税務情報レポート
MJS税経システム研究所・税務システム研究会の顧問・客員研究員による租税を中心とした多彩な研究成果および最新の税制改正および制度や動向、判例研究等に関するリポートです。
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2026/05/01 法人税税務争訟
同族会社の行為計算の否認規定の解釈適用を巡る課税の混迷とその実相(Ⅱ)~個人(株主)の同族会社に対する無利息融資は異常不合理か?~
1.令和7年3月7日裁決要旨と検討(承前)前回は、営利法人の同族会社にとって経済的合理性のあるある行為計算は否認されないという認識から疑問を提起して個人(株主)から同族会社に対する3455億円の無利息貸付の平和事件判決はもとより(注1)、本裁決のような数十億の無利息融資についても、その判断の違法性を指摘して論じたところである。そこで、最も新しい本件裁決(タインズJ138-2-03)の要旨を紹介する。<裁決要旨>(1)所得税法第157条第1項は、①同族会社等において、これを支配する株主等の所得税の負担を不当に減少させるような行為又は計算が行われやすいことに鑑み、➁税負担の公平を維持するため、株主等の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為又は計算が行われた場合に、③これを正常な行為又は計算に引き直して当該株主等に係る所得税の更正又は決定を行う権限を税務署長に認めたものである。(2)本件貸付けは、23億4000万円という多額な金銭を、無利息、無期限、無担保で貸し付けるものであって、その融資条件は、独立かつ対等で相互に特殊の関係のない当事者間で通常行われる取引とは大いに異なるというべきである。(3)「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、同族会社等の行為又は計算のうち、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものであって、所得税の負担を減少させる結果となるものをいうと解するのが相当であるから、所得税法第157条第1項を適用した課税処分は適法である。2.本裁決の論理矛盾とその誤謬本裁決は、ここで指摘した問題点の大半を閑却して説示しているが、そのために、その説示の大半が論理矛盾を犯している。まず、上記(3)の説示では、所得税の不当減少について、①「同族会社等の行為又は計算で」、本件同族会社の株主から無利息融資を受けることが、➁「経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの」という論理の整合性は全く認められない。すなわち、営利法人たる同族会社が利息を支払わないで資金調達して事業資金として運用することが、何故に、不自然、不合理なもので経済的合理性を欠くという論理が意味不明であり到底理解できない。ここでの①の「同族会社の行為又は計算」とは、株主等の行為ではなく、同族会社の行為計算自体を指していることは言うまでもない。そうであれば、その同族会社が個人(株主)から無利息で借入をする行為が異常不合理でないことは当然のことであり、もはや、そのことのみでも本裁決の誤りは明らかである。この明らかな論理が裁決で否定されること自体が理解不能である。納税者は銀行の借入利率が低い銀行の融資を求めて、既存の高い利率の借入金から低い利率の銀行借入に借り換えているというのが現状である。それが個人、法人を問わずその行為を異常不合理というのが本裁決の法理である。それを異常というのであれば、本裁決の理由は不備である。何故ならば、その点に関する論理の正当性の理由が全く欠落しているからである。本裁決は、(1)で説示する「独立かつ対等で相互に特殊の関係のない当事者間で通常行われる取引とは大いに異なる」という説明は、「同族会社の無利息借入れの行為又は計算」それ自体が経済的合理性であることに鑑みれば、明らかな誤謬であることに思いを致していない。すでに同族会社の否認規定の創設でみたように、同族会社から個人株主等に対する利益移転を否認の対象とするものであり(注2)、本裁決事例のように個人(株主)から同族会社に対する利息相当額の利益移転を対象とするものではないことに留意すべきである。ところで、個人(株主)の無利息貸付の行為が不自然、不合理というのは、自然人たる個人の特性、つまり、個人は法人とは異なり、営利を追求する主体のみではないという自然人の属性にも注視すべきであるにもかかわらず、それが欠落している。本裁決は、個人はボランティアが尊敬されるという特徴につき失念している。例えば、友人関係にある個人が困窮して支援を求めてきた場合にこれに応ずる場合は、その友人のために、無償又は低額で役務(金銭、物又は労務)の提供を行うのが通常の個人としての自然な行為であるという評価が可能である。それは営利追求主体の法人とは全く異なるものであることを前提として理解しなければならない。つまり、個人が無利息融資を行うことは自然な厚意として評価されこそすれ非難されるいわれはないということである。それを否定して、個人の行為にも経済的合理性を求めるというのであれば、もはや、法人税法と同様に、所得税法に収入金額の意義、範囲を法定して対処すべきである。そうでなければ、現行の所得税法157条1項は不公平課税を生起する憲法違反の税制ということになる。本裁決の最大の疑問は、自然人と営利法人の相違という重要な事実を放擲して説示しているという点である。すなわち、自然人の特性を捨象した本裁決は、法人の行為の経済的合理性の判断基準である「独立当事者間取引基準」を個人の領域に持ち込むという明白な誤りを犯しているということを指摘しておきたい。その誤認は、所得税法157条1項の「同族会社の行為又は計算」とは、同族会社自体の行為計算をいうものであり、その株主等の関係者の行為計算ではないということを裁決は理解していない(注3)。次に、(1)において、同族会社が個人(株主)から無利息等で融資を受けた結果、「個人(株主)の所得税を不当に減少することになる」と説示しているが、個人(株主)の所得は所得税法36条の「収入すべき金額」は零であるから、利息を収受している貸付けの場合と比較すれば、租税負担が減少することはむしろ当然のことである。それを裁決が不当に減少しているという理由が何ら語られていない。もはや論外の裁決というほかはない。ちなみに、個人株主と同族会社との関係性に鑑みれば、上記(2)でいう「無利息、無期限、無担保で貸し付ける」ことの異常、不合理性を説示しているが、これを一人株主の典型的同族会社についてみれば、その株主が資金融資を行う場合、無期限、無担保であることは、むしろ当然のことである。何故ならば、一人株主の支配下にある同族会社は、「当該株主=同族会社」という一心同体の関係にあり、自らの貸付の担保は、当該株主が所有する同族会社株式により会社財産を支配管理しているから、それ自体が担保であって重ねて担保を徴することはナンセンスの極みである。何故、このような当然の道理が裁決により理解されないのか、理解不能というほかはない。ところで、当該株主の無利息融資による損失は、その行為により同族会社は利息相当額の利益を得ていることから、その純資産価額が増加しており、その純資産価値の増加は一人株主の保有する株式価値の増加とイコールであるという関係にある。すなわち、無利息貸付によって一見、当該株主に損失が生じているように見えるが、その実体は、自らが所有する株式を通じて純資産の増加という利益を享受していることになり、現実的な損失は発生していないことに帰着する。敢えて言えば、そこに無利息融資をする個人(株主)の正当な理由があるといえるであろう(注4)。しかしながら、かかる理論を述べるまでもなく、同族会社に対する無利息融資は、それ自体が株主としての支援であり、「その同族会社の行為又は計算」が、個人(株主)及び当該同族会社にとって不自然、不合理ということ自体、合理的理由はないという当然の事理として認識すれば足りるということである。3.その他の疑問点(1)法制度及び課税実務との「不平等課税」の実相所得税法59条1項のみなし譲渡の規定は、実勢価格の2分の1未満の資産の譲渡に限定して実勢価格でのみなし譲渡課税を行うこととされている。その含み益は、株主が完全に支配管理しているにもかかわらず、半分の猶予枠を認めているのであるから、無利息貸付の利息認定にはその猶予額が零というアンバランスは説明不能である。個人株主が所有する土地に同族会社が借地権を無償で設定(無償返還の届出)した場合には、権利金、相当地代の認定課税はなく課税関係は発生しないという定着している課税当局の課税実務との齟齬の説明も不可能である。過大管理料の所得税法157条1項による否認は後述するが、無利息融資等の本件の利息収入は、それが個人間又は個人(株主)と非同族会社との間で同様の融資が行われた場合には、現行法の下では否認できないという不平等課税が生ずることについて、裁決は考慮の埒外においている。かかる課税関係の相違の下での本件利息収入の認定課税は、不平等課税そのものであるにもかかわらず、その真摯な検討も看過している本裁決は、明らかに誤謬というべきである。(2)適正利率について本裁決は、本件無利息融資の適正利率は銀行借入の利率によるべきであるとしているが、営利を追求する法人とは異なり、個人(株主)の場合には金融業を行っている個人であればともかく、一般には余剰金は定期預金として運用されているから、敢えて個人(株主)に利息の認定課税を行う場合には、その失われた収益は定期預金利息であるから、適正利率は定期預金利率によることが妥当であると考えられる。(3)過大経費の否認の法理と本裁決の対応的調整過大管理料の否認は実質主義による認定によるべきこと過大管理料等の過大経費の否認は、同族会社の行為計算の否認規定によるのではなく、「事実認定の実質主義」により株主の法人に対する贈与として否認すべきであり、対応的調整は不要である。