税務情報レポート
MJS税経システム研究所・税務システム研究会の顧問・客員研究員による租税を中心とした多彩な研究成果および最新の税制改正および制度や動向、判例研究等に関するリポートです。
1768 件の結果のうち、 1 から 10 までを表示
-
2026/08/05 所得税
相続と所得税 第33回 賃貸併用住宅
マイホームの取得は、住宅価格の高騰、ローンの金利上昇などにより、そのハードルはこれまでに比べて高くなっている。また、住宅を賃借するも、家賃の上昇が続いている地域もある。住まいについて、買うべきか、借り続けるべきか、ライフスタイルが多様化する今日において、住まいをどのように確保するかは、人生設計における大きなテーマである。そのようななか、立地や間取り、堅実な事業計画などのもと、賃貸需要が見込めれば「賃貸併用住宅」の取得という方法がある。「賃貸併用住宅」とは、オーナーが住む「自宅部分」と賃貸により家賃収入を得る「賃貸部分」を一つの建物内に併せ持つ住宅である。「賃貸併用住宅」における税務の取扱いについてみていこうと思う。1.貸併用住宅とはローンにて土地や建物を取得する場合、建物に自宅部分と賃貸部分を併せて設けることで、家賃収入をローンの返済へ充てることができる。また、ローン完済後は、家賃収入を老後の資金等の収入源などに見込むこともできる。賃貸部分における諸費用は不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入することができ、さらに、自宅部分は要件を満たせば、所得税の住宅借入金等特別控除(以下「住宅ローン控除」という)や相続税の小規模宅地等の特例などの優遇措置を受けることも可能である。2.所得税住宅ローン等を利用して住宅を新築、取得、増改築等した場合で、一定の要件を満たすときは、所得税が減税される「住宅ローン控除」の制度がある(租税特別措置法第41条、第41条の2、第41条の2の2)。以下、賃貸併用住宅をローンにより取得した場合における「住宅ローン控除」の取扱いについてみていく。(1)住宅ローンを利用する場合住宅ローンは、事業用ローンに比べて金利が低いなどの優遇措置がある。住宅ローンは、賃貸を目的とした事業用物件には、原則として利用できない。しかし、賃貸併用住宅は、オーナーの自宅の取得を兼ねており、条件を満たせば、賃貸部分を含めて、その物件に住宅ローンを利用できる金融機関もある。その条件には、建物全体の床面積のうち、居住用面積が50%以上であること等がある(ただし、金融機関により取り扱いは異なる)。また、住宅ローンを利用して自宅を取得し一定の要件を満たす場合、所得税の住宅ローン控除の適用を受けることができる。住宅ローン控除の適用要件はさまざまあるが、家屋の床面積要件のひとつに「家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら居住の用に供されるものに限る」がある。(注)住宅用家屋のうちに、自己の居住用以外の用に供される部分がある場合、居住用部分の床面積が家屋の床面積の90%以上の場合は、全部を居住用部分とすることができる(租税特別措置法関係通達41-29)。したがって、家屋全体の床面積のうち、居住用床面積が50%以上であれば、居住用部分に限り、住宅ローン控除の適用を受けることができる。住宅ローン控除の控除額の計算は、「居住用部分の家屋、土地等に係る住宅借入金等の年末残高」のみを対象として、それに居住の用に供した年分及び住宅の区分に応ずる一定割合を乗じて、住宅借入金等特別控除額を算出する。【住宅ローン控除の金額の求め方】(2)住宅ローンと事業用ローンを利用する場合自宅部分には住宅ローン、賃貸部分には事業用ローン(賃貸用アパート物件の取得に利用する不動産投資ローン等)を利用し、建物を自宅部分と賃貸部分で区分所有建物として登記をする方法もある。(注)「区分所有建物」とは、マンションのように、一棟の建物が2つ以上の部屋に区切られて、その専有部分の部屋が別々の所有権の対象となっている建物の各部屋のことをいう。各部屋が、それぞれ一個の「区分所有建物」であり、各部屋の所有権を「区分所有権」といい、「区分所有者」は自己名義で各部屋の所有権を登記することができる。住宅ローン控除の対象となる家屋の床面積とは、「1棟の建物の場合は、その家屋の床面積」、また「1棟の家屋でその構造上区分された数個の部分を独立して住居その他の用途に供することができるものにつきその各部分を区分所有する場合は、その区分所有する部分の床面積」が、制度の要件を満たす一定の面積になっていることが必要である。したがって、区分所有建物の場合、区分所有する自宅部分の床面積が要件を満たしていれば、住宅ローン控除の適用を受けることができる。この場合「住宅ローン控除の適用を受けるための区分所有が成立している」という意味は、一棟の建物において各部屋が別個のものとして独立した取扱いができるという構造上の区分だけではなく、区分所有建物としての登記が前提と考えられる(下記参照)。【参照】一棟の建物につき区分所有が成立するためには、建物の各部分が独立の構造を有し、構造上区分された各部分が独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用に供することができるだけでは足りず、その各部分が所有権の客体として、取引上、別個のものとされることが必要で、その前提として、所有者において各部分を別個の建物とする意思が必須の要件であるとされている。そして、その意思が客観的に外部から認識され得るものでなければ、区分された部分が別個のものとして取引の対象とはなり得ないから、一棟の建物が同一人の所有に属するときは、区分された部分が別個のものであることを客観的に認識し得るものとして区分建物の表示登記又は保存登記がなされることを要すると解される。したがって、その登記がなされていない限り、同一人の所有に属する一棟の建物は一個の建物であるとするのが相当である(公表裁決平成14年10月25日)。3.相続税個人が、相続等によって取得した財産のうち、その相続開始の直前において被相続人等の事業の用または居住の用に供されていた宅地等のうち一定のものがある場合には、その宅地等のうち一定の面積までの部分について、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の割合が減額される「小規模宅地等の特例」がある(租税特別措置法第69条の4)。賃貸併用住宅に居住していた被相続人が死亡した場合における「小規模宅地等の特例」の取扱いについてみていく。(1)一棟の建物一棟の建物(区分所有建物でない建物)に複数の利用区分が存する場合には、その一棟の建物の敷地は利用区分ごとの床面積の割合で、敷地面積を按分する。そして、相続等により取得した者ごとに、利用区分、用途ごとにしたがい按分された敷地面積について、特例の適用を判定する。賃貸併用住宅は、原則として、建物の総床面積に対する「自宅部分の床面積」と「賃貸部分の床面積」の割合で一棟の建物の敷地面積を按分し、「自宅部分に対応する敷地面積」と「賃貸部分に対応する敷地面積」を求める。そして、取得者ごとに、利用区分ごとに求めた敷地面積の部分が、要件に該当すれば、特定居住用宅地等、貸付事業用宅地等にて、小規模宅地等の特例を適用することができる。(2)区分所有建物区分所有建物における各部屋の「区分所有者」は、建物の敷地に対する「敷地利用権(建物が建っている敷地を利用する権利)」の共有持分を有している。「区分所有権」と「敷地利用権」が一体となって登記されている状態のことを「敷地権」という。敷地権化された「敷地権付き区分建物」は、原則として、規約等に別段の定めがある場合を除き、建物の権利「区分所有権」と土地の権利「敷地利用権」を、分離して処分することはできない。売買などによって部屋の所有権が移転した場合は、一棟の建物の敷地の共有持分も一緒に移転することになる。賃貸併用住宅が区分所有建物の場合、その敷地は「自宅部分の部屋に係る敷地」、「賃貸部分の部屋に係る敷地」について、取得者ごとに、要件に該当すれば、特定居住用宅地等、貸付事業用宅地等にて、小規模宅地等の特例を適用することができる。(3)令和8年度税制改正賃貸用不動産の取得等にあたっては、下記のとおり、令和8年度税制改正により評価方法の見直しが予定されているため、相続を考える上では、その取得等に当たって十分な検討が必要である。【改正事項】被相続人等が課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得又は新築をした一定の貸付用不動産については、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価することになる。上記の課税時期における通常の取引価額に相当する金額については、課税上の弊害がない限り、被相続人等が取得等をした貸付用不動産に係る取得価額を基に地価の変動等を考慮して計算した価額の80%に相当する金額によって評価することができる。この改正は、令和9年1月1日以後に相続等により取得する財産の評価に適用する。ただし、改正に通達を定める日までに、被相続人等が所有する土地(同日の5年前から所有しているものに限る)に新築した家屋(同日において建設中のものを含む)には適用されない。【参考文献】国税庁HP法務局HP提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2026/07/31 相続・贈与税
