税務情報レポート
MJS税経システム研究所・税務システム研究会の顧問・客員研究員による租税を中心とした多彩な研究成果および最新の税制改正および制度や動向、判例研究等に関するリポートです。
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2026/10/22 法人税医療業務
医療法人が合併した場合の合併後の課税について
医療法人の類型には、社団と財団の形式のほかに、社団においては「持分の定めのある法人」と「持分の定めのない法人」の形式もあり、医療法人が合併した場合、合併後存続する法人はどの類型になるのか、難しい問題があります。また、それによって合併時の課税関係も変わってきます。なお、持分とは「定款の定めるところにより、出資額に応じて払戻し又は残余財産の分配を受ける権利」をいいます。出資者(出資社員)にその権利を定款において定めている法人を「持分の定めのある法人」いい、定款に定めていない(権利の行使を認めていない)法人を「持分の定めのない法人」といいます。1.合併後存続する法人はどの類型になるのか社団医療法人同士の合併後の法人は社団たる医療法人でなければならず、財団医療法人同士の合併後の法人は財団たる医療法人でなければなりません。持分の定めのある医療法人同士の合併の場合、吸収合併に限り、持分ありのままで存続することができます(もちろん持分なしに移行して存続することもできます)。どちらかが持ち分の定めのない医療法人の合併の場合には、合併後存続する法人は持分の定めのない法人でなければなりません。財団医療法人同士の合併の場合には、合併後存続する法人は財団医療法人でなければなりません。財団医療法人と社団医療法人との合併も認められますが、財団医療法人が消滅し、社団医療法人が存続する場合は、合併後の法人は持分の定めのない社団医療法人でなければなりません。以上のことから、考えられる組合せをまとめると次のようになります。吸収合併の場合*持分の定めのある社団=持分あり持分の定めのない社団=持分なし消滅法人(被合併法人)吸収法人(合併法人)合併後の法人持分あり持分あり持分あり(持分なしも可)持分あり持分なし持分なし持分あり財団財団持分なし持分あり持分なし持分なし持分なし持分なし持分なし財団財団財団持分あり持分なし財団持分なし持分なし財団財団財団新設合併の場合持分なしの社団又は財団のどちらかでの設立となります。2.吸収合併の場合の課税消滅法人も吸収法人も「持分の定めのある法人」である場合吸収法人がそのまま「持分の定めのある法人」で存続する場合には、両法人の出資者が持つ出資持分との間で、持分比率の問題が出てくる可能性があります。株式会社のように、合併比率に応じた吸収会社の株式を交付するということはありません。そのため合併契約書あるいは定款において、何らかの解決策を定めないと、みなし贈与の問題が出てくる可能性があります。また、後述する適格合併か非適格合併かの問題も出てきます。吸収法人が「持分の定めのない法人」となる場合には、両法人の出資者は合併にあたり出資持分を放棄することになりますから、その放棄により吸収法人に対する贈与税課税の問題が生ずる可能性があります。なお、吸収法人が、同族的支配でない場合(具体的には相続税法施行令第33条第3項に規定されている要件を満たすような法人の場合)には、法人に対する贈与税課税は生じません。また、出資持分の放棄により法人側に生じる経済的利益に対しては、益金に算入されず利益積立金として処理されるため、法人税の課税はありません。ただし、後述する適格合併か非適格合併かの問題も出てきます。消滅法人が「持分の定めのある法人」、吸収法人が「持分の定めのない法人」の場合消滅法人の出資者は出資持分を放棄することになりますから、上記(1)②の場合と同様な課税関係が生じます。消滅法人が「持分の定めのある法人」、吸収法人が財団である場合消滅法人の出資者は出資持分を放棄することになりますから、上記(1)②の場合と同様な課税関係が生じます。消滅法人が「持分の定めのない法人」、吸収法人が「持分の定めのある法人」の場合吸収法人は「持分の定めのない法人」となりますから、吸収法人の出資者は合併にあたり出資持分を放棄することになり、その放棄により吸収法人に対する贈与税課税の問題が生ずる可能性があります。なお、吸収法人が、同族的支配でない場合(具体的には相続税法施行令第33条第3項に規定されている要件を満たすような法人の場合)には、法人に対する贈与税課税は生じません。また、出資持分の放棄により法人側に生じる経済的利益に対しては、益金に算入されず利益積立金として処理されるため、法人税の課税はありません。ただし、後述する適格合併か非適格合併かの問題も出てきます。消滅法人も吸収法人もどちらも「持分の定めのない法人」の場合もっぱら、後述する適格合併か非適格合併かの問題となります。消滅法人が「持分の定めのない法人」、吸収法人が財団である場合もっぱら、後述する適格合併か非適格合併かの問題となります。消滅法人が「財団」、吸収法人が「持分の定めのある法人」の場合吸収法人は「持分の定めのない法人」とならなければなりませんから、吸収法人の出資者は合併にあたり出資持分を放棄することになり、その放棄により吸収法人に対する贈与税課税の問題が生ずる可能性があります。なお、吸収法人が、同族的支配でない場合(具体的には相続税法施行令第33条第3項に規定されている要件を満たすような法人の場合)には、法人に対する贈与税課税は生じません。また、出資持分の放棄により法人側に生じる経済的利益に対しては、益金に算入されず利益積立金として処理されるため、法人税の課税はありません。ただし、後述する適格合併か非適格合併かの問題も出てきます。消滅法人が「財団」、吸収法人が「持分の定めのない法人」の場合もっぱら、後述する適格合併か非適格合併かの問題となります。3.新設合併の場合の課税新たな医療法人の設立のため「持分の定めのない法人」ということになりますので、上記(1)②の場合と同様な課税関係が生じます。4.組織再編税制(適格合併か非適格合併か)医療法人の合併の場合にも組織再編税制の適用を受けることができます。ただし、医療法人は他の医療法人に出資することは認められていませんから、適格合併の形態のうち、共同事業再編(支配関係がない法人間の合併)の適格合併要件を満たすかどうかということになります。共同事業再編の適格合併要件は次の通りです。事業移転要件被合併法人(消滅法人)の直前の従業者のうち、概ね80%以上が合併後に存続法人の業務に従事することが見込まれていること事業関連要件被合併法人(消滅法人)の主要な事業と合併法人のいずれかの事業とが相互に関連するものであること事業継続要件被合併法人(消滅法人)の合併前に営む主要な事業が、合併後に合併法人において引き続き営まれることが見込まれていること選択要件次の、同等規模要件又は経営参画要件のいずれか一方を満たすこと同等規模要件合併法人と被合併法人(消滅法人)の収入規模、従業者数、利益積立金(出資金など)のいずれかの差が、概ね5倍を超えないこと合併前の、合併法人(存続法人)の特定役員(理事長、常務理事等)のうち1名以上と、被合併法人(消滅法人)の特定役員のうち1名以上とが、それぞれ合併後の合併法人の特定役員となることが見込まれていること以上の要件を満たす合併の場合には、消滅法人の資産負債は簿価で合併法人に引継がれるますから課税関係は生じません。要件を満たさない場合には時価で引き継がれることになるので譲渡損益が生じ、譲渡益に対しては消滅法人に課税が生じることになります。提供:税経システム研究所
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2026/10/20 税制改正
令和9年度税制改正における政策税制の動向について
