税務情報レポート
MJS税経システム研究所・税務システム研究会の顧問・客員研究員による租税を中心とした多彩な研究成果および最新の税制改正および制度や動向、判例研究等に関するリポートです。
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2025/08/20 相続・贈与税
令和6年分の相続時精算課税の申告が前年比で約6割も増加した要因
1令和6年分の贈与税の申告状況令和7年6月2日に国税庁から公表された「令和6年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について(記者提供資料)」(以下「提供資料」といいます)では、相続時精算課税の申告(納税なし)が令和5年分の申告と比較して約6割も増加しています。本稿では、相続時精算課税の申告が前年比で約6割も増加した要因を探ります。https://www.nta.go.jp/topics/pdf/0025005-063.pdf2暦年課税及び相続時精算課税別の申告状況の推移提供資料では、暦年課税を適用した申告人員は約40万人(対前年比▲14%)で、その申告納税額は3,274億円(同+9.7%)となっており、前年分と比較すると、申告人員は減少しましたが、申告納税額は増加しています。一方、相続時精算課税を適用した申告人員は約8万人(対前年比+60%)で、その申告納税額は661億円(対前年比+17%)となっており、前年分と比較すると、いずれも増加しています。上記の<暦年課税及び相続時精算課税別の申告状況の推移>のうち、令和5年分と令和6年分について、暦年課税と相続時精算課税の比較一覧を作成すると下表のようになります。3令和5年分までの暦年課税及び相続時精算課税別の申告状況相続時精算課税が創設された平成15年分から数年間は別として、平成27年分から令和5年分では、相続時精算課税の申告は贈与税の申告のうち1割にも満たない状況が続いていました(前頁の申告状況の推移参照)。相続時精算課税の申告が贈与税の申告のうち1割にも満たない状況が続いた要因は、「使い勝手の悪さ」と言われています。具体的には、相続時精算課税を選択すると、その年分後は、少額の贈与であっても必ず申告が必要になる煩わしさなどがありました。そのため、令和5年度税制改正により次の4の見直しが行われ、令和6年度から施行されることになりました。4令和5年度税制改正による見直し相続時精算課税の使い勝手を向上させるため、相続時精算課税について、次の見直しが行われ、令和6年1月1日から施行されることになりました。(1)少額贈与に対する課税除外相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、暦年課税の基礎控除とは別途、課税価格から基礎控除110万円を控除できることとするとともに、特定贈与者の死亡に係る相続税の課税価格に加算等をされる当該特定贈与者から贈与により取得した財産の価額は、上記の控除をした後の残額とすることになりました(相法21の11の2・21の15・21の16、措法70の3の2)。上記の改正は、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る贈与税について適用されます。(2)贈与により取得した財産が一定の被害を受けた場合の取扱い相続時精算課税適用者が特定贈与者からの贈与により取得した土地又は建物が、当該贈与を受けた日から当該特定贈与者の死亡に係る相続税の期限内申告書の提出期限までの間に一定の災害によって相当の被害を受けた場合において、当該相続時精算課税適用者が贈与税の納税地の所轄税務署長の承認を受けたときは、当該相続税の課税価格への加算等の基礎となる当該土地又は建物の価額は、当該贈与の時における価額から当該価額のうち当該災害によって被害を受けた部分に対応する金額を控除した金額とすることになりました(措法70の3の3)。上記の改正は、令和6年1月1日以後に土地又は建物が災害により被害を受けた場合について適用されます。5相続時精算課税の申告が前年比で約6割も増加した要因次の(1)が主な増加要因ですが、次の(2)も暦年贈与は対象外となっていることから増加要因といえます。(1)相続時精算課税による基礎控除額は相続財産に加算されない上記4の財務省資料のうち、「毎年、110万円まで課税しない(暦年課税の基礎控除とは別途の措置)」部分の見直しが主な増加要因と考えられます。暦年課税による贈与であれば、贈与者が死亡すると生前贈与財産(7年間)はすべて相続財産に加算されます(基礎控除110万円も含め加算されます)(一定期間に限り100万円までの控除がありますが)。一方、相続時精算課税による贈与財産が相続財産に加算される場合には、贈与財産から毎年の基礎控除110万円は課税されない(加算されない)ことになっています。相続時精算課税を選択した贈与が10年継続すれば、相続人1人当たり1,100万円(110万円×10年)が特定贈与者の相続予定財産から除外されることになります。相続人が2人・3人であれば2,200万円・3,300万円になることから、富裕層にとっては使い勝手が良い見直しといえます。(2)自然災害に対する救済措置増加要因として上記(1)には及びませんが、自然災害を受けた場合の救済措置も相続時精算課税の贈与財産(土地・建物に限定)に限り認められるものであり、増加要因といえます。提供:税経システム研究所
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2025/08/14 会計制度
リース会計に関する会計と税務(その1) リース会計基準の改正を理解するために
1.リース会計基準の改正リース会計基準が改正となり、2027年4月からは改正後の基準での会計実務が開始されます。その早期適用にも備えて、令和7年度税制改正大綱でリースに関する法人税の取扱いに関する記述が入りました。これまでのリース会計基準では、所有権移転外ファイナンス・リース取引の場合、個々のリース資産に重要性が乏しいと認められる場合は、オペレーティング・リース取引の会計処理に準じて、通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行うことができる(企業会計基準適用指針第16号「リース取引に関する会計基準の適用指針」(以下、「旧適用指針)という。)34項)という取扱いが存在していました。中小企業の多くではこの取扱いを活用して、オペレーティング・リースと同様に賃貸借処理をしてきたものと思われます。そこで本稿では、税制の理解の前にリース会計基準について解説をしていきます。(1)現行のリース会計基準での会計処理現行のリース会計基準では、リース取引は下記のように分類されていました。ファイナンス・リース取引とは、リース契約に基づくリース期間の中途において当該契約を解除することができないリース取引又はこれに準ずるリース取引で、借手が、当該契約に基づき使用する物件(以下「リース物件」という。)からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ、かつ、当該リース物件の使用に伴って生じるコストを実質的に負担することとなるリース取引をいうとされています(企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」(以下、「旧基準)という。)5項)。物件の賃貸の中でも、当該リース物件を自己所有するとするならば得られると期待されるほとんどすべての経済的利益を享受することでき、当該リース物件の取得価額相当額、維持管理等の費用、陳腐化によるリスク等のほとんどすべてのコストを負担するということが、物件を購入して所有するのと経済的実質が同じであることに着目しています。オペレーティング・リースは、ファイナンス・リース以外のリース取引とされています(旧基準8項)。ファイナンス・リースのうち、リース契約上の諸条件に照らしてリース物件の所有権が借手に移転すると認められるものを所有権移転ファイナンス・リース取引と呼び、それ以外の取引を所有権移転外ファイナンス・リース取引と呼んでいます。所有権移転ファイナンス・リース取引とは、次の①から③のいずれかに該当する取引であるとされています(旧適用指針10項)。リース契約上、リース期間終了後又はリース期間の中途で、リース物件の所有権が借手に移転することとされているリース取引リース契約上、借手に対して、リース期間終了後又はリース期間の中途で、名目的価額又はその行使時点のリース物件の価額に比して著しく有利な価額で買い取る権利(以下合わせて「割安購入選択権」という。)が与えられており、その行使が確実に予想されるリース取引リース物件が、借手の用途等に合わせて特別の仕様により製作又は建設されたものであって、当該リース物件の返還後、貸手が第三者に再びリース又は売却することが困難であるため、その使用可能期間を通じて借手によってのみ使用されることが明らかなリース取引(2)通常の売買取引に係る方法に準じた処理と賃貸借処理これまでのリース会計基準では、ファイナンス・リース取引については、通常の売買取引に係る方法に準じた処理、すなわちリース資産とリース負債を計上する資本化と呼ばれる処理が求められていました。それに対して、オペレーティング・リース取引については、通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行うこととされています(旧基準15項)。