控除の適用要件はさまざまあるが、家屋の床面積要件のひとつに「家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら居住の用に供されるものに限る」がある。(注)住宅用家屋のうちに、自己の居住用以外の用に供される部分がある場合、居住用部分の床面積が家屋の床面積の90%以上の場合は、全部を居住用部分とすることができる(租税特別措置法関係通達41-29)。したがって、家屋全体の床面積のうち、居住用床面積が50%以上であれば、居住用部分に限り、住宅ローン控除の適用を受けることができる。住宅ローン控除の控除額の計算は、「居住用部分の家屋、土地等に係る住宅借入金等の年末残高」のみを対象として、それに居住の用に供した年分及び住宅の区分に応ずる一定割合を乗じて、住宅借入金等特別控除額を算出する。【住宅ローン控除の金額の求め方】(2)住宅ローンと事業用ローンを利用する場合自宅部分には住宅ローン、賃貸部分には事業用ローン(賃貸用アパート物件の取得に利用する不動産投資ローン等)を利用し、建物を自宅部分と賃貸部分で区分所有建物として登記をする方法もある。(注)「区分所有建物」とは、マンションのように、一棟の建物が2つ以上の部屋に区切られて、その専有部分の部屋が別々の所有権の対象となっている建物の各部屋のことをいう。各部屋が、それぞれ一個の「区分所有建物」であり、各部屋の所有権を「区分所有権」といい、「区分所有者」は自己名義で各部屋の所有権を登記することができる。住宅ローン控除の対象となる家屋の床面積とは、「1棟の建物の場合は、その家屋の床面積」、また「1棟の家屋でその構造上区分された数個の部分を独立して住居その他の用途に供することができるものにつきその各部分を区分所有する場合は、その区分所有する部分の床面積」が、制度の要件を満たす一定の面積になっていることが必要である。したがって、区分所有建物の場合、区分所有する自宅部分の床面積が要件を満たしていれば、住宅ローン控除の適用を受けることができる。この場合「住宅ローン控除の適用を受けるための区分所有が成立している」という意味は、一棟の建物において各部屋が別個のものとして独立した取扱いができるという構造上の区分だけではなく、区分所有建物としての登記が前提と考えられる(下記参照)。【参照】一棟の建物につき区分所有が成立するためには、建物の各部分が独立の構造を有し、構造上区分された各部分が独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用に供することができるだけでは足りず、その各部分が所有権の客体として、取引上、別個のものとされることが必要で、その前提として、所有者において各部分を別個の建物とする意思が必須の要件であるとされている。そして、その意思が客観的に外部から認識され得るものでなければ、区分された部分が別個のものとして取引の対象とはなり得ないから、一棟の建物が同一人の所有に属するときは、区分された部分が別個のものであることを客観的に認識し得るものとして区分建物の表示登記又は保存登記がなされることを要すると解される。したがって、その登記がなされていない限り、同一人の所有に属する一棟の建物は一個の建物であるとするのが相当である(公表裁決平成14年10月25日)。3.相続税個人が、相続等によって取得した財産のうち、その相続開始の直前において被相続人等の事業の用または居住の用に供されていた宅地等のうち一定のものがある場合には、その宅地等のうち一定の面積までの部分について、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の割合が減額される「小規模宅地等の特例」がある(租税特別措置法第69条の4)。賃貸併用住宅に居住していた被相続人が死亡した場合における「小規模宅地等の特例」の取扱いについてみていく。(1)一棟の建物一棟の建物(区分所有建物でない建物)に複数の利用区分が存する場合には、その一棟の建物の敷地は利用区分ごとの床面積の割合で、敷地面積を按分する。そして、相続等により取得した者ごとに、利用区分、用途ごとにしたがい按分された敷地面積について、特例の適用を判定する。賃貸併用住宅は、原則として、建物の総床面積に対する「自宅部分の床面積」と「賃貸部分の床面積」の割合で一棟の建物の敷地面積を按分し、「自宅部分に対応する敷地面積」と「賃貸部分に対応する敷地面積」を求める。そして、取得者ごとに、利用区分ごとに求めた敷地面積の部分が、要件に該当すれば、特定居住用宅地等、貸付事業用宅地等にて、小規模宅地等の特例を適用することができる。(2)区分所有建物区分所有建物における各部屋の「区分所有者」は、建物の敷地に対する「敷地利用権(建物が建っている敷地を利用する権利)」の共有持分を有している。「区分所有権」と「敷地利用権」が一体となって登記されている状態のことを「敷地権」という。敷地権化された「敷地権付き区分建物」は、原則として、規約等に別段の定めがある場合を除き、建物の権利「区分所有権」と土地の権利「敷地利用権」を、分離して処分することはできない。売買などによって部屋の所有権が移転した場合は、一棟の建物の敷地の共有持分も一緒に移転することになる。賃貸併用住宅が区分所有建物の場合、その敷地は「自宅部分の部屋に係る敷地」、「賃貸部分の部屋に係る敷地」について、取得者ごとに、要件に該当すれば、特定居住用宅地等、貸付事業用宅地等にて、小規模宅地等の特例を適用することができる。(3)令和8年度税制改正賃貸用不動産の取得等にあたっては、下記のとおり、令和8年度税制改正により評価方法の見直しが予定されているため、相続を考える上では、その取得等に当たって十分な検討が必要である。【改正事項】被相続人等が課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得又は新築をした一定の貸付用不動産については、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価することになる。上記の課税時期における通常の取引価額に相当する金額については、課税上の弊害がない限り、被相続人等が取得等をした貸付用不動産に係る取得価額を基に地価の変動等を考慮して計算した価額の80%に相当する金額によって評価することができる。この改正は、令和9年1月1日以後に相続等により取得する財産の評価に適用する。ただし、改正に通達を定める日までに、被相続人等が所有する土地(同日の5年前から所有しているものに限る)に新築した家屋(同日において建設中のものを含む)には適用されない。【参考文献】国税庁HP法務局HP提供:税経システム研究所
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