税務情報レポート
MJS税経システム研究所・税務システム研究会の顧問・客員研究員による租税を中心とした多彩な研究成果および最新の税制改正および制度や動向、判例研究等に関するリポートです。
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2025/07/04 法人税
棚卸資産の意義及び評価方法の基礎(法人税)
1.概要棚卸資産の期末評価は大体の法人で行う項目であり、実務上もありふれたものですが、中小企業の多くは法定償却方法である「最終仕入原価法による原価法」による評価がほとんどであり、他の評価方法についてはその存在自体も知らないことも多く、また実際は最終仕入原価法とは違う方法で計算しているのにも関わらず、申請等をしていないケースも見かけます。今回は法人税における棚卸資産の意義と評価方法の基本を見ていきたいと思います。(1)棚卸資産の意義及び範囲(法法2二十、法令10)法人税法においては、以下の資産(有価証券及び一定の短期売買商品等を除く。)を棚卸しすべきものとして規定しています。なお、不動産販売業者が販売目的で購入した不動産や、修理業者が修理を施し販売するために取得した固定資産も棚卸資産に含まれます。商品又は製品(副産物及び作業くずを含む。)半製品仕掛品(半成工事を含む。)主要原材料補助原材料消耗品で貯蔵中のもの※上記に掲げる資産に準ずるもの事務用消耗品、作業用消耗品、包装材料、広告宣伝用印刷物、見本品その他これらに準ずる棚卸資産(各事業年度ごとにおおむね一定数量を取得し、かつ、経常的に消費するものに限る。)の取得に要した費用の額を継続してその取得事業年度の損金の額に算入している場合には、取得時の損金算入が認められます。(法基通2-2-15)(2)棚卸資産の評価方法(法令28)期末棚卸資産の評価方法として選定できる方法は大きく「原価法」と「低価法」に分けられ下記の通りとなります。棚卸資産の評価方法の選定をしない場合には、法定評価方法である「最終仕入原価法による原価法」による評価となりますが、実務上は中小企業については、特に選定をしておらず、この「最終仕入原価法による原価法」により計算をしているケースが多いと思われます。下記の通り選定できる方法は複数ありますので、会社の商品特性や事業の状況に応じて適切な選択ができれば経営にも大きく活かすことができるものと考えられます。棚卸資産の評価は、原則としてその種類、品質及び型(種類等)の異なるごとに行うのが基本となります。①原価法期末棚卸資産につき、次に掲げるいずれかの方法により算出した取得価額を期末棚卸資産の評価額とする方法をいいます。イ)個別法期末棚卸資産の全部について、その個々の取得価額をその期末評価額とする方法なお、一の取引で大量に取得され、かつ規格に応じて価額が定められているものについては選定することができません。実際の仕入れ単価を使いますので、商品の流れと棚卸資産の価格を一致させることができますが、棚卸資産の数や種類が多い場合には事務作業が煩雑となります。販売用不動産や宝飾品等個別管理できるものに適しています。ロ)先入先出法期末棚卸資産を種類等の異なるごとに区別し、その種類等の同じものについて、期末から最も近い時に取得をした棚卸資産から順次成るものとみなして計算した取得価額を期末評価額とする方法先に仕入れた商品から先に払い出していると仮定して計算を行いますので、物価上昇時には低い原価が計上され、逆に物価下落時は高い原価が計上されることになります。ハ)総平均法期末棚卸資産を種類等の異なるごとに区別し、その種類等の同じものについて、期首棚卸資産の取得価額の総額と期中取得棚卸資産の取得価額の総額との合計額をこれらの総数量で除して計算した価額を期末評価額とする方法計算が簡単に行えますが、期の最後の仕入まで平均単価が算出できないため、コスト把握がしづらくなります。月別総平均法、6月ごと総平均法も認められています(法基通5-2-3、5-2-3の2)ニ)移動平均法期末棚卸資産を種類等の異なるごとに区別し、その種類等の同じものについて、棚卸資産を取得した都度、その時点の平均単価を計算し、これを期末まで繰り返していき、期末に最も近い時において算定された平均単価をその期末評価額とする方法仕入ごとに平均単価を算定していきますのでタイムリーな原価把握が可能ですが、事務作業は繁雑となります。月別移動平均法は認められますが、6月ごと移動平均法は認められません(法基通5-2-3、5-2-3の2)ホ)最終仕入原価法期末棚卸資産を種類等の異なるごとに区別し、その種類等の同じものについて、期末に最も近い時に取得をした1単位当たりの取得価額をその期末評価額とする方法最後に仕入れた単価のみで計算するため実務事務は簡単ですが、仕入れ単価の変動が大きい時には適切な価格反映がされないことになります。上記の通り法定評価方法であり、実務上多くの中小企業で使われている方法です。へ)売価還元法期末棚卸資産をその種類等又は通常の差益の率※の異なるごとに区別し、その種類等又は通常の差益の率の同じものについて、下記算式で計算した金額をその期末評価額とする方法をいいます。なお、種類の著しく異なるものを除き、通常の差益の率がおおむね同じ棚卸資産はこれをその計算上の一区分とすることができます。(法基通5-2-5)また、製造業を営む法人が、原価計算を行わないため半製品及び仕掛品について製造工程に応じて製品売価の何割として評価する場合のその評価の方法は、売価還元法に該当するものとされます。(法基通5-2-4)多品目を扱う小売業や原価計算を行っていない製造業においてこの売価還元法が採用されているケースが多いです。税務上の売価還元法と会計上の売価還元法とは相違していますので注意が必要です。差益の率棚卸資産の通常の販売価額のうちにその通常の販売価額からその棚卸資産を取得するために通常要する価額を控除した金額の占める割合【計算式】売価還元法による評価額=期末棚卸資産の通常の販売価額の総額×原価率※「通常の販売価額の総額」は、値引き、割戻し等を行いそれを売上金額から控除しているような場合であっても、値引き、割戻し等を考慮しないところの販売価額の総額によります。(法基通5-2-7)「販売した棚卸資産の対価の総額」は、原則値引き後の金額となりますが、特定の者に対する値引きで一定要件を満たす場合は、値引き額を販売価額に加算できます。(法基通5-2-6)②低価法期末棚卸資産を種類等の異なるごとに区別し、その種類等の同じものについて、原価法のうちいずれかの方法により算出した価額と「当該事業年度終了の時における価額」※とのうちいずれか低い価額をその評価額とする方法低価法の適用により評価損を計上した場合、翌期首に戻し入れて益金算入する必要があります。(洗替え)評価損の計上が可能ですが、原価法の計算と時価の把握の両方を行うことになりますので実務事務負担は大きいものになります。「当該事業年度終了の時における価額」とは当該事業年度終了の時においてその棚卸資産を売却するものとした場合に通常付される価額(棚卸資産の期末時価)をいいます。この棚卸資産の期末時価の算定に当たっては、通常、商品又は製品として売却するものとした場合の売却可能価額から見積追加製造原価(未完成品に限る。)及び見積販売直接経費を控除した正味売却価額によります。(法基通5-2-11)(3)棚卸資産の評価方法の選定と変更(法令29、30)①新設法人設立事業年度に係る確定申告書の提出期限までに、事業の種類ごとに、かつ、商品又は製品(副産物及び作業くずを除く。)、半製品、仕掛品(半成工事を含む。)、主要原材料及び補助原材料その他の棚卸資産の区分ごとに「棚卸資産の評価方法の届出書」を納税地の所轄税務署長に届け出なければなりません。