地代の額が高くなると貸宅地の評価額も高くなる
1.貸宅地の評価額の計算貸宅地の評価額は、その宅地の自用地としての評価額から借地権の評価額を控除して求めます(財基通25)。借地権の評価額は、その宅地の自用地としての評価額に借地権割合を乗じて求めます(財基通27)。例えば、当該宅地の評価額が1億円で、借地権割合が60%とすると、借地権と貸宅地の評価額は次のようになります。借地権の評価額1億円×60%=60,000千円貸宅地の評価額1億円-60,000千円=40,000千円2.借地権と地代との関係(通常の地代)借地権とは、他人の宅地の上に建物を所有することを目的とする地上権又は土地の賃借権をいいます(借地借家法2一)。借地権が設定されると地主はその土地を有効利用することができなくなりますので、その対価として、地主は借地権設定時に借地権者から権利金を収受します。借地権が設定された後、地主は借地権者から地代を収受しますが、これは、土地のうち貸宅地に対する利回りであると解されています。これらの関係を図解すると次のようになります。例えば、当該宅地の評価額が1億円で、借地権割合が60%とすると、借地権設定時に借地人から地主に対して権利金が6千万円支払われることになります。つまり、当該宅地のうち借地権部分が6千万円で地主から借地権者に経済的に移転したことになります。この後、地主は借地権者から地代を収受しますが、これは貸宅地部分に対する利回りとして認識されます。国税庁は、この利回りを6%として計算しており(法基通13-1-2ほか)、地代の年額は底地の評価額である4千万円に6%を乗じた2,400千円とされ、この地代を「通常の地代」といいます。3.借地権と地代との関係(相当の地代)宅地を賃貸借するに当たって、権利金の収受が通常であるとされる宅地について権利金を収受しなかった場合には、借地借家法で保護されている借地権に相当する財産価値の帰属が問題になります。その際に、地主がその宅地全体の利回りとしての地代を収受していれば、経済的なバランスは取れていることになります。この場合の地代を「相当の地代」といい、例えば、当該宅地の評価額が1億円とすると、相当の地代の額は、1億円×6%=6,000千円になります。つまり、権利金の収受に代えて相当の地代の額が収受されている場合には、その宅地の賃貸借は、正常な取引条件で行われたものとされます(法令137、法基通13-1-2)。相当の地代を収受している場合、地主は宅地全体の利回りを地代として得ていることになりますので、底地の評価額は、理論上は自用地としての評価額になるはずですが、利用に制約があるところから、自用地としての評価額の80%で評価することとされています(個別通達「相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて」6(以下「相当地代通達」と表記します))。他方、借地権の評価額は、借地借家法による保護はあるものの経済的な価値はないところからゼロとされます(相当地代通達3)。ただし、借地人が地主の所有会社である場合には、その株式の純資産評価において20%相当分を計上することとされています(個別通達「相当の地代を収受している貸宅地の評価について」)。4.借地権と地代との関係(地代の額が通常の地代の額を超える場合)上記の関係から、実際に収受されている地代の額が、上記2の通常の地代の額を超え、上記3の相当の地代の額を下回っている場合は、借地権の評価額は次のように計算することになります(相当地代通達2)。この場合の自用地としての価額は、課税時期の属する年以前3年間の平均額を用います。具体例で検討しましょう。当該宅地の自用地としての評価額70,000千円(3年間の平均額)路線価地図の借地権割合60%実際に支払われている地代の額2,400千円注)約20年前に当該宅地の賃貸借契約が締結された際に算定されたまま改定されていない。当時の評価額1億円×(1-60%)×6%=2,400千円通常の地代の額70,000千円×(1-60%)×6%=1,680千円相当の地代の額70,000千円×6%=4,200千円この金額を上記の算式に当てはめると次のようになります。借地権の評価額貸宅地の評価額70,000千円-30,000千円=40,000千円この貸宅地の評価を通常の計算で行うと70,000千円×(1-60%)=28,000千円になってしまいます。借地権の評価額は、地代の額が通常の地代の額以下である場合には、自用地としての評価額に路線価地図等で示された借地権割合を乗じた価額になりますが、上記の算式で理解できるように、実際に支払われている地代の額が上昇するにつれて借地権の評価額は下がっていき、相当の地代に達した段階でゼロになります。すなわち借地権の評価額と地代の額の間には逆相関関係があり、この関係を裏返すと、地代の額が高くなると貸宅地の評価額も高くなることになります。上記の設例では、約20年前に地代の額を算定した際には、宅地の評価額と通常の地代の額とは均衡が取れていたものの、その後、宅地の価額が下がったために、結果的に地代の額が相対的に高くなったという経緯から生じたものです。同族会社間での不動産の賃貸借は、条件をいったん決めると見直しをしないまま経過する場合がありがちです。貸宅地の評価を行う場合には、実際の地代の額が通常の地代の額を超えていないかどうかの確認が必要と思われます。なお、この計算式による借地権の評価は、関係者間での賃貸借に限らず、第三者間での賃貸借に対しても適用されます。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2026/07/28 相続・贈与税
相続税申告における誤りやすい事例のポイント解説(第1回) 相続放棄等があった場合の障害者控除の適用について
1.はじめに相続税実務において、障害者控除(相法19条の4)は要件を満たせば確実に税額を減少させることができる重要な税額控除項目です。しかし、その適用要件の1つである「相続又は遺贈により財産を取得した者」という文言の解釈を巡り、実務上、遺産分割の工夫や相続放棄が絡む局面で、適用誤りや判断ミスが生じやすいという現状があります。そこで本稿では、障害者控除の財産取得要件の本質、相続放棄が与える影響を整理した上で、控除不足額の扶養義務者への委譲手続きについて、計算式を交えて解説します。2.障害者控除の「財産取得要件」障害者控除の本質は、障害者である法定相続人の今後の生活基盤を税制面から支援することにありますが、税額控除という性質上、「本人の課税価格(財産取得)が存在すること」が要件となっています。(1)法令上の適用要件障害者控除の根拠法令である相続税法第19条の4第1項では、冒頭に次のように規定されています。相続税法第19条の4第1項(障害者控除)「相続又は遺贈により財産を取得した者(…)が当該相続又は遺贈に係る被相続人の前条第1項に規定する相続人に該当し、かつ、障害者である場合には、その者については、第15条から前条までの規定により算出した金額から10万円(その者が特別障害者である場合には、20万円)にその者が85歳に達するまでの年数(当該年数が1年未満であるとき、又はこれに1年未満の端数があるときは、これを1年とする。)を乗じて算出した金額を控除した金額をもつて、その納付すべき相続税額とする。」