しかしながら、裁決等は古くから所得税法157条1項を適用して過大部分の必要経費性を否認しているが、それは誤りというべきである。この「事実認定の実質主義」による否認によれば、株主対非同族会社、個人対個人の過大管理料の支払いも同様に否認できるが、所得税法157条1項による否認の場合は、支払の相手方が非同族会社又は個人であれば否認できないという不合理・不公平な事態が生ずる。そこで、課税庁に厳格な立証責任を求めて、過大管理料の過大部分は贈与として必要経費性を否認する統一した整合性ある課税処分及び裁決が行われるべきである。このことは、筆者は古くから指摘しているが、課税当局、国税不服審判所は立証責任の緩和的対応として機能している同族会社の行為計算の否認規定により、便宜的に否認している。真に遺憾という以外言葉もない。ちなみに、この点に関して指摘しておきたいことがある。それは、最近では、過大経費(賃借料)の支払いを法人税法132条(同族会社等の行為計算の否認)1項を適用して、過大賃借料の過大部分の全額を損金不算入とする更正を行い判決でもこれを認めている(名古屋地裁平成11年5月17日判決(税資242号602頁)。しかし、上記の通り、実質主義により過大部分は贈与と認定して寄附金課税として処理すれば、事案によっては、その金額が寄附金の損金算入限度額以下であれば更正されないことになる。一方で、同族会社行為計算の否認では過大支出額の全額が損金不算入とされるという不公平課税(憲法違反)が生ずる。この矛盾した課税は、実質主義又は法解釈による否認等の一般的否認規定が優先され、同族会社の行為計算の否認規定のように特別に与えられた課税権の行使は最後の否認手段として位置付けるべきということである。同族会社の行為計算の否認規定が「伝家の宝刀」たる所以はここにある。本裁決による無利息融資の利息認定と同族会社に対する対応的調整次に、本件のように個人(株主)の同族会社に対する無利息融資につき、所157条1項を適用して利息収入の認定課税を行なうのであれば、同条の規定が、正常な行為計算による課税関係を形成するものである以上、同族会社においては適正利率の利息を支払ったとフィクションして同額の認定利息を同族会社の所得金額の計算上損金の額に算入することにより、個人(株主)及び同族会社が正常な取引による課税関係を達成するという租税回避行為の否認の本来の目的が実現されるということである。そのためには、個人に認定された利息相当額を同族会社の所得金額の計算上損金の額に算入する対応的調整が不可欠であるということである。そうでなければ、株主個人が収受していない利息を収入したものとフィクションして雑所得課税が行われ、他方で、本件同族会社は何らの対応的調整がなされないということは、真に、個人株主の雑所得課税と法人税の二重課税を納税者に課するということである。それが許されないことは、租税回避行為の否認の法理を理解している者にとって当然のことである。少なくとも、本件同族会社にとって、対応的調整は不可欠であり、加えて、これだけ多くの問題点を含んでいる規定、それを通達による何らの示達もしないまま放置している課税当局の対応に鑑みれば、納税者の申告に正当理由を認めて、過少申告加算税を課さないことが公正な税務対応であるというべきである。4.結びに代えて本裁決の他に、本件の前年に2件の裁決事例があるが、それは本事例と同様の否認の法理により利息の認定課税が行われている。それは、平和事件の原審判決及び最高裁判決の影響を受けたことは明らかであり、したがって、ここで論じた裁決批判は平和事件判決のすべてに該当する問題点であり批判である(注5)。すなわち、ここでの批判の要点は、平和事件の原審判決及び最高裁判決は、全く検討の対象とはしていないし、原審判決により取り消された過少申告加算税の賦課決定処分は、最高裁判決により取り消され復活している。そうであれば、平和事件の原審判決及び最高裁における審理内容からすれば、両判決は、ここで指摘した論点の問題点の認識は殆ど念頭にはなかったということができるであろう。それがそもそもの問題であるが、最高裁判決後、ここで紹介した裁決が行われるまでの間の23年間(一審判決後30年間)の長きに亘り、同種の利息認定の課税は行われていないようにも思われる。それは、国税庁が、この判決後にあまり積極的には課税しないようにとの会議で伝えられたということを仄聞しているが、真偽は不明であるものの、長きに亘り、同種の事件が発生していなかったことは、その判決事例の問題性を考えれば、このような事実があったことと符合するようにも思われる。他方で、修正申告では、問題点を理解していない某国税局より10億円に満たない融資につき、修正申告を慫慂されて課税された事例も仄聞している。そのことは、いわゆる税務執行の不平等課税という憲法違反の税務執行の課税が行なわれているということである。今回の裁決事例も多額であるといえばそうであろうが、そこで、10億円又は5億円さらに1億円はどうか、様々な不合理、不公正そして不平等が現実の問題として派生することになろう。課税当局及び不当性も審理の対象となる国税不服審判所におかれては、慎重な検討が期待される。(了)<注釈>平和事件判決については、拙稿・税務事例32巻5号(2000年)1頁、同巻6号1頁、同巻7号1頁及び租税訴訟No13号69頁参照。その他同族会社の行為計算の否認規定を広く論じたものとして租税回避行為研究特別委員会(税務会計研究学会)最終報告(委員長大淵博義・委員岸田貞夫・野田秀三)「租税回避行為-その否認の現状の問題点と課題-」税務会計研究第20号165頁~194頁(平成21年)を参照。例えば、株式の譲渡所得非課税の時代における株主からの株式の高価買取によりその全額を非課税とする行為がこれに該当する。しかしそれとても、事実認定の実質主義により過大支出は否認できるから、もはや所得税法157条1項の適用の余地はない。なお、裁決は株主の同族会社に対する過大管理料の支払いを所得税法157条1項により否認しているが、その管理が個人又は非同族会社が行い同額の過大管理料を支払っている場合は、否認しないのであろうか。その場合は、事実認定の実質主義により過大部分を証明して否認することは当然のことである。裁決はかかる問題点にも気づいていないのであれば、国税不服審判所長には猛省を促したい。このことを強調して指摘するものに、田中治「所得税における同族会社の行為計算の否認規定」(財)日本税務研究センター編『同族会社の行為計算の否認規定の再検討』(財)日本税務研究センター(2007年)81頁。同『第58回租税研究大会記録』(社)日本租税研究協会(2007年)131~132頁参照。また、碓井教授は、所得税法も法人税法も「同族会社の行為計算で」とされていることから、「同族会社の行為計算の否認の規定が『同族会社』という主体に着目して定められている」と解されるとされ、その上で、「同族会社自体の意思決定が介在する余地のない場合、又は、同族会社自体の意思決定としては合理的であるという場合には、否認できないと結論づけることが可能となる。」碓井光明「相続税法64条1項にいう『同族会社の行為』の意義等」判例評論280号(判例時報1037号)159頁)。なお、大淵博義「『所得なきところに課税なし』の原則と同族会社の『行為・計算』の否認」税理40巻9号(1997年)63頁以下も参照。このことは、米国親会社が日本子会社の従業員等にストックオプションを付与し、その従業員等が得た行使益は、親会社からその従業員等に対する給与所得とした判決を参照すれば、容易に理解できるであろう。平和事件判決の批判的検討については前記「1」の注を参照。提供:税経システム研究所
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2026/04/28 所得税医療業務
使用者からの食事の支給により受ける経済的利益についての所得税基本通達における取り扱い
1.初めに令和8年度税制改正大綱において、所得税が非課税とされる食事の支給にかかる使用者の負担額の上限が現行の月額3,500円から7,500円に引き上げられることになりました。実に42年ぶりの改正ということになります。この所得税が非課税とされる(経済的利益はないものとされる)取り扱いは所得税基本通達36-38の2に示されていますが、給食費についての取り扱いを、金額を当てはめながら整理してみたいと思います。2.改正前の所得税基本通達36-38の2の規定使用者が役員又は使用人に対して支給した食事(36-24の食事を除く。)につき当該役員又は使用人から実際に徴収している対価の額が、36-38により評価した当該食事の価額の50%相当額以上である場合には、当該役員又は使用人が食事の支給により受ける経済的利益はないものとする。ただし、当該食事の価額からその実際に徴収している対価の額を控除した残額が月額3,500円を超えるときは、この限りでない。(昭50直法6-4、直所3-8追加、昭59直法6-4、直所3-7改正)(36-24の食事を除く)とは、残業又は宿日直をした者に支給する食事のことをいいます。これは所得税基本通達36-24に次のように記載されています。使用者が、残業又は宿直若しくは日直をした者(その者の通常の勤務時間外における勤務としてこれらの勤務を行った者に限る。)に対し、これらの勤務をすることにより支給する食事については、課税しなくて差し支えない。(昭50直法6-4、直所3-8改正)36-38により評価した食事の価額とは、所得税基本通達36-38に次のように記載されています。使用者が役員又は使用人に対し支給する食事については、次に掲げる区分に応じ、それぞれ次に掲げる金額により評価する。(昭50直法6-4、直所3-8改正)使用者が調理して支給する食事その食事の材料等に要する直接費の額に相当する金額使用者が購入して支給する食事その食事の購入価額に相当する金額3.