1.税制改正の流れ税制改正の流れは、毎年10月下旬から自民党税制調査会において議論が始まり、12月半ば過ぎに税制改正大綱にまとめられて公表され、その後、閣議決定を経て国税は財務省主税局で、地方税は総務省自治税務局で法案の作成作業に取り掛かり、翌年2月から3月にかけて国会で審議され可決した後に、官報に公布されて法律として施行されることになります。ところで税制の中には、税負担の軽減を通じて政策の推進と密接につながっているものがあり、これらは政策税制といわれ、その内容は担当省庁が企画し、また中には複数の省庁で共同して担当しているものもあります。これらの政策税制は、毎年8月末までに各担当省庁から財務省に要望として提出され、最終的には自民党税制調査会においてその採否が決定されます。本年も8月末までに、令和9年度税制改正要望事項が、各省庁から提出されました。以下、特に中小企業や個人にとって関係深いと思われるものを、要望を提出した担当省庁名も併せて紹介いたします。2.令和9年度税制改正のうち政策税制に関する主な項目について(1)事業承継税制の抜本見直し(経済産業省ほか)事業承継税制の特例が令和9年12月末で適用期限を迎えることから、一般制度を抜本的に見直した上で、令和10年1月1日から実施することが要望されています。改正後の内容については、中小企業庁が昨年から「中小企業の親族内承継に関する検討会」を立ち上げて審議されており、その報告書(案)では本来の一般制度について、①猶予対象株式を全株式まで広げるべきではないか、②相続よりも早期の贈与による承継を促すような制度にすべきではないか、③納税の猶予期間が長すぎるので評価減制度の導入や一定の要件のもとに免除制度を設けてはどうか、④雇用確保要件について人数よりも他の要件で判定してはどうか、⑤成長及びガバナンスの確保要件について中小企業の実態に即した判断が必要ではないか、⑥海外子会社についても対象に含めてはどうか、⑦後継者の人数について再検討をすべきではないか、などが検討項目としてまとめられていることから、現在実施されている特例制度を更に改善する方向での見直しが行われるのではないかと思われます。なお、国税庁では取引相場のない株式の評価の方法について、抜本的な見直しを行うための有識者会議を立ち上げて審議されており、これについても令和10年1月1日から実施される模様です。この両者の改正については、令和9年度税制改正大綱でその内容が明らかにされるとのことです。仮に取引相場のない株式の評価方法の改正によって評価額が上昇したとしても、事業承継税制の適用によって全株式が納税猶予の適用を受け、最終的に免除又は軽減されることになれば、実質的に事業承継に伴う贈与税、相続税の負担は避けられ又は軽減されることになりますので、その行方に関心が持たれるところです。(2)中小企業者向け賃上げ促進税制の見直し(経済産業省)賃上げ促進税制は、令和8年度改正において大企業向けの制度が期限の到来を待たずに繰り上げて廃止されましたが、中堅企業向けの制度についても令和9年度改正で延長されずに廃止されます。中小企業者向けの制度は令和9年度以後も継続されますが、適用要件の判定基準について、雇用者給与等支給額の総額での増加割合による判定ではなく、従業員一人平均給与等支給額による増加割合の判定に改定した上での延長が要望されています。(3)少額減価償却資産に係る取得価額基準の見直し(経済産業省)令和8年度改正において、中小企業者等に対する少額減価償却資産の特例が改正され、取得価額が40万円未満の減価償却資産まで拡大されましたが、一般の少額減価償却資産及び一括償却資産についても、物価上昇等を踏まえて基準の見直しが要望されています。(4)中小企業者等の法人税率の特例の延長等(経済産業省)中小企業者等に係る法人税率については、本則の23.2%に対して、法人税法上は19%に軽減されていますが、租税特別措置法で更に15%(単年度所得10億円超の法人は17%)に軽減されています。この特例が令和9年3月末で期限が到来することから、2年間の延長が要望されています。(5)中小企業者等が機械等を取得した場合の特例(中小企業投資促進税制)の延長等(経済産業省ほか)中小企業者等が機械等を取得した場合等の30%特別償却又は7%特別税額控除制度について、令和9年3月末で期限が到来することから、2年間の延長が要望されています。(6)中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特例(中小企業経営強化税制)の延長等(経済産業省ほか)中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合等の即時償却又は10%若しくは7%特別税額控除制度について、令和9年3月末で期限が到来することから、メリハリを付けた見直しを行った上で2年間の延長が要望されています。(7)中小法人に対する交際費課税の特例の延長(経済産業省ほか)交際費課税について、中小法人に対しては年800万円までの定額控除限度額が認められていますが、令和9年3月末で期限が到来することから、3年間の延長が要望されています。ところで、交際費課税の対象からは一人当たり1万円以下の飲食費が除かれていますが、昨年の「令和8年度税制改正大綱」の15頁に「今後の交際費課税のあり方については、企業の設備投資や賃上げを強く推進する中、冗費や濫費の抑制といった交際費課税の趣旨や会議費の実態を踏まえ、適用期限の到来にあわせて令和9年度税制改正において見直しを検討する。」との記載があり、少額飲食費の基準の引き下げが懸念されるところです。(8)家事支援サービスやベビーシッター費用に対する控除の創設(経済産業省ほか)子育てや介護等を行いながら働く者が増加する一方で、「出産・育児」による離職者は年間15万人、「介護・看護」による離職者は11万人に上るといわれ、仕事と子育て・介護等との両立をサポートするための施策として、家事支援サービスやベビーシッターの利用を促進し、子育てや介護等による離職を防止することが必要と考えられています。このような状況を受けて、家事支援サービスやベビーシッター費用に対する控除制度の創設が要望されています。なお、これに関連して昨年の「令和8年度税制改正大綱」の17頁に「人口減少に伴う人手不足が指摘される中、育児・子供の不登校等を理由とした離職の防止が課題となっている。こうした課題への対応として、ベビーシッター等の利用促進に取り組むことが考えられる。まずは、政府において、関係省庁が一体となって、事業者・団体との連携の下、これらのサービスの普及広報や実態・ニーズの調査を行うとともに、来年夏を目途として、サービスの品質・信頼性の向上や人材の育成・確保に向けたリ・スキリング、利用拡大に向けた税制措置を含む支援策等について、総合的に検討を行い、必要な場合には、適用対象の範囲等に係る要件を適切に設定した上で税制上の措置を講ずることとする。」との記載が見られます。(9)相続財産に係る上場株式等又は一般株式等に係る譲渡所得とみなされる場合の取得費加算の適用明確化(金融庁)上場株式等又は一般株式等について、その株主等が資本取引等によって何らかの交付を受ける場合には、その金額を当該株式の譲渡収入金額とみなして課税を行う場合があります。相続財産に係る株式について譲渡収入金額とみなされた場合に、相続税相当額の取得費加算制度が適用できるのかが法令上明確でないことから、これを明確にすることが要望されています。(10)生命保険料控除の特例の恒久化(金融庁ほか)令和8年、9年分限りの措置として、所得税において23歳未満の扶養親族を有する場合には、一般生命保険料控除の控除限度額が引き上げられましたが、これを恒久制度とすることが要望されています。(11)空き家特例に係る3千万円控除の拡充・延長(国土交通省)被相続人が居住の用に供していた空き家に係る3千万円特別控除について、適用期間の4年間の延長をはじめ、築年数要件の緩和、民事信託に対する適用の拡大、手続きの円滑化や負担の軽減が要望されています。(12)住宅取得等資金の贈与税の非課税制度の延長(国土交通省ほか)直系尊属や特定の贈与者から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税制度が、令和8年12月31日で期限が到来することから、その延長が要望されています。提供:税経システム研究所
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2026/10/19 相続・贈与税
資産税業務における誤りやすい事例のポイント解説(第2回) みなし配当課税の特例の適用について