実務上、本条文から導き出される要件は以下の4点となります。財産取得要件:相続又は遺贈により財産を実質的に取得していること。身分要件:被相続人の法定相続人であること。年齢・障害要件:相続開始の時において85歳未満であり、かつ障害者(又は特別障害者)であること。住所要件:財産取得時に日本国内に住所を有すること(一定の例外あり)。(2)「財産取得がゼロ」の場合の適用関係実務において最も留意すべきは、障害者である法定相続人が、遺産分割協議等において「財産を一切取得しない(課税価格がゼロ)」という合意をした場合、もしくは相続放棄をした場合です。この場合、上記1の「財産取得要件」を欠くため、本人に対する障害者控除の適用は認められません。さらに重要な点として、本人に適用がない以上、後述する「引き切れなかった控除額を扶養義務者へ委譲する」という処理も自動的に不可となります。したがって、二次的な税額控除を狙う場合であっても、障害者本人への「相続財産割り当て」が実務上の前提となります。3.みなし相続財産と障害者控除の関係仮に相続放棄をしている相続人が障害者に該当するケースにおいて、本来の民法上の遺産(現預金や不動産)以外の財産のみを取得した場合、障害者控除の対象となるのでしょうか。「財産取得要件」と「身分要件」について検討します。(1)財産取得要件障害者本人が、被相続人の死亡に伴う生命保険金(死亡保険金)や死亡退職金の受取人となっている場合、「財産を取得した者」に該当します。根拠となるのは、生命保険金や死亡退職金等について税務上相続財産とみなされることが規定されている相続税法第3条(相続又は遺贈により取得したものとみなす場合)です。相続税法第3条第1項「次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該各号に掲げる者が、当該各号に掲げる財産を相続又は遺贈により取得したものとみなす。」相法19条の4第1項は「相続又は遺贈により財産を取得した者」と定めているため、相法3条によって「相続又遺贈とみなされる」生命保険金等の取得は、財産取得要件を満たすことになります。(2)身分要件相続放棄をした者は「最初から相続人とならなかったものとみなす(民法939条)」とされますが、相続税法上は、基礎控除の計算や税額控除の判定において「放棄がなかったものとした場合の法定相続人」として扱います。したがって、相続放棄をしても、戸籍上の法定相続人であれば障害者控除の「身分要件」を満たすことになります。4.実務上の救済策:みなし相続財産(生命保険金)の活用実務上、障害者の相続人に対して今後の財産の管理の面から、相続放棄をしてもらう、もしくは、遺産分割協議等において「財産を一切取得しない」という合意をすることは珍しくありません。相続放棄等を有効に成立させつつ、かつ、障害者控除の財産取得要件を満たすためには「当該相続人を生命保険金の受取人に指定しておく」必要があります。なお、生命保険金請求権は原則的に「受取人固有の財産」であり、被相続人の相続財産(遺産)には該当しないと明示されています。そのため、相続放棄をした者が生命保険金を受け取っても、民法上の「相続財産の処分(法定単純承認)」には該当せず、相続放棄は有効に機能します。5.税額控除額の扶養義務者への委譲(税額調整)障害者控除の金額が、障害者本人の算出相続税額を上回り、控除しきれない場合、その引き切れない部分の金額(控除不足額)を、その障害者と生計を一にする、または扶養関係にある他の相続人の相続税額から差し引くことができます(相法第19条の4第2項)。(1)委譲できる「扶養義務者」の範囲配偶者直系血族兄弟姉妹三親等内の親族で生計を一にする者家庭裁判所の審判を受けて扶養義務者となった三親等内の親族したがって、共に財産を取得した「配偶者」「兄弟姉妹」「子」などが控除額の残額を引き受ける対象者となります。(2)控除額の計算式障害者控除の基本額は以下の算式によって計算されます。障害者控除額=(85歳-相続開始時の年齢)×法定金額(※)※法定金額:一般障害者の場合は10万円、特別障害者の場合は20万円(1年未満の端数は切り上げます)。本人から引き切れない場合の委譲計算障害者本人の算出税額を「A」、障害者控除額を「B」とすると、本人から引き切れない「控除不足額」は次のように表されます。控除不足額=B-A(ただしB>Aの場合)この「控除不足額」を、他の財産を取得した扶養義務者の相続税額から差し引きます。法令上、扶養義務者間でどのような割合で引き継ぐかという点については、一律の按分比率は定められていません。実務上は、扶養義務者それぞれの相続税額を限度として、自由に配分(任意の金額をそれぞれの税額から直接控除)することが可能です。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2026/07/22 法人税
ちょっと気になる「博覧会の入場券」の取扱い ~結果オーライだが細かな点で~
2027年3月から6か月間、横浜市で国際園芸博覧会(GREEN×EXPO2027)が開催されます。この博覧会の入場券を、販売促進の目的で取引先に交付した場合の取扱いについて、過去の博覧会の取扱いを確認し、損金算入が制限される交際費課税との関係を整理してみます。1博覧会の入場券に係る費用の取扱いについて(1)2025年「日本国際博覧会(大阪・関西万博)」法人が販売促進等の目的で当該入場券のみを取引先等に交付する場合の当該入場券の購入費用は、国税庁の文書回答「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)に係る費用の税務上の取扱いについて」(注1)においては直接の言及はないものの、その参考において、次のとおり、同文書回答「2005年日本国際博覧会の参加者が支出する費用の税務上の取扱いについて」(注2)による旨の説明がされています。本照会に含まれていない事項のうち、平成15年7月7日付「2005年日本国際博覧会の参加者が支出する費用の税務上の取扱いについて(照会)」と事実関係に相違のない事項は当該照会に係る取扱いと同様であり、当該照会において多数の納税者に関係する「入場券の購入費用等の取扱い」についても記載していますので下記をご参照ください。2005年日本国際博覧会(愛・地球博)に係る費用の税務上の取扱いについて(2)2005年「日本国際博覧会(愛・地球博)」法人が販売促進等の目的で当該入場券のみを取引先等に交付する場合の当該入場券の購入費用は、国税庁の文書回答「2005年日本国際博覧会の参加者が支出する費用の税務上の取扱いについて」の「8」において、次のとおり、交際費等に該当せず、販売促進費等として処理することが認められています。8入場券の購入費用等については、次による。(1)法人が販売促進等の目的で当該入場券のみを取引先等に交付する場合の当該入場券の購入費用は、交際費等に該当せず、販売促進費等として処理する。(2)略しかしながら、なぜ、交際費等に該当せずに販売促進費等に該当するのかについての解説等が見当たりません。(3)1996年「世界都市博覧会」2005年「日本国際博覧会(愛・地球博)」よりさらに、10年前の1996年(平成8年)3月から開催が予定されていた「世界都市博覧会」(注3)に関連して企業が支出する費用に関する取扱いを明らかにした通達の解説(注4)においては、次の趣旨から、当該入場券の購入費用を販売促進費として処理することが明らかにされています。博覧会の内容は、展示物を観覧させることによりそのテーマについての参加都市や参加企業等のポリシィなり、考え方をキャンペーンするにすぎないものであって、入場者にとって一般的には娯楽性は少ないものであると認められること一般的には娯楽性が少ないものであると認められる博覧会の入場券を交付する者及びその交付を受ける者において、単に入場券のみの交付だけでは「接待・贈答」をし、又は受けたとする認識は希薄であると考えられることそうすると、2027年「国際園芸博覧会(GREEN×EXPO2027)」の入場券を取引先等に交付する費用は、交際費には該当せず、販売促進費等として取り扱われることになると思われます。2事業者に金銭等を交付する場合の費用の取扱いについて上記1において、博覧会の入場券を交付する場合のその購入費用が、交際費ではなく、販売促進費として、単純損金として取り扱われることが確認できましたが、既存のいわゆる交際費通達(注5)との関係について確認してみます。