消費税の取り扱い使用者の負担額(食事の価額から徴収した金額を控除した残額)が限度額を超えるかどうかは、消費税(地方消費税含む)の額を除いた金額により判定することとされています(平元直法6-1「消費税法等の施行に伴う源泉所得税の取り扱いについて」(平26課法9-1改正))4.改正後の使用者の負担額の限度額の計算例設例1:①仕出し弁当による一カ月の金額(702円×22日)15,444円消費税8%込みの金額②職員からの徴収金額7,722円50%相当額③使用者負担額①-②=7,722円④③÷1.08=7,150円<限度額7,500円∴非課税扱い理由職員の負担が50%以上であり、かつ使用者負担額が7,500円を超えていない。設例2:①ケータリングで社内調理による一カ月の金額(770円×22日)16,940円消費税10%込みの金額②職員からの徴収金額8,470円50%相当額③使用者負担額①-②=8,470円④③÷1.1=7,7000円>限度額7,500円∴課税扱い理由職員の負担は50%以上であるが、使用者負担額が7,500円を超えている。この場合注意すべきは、7,700円が給与課税となることです(限度額を超えた分ということではありません。)非課税とするには、職員からの徴収額を50%相当額の8,470円ではなく8,690円にしなくてはなりません。5.現物支給の範囲食事の支給に代えて現金支給にすると要件を満たさないことになりますが、例えば食事チケットや食事カードなどは現物支給とされています。6.深夜勤務者への食事支給に代えて現金支給する場合の限度額の改正深夜勤務者には夜食の支給ができないために、食事を支給するのではなく現金で食事代の補助をする場合には、1食当たり650円(改正前は300円)以下の支給額であれば課税されません(消費税及び地方消費税を除いた金額です)。超える場合には補助した全額が給与として課税されます。なお、現金支給ではなく、残業または宿日直を行うときに支給する食事については、上述した所得税基本通達36-24によって、食事代を徴収しなくても給与として課税しなくて差し支えないことになっています。提供:税経システム研究所
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2026/04/22 経営・運営公益法人
新公益法人制度と会計(第7回)
新公益法人制度と会計について、前回は新法と旧法の算定方法について記載させて頂きました。第7回では、引き続き中期的収支均衡の過去の剰余金・欠損額との通算等の内容について解説させて頂きます。中期的収支均衡を図るべき期間は5年間となり、発生から5年間を超える残存剰余額がなければ、当該中期的収支均衡が図られていることになります(新認定法規則15、21)。【通常の算定方法の例】ア.【当該事業年度の収支の算定】収入額100≧費用額80の場合年度剰余額20=収入額100-費用額80収入額100≦費用額110の場合年度欠損額10=費用額110-収入額100※10を0とすることができます(新認定法規則16②但書)。≪収入額と費用額の構成≫注1経常収益及び経常費用は、一般純資産に係るものに限ります。また、費用額について、公益目的充実資金の取崩し又は剰余金の解消策により取得した公益目的保有財産に係る減価償却費の額を除きます。注2公益充実資金の取崩額は、公益目的保有財産の取得・改良に充てた額を除きます。注3収益事業等の利益は、管理費のうち収益事業等に按分されるものを除きます。また、収益事業等を行う公益法人に限ります。イ.【過去の剰余額5年・欠損額4年の通算】当該事業年度に年度剰余額が生じた場合A過年度残存欠損額がない(通算する過去の赤字がない)場合暫定残存剰余額=年度剰余額B過年度残存欠損額1000≧年度剰余額500の場合暫定残存剰余額0=年度剰余額500-過年度残存欠損額1000(残損500)※残損は法令用語ではありません。C過年度残存欠損額1000<年度剰余額1200の場合暫定残存剰余額200=年度剰余額1200-過年度残存欠損額1000当該事業年度に年度欠損額が生じた場合A過年度残存剰余額がない(解消する過去の黒字がない)場合残存欠損額=年度欠損額B過年度残存剰余額1000≧年度欠損額500の場合残存欠損額0=年度欠損額500-過年度残存剰余額1000(残益500)※残益は法令用語ではありません。C過年度残存剰余額1000<年度欠損額1200の場合残存欠損額200=年度欠損額1200-過年度残存剰余額1000ウ.【剰余額の解消策】公益目的保有財産の取得又は改良一定の場合の借入に係る元本返済令和2年度及び令和3年度新型コロナウイルス感染症の感染拡大に係るものその他行政庁の確認を得た支出エ.【残存剰余額等の算定】年度欠損額及び解消額の控除については、過年度残存剰余額のうち発生年度の古いものから過年度残存剰余額を上限に順に控除することになります。次回も引き続き、中期的均衡についてご説明させて頂きます。提供:税経システム研究所
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2026/04/15 法人税
知っていて損はない適格要件が2つの組織再編手法~適格現物分配とその活用例~
私は昨年、組織再編手法の中の「会社分割」を使った事業承継の解説を2回行いました。今回は、組織再編シリーズ3弾目として、適格要件が2つしかない「現物分配」を取り上げることにします。組織再編制度を大企業向けの制度とか、自社等には関係ない制度とは思わずに、この制度を少しでも理解していただけるよう、前回までと同様に制度の概要と具体的な活用例を簡潔に解説してみたいと思います。1制度の概要等(1)現物分配の意義等現物分配とは、法人がその株主等に対し、剰余金の配当等や解散による残余財産の分配等の事由により、金銭以外の資産の交付をすることをいい(法人税法2条12号の5の2)、現物分配により有する資産の移転を行った法人を現物分配法人(同条号)、現物分配により現物分配法人から資産の移転を受けた法人を被現物分配法人といいます(法人税法2条12号の5の3)。(2)適格要件帳簿価額(簿価)での移転が可能となる適格現物分配とは、①内国法人を現物分配法人とする現物分配であり、②その現物分配により資産の移転を受ける者がその現物分配の直前において当該内国法人との間に完全支配関係がある内国法人(普通法人又は協同組合等に限る。)のみであるものです(法人税法2条12号の15)。したがって、要件はこの2つのみで、組織再編後においても、当事者間の完全支配関係の継続を求める「完全支配関係継続要件」等といった要件は課されていません。(3)適格現物分配の課税関係イ現物分配法人適格現物分配を行った場合、剰余金の配当として、株主等に交付する資産のその適格現物分配の直前の帳簿価額の合計額(注1)を、利益積立金額から減算(法人税法施行令9条8号)するとともに、適格現物分配により移転をした資産のその適格現物分配の直前の帳簿価額による譲渡をしたものとして、その内国法人の各事業年度の所得の金額を計算することになります(法人税法62条の5第3項)。源泉徴収については、所得税法第24条に規定する配当等とされています(所得税法174条1項2号、212条3項)が、適格現物分配が同条の配当等の範囲から除かれています(同法24条1項)(注2)ので行う必要はありません。仮に、移転する資産の帳簿価額を150万円とすると次のような仕訳となります。(借方)(貸方)(利益積立金額)150万円(資産)150万円ロ被現物分配法人適格現物分配の場合、被現物分配法人が受け取る配当等について、受取配当等の益金不算入の対象から除かれていますが(法人税法23条1項)、別途、内国法人が適格現物分配により資産の交付を受けたことにより生ずる収益の額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金不算入とされ(法人税法62条の5第4項)、交付を受けた資産の現物分配直前の帳簿価額相当額が利益積立金額に加算とされます(法人税法施行令9条4号)。また、適格現物分配により、資産の移転を受けた場合には、その移転を受けた資産の適格現物分配の直前の帳簿価額による譲渡を受けたものとされます(法人税法施行令123条の6第1項)。仮に、移転を受けた資産の帳簿価額を150万円とすると次のような仕訳になります。(借方)(貸方)(資産)150万円(利益積立金額)150万円2活用例(1)事例の概要A社は、持株会社であり、その運営費はA社が完全支配する内国法人B社からの配当で賄っています。そのため、A社には、税務上、毎期運営費相当の欠損金が生じ、繰越欠損金が使用されないままとなっています。今般、A社はこの繰越欠損金が期限切れを迎えることから、その対応を考えていますが、経営方針として子会社等との合併は考えていません。なお、B社には含み益のある資産があります。(2)検討イ完全子法人からの現物分配の検討現物分配には、前述のとおり、法人がその株主等に対し剰余金の配当等により金銭以外の資産の交付をすることが含まれています。したがって、現物分配法人が含み益のある資産を現物配当することも該当することになり、前述した2つの要件を満たすことで、帳簿価額での移転が可能となります。この事例の場合、現物分配を行うB社は内国法人であり、現物分配の直前における被現物分配法人であるA社とB社との間に完全支配関係があることから、適格現物分配に該当することになります。ロ現物分配後に被現物分配法人が現物分配で取得した資産を譲渡した場合現物分配後に被現物分配法人が現物分配資産を譲渡した場合には、基本的に被現物分配法人において譲渡損益が生じることになります。しかし、被現物分配法人が現物分配資産を譲渡しても適格要件には影響はありません。したがって、本事例の場合、A社が適格現物分配で取得した資産をその後に譲渡したとしても、現物分配自体が非適格現物分配(時価での譲渡)としてB社に譲渡損益が生じることはありません。なお、A社においては、適格現物分配で取得した資産の譲渡による譲渡益が生じることになりますが、繰越欠損金を有するのであれば、繰越控除できることになります。<注釈>剰余金の配当が資本剰余金を原資とするなど、みなし配当事由に該当する場合には、みなし配当の額とされる部分の金額従前は、100%のグループ関係にある完全子法人から親法人が受ける配当については、その支払い時に源泉徴収が行われ、その源泉徴収された所得税額等は、親法人の確定申告において税額控除される仕組みになっていました。一方で、完全子法人から受ける配当については、親法人の法人税の算定にあたり、全額を益金不算入とすることが認められており、法人税が課されないにもかかわらず源泉徴収の対象とされることについて、会計検査院から効率性、有効性等を高める検討を行うべきとの指摘があり、令和4年改正で源泉徴収を行わない改正がされ、令和5年10月1日以後に支払いを受けるべき配当について適用されました。提供:税経システム研究所