したがって、リース料の支払い時に、その支払額を賃借料、リース料等の勘定科目で費用処理することになります。所有権移転外ファイナンス・リース取引の場合、個々のリース資産に重要性が乏しいと認められる場合は、オペレーティング・リース取引の会計処理に準じて、通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行うことができる(旧適用指針34項)という取扱いが存在しています。個々のリース資産に重要性が乏しいと認められる場合とは、次の①から③のいずれかを満たす場合とされています(旧適用指針35項)。重要性が乏しい減価償却資産について、購入時に費用処理する方法が採用されている場合で、リース料総額が当該基準額以下のリース取引リース期間が1年以内のリース取引企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリース取引で、リース契約1件当たりのリース料総額(維持管理費用相当額又は通常の保守等の役務提供相当額のリース料総額に占める割合が重要な場合には、その合理的見積額を除くことができる。)が300万円以下のリース取引上記③の300万円基準があることで、パソコン、複合機といった事務機器をはじめとする器具備品のリースの多くが所有権移転外ファイナンス・リース取引であっても、通常の賃貸借取引に係る方法により会計処理されてきたといえます。2027年4月から適用される新リース会計基準でも上記のような重要性の基準は残りますが、建物など不動産賃貸借契約やオペレーティング・リースもファイナンス・リースと同様に資産計上が必要となるため、多くの企業で資産計上に対応するための準備が必要だと言われています。2.ファイナンス・リース取引の改正のポイント(1)リース会計基準の特質今回の「リース取引に関する会計基準」(以下、「リース会計基準」という。)の改正は、国際会計基準審議会のIFRS第16号「リース」の改正が2016年に公表されたことを受けて、両基準の相違点を解消するために行われました。その結果、すべてのリースを使用権の取得として捉えて使用権資産を貸借対照表に計上し、借手のリースの費用配分の方法については、リースがファイナンス・リースであるか、オペレーティング・リースであるかにかかわらず、使用権資産に係る減価償却費及びリース負債に係る利息相当額を計上するというIFRS第16号と同様の会計処理を採用することになりました。国際会計基準の特徴として、実質優先主義、法的形式よりも経済的実質を優先するということが挙げられてきました。リース会計基準もまさに典型例であり、リースの対象物の法的な所有者である貸手ではなく、借手に資産計上を求めます。なぜなら、典型的なリース契約においては、リース契約により顧客(借手)は、当該資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有し、かつ、顧客が、当該資産の使用を指図する権利を有することになります(リース会計基準第6項参照)。当該資産を、契約期間を通じて事業のために使用することができる半面、契約期間を通じて当初の期待通りの収益が得られないことが判明してもリース料を支払い続けなければなりません。この経済的効果は、資産を割賦購入した場合とほとんど同じです。それであれば、契約に基づく使用権資産を借手の資産として計上することを求めようというのがIFRS第16号の発想です。そして、今般の改正では、リースの識別というプロセスが重視されることになりました。そこでは、「リース契約」という契約の名称であるか否かに関わらず、不動産賃貸契約であろうと、役務提供契約であろうと、契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合、当該契約はリースを含むことになります(リース会計基準第26項)。(2)リースの識別というアプローチこうした思考からは、リースの識別をリース契約という名称に関わらず行わなければリース会計基準を適用すべきリース契約を網羅できないことになります。経済雑誌等では、「すべての契約を洗いなおせ」「契約書は総務だけが保管しているとは限らない」といった扇情的な見出しが躍っています。リースの識別の例として、ASBJ「リースに関する会計基準の適用指針」(以下、「適用指針」という。)では、説例として下記のような事例を挙げています。鉄道での貨物輸送を委託する契約において、コンテナ輸送用とかタンク車といった貨車の種類は特定するものの、10両分という範疇であれば、資産の特定がないため、リースは含まないと考える。しかし、車両を特定し、独占使用、使用を指図する権利を持っていれば、その契約にはリースを含むとする例(説例2)。小売業者が空港内の搭乗エリアにある区画を使用する契約を、空港運営会社と締結した場合、割り当てた区画を使用期間中いつでも変更する権利を空港運営会社が有していればリースは含まれないと考える。しかし、区画が特定され、区画の移動を空港運営会社が求める場合、移転のためのコストの全額を空港運営会社が負担するような契約ならばその契約にはリースを含むとする例(説例3)。ネットワーク・サービスの利用契約において、ネットワーク・サービスの水準は利用開始時に決定するのみでその後の変更はできず、設置されたサーバの使用方法についての指図ができないといった場合、その契約にはリースは含まれないと考える。しかし、ネットワーク・サービスの水準を変更することを求めたり、サーバ機が特定され、その使用について利用者が使用法等について指示できる場合にはリースを含むとする例(説例5)。このように表面上は、リース契約という文言はなくとも、「契約の中にリースを含む」部分があれば、そこについてはリース会計基準を適用することになります。そのため、あらゆる契約の中から「特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する」契約関係が内包されていないかという観点でリース会計基準と対象となる契約内容を拾い出していく作業が必要になるのです。提供:税経システム研究所
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2025/08/06 法人税その他の税・法令等
破産手続きにおける債権者の税務の取扱いについて
1概要企業倒産については、負債総額は前年度比で減少したものの、倒産件数は3年連続で増加しており(注1)、今後も新型コロナウイルス関連融資の返済本格化に加え、物価上昇や後継者・人手不足、米国政権の政策運営を巡る不確実性など国内外にリスク要因が増しており、破産を含めた倒産の増加が懸念されます(注2)。破産法は、支払不能又は債務超過の状態にある債務者の財産等の清算手続において、債権者その他の利害関係者の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに、債務者の経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的としています(破産法1条)。破産手続開始の原因について、破産法は債務者が支払不能(破産法2条11項)又は債務超過(個人、存立中の合名会社、合資会社は支払不能に限ります。)の状態にある場合(破産法15条1項、16条1項・2項)の2つの事由を定めています。破産手続き開始の申立権利者は、支払不能又は債務超過の債務者はもちろん、これらの債務者に対して債権を有する債権者も含まれています(破産法18条1項)。申立権者からの破産手続き開始の申立てについて、裁判所が破産手続開始の原因となる事実があると認めるときは、原則として破産手続開始の決定がなされます(破産法30条1項)。債権者(破産債権者)は、債務者が破産手続きに入った場合、その債務者(破産債務者)に対する金銭債権について、個別評価金銭債権に対する貸倒引当金や貸倒損失の計上を検討することになります。そこで本稿では、破産手続きの流れの中で「破産手続開始の申立て」「破産手続開始の決定」「破産手続終結の決定」の時における債権者の税務上の取扱いについて解説(注3)します。破産手続の流れ(注4)2破産手続開始の申立てが行われた場合貸倒引当金の適用法人に該当する法人の有する金銭債権につき破産法の規定による破産手続開始の申立てが行われている場合には、その債権者に対する金銭債権の50%に相当する金額を貸倒引当金として繰り入れることが認められています(法人税法52条1項、法人税法施行令96条1項3号)。なお、この場合に回収不能見込額が50%未満であっても、50%相当額を繰入れできることになります。ただ、この場合あくまでも形式的に債務者に対する金銭債権の50%相当額の繰入に留まるわけで、仮に債務者の債務超過の状態が相当期間継続しており、回収不能見込額が50%を超える場合には、その回収見込額により債務超過状態の継続等による一部回収不能額の繰入れ(法人税法52条、法人税法施行令96条1項2号)をした方がより多くの不良債権処理ができることになります。前述のとおり、破産法上、破産手続開始の原因となる事実は、法人であれば支払不能又は債務超過(存立中の合名会社、合資会社は支払不能に限ります。)となっていることから、債務超過の状態が相当期間継続している場合には、回収不能見込額による債務超過状態の継続等による一部回収不能額の繰入れが認められることになります。