(1)事業者に金銭等で支出する販売奨励金等の取扱いについて法人が販売促進の目的で特定の地域の得意先である事業者に対して販売奨励金等として金銭又は事業用資産を交付する場合のその費用の取扱いが、次のとおり、明らかにされています(措通61の4(1)-7)。(事業者に金銭等で支出する販売奨励金等の費用)61の4(1)-7法人が販売促進の目的で特定の地域の得意先である事業者に対して販売奨励金等として金銭又は事業用資産を交付する場合のその費用は、交際費等に該当しない。ただし、略なお、ここでいう「事業用資産」とは、得意先である事業者において棚卸資産若しくは固定資産として販売し若しくは使用することが明らかな物品と定義されています(措通61の4(1)-3(注)2))。(売上割戻し等と交際費等との区分)61の4(1)-3法人がその得意先である事業者に対し、売上高若しくは売掛金の回収高に比例して、又は売上高の一定額ごとに金銭で支出する売上割戻しの費用及びこれらの基準のほかに得意先の営業地域の特殊事情、協力度合い等を勘案して金銭で支出する費用は、交際費等に該当しないものとする。(注)1略2得意先である事業者において棚卸資産若しくは固定資産として販売し若しくは使用することが明らかな物品(以下「事業用資産」という。)(注6)又はその購入単価が少額(おおむね3,000円以下)である物品(以下61の4(1)-5までにおいて「少額物品」という。)を交付する場合(その交付の基準が上記の売上割戻し等の算定基準と同一である場合に限る。)におけるこれらの物品を交付するために要する費用についても同様とする。(2)得意先等を旅行、観劇等に招待する費用の取扱いについて得意先、仕入先その他事業に関係のある者等を旅行、観劇等に招待する費用は交際費等に該当することとされています(措通61の4(1)-15(4))。(交際費等に含まれる費用の例示)61の4(1)-15次のような費用は、原則として交際費等の金額に含まれるものとする。ただし、措置法第61条の4第6項第2号の規定の適用を受ける費用を除く。(4)得意先、仕入先その他事業に関係のある者(製造業者又はその卸売業者と直接関係のないその製造業者の製品又はその卸売業者の扱う商品を取り扱う販売業者を含む。)等を旅行、観劇等に招待する費用(卸売業者が製造業者又は他の卸売業者から受け入れる(5)の負担額に相当する金額を除く。)これらの通達からすると、博覧会の入場券を交付する場合のその購入費用が、得意先等の事業者に対するものであっても、「事業用資産」には該当せず、また、旅行、観劇等に招待する費用であることから、交際費に該当するように思えます。(3)「販売促進費」と「販売奨励金」について細かなことですが、上記1のとおり、博覧会の入場券を交付する場合のその購入費用は、「販売促進費」として取り扱うことになっており、「販売奨励金」とはなっていません。法文上明確に定義されていない租税法規の用語については、「特段の事情がない限り、言葉の通常の用法に従って解釈されるべきである。」(注7)とされており、また「日本語の通常の用語例によって文理解釈して規定の意味内容を明確にすべき」(注8)とされています。広辞苑によると、奨励金とは、「特定の事業などの促進・発達を期するために交付する金銭給付」(注9)を意味することから、「販売奨励金」も「販売促進費」も同じ意味として解釈することになると考えられます。この点は、販売奨励金に関する通達(措通61の4(1)-7)においても「法人が販売促進の目的で」とされていることからも明らかなように思えます。4まとめ既存の販売奨励金に関する通達(措通61の4(1)-7)から博覧会の入場券を取引先等に交付する場合のその購入費用を、販売奨励金(販売促進費)等に該当すると解するには無理があるように思われます。しかし、上記1(3)の「世界都市博覧会」の通達解説によれば交際費等に該当しないことについては問題はないと言えます。博覧会といった限定的なものに関する取扱いであるとしても、博覧会が数年おきに開催される状況からみて、販売奨励金に関する通達をそのままにして事業者に交付する博覧会の入場券の購入費用は交際費等に該当しないとすることにはいささか疑問を感じるところです(注10)。<注釈>令和5年3月28日付「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)に係る費用の税務上の取扱いについて」平成15年7月7日付「2005年日本国際博覧会(愛・地球博)に係る費用の税務上の取扱いについて」「世界都市博覧会」は、平成7年5月31日に当時の青島都知事の判断で中止になりました(同日日刊紙)。海野眞次「世界都市博覧会に係る費用の税務上の取扱いについて」国税速報、平成6年12月8日(第4708号)掲載租税特別措置法(法人税関係)通達第8章アンダーラインは、筆者によるものです。東京高判平14年2月28日税資252号-順号9080長崎地判平28年5月10日税資266号-74-順号12852新村出編著『広辞苑第五版』1336頁(岩波書店)災害等に関連して発生する費用については、従前は、個々の災害ごとに個別通達を発遣していたところ、現在では基本通達等に取り込み整理がされています。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2026/07/17 経営・運営公益法人
新公益法人制度と会計(第8回)
新公益法人制度と会計について、前回は中期的均衡に関する通常の算定方法についての記載させて頂きました。第8回では、中期的収支均衡の特例の算定方法の内容について解説させて頂きます。中期的収支均衡を図るべき期間は5年間となり、発生から5年間を超える残存剰余額がなければ、当該中期的収支均衡が図られていることになります(新認定法規則15、21)。【特例の算定方法】≪特例収入額と特例費用額の構成≫注1経常収益及び経常費用は、一般純資産に係るものに限ります。また、費用額について、公益目的保有財産に係る減価償却費の額を除きます。注2公益充実資金の積立額には上限があります。注3収益事業等の利益は、管理費のうち収益事業等に按分されるものを除きます。また、収益事業等を行う公益法人に限ります。注4過去4年間の各事業年度に特例計算を行った結果、残存している赤字(過年度特例残存欠損額)の合計額をいいます。ア.【資金不足の確認】特例費用額が特例収入額を超える場合には、通常の算定方法に代えて、特例計算を行うことができます。特例算定の適用可否を判断するため、まず、収益事業等からの利益の50%を特例収入額に算入して、特例費用額との比較を行います。その結果、特例費用額が特例収入額を超えるときは、その差額相当分の利益を収益事業等から追加的に繰入れることが可能となります。イ.【特例残存欠損額の算定方法】特例費用額-特例収入額-収益事業等の50%繰入=特例暫定欠損額(差額)特例暫定欠損額-過年度特例残存欠損額の合計額=特例残存欠損額(ⅰ)特例暫定欠損額50<過年度特例残存欠損額の合計額100の場合特例残存欠損額0特例費用額から特例収入額を控除したものが、特例暫定欠損額となります。この場合、特例費用額には、過年度特例残存欠損額の合計額が含まれています。そのため、特例暫定欠損額が、過年度特例残存欠損額の合計額を下回った時点で、当該合計額が利益の繰り入れにより吸収されている状態なので、特例残存欠損額はゼロとなります。ⅱ)特例暫定欠損額100≧過年度特例残存欠損額の合計額30の場合特例残存欠損額70=100-30この場合は、当該事業年度の特例算定で過年度の赤字を補填できなかったことになるので、過年度特例残存欠損額がそのままの額として残り、特例暫定欠損額から過年度特例残存欠損額の合計額を控除した額が特例残存欠損額となります。なお、特例算定計算の場合は、公益充実資金に係る上限計算があります。次回も引き続き、公益充実資金を含めた中期的均衡についてご説明させて頂きます。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2026/07/14 相続・贈与税医療業務
持分のない法人を利用した相続税回避の可能性について