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2026/04/08 地方税
不動産の保有と税金
不動産を保有する場合にかかる税金には、固定資産税、都市計画税などがあります。1.固定資産税固定資産税は、土地・家屋および事業用償却資産について課税される税金で、毎年1月1日現在の所有者が納税することになります。固定資産税の税額は、固定資産税評価額(土地は負担調整率で調整した金額)に税率を掛けた金額です。固定資産税の標準税率は1.4%で、各市町村が条例で定めます。土地と家屋の固定資産税評価額は、基準年度(昭和33年度から3年目ごとの年度で、令和6年度がこれに該当する)ごとに市町村が評価決定し、課税台帳に登録したもので、これが原則として3年間据え置かれます。なお、毎年4月1日から4月20日またはその年度の最初の納期限の日のいずれか遅い日までの間に、固定資産税の納税者が本人の土地や家屋と他の資産の評価額を比較することができるように、土地の所有者は土地価格等縦覧帳簿、家屋の所有者は家屋価格等縦覧帳簿を縦覧することができます。借地人・借家人などについても閲覧制度の対象とされます。なお、固定資産税台帳に登録された事項について不服がある場合には、納税通知書の交付を受けた日後60日以内に不服審査請求ができます。固定資産税・都市計画税は、課税標準額が土地の場合30万円未満、建物の場合20万円未満(令和9年以後は30万円未満)であれば原則として課税されません。また、固定資産税・都市計画税は、市町村から送られてくる納税通知書により、原則として4月、7月、12月と翌年2月の4回に分けて一緒に納付することになります。2.都市計画税都市計画税は、都市計画区域のうち市街化区域内などに土地・家屋を所有する場合に0.3%を限度として市町村の条例で定められた税率により課税されます。3.住宅用地の特例・新築住宅(建物)の特例住宅用地については課税標準の特例があり、一般の住宅用地の課税標準額は固定資産税評価額の3分の1(都市計画税は3分の2)とされ、小規模住宅用地(住宅一戸につき200m²までの部分の住宅用地)の課税標準額は固定資産税評価額の6分の1(都市計画税は3分の1)とされます。また、床面積が40m²以上240m²以下の新築住宅等については、新たに固定資産税が課税されることになった年から3年間(中高層耐火建築物は5年間)に限り、1戸あたり120m²までの部分に係る税額の2分の1が軽減されます。提供:税経システム研究所
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2026/04/01 所得税
相続と所得税 第32回 準確定申告における所得控除
所得税は、毎年1月1日から12月31日までの1年間に生じた所得について計算し、その所得金額に対する税額を算出して、原則として翌年の3月15日までに申告と納税をする。しかし、年の途中で死亡した人の場合は、相続人等が1月1日から死亡した日までに確定した所得金額および税額を計算して、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に申告と納税をしなければならない。この準確定申告における所得税の税額算定の過程における所得控除の取扱いについてみていく。1.所得控除の種類所得控除とは、所得税額を計算するうえで、社会政策上の要請によるもの、各納税者の個人的事情への考慮や最低生活費を保障するためのものなど、税負担面での調整を行う趣旨から設けられている。所得税等の金額は、10種類の所得金額より、所得控除の金額の合計額を差し引いた課税所得金額に対して税率等を乗じて、算定される。所得控除の種類は次のとおりである。区分種類担税力への影響を考慮するためのもの雑損控除、医療費控除社会政策上の要請によるもの社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除、寄附金控除個人的事情を考慮するためのもの障害者控除、寡婦控除、ひとり親控除、勤労学生控除最低生活費を保障するためのもの配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、特定親族特別控除基礎控除(注)日本国内に住所がないなど、いわゆる非居住者が適用できる所得控除は、雑損控除、寄附金控除、基礎控除の3種類である。2.準確定申告における主な所得控除の取扱い(1)医療費控除医療費控除は、居住者が、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族の医療費を支払った場合に、一定の金額が控除される。医療費控除の対象となる金額は、「その年中に支払った医療費」である。医療費控除は、担税力への影響を考慮するという趣旨で設けられた所得控除なので、その年中に現実に支払った医療費が対象であり、未払いとなっている医療費は現実に支払われるまでは医療費控除の対象にはならない。したがって、被相続人の準確定申告において、医療費控除の対象となるのは、死亡の日までに被相続人が支払った医療費である。死亡後に相続人等が支払ったものは、たとえ相続財産で支払われたものであっても、被相続人の準確定申告において、医療費控除の対象に含まれない。(2)社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除社会保険料控除は、居住者が、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族の負担すべき社会保険料を支払った場合、または給料から控除される場合に、控除される。小規模企業共済等掛金控除は、居住者が、小規模企業共済等掛金を支払った場合に、控除される。生命保険料控除は、居住者が、生命保険契約、介護医療保険契約及び個人年金保険契約に係る保険料又は掛金等を支払った場合に、控除される。地震保険料控除は、居住者が、地震等により一定の資産について生じた損失の額を補てんする保険金等が支払われる損害保険契約等に係る地震等損害部分の保険料等を支払った場合に、控除される。上記のいずれの所得控除も対象となるのは、居住者が支払った保険料等の額である。したがって、被相続人の準確定申告において、上記の所得控除の対象となるのは、死亡の日までに被相続人が支払った保険料等である。(3)寄附金控除寄附金控除は、居住者が、特定寄付金を支出した場合に、一定の金額が控除される。被相続人の準確定申告において、寄附金控除の対象となるのは、死亡の日までに被相続人が支出した特定寄附金である。(4)被相続人における障害者控除、寡婦控除、ひとり親控除、勤労学生控除等障害者控除、寡婦控除、ひとり親控除、勤労学生控除は、個人的事情を考慮するという趣旨で設けられた所得控除である。被相続人の準確定申告において、本人が、上記の所得控除に該当するかどうかの判定は、被相続人の死亡した時の現況によるとされる。(5)被相続人の配偶者や親族等に係る配偶者控除、扶養控除等居住者の親族等が同一生計配偶者や、扶養親族等に該当するか、その判定における要件の要素は、①居住者と親族等の関係、②親族等の合計所得金額の2つである。居住者と親族等の関係居住者との「親族関係」はどうか→親族は6親等内の血族と3親等内の姻族、また里子、養護老人などであるか居住者と「生計を一にする関係」であるか→生計一の要件に該当するか親族等の「合計所得金額」→控除対象の要件に該当するか同一生計配偶者とは、居住者と①生計を一にする①配偶者(青色事業専従者として給与の支払いを受ける者及び白色事業専従者を除く)で、②合計所得金額が58万円以下の者をいう。扶養親族は、居住者と①生計を一にする①親族(青色事業専従者として給与の支払いを受ける者及び白色事業専従者を除く)で、②合計所得金額が58万円以下の者をいう。被相続人の準確定申告において、配偶者その他の親族等が、被相続人の同一生計配偶者、配偶者特別控除に規定する生計を一にする配偶者、扶養親族、特定親族に該当するかどうかの判定は、次のとおりである。①「親族関係」および「生計を一にする関係」の判定の時期親族等が、要件に該当する親族関係にあったかどうか、および、被相続人と生計を一にしていたかどうかは、被相続人の死亡時の現況により判定する。②親族等の「合計所得金額」の判定親族等が、被相続人の同一生計配偶者、配偶者特別控除に規定する生計を一にする配偶者、扶養親族、特定親族に該当する合計所得金額であるかどうかは、被相続人の死亡の時の現況により見積もったその年1月1日から12月31日までの親族等の合計所得金額により判定する。以上、年の途中で死亡した者の準確定申告における所得控除の取扱いをまとめると、次のとおりである。所得控除の種類条文所得控除の取扱い雑損控除所得税法72条死亡の日までに生じた損失の額、及び雑損控除の対象となる雑損失の範囲に掲げる支出の額を基礎として計算する。医療費控除所得税法73条死亡した者が、死亡の日までに支払った医療費の額を基礎として計算する。社会保険料控除所得税法74条死亡した者が、死亡の日までに支払った保険料や掛金等を基礎として計算する。小規企業共済等掛金控除所得税法75条生命保険料控除所得税法76条地震保険料控除所得税法77条寄附金控除所得税法78条死亡した者が、死亡の日までに支出した特定寄附金の額の合計額を基礎として計算する。所得控除の種類条文・通達所得控除の取扱い死亡した者障害者控除寡婦控除ひとり親控除勤労学生控除所得税法85条1項死亡した者が、特別障害者若しくはその他の障害者、寡婦、ひとり親、勤労学生に該当するかは、死亡の時の現況で判定する。死亡した者の親族等配偶者控除配偶者特別控除扶養控除特定親族特別控除所得税基本通達85-1(1)【生計一及び親族関係の要件】死亡した者の親族等が、死亡した者と生計を一、及び親族関係に該当するかは、死亡の時の現況で判定する。所得税基本通達85-1(2)【親族等の合計所得金額の要件】死亡した者の親族等が、控除対象となる扶養親族等に該当するかは、死亡の時の現況により見積もったその年の1月1日から12月31日までの当該親族等の合計所得金額により判定する。【参考文献】国税庁HP『所得税法(基礎編)令和7年度版』税務大学校提供:税経システム研究所