なお、この場合の「相当期間」とは、おおむね1年以上とされています(法人税基本通達11-2-6)。ところで、貸倒引当金の損金算入制度は、各事業年度において、債務者に一定の事実が生じていることを条件に繰入れを認めるもので、翌事業年度においてその繰入れした金額全額を益金の額に算入する、いわゆる洗替方式が採られています(法人税法52条10項)(注5)。したがって、破産手続開始の申立ての日を含む事業年度に限って繰入れが認められるというものではありません。3破産手続開始の決定が行われた場合破産手続開始の決定後、破産債権者はその有する破産債権につき配当を受けることになります。もっとも、その破産債権について配当を受けることができないと認められる部分につき債権放棄をした場合、債務者の債務超過の状態が相当期間継続していること、債権放棄額を書面により債務者に対して明らかにしていることを条件に、その債権放棄額は貸倒損失として損金の額に算入することができます(法人税法22条3項3号、法人税基本通達9-6-1(4))。なお、この場合の「相当期間」とは、毎期洗替をすることを原則とする貸倒引当金の場合とは異なり、最終処理であることから「債権者が債務者の経営状態をみて回収不能かどうかを判断するために必要な合理的な期間」(注6)とされ、「形式的に何年ということではなく、個別の事情に応じその期間は異なる」(注7)とされています(注8)。債務者が個人である場合、破産者のプラスの財産である破産財団をもって破産手続の費用を支弁するに不足すると認められる場合に、破産手続の開始決定と同時に破産手続の廃止の決定(破産手続きの同時廃止)がされます(破産法216条1項)(注9)。したがって、債務者が個人の場合には破産手続の廃止の決定を受けたに過ぎず、免責決定については未了の段階であったとしても、事実上回収不能であることから、この時点で貸倒損失を計上することが認められます(法人税法22条3項3号、法人税基本通達9-6-2)。なお、破産法上は同時廃止がされる債務者について、個人債務者に限定していませんが、実務上法人債務者について同時廃止がされることは基本的に無いようです(注10)。ところで、個人の破産手続きにおいては、債務者が破産手続開始の申立てをした場合には、申立てと同時に免責許可の申立てがされたものとみなされます(破産法248条4項)。破産手続の開始決定と同時に破産手続きの廃止決定がなされた場合であっても、債務者の免責許可の申立てに対する裁判所の判断が残ることになります。裁判所による免責許可の決定が確定するまでの間、債権者個々の権利行使も禁止され(破産法249条)、最後配当等により弁済されなかった破産債権は、免責許可決定の確定によりその責任を免れることになります(破産法253条)。したがって、個人の破産債務者に対する金銭債権は、免責許可の決定の確定時に貸倒損失として損金の額に算入することができると考えます(法人税法22条3項3号、法人税基本通達9-6-1)。4破産手続終結の決定が行われた場合法人の破産手続きにおいては、破産手続開始の決定は一般に法人の解散事由とされています(会社法471条、641条等)。そのような法人は、破産手続きによる清算の目的の範囲内で存続しているにすぎないため、破産手続が終結した場合には、法人格が消滅するのが原則であり、破産手続終結の登記がされ、登記記録が閉鎖されます。破産法人の法人格の消滅の時点は条文上の規定はありませんが、通説では破産手続終結の決定の公告の時点とされています。法人格が消滅している以上、当然に破産法人であった法人に分配可能な財産はないのであり、この時点で破産債権者が破産法人に対する金銭債権もその全額が滅失したと考えられます。したがって、破産手続終結の決定の公告の時点で、債権者は破産法人に対する破産手続の終結決定(又は廃止決定)を理由に法人税基本通達9-6-1により貸倒損失として損金の額に算入することができます。なお、破産管財人から配当額ゼロの証明がある場合、その証明が受けられない場合であっても債務者の資産処分が終了し、今後の回収が見込まれないまま破産終結まで相当の期間がかかる場合には、破産終結前であっても配当がないものとしてその全額について法人税基本通達9-6-2を適用して貸倒損失として損金の額に算入することができます(注11)。ところで、従前、破産法の手続においては債権の額が法的に切り捨てられるという手続きが基本的に存在しないことなどを理由に法律上の貸倒損失(法人税基本通達9-6-1)の適用ではなく、事実上の貸倒損失(法人税基本通達9-6-2)が適用されるとの見解(注12)がありましたが、法人の破産債務者に対する金銭債権について国税不服審判所裁決(注13)では、破産手続の廃止決定又は終結決定の時に債権は滅失すると判断していました。また、令和6年11月27日に更新された国税庁ホームページ記載の質疑応答(注14)においても前記裁決をなぞるようにして法人税基本通達9-6-1の適用であることを明らかにしています。なお、法人税基本通達9-6-1において、会社更生法、民事再生法、会社法(特別清算)の法的手続きによる場合が定められ、破産法の手続については定められていませんが、これは、会社更生法、民事再生法、会社法(特別清算)においては、法的に債権を消滅(切り捨て)させる手続きが定められている(注15)のに対して、破産法における法人の破産手続では配当されなかった部分の債権を消滅させる手続きがないことによるものと考えます。しかしながら、法人税基本通達9-6-1は法的に債権が滅失する場合を示していることからすると、破産法の手続の場合においても、廃止決定又は終結決定が出されることで、その破産法人の登記も閉鎖され、破産債権者の破産法人に対する金銭債権もその全額が滅失したものと考えられることから、これら決定が出された場合には同通達の適用がされると考えます(注16)。(参考)債務者に保証人がいる場合は、保証人にはその免責の効果は及ばないとされており(破産法253条2項)(注17)、主債務者の破産手続が終了しても、保証人は引き続き保証を負うことになりますので直ちに貸倒損失として損金の額に算入することは認められないことになります。<注釈>東京商工リサーチ(https://www.tsr-net.co.jp/news/status/transition/)によると、過去3年間の倒産件数(債務額)は2022年6,428件(2,331,443百万円)、2023年8,690件(2,402,645百万円)、2024年10,006件(2,343,538百万円)となっています。株式会社聘珍楼が令和7年5月21日に破産手続きの申立てをした旨が同社ホームページで明らかにされています(https://www.heichin.com/wp-content/uploads/2025/05/information2.pdf)。本稿解説は、小職の過去の解説を直近の条文等及びデータ並びにMJS客員講師である毛塚衛弁護士のアドバイスなどを基に再構成したものです。小著『不良債権処理と再生の税務』428頁(大蔵財務協会、2012年)会計慣行からいわゆる差額補充法も認められています(法人税基本通達11-1-1)。国税庁ホームページ(質疑応答事例)法人税〔貸倒損失〕「1第三者に対して債務免除を行った場合の貸倒れ」前掲注6参照。ゴルフ場を営む債務者の債務超過状態の判断期間を本格的に収益の計上を開始する3年ないし5年とした裁判例(横浜地判平成5年4月28日(税資195号199頁)・東京高判平成7年5月30日(税資209号940頁))があります。破産法上は同時廃止がされる債務者について、個人債務者に限定していませんが、実務上法人債務者について同時廃止がされることは基本的にありません。伊藤眞ほか『条解破産法〔第3版〕』1487頁(弘文堂、2022年)国審平成20年6月26日(裁決事例集№75)、国税庁ホームページ(質疑応答事例)法人税〔貸倒損失〕「6残余財産がない破産法人の破産手続終結の決定があった場合における当該破産法人に対する金銭債権の貸倒れ」原一郎「貸倒損失」武田昌輔ほか『法人税の損金の研究』226頁(日税研論集Vol.42、1999年)、東京国税局法人税課長編『回答事例による法人税質疑応答集』625頁(大蔵財務協会、2004年)、中野真純「法律上・事実上・形式上の貸倒処理」27頁(税務弘報、2009年9月)国審平成20年6月26日(裁決事例集№75)法人税〔貸倒損失〕「6残余財産がない破産法人の破産手続終結の決定があった場合における当該破産法人に対する金銭債権の貸倒れ」会社更生法204条1項、民事再生法178条1項、会社法571条3項法人税基本通達9-6-1に定められた事由は、あくまでも法律上債権が消滅する場合を例示したに過ぎないと考えられます。会社更生法203条2項、民事再生法177条2項、会社法571条2項においても付従性の原則の例外として、保証人等に切捨ての効果は及ばないことが規定されています。提供:税経システム研究所
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2025/07/30 地方税
不動産の取得に係る税金(不動産取得税)