1.背景個人の財産を持分のない法人(一般社団法人や医療法人など)に移し、親族間で理事を交代することによって、相続税の課税を受けずに、実質的な財産の承継を行おうとする可能性は大いに考えられます。持分の定めのある法人(株式会社も含めて)ならば、法人に財産を移しても持分(株式会社ならば株式)という形で個人の相続財産を構成することになるので、個人の財産が減少することはありません。なぜなら個人が法人に財産を移転しても、持分(あるいは株式)という形になって個人にUターンしてくるからです。そのため課税庁側ではその財産に対する相続税の課税機会を逸してしまうことはないといっていいと思います。しかし持分のない法人の場合にはどうでしょうか。個人から法人に移された財産はUターンせず一方通行のため、いったん法人に財産が移ってしまえば、課税庁側は相続税の課税機会を永遠に失ってしまうことになります。このように、個人(納税者側)にとっては持分のある法人より持分のない法人のほうが、相続税対策として利用されやすいけれども、課税庁側からすると持分のない法人を導管(法人を利用して資金を流す)とした相続税回避行為を許すわけにはいかないという事情が出てきます。そこで、相続税法では第65条及び第66条第4項の規定が設けられているわけです。2.相続税法第65条の規定第65条では次のように規定しています。「持分の定めのない法人(持分の定めのある法人で持分を有する者がないものを含む。次条において同じ。)で、その施設の利用、余裕金の運用、解散した場合における財産の帰属等について設立者、社員、理事、監事若しくは評議員、当該法人に対し贈与若しくは遺贈をした者又はこれらの者の親族その他これらの者と前条第一項に規定する特別の関係がある者に対し特別の利益を与えるもの(そのような法人:筆者加筆)に対して財産の贈与又は遺贈があつた場合においては、次条第四項の規定の適用がある場合を除くほか、当該財産の贈与又は遺贈があつた時において、当該法人から特別の利益を受ける者が、当該財産(第十二条第一項第三号又は第二十一条の三第一項第三号に掲げる財産を除く)の贈与又は遺贈により受ける利益の価額に相当する金額を当該財産の贈与又は遺贈をした者から贈与又は遺贈により取得したものとみなす。」この規定は、設立者や社員、理事等に対し特別な利益を与える持分なしの法人に対して、財産の贈与又は遺贈があった場合には、当該法人から特別の利益を受ける設立者等が、その贈与又は遺贈をした者から、その贈与又は遺贈により受ける利益の価額に相当する金額を、直接取得したものとみなす、というものであり、個人が法人に財産を移しても、その法人から特別の利益を受けている個人に対して贈与税を課するという規定です。有体にいえば、持分のない法人を導管とした露骨な相続税の租税回避は許さないぞ、ということです。ところで、このような法人は持分なしの法人とはいえ設立者等に特別の利益を与えている法人であることから非営利型要件を満たしていないため、全所得課税の法人に該当し、贈与等があった場合には寄付金収入として益金に算入され法人税等の課税対象となります。持分のない医療法人(社会医療法人を除く)は、税法上は普通法人扱いとなっていますから同様の扱いになります。そうすると、「特別の利益」を受けている個人に対して贈与税を課し、法人にも法人税を課し、さらには贈与等をした個人に対しても含み益があれば所得税法第59条によりみなし譲渡課税が生ずることになるから、1つの取引行為に対して、贈与税・法人税・譲渡所得税の3つも課税される可能性があるのではということになってしまいます。ここで気になるのが「法人から特別の利益を受けている者が直接贈与等により取得したものとみなす」規定です。贈与された財産は間違いなく法人の財産を増加させているはずですから、「法人から特別の利益を受けている者が直接贈与等により取得したものとみなす」とされても、法人側では贈与された財産の経理処理をしなければなりません。だからこそ寄付金収入の問題が出てくるわけです。3.相続税法第66条4項の規定第65条の場合は「法人から特別の利益を受けている者」が直接贈与により取得したものとして当該個人を納税義務者とする規定でしたが、この第66条4項の場合は法人を個人とみなして納税義務者とするとした規定です。第66条4項では次のように規定しています。「持分の定めのない法人に対し財産の贈与又は遺贈があつた場合において、当該贈与又は遺贈により当該贈与又は遺贈をした者の親族その他これらの者と第六十四条第一項に規定する特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるときは、当該法人を個人とみなして、これに贈与税又は相続税を課する。この場合においては、贈与により取得した財産について、当該贈与をした者の異なるごとに、当該贈与をした者の各一人のみから財産を取得したものとみなして算出した場合の贈与税額の合計額をもつて当該社団又は財団の納付すべき贈与税額とする。」この規定の趣旨も、65条とほぼ同じですが、違うところは、上述したように法人を個人とみなして贈与税を課するというところです。条文中にある「相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果」とはいかなる場合をいうのかについては、相続税施行令第33条3項で「相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となるとは認められない」ための4つの要件を規定しています。なお、この要件は、「必要要件」ではなく、4つの要件を満たしているならば十分であるとする「十分要件」であるとされているようです。相続税施行令第33条3項における4つの要件法人の運営組織が適正であり、かつ役員等に占める親族割合が3分の1以下であること(したがって例えば役員5名の場合には、理事長の親族は役員になれない)設立者や社員・役員等に特別の利益を与えていないこと残余財産について、国又は地方公共団体等に帰属する旨の定めになっていること法令違反や公益に反する事実がないことこれらの要件は一言でいえば、同族的支配関係がなく非営利が徹底されている法人に対する贈与等ならば、「不当に減少する結果となるとは認められない」というものです。つまり贈与等を受けた法人がどのような法人かということで、課税が判断されることになります。なお、贈与税額から控除する法人税額の計算方法については、相続税法施行令第33条第1項(人格のない社団又は財団等に課される贈与税等の額の計算の方法等)に定められています。それによると、贈与等で取得した財産の価額(寄附金収入金額)から、当該価額を事業年度の所得とみなして計算した翌期控除事業税額を控除した価額を、事業年度の所得とみなして計算した法人税額・県民税額・事業税額(均等割り除く)・市町村民税額の合計額、を控除するとされています。なお、この第66条4項の規定と前条の65条とは重複適用の可能性があるのではないかということについては、第65条の規定で「次条第四項の規定の適用がある場合を除くほか」となっていますので、第65条適用の前にこの第66条4項が優先して適用されるものと思われます。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2026/07/08 所得税譲渡所得
不動産譲渡に係る税金(個人)
土地や建物を譲渡したときは、その譲渡益に対して所得税と住民税が課税されます。所有期間が5年以下の土地・建物を譲渡した場合には、5年を超える土地・建物を譲渡した場合より税金が2倍程度に大きく増えます。また、譲渡所得には各種特例がありますので、適用できる場合には見逃さないように注意してください。1.譲渡所得の区分(1)分離課税土地建物等を譲渡したときの譲渡所得は、他の所得と分離して所得税・住民税が課税されます。(2)所有期間と税金土地・建物を譲渡した場合の税金の計算は、その譲渡した土地・建物の所有期間が①譲渡した年の1月1日現在で5年を超えるとき(長期譲渡)と②譲渡した年の1月1日現在で5年以下のとき(短期譲渡)とで大きく変わります。なお、その譲渡した土地・建物の所有期間が譲渡した年の1月1日現在で、5年を超えるかどうかで税金が大きく変わりますが、この所有期間は原則として引渡しの日ですが、売買契約の日で計算してもいいことになっています。(3)取得の日と譲渡の日所有期間を判定する場合の取得の日と譲渡の日は、その取得形態により次のようになります。