なお、この届出書の提出がない場合には、法定評価方法である「最終仕入原価法による原価法」による評価を行うことになります。②評価方法の変更棚卸資産の評価方法を変更しようとするときは、その新たな評価方法を採用しようとする事業年度開始の日の前日までに、その旨、変更しようとする理由その他一定の事項を記載した「棚卸資産の評価方法の変更承認申請書」を納税地の所轄税務署長に提出し承認を受けなければなりません。なお、申請書の提出があった場合においても、現在の評価方法を採用してから相当期間(3年)を経過していないときや変更する評価方法では所得金額の計算が適正に行われ難いと認められるときは、その申請は却下されます。(4)特別な評価方法(法令28の2)上記の原価法、低価法以外の評価方法により計算する場合には、採用しようとする評価方法の内容、その方法を採用する理由、事業の種類及び資産の区分などを記載した「棚卸資産の特別な評価方法の承認申請書」を納税地の所轄税務署長に提出し、承認を受ける必要があります。承認を受けた場合、承認を受けた日の属する事業年度以後の評価額の計算については、その承認を受けた評価方法を選定することができます。提供:税経システム研究所
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2025/07/02 所得税
相続と所得税 第29回 遺産分割の方法と資産の移転による所得税の取扱い その1
遺産相続は、明治時代に制定された旧民法では、家父長制度のもと、嫡子による家督相続とされていた。現在における民法のルールでは、相続人の間で、均分相続ができるようになっている。これは戦後の日本国憲法のもと、個人の尊厳を重視し、平等をベースとして定められたものである。今回は、遺産相続について、遺産分割の手続き、形式、それに伴い資産が移転したときの所得税の取扱いをみていく。1.遺産分割の実行手続き(1)遺産分割とは相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する(民法896条)。相続人が数人いるときは、相続財産は、その共有に属する(民法898条)。したがって、相続人が数人いるときは、その共同相続人について、共有に属している相続財産を、単有や新たな共有の形に移行させる手続きが行われる。この手続きを遺産分割という。(2)遺産分割の実行のしかた共同相続人の共有に属している相続財産を、単有や新たな共有の形に移行させ、最終取得者を決める遺産分割の手続きの方法には、遺言による分割、協議による分割、調停による分割、審判による分割がある。手続きは次のとおり行われる。はじめに、被相続人の遺言書の有無を確認する。無効ではない遺言書の場合、原則は、遺言書に従って遺産を分割し相続する。遺言書がない場合、遺言書が無効な場合、遺言書によるが遺産分割方法の指定がない場合などは、相続人全員で話し合いによる協議で決める。遺産分割協議が成立をしたら、遺産分割協議書に従って、遺産を分割し相続をする。遺産分割協議を行ったが協議が成立しない場合や、そもそも相続人全員が参加せず遺産分割協議を行うことができない場合などは、家庭裁判所へ遺産分割調停を申し立てる。調停案に相続人全員が同意すれば調停は成立し、調停調書に従って、遺産を分割し相続する。遺産分割調停が成立しない場合は、家庭裁判所の審判へ移行し、審判の決定により、審判の内容に従って、遺産を分割し相続する。家庭裁判所の審判に不服がある場合には、即時抗告ができ、高等裁判所で実質的な最終の審理、判断がなされる。2.遺産分割の方法(1)遺産分割の基準民法では、「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。」と遺産分割の基準を定めている(民法906条)。(2)遺産分割の型式の順序等遺産の分割の型式には、いわゆる現物分割、代償分割、換価分割、共有分割の4つがある。相続人全員による遺産分割協議や調停では、どのような遺産分割の型式によるかは、基本的に相続人全員の合意で決めることができる。相続人全員の合意が得られず、遺産分割協議や調停が成立しない場合、家庭裁判所の審判により決定されるが、それには、遺産分割の型式に優先順序がある。家庭裁判所は、民法第906条を「遺産分割の基準」とし、遺産分割の型式の優先順序は、第一に現物分割、次に必要であれば代償分割、代償分割ができない場合には換価分割が選択され、最終が共有分割である。遺産分割の型式内容現物分割いわゆる現物分割とは、それぞれの遺産をそのまま、共同相続人に分ける方法である。できる限り現物を相続人へ相続させることが望ましいため、基本的な遺産分割の方法となる。代償分割家庭裁判所の審判では、「特別の事情があると認められるときは、遺産の分割方法として、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対する債務を負担させて、現物の分割に代えることができる(家事事件手続法195条)」とされる。このいわゆる代償分割とは、相続開始時の遺産の形態を維持し、現物分割に代える方法として、現物分割の次の順序となる。換価分割家庭裁判所の審判では、「遺産の分割の審判のために必要があると認めるときは、相続人に対し、遺産の全部又は一部を競売することを命ずることができる(家事事件手続法194条1項)」とされる。また、「遺産の分割の審判をするため必要があり、かつ、相当と認めるときは、相続人の意見を聴き、相続人に対し、遺産の全部または一部について任意に売却して換価することを命ずることができる。ただし、共同相続人中に競売によるべき旨の意思を表示した者があるときは、この限りでない(家事事件手続法194条2項)」とされる。このいわゆる換価分割とは、共同相続した相続財産を直接分割の対象とはせず、換価してその対価である金銭を共同相続人間で分割する方法である。現物分割、代償分割ができない場合の方法の順序となる。共有分割共有分割とは、「物権法上の共有」とする分割である。各相続人の持分を決めて共有で分割する方法である。共有分割は問題を先送りし、紛争が生じる可能性があるため最終の順序となる。共有分割になると、民法の共有に関する規定が適用される。3.遺産分割の方法と所得税の取扱い---代償分割による資産の移転遺産分割は、それに伴い、相続人が資産を取得、資産を売却する、など資産の移転が生じる。それら資産の移転に係る所得税の取扱いをみていく。今回は、遺産分割の型式のうち、代償分割によって資産が移転したときの所得税の取扱いとする。(1)代償のために、相続人が交付する資産の移転への課税代償分割は、共同相続人の間で、現物による分割が困難なとき、土地などの細分化の防止、共同相続人のなかの特定の1人に相続させるなどの目的のために用いられる。このとき、代償分割によって現物を取得した相続人は、他の共同相続人に対して債務を負うので、債務の履行にあたり、自分が所有している資産を他の共同相続人へ移転することになる。この資産の移転に係る課税の取扱いは次のとおりである。〔所得税基本通達33-1の5〕遺産の代償分割(現物による遺産の分割に代え共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対する債務を負担させる方法により行う遺産の分割をいう。)により負担した債務が資産の移転を要するものである場合において、その履行として当該資産の移転があったときは、その履行をした者は、その履行をした時においてその時の価額により当該資産を譲渡したこととなる。(下線筆者)債務を履行する相続人が、自ら所有する資産を、他の共同相続人へ交付することは、その資産を他の共同相続人が所有することになり、そこで「資産の移転」が行われる。