家屋や土地を取得した場合には、都道府県から不動産取得税が課税されます。取得した家屋や土地が居住用の場合には特例が設けられています。1.家屋に対する不動産取得税家屋を取得した場合には、その家屋の固定資産税評価額の4%の不動産取得税が課税されます。不動産取得税は、建築の場合には固定資産税評価額が23万円未満(建築以外の場合には12万円未満)の場合には免税となります。また、その家屋が住宅(別荘は除かれる。以下同じ)の場合には、平成18年4月1日から令和9年3月31日までは、税率が3%に軽減されます。2.特例適用住宅の1,200万円控除次の要件を満たす特例適用住宅を新築した場合には、家屋の固定資産税評価額から1,200万円(認定長期優良住宅は1,300万円)が控除され、不動産取得税はその3%とされます。家屋の床面積(マンション、アパート等は共用部分をあん分して加算)が50㎡以上240㎡以下であること(注)賃貸マンション等は40㎡以上240㎡以下【算式】不動産取得税=(固定資産税評価額-1,200万円※)×3%※認定長期優良住宅は1,300万円個人が上記の要件を満たす中古住宅を取得し、その個人の居住用としたときは、新耐震基準に適合(又は建築日付が昭和57年以後)する場合には、家屋の固定資産税評価額から以下の図表に掲げる金額が控除され、不動産取得税はその3%とされます。【算式】不動産取得税=(固定資産税評価額-控除額)×3%〔図表〕特例適用中古住宅の減額される額建築された日控除額平成9年4月1日~1,200万円平成元年4月1日~平成9年3月31日1,000万円昭和60年7月1日~平成元年3月31日450万円昭和56年7月1日~昭和60年6月30日420万円昭和51年4月1日~昭和56年6月30日350万円3.土地に対する不動産取得税土地を取得した場合には、その土地の固定資産税評価額の4%(平成15年4月1日から令和9年3月31日までは3%)の不動産取得税が課税されます。その土地の固定資産税評価額が10万円未満の場合には免税となります。4.宅地の価格の特例宅地に対する不動産取得税の課税標準は固定資産税の評価額ですが、土地の取得が平成9年1月1日から令和9年3月31日までに行われた場合には、固定資産税評価額の2分の1とされます。5.特例適用住宅用地の軽減措置前記2.の新築の特例適用住宅や特定既存住宅の敷地については、①土地を取得して2年(平成11年4月1日から令和8年3月31日までの取得については3年)以内にその上に特例適用住宅を新築した場合、または②特例適用住宅を新築後1年以内にその敷地を取得した場合、③新築後1年以内に特例適用住宅とその敷地を取得した場合には通常の不動産取得税から次の金額が軽減されます。6.申告手続き家屋の不動産取得税について新築の特例適用住宅や特定既存住宅の特例を受ける場合や土地の不動産取得税について新築の特例適用住宅や特定既存住宅の敷地の特例を受ける場合には、都道府県の条例によって申告する必要があります。提供:税経システム研究所
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2025/07/23 法人税相続・贈与税医療業務
医療法人制度の取扱いの整理
1.はじめに医療法人制度が創設されてから75年が経過しましたが、これまで数々の変更が行われてきました。昔(30年前まで)は医師又は歯科医師が常時3名以上勤務する病院規模の医療機関でないと医療法人の認可は下りなかったということを知らない人も多いだろうと思います。また社会福祉法人や宗教法人などと異なり、どうして医療法人には財団と社団があるのだろうか疑問を抱いている人も多いのではないかと思います。医療法人制度にはいろいろな何故?があり、その何故がある故にこれまで制度の改正が行われてきました。これまでどのような改正がどの時代に行われてきたのかということを項目風に取り上げて整理してみたいと思います。2.制度創設戦後の昭和25年~27年にかけて、社会福祉法人や宗教法人や学校法人など特別な法律に基づくいわゆる特別法人が続々と誕生しました。医療事業においても昭和25年医療法改正により法人化が認められました。これが医療法人制度の始まりです。これは個人医療機関が設備投資を行うための資金集積を容易ならしめることを目的として制度化されたものです。そして、医療法人という形態を採った理由は次のような事情によるものでした。医療事業には非営利性が求められるため、株式会社等の営利法人成りはなじまない。家業としての個人医療機関に民法第34条(当時)による公益法人並みの要件を求めることは難しい。つまり医療法人は営利法人と公益法人との間に位置する中間法人ととらえられました。この時、医療法には次のような規定が設けられました。第39条病院又は医師若しくは歯科医師が常時3人以上勤務する診療所を開設しようとする社団又は財団は、この法律の規定により、これを法人とすることができる。2この規定による法人は、医療法人と称する。第54条医療法人は剰余金の配当をしてはならない。ところが厚生省(当時)が作成した医療法人社団のモデル定款には、出資者に対して、退社した場合の持分払戻請求権と解散した場合の残余財産分配請求権を認める定めが謳われました。つまり定款で次のように定めることを認めました。第9条社員資格を喪失した者はその出資額に応じて払戻しを請求することができる。第34条本社団が解散した場合の残余財産は払込済出資額に応じて分配するものとする。なぜ出資者に法人の財産を払い戻すことを認めるような定款を認めたのか、ということについては、出資者になんらかのインセンティブを与えなければせっかく創った医療法人制度が活用されないのではないかという心配があったのではないかともいわれています。本来ならば社会福祉法人などの特別法人と同じように、財団・社団の区別をせず非営利が徹底された医療法人とすべきだったといえますが、医療体制の確保という喫緊の課題があった当時としては医療法人を普及させるためにやむを得なかったのかもしれません。そのため出資者に認められた財産の払戻しや分配を受ける権利(これを出資持分といいます)は、医療法第54条の剰余金配当禁止規定に抵触する可能性があるという問題を抱えながら医療法人制度はスタートすることになりました。3.昭和60年医療法改正(第一次)それまで医療法人成りが認められていたのは病院又は医師若しくは歯科医師が常時3人以上勤務する診療所に限られていましたが、昭和60年の医療法改正により、医師若しくは歯科医師が一人又は二人の診療所も医療法人成りを認める改正が行われました。これにより、クリニック規模の診療所が節税対策のため続々と医療法人成りをしていくことになりました。また、この時の改正では、理事長が医師でない医療法人(産婦人科病院)の乱脈診療事件をきっかけに、医療法人の指導監督の強化が図られ、理事長は原則として医師又は歯科医師であること、施設の管理者である医師又は歯科医師は理事となることを義務付ける改正も行われました。4.昭和59年出資持分の評価方法に類似業種比準方式導入昭和58年、取引相場のない株式の相続税評価に類似業種比準方式が導入されましたが、医療法人の出資持分は対象外とされていました。しかし翌年において医療法人の出資持分の評価についても類似業種比準方式が採用されることになりました。それが財産評価基本通達194-2「医療法人の出資の評価」の新設です。ただし、医療法人は配当禁止規定があるため比準要素(配当、利益、純資産)のうち配当要素は算式に入れない、つまり比準価額を求める算式の分子は利益と純資産の2つの要素ということになりました。5.平成18年第5次医療法改正第5次医療法改正で、持分の定めのある法人の新設は禁止されました。この背景には当時の政権が打ち出した聖域なき構造改革路線により規制改革・民間開放推進会議が打ち出した医業への株式会社参入論がありました。まさに昭和25年の創設時に、剰余金配当禁止規定を設けながら出資者に払戻しができる定款の作成をも認めてしまった矛盾を指摘するものでした。厚生労働省は、医療法人には剰余金を配当することが禁止されているため営利法人の参入は認められないと主張しますが、出資者に対する出資持分の払戻しや残余財産の分配は剰余金の配当にほかならず、株式会社と何ら変わるところはなく、医療法の剰余金配当禁止規定をもって株式会社参入不可の根拠とすることはナンセンスであるというものでした。厚生労働省は、医業への営利企業参入を阻止するためには、出資者に対する出資持分権を廃止する以外にないと考え、出資持分の定めのある医療法人の設立は今後認めないとして医療法人の非営利性を徹底するための改正を行いました。なお、従来の出資持分の定めのある医療法人については、出資持分なしの法人に移行するまでの間(当分の間ということになっています)出資持分ありのままの法人で存続することを認めるという経過措置が医療法附則で規定されました。この経過措置の適用を受ける医療法人、つまり従来からの出資持分の定めのある医療法人のことを経過措置型医療法人と呼びます。6.平成20年法人税法施行令136条の3第2項の新設持分の定めのある医療法人は、出資者に対して持分払戻し義務を負っていますが、持分なしの医療法人となるにあたって出資者が出資持分を放棄すると、その払戻し義務が消滅します。いうならば、持分払戻し義務免除益が生ずることになりますが、この「生ずる利益の額」については法人税法施行令136条の3第2項を新設し、益金に算入しないとすることにしました。会計上は、益金に算入しないということは、損益計算書に計上せず利益積立金として処理することになります。つまり、放棄によって出資金(資本金)が消滅し代わりに利益積立金が計上されることになります。