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2026/03/25 消費税
消費税の納税義務判定のポイント解説(第28回) 「『2割特例』と消費税の納税義務判定との関係」
1.「2割特例」と消費税の納税義務判定との関係2割特例とは、インボイスの登録をしている事業者(適格請求書発行事業者)について、インボイス登録を行わなければ免税事業者であった課税期間を対象に、事務負担および税負担の軽減を目的として設けられた、税額計算の特例措置です。この特例は、その趣旨に合致する課税期間に限定して適用されるため、適用の可否の判定は、これまで解説してきた消費税の納税義務判定と重なる部分が多くあります。2割特例が適用できる課税期間かどうかの判定に当たって、6つの判定ポイントを整理したフローチャートを作成しましたので、判断の目安としてください。このフローチャートの判定ポイントのうち、3から5については、本リポートでこれまで解説してきた納税義務判定により課税事業者になる場合に該当します。これらに該当する場合には、原則として2割特例を適用することはできません。ただし、この中には、例外的に2割特例の適用が認められるケースが2つあるため、以下で解説します。2.注意が必要な「2つの例外」(1)「課税事業者選択届出書」を提出している場合(判定ポイント4)「課税事業者選択届出書」を提出している場合であっても、2割特例の適用を受けることができない課税期間は、次の①および②の2つに限定されます。令和5年10月1日前(令和5年9月30日まで)の日を含む課税期間調整対象固定資産を取得した場合に適用される、いわゆる「3年縛り」の対象となる課税期間①についてはインボイス制度導入時のみに適用される制限であるため、現在、実務上問題となるのは②の課税期間のみです。②の「3年縛り」が適用される課税期間の詳細については、第8回を参照してください。したがって、これらのケースに該当しない限り、「課税事業者選択届出書」を提出しているという理由のみで、2割特例の適用が否定されることはありません。(2)「その年に相続があった場合の納税義務の免除の特例」の適用を受ける場合(判定ポイント5)相続があった場合の納税義務の免除の特例は、その年に相続があった場合のほか、前年又は前々年に相続があった場合にも適用されます。これらの特例の適用を受ける課税期間においては、相続人はインボイス登録を行っていなかったとしても課税事業者となるため、原則として2割特例の適用を受けることはできません。ただし、「その年に相続があった場合の納税義務の免除の特例」の適用を受ける場合でも、例外的に2割特例の適用が認められるケースがあります。それは、相続人が相続のあった年において、相続よりも前に自らインボイス登録を行っていた場合です。本来「その年に相続があった場合」および「前年又は前々年に相続があった場合」のいずれの特例が適用される課税期間においても、相続人はインボイス登録の有無にかかわらず課税事業者となるため、2割特例の適用は不可と考えられます。しかし、相続人が相続より前から事業を行い、自らの判断でインボイス登録を行っていた課税期間において、予期せぬ相続により「その年に相続があった場合の納税義務の免除の特例」が適用され、結果として2割特例の適用が受けられなくなると、相続人に大きな負担を課すことになります。このため、このケースに限り2割特例の適用が認められており、フローチャートの(判定ポイント5)は、この点に関する判定を行うものです。3.2割特例に関する令和8年度税制改正2割特例は、フローチャートの(判定ポイント2)にあるように令和8年9月30日までの日の属する課税期間を適用対象としていますが、令和8年度税制改正により、個人事業者に限って適用期間が2年間延長され、3割特例とすることが予定されています。2割特例は、インボイス制度への対応に伴い新たに課税事業者となった事業者の負担軽減を目的とした制度であり、その適用対象となる課税期間は限定されています。そのため、2割特例の適用可否については、単にインボイス登録の有無のみで判断するのではなく、消費税の納税義務判定との関係を踏まえて検討することが不可欠です。また、令和8年度税制改正により、個人事業者に限って適用対象期間および制度内容が変更される予定です。実務においては、制度の趣旨および最新の法令・通達等を踏まえた上で、課税期間ごとに適用の可否を慎重に判断することが重要といえます。提供:税経システム研究所
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2026/03/19 法人税
令和8年度税制改正大綱で導入される「企業グループ間の取引に係る書類保存の特例の創設」の解説
はじめに昨年末に閣議決定された「令和8年度税制改正の大綱」(以下、「令和8年度大綱」といいます。)70ページに、「企業グループ間の取引に係る書類保存の特例の創設」(以下、「本特例」といいます。)という耳慣れない改正項目があります。これは、令和8年度税制改正大綱の法人税法改正部分の「4公平かつ円滑な納税のための環境整備」の一環として創設されるものです。この制度は、中小企業であっても親会社や子会社を持つ法人には対象となる制度であり、場合によっては青色申告の承認取消のリスクがあります。なお、本特例は、実質的には国際課税の中の移転価格税制から多くの考え方を借用する制度であり、多くの税理士には馴染みのないものです。以下、概略を説明いたします。1.企業グループ間の取引に係る書類保存の特例の創設の趣旨近年、企業活動のグローバル化やグループ経営の深化に伴い、企業グループ内で行われる取引は複雑化しています。特に、無形資産の利用や役務提供(サービス)といった取引においては、形のある物品の売買とは異なり、その実態や対価の妥当性を外部から検証することが容易ではありません。これを簡単に言い換えると、次のようになります。昨今、いわゆるシェアードサービス会社を設置して、経理、人事、給与などの管理業務を専門に担わせる会社が増えています。一方、これまでの法人税法では、会社法に基づいて「各法人がそれぞれの拠点で書類を保存する」ことが原則でした。また、電子データの場合も、各法人が管理権限を持つ形で保存・運用することが求められ、システム構築や運用コストが各社に分散して発生していました。各子会社にITリテラシーや設備投資の差がある場合、グループ全体でのDX推進の足かせとなっていた可能性があります。本特例の目的は、企業グループ間で行われる特定の取引について、その実態と対価の算定根拠を明確化することにあります。具体的には、通常の取引書類に上記の明細が記載されていない場合に、それを補完する書類の作成と保存を義務付けることで、取引の透明性を確保し、適正な申告と納税を担保することを目的としています。これにより、税務当局が取引の実態を正確に把握できる環境を整備し、公平な課税を実現しようとするものです。2.本特例の概要(1)制度の基本構造内国法人が、その「関連者」との間で「特定取引」を行った場合において、その取引に関して保存されている「取引関連書類等」に、以下の事項の記載や記録がないときは、その記載又は記録がない事項を明らかにする書類(電磁的記録を含む)を取得又は作成し、かつ、これを保存しなければならないこととされます。不足している場合に補充が必要な事項:その取引に関する資産又は役務の提供の明細その取引において内国法人が支払うこととなる対価の額の計算の明細その他、その取引に係る対価の額を算定するために必要な事項(2)関連者とは誰のことを言うのか「関連者」とは、移転価格税制における関連者と同様の基準により判定する、とされています。移転価格税制は、内国法人が国外関連者との間で行う取引の価格が独立当事者間における価格と同じであるか否かをチェックする税制です。要するに、これまで国外関連者に適用していた制度を国内関連者にも適用しようとするものです。そこで、出資割合が50パーセント以上の子会社などを持っていれば、中小企業でも本特例の対象になる場合が出てきます。(3)特定取引とはどのような取引を言うのか本特例の対象となる「特定取引」とは、関連者が内国法人に対して行う取引のうち、販売費及び一般管理費その他の費用の額の基因となるもの(つまり、内国法人側で費用計上されるもの)に限られます。具体的には以下の取引が該当します。①工業所有権等の譲渡又は貸付け関連者が内国法人に対して、以下の資産(工業所有権等)の譲渡、貸付け、または使用させる行為を行う場合。