この資産の移転は、譲渡所得として所得税が課税される。交付した相続人は、債務履行の時の資産の価額に相当する収入が実現されたこととされ、その相当額をもって、債務を消滅させる。したがって、債務履行の時の資産の価額が譲渡所得の収入金額に該当する。共同相続人へ交付される資産の種類資産の移転に対する課税金銭債務の履行が、他の共同相続人へ金銭で行われる場合は、金銭を交付した相続人への課税はない。金銭以外の資産(土地など)債務の履行が、金銭以外の資産(土地など)で行われる場合は、その資産を交付した相続人は、債務を履行した時に、その時の価額により資産を譲渡したことになり、所得税が課税される。(2)資産の取得費①他の共同相続人が、代償として取得する資産の取得費他の共同相続人は、代償という債務の履行があったとき、代償分割により債務を負担した者から、その時の価額により資産を取得することになる。代償として、他の共同相続人が取得する資産の取得費とは、以下のとおりである。〔所得税基本通達38-7〕遺産の代償分割に係る資産の取得費については、次による。(2)代償分割により債務を負担した者から当該債務の履行として取得した資産は、その履行があった時においてその時の価額により取得したこととなる。代償にて交付される資産は、他の共同相続人にとって、相続を機に取得する資産ではあるが、被相続人の遺産ではない。したがって、遺産を相続した相続人が債務を履行した時、つまり、他の共同相続人が交付を受けた資産を取得した時の価額に相当する金額が、共同相続人が所有することになる資産の取得費となる。他の共同相続人が取得する資産の種類取得する資産の取得費金銭代償資産が金銭の場合は、他の共同相続人は金銭そのものを取得することになる。金銭以外の資産(土地など)代償資産が金銭以外の資産(土地など)の場合は、他の共同相続人はその資産が交付された時に、その時の価額により資産を譲受したことになる。②代償により債務を負担した者が、相続により取得した被相続人の遺産の取得費遺産を取得するためにその相続人は、代償として他の共同相続人へ債務に相当する金額を負担する。その債務に相当する金額は、遺産の取得に伴う負担であるが、遺産の取得費となるのか、その取扱いは次のとおりである。〔所得税基本通達38-7〕遺産の代償分割に係る資産の取得費については、次による。(1)代償分割により負担した債務に相当する金額は、当該債務を負担した者が当該代償分割に係る相続により取得した資産の取得費には算入されない。これは、債務を履行する相続人の代償金、つまり債務に相当する金額の取扱いであり、この代償金は、相続税の課税価格の計算上控除されるべきもので、遺産の取得による取得費とはならない。(3)相続財産を譲渡した場合の取得費加算相続により、取得した土地などの財産を、一定期間内に譲渡した場合、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算することができる「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」がある(租税特別措置法39条)。代償分割により取得した相続財産を譲渡するときには、この「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」によって譲渡資産の取得費に相続税額を加算できるが、調整計算が必要になる。〔租税特別措置法通達39-7〕代償金を支払って取得した相続財産を譲渡した場合における措置法第39条の規定(「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」)により譲渡資産の取得費に加算する相続税額についは、次の算式により計算をする。(注)1「確定相続税額」とは、措置法令第25条の16第1項第1号に掲げる相続税額をいい、同条第2項に規定する場合であっては同項の規定による相続税額をいう。(注)2支払代償金については、昭和34年1月28日付直資10「相続税法基本通達の全部改正について」通達11の2-10《代償財産の価額》に定める金額によることに留意する。【参考文献】国税庁HP所得税基本通達逐条解説(一般財団法人大蔵財務協会)譲渡所得・山林所得・株式との譲渡所得等関係租税特別措置法通達逐条解説(一般財団法人大蔵財務協会)司法統計年報(最高裁判所事務総総局)ほか提供:税経システム研究所
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2025/07/01 消費税
令和6年度消費税改正④ 消費税のプラットフォーム課税・金地金等の取得
1.消費税のプラットフォーム課税の創設(1)改正の趣旨デジタルサービス市場の拡大によりプラットフォームを介して多くの国外事業者が国内市場に参入している中で、国外事業者の納めるべき消費税の捕捉や調査・徴収が課題となっています。こうした課題に対し、国内外の事業者間の競争条件の公平性や適正な課税を確保するため、国外事業者が提供するデジタルサービスを対象にプラットフォーム課税を導入することとなりました。(2)改正内容①プラットフォーム課税の概要国外事業者がデジタルプラットフォームを介して行う電気通信利用役務の提供(事業者向け電気通信利用役務の提供に該当するものを除きます。以下「消費者向け電気通信利用役務の提供」といいます。)のうち、下記②の「特定プラットフォーム事業者」を介してその対価を収受するものについては、特定プラットフォーム事業者が行ったものとみなして、特定プラットフォーム事業者が申告・納税を行います(消法15の2①、〔図表1〕参照)。なお、国税庁ホームページでは、「消費税のプラットフォーム課税に関するQ&A(プラットフォーム事業者用)令和6年7月」(以下「プラットフォーム課税Q&A」といいます。)などの資料が公表されています。〔図表1〕消費者向け電気通信利用役務の提供に係る申告納税義務者(出典:国税庁「消費税のプラットフォーム課税について」(令和6年4月))②特定プラットフォーム事業者特定プラットフォーム事業者の指定国税庁長官は、プラットフォーム事業者のその課税期間において、その提供するデジタルプラットフォームを介して国外事業者が日本国内において行う消費者向け電気通信利用役務の提供に係る対価の額のうち、そのプラットフォーム事業者を介して収受するものの合計額が50億円を超える場合には、そのプラットフォーム事業者を「特定プラットフォーム事業者」として指定します。この指定は、「特定プラットフォーム事業者の指定届出書」(以下「指定届出書」といいます。)の提出期限(その提出期限までに指定届出書の提出がない場合は、指定通知を発した日)から6か月を経過する日の属する月の翌月の初日に指定の効力が生じます(消法15の2②、プラットフォーム課税Q&A問14)。特定プラットフォーム事業者の届出上記アの「特定プラットフォーム事業者」に該当する事業者は、その課税期間に係る確定申告書の提出期限までに指定届出書を所轄税務署長を経由して国税庁長官に提出しなければなりません(消法15の2③、プラットフォーム課税Q&A問13)。特定プラットフォーム事業者の公表等国税庁長官は、特定プラットフォーム事業者を指定したときは、その特定プラットフォーム事業者に対してその旨を通知するとともに、国税庁ホームページに次の事項を公表しなければなりません(消法15の2④、消令29⑤、プラットフォーム課税Q&A問14、〔図表2〕参照)。特定プラットフォーム事業者のデジタルプラットフォームの名称特定プラットフォーム事業者の氏名・名称特定プラットフォーム事業者の指定の効力が生ずる年月日なお、通知を受けた特定プラットフォーム事業者は、対象となる国外事業者に対し、プラットフォーム課税の対象となる旨及び対象となる年月日を速やかに通知しなければなりません(消法15の2⑤、プラットフォーム課税Q&A問16)。