1.はじめに個人株主が非上場株式を自己株式として発行会社に譲渡する場面では、税務上、譲渡所得とは別立てでみなし配当が発生することがあります。この結果、売却益に対する実効税率は5割水準に達することがあるため、非上場株式を保有するオーナー経営者や相続人にとっては納税資金計画上の重大な論点となります。他方で、相続又は遺贈により取得した非上場株式を一定の要件の下に発行会社に譲渡する場合には、租税特別措置法第9条の7(以下「措法9の7」といいます。)に基づき、みなし配当課税を行わず、譲渡対価の全額を譲渡所得に係る総収入金額として課税する特例の適用が認められています。そこで本稿では、みなし配当課税の仕組みと措法9の7の趣旨を整理したうえで、その適用要件を検討し、とりわけ配偶者の税額軽減(相法19条の2)との関係において生じやすい留意点について解説します。2.みなし配当課税と措法9の7の概要(1)みなし配当課税の原則的な仕組み個人株主が発行会社に非上場株式を譲渡する場合において、「取得資本金額」を超える部分の金額は「みなし配当」に当たるとされ、配当所得として取り扱われます(所法25条)。配当所得は他の所得(給与所得・不動産所得など)と合算されたうえで、最高45.945%(所得税45%+復興特別所得税)で所得税が課税されます(別途住民税)。他方、譲渡対価からみなし配当の額を差し引いた残額は、譲渡所得の総収入金額としてその株式の取得価額を超える部分について、15.315%(所得税15%+復興特別所得税)で所得税が課税されます。(2)措法9の7の趣旨と適用構造措法9の7は、相続又は遺贈により非上場株式を取得した個人のうち、その相続または遺贈につき納付すべき相続税額がある者が、相続開始のあった日の翌日から3年10か月以内に、その相続税額の課税価格の計算の基礎に算入された非上場株式を発行会社に譲渡した場合について、一定の手続きの下に、みなし配当課税を行わず、譲渡対価の全額を株式に係る譲渡所得の総収入金額として課税する制度です。本特例は、相続税納付のための相続財産の譲渡に係る課税の負担軽減を目的とするものです。なお、本稿の直接のテーマではありませんが、相続財産を譲渡した場合の相続税額の取得費加算の特例(措法39条)についても、みなし配当課税の特例と併用が可能なので、併用することで譲渡に伴う所得税負担を抑えることが可能となります(下図※)。3.措法9の7の適用要件(1)適用要件の全体像本特例の適用を受けるためには、以下の4つの要件をいずれも満たす必要があります。相続・遺贈により取得した株式であること納付すべき相続税額が生じていること相続開始日の翌日から3年10か月以内の譲渡であることその株式を発行法人に譲渡する日までに、「みなし配当課税の特例に関する届出書」を発行会社に提出し、当該発行法人は売主から提出を受けた届出書に発行会社用を作成・追加し、株式を譲り受けた日の属する年の翌年1月31日までに所轄税務署へ届出書を提出すること(2)相続時精算課税との関係相続時精算課税の適用により生前に被相続人から取得した株式については、措法9の7において、「相続又は遺贈による財産の取得とみなされるもの」に含まれることとされており、その受贈者が他の要件を充足する限り本特例の対象となります。したがって、生前の段階から本特例の利用可能性を見据えて、後継者に株価が低い時点で相続時精算課税制度を適用して株式を贈与し、相続開始後に発行会社への譲渡を行って発行会社からキャッシュを引き出し、相続税の納税を行うことも有効な対策となります。ただし、会社が自己株式を取得する際には、会社法上の分配可能額の範囲内で行う必要がある(財源規制)ため、事前に発行会社の財務状況を確認しておくことが重要です。(3)「納付すべき相続税額がある者」の検討上記(1)②の要件は、措法9の7の適用を受ける者を、「亡くなった方から財産を取得し、その財産について納付すべき相続税額のある個人」の方に適用対象者を限定する趣旨で設けられています。このため、各種特例などにより納付税額がゼロ円となる者については、特例の対象となりません。なお、要件の充足はあくまで取得者単位に判定される点に留意する必要があります。すなわち、相続財産全体で納付税額が生じているかどうかではなく、本特例の適用を受けようとする者自身の納付税額の有無によって判定される仕組みとなっています。(4)要件を満たさなかった場合の課税関係上記の要件のいずれかが欠ける場合、本特例は適用されず、発行会社への譲渡であっても通常のみなし配当課税が行われます。すなわち、譲渡対価のうち取得資本金額を超える部分は配当所得となってしまいます。4.配偶者の税額軽減との適用関係における留意点相続税における配偶者の税額軽減は、被相続人の配偶者が取得した正味の遺産額のうち「1億6,000万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか多い金額までは配偶者に相続税が課されない制度です。よって、結果として配偶者が「納付すべき相続税額がある者」に該当しない状況が生じることがあります。相続税負担だけの観点で考えれば、配偶者がなるべく多く財産を取得した方が良い場合でも、将来的な譲渡まで考えると相続で他の相続人が株式を相続しておいた方が良いケースがあります。例えば、被相続人が親族(従兄弟)の営む会社の株式を保有していて、生前にその会社から買い取りの申し出を受けていたが、売却が完了する前に相続が発生してしまったようなケースです。このケースでは、相続人達は分割協議で配偶者の税額軽減の適用を目一杯受けるために、当該株式について配偶者が相続することとしました。その後、配偶者が当該会社に株式を売却した際にみなし配当課税の特例の適用を受ける予定が、納付すべき相続税額が生じていないため特例の適用を受けることができないことになります。このようなケースにおいては、発行会社への譲渡を予定している株式については、配偶者の税額軽減の適用対象から外し、納付すべき相続税額が生じる他の相続人に取得させる分割をした方が、相続税とその後発生する所得税を通算して考えると有利になることが多いと考えられます。なお、株式を発行法人に譲渡するか、発行会社の代表者個人へ譲渡するかによって、課税関係が異なる点にも留意が必要です。みなし配当課税及び本特例の対象となるのは発行会社への譲渡であるのに対し、例えば代表者個人や他の法人への譲渡は通常の株式譲渡として取り扱われるので、みなし配当課税の心配はありません。よって、将来的な売却先も併せて検討をすると誰が相続すべきか決める判断材料となります。提供:税経システム研究所
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2026/10/13 経営・運営公益法人
新公益法人制度と会計(第9回)
新公益法人制度と会計について、前回は中期的収支均衡の特例の算定方法の内容について記載させて頂きました。第9回では、中期的収支均衡の特例の算定方法に係る調整計算の内容について解説させて頂きます。中期的収支均衡を図るべき期間は5年間となり、発生から5年間を超える残存剰余額がなければ、当該中期的収支均衡が図られていることになります(新認定法規則15、21)。第5回より、中期的収支均衡の定義の中で公益充実資金という用語が内包されておりました。この公益充実資金は、公益目的事業に係る特定費用準備資金(旧認定法規則第18条)及び資産取得資金(旧認定法規則第22条③三)を統合し、法人の実情や環境変化に応じた柔軟な資金管理が可能となるよう、使途変更の柔軟性等を高めたものとして創設されました。(1)公益充実資金の情報開示公益充実資金を保有する場合には、以下の書類を作成し、備え置くとともに行政庁に提出する必要があります(新認定法規則第46条①七及び③)。また、法人自らインターネットの利用等によりその情報の公表が求められます(新認定法規則第23条①二)。(ⅰ)公益充実活動等ごとの内容及び実施時期(新認定法規則第23条①二イ)(ⅱ)当該事業年度末の積立限度額及びその根拠並びに公益充実資金の額(新認定法規則第23条①二ロ及びニ)(ⅲ)当該事業年度の公益充実資金の取崩額及び積立額(新認定法規則第23条①二ハ)(ⅳ)前事業年度の公益充実資金に関する情報(新認定法規則第23条①二ホ)(2)公益充実資金に関する特別の手続公益充実資金を公益充実活動等以外の支出に充てるために取り崩す場合には、特別の手続が定められていることが必要となります。例えば、定款に「公益充実資金の管理は別途、理事会で定める手続による」と定め、目的外取崩しは理事会決議に委ねるということが考えられます。(3)その他の要件等事業年度の末日における公益充実資金の額が積立限度額を超えていないこと(新認定法規則第23条①四)貸借対照表の注記や財産目録又は附属明細書に表示され、他の財産と区分されていること(新認定法規則第23条①五)特定費用準備資金及び資産取得資金から公益充実資金への移行公益目的事業以外に係る上記の資金は存続します。なお、前回解説した特例算定計算の場合は、以下の公益充実資金に係る上限計算があり、具体的には、以下の通りとなります。Ⅰ前事業年度末時点で各公益充実活動等a~n(公益充実資金の目的として設定された、個別の事業実施や資産取得等の活動)に積み立てられていると考えられる額(仮想按分額)を算定する。具体的には、公益充実活動等xに係る仮想按分額をRxとすると、以下の式で算定される。なお、当該事業年度に設定されたものは、Rx=0とする。Ⅱ各公益充実活動等a~nについて、今年度以降、各活動実施までに積み立てる必要がある額(必要積立額)を算定する。Ⅲ各公益充実活動等a~nに係る積立基準額を算定する。Ⅳ全体の積立基準額(公益充実資金の費用算入上限額)を算定する。更に、「公益充実資金」に係る公益目的事業比率等の調整計算があります。また、公益充実資金と公益目的事業比率及び使途不特定財産額の調整に係る具体的な計算方法は、以下の通りとなります。≪A≫-≪B≫の額を公益目的事業比率等の算定上、調整計算をします。次回は、遊休財産額から変更となった概念である使途不特定財産額について解説させて頂きます。提供:税経システム研究所