工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式又はこれらに準ずるもの著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む)プログラムの著作物工業所有権等に係る権利の設定など、内国法人にこれらを使用させる行為も含まれます。②役務の提供(サービス)関連者が内国法人に対して行う役務提供のうち、以下のものが対象となります。関連者の経営資源を活用する事業活動内国法人と関連者との契約や協定に基づき、関連者が行う以下の活動。関連者が有する産業、商業又は学術に関する知識経験等の経営資源を活用して行われる研究開発、広告宣伝等の事業活動関連者が有する「専用資産」(専らその内国法人及び関連者の事業の用に供することを目的とする資産)を内国法人に使用させる行為、およびその専用資産の維持・管理経営管理・指導、情報提供関連者が内国法人に対して行う経営の管理や指導、情報の提供等の役務提供であって、関連者が有する産業、商業又は学術に関する知識経験に基づいて行われるもの。上記に類する役務提供上記イおよびロの役務の提供に類するもの。(4)対象となる「取引関連書類等」とは本特例で保存状況が問われる「取引関連書類等」とは、取引に関して受領または交付する以下の書類、またはこれらに通常記載される事項が記録された電磁的記録を指します。注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類これらは、法人税法および法人税に関する法令の規定により保存義務があるものに限られます。(5)違反時のペナルティ(青色申告の承認の取消し)本特例の最も重要な点は、この義務違反に対する制裁措置です。本特例により求められる「記載のない事項を明らかにする書類」の保存が、法令の定めに従って行われていない場合は、「青色申告の承認の取消事由」等となります。青色申告の承認が取り消されると、欠損金の繰越控除や各種の税額控除など、青色申告法人に認められている税制上の特典が受けられなくなるため、企業にとっては極めて重大な影響が生じます。したがって、企業グループにおいては、グループ内取引に係る文書化のルールを再確認し、必要な明細が不足している場合には、速やかに補足資料を作成・保存する体制の整備が求められることになります。3.本特例の特徴と移転価格税制の知識令和8年度大綱を読むと、本特例と移転価格税制との密接な関係を示す記述が確認できます。具体的には、以下の点において移転価格税制の考え方がベースになっている、あるいは強く意識されていると言えます。(1)「関連者」の定義が同一であること本特例の対象となる「関連者」の判定について、令和8年度大綱には明確に「移転価格税制における関連者と同様の基準により判定する」と記載されています。これは、本制度が移転価格税制と同じ枠組み(資本関係や支配関係)にあるグループ企業間取引をターゲットにしていることを直接的に示しています。(2)対象取引の性質(無形資産・役務提供)本特例が対象とする「特定取引」は、工業所有権等の譲渡・貸付けや、経営指導・技術活用などの役務提供(サービス)です。これらは、移転価格税制の実務において、対価の適正性(独立企業間価格)の算定が特に難しく、課税上の論点になりやすい分野と一致しています。(3)求められる書類の内容(対価の算定根拠)保存が義務付けられる内容として、「対価の額の計算の明細」や「対価の額を算定するために必要な事項」が挙げられています。これは、その取引価格がどのように決定されたかを説明するためのものであり、移転価格税制において価格の妥当性を検証するために求められる情報と軌を一にするものです。おわりに本特例は、これまで問題になっていなかった国内関連者を持つ企業であっても、また、中小企業であっても、移転価格税制の適用対象となるグループ内取引について、その実態や対価設定の根拠となる基礎資料の保存を求める制度となっています。そして、青色申告の承認取消しというペナルティを背景に担保させようとする強力な措置であると理解できます。なお、令和8年度大綱では、本特例の適用時期は明示されていません。令和8年度税制改正法案が公表された段階で明らかになると思われます。提供:税経システム研究所
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2026/03/13 法人税税制改正
賃上げ促進税制の改正とその影響~令和8年度税制改正の確認~
賃上げ促進税制は令和6年度に改正が行われ、その適用期限は令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する事業年度、つまり3年間の措置とされていました。ところが、昨年12月26日に閣議決定された令和8年度税制改正大綱において、更なる改正が行われています。今回はその改正の内容とその影響を確認していきたいと思います。1令和6年度の改正の概要令和6年度においては、構造的・持続的な賃上げを実現するため、次のような改正が行われています。大企業向けについては、賃上げ率の要件を維持しつつ、更に高い賃上げ率の要件の創設地域において賃上げと経済の好循環の担い手として期待される中堅企業(原則として従業員数2,000人以下の企業)向け制度の創設中小企業向けについては、5年間の税額控除の繰越措置の創設教育訓練費を増やす企業への上乗せ措置の要件の緩和子育てとの両立支援、女性活躍支援に積極的な企業への上乗せ措置の創設(くるみん、えるぼし認定)2令和8年度改正の内容今回の大綱では、賃上げ促進税制の改正の内容について、以下の記載があります。給与等の支給額が増加した場合の税額控除制度について、次の措置を講ずる(所得税についても同様とする)。全法人向けの措置は、令和8年3月31日をもって廃止する。常時使用する従業員の数が2,000人以下である法人向けの措置は、適用期限(令和9年3月31日)の到来をもって廃止することとし、令和8年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する事業年度について、次の見直しを行う。イ原則の税額控除率(10%)が適用できる場合を、継続雇用者給与等支給額の継続雇用者比較給与等支給額に対する増加割合が4%以上(現行:3%以上)である場合とする。ロ継続雇用者給与等支給額の継続雇用者比較給与等支給額に対する増加割合が4%以上である場合に税額控除率に15%を加算する措置を、その増加割合が5%以上である場合に税額控除率に5%(その増加割合が6%以上である場合には、15%)を加算する措置とする。ハ教育訓練費に係る上乗せ措置は、廃止する。中小企業向けの措置における教育訓練費に係る上乗せ措置は、廃止する。3改正の経緯(基本的考え方)自由民主党・日本維新の会による与党税制改正大綱には、冒頭に「改正の基本的考え方」が示されています。その中で、賃上げ促進税制に係る部分については、次のような記載があります。物価高に負けない構造的・持続的な賃上げを強化する観点から、令和6年度税制改正において、賃上げ促進税制を抜本的に強化した。一方、足元では賃金上昇率がバブル期以来の水準となる高い伸びを示しており、本税制の要件となる水準を大きく上回る状況にある。このように、企業の賃上げをめぐる状況は令和6年度税制改正当時と大いに様変わりしている。こうした状況に鑑み、コーポレートガバナンス改革に基づく人的資本への投資促進の要請や、税制が生産性の高い分野への労働移動を阻害する可能性、中小企業の人手不足感が大企業よりも強い状況等を踏まえ、大企業向け措置については適用期限を待たずに廃止する。中堅企業向け措置については、令和8年度においてはより高い賃上げを促す方向で要件を強化しつつ継続し、適用期限をもって廃止する。一方、中小企業向け措置については、人材獲得競争の中で防衛的賃上げに取り組む企業にも配慮し、令和8年度は現行制度を維持することとし、期限到来時に適用状況等を踏まえ、必要な見直しを検討する。なお、教育訓練費を増加させた場合の上乗せ要件については、教育訓練費の増加額を税額控除額が上回る場合があるという会計検査院の指摘を踏まえ、廃止する。4改正の影響(1)大企業向け措置今回の改正により、令和8年度は制度自体が廃止され、適用が受けられないことになります。自民党税制調査会の資料によれば、令和5年度の大法人の適用件数は5,268件、適用金額は3,337億円となっています。単純に適用金額を適用件数で除して計算すると、1件当たりの税額控除額は約6,334万円となり、金額の大きさがわかります。(2)中堅企業向け措置従業員数が原則2,000人以下の中堅企業向け措置については、適用期限の到来をもって廃止ということですが適用要件が厳しくなります。現行では継続雇用者給与等支給額の増加割合が3%以上であれば適用され、また、4%以上の場合はプラス15%の上乗せ措置が受けられるところ、改正後は4%以上で初めて適用が可能となり、上乗せ措置は5%、6%以上の増加が必要となります。令和6年度において現段階ではどの程度の適用件数、適用金額があったかは不明ですが、いずれにせよ減少するものと考えられます。(3)中小企業向け措置教育訓練費に係る上乗せ措置については、以前は、例えば比較年度の支出がなく、適用年度に1,000円支出があれば適用を受けることができたため、令和6年度改正において、比較年度からの増加割合の要件を緩和する一方で、適用年度の支出額が雇用者給与等支給額の0.05%以上であることが新たに要件に加えられました(大企業、中堅企業も同様)。しかし、今回の改正により、中堅企業のみならず、中小企業向けについても廃止されています。前述の資料における令和5年度の中小法人等の適用件数は249,215件、適用金額は3,941億円となっており、単純に適用金額を適用件数で除して計算すると、1件当たりの税額控除額は約158万円となります。また、令和6年度改正で5年間の繰越控除措置も創設され、適用件数はますます増加すると考えられますが、前述の「基本的な考え方」によれば、令和8年度も現行制度を維持し、期限到来時に適用状況等を踏まえ、必要な見直しを検討することとされています。提供:税経システム研究所