〔図表2〕特定プラットフォーム事業者名簿特定プラットフォーム事業者の氏名又は名称(日本語)(令和6年12月6日現在)iTunes株式会社アマゾンウェブサービスジャパン合同会社グーグルアジアパシフィックプライベートリミテッド任天堂株式会社(出典:国税庁「特定プラットフォーム事業者名簿」)確定申告書への明細書添付特定プラットフォーム事業者は、プラットフォーム課税の対象となる消費者向け電気通信利用役務の提供の対価の合計額等を記載した明細書を確定申告書に添付しなければなりません(消法15の2⑮、規則11の5⑤、プラットフォーム課税Q&A問17)。(3)用語の説明①電気通信利用役務の提供電気通信利用役務の提供とは、アプリ配信のほか、電子書籍・音楽の配信などの電気通信回線(インターネット等)を介して行われる役務の提供をいいます。②デジタルプラットフォーム「デジタルプラットフォーム」とは、不特定かつ多数の者が利用することを予定して電子計算機を用いた情報処理により構築された場であって、その場を介してその場を提供する者以外の者が消費者向け電気通信利用役務の提供を行うために、その消費者向け電気通信利用役務の提供に係る情報を表示することを常態として不特定かつ多数の者に電気通信回線を介して提供されるものをいい、例えば、アプリストアや電子書籍のオンラインモールなどが該当します(消法15の2①、プラットフォーム課税Q&A問3)。(4)改正時期上記(2)の改正は、令和7年4月1日以後に国内において行われる消費者向け電気通信利用役務の提供について適用します(令和6年改正法附則13⑥)。2.金地金等を取得した場合の事業者免税点制度等の制限(1)改正の趣旨高額特定資産は、一の取引の単位の税抜金額(1,000万円以上)で判定することとされていますが、金又は白金の地金等(以下「金地金等」といいます。)の取引による特例の恣意的な潜脱を防止するため、その課税期間中の金地金等の税抜仕入金額の合計額が200万円以上である場合について、高額特定資産を取得した場合と同じく、事業者免税点制度の適用及び簡易課税制度選択届出書の提出を制限することとなりました。(2)改正内容①取扱い事業者が、消費税の確定申告を本則課税で行う課税期間中に金地金等の課税仕入れを行った場合において、その課税期間中の税抜仕入金額の合計額(12か月換算)が200万円以上であるときは、次のア及びイの取扱いがあります。金地金等の課税仕入れを行った課税期間の翌課税期間から、その課税仕入れを行った課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間については、免税事業者となることはできません(消法12の4③、消令25の5④)。金地金等の課税仕入れを行った課税期間の初日から、同日以後3年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までの期間については、「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出することができません(消法37③五)。(3)届出様式の改訂上記(2)の改正に伴い、次の届出書の様式が改訂されました。高額特定資産の取得等に係る課税事業者である旨の届出書消費税簡易課税制度選択届出書(4)改正時期上記(2)の改正は、令和6年4月1日以後に国内において事業者が行う金地金等の課税仕入れ及び保税地域から引き取られる金地金等について、適用します(平成6年改正法附則13④)。提供:税経システム研究所
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2025/06/25 消費税
消費税の納税義務判定のポイント解説(第24回) 新設法人の納税義務の免除の特例④ インボイスの登録申請
1.新設法人の納税義務の免除の特例とは新設法人の納税義務の免除の特例(以下「新設法人の特例」といいます。)とは、基準期間のない事業年度の期首資本金が1,000万円以上の新設法人(社会福祉法人を除きます。)について、消費税の納税義務を免除しないとする特例です(消法12の2①)。この特例の概要は、消費税の納税義務判定のポイント解説(第22回)「新設法人の納税義務の免除の特例①」を参照してください。今回は、この特例の適用を受ける新設法人がインボイスの登録申請を行う場合の留意点を解説します。2.新設法人がインボイス登録をする場合の特例新たに設立された法人がインボイスの登録申請を行う場合には、新たに設立された法人等の登録時期の特例(以下「登録時期の特例」といいます。)の適用を受けることができます。これは、事業を開始した日の属する課税期間の末日までに、「事業を開始した日の属する課税期間の初日から登録を受けようとする旨」を記載した登録申請書を提出した場合には、その課税期間の初日、つまり法人の設立日にインボイスの登録を受けたものとみなされる特例です(消令70の4、消規26の4、消基通1-4-7、1-4-8)。この特例は、「新設法人の特例」の適用を受けたかどうかに関わらず、全ての新設法人が適用を受けることができます。3月決算法人を例に、取扱いを確認してみましょう。【前提条件】X3年4月1日に資本金1,000万円で設立X3年4月1日(設立日)に遡ってインボイス登録することを希望している【図1】適格請求書発行事業者の登録申請書【1/2】一部抜粋登録申請書【1/2】下段の「事業者区分」のうち、次の2つの欄に☑を入れます。☑「新たに事業を開始した個人事業者又は新たに設立された法人等」☑「事業を開始した日の属する課税期間の初日から登録を受けようとする事業者」その上で、事業を開始した日の属する課税期間の初日(法人の設立日)である「X3年4月1日」を記載します。また、このほかに登録申請書【2/2】中段「B登録要件の確認」にも必要事項を記載します。【図2】「登録時期の特例」の適用を受けた場合の登録日の考え方登録申請書に上記【図1】で解説した「事業を開始した日の属する課税期間の初日から登録を受けようとする旨」を記載し、事業を開始した日の属する課税期間の末日、つまり、設立1期目の末日であるX4年3月31日までに納税地の所轄税務署長に提出します。これにより、事業開始した課税期間の初日(設立日)に遡って登録を受けたものとみなされるため、この法人の登録日はX3年4月1日になります。なお、「登録時期の特例」の適用を受けようとする場合の登録申請書の提出期限は設立1期目の末日(X4年3月31日)であり、確定申告書の提出期限(X4年5月31日)ではないことに注意が必要です。X4年4月1日以降に登録申請書を提出する場合には、設立日に遡ってインボイス登録することはできません。3.新設法人が「登録時期の特例」の適用を受けない場合のインボイス登録「新設法人の特例」の適用を受ける事業者が、上記2で解説した「登録時期の特例」の適用を受けずにインボイス登録をする場合には、インボイスの登録の時期を選ぶことができません。この場合の登録日は、登録申請書の提出後に届く登録通知書で確認をすることになります。登録申請書【2/2】「A免税事業者の確認」には登録希望日を記載する欄がありますが、登録希望日を記載することができるのは、免税事業者である課税期間中に登録をする場合のみです。「新設法人の特例」が適用される期間中は課税事業者であるため、登録希望日を記載する(登録時期を選ぶ)ことはできません。3月決算法人を例に、取扱いを確認してみましょう。