<法人税法施行令136条の3第2項>社団である医療法人で持分の定めのあるものが持分の定めのない医療法人となる場合において、持分の全部又は一部の払戻しをしなかったときは、その払戻しをしなかったことにより生ずる利益の額は、その医療法人の各事業年度の所得の計算上、益金の額に算入しない。7.平成26年医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予及び免除制度創設出資持分の定めのある医療法人(経過措置型医療法人)の持分なしの法人への移行がなかなか進まない状況が続いたため、移行促進策として平成26年租税特別措置法に医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予及び免除制度が創設されました。そして医療法も改正され医療法附則において認定医療法人というものが規定されました。その内容は平成26年10月1日からの3年間のうちに、持分ありの法人が持分なしの法人に移行することを決定し(決定した医療法人を認定医療法人という)、決定後(認定医療法人の認定を受けた後)移行完了までの間において、相続が発生した場合は、被相続人の出資持分に対応する相続税分を猶予し、移行完了した時点で免除するという規定(当時措置法70条の7の9~14)でした。また複数の出資者のうちの一人が持分を放棄したことにより他の出資者に対して生ずるみなし贈与についても同様の扱い(猶予及び免除)とするという規定です。これがまったく人気がなく受け入れられませんでした。この制度を利用して持分なしの法人に移行したのはごくわずかだけという失敗作でした。それは、出資持分に係る相続税は免除されても、持分なしへの移行にあたり持分を放棄したことに対して相続税法66条4項の規定が適用され医療法人を個人とみなして贈与税が課される可能性があったからです。特に診療所規模の医療法人にあっては、このみなし贈与規定の適用を受けないための要件(相続税法施行令第33条第3項)をクリアすることはできませんでした。8.平成29年度、医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予及び免除制度の改正失敗作の創設から3年後の平成29年、租税特別措置法が改正されるとともに医療法も改正され、認定医療法人の要件の改正が行われました。結論を述べれば、認定医療法人の認定を受けた法人が持分なしの法人に移行し、移行した後6年間、改正された認定要件(追加された8つの運営要件)を満たし続ければ法人に対しみなし贈与課税はしない、というものです。なお、改正された認定要件の内容については「認定医療法人の認定要件のうちの運営要件についてその1」及び「認定医療法人の認定要件のうちの運営要件についてその2」の税務情報リポートを参照してください。持分なしの法人に移行した後6年の間に、改正された認定要件を満たせず認定の取消しがあった場合には、法人にみなし贈与課税が行われます。認定が取り消されたのだからもとの持分ありの法人に戻る、ということはありません。どういう理由にせよ、いったん持分なしの法人になったら二度と持分ありの法人に戻ることはできません。だからこそみなし贈与課税が出てくるわけです。9.令和5年度医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予及び免除制度の改正上記8の制度について、適用期間が令和8年12月31日まで延長されました。前回の延長期限は令和5年9月30日まででした。また認定医療法人の認定を受けてから持分なしの法人に移行完了しなければならない期限が、これまでの3年から5年に延長されています。煩雑な手続きを3年以内にという縛りは短すぎるかな、という配慮があったのかもしれませんが、とにもかくにも、持分なしの法人に移行し、かつ、みなし贈与課税を受けずに済ませるためには、10年くらいの長い期間、認定要件(具体的には8つの運営要件)を満たし続けなければならない制度です。昭和25年の医療法人制度創設の時のツケ(つまり出資者に払戻請求権や残余財産分配請求権を定款に定めることを厚生労働省自らが認めたツケ)が、今日このような難しい制度を作り上げているといってもいいかもしれません。10.おわりに以上のように75年の間に医療法人のありようはずいぶんと変わりました。昭和25年当時は、医療関係者(開業医や医師会)のどんな形でもいいから法人化を認めてほしいという要望と医療体制の確保という課題が合致し医療法人制度が誕生しましたが、非営利の徹底という第5次医療法改正からは、医療法人への規制がずいぶんと強化されて今日に至っています。第7次医療法改正(平成27年改正、28年施行)では医療法人のガバナンスに関する規定がたくさん設けられました。ガバナンス規定には「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」いわゆる公益法人制度関連三法の一つである「一般社団・財団法人法」の規定が援用(読み替え規定)されています。それらの内容については次の機会に紹介したいと思います。なお、今回は出資額限度法人については触れませんでした。出資額限度法人は紆余曲折があり解決しなければならない課題を多く含む法人で、法律に規定されない存在のままになっていますが、現実には一定数存在します。平成19年以降においては財団法人か又は持分の定めのない社団医療法人の新設しか認められていませんが、社団法人においては基金制度を採用することができることになっているため、出資額限度法人は注目されない存在になっているといってもいいかもしれません。なぜなら出資額限度法人は出資者へ払戻す金額は出資額を限度とするという法人で、この扱いは、返還すべき金額は拠出した基金の額を超えてはならないとする基金制度を採用した法人と、ほぼ同じとみていいからです。もちろん出資額限度法人は「持分の定めのある法人」の領域の話であり、基金制度を採用した基金拠出型法人は「持分の定めのない法人」の領域の話であって、土俵が異なりますが、持分の定めのある法人を経過措置型法人などと呼び持分なしへ移行するまでの存在と位置付けている今日にあっては、もはや出資額限度法人はその意義を失っているように個人的には思えます。法律にきちんと規定され医療法人の一つの類型として人格を付与されることはもうないのではないでしょうか(持分の定めのある医療法人をなくす方向で動いているのですから)。提供:税経システム研究所
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2025/07/16 経営・運営公益法人
新公益法人制度と会計(第4回)
新公益法人制度と会計について、前回は制度改正等に伴うスケジュールの後半部分を記載させて頂きました。第4回では、制度改正等の具体的な内容について解説させて頂きます。(1)公益認定法の改正点について公益認定法は、令和6年5月22日に改正となりました。主な改正点は、公益法人の責務が制定されたほか、旧法でいう収支相償、遊休財産額、外部理事及び外部監事の必置、区分経理及び財産目録の備置き及び閲覧等になります。公益法人等の責務とは、以下の内容になります。(公益法人等の責務)第三条の二公益法人は、公益目的事業の質の向上を図るため、運営体制の充実を図るとともに、財務に関する情報の開示その他のその運営における透明性の向上を図るよう努めなければならない。2国は、前項の規定による公益法人の取組を促進するため、必要な情報の収集及び提供その他の必要な支援を行うものとする。今回の改正では、財務規律である中期的収支均衡(旧収支相償)や使途不特定財産額(遊休財産額)の保有制限についての運用を緩和する代わりに、外部理事や外部監事を設置して公益法人のガバナンス強化を図るとともに、法と会計の整合性の確保を通じて情報の透明性を強化することを主眼としています。そのため、上記の公益法人等の責務が制定されたことが、そのことを担保する根拠条文になると考えられます。(2)中期的収支均衡について中期的収支均衡という用語は、認定法規則のものとなります。しかしながら、収支均衡は、そもそも公益認定基準や認定を受けた後も遵守すべき要件として、公益認定法に規定されている条文です。(公益認定の基準)第五条行政庁は、前条の認定(以下「公益認定」という。)の申請をした一般社団法人又は一般財団法人が次に掲げる基準に適合すると認めるときは、当該法人について公益認定をするものとする。六その行う公益目的事業について、第十四条の規定による収支の均衡が図られるものであると見込まれるものであること。上記の条文は、公益認定申請の段階で必要となる要件です。第14条の規定による収支均衡とは以下の条文になります。(公益目的事業の収入及び費用)第十四条公益法人は、その公益目的事業を行うに当たっては、内閣府令で定めるところにより、当該公益目的事業に係る収入をその実施に要する適正な費用(当該公益目的事業を充実させるため将来において必要となる資金として内閣府令で定める方法により積み立てる資金を含む。)に充てることにより、内閣府令で定める期間において、その収支の均衡が図られるようにしなければならない。改正法では、中期的収支均衡の計算を府令委任し、柔軟な運営が出来るような構成になっています。以下に示す旧法では、単に適正な費用を償う額を超える収入を得てはならないと規定されていました。(公益目的事業の収入)第十四条公益法人は、その公益目的事業を行うに当たり、当該公益目的事業の実施に要する適正な費用を償う額を超える収入を得てはならない。このことで、公益目的事業では赤字を出さなくてはならないという誤解が生じておりました。収支相償では、2年間でその黒字を解消するという運用が行われておりましたが、改正法等において明確に規定されました。また、改正法第14条では、府令委任する中で、公益目的事業を充実させるため将来において必要となる資金として内閣府令で定める方法により積み立てる資金についても、中期的収支均衡に含む概念として新設された項目もあります。今回は、主として中期的均衡の新旧の条文の比較やその概要について、説明させて頂きました。次回も引き続き、新公益法人制度(中期的収支均衡)についてご説明させて頂きます。提供:税経システム研究所