①取得の日他から購入した資産:その資産の引渡しを受けた日または売買契約などの効力発生の日相続、遺贈により取得した資産(限定承認を除く):被相続人が取得した日贈与により取得した資産:贈与者が取得した日②譲渡の日その資産を引渡した日または売買契約などの効力発生の日なお、取得の日と譲渡の日の判定基準は統一する必要はなく、例えば、取得の日は契約効力発生の日とし、譲渡の日は引渡しの日としても差し支えありません。2.不動産の譲渡に係る税金(1)譲渡益の計算土地や建物を譲渡したときは、その値上り益(譲渡所得)に所得税と住民税が課税されます。譲渡所得は、売った金額(収入金額)からその売った資産の購入金額(取得費)と売るためにかかった仲介手数料等(譲渡費用)を差し引き、さらに特別控除を控除して計算します。【算式】譲渡所得=収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除たとえば、10年前に3,000万円で購入した土地を4,000万円で売却し、仲介手数料120万円を支払った場合には譲渡所得は次のように計算されます。収入金額4,000万円-(取得費3,000万円+譲渡費用120万円)=880万円(2)譲渡の税率①長期譲渡所得(所有期間5年超)所得税住民税合計譲渡所得(復興特別所得税考慮)15%(15.315%)5%20%(20.315%)②短期譲渡所得(所有期間5年以下)所得税住民税合計譲渡所得(復興特別所得税考慮)30%(30.63%)9%39%(39.63%)(3)譲渡収入金額通常は譲渡価額ですが、時価や権利の設定対価(特別の経済的利益の額を含む)が収入金額とされる場合もあります。法人に対して著しく低い価額の対価(時価の2分の1未満)で譲渡した場合には、譲渡のあったときのその資産の時価で譲渡があったものとされます(みなし譲渡・所得税法59条)。固定資産税の清算金を収受している場合には、これも総収入金額に加算します。(4)取得費収入金額から差し引く取得費は購入代金のことですが、原則として、購入時の仲介手数料、購入契約書の印紙、登録免許税、司法書士の手数料、不動産取得税、相続登記費用、その他取得のためにかかった費用も含めて計算します。なお、先祖伝来の土地を相続により取得した場合のように購入代金が不明なときなどは、収入金額の5%相当額を取得費とすることができます。なお、売った資産が建物、建物付属設備、構築物、機械、車両、備品などの場合には、使用したことにより購入したときの金額より価値が下がっていますので、減価償却相当額を計算して差し引きます。建物、建物付属設備、構築物、機械、車両、備品などの減価償却相当額は、事業用・貸付用など業務用のときは減価償却費の累計額、居住用などの非業務用のときは通常の1.5倍の耐用年数により旧定額法で算定した償却費相当額を計算します。業務の用に供されていた期間については、減価償却費として必要経費に算入された金額の累計額を控除します。業務の用に供されていなかった期間については、減価の額を控除します。減価の額=取得価額×0.9×通常の耐用年数に1.5倍した旧定額法の償却率×経過年数(6月以上は切り上げ、6月未満は切り捨て)相続、遺贈、贈与により取得した財産については取得費が引き継がれ、相続登記費用などを加算した金額となります。相続税の取得費加算(相続税の申告期限〈10ヵ月〉から3年以内に相続により取得した財産を譲渡した場合には、相続税額のうち一定金額が取得費に加算されます)買換資産の取得費の引継ぎ(5)平成21年・22年中に取得した土地等の長期譲渡の1,000万円特別控除個人が平成21年1月1日から22年12月31日までの間に取得した国内にある土地等で、その年の1月1日において所有期間が5年を超えるものの譲渡をした場合には、その年中のその譲渡に係る譲渡所得の金額から1,000万円(譲渡益が限度)を控除できます。(6)譲渡費用収入金額から差し引く譲渡費用というのは、譲渡するために直接かかった費用ですが、譲渡の際の仲介手数料、印紙代、測量費用、譲渡のために借家人を立ち退かせる立退料、建物の取壊し費用(建物の未償却残高)などがあります。なお、修繕費、固定資産税などその資産の維持または管理に要した費用は含まれません。(7)キャッシュフロー(手取額の計算)譲渡収入金額-譲渡費用-譲渡所得税・住民税=手取額※取得費は控除しない。(8)長期譲渡所得、短期譲渡所得の計算例Aさんは取得費1,600万円の土地を12,000万円で譲渡し、仲介手数料が300万円と測量費などが100万円かかった。この土地の譲渡が、①長期譲渡の場合、②短期譲渡の場合の所得税、住民税はいくらか。なお、Aさんの課税総所得金額は1,000万円である。〔解答・解説〕①長期譲渡の場合(イ)課税長期譲渡所得金額12,000万円-(取得費1,600万円+譲渡費用300万円+100万円)=10,000万円(ロ)所得税10,000万円×15.315%=1,531万5,000円(ハ)住民税10,000万円×5%=500万円(ニ)合計(ロ)+(ハ)=2,031万5,000円②短期譲渡の場合(イ)課税短期譲渡所得金額12,000万円-(取得費1,600万円+譲渡費用300万円+100万円)=10,000万円(ロ)所得税10,000万円×30.63%=3,063万円(ハ)住民税10,000万円×9%=900万円(ニ)合計(ロ)+(ハ)=3,963万円提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2026/06/24 所得税譲渡所得
みなし配当課税の特例
1.はじめに相続により取得した非上場株式の資金化は、納税資金の確保や事業承継対策において極めて重要なスキームです。通常、個人株主が発行会社に株式を譲渡(自己株式の取得)した場合、資本金等の額を超える部分の金額は「みなし配当」として所得税の総合課税の対象となります。しかし、相続発生後の一定期間内に限り、この税負担を大幅に軽減できる特例が存在します。本稿では、租税特別措置法第9条の7(相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例)を中心に、実務上の論点や関連法規との整合性を解説します。2.本特例の概要と税制上のメリット(1)通常の自己株式取得における課税(原則)個人株主が非上場株式を発行会社に譲渡した場合、その対価として受け取った金額のうち、発行会社の「資本金等の額」に対応する部分は株式譲渡所得(分離課税20.315%)となりますが、それを超える部分は利益の分配とみなされ、配当所得(総合課税・最高税率約55%)となります(所法25①五)。(2)特例の適用による効果租税特別措置法第9条の7の規定に基づき、一定の要件を満たす場合には、本来「みなし配当」となる金額についても配当所得とせず、その全額を株式譲渡所得の収入金額とすることができます。これにより、課税方式が「総合課税」から「分離課税(20.315%)」となり、納税額を劇的に抑えることが可能となります。適用要件本特例を受けるためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。対象者:相続または遺贈により非上場株式を取得し、かつ、納付すべき相続税額がある個人であること。譲渡先:その株式の発行会社であること。期間制限:相続開始の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで(相続開始から3年10ヶ月以内)。手続要件:譲渡日までに「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書」を発行会社に提出し、発行会社は譲り受けた日の属する年の翌年1月31日までに所轄税務署長へ期限内に届け出ること。3.相続開始前に同一銘柄の株式を有している場合の取扱い実務上、相続人が元々(相続開始前から)所有していた株式と、相続により取得した株式が混在するケースが多々あります。この場合、特例が適用できるのか(どの株式から譲渡したか)という疑問が生じます。文書回答事例による判断(平成24年4月17日)国税庁の文書回答事例では、租税特別措置法関係通達39-12(同一銘柄の株式を譲渡した場合の適用関係)の考え方を準用し、「相続等により取得した株式から優先的に譲渡したものとみなす」という取扱いが示されています。その理由は以下の2点とされています。同一銘柄の株式については、相続財産であっても相続人固有の財産であっても、その資産としての性質は同一であり、いずれを譲渡したとしても、これを区別して特例の適用を判断する合理的理由に乏しいこと(相続等により取得した株式を譲渡したことが明らかであることを条件に特例の適用を認めることは現実的でないこと。)