【前提条件】X3年4月1日に資本金1,000万円で設立X3年4月1日(設立日)に遡ってインボイス登録することを希望しない設立1期目の期中に登録申請書を提出する【図3】できるだけ適格請求書発行事業者の登録申請書【1/2】一部抜粋登録申請書【1/2】下段の「事業者区分」のうち、次の2つの欄に☑を入れます。☑「新たに事業を開始した個人事業者又は新たに設立された法人等」☑「上記以外の課税事業者」(「新設法人の特例」により課税事業者となるため)また、このほかに登録申請書【2/2】中段「B登録要件の確認」にも必要事項を記載します。【図4】「登録時期の特例」の適用を受けない場合の登録日の考え方「登録時期の特例」の適用を受けない場合には、登録の時期を選ぶことができないため、登録申請書の提出後に届く登録通知書で登録日を確認することになります。なお、【図4】では登録申請書の提出と登録日がいずれも設立1期目になっていますが、登録申請書の提出が期末に近い場合には、登録日が設立2期目の日付になることも考えられます。また、設立1期目中に減資を行わない場合には、設立2期目も「新設法人の特例」の適用により課税事業者になるため、設立2期目中に登録をするときも同様の取扱いになります。国税庁のホームページでは、今回解説をした新設法人のケースも含めて、ケース別に登録申請書の記載方法をフローチャート形式で解説しています。登録申請書を作成する際の参考になります。「相続により適格請求書発行事業者の事業を承継していない個人事業者・法人用」https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shohi/annai/pdf/0022012-012.pdf「相続により適格請求書発行事業者の事業を承継した個人事業者用」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0024009-069_01.pdf提供:税経システム研究所
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2025/06/18 所得税国際税務
国外財産調書の10年
はじめに居住者の方(非永住者の方を除きます。)で、その年の12月31日においてその価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を有する場合には、その国外財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した国外財産調書を、その年の翌年の6月30日までに、住所地等の所轄税務署に提出しなければなりません。そして、国外財産調書の提出が提出期限内にない場合又は提出期限内に提出された国外財産調書に記載すべき国外財産の記載がない場合などに、その国外財産に関して所得税・相続税の申告漏れ(死亡した方に係るものを除きます。)が生じたときは、その国外財産に係る過少申告加算税等が5%加重されます。本稿は、国外財産調書の10年と題して国税庁公表資料を題材として、その提出状況と筆者が考える問題点について述べていきたいと思います。1.国外財産調書の提出状況(1)国外財産調書に基づく国外財産の状況国外財産調書の提出が始まったのは2013年12月31日現在の国外財産からです。執筆日現在、2023年12月31日現在の国外財産の提出状況まで公表されています。これら合計11年分の資料のうち、国外財産の提出状況を図表1にまとめました。【図表1:国外財産調書の提出状況】(出典:国税庁資料に基づいて筆者作成)図表1をご覧いただくと、国外財産調書の提出枚数と国外財産金額が順調に増加していることがわかります。提出枚数は2013年5,539件が2023年には13,243件に、国外財産の合計は2013年2.51兆円が2023年6.49兆円にそれぞれ増加しています。(2)加算税の加重措置件数と増差所得金額の状況国外財産調書制度は、富裕層と呼ばれる納税者が「自主的に」提出することになっています。ただし、富裕層が全員国外財産調書を提出するとは限りません。そこで、国外財産調書を適切に提出した場合加算税の減額措置がある一方で、その逆(国外財産調書を提出しない又は重要な財産を記載していない)には、加算税を加重することとされています。これについて、図表2で加重措置件数と増差所得金額をお示しします。【図表2:加算税の加重措置件数と増差所得金額(単位:億円)】(出典:国税庁資料に基づいて筆者作成)2.国外財産調書の問題点(1)最近の円安をどのように考えるかご案内のように、ロシアによるウクライナ侵攻により、それまで1米ドル=115円程度だった円は大幅に円安になりました。一時は1米ドル=160円を超えるなどして、日本政府は為替介入を行いました。為替については、第2次トランプ政権の関税政策により円高方向ではありますが、引き続き140円台となっています。国外財産調書は円貨で計算することになっているので、円高の時には金額が少なくなる一方、円安の場合は多く表示されます。これを図表1に当てはめてみると、2013年は1米ドル=97.75円、2014年は109.45円でしたが、2022年は144.81円、2023年は141.84円となっています。2013年と2023年を比べると、1.45倍になっています。そうなると、国外財産調書の金額も為替を考慮した方がいいと思います。(2)国際的な株高を考えなくてもいいのか図表1には表示していませんが、国外財産調書のうち有価証券の割合が毎年50%を超えています。具体的は2013年では2.51兆円のうち1.56兆円が有価証券でした。2023年も6.39兆円のうち4.1兆円が有価証券です。2013年に比べると2023年では2.6倍に増えました。有価証券ということは、株式や国債、投資信託などが含まれます。このうち、外国の国債は国外財産に含まれます。これ以外は外国に所在する証券会社等と契約したものが国外財産になります。ちなみに、新NISAで外国株式やオルカン(オールカントリーという投資信託)に投資している方は増えましたが、こちらは国内の証券会社との契約ですので国内財産になります。ここで、米国の代表的指標であるS&P500指数を調べてみました。それによると、2013年は1681だったのが2023年は4769と2.84倍に上昇しました。もちろん、国外財産調書に記載された有価証券がすべてS&Pに投資されたわけではありませんが、海外の金融市場は新型コロナの影響を受けつつも順調に上昇していることはご存知のとおりです。こうなると、国外財産調書の有価証券の金額が2.6倍になったとしても、米国S&Pの伸びと比較すると、ほとんど変わりません。ということは、国外財産調書の提出枚数は順調に増加したものの、(ちょっと乱暴ではありますが)海外金融市場における上昇幅と比較するとそれほど増えているわけではないと言っても過言ではないようです。(3)加算税の加重措置件数は高止まりしている図表2をご覧いただくと、加算税の加重措置件数は2019年には450件ほどでしたが、ここ4年ほどは300件程度です。国外財産調書の提出枚数は順調に増加しているにもかかわらず、加算税の加重措置件数は高止まりしていると考えられます。このことは、制度開始から10年以上経過しているにもかかわらず、未だに国外財産調書を提出していない又は重要な情報を記載していない富裕層が相変わらず一定数いるということです。ここ数年は新型コロナの影響で税務調査は比較的困難な状況にあったことを考えると、引き続き一定の富裕層は国外財産調書を提出していないのではないかと考えられます。もっとも、上述したように最近の海外金融市場における上昇と円安の影響を直接受けて、急に国外財産が5000万円を超えることになった納税者はいるかもしれません。しかし、一般の納税者の感覚からすると、外国の証券会社に一定以上の有価証券を寄託することができる人は、まさに富裕層だからこそ、と思われます。いずれにしても、合計で13,243枚(2023年)しか提出されていない国外財産調書に関して、加重措置件数が300件程度というのでは国外財産調書を真面目に提出している方とそうでない方との公平性が担保できていないのではないでしょうか。まとめ本稿は、国外財産調書の10年と題して、同制度に関する国税庁公表資料を紹介するとともに、その問題点を記載してみました。図表1を見ていただくと、国外財産調書の提出枚数と金額は順調に増加してきました。一方、加算税の加重措置件数は高止まりしているといってもいい状況です。富裕層は相当前から海外のプライベートバンクを利用しています。富裕層は所得金額が高く、納税額も多額になることから、どうしても税金を払いたくないという誘惑にかられます。このような状況下、富裕層に対する適正な課税、特に真面目に国外財産調書を提出している方とそうでない方との公平性を確保することが求められると思います。提供:税経システム研究所