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2026/10/08 法人税
解散した場合の欠損金の損金算入制度
報道によると、解散が増加しているようですので、今回は、解散の場合の欠損金の損金算入制度について解説をします。そこで、よりこの制度の理解を深めるために、制度内容を解説し、次いで設例に基づく具体的な計算をしたいと思います。1解散の場合の欠損金の損金算入制度の内容解散して清算中の法人は、いくら資産処分による譲渡益や債務免除益等により益金の額が生じたとしても、残余財産がない限りそれらの益金に見合う担税力を有しているとは言えないことから、設立当初からの欠損金を使用することを認め、清算中の法人に所得が生じないようにする「設立当初からの欠損金の損金算入制度」が設けられています(注1)(法人税法59条4項、同法施行令117条の5)。具体的には、法人が解散した場合において、残余財産がないと見込まれるときは、その清算中に終了する事業年度(注2)の所得の金額の計算上、次の①、②のいずれか少ない金額が損金の額に算入されます(法人税法59条4項、同法施行令117条の5)。設立当初からの欠損金(注3)から当期に繰越控除に使用された青色欠損金を控除した金額この制度を適用しないで計算した当期の所得金額(注4)これは、設立当初からの欠損金の金額(上記①)のうち、課税所得金額(上記②)に達するまでの金額が損金の額に算入されるという意味です。(1)控除対象となる所得金額この制度は、青色欠損金の繰越控除によってもなお残存する所得金額が控除対象となります。したがって、債務免除益等に限らず、資産の処分による譲渡益その他の益金の額であっても控除が可能です(注5)。(2)適用順序(青色欠損金の繰越控除との優劣)この規定は、青色欠損金の繰越控除を適用してもなお所得金額がある場合に適用され、「継続方式による欠損金の損金算入の規定」のように青色欠損金の繰越控除に対する優先適用はありません(法人税法59条4項かっこ書)。(3)設立当初からの欠損金の損金算入額(使用額)の内訳設立当初からの欠損金は、青色欠損金の部分と期限切れ欠損金の部分から成りますが、この設立当初からの欠損金の損金算入制度においては、当期における青色欠損金の繰越控除に使用されていない青色欠損金の部分から先に使用されたものとされ、次いで期限切れ欠損金の部分が使用されたものとされます(法人税法57条5項、同法施行令112条12項1号ハ、2号ロ)。この制度の適用により使用されたものとされた青色欠損金は、翌期以降に繰り越すことはできません。(4)残余財産がないと見込まれることの判定等残余財産がないと見込まれるかどうかの判定は、清算中に終了する各事業年度終了の時の現況により行われ(法人税基本通達12-3-7)(注6)、一般的には、その事業年度終了の時に債務超過の状態にあれば、残余財産がないと見込まれると判定されます(法人税基本通達12-3-8)(注7)。なお、この適用に当たっては、確定申告書に説明資料の添付は必要(法人税法59条6項、同法施行規則26条の6第3号)で、その説明資料としては、例えば、法人の清算中に終了する各事業年度終了の時の実態貸借対照表(法人の有する資産及び負債の価額(注8)により作成される貸借対照表をいう。)が該当しますが(法人税基本通達12-3-9)、公的機関が関与又は一定の準則に基づき独立した第三者が関与して策定された事業再生計画に基づいて清算手続が行われる場合には、公的機関又は独立した第三者の調査結果で会社が債務超過であることを示す書面が該当することになります(注9)。2設例に基づく具体的な計算(1)設例当社(資本金2億円、10月決算)は業況悪化に伴い令和7年10月末に解散しました。令和8年10月末現在で残余財産がないと見込んでおりますが、当期(令和8年10月期)の所得金額はどのようになるのでしょうか。当期の法人税申告書別表五(一)の「期首現在利益積立金額」の「差引合計額」は△3,000万円であり、前年から繰り越された青色欠損金額は1,300万円です。また、当期の欠損金控除前の所得金額は1,500万円です。(2)あてはめ次の計算により所得金額はゼロとなり、未使用となる青色欠損金額550万円(=1,300万円-750万円)はないものとして切り捨てられ、翌年度以降に繰り越されません。イ損金算入される設立当初からの欠損金額次の①、②のいずれか少ない金額(750万円)設立当初からの欠損金から当期に繰越控除に使用された青色欠損金を控除した金額3,000万円(繰越欠損金額)-〔(所得×50%)=750万円)〕(当期に繰越控除に使用された青色欠損金)=2,250万円この制度を適用しないで計算した当期の所得金額1,500万円(法人税申告書別表四の差引計(欠損金控除前所得金額))-750万円(青色欠損金の繰越控除額)=750万円ロその事業年度の所得金額1,500万円-(損金算入青色欠損金額750万円+設立当初からの欠損金750万円)=0円なお、損金算入されなかった青色欠損金額550万円(=1,300万円-750万円)は、使用されたものとされ、翌期以降に繰り越せず、切り捨てられたものとされ、翌期に繰り越す青色欠損金は存在しないことになります。図解<注釈>この清算中の法人に課税所得を生じさせないためのこの制度の理解は、資産処分益、債務免除益及私財提供益等といった臨時の益金の額が生じる清算中の法人においては重要な制度です。第二会社方式を採用する事業再生の場面においても、継続する事業を切り出した後の会社(BAD会社)を清算する際に利用することが可能です。会社更生法、民事再生法による手続き開始の決定を受けたことなど一定の事実が生じたことにより欠損金の損金算入制度(継続方式による欠損金の損金算入制度)の適用を受ける場合を除きます。期首の利益積立金額のマイナス金額(法人税申告書別表五(一)Ⅰの期首現在利益積立金額(①)の差引合計額(31欄)の金額がマイナスである場合のその金額)をいい、その金額が、法人税申告書別表七(一)に控除未済欠損金額として記載されるべき金額に満たない場合には、その控除未済欠損金額として記載されるべき金額により(法人税基本通達12-3-2)、資本金等の額がマイナスの場合には、その資本金等の額のマイナス金額も含めることとされています(法人税法施行令117条の5第1号かっこ書)。残余財産の確定の日の属する事業年度に係る事業税及び特別法人事業税の損金算入の規定(法人税法62条の5第5項)の適用がある場合には、適用しないで計算した所得金額となります(法人税法59条4項かっこ書)。法人税申告書別表四の差引計の金額から青色欠損金の繰越控除額を控除した金額です。前掲注2の「継続方式による欠損金の損金算入制度」の場合は、欠損金の控除対象となる所得金額が債権者からの債務免除益、役員等の私財提供による受贈益、資産の評価益に限定されています。その後の状況が変わって見込みと異なる結果となったとしても、過去において行ったいわゆる期限切れ欠損金の損金算入に影響は与えないこととされています(平成22年10月6日付法人税課情報5号他「平成22年度税制改正に係る法人税質疑応答事例(グループ法人税制その他の資本に関する取引等に係税制関係)」(情報)「問9残余財産がないとことの見込みが変った場合の期限切れ欠損金額の取扱い」)。前掲注6平成22年情報「問10残余財産がないと見込まれることの意義」法人が実態貸借対照表を作成する場合における資産の価額は、その事業年度終了の時における処分価格によりますが、法人の解散が事業譲渡等を前提としたもので法人の資産が継続して他の法人の事業の用に供される見込みであるときには、その資産が使用収益されるものとしてその事業年度終了の時において譲渡される場合に通常付される価額によることになります(法人税基本通達12-3-9(注))。前掲注7参照提供:税経システム研究所
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2026/10/05 所得税譲渡所得