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2025/07/09 相続・贈与税
相続時精算課税に係る贈与により取得した財産について申告漏れが判明し修正申告を行う場合の特別控除などの適用について
1贈与税の申告状況長男は、令和6年に父からの贈与により取得した財産について、相続時精算課税を選択して、次のとおり贈与税の期限内申告を行いました。【贈与税の申告状況】その後、同年中に特定贈与者である祖父からの贈与により取得した財産(1,000万円)の申告失念が把握されたため、令和6年分の贈与税の修正申告書を提出することとなりました。修正申告により新たに納付すべき贈与税額はどのように計算するのでしょうか。なお、父からの贈与により取得した財産に係る贈与税の申告については、正しい特別控除を受ける金額の記載がなかったことについてやむを得ない事情があると認められるものとします。2長男は父祖からの贈与財産について修正申告が必要長男は、修正申告により贈与税額191万2,000円を納付することになります(次の3から7を参照ください)。3相続時精算課税に係る特別控除の適用要件相続時精算課税に係る特別控除は、期限内申告書に特別控除を受ける金額その他必要事項の記載がある場合に限り適用することができることとされています。そして、相続時精算課税の適用を受ける財産について上記の事項の記載がない贈与税の期限内申告書の提出があった場合には、その記載がなかったことについてやむを得ない事情があると税務署長が認めるときは、その記載をした書類の提出があれば、特別控除の適用を受けることができることとされています(相法21の12③)。なお、祖父からの申告失念した財産は、期限内に提出された申告書に特別控除の適用を受けようとする財産として記載がなされていないため、特別控除の適用を受けることはできません。4同一年中に特定贈与者が2人以上の場合における相続時精算課税に係る基礎控除の額同一年中に2人以上の特定贈与者(祖父と父)からの贈与により財産を取得している場合の相続時精算課税に係る基礎控除の額は、110万円をそれぞれの特定贈与者の贈与税の課税価格であん分した金額とされており(相令5の2、措令40の5の2)、その贈与税の課税価格に異動が生じたときは、原則として、各特定贈与者に係るそれぞれの基礎控除の額を再計算することになります。5上記4の基礎控除の額の再計算特定贈与者(祖父)からの贈与により取得した財産の申告失念があった場合、その特定贈与者(祖父)及び他の特定贈与者(父)に係るそれぞれの基礎控除の額を再計算すると、他の特定贈与者(父)の相続時精算課税に係る基礎控除の額は減少することになります(その結果、父からの贈与に係る基礎控除後の贈与税の課税価格は増加します)。6増加する課税価格に特別控除の適用がある場合他の特定贈与者(父)の贈与により取得した財産について期限内に贈与税の申告をしている場合、その贈与税の期限内申告書に正しい特別控除を受ける金額の記載がなかったことについてやむを得ない事情があると税務署長が認めるときは、正しい特別控除額を記載した修正申告書の提出があれば、その増加する課税価格についても特別控除の適用を受けることができます。7具体的な贈与税額の計算贈与税額191万2,000円は、次のように計算します。父からの贈与により取得した財産(土地:1,500万円)に係る贈与税額再計算後の相続時精算課税に係る基礎控除額(当初申告:110万円)贈与税額(1,500万円(土地の価額)-66万円(イの金額)-1,434万円※)×20%=0円正しい特別控除を受ける金額の記載がなかったことについてやむを得ない事情があると認められることから、修正申告により増加する基礎控除後の贈与税の課税価格((110万円-66万円)=+44万円)についても、特別控除の適用があります。祖父からの贈与により取得した財産(1,000万円)に係る贈与税額再計算後の相続時精算課税に係る基礎控除額贈与税額(1,000万円(申告失念財産の価額)-44万円(イの金額)-0円※)×20%=191.2万円祖父からの贈与により取得した財産(1,000万円)は、期限内申告書に記載がないため特別控除は適用されません。修正申告により新たに納付すべき税額191万2,000円((2)ロの金額)-0円(当初申告額)=191万2,000円8相続時精算課税に係る基礎控除の額のあん分計算の端数処理同一年中に2人以上の特定贈与者からの贈与により財産を取得した場合におけるそれぞれの特定贈与者の相続時精算課税に係る基礎控除の額は、110万円をそれぞれの特定贈与者の贈与税の課税価格であん分した金額とされています(相令5の2、措令40の5の2)。この場合、法令上、その端数処理についての定めはありませんが、相続時精算課税に係る基礎控除の額が相続時精算課税適用者につき110万円とされていることから、それぞれの特定贈与者の相続時精算課税に係る基礎控除の額の合計額が110万円になるように、1円未満の端数を任意に調整して差し支えありません(相基通21の11の2-2(注)1)。提供:税経システム研究所
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2025/07/04 法人税
棚卸資産の意義及び評価方法の基礎(法人税)
1.概要棚卸資産の期末評価は大体の法人で行う項目であり、実務上もありふれたものですが、中小企業の多くは法定償却方法である「最終仕入原価法による原価法」による評価がほとんどであり、他の評価方法についてはその存在自体も知らないことも多く、また実際は最終仕入原価法とは違う方法で計算しているのにも関わらず、申請等をしていないケースも見かけます。今回は法人税における棚卸資産の意義と評価方法の基本を見ていきたいと思います。(1)棚卸資産の意義及び範囲(法法2二十、法令10)法人税法においては、以下の資産(有価証券及び一定の短期売買商品等を除く。)を棚卸しすべきものとして規定しています。なお、不動産販売業者が販売目的で購入した不動産や、修理業者が修理を施し販売するために取得した固定資産も棚卸資産に含まれます。商品又は製品(副産物及び作業くずを含む。)半製品仕掛品(半成工事を含む。)主要原材料補助原材料消耗品で貯蔵中のもの※上記に掲げる資産に準ずるもの事務用消耗品、作業用消耗品、包装材料、広告宣伝用印刷物、見本品その他これらに準ずる棚卸資産(各事業年度ごとにおおむね一定数量を取得し、かつ、経常的に消費するものに限る。)の取得に要した費用の額を継続してその取得事業年度の損金の額に算入している場合には、取得時の損金算入が認められます。(法基通2-2-15)(2)棚卸資産の評価方法(法令28)期末棚卸資産の評価方法として選定できる方法は大きく「原価法」と「低価法」に分けられ下記の通りとなります。棚卸資産の評価方法の選定をしない場合には、法定評価方法である「最終仕入原価法による原価法」による評価となりますが、実務上は中小企業については、特に選定をしておらず、この「最終仕入原価法による原価法」により計算をしているケースが多いと思われます。下記の通り選定できる方法は複数ありますので、会社の商品特性や事業の状況に応じて適切な選択ができれば経営にも大きく活かすことができるものと考えられます。棚卸資産の評価は、原則としてその種類、品質及び型(種類等)の異なるごとに行うのが基本となります。①原価法期末棚卸資産につき、次に掲げるいずれかの方法により算出した取得価額を期末棚卸資産の評価額とする方法をいいます。イ)個別法期末棚卸資産の全部について、その個々の取得価額をその期末評価額とする方法なお、一の取引で大量に取得され、かつ規格に応じて価額が定められているものについては選定することができません。実際の仕入れ単価を使いますので、商品の流れと棚卸資産の価格を一致させることができますが、棚卸資産の数や種類が多い場合には事務作業が煩雑となります。販売用不動産や宝飾品等個別管理できるものに適しています。ロ)先入先出法期末棚卸資産を種類等の異なるごとに区別し、その種類等の同じものについて、期末から最も近い時に取得をした棚卸資産から順次成るものとみなして計算した取得価額を期末評価額とする方法先に仕入れた商品から先に払い出していると仮定して計算を行いますので、物価上昇時には低い原価が計上され、逆に物価下落時は高い原価が計上されることになります。ハ)総平均法期末棚卸資産を種類等の異なるごとに区別し、その種類等の同じものについて、期首棚卸資産の取得価額の総額と期中取得棚卸資産の取得価額の総額との合計額をこれらの総数量で除して計算した価額を期末評価額とする方法計算が簡単に行えますが、期の最後の仕入まで平均単価が算出できないため、コスト把握がしづらくなります。