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2025/06/11 相続・贈与税税制改正
相続時精算課税に係る基礎控除の創設と期限後申告における相続時精算課税の適用の可否
1相続時精算課税に係る基礎控除の創設令和5年度税制改正において、相続時精算課税について暦年課税とは別に110万円の基礎控除が創設され(相法21の11の2①、措法70の3の2①)、まず、この基礎控除額を控除した後に、従来の限度額2,500万円の特別控除額を控除することとされました。すでに、令和6年1月1日以後に贈与により取得した財産について適用されています。なお、同一年中に2人以上の特定贈与者からの贈与により財産を取得した場合の基礎控除額110万円は、特定贈与者ごとの贈与税の課税価格で按分することになります(相法21の11の2②)。また、特定贈与者の死亡に係る相続税の課税価格に加算される令和6年1月1日以後に贈与により取得した財産の価額は、基礎控除額を控除した後の残額とされているため(相法21の15①)、相続税の計算の際、基礎控除額部分は対象外となります。【国税庁資料】2相続時精算課税の申告及び届出の確認令和6年1月1日以後に贈与により財産を取得し、新たに相続時精算課税制度の適用を受けようとする受贈者で、この基礎控除後の課税価格がある場合には、贈与を受けた財産に係る申告書の提出期限までに、相続時精算課税選択届出書及び受贈者や特定贈与者の戸籍謄本や抄本など、一定の書類を申告書に添付して提出する必要があります。なお、基礎控除後の課税価格がない場合には、申告義務がないことから、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、相続時精算課税選択届出書、一定の書類を単独で提出しなければなりません(相法21の9②)。相続時精算課税選択届出書(令和6年分以降用)には、3欄に次のような記載欄があります。また、相続時精算課税選択届出書をその提出期限までに提出しなかった場合には、相続時精算課税の適用を受けることはできず、その場合における宥恕規定は設けられていないので注意が必要です(相基通21の9‐3)。3期限後申告における相続時精算課税の適用の可否国税庁は昨年11月27日に、この改正に関係する「質疑応答事例」を3題追加しました。その中に、「相続時精算課税選択届出書を単独で提出した後に贈与税の期限後申告書を提出する場合の相続時精算課税の適用の可否(令和6年1月1日以後の贈与の場合)」というものがあります。照会内容は、期限内に選択届出書は提出しているが、当初は贈与を受けた株式の価額を100万円、つまり相続時精算課税に係る基礎控除額以下と認識していたため、贈与税の申告書は提出していなかったというケースについてです。その後、その株式の価額について評価誤りがあり、正しくは500万円であったことが判明し、基礎控除額を超えたために期限後申告書を提出することとなった場合、相続時精算課税を適用して贈与税額を計算できるかというものです。これに対し、選択届出書を期限内に提出していることから、期限後申告であっても相続時精算課税の適用を受けることは可能ですが、期限内に贈与税の申告書の提出がなかったために、限度額2,500万円の特別控除の適用は受けられないという回答がなされています。相続税法基本通達21の9-3(注)2では、「相続時精算課税選択届出書のみをその提出期限までに提出した場合には、相続時精算課税の適用を受けることができることから、例えば、贈与により財産を取得した者が当該規定に基づいてその提出期限までに相続時精算課税選択届出書のみを提出していた場合において、当該贈与を受けた年分に係る贈与税についての期限後申告書を提出することとなった場合でも、引き続き相続時精算課税の適用を受けることができることに留意する。」とされています。一方で特別控除については、期限内申告書に控除を受ける金額、基礎控除額、前年以前にこの特別控除を適用し控除した金額等の記載がある場合に限り適用されることとなっています(相法21の12②、措規12)。結果として、期限後申告では500万円から基礎控除額110万円を控除した390万円の20%、78万円を納税することになります。提供:税経システム研究所
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2025/06/04 消費税
外国人旅行者向け消費税免税制度の見直し① 「リファンド方式」への改正後の免税店の会計処理
1.「リファンド方式」への改正(1)改正の趣旨外国人旅行者向け消費税免税制度については、不正利用を排除し、免税店が不正の排除のために負担を負うことのない制度とするため、令和8年11月1日以後の免税対象物品の譲渡については、出国時に持出しが確認された場合に免税販売が成立する制度に見直されます。(2)改正内容免税店が、外国人旅行者に対して免税対象物品を譲渡した場合で、その外国人旅行者がその購入日から90日以内に出港地の税関長による確認を受けたときは、その確認をした旨の情報(以下「税関確認情報」といいます。)を免税店において保存することを要件として、その免税対象物品の譲渡について、消費税が免除されます。この改正に伴い、実務上、消費税等相当額を含めた価格で販売し、出国時に持出しが確認された場合に免税店から外国人旅行者に対し消費税等相当額を返金する「リファンド方式」となります。図表1「リファンド方式」のイメージ出典:外国人旅行者向け免税制度の見直し(案)について(財務省・国税庁・経済産業省・観光庁)2025年1月図表2「90日以内の税関確認」のイメージ出典:外国人旅行者向け免税制度の見直し(案)について(財務省・国税庁・経済産業省・観光庁)2025年1月2.免税店の消費税に関する会計処理(1)課税売上げから免税売上げへ振替上記1の「リファンド方式」による免税店の消費税に関する会計処理は、販売時に課税売上げを計上し、税関確認情報を取得後、次のいずれかの方法により、免税売上げに振り替えます。取得の都度、当初の課税売上げを特定して、免税売上げに振り替える方法(個別振替方式)月次等の一定のタイミングで一括して免税売上げに振り替える方法(一括振替方式)なお、外国人旅行者が税関で持出し確認を行わないなどにより、税関確認情報を保存できない場合には、振替処理を行わず、当初のまま課税売上げとなります。(2)設例による仕訳例【設例】A免税店では、食料品以外の商品を販売しています。次のそれぞれの場合の仕訳は、どのようになりますか。課税売上げで販売(税抜経理の場合)外国人旅行者に対し、商品を11,000円(うち消費税等相当額1,000円)で販売しました。外国人旅行者に消費税等相当額が返金された場合(個別振替方式の場合)上記①の取引について、税関確認情報を取得し、保存しました。消費税等相当額1,000円を返金しました。外国人旅行者に消費税等相当額が返金されなかった場合上記①の取引について、免税販売の要件を満たしていますが、外国人旅行者の都合等で返金できないことになり、当事者間の契約により返金不要となりました。上記①の取引について、外国人旅行者が税関で持出し確認を行わないなどにより、税関確認情報を保存できませんでした。【仕訳例】提供:税経システム研究所