居住用財産の譲渡の特例(3000万円特別控除、軽減税率)
不動産を譲渡した場合には、各種の特例をうまく活用することが大切です。また、複数の特例が使える場合などは、要件を確認し、併用できるか、どの特例を使うか事前によく検討しましょう。居住用財産を譲渡した場合には、譲渡益のうち3,000万円までは課税されません。また3,000万円を超えても所有期問が10年を超えるときは税率が軽減されます。1.居住用財産の特別控除居住用財産を譲渡した場合には、3,000万円の特別控除が受けられます。つまり、譲渡益3,000万円までは税金がかかりません。この3,000万円特別控除は所有期間の制限がありませんので、短期譲渡(所有期間5年以下)でも適用されます。2.軽減税率譲渡した居住用財産の所有期間が、譲渡した年の1月1日現在で10年を超える場合には、税率が軽減されます。3,000万円特別控除後の譲渡益所得税住民税合計6,000万円以下の部分(復興特別所得税等考慮)10%(10.21%)4%14%(14.21%)6,000万円超の部分(復興特別所得税等考慮)15%(15.315%)5%20%(20.315%)3.居住用財産の譲渡次のいずれかの家屋・敷地の譲渡をいいます。自己の居住している家屋居住しなくなって3年を経過した年の12月31日までに譲渡した家屋居住用家屋とともに敷地を譲渡した場合災害により滅失した居住用家屋の敷地で、居住されなくなって3年を経過した年の12月31日までに譲渡したもの居住用家屋の敷地の譲渡で、その土地の譲渡契約がその家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、かつ、その家屋に居住しなくなってから3年を経過した年の12月31日までに譲渡したもの(貸付け等に使用していないこと)なお、居住用財産の譲渡であっても次のような場合には特例が適用されません。譲渡した相手が、譲渡者の配偶者、直系血族、生計をともにする親族など特別な関係にある者であるとき前年、前々年にこの3,000万円特別控除の特例を受けているとき(3年に1回しか使えない)本年、前年、前々年に居住用財産の買換え特例を受けているとき4.買換え特例、住宅借入金等特別控除との関係「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除の特例」と「所有期間10年超の居住用財産を譲渡した場合の税率の軽減の特例」は、要件を満たせば両方を使うことができます。ただし、「居住用財産の買換え特例」とは選択適用で、併用することはできません。また、これらの特例を使う場合には、住宅借入金等特別控除は適用できません。5.申告要件居住用財産の特例を受ける場合には、この特例を受ける旨を記載した確定申告書に、「譲渡所得計算明細書」や譲渡した日から2カ月以上経過後の住民票の写し、譲渡した資産の登記簿謄本等を付けて確定申告する必要があります。これは、3,000万円特別控除で譲渡所得がなくなる場合でも申告します。6.居住用3,000万円特別控除の計算例〈1〉居住用財産3,000万円特別控除Eさんは所有期間が8年の居住用財産(取得費1,600万円)を12,000万円で譲渡し、譲渡費用が400万円かかった。この居住用財産の譲渡による所得税、住民税はいくらか。なお、所得控除等は考慮しない。〔解答・解説〕課税長期譲渡所得金額12,000万円-(1,600万円+400万円)-特別控除3,000万円=7,000万円所得税7,000万円×15.315%=1,072万500円住民税7,000万円×5%=350万円合計(2)+(3)=1,422万500円〈2〉居住用財産の軽減税率Fさんは所有期間が19年の居住用財産(取得費1,600万円)を12,000万円で譲渡し、譲渡費用が400万円かかった。この居住用財産の譲渡による所得税、住民税はいくらか。なお、買換え特例の要件は満たしておらず、所得控除等は考慮しない。〔解答・解説〕課税長期譲渡所得金額12,000万円-(1,600万円+400万円)-特別控除3,000万円=7,000万円所得税6,000万円×10.21%+(7,000万円-6,000万円)×15.315%=765万7,500円住民税6,000万円×4%+(7,000万円-6,000万円)×5%=290万円合計(2)+(3)=1,055万7,500円提供:税経システム研究所
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2026/10/01 相続・贈与税
小規模宅地等の特例における選択替えの可否
1.はじめに小規模宅地等の特例(措置法69の4)は、相続税の課税価格を大きく引き下げる効果を持つ規定であり、対象となり得る宅地等が複数ある相続では、どの宅地等を特例に充てるかによって税負担が大きく変わります。その一方で、この「選択」は申告書の提出によって外形的に固まる仕組みとなっており、後から自由に組み替えられるものではありません。申告期限を過ぎた後に別の宅地等へ振り替えたい、という相談は実務でしばしば生じますが、これが認められる場面は限られています。本稿では、選択の変更が認められない場面と認められる場面とを分けたうえで、それぞれについて、なぜそのような結論になるのかを条文に沿って確認します。2.特例の適用を受けるための前提本特例は、被相続人等の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等のうち一定のもの(以下「特例対象宅地等」といいます。)について、取得した者が選択をしたもので限度面積要件を満たすものに限り、相続税の課税価格に算入すべき価額を減額するものです(措法69の4①)。減額割合と限度面積は、特定居住用宅地等が330㎡まで80%、特定事業用宅地等及び特定同族会社事業用宅地等が400㎡まで80%、貸付事業用宅地等が200㎡まで50%とされており、これらを併用するときは限度面積の調整計算が必要となります(措法69の4①、②)。そのうえで、本特例の適用を受けるためには、相続税の申告期限までに特例対象宅地等が分割されていることが原則として必要です(措法69の4④)。また、本特例の適用を受けるには、相続税の申告書(期限後申告書及び修正申告書を含みます。)にその旨を記載し、計算に関する明細書その他財務省令で定める書類を添付することが必要です(措法69の4⑦)。さらに、どの宅地等を対象とするかの選択については、その特例対象宅地等を取得した個人全員の同意を証する書類を添付すべきものとされています(措令40の2⑤三)。これは、特例対象宅地等を取得した相続人が複数いる場合、誰がこの特例の適用を受けるかによって各人の税額に影響が及ぶためです。したがって、小規模宅地等の特例は「期限内分割」及び「申告書提出時の同意」が非常に重要な要素となります。3.申告期限内に分割されている場合(1)変更が認められない場面①取得者全員の同意が得られない場合2のとおり、選択には特例対象宅地等の取得者全員の同意を証する書類の添付が求められますので、同意が得られない状態では、そもそも有効な選択が成立しません。したがって、同意を得られなければ特例の適用を受けることはできません。また、申告期限後に同意が得られたとしても、それによって当初申告の計算に誤りが生じるわけではありませんので、更正の請求により特例の適用を受けることはできません(大阪国税局:資産税関係誤りやすい事例、令和7年版)。一方、期限内申告書を提出していない場合は取扱いが異なります(3(2)③参照)。②当初申告で特例の適用を受けていなかった場合本特例を使うかどうかは納税者の判断に委ねられていますので、特例を適用せずに申告したことは、法令の解釈適用を誤ったわけでも、計算を間違えたわけでもありません。したがって、後から適用を受けたいと申し出ても、更正の請求の要件を満たしません。修正申告の際にあらためて適用を求めることも、同様に認められません。ただし、未分割であったために適用できなかった場合は取り扱いが異なります(4参照)。③当初の選択が有効に成立している場合候補が複数あるなかでA宅地を選び、要件も限度面積も満たして申告した後に、B宅地を選んでおいた方が有利であったと判明した場合です。この場合、選択替えは認められません。当初申告の計算は法令に従っており、そこに誤りはないためです。なお、措置法69の4⑦で修正申告書を掲げているのは、未分割であった等、当初申告において同特例の適用を受けていなかった場合や法令に定める要件を欠く誤った選択をしていたこととなった場合に限られています(大阪国税局:資産税関係誤りやすい事例、令和7年版)。