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2026/03/10 法人税税務争訟
同族会社の行為計算の否認規定の解釈適用を巡る課税の混迷とその実相(Ⅰ)~個人(株主)の同族会社に対する無利息融資は異常不合理か?~
1.問題の所在~同族会社の経済的合理的な行為計算の否認を適法とした裁決の法理の問題認識の欠如~税務の専門誌に、個人(株主)が同族会社に対して多額な資金を無利息又は低利息融資(以下「無利息融資等」という。)した事例について、所得税法157条1項が適用されて、適正利率による利息収入が雑所得として課税された課税処分における3件の裁決が紹介されている。いずれの裁決もほぼ同様の理由で、納税者の審査請求が棄却されている。このような事例は多くの税務専門家は承知していると思われるが、、かかる個人(株主)の同族会社に対する無利息融資等のようなケースはかなりあるようで、筆者もその裁決が明かになった後に、税理士から質問を受けたところである。その裁決は、その無利息等の貸付金は81億円の事例と20億円台の事例が2件である。しかしながら、課税処分を適法とした裁決の法理は、同族会社の行為計算の否認の創設の経緯と理由に関しての検証は皆無であり、また、多くの論理的矛盾を来していることについての判断は意図的かどうかはともかく閑却されているということを指摘しておきたい(後述参照)。そこで、ここでは問題の所在に関して簡潔に指摘した上で、本題において具体的な論点の検証を行うこととする。まず、指摘しておきたいことは次の点である。営利法人とは異なり、自然人の個人は消費生活主体と業務生活主体の二つの生活主体を有しているが、いずれの主体においても、個人の情感(感情)に左右され行動する「自然人」としての属性に鑑みれば、構成員(株主)の営利を追求する営利法人とは基本的に異なるという原点の相違があること(「個人的情感による行動」)個人(株主)と同族会社との間の取引のみが否認の対象とされる所得税法157条1項適用は、不平等課税を招来していること(無利息貸付等の利息収入認定の不平等課税の実相)個人(株主)は同族会社を支配管理している当事者であり、同族会社の利益は全て個人(株主)に帰属する関係にあること(同族会社の利益と個人(株主)の利益帰属の同一性)最近の同族会社の行為計算の否認規定による課税処分は、「租税回避の意義」の学説判例を逸脱し、かつ、未発生の要件事実を擬制して措定し課税することは(後述の平和事件判決参照)、実質課税の原則に違背し、かつ、租税負担能力に欠ける実体があること(私法上の法的経済的成果とは異なる要件事実を措定して課税することの疑問)以上簡潔に指摘した問題点は、本裁決事例のような個人(株主)の同族会社に対する無利息融資等に関して、所得税法157条1項を適用し、当該株主は利息収入を得ているとフィクション(擬制)して、雑所得課税の是非の検討における基本的出発点の問題であるにもかかわらず、上記裁決事例はそのほとんどの論点についての検証が欠落している。本稿では、この点にフォーカスして検討を進めたい。そこで、先ず、この論点の内、多くの課税事例の裁決及び判決が犯している④の論点について検証しておきたい。それは私法上の事実認定と税法の解釈適用の原理、原則の原点の問題認識と考えているからである。ちなみに、以上のような問題の課税事例は、個人(株主)が自ら支配する同族会社に対する3,455億円の無利息貸付の利息相当額を雑所得として課税した平和事件判決が原点と考えている。それ以前は、個人に対する私法上発生していない収入に課税するという事例は発生していなかったといってよい。ただ、過大管理料の必要経費控除が所得税法157条1項により否認されたことを受けて、それを回避するために転貸方式が考えられたことから、過大管理料の否認に類似する方法で、株主の同族会社への低額賃料の支払いを適正賃料にまで引き上げて家賃収入を認定した事例の発生が見られる時期でもあった。しかし、いずれの事例も所得税法157条1項が適用される事例でないことは、平和事件判決及びここで取り上げる無利息融資等に対する利息認定と同様に許されないと思料するものである。その理由は後述する。2.事実認定と税法の解釈適用のプロセス(構造)とその誤解~「租税回避」の学説と課税及び裁判実務との齟齬の視座からの検証~税法の解釈適用は、先ず、私法上の法律行為及びそれにより発生した法的、経済的意義(実質・成果)を認定して「事実の確定」が行われ、次に、確定した当該事実に適合する税法の規定を発見又は検認しその税法規定を解釈して確定した課税要件規定に適用するという次の作業が行われる。ここで問題となるのは、この事実認定に基づく「事実の確定」の私法上の事実認定の作業において、税法固有の「租税回避」の意思の存在をどのように位置づけるべきかということである。この点については、「税法上の実質主義・租税回避防止等如何なる理由からでも、私法上全く有効に形成された法律効果自体はこれを絶対に否定できない」(注1)ということに留意すべきである。また、「私法上の法形成を無視して課税を行うことはできない。」、「私法上の取引があり、その後の課税がある。要するに、これだけです。」と論じられているが、これも同旨である(注2)。それは、私法上の法形式が租税負担減少(回避)を意図して選択したものであるとしても、そのことにより、私法上の領域において、納税者が選択した法律行為、経済的成果等が他の法形式又は経済的成果に変動するというものではないということである。それが許される場合があるとすれば、その私法上選択した法律行為等が異常不合理な行為計算である場合であり、その不合理な行為計算を税法上の領域においてのみ、現実に発生している私法上の法的、経済的成果(事実の確定)を得ることができる他の法形式を選択したものと擬制して課税関係を形成する、「租税回避行為の否認」の場合に限定されるということである。それが、ここで論ずる「同族会社の行為計算の否認」規定の適用の原点である。これを図解すると、次のとおりである。ここで、学説の租税回避の意義を紹介しておこう。まず、ドイツ租税法の研究者の清永先生の説を紹介する。<清永敬次京都大学名誉教授説>「税法上①通常のものと考えられている法形式(取引形式)を納税者が選択せず、これとは異なる法形式を選択することによって、②通常の法形式を選択した場合と基本的には同一の経済的効果ないし法的効果を達成しながら、③通常の法形式に結び付けられている租税法上の負担を軽減又は排除するという形をとる。」かかる理解は、金子宏東大名誉教授も同旨である。昭和36年国税通則法税制調査会答申では、「租税回避」とは、このようなう回行為又は多段階行為により租税負担を軽減回避することを租税回避行為と呼ぶこととするとし、「このような場合には、仮装のために採られた法形式にとらわれることなく、通常あるべき取引行為によって得られる経済的実質、しかも、その法形式がどのようなものであれ、その通常生ずべき経済的実質と同じ実体として現に生じているところに即して課税が行なわれるべきこととなる。」と明示している。さらに、ドイツ租税基本法42条では、「(1)法の形成可能性の濫用により租税法律を回避することはできない。(略)第2項に規定する濫用が存在するときは、経済事象に相応する法的形成をした場合に発生するのと同じように、租税請求権が発生する。」とされている。ここで明らかなことは、①合理的行為による経済的成果と、➁異常不合理な行為の経済的成果はほぼ同様の成果を得ていること、➁の不合理な行為計算を選択した納税者の租税負担が、①の合理的な行為計算を選択した納税者の租税負担よりも減免されている場合を「不当に減少している」ということを意味しているということである。けっして、租税負担軽減(租税回避)の意思の存在によって判断されるというものではないことに注意しなければならない(注3)。その上で、かかる「租税回避行為を否認して課税するという意味」は、上記➁の異常不合理な行為計算を選択した納税者に対して、「税務署長の認めるところにより」、「①の合理的行為計算を採用して、現実に顕現されている経済的成果を獲得した」という行為に引き直し」た上で、税法の規定を解釈適用して課税関係が形成されるということである。つまり、納税者が選択した異常不合理な行為計算を他の合理的な行為計算を採用したとフィクションして課税する権限を税務署長に認めたというのが、同族会社の行為計算の否認規定である。しかるに現実の課税実務並びに裁決及び判決はかかる課税関係の法理を放擲し、租税負担減少に着目して、租税負担減少のための行為を否認するという課税が行なわれている。そして、その裁決及び判決はこれを支持するという実体が定着しつつあるというのが悲劇的現象である。このような典型的な事例を取り合えず二つ紹介する。「グループ法人税制外し」を企図して、株式発行会社の総務部長に5%の第三者割当増資を行い、100%支配関係を解消した後、含み損のある保有土地等を譲渡して譲渡損を計上した事案につき、平成28年1月8日裁決は法人税法132条1項を適用して、第三者割当増資を否認して100%支配関係に引き直した上で、その譲渡損の損金算入を否認したものである。地主の個人(株主)が同族会社に相当地代による地上権の設定を行い、その後の相続開始に伴うその相続財産の地上権設定の底地の評価につき、地上権の残存期間が50年を超えていたことから、地上権法定評価額は更地価額の90%相当額、したがって、底地評価額は10%として相続税申告をしたところ、相続税法64条1項を適用して、最近の土地使用は地上権設定は異常であり、賃借権(借地権)が通常であると認定され、「借地権の相当地代通達」により、その底地の評価額は更地価額の80%相当額として否認された平成15年7月30日判決(タインズZ888-0841)。