。所得税基本通達33-6の4《有価証券の譲渡所得が短期譲渡所得に該当するかどうかの判定》における長期・短期の区分に係る取扱い(先入先出法による判定)は、いずれの株式から譲渡したかが判然としない場合に、納税者有利に取り扱うこととするものと考えられるところ、これを取得費加算の特例に準用すると、納税者にとって不利になる場合があること。したがって、相続財産以外の自己保有株式がある場合でも、譲渡株数が相続取得株数の範囲内であれば、その全額について特例の適用が可能となります。4.「相続又は遺贈による取得」の範囲本特例は、直接的な相続・遺贈だけでなく、「相続・遺贈による取得とみなされるもの」についても広く適用が認められています。※措置法9の7において、「相続又は遺贈(贈与者の死亡により効力を生ずる贈与を含む。以下この項において同じ。)による財産の取得(相続税法又は第70条の7の3若しくは第70条の7の7の規定により相続又は遺贈による財産の取得とみなされるものを含む。)をした個人……」とされています。(1)相続税法の規定により相続又は遺贈による財産の取得とみなされるもの(相続時精算課税制度の適用を受けた株式)相続時精算課税制度の適用を受けた非上場株式は、贈与者が死亡した際に相続財産に加算して相続税を計算します(相法21の15、21の16)。したがって、相続時精算課税制度の適用を受けた非上場株式は相続税法の規定により相続等による財産の取得とみなされるため、本特例の適用を受けることができます。(2)措置法第70条の7の3若しくは第70条の7の7の規定により相続又は遺贈による財産の取得とみなされるもの(非上場株式等の納税猶予制度(事業承継税制)の適用株式)贈与税の納税猶予及び免除制度(一般措置・特例措置)の適用を受けた株式は、贈与者の死亡により、猶予された贈与税額の全額が免除され、受贈者が贈与者から贈与時の価額で相続によって取得したものとみなされ、相続税の課税の対象とされます(措法70の7の3、措法70の7の7)。したがって、贈与税の納税猶予及び免除制度の適用を受けた株式は相続等による財産の取得とみなされるため、本特例の適用を受けることができます。5.実務上の留意点実行にあたっては譲渡価額や会社法上の手続きなどに留意が必要です。(1)譲渡価額の妥当性発行会社に譲渡する際の価額は、租税特別措置法関係通達37の10・37の11共-22《法人が自己の株式又は出資を個人から取得する場合の所得税法第59条の適用》において、個人株主が発行法人にその法人の株式を譲渡した場合の低額譲渡の取扱いがあり、「当該自己株式等の時価」は、所基通59-6《株式等を贈与等した場合の「その時における価額」》により算定するものとするとされています。低額譲渡となった場合、譲渡所得の計算において時価によるみなし譲渡課税(所法59)やみなし贈与(相法9)の適用を受ける可能性があります。(2)特定の株主からの取得と「売主追加請求権」自己株式の取得を「特定の株主」から行う場合、以下のハードルが生じます。株主総会の特別決議(会社法309②二)特定の株主(譲渡人)は議決権を行使できません(会社法160④)。売主追加請求権(会社法160②)特定の株主以外の他の株主も自分も売主に追加することを請求する権利があります。これを排除するには、定款に別段の定めを設ける必要がありますが、その定款変更には全株主の同意(会社法164条)が必要であり、実務上の難易度は極めて高いと言えます。(3)財源規制(会社法461)自己株式の取得の対価は、効力発生日における「分配可能額」を超えてはなりません。分配可能額が不足している場合、特例を使いたくても実行できないこととなりますので事前に確認しておく必要があります。(4)ミニマムタックス(特定の基準所得金額の課税の特例)への影響(措法41の19)令和7年から始まった「特定の基準所得金額の課税の特例」にも留意が必要となります。具体的には、基準所得金額が3億3,000万円を超える場合、その超えた金額の22.5%から基準所得税額を控除した金額に相当する所得税額が追加で課されます。なお、別途、住民税が課税されます。追加所得税額:(基準所得金額-3.3億円※)×22.5%※-基準所得税額基準所得金額総所得金額及び分離課税の所得金額を合計した金額(申告不要制度を適用できる所得の金額を含みます)をいいます。基準所得税額申告不要制度を適用する所得を除いて計算した場合の申告書上の所得税の額及び申告不要制度を適用した所得に係る源泉徴収税額を合計した金額をいいます。令和9年分からは、控除額は1億6,500万円、税率は30%となります。6.結論「みなし配当課税の特例」は、相続税の納税資金を確保するためのツールの一つとなります。さらには、相続時精算課税制度や事業承継税制と組み合わせることで、事業承継対策を構築することが可能となります。具体的には、将来の株価上昇が見込まれる場合、生前の株価が低いタイミングでこれら制度を活用して贈与を行い、「贈与時の低い評価額」で相続税額を確定させます。一方で、相続発生後の会社への売却(自己株式取得)の際は、成長した「その時点の高い時価」で売却することで、税負担を抑えつつ最大限のキャッシュを後継者に残すことができるのです。しかし、譲渡価額、届出書の提出、会社法上の手続き、さらにはミニマムタックスの影響まで、考慮すべき項目は多岐にわたります。税理士としては、生前からこの特例の適用を視野に入れ、事業承継対策を検討する必要があります。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2026/06/17 消費税
消費税の納税義務判定のポイント解説(第29回) 『3割特例』と消費税の納税義務判定との関係
1.「3割特例」とは3割特例とは、個人事業者である適格請求書発行事業者が行う令和9年分及び令和10年分の消費税申告において、その課税期間における売上税額(課税標準額に対する消費税額)から控除する金額を「売上税額の7割」とすることで、納付税額を売上税額の3割とすることができる経過措置です(28年改正法附則51の3)。3割特例は、適用期限(令和8年9月30日までの日の属する課税期間)の到来をもって廃止される「2割特例」(28年改正法附則51の2)に代わる制度として、令和8年度税制改正により創設されました。3割特例による納付税額は、簡易課税制度において事業区分が第3種事業(製造業等:みなし仕入率70%)に該当する場合と同じになります。そのため、第1種事業(卸売業:みなし仕入率90%)又は第2種事業(小売業:みなし仕入率80%)を営む事業者は、3割特例よりも簡易課税を選択したほうが納付税額は少なくなる可能性があります。また、多額の設備投資を行った場合には、一般課税で申告をすることで消費税の還付を受けられるケースもあります。したがって、事業の内容や設備投資の有無等を踏まえて、税額計算の方法を検討することが重要です。2.「3割特例」の適用が受けられる課税期間の判定3割特例の適用が受けられるのは、2割特例と同様で、適格請求書発行事業者のうち、原則として、インボイスの登録をしたことで課税事業者になった課税期間(インボイスの登録を行わなければ免税事業者であった課税期間)が対象です。課税期間ごとに適用の可否判定を行う点も2割特例と同じです。ただし、3割特例は2割特例と次の2点が異なることに注意が必要です。個人事業者のみを対象とした制度であること(法人は適用不可)令和9年と令和10年の2年間限定の制度であること前回(第28回)「『2割特例』と消費税の納税義務判定との関係」では、2割特例の適用判定について6つの判定ポイントを整理した「2割特例の適用判定フローチャート」を解説しました。これに上記の変更点を考慮した「3割特例の適用判定フローチャート」を作成しましたので、判断の目安としてください。6つの判定ポイントのうち3から5は、本リポートでこれまで解説した納税義務判定の規定で、該当することで課税事業者になるものです(各規定の詳細は、項目ごとの参照回をご確認ください。)。いずれかの規定に該当する場合は、インボイス登録をしなかったとしても課税事業者になる課税期間であるため、原則として、3割特例を適用することはできません。ただし、次の2つのケースは例外的に3割特例の適用が認められる点も2割特例と同様の趣旨です。