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2025/05/28 相続・贈与税
相続開始前7年以内に贈与があった場合における相続税の課税価格への加算額及び贈与税額の控除について
1暦年課税制度における相続前贈与の加算期間の延長相続又は遺贈により財産を取得した者が、その相続開始前7年以内(改正前:3年以内)にその相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合には、その贈与により取得した財産(以下「加算対象贈与財産」とします)の価額(加算対象贈与財産のうち、その相続開始前3年以内に取得した財産以外の財産にあっては、その財産の価額の合計額から100万円を控除した残額)を相続税の課税価格に加算することになりました(相法19)。なお、上記の改正は、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税について適用されています。2令和10年に相続が開始した場合における生前贈与財産に対する取扱いの具体例長女は、父及び母から贈与により下表のように財産を取得しましたが、令和10年10月10日に父が死亡しました。下表の贈与財産について、父の相続税の課税価格に加算される金額及び相続税額から控除される暦年課税分の贈与税額控除の金額はどのようになるでしょうか。なお、長女は下表の贈与財産について、相続時精算課税を選択していません。3加算対象贈与財産は相続税の課税価格に加算相続又は遺贈により財産を取得した者(相続人等)が加算対象期間内に被相続人から暦年課税に係る贈与により財産を取得している場合には、その贈与により取得した加算対象贈与財産の価額は相続税の課税価格に加算されます(相法19①)。なお、加算対象期間は、令和5年度税制改正により、次のように見直しされました(相法19、改正法附則19①~③)。4相続開始前3年以内に取得した財産以外の財産に対する100万円控除令和5年度税制改正により、加算対象贈与財産のうち相続開始前3年以内に取得した財産以外の財産は、総額100万円まで相続税の課税価格に加算されないことになりました(相法19①)。相続開始前3年以内に取得した財産以外の財産の価額の合計額が100万円以下である場合には、その財産を贈与した被相続人の死亡に係る相続税の課税価格に加算される財産の価額はありません(零になります)。この100万円を上限とした控除は、贈与により財産を取得した年分ごとに控除するものでなく、相続開始前3年以内に取得した財産以外の財産の価額の合計額から100万円を上限に控除するものです。5「課された贈与税」は相続税額から控除財産を贈与により取得した年中において、被相続人(父)以外の贈与者(母)から暦年課税に係る贈与により財産を取得しているためにその年分に贈与税の課税が生じているときには、被相続人(父)から贈与により取得した財産に課された贈与税の部分(暦年課税分の贈与税額控除の金額)は、相続税法第19条第1項に規定する「課せられた贈与税」に該当し、被相続人(父)の死亡に係る相続税額から控除されます。上記の場合における暦年課税分の贈与税額控除の金額は、相続人(長女)に課されたその年分の暦年課税分の贈与税額に、相続人(長女)に係るその年分の暦年課税に係る贈与税の課税価格のうち、相続人(長女)が被相続人(父)から取得した加算対象贈与財産の価額が占める割合を乗じて計算した金額になります(相令4①、措令40の4の5②)。なお、相続開始前3年以内に取得した財産以外の財産については、100万円控除はありません。6具体的な計算過程父の死亡に係る相続税の課税価格に加算される金額及び暦年課税分の贈与税額控除の金額は、それぞれ次のようになります。(1)父の死亡に係る相続税の課税価格に加算される金額(加算対象贈与財産の価額)相続開始前3年以内に取得した財産以外の財産の価額(注1)加算対象期間のうち相続開始前3年以内に取得した財産以外の財産に係る期間に取得した財産(イ及びハ)が100万円控除の対象になります。(注2)相続開始前3年以内に取得した財産以外の財産の価額の合計額が100万円以下のため、相続税の課税価格に加算される金額は0円になります。相続開始前3年以内に取得した財産の価額110万円(ホの価額)合計額(加算対象贈与財産の価額)0円(①の価額)+110万円(②の価額)=110万円(2)相続税額から控除される暦年課税分の贈与税額控除の金額令和6年分の贈与令和7年分の贈与(注3)相続開始前3年以内に取得した財産以外の財産(イ及びハ)については、100万円控除をする前の価額に基づき暦年課税分の贈与税額控除の金額を計算することになります。暦年課税分の贈与税額控除の金額の合計額0.9万円(①の金額)+10.3万円(②の金額)=11.2万円提供:税経システム研究所
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2025/05/21 その他の税・法令等
令和7年度税制改正での電子帳簿保存法 新たな加算税の軽減措置の追加
1.令和7年度税制改正で電子取引に係る改正が入りました電子帳簿保存法では、従来、スキャナ保存と電子取引の保存において、電磁的記録に記録された事項に関し、隠蔽し、又は仮装された事実に基づいた申告等によって重加算税が課せられる場合においては、その電磁的に記録された事項に関して生じた申告漏れ等に課される重加算税の割合を10%加重する措置がありました(電帳法8⑤)。令和7年度税制改正では、この規定に対して、加重措置の対象から除外される場合が設けられました。(1)改正の内容加重措置の対象から除外されるのは、その保存が特定電磁的記録であり、その記録が次に掲げる要件を満たしている場合となります(改正電帳法8⑤)。その電子取引の取引情報に係る電磁的記録の記録事項について訂正又は削除を行った事実及び内容を確認することができる特定電子計算機処理システム(訂正又は削除を行うことができないものを含む。)を使用してその電磁的記録の授受及び保存を行うこと。その電子取引の取引情報に係る電磁的記録の記録事項(金額に係るものに限る。)を訂正又は削除を行った上で国税関係帳簿に係る電磁的記録等に記録した場合には、その訂正又は削除を行った事実及び内容を確認することができる特定電子計算機処理システム(訂正又は削除を行った上で国税関係帳簿に係る電磁的記録等に記録することができないものを含む。)を使用してその電磁的記録の授受及び保存を行うこと。その電子取引の取引情報(請求書・納品書等の重要書類に通常記載される事項に限る。)に係る電磁的記録の記録事項とその取引情報に関連する国税関係帳簿に係る電磁的記録等の記録事項との間において、相互にその関連性を確認することができるようにしておくこと。上記①及び②の特定電子計算機処理システムを使用してその電子取引の取引情報に係る電磁的記録の授受及び保存を行ったことを確認することができるようにしておくこと。