①の裁決は、第三者割当増資が異常不合理であるということについての合理的説示はなく、租税負担軽減のための割当増資であるという視点から現実に発生している法的効果自体の行為の否認である。私法上の法的形成は100%支配から95%支配に変化したものであるから、本来、法人税法132条1項の適用事例ではないことの認識が欠如しているということである。すでに述べたところから明らかなように、第三者割当増資により親子会社の支配関係は100%から95%に変化したものであり、それを租税負担が回避されたという理由で、その真の支配関係95%を100%の支配関係と虚構の法律関係に引き直すことは、同族会社の行為計算の否認規定の射程外であることは、前述した租税回避の学説等からも明白であろう。それを否定するのが正義であるとして裁決するのであれば、上述した疑問点の指摘を払拭した上で合理的根拠を示して判断すべきである。その説示がない限り到底容認することはできない。しかして、これを否認するためには、個別規定を創設して対応する以外にはないということである。現在の裁決及び判決は、このような租税回避の学説とは異なる意味合いとして理解されているというのが、筆者の認識である。そのために、「税務署長は何でもできる」として、現行の同族会社の行為計算の否認規定を批判しておられた右山昌一郎先生のことが思い出される。そして、実際に、かかる裁決及び判決の公開により、本来、課税してはならない事件が判決等により支持されることにより、課税当局はさらに強引な税務執行を実践して課税が行なわれ、税務判決等がこれを支持するという「屋上屋を架す」悪循環が現在の税務争訟の実相である。➁の判決は、すでに論じたことから明らかなように、私法上の法律行為は「相当地代による地上権の設定」であり、それが相続税法64条の行為計算の否認規定により賃借権の設定であると引き直されたものであり、これも地上権の設定が異常不合理とする根拠が不明であることを筆者の鑑定意見書で指摘したところ、国側は、今日では土地使用は賃借権(借地権)の設定が通常であり、地上権の設定は不合理という意味不明の噴飯ものの主張が展開されたのである。この判決は、「租税回避」の意味さえ理解していないものであり、もはや司法における判決とも言い難い内容の判示と言わざるを得ない。3.同族会社の行為計算の否認規定の創設の経緯と趣旨目的(1)所得税・法人税の同族会社の行為計算の否認規定の創設の趣旨目的わが国の税制上、現行税制の所得税法及び法人税法における同族会社の行為計算の否認規定に相当する規定が創設されたのは大正12年の所得税法一部改正においてである。その創設と合わせて、さらに、同族会社と株主等との間における行為の否認規定が創設された(注4)。かかる留保金課税や行為計算の否認規定の創設は、大正9年の所得税法改正により、それまで非課税とされていた配当所得が個人の段階で総合課税の対象とされることとなったことに伴い、その総合課税による配当所得の所得税負担を回避するため、同族関係者からなる家族的な会社(財産保全会社)を組織し、その財産保全会社に利益を留保して配当を行わないこととする事例が続出したほか、財産保全会社と株主等との間に、財産保全会社であるがゆえに行われやすい税負担の軽減を意図とした種々の形態の恣意的な取引(隠れたる利益処分)が見受けられるようになってきた、という当時の状況を背景とするもので、同族会社の留保金課税制度とともに、これらの租税回避行為を防止・是正するための措置として法制化されたものといわれている(注5)。かかる創設の趣旨について、当時の立法当局者の解説では、次のように述べられている。「同族会社の租税回避の常套手段は、個人と法人との所得の計算方法の相違する点を逆用することにあるやに認められる。即ち個人の営利に属せざる一時の所得が非課税とせらるるにかかわらず法人の所得計算上普通所得を構成し、個人の所得計算に於いては所得を得るに必要なる経費の範囲が限定せらるるに反し、法人の所得計算に於てはその範囲が制限せられない等の故に、法人をして積極的又は消極的に、個人に一時的利益を与ふる目的を以て、出捐又は犠牲を為さしむること-最も単純な例を挙ぐれば贈与其の他の無償の行為を以て、事ある毎に法人の利益の減殺を図り、因って個人に利益を与ふる等、容易に租税の回避が企図せらるるのである。茲に於て、税務執行官庁に対し行為計算の否認権が付与せられ、其の否認権運用の目標は専ら此等の贈与又は贈与類似の利益供与の関係を客観的照準に依り是正せんとするにある。」(注6)。このような立法の経緯と趣旨からすれば、同族会社の行為計算の否認規定は、営利法人の同族会社にとって、資産の減少をもたらす贈与(寄附金)等を損金の額に算入し、他方、その贈与を受けた個人(株主)は非課税とされていたことにより(注7)、法人及び所得税の負担を回避する租税回避を防止するために、この否認規定が創設されたということである。この制度創設の趣旨目的に鑑みれば、この租税回避否認規定が否認対象としているのは、営利法人として少数の株主等で構成されている同族会社が経済的不合理な行為計算を行い、同族会社の利益を個人(株主)に移転する場合を課税対象とすることを意図したものである(注8)。したがって、平和事件や本裁決のような個人(株主)がその同族会社に対して、無利息貸付等により個人(株主)の利益を移転することを予定したものでないことは明白であろう。仮に、所得税法157条1項が、本裁決のように、個人(株主)の同族会社に対する利益供与を、その個人(株主)に対して否認して課税するというのであれば、不平等課税の憲法違反の問題が派生することになる。以前、同族会社の行為計算のみ否認の対象とする同族会社の行為計算の否認規定は憲法違反ということが問題となったが、判決は、少数の株主で構成される同族会社にあっては、租税負担回避のために異常不合理な行為計算を行う恐れがあることを理由に、その取扱いの相違は憲法違反とは言えないという判決により結着していたところである。しかるに、本裁決のように、「個人(株主)から同族会社に対する無利息融資等」を異常不合理と認定して、所得税法の同族会社の行為計算の否認規定(所法157①、未発生の利息収入が発生しているとフィクションして課税することは、同規定が、個人(株主)対非同族会社、及び個人対個人の同様の無利息融資等は課税できないこととしていることに照らせば、現行の所得税法157条1項の規定は明らかに不平等課税を招来するものであるから、明らかに憲法違反ということになる。換言すれば、租税回避行為の対象とされる異常不合理の行為の判断基準は、従前、「非同族会社比準説」が採用されていたが、そうであれば、同族会社が無利息融資等を受けて資金調達することは最高の合理的行為であることは論ずるまだもないことである。したがって、この基準によれば租税回避行為に該当する余地はない。ちなみに、この基準はより客観性のある「経済的合理性基準説」が現在の主流とされているが、いずれの基準であっても結論において異なるところはない(注9)。同規定は、個人(株主)が非同族会社に対して、また個人が個人に対して無利息融資等を行った場合には、その貸主の個人には利息認定ができない現行制度の下では、同族会社の個人(株主)に限定して、所得税法157条1項を適用して収受していない利息収入の存在をフィクションして所得税の課税対象とすることは、従前問題とされたことがある不平等課税の憲法違反の問題が復活することになる。また「所得なきところに課税なし」違反、ひいては実質課税の原則に違反することにもなり、課税の合理的根拠は見い出せないことになる。ここでの結論は、所得税法157条1項は、同族会社の無償行為等により個人(株主)に対する利益移転の租税回避を課税対象とするものであり、個人(株主)の同族会社への利益移転を課税の対象とするものではないということである。本裁決及び平和事件判決は、この立法の制度趣旨目的からの検証を捨象したところに、その課税の疑問を払拭することはできないというのが、ここでの結論である。(つづく)<注釈>渡辺伸平「税法上の所得を巡る諸問題」『司法研究報告書』第19輯1号(1967年)28頁)。中里実「3.租税訴訟に有用な理論的フレームワーク」中里実・太田洋・弘中聡浩・宮塚久編『国際租税訴訟の最前線』有斐閣(2010年)56頁・61頁。最近の課税処分及び税務争訟における裁決又は判決は、これとは異なる理解に立って課税され、それが維持されている結果、根本的、合理的な論理が閑却されているということである。それが反省されることもなく、課税実践及び争訟実務に影響を与え定着しつつあるというのが実相であると認識している。大正15年に取引を同族会社と株主間の取引に限定しない旨の改正が行われている。この規定は、基本的には現在の規定と異なるところはない。この点の規定創設の経緯については、村上泰治「同族会社の行為計算否認規定の沿革からの考察」税務大学論叢11号(1977年))228頁に詳しく論じられている。片岡政一『増徴新税税務会計原理』文精社(1935年・昭和10年)283頁以下。なお、山本貞作『営業収益税法釈義』自治館(1927年・昭和2年)378~379頁も同旨。当時の税制の下では、法人からの個人に対する贈与(寄附金)は、法人では損金算入とされ(昭和17年に寄附金課税創設)、贈与を受けた個人は所得源泉説の下では非課税とされていたものである(現在の一時所得は非課税)。それは所得税法157条1項の場合であり、法人の場合には株主に限定されずに、その同族会社以外の法人及び個人に対する行為計算が対象とされる改正が翌年に行われている。金子宏『租税法(24版)』(弘文堂)542頁参照。提供:税経システム研究所
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