すでに有効に成立している選択を、より有利な内容に置き換えることまで想定した規定ではありません。(2)変更が認められる場面①申告期限内である場合申告期限内であれば、訂正申告として申告書を出し直すことができ、選択の内容も自由に見直すことができます。ただし、効力を持つのは最後に提出した申告書です。出し直しの際に適用を受ける旨の記載や添付書類が漏れると、特例が適用出来ないこととなります。②選択した宅地等に適用要件の不備があった場合期限内申告において選択した宅地等に適用要件の不備があり、本特例を適用できないと判明した場合には、ほかの特例対象宅地等をあらためて選択したうえで、修正申告をすることができます。有利なA宅地を選択していたところ、A宅地が要件を満たしていないと判明したため、B宅地を選択し直して修正申告書を提出する、という場面です(措法69の4⑦)。この点については、国税庁の資産課税情報においても、「選択」は小規模宅地等の区分を明らかにして行うものとされていることから、その区分を誤った選択は法令に定める要件を欠くものであり、あらためて選択した選択特例対象宅地等が限度面積要件を満たしているときは、措置法第69条の4第7項または第8項により特例の適用を認めて差し支えない、とされています。これは、より有利な内容への組替えではなく、誤った選択を正すためのやり直しです。したがって3(1)の場面とは区別され、要件を満たす範囲内でどの宅地等を充てるかは、あらためて検討することができます。あらためて選択を行う以上、取得者全員の選択同意書を含む明細書類を提出し直すことになる点にも留意が必要です。他方、組替えの結果として当初申告より税額が減少する場合に、更正の請求によることができるかは、慎重な判断が必要です。当初の選択が適法に成立している事案について、後から特例の適用範囲を拡大する趣旨の更正の請求は国税通則法23条1項の請求事由に当たらないとした裁判例があるためです(東京地判令和6年1月25日、東京高判令和7年4月16日・確定)。この事案の控訴審では、納税者が、拡大適用を求めているのではなく敷地面積の計算に誤りがあっただけであると更正を改めて主張しましたが、納税者の計算に誤りがあるとはいえないとして、退けられています。③期限後申告の場合小規模宅地等の特例は、申告期限までに分割されていることと、取得者全員の同意を証する書類の添付とが要件とされています。したがって、期限内に分割されている宅地等について、期限後申告の際に同意が得られたときは、その期限後申告により適用を受けることができます(措法69の4⑦)。4.未分割であった宅地等が申告期限後に分割された場合申告期限までに分割が調わなかった特例対象宅地等については、その申告の時点では小規模宅地等の特例を適用できません(措法69の4④本文)。ただし、その後に分割されれば、次の流れで特例の適用を受けることができます。①当初申告未分割のまま法定相続分で申告し、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておきます。この添付が適用の前提であり、添付を失念すると原則として後から特例を受けられません(添付がなかったことにやむを得ない事情があると税務署長が認める場合を除きます)。②申告期限から3年以内に分割できた場合分割が行われたことを知った日の翌日から4か月以内に更正の請求を行います(措法69の4⑤、相法32①)。③3年以内に分割できない場合申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月以内に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出し、所轄税務署長の承認を受けます。ここでいうやむを得ない事情は、訴えの提起や和解・調停・審判の申立てがされていることなど政令で定めるものに限られ、単に協議が調わないというだけでは認められません。承認を受けた場合は、分割ができることとなった日として政令で定める日の翌日から4か月以内に分割すれば特例の対象となります(措法69の4④ただし書)。この場合も、分割後4か月以内の更正の請求が必要である点は②と同じです。5.適用関係の整理以上を、遺産分割が申告期限内に調ったかどうかで区分して整理すると、次のとおりとなります。(1)期限内分割の場合項目当初申告更正の請求・修正申告同意が得られない×不可×不可特例を使い忘れていた(適用もれ)×不可×不可特例の対象を自由に変更する(選択替え)○可能×不可期限後申告○可能×不可対象宅地の誤りを修正(適用誤りによる選択替え)○可能※※修正申告は可能だが、更正の請求は慎重な判断が必要当初申告の段階であれば、どの宅地等を対象とするかは自由に決めることができ、期限後申告であっても適用を受けることができます。これに対し、更正の請求・修正申告の段階で残されているのは、要件を満たしていなかった選択を組み直す場合だけです。同意が調わない場合と適用もれの場合は、いずれの段階でも適用を受けることができません。有利判定を当初申告までに終えておくべき理由は、この一点に集約されます。(2)期限後分割の場合特例対象宅地等が未分割のまま申告期限を迎える場合には、次の書類を提出しておくことにより、分割後に更正の請求で適用を受ける道が残されます。申告期限から3年以内に分割する場合……申告期限後3年以内の分割見込書申告期限から3年を超える場合……上記に加え、申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月以内に、遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書6.結論小規模宅地等の特例における宅地等の選択は、申告書の提出によって固まる、事実上やり直しのきかない判断です。申告期限後に手を入れられるのは、要件を満たしていなかった選択の是正と、未分割であった宅地等が期限内に分割された場合の適用に限られ、税額の有利不利を理由とする組替えは想定されていません。そこで実務では、①取得者全員の同意が得られる見通し、②候補となる宅地等が複数ある場合の限度面積と評価額を踏まえた有利判定、③申告期限までに分割が調わないときの分割見込書の添付、という3点を、申告期限が来る前に固めておくことになります。税理士としては、後戻りができない論点であることを依頼者に伝えたうえで、当初申告の段階で判断材料を出し尽くしておくことが求められます。提供:税経システム研究所
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2026/09/24 所得税
相続と所得税 第34回 令和8年11月30日以前に死亡した者における令和8年度税制改正項目の適用手続き
令和8年度税制改正により、所得税の「基礎控除の引上げ」「給与所得控除の最低保証額の引下げ」(これら改正項目については、以下「基礎控除の引上げ等」という)が行われた。令和8年中に死亡した者に係るこれらの改正の適用の取扱いについてみていく。1.令和8年度税制改正による「基礎控除の引上げ等」の適用について所得税における令和8年度税制改正の「基礎控除の引上げ等」は、原則として、令和8年12月1日に施行され、令和8年分以後の所得税について適用される。したがって、令和8年11月までの給与及び公的年金等の源泉徴収事務に、これらの改正による変更は生じない。令和8年の給与の源泉徴収事務においては、令和8年12月に行う年末調整の際に「改正後の規定に基づいて1年間の税額」を計算し「改正前の源泉徴収税額表によって計算した源泉徴収税額」との精算を行う。2.令和8年中に死亡した者令和8年11月30日以前に死亡した者の「令和8年分の所得税及び復興特別所得税」は、以下のとおり、令和8年12月1日以後に相続人等が行う手続きが必要な場合がある。(1)令和8年11月30日以前に準確定申告書を提出した場合令和8年度税制改正による「基礎控除の引上げ等」は、令和8年12月1日から施行されるので、令和8年11月30日以前にいわゆる準確定申告書を提出する場合には、適用されない。つまり、令和8年11月30日以前に準確定申告書を提出するときは、改正前の規定における基礎控除額、給与所得控除額、扶養親族等の所得要件を適用する。この場合、令和8年12月1日以後、つまり、令和8年度税制改正による「基礎控除の引上げ等」の施行後に、更正の請求を行うことで、令和8年度税制改正による「基礎控除の引上げ等」の適用を受けることができる。なお、すでに提出した準確定申告書に係る法定期限が到来していない場合には、訂正申告書の提出により、基礎控除の引上げ等の適用を受けることができる。