月別総平均法、6月ごと総平均法も認められています(法基通5-2-3、5-2-3の2)ニ)移動平均法期末棚卸資産を種類等の異なるごとに区別し、その種類等の同じものについて、棚卸資産を取得した都度、その時点の平均単価を計算し、これを期末まで繰り返していき、期末に最も近い時において算定された平均単価をその期末評価額とする方法仕入ごとに平均単価を算定していきますのでタイムリーな原価把握が可能ですが、事務作業は繁雑となります。月別移動平均法は認められますが、6月ごと移動平均法は認められません(法基通5-2-3、5-2-3の2)ホ)最終仕入原価法期末棚卸資産を種類等の異なるごとに区別し、その種類等の同じものについて、期末に最も近い時に取得をした1単位当たりの取得価額をその期末評価額とする方法最後に仕入れた単価のみで計算するため実務事務は簡単ですが、仕入れ単価の変動が大きい時には適切な価格反映がされないことになります。上記の通り法定評価方法であり、実務上多くの中小企業で使われている方法です。へ)売価還元法期末棚卸資産をその種類等又は通常の差益の率※の異なるごとに区別し、その種類等又は通常の差益の率の同じものについて、下記算式で計算した金額をその期末評価額とする方法をいいます。なお、種類の著しく異なるものを除き、通常の差益の率がおおむね同じ棚卸資産はこれをその計算上の一区分とすることができます。(法基通5-2-5)また、製造業を営む法人が、原価計算を行わないため半製品及び仕掛品について製造工程に応じて製品売価の何割として評価する場合のその評価の方法は、売価還元法に該当するものとされます。(法基通5-2-4)多品目を扱う小売業や原価計算を行っていない製造業においてこの売価還元法が採用されているケースが多いです。税務上の売価還元法と会計上の売価還元法とは相違していますので注意が必要です。差益の率棚卸資産の通常の販売価額のうちにその通常の販売価額からその棚卸資産を取得するために通常要する価額を控除した金額の占める割合【計算式】売価還元法による評価額=期末棚卸資産の通常の販売価額の総額×原価率※「通常の販売価額の総額」は、値引き、割戻し等を行いそれを売上金額から控除しているような場合であっても、値引き、割戻し等を考慮しないところの販売価額の総額によります。(法基通5-2-7)「販売した棚卸資産の対価の総額」は、原則値引き後の金額となりますが、特定の者に対する値引きで一定要件を満たす場合は、値引き額を販売価額に加算できます。(法基通5-2-6)②低価法期末棚卸資産を種類等の異なるごとに区別し、その種類等の同じものについて、原価法のうちいずれかの方法により算出した価額と「当該事業年度終了の時における価額」※とのうちいずれか低い価額をその評価額とする方法低価法の適用により評価損を計上した場合、翌期首に戻し入れて益金算入する必要があります。(洗替え)評価損の計上が可能ですが、原価法の計算と時価の把握の両方を行うことになりますので実務事務負担は大きいものになります。「当該事業年度終了の時における価額」とは当該事業年度終了の時においてその棚卸資産を売却するものとした場合に通常付される価額(棚卸資産の期末時価)をいいます。この棚卸資産の期末時価の算定に当たっては、通常、商品又は製品として売却するものとした場合の売却可能価額から見積追加製造原価(未完成品に限る。)及び見積販売直接経費を控除した正味売却価額によります。(法基通5-2-11)(3)棚卸資産の評価方法の選定と変更(法令29、30)①新設法人設立事業年度に係る確定申告書の提出期限までに、事業の種類ごとに、かつ、商品又は製品(副産物及び作業くずを除く。)、半製品、仕掛品(半成工事を含む。)、主要原材料及び補助原材料その他の棚卸資産の区分ごとに「棚卸資産の評価方法の届出書」を納税地の所轄税務署長に届け出なければなりません。なお、この届出書の提出がない場合には、法定評価方法である「最終仕入原価法による原価法」による評価を行うことになります。②評価方法の変更棚卸資産の評価方法を変更しようとするときは、その新たな評価方法を採用しようとする事業年度開始の日の前日までに、その旨、変更しようとする理由その他一定の事項を記載した「棚卸資産の評価方法の変更承認申請書」を納税地の所轄税務署長に提出し承認を受けなければなりません。なお、申請書の提出があった場合においても、現在の評価方法を採用してから相当期間(3年)を経過していないときや変更する評価方法では所得金額の計算が適正に行われ難いと認められるときは、その申請は却下されます。(4)特別な評価方法(法令28の2)上記の原価法、低価法以外の評価方法により計算する場合には、採用しようとする評価方法の内容、その方法を採用する理由、事業の種類及び資産の区分などを記載した「棚卸資産の特別な評価方法の承認申請書」を納税地の所轄税務署長に提出し、承認を受ける必要があります。承認を受けた場合、承認を受けた日の属する事業年度以後の評価額の計算については、その承認を受けた評価方法を選定することができます。提供:税経システム研究所
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2025/07/02 所得税
相続と所得税 第29回 遺産分割の方法と資産の移転による所得税の取扱い その1
遺産相続は、明治時代に制定された旧民法では、家父長制度のもと、嫡子による家督相続とされていた。現在における民法のルールでは、相続人の間で、均分相続ができるようになっている。これは戦後の日本国憲法のもと、個人の尊厳を重視し、平等をベースとして定められたものである。今回は、遺産相続について、遺産分割の手続き、形式、それに伴い資産が移転したときの所得税の取扱いをみていく。1.遺産分割の実行手続き(1)遺産分割とは相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する(民法896条)。相続人が数人いるときは、相続財産は、その共有に属する(民法898条)。したがって、相続人が数人いるときは、その共同相続人について、共有に属している相続財産を、単有や新たな共有の形に移行させる手続きが行われる。この手続きを遺産分割という。(2)遺産分割の実行のしかた共同相続人の共有に属している相続財産を、単有や新たな共有の形に移行させ、最終取得者を決める遺産分割の手続きの方法には、遺言による分割、協議による分割、調停による分割、審判による分割がある。手続きは次のとおり行われる。はじめに、被相続人の遺言書の有無を確認する。無効ではない遺言書の場合、原則は、遺言書に従って遺産を分割し相続する。遺言書がない場合、遺言書が無効な場合、遺言書によるが遺産分割方法の指定がない場合などは、相続人全員で話し合いによる協議で決める。遺産分割協議が成立をしたら、遺産分割協議書に従って、遺産を分割し相続をする。遺産分割協議を行ったが協議が成立しない場合や、そもそも相続人全員が参加せず遺産分割協議を行うことができない場合などは、家庭裁判所へ遺産分割調停を申し立てる。調停案に相続人全員が同意すれば調停は成立し、調停調書に従って、遺産を分割し相続する。遺産分割調停が成立しない場合は、家庭裁判所の審判へ移行し、審判の決定により、審判の内容に従って、遺産を分割し相続する。家庭裁判所の審判に不服がある場合には、即時抗告ができ、高等裁判所で実質的な最終の審理、判断がなされる。2.遺産分割の方法(1)遺産分割の基準民法では、「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。」と遺産分割の基準を定めている(民法906条)。(2)遺産分割の型式の順序等遺産の分割の型式には、いわゆる現物分割、代償分割、換価分割、共有分割の4つがある。相続人全員による遺産分割協議や調停では、どのような遺産分割の型式によるかは、基本的に相続人全員の合意で決めることができる。相続人全員の合意が得られず、遺産分割協議や調停が成立しない場合、家庭裁判所の審判により決定されるが、それには、遺産分割の型式に優先順序がある。家庭裁判所は、民法第906条を「遺産分割の基準」とし、遺産分割の型式の優先順序は、第一に現物分割、次に必要であれば代償分割、代償分割ができない場合には換価分割が選択され、最終が共有分割である。遺産分割の型式内容現物分割いわゆる現物分割とは、それぞれの遺産をそのまま、共同相続人に分ける方法である。できる限り現物を相続人へ相続させることが望ましいため、基本的な遺産分割の方法となる。代償分割家庭裁判所の審判では、「特別の事情があると認められるときは、遺産の分割方法として、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対する債務を負担させて、現物の分割に代えることができる(家事事件手続法195条)」とされる。このいわゆる代償分割とは、相続開始時の遺産の形態を維持し、現物分割に代える方法として、現物分割の次の順序となる。換価分割家庭裁判所の審判では、「遺産の分割の審判のために必要があると認めるときは、相続人に対し、遺産の全部又は一部を競売することを命ずることができる(家事事件手続法194条1項)」とされる。また、「遺産の分割の審判をするため必要があり、かつ、相当と認めるときは、相続人の意見を聴き、相続人に対し、遺産の全部または一部について任意に売却して換価することを命ずることができる。