(2)特定電磁的記録と特定電子計算機処理システム上記の中で、特定電磁的記録と特定電子計算機処理システムという新しい概念が登場します。特定電磁的記録とは、次に掲げる電磁的記録とされています。保存要件に従って保存が行われている電子取引の取引情報に係る電磁的記録災害その他やむを得ない事情により、保存要件に従って電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存をすることができなかったことを証明した場合又は納税地等の所轄税務署長が保存要件に従ってその電磁的記録の保存をすることができなかったことについて相当の理由があると認めた一定の場合に、保存要件にかかわらず保存が行われているその電磁的記録特定電子計算機処理システムとは、国税庁長官の定める基準に適合する電子計算機処理システムとされています。特定電磁的記録は、真実性、検索性、見読可能性、システム書類の備付けの電子取引データの保存要件を満たしているシステムで作成・保存されている電子データということになるかと思われます。特定電子計算機処理システムに関する国税庁長官が定める基準とは、次に掲げるいずれかの電磁的記録を本稿1.(1)に掲げた要件に従って行うことができる機能を有していることであるとされています。仕入れ明細書または適確請求書に記載すべき事項に係る電磁的記録の仕様としてデジタル庁が管理するものに従って提供された電子取引の取引情報に係る電磁的記録金融機関等のいずれかに預金口座又は貯金口座を開設している預金者又は貯金者の委託を受けて、金融機関等が行うこれらの口座に係る資金を移動させる為替取引の取引情報に係る電磁的記録これは、デジタル庁が管理する仕様に従って送受信されたデジタルインボイスや預貯金口座における決済データのいずれかの電子取引について、要件に従って保存ができるシステムのことをいうことになります。2.実務的な対応今般の改正は、請求や決済の取引についてデジタルデータを用いて事務負担の軽減や適切な保存が実現するような適切な電子取引の普及を促進することを意図しているものと考えられます。したがって、実務的には、生産性の向上を目的に取引情報を電子的に送受信するシステムを導入し、それが前述1.(1)で掲げた4つの要件をクリアするようなシステムとなっているということが課題になると考えられます。1つ目の訂正又は削除を行った事実及び内容を確認することができる特定電子計算機処理システムを使用するというのは、納品書、請求書、領収書などの電磁的記録を特定電子計算機で送受信しているということになります。その電磁的記録の金額に係る記録事項を訂正または削除を行ったうえで国税関係帳簿に係る電磁的記録等に記録した場合ということは、例えば、受領した請求書データに誤りがあり、訂正後の請求書データを再度授受して、当初のデータは削除したうえで、国税関係帳簿に係るシステムに流し込むといった処理が2つ目の要件が想定しているところになります。そして3つ目の要件では、帳簿との相互関連性が確保されていることを求めています。したがって、電子取引での電子データの授受から販売管理システム、購買管理システムもしくは財務会計システムへ取り込んだ処理全般を通して、訂正削除の履歴が確認できる(あるいは訂正・削除ができない仕組み)ことが求められ、電子帳簿システム、電子取引のシステムの双方から関連性が確保されていることが求められます。そして、4つ目の要件で、そうした授受及び保存を実施したことが確認できることが求められているということになります。新設された制度に対応した販売管理・会計ソフト等のイメージ出典:国税庁「請求書等を帳簿に自動連係する仕組みに対応した制度が新設されました」よりデジタルインボイスのインフラが整備されつつある社会状況に対応して、好ましい電子取引から電子帳簿への仕組みの構築というものを推奨する改正といえるのではないでしょうか。なお、今回の改正は、令和9年1月1日以後に法定申告期限が到来する所得税及び法人税について適用されます。提供:税経システム研究所
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2025/05/14 相続・贈与税
相続税の重要テーマポイント解説26(暦年課税と精算課税がある場合の相続税の課税価格の加算)
QA及びBは相続開始前7年以内に300万円を被相続人から贈与を受け、暦年課税で申告した。3年後1,000万円の贈与を受けたので相続時精算課税で申告した。なお、Aは相続財産を取得したが、Bは取得していない。相続財産の加算はどうすればいいか。【ポイント】被相続人から生前に贈与を受け、受贈金額が110万円を超えた場合、暦年課税の贈与税の申告と納税をします。贈与を受けた財産の価額をとめどもなく加算することは、実務的に大変困難です。そこで、相続開始前7年以内(以下「加算対象期間」といいます。)の贈与財産の価額(以下「加算対象贈与財産」といいます。)及び相続時精算課税の適用を受けた価額を加算することにしています。加算するのは、贈与を受けた時の価額です。【解説】1原則加算対象財産の価額は、暦年課税で申告している場合、相続財産の取得の有無に応じて加算の態様が異なります。適用の概要は次の通りです。課税方式相続財産の取得の有無課税価格に加算の有無2024年以後相法暦年課税有加算する相続開始前3年を超え前7年以内については、合計額から100万円を控除する19①無加算しない-相続時精算課税有加算する各年分の贈与について110万円の基礎控除がある21の15①無加算する21の16①2相続時精算課税適用者が、相続開始前7年以内の贈与財産がある場合(1)加算対象期間内の贈与財産があり、相続財産を取得している場合相続時精算課税適用者であっても、適用を受ける以前に贈与を受けた財産が加算対象期間内に取得した財産に該当する場合は、相続財産に加算します。相続開始前3年を超え前7年以内の期間に贈与を受けた金額の合計額から100万円を控除した金額を加算します。贈与税の申告の有無には関係がありません。基礎控除以下であっても加算となることに留意します(相基通19-1)。(2)加算対象期間内の贈与財産があり、相続財産を取得していない場合相続開始前7年以内の贈与加算は、相続又は遺贈により相続財産を取得した者に適用されます(相法19)。相続時精算課税の適用を受けた財産は、相続税の課税価格に加算する若しくは相続等により取得したものとみなされることから、相続時精算課税適用者が、適用を受ける前に贈与により取得し、加算対象期間内に該当する財産は、特定贈与者の相続税の課税価格に加算する必要があります。3相続時精算課税の適用を受けた財産が基礎控除以下の場合相続時精算課税適用者が特定贈与者からの贈与により取得した相続時精算課税の適用を受ける財産が、相続税法第21条の16第3項第2号の規定の適用により相続税の課税価格に算入する金額がない場合(基礎控除110万円を適用した場合)においても、加算対象期間内に贈与により取得した財産があるときは、加算対象期間の贈与財産を加算します(相基通19-11)。この取扱いは、相続時精算課税を選択した場合、その後の贈与は全て相続時精算課税となり、受贈財産価額が110万円以下で特定贈与者の相続財産に加算する金額がなくても、すべて相続時精算課税の適用を受けることとなります。そのため相続時精算課税適用前の加算対象期間内の贈与財産は相続税の課税価格に加算することになります。4事例の回答相続時精算課税適用者は特定贈与者の相続財産の取得の有無にかかわらず、相続財産を取得したとされます。相続開始前7年以内の暦年課税適用財産についても加算の対象となります。提供:税経システム研究所
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