したがって、いちど、相続人が納税をした所得税等についても、更正の請求書や訂正申告書の提出にて基礎控除の引上げ等の適用を受け、改めて還付を受けることができる場合があるので、相続税の申告でも注意が必要である。「所得税及び復興特別所得税の更正の請求書」の提出にあたり、相続人等が2以上の場合で、相続人等の代表が、還付金を一括受領する場合には「委任状」を一緒に提出する。準確定申告書の提出期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内である。したがって、令和8年8月1日以後に死亡した場合には、準確定申告書の提出期限が令和8年12月1日以後に到来する。この場合、11月30日までに準確定申告書を提出すると、12月1日以後にあらためて手続きが必要となるため、事情が許せば、あせらずに、12月1日以後に、準確定申告書を提出するという検討もある。(2)令和8年11月30日以前に死亡により退職した給与所得者給与所得者の年末調整は、給与の支払者がその年最後に給与の支払いをする際に行われることになっている。ゆえに、令和8年中に死亡により退職した給与所得者で、最後に給与の支払いを受けた日が令和8年11月30日以前である人の年末調整は、改正後の令和8年度税制改正による「基礎控除の引上げ等」は適用されない。したがって、改正後の規定の適用を受けるためには、相続人等が12月1日以後に、準確定申告書等を提出する。死亡退職によりこれまでの規定による年末調整を受けている場合、令和8年度税制改正による基礎控除の引上げ等の適用を受け、改めて還付を受けることができる場合もあるので、相続税の申告でも注意が必要である。「所得税及び復興特別所得税の準確定申告書」の提出にあたり、相続人等が2以上の場合で、相続人等の代表が、還付金を一括受領する場合には「委任状」を一緒に提出する。(3)令和8年12月1日以後にe-Taxソフトで準確定申告書を提出する場合の基礎控除等令和8年12月1日以後に、準確定申告書を提出する場合には、令和8年12月1日から施行される令和8年度税制改正による「基礎控除の引上げ等」の適用を受けることになる。しかし、令和8年の間は、令和7年分の確定申告書の様式を使用することとなっているため、e-Taxにおいて、次のような対処が必要である。申告書第一表入力のしかた「基礎控除」欄金額を入力しない・・・「0.000」「雑損控除」欄改正後の基礎控除額を入力申告書等送信票(兼送付書)の「特記事項」欄に「基礎控除額●●●円」と入力雑損控除の入力もある場合には、「雑損控除額+基礎控除額」を合わせて入力申告書等送信票(兼送付書)の「特記事項」欄に「雑損控除額●●●円、基礎控除額●●●円」と入力【参考文献】国税庁HP提供:税経システム研究所
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2026/09/14 相続・贈与税
贈与税の重要テーマ解説1(その贈与税の申告、贈与事実を確認しましたか)
【ポイント】贈与を受けた方は、受贈価額が110万円を超えた場合、期限までに申告と納税をしなければなりません。単純な贈与税の申告は難しいことではありませんが、贈与税は必ず相続税に繋がります。受贈者に対して贈与事実を明確にしておくこと等、年内にアドバイスをします。将来の禍根とならないために、基本を復習しましょう。【解説】1民法における贈与契約民法第3編第2章第2節第549条において「贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる」契約であるとしています。民法第3編第2章は「契約」を規定しています。財産を渡す人(贈与者)と受け取る人(受贈者)がお互いに了解の上(契約)で財産の移転が行われます。しかも、受贈者に対して対価を請求せず、無償であることが前提です。対価の授受がある場合は、もちろん譲渡となります。贈与とは、相手方に対して自己の財産を与える意思表示をする、諾成片務契約行為をいいます。つまりお互いに「この○○をあなたにあげましょう。」「はい、もらいましょう。」という了解があって初めて贈与契約が成立します。基本的に「諾成契約」ですが、下記の各契約が混在しています。「諾成契約」…契約当事者双方が合意に達すること「片務契約」…当事者の一方だけが相手方に対して何らかの債務を負っている契約のこと「無償契約」…契約当事者の一方の負担に対する対価を求めないこと「不要式契約」…要式を必要としないこと2贈与税の納税義務者贈与とは、何を指すのかは、相続税法に規定はありません。相続税法に規定のない概念は、民法によることから、贈与とは民法第549条の贈与のことを指します。贈与税の納税義務者とは誰のことをいうのでしょうか。相続税法第1条の4は贈与税を納める義務がある者(納税義務者)を規定しています。ここでは第1項及び第2項で「贈与により財産を取得した次に掲げる者」、また、第3項及び第4項で「贈与によりこの法律の施行地にある財産を取得した個人」として贈与を受けた者が納税義務者であるとしています。例外と人格のない社団又は財団(相法66①)、持分の定めのない法人(相法66④)が受贈した場合に課税対象となることがありますが、贈与者が申告と納税をするのではないことを、しっかりと認識します。3贈与税申告の実態(1)原則財産の「贈与を受け」基礎控除110万円を超えた場合、贈与税の申告をしなければならないことは、常識でしょう。贈与税は、もらってうれしい税金です。現金預貯金等金融資産の受贈者は、棚からぼた餅状態で、使い道についてあれこれ想像が膨らみます。うれしいうちに申告と納税をすれば、200万円の贈与を受けても、税額が9万円ですから負担感は少ないでしょう。稀に申告を失念する人もいますが。(2)贈与者からの依頼長い間資産税に携わっていると、この贈与税の申告書は、贈与事実を確認しているだろうか、受贈者が依頼した申告書だろうか、と思う事例に数多く出会います。一端を紹介します。①贈与税の申告書を5件10件とまとめて提出する事例が多くあります。ほとんど税理士が作成し提出します。申告書をよく見ると、同一人から、配偶者子孫に対する贈与で、現金又は預貯金、金額、贈与月日が全く同じです。全く同じでも問題はありませんが、例えば、現金200万円の贈与があったとします。贈与者と住む地域がばらばらである子等に、同一日に贈与したとは考えられない。同一日に振込をしたのかもしれませんが、税理士は、贈与事実を確認したのだろうか、どうやって確認したのだろうか。もしかしたら、贈与者から依頼されてまとめて申告書を作成しているのではないか…という具合です。しかも前年も前々年も同一日に同一金額を贈与した申告事例も数多あります。贈与税の納税義務者は、受贈者です。まさか受贈者の知らないまま、贈与者の依頼に応じて贈与税の申告書を作成しているとは考えられませんが、本当に考えられないのか。納税はどうでしょう。200万円の贈与で9万円の贈与税を受贈者が、自分で納税しているでしょうか。まさか受贈者の知らないまま、贈与者が納税しているとは考えられませんが、本当に考えられないのか。そもそも、契約行為の当事者である相手方(贈与者)が、税理士に受贈者の申告依頼をして納税まですることが出来るのか、疑問に思わないかということです。例えば子、孫10人分200万円の贈与税の申告書を10年間提出したとしましょう。受贈者と称される人たちは、申告事実を知りません。知っていたとしても、受贈されたとする財産は手元にありません。合計で2億円の贈与となり、贈与税は900万円です。このような申告は、贈与者の相続が開始した時に表面化します。相続税の名義財産の認定です。受贈事実がない、贈与者が納税している、受贈財産は贈与者が一括管理している等の事実を証明すれば、相続財産として認定され追徴課税となります。その間コツコツと申告し、900万円を納税したことが水泡に帰します。②受贈者が知らないまま申告すると次のようなことが起こります。筆者の経験です。夫婦A及びBとその子2人の家族がいます。贈与税の申告書が4人分提出されました。贈与者はAの父から現金300万円でした。受贈者の整理をしていると、各人の贈与税の申告書がもう1枚ずつ出てきました。こちらはBの父から、非上場会社の株式の贈与400万円です。これも4人分です。どちらの申告書も税理士の署名があります。担当者が、Aに贈与税の申告書が2枚提出されている旨連絡します。Aは驚いて、贈与税の申告書なんか提出した覚えはない、と明確に答えます。このままでは申告書の処理ができないので、各父親に確認するよう伝えます。結果、両方の申告書を合併し、修正申告となります。