【例外1】「課税事業者選択届出書」を提出しているケース(判定ポイント4)「課税事業者選択届出書」を提出している場合であっても、3割特例の適用を受けることができない課税期間は、調整対象固定資産を取得した場合に適用される、いわゆる「3年縛り」が適用される課税期間に限られます。「3年縛り」が適用される課税期間の詳細については、第8回を参照してください。したがって、「3年縛り」が適用される課税期間に該当しない限り、「課税事業者選択届出書」を提出しているという理由のみで、3割特例の適用が否定されることはありません。【例外2】「その年に相続があった場合の納税義務の免除の特例」の適用を受けるケース(判定ポイント5)相続があった場合の納税義務の免除の特例には、「その年に相続があった場合」の特例と「前年又は前々年に相続があった場合」の特例の2つがあります。これらの特例の適用を受ける課税期間はいずれも、相続人はインボイス登録を行っていなかったとしても課税事業者となるため、原則として3割特例の適用を受けることはできません。ただし、「その年に相続があった場合の納税義務の免除の特例」の適用を受ける場合には、例外的に3割特例の適用が認められることがあります。具体的には、相続人が相続のあった年において、相続よりも前に自らインボイス登録を行っていた場合です。これは、相続人が相続より前から事業を行い、自らの判断でインボイス登録を行っていた課税期間において、予期せぬ相続により「その年に相続があった場合の納税義務の免除の特例」が適用され、結果として3割特例の適用が受けられなくなると、相続人に大きな負担を課すことになるからです。このため、このケースに限り3割特例の適用が認められており、フローチャートの(判定ポイント5)は、この点に関する判定を行っています。3割特例は、2割特例と同様に適用の可否判定に当たってこれまで解説してきた消費税の納税義務判定と重なる部分が多くあります。適用の判定を誤らないよう、過去の解説回を確認の上、慎重に対応する必要があります。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2026/06/10 相続・贈与税信託税制
取引相場のない株式の評価~実態把握と評価額の操作可能性の課題~
会計検査院(以下、「検査院」とします)は令和6年11月の検査報告において、取引相場のない株式の評価について、異なる規模区分の評価会社が発行した取引相場のない株式を取得した者間での株式の評価の公平性や社会経済の変化を考慮するなどして、評価制度の在り方について様々な視点からより適切なものとなるよう、国税庁に検討を行うことを求める所見を述べました。これを受け、国税庁では検査院の指摘も踏まえて、相続税法の時価主義のもと適正な評価制度の在り方を検討するため、令和8年4月20日に第1回の有識者会議を開催しています。今回は国税庁が公表したこの会議の資料から、検査院の指摘を踏まえた国税庁の実態把握と、評価額の操作可能性の課題について確認していきたいと思います。1検査院の指摘事項検査院の指摘事項は以下のとおりです。令和2、3両年分の相続税及び贈与税の申告のうち、取得した財産に取引相場のない株式がある申告の中から、無作為抽出した計1,600件の申告を対象として検査原則的評価方式による評価の状況類似業種比準価額の中央値は純資産価額の中央値の27.2%となっており、類似業種比準価額は、純資産価額に比べて相当程度低い水準→計算式に類似業種比準価額が用いられている類似業種比準方式(①)及び併用方式(③)による各評価額は、純資産価額方式(②)による評価額に比べて相当程度低く算定され、各評価方式の間で1株当たりの評価額に相当のかい離が生じている状況純資産価額に対する申告評価額の割合の分布状況をみると、その中央値は、大会社0.32倍、中会社0.50倍、小会社0.61倍→評価会社の規模が大きい区分ほど株式の評価額が相対的に低く算定される傾向⇒類似業種比準価額が下がる方向で評価通達が改正されてきたことや評価通達の計算式が評価会社の業績等の実態を踏まえて株式を評価する方法として適切に機能していないおそれがあることなどが要因となっていると思料➤このような状況は、異なる規模区分の評価会社が発行した取引相場のない株式を取得した者間で株式の評価の公平性が必ずしも確保されているとはいえないと思料特例的評価方式(配当還元方式)による評価の状況配当還元方式の還元率(10%)は、評価通達制定当時(昭和39年)の金利等を参考にするなどして設定その後、還元率は金利の水準が長期的に低下する中で見直されていない→還元率が社会経済の変化に応じたものとなっておらず、近年の金利の水準と比べて相対的に高い率となっているおそれ➤10%の還元率に基づいて算定される評価額は、通達制定当時と比べて相対的に低くなっているおそれがあると思料2国税庁の実態把握国税庁は検査院の指摘を踏まえ、異なる対象期間(令和4、5年分)により、類似業種比準価額と純資産価額の比較、純資産価額に対する類似業種比準価額の割合の分布、会社規模別の純資産価額に対する申告評価額の割合の分布の分析を行っています。その中で、類似業種比準価額と純資産価額のかい離について、次の2点の原因があると分析しています。比準要素としての1株当たり配当金額の機能不全について、分析の対象とした会社のうち、80%超の会社が評価直前2期において全く配当を支払っておらず、配当金額が株価の比準要素として機能していないのではないか平成20年までの評価通達の改正により、類似業種比準価額が引き下げられてきた結果、純資産価額とのかい離が広がったのではないか➡昭和47年及び平成12年改正により、かい離が拡大しており、しんしゃく率の導入(見直し)が影響していると思われるそして最後に、実態把握について以下のようにまとめられています。検査院の指摘した令和2・3年分申告における取引相場のない株式の評価の状況は、令和4・5年申告分についても、同様の状況が確認された評価会社の規模別の純資産価額に対する申告評価額の割合の中央値は、評価会社の規模が大きくなるほど低くなっており、異なる規模の評価会社間で相対的に不均衡が生じているおそれがある➡こうした評価方式間の評価額のかい離が誘因となり、純資産価額方式の適用を回避しようとするスキームが存在3評価額の操作可能性の課題次に国税庁は評価額の操作可能性の課題として、次の3点を取り上げています。(1)グループ法人税と評価差額法人税法上、完全支配関係がある法人間で譲渡損益調整資産(譲渡直前の帳簿価額が1,000万円以上の固定資産や有価証券等)の譲渡をした場合には、譲渡損益が繰り延べられます(法法61の11)。そのような資産を親会社から子会社、孫会社へと移転することにより、親会社の評価を減少させることが可能となります。また、その資産を保有する子会社等の評価が類似業種比準価額の適用を受けることができれば、親会社の評価をさらに圧縮することが可能となります。(2)種類株式(無議決権株式)を用いた配当還元方式の濫用組織再編等を活用するなどして創業者に無議決権株式を大量保有させた後、議決権を後継者へ集約化させることにより、孫の一部が配当還元方式の適用が可能となります。将来的には、その株式を普通株式へ転換することもあり得ます。(国税庁資料)(3)超過収益力分の社外流出所有と経営が分離していない同族会社では、超過収益力を役員報酬として流出させることが可能であり、結果として配当金額を調整することができます。また、法人として土地等を所有していなくても、経営者の私財を担保として金融機関から事業資金を調達することもできます。結果として、配当金額、利益金額、純資産価額を圧縮し、類似業種比準価額における評価を引き下げることが可能となります。4まとめ国税庁は上記のような課題については、これまでは財産評価基本通達総則6項に基づく課税処分により個別に対応せざるを得ない状況であると述べています。また、評価方法の見直しに当たっての基本的な4つの観点として、「評価額の崖の解消」「実務・学術上の進展を踏まえた今日的観点からの見直し」「評価額の恣意性・操作性の排除」「第三者への事業承継等の動向も踏まえた評価」を検討課題として提案しています。国税庁のホームページでは、これからも有識者会議の議事要旨や資料が公表されます。先生方もご確認ください。提供:税経システム研究所
続きを読む
1768 件の結果のうち、 1 から 10 までを表示