税率が跳ね上がり、税額が増加します。これは、それぞれの税理士が、贈与者の意向を受け、贈与した事実を確認しないまま、受贈者に申告事実を知らせずに申告書を提出した典型例です。常識ではありえないように思われるかもしれませんが、実は何度もこのような事例に出会っています。ということは、ごく普通の状況なのかもしれません。③数年前に相続税の調査がありました。特に問題となるような案件ではなかったので、調査官に問題点は何かを尋ねました。調査官は、相続人である現社長が、平成15年に2,500万円の贈与を受け、相続時精算課税を選択して申告しているとのことでした。社長に確認したところ、贈与税の申告をした覚えは一切ない、まして相続時精算課税選択届出書(以下「選択届出書」)を提出したことはないので、申告書等の原本を見せて欲しいといいました。確認した結果、選択届出書の筆跡は社長のものではないということでした。税理士の署名がありました。平成15年に2,500万円の贈与を受けた事実はないかと社長に尋ねたところ、受贈された事実は認めたので、相続税の修正申告をして、事なきを得ました。(3)最後に贈与税は、知名度が高い割にはその実体を知らない人があまりに多いようです。税金のプロである税理士も同様です。「贈与税は申告さえしておけばいい」とのたまった税理士がいました。「申告さえしておけばいい」税目があるでしょうか。実体のない申告は、架空の申告となることを理解していないようです。参考となる裁決があります。「贈与税の申告は贈与税額を具体的に確定させる効力は有するものの、それをもって必ずしも申告の前提となる課税要件の充足(贈与事実の存否)までも明らかにするものではなく、贈与事実の存否の判断に当たって、贈与税の申告及び納税の事実は贈与事実を認定する上での一つの証拠とは認められるものの、贈与事実の存否は飽くまでも具体的な事実関係を総合勘案して判断すべきと解するのが相当である。」(裁決2007年(平成19年)6月26日TAINSF0-3-218)税金の申告は、取引の成立、申告要件の充足、納税者からの依頼、申告書の作成、納税者の了解、申告と納税の手順を踏みます。贈与事実を確認しない、納税義務者の了解を得ていない申告は、様々な問題をはらんでいます。提供:税経システム研究所
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2026/09/11 消費税
消費税の納税義務判定のポイント解説(第30回) 登録の経過措置と簡易課税制度選択届出書の提出に係る特例
1.登録の経過措置とは登録の経過措置とは、免税事業者が適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)の登録を受ける場合に、登録を受けた日(以下「登録日」といいます。)から課税事業者となることができる措置をいいます(28年改正法附則44④、消基通21ー1-1)。免税事業者が適格請求書発行事業者の登録を受けるためには、原則として、「課税事業者選択届出書」を提出する必要があります。ただし、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中に、この登録の経過措置により登録を受ける場合には、「課税事業者選択届出書」を提出する必要はなく、「適格請求書発行事業者の登録申請書」の提出のみで手続を行うことができます。2.登録の経過措置と「簡易課税制度選択届出書の提出に係る特例」の関係簡易課税制度の適用を受けようとする場合には、原則として、その適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに、「簡易課税制度選択届出書」を提出しなければなりません(消法37①)。つまり、「簡易課税制度選択届出書」は、原則として、簡易課税制度の適用を受けようとする課税期間の開始前に提出する必要があります。ただし、登録の経過措置により適格請求書発行事業者となる事業者については、「簡易課税制度選択届出書」の提出に関して特例が設けられています。具体的には、登録日の属する課税期間中に、その課税期間から簡易課税制度の適用を受ける旨を記載した「簡易課税制度選択届出書」を提出した場合には、その課税期間の初日の前日に届出書を提出したものとみなされます(改正令附則18)。これにより、「簡易課税制度選択届出書」は事前に提出したものとして取り扱われるため、実際に届出書を提出した課税期間から簡易課税制度の適用を受けることができます。これを「簡易課税制度選択届出書の提出に係る特例」といいます。3.「簡易課税制度選択届出書の提出に係る特例」に係る令和8年度税制改正「簡易課税制度選択届出書の提出に係る特例」には、登録の経過措置により登録を受けた場合のほか、2割特例及び3割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間に簡易課税制度を適用する場合についても、特例が設けられています。令和8年度税制改正では、このうち「2割特例及び3割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間」に係る「簡易課税制度選択届出書」の提出期限が見直されました。以下、【図1】【図2】では、課税期間が1月から12月までの個人事業者を前提に解説します。(1)2割特例・3割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間2割特例及び3割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間に簡易課税制度の適用を受ける場合には、改正前は、その翌課税期間中に、「簡易課税制度選択届出書」を提出する必要がありました。これに対し、改正後は、提出期限が「翌課税期間に係る確定申告期限まで」に延長されました。これにより、翌課税期間に係る確定申告期限までに「簡易課税制度選択届出書」を提出すれば、その翌課税期間から簡易課税制度の適用を受けることができることとされました(28年改正法附則51の2⑥、51の3⑤)【図1】。例えば、令和7年分(令和7年1月1日から同年12月31日までの課税期間)に2割特例の適用を受けた個人事業者が、令和8年分(令和8年1月1日から同年12月31日までの課税期間)から簡易課税制度の適用を受ける場合、改正前の提出期限は令和8年12月31日でした。これに対し、改正後は、個人事業者であれば、令和9年3月31日(令和8年分の消費税の確定申告書の提出期限)までに提出すればよいこととなります。そのため、令和8年分の確定申告書と「簡易課税制度選択届出書」を同時に提出することが可能となります。この改正は、2割特例又は3割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間が、令和8年10月1日以後に終了する課税期間である場合に適用されます(改正法附則1三、90①)。したがって、翌課税期間が令和8年9月30日以前に終了する場合には、従前の取扱いとなります。(2)登録の経過措置により登録を受けた場合の登録日の属する課税期間登録の経過措置により登録を受けた場合の、登録日の属する課税期間に係る「簡易課税制度選択届出書」の提出期限については、今回の改正による変更はありません【図2】。したがって、例えば、令和8年中に登録の経過措置により登録を受け、登録日の属する課税期間(令和8年の登録日から同年12月31日までの課税期間)から簡易課税制度の適用を受けようとする場合には、従来どおり、令和8年12月31日までに「簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。今回の改正では、「簡易課税制度選択届出書の提出に係る特例」のうち、「2割特例及び3割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間」に係る提出期限のみが見直されました。そのため、同じ「簡易課税制度選択届出書の提出に係る特例」であっても、「2割特例及び3割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間」と、「登録の経過措置により登録を受けた場合の登録日の属する課税期間」とでは、「簡易課税制度選択届出書」の提出期限が異なります。したがって、簡易課税制度の適用を受けようとする場合には、どちらの特例に該当するのかを確認し、提出期限を間違えないよう注意が必要です。提供:税経システム研究所
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