ただし、共同相続人中に競売によるべき旨の意思を表示した者があるときは、この限りでない(家事事件手続法194条2項)」とされる。このいわゆる換価分割とは、共同相続した相続財産を直接分割の対象とはせず、換価してその対価である金銭を共同相続人間で分割する方法である。現物分割、代償分割ができない場合の方法の順序となる。共有分割共有分割とは、「物権法上の共有」とする分割である。各相続人の持分を決めて共有で分割する方法である。共有分割は問題を先送りし、紛争が生じる可能性があるため最終の順序となる。共有分割になると、民法の共有に関する規定が適用される。3.遺産分割の方法と所得税の取扱い---代償分割による資産の移転遺産分割は、それに伴い、相続人が資産を取得、資産を売却する、など資産の移転が生じる。それら資産の移転に係る所得税の取扱いをみていく。今回は、遺産分割の型式のうち、代償分割によって資産が移転したときの所得税の取扱いとする。(1)代償のために、相続人が交付する資産の移転への課税代償分割は、共同相続人の間で、現物による分割が困難なとき、土地などの細分化の防止、共同相続人のなかの特定の1人に相続させるなどの目的のために用いられる。このとき、代償分割によって現物を取得した相続人は、他の共同相続人に対して債務を負うので、債務の履行にあたり、自分が所有している資産を他の共同相続人へ移転することになる。この資産の移転に係る課税の取扱いは次のとおりである。〔所得税基本通達33-1の5〕遺産の代償分割(現物による遺産の分割に代え共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対する債務を負担させる方法により行う遺産の分割をいう。)により負担した債務が資産の移転を要するものである場合において、その履行として当該資産の移転があったときは、その履行をした者は、その履行をした時においてその時の価額により当該資産を譲渡したこととなる。(下線筆者)債務を履行する相続人が、自ら所有する資産を、他の共同相続人へ交付することは、その資産を他の共同相続人が所有することになり、そこで「資産の移転」が行われる。この資産の移転は、譲渡所得として所得税が課税される。交付した相続人は、債務履行の時の資産の価額に相当する収入が実現されたこととされ、その相当額をもって、債務を消滅させる。したがって、債務履行の時の資産の価額が譲渡所得の収入金額に該当する。共同相続人へ交付される資産の種類資産の移転に対する課税金銭債務の履行が、他の共同相続人へ金銭で行われる場合は、金銭を交付した相続人への課税はない。金銭以外の資産(土地など)債務の履行が、金銭以外の資産(土地など)で行われる場合は、その資産を交付した相続人は、債務を履行した時に、その時の価額により資産を譲渡したことになり、所得税が課税される。(2)資産の取得費①他の共同相続人が、代償として取得する資産の取得費他の共同相続人は、代償という債務の履行があったとき、代償分割により債務を負担した者から、その時の価額により資産を取得することになる。代償として、他の共同相続人が取得する資産の取得費とは、以下のとおりである。〔所得税基本通達38-7〕遺産の代償分割に係る資産の取得費については、次による。(2)代償分割により債務を負担した者から当該債務の履行として取得した資産は、その履行があった時においてその時の価額により取得したこととなる。代償にて交付される資産は、他の共同相続人にとって、相続を機に取得する資産ではあるが、被相続人の遺産ではない。したがって、遺産を相続した相続人が債務を履行した時、つまり、他の共同相続人が交付を受けた資産を取得した時の価額に相当する金額が、共同相続人が所有することになる資産の取得費となる。他の共同相続人が取得する資産の種類取得する資産の取得費金銭代償資産が金銭の場合は、他の共同相続人は金銭そのものを取得することになる。金銭以外の資産(土地など)代償資産が金銭以外の資産(土地など)の場合は、他の共同相続人はその資産が交付された時に、その時の価額により資産を譲受したことになる。②代償により債務を負担した者が、相続により取得した被相続人の遺産の取得費遺産を取得するためにその相続人は、代償として他の共同相続人へ債務に相当する金額を負担する。その債務に相当する金額は、遺産の取得に伴う負担であるが、遺産の取得費となるのか、その取扱いは次のとおりである。〔所得税基本通達38-7〕遺産の代償分割に係る資産の取得費については、次による。(1)代償分割により負担した債務に相当する金額は、当該債務を負担した者が当該代償分割に係る相続により取得した資産の取得費には算入されない。これは、債務を履行する相続人の代償金、つまり債務に相当する金額の取扱いであり、この代償金は、相続税の課税価格の計算上控除されるべきもので、遺産の取得による取得費とはならない。(3)相続財産を譲渡した場合の取得費加算相続により、取得した土地などの財産を、一定期間内に譲渡した場合、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算することができる「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」がある(租税特別措置法39条)。代償分割により取得した相続財産を譲渡するときには、この「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」によって譲渡資産の取得費に相続税額を加算できるが、調整計算が必要になる。〔租税特別措置法通達39-7〕代償金を支払って取得した相続財産を譲渡した場合における措置法第39条の規定(「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」)により譲渡資産の取得費に加算する相続税額についは、次の算式により計算をする。(注)1「確定相続税額」とは、措置法令第25条の16第1項第1号に掲げる相続税額をいい、同条第2項に規定する場合であっては同項の規定による相続税額をいう。(注)2支払代償金については、昭和34年1月28日付直資10「相続税法基本通達の全部改正について」通達11の2-10《代償財産の価額》に定める金額によることに留意する。【参考文献】国税庁HP所得税基本通達逐条解説(一般財団法人大蔵財務協会)譲渡所得・山林所得・株式との譲渡所得等関係租税特別措置法通達逐条解説(一般財団法人大蔵財務協会)司法統計年報(最高裁判所事務総総局)ほか提供:税経システム研究所
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2025/07/01 消費税
令和6年度消費税改正④ 消費税のプラットフォーム課税・金地金等の取得
1.消費税のプラットフォーム課税の創設(1)改正の趣旨デジタルサービス市場の拡大によりプラットフォームを介して多くの国外事業者が国内市場に参入している中で、国外事業者の納めるべき消費税の捕捉や調査・徴収が課題となっています。こうした課題に対し、国内外の事業者間の競争条件の公平性や適正な課税を確保するため、国外事業者が提供するデジタルサービスを対象にプラットフォーム課税を導入することとなりました。(2)改正内容①プラットフォーム課税の概要国外事業者がデジタルプラットフォームを介して行う電気通信利用役務の提供(事業者向け電気通信利用役務の提供に該当するものを除きます。以下「消費者向け電気通信利用役務の提供」といいます。)のうち、下記②の「特定プラットフォーム事業者」を介してその対価を収受するものについては、特定プラットフォーム事業者が行ったものとみなして、特定プラットフォーム事業者が申告・納税を行います(消法15の2①、〔図表1〕参照)。なお、国税庁ホームページでは、「消費税のプラットフォーム課税に関するQ&A(プラットフォーム事業者用)令和6年7月」(以下「プラットフォーム課税Q&A」といいます。)などの資料が公表されています。〔図表1〕消費者向け電気通信利用役務の提供に係る申告納税義務者(出典:国税庁「消費税のプラットフォーム課税について」(令和6年4月))②特定プラットフォーム事業者特定プラットフォーム事業者の指定国税庁長官は、プラットフォーム事業者のその課税期間において、その提供するデジタルプラットフォームを介して国外事業者が日本国内において行う消費者向け電気通信利用役務の提供に係る対価の額のうち、そのプラットフォーム事業者を介して収受するものの合計額が50億円を超える場合には、そのプラットフォーム事業者を「特定プラットフォーム事業者」として指定します。この指定は、「特定プラットフォーム事業者の指定届出書」(以下「指定届出書」といいます。)の提出期限(その提出期限までに指定届出書の提出がない場合は、指定通知を発した日)から6か月を経過する日の属する月の翌月の初日に指定の効力が生じます(消法15の2②、プラットフォーム課税Q&A問14)。特定プラットフォーム事業者の届出上記アの「特定プラットフォーム事業者」に該当する事業者は、その課税期間に係る確定申告書の提出期限までに指定届出書を所轄税務署長を経由して国税庁長官に提出しなければなりません(消法15の2③、プラットフォーム課税Q&A問13)。特定プラットフォーム事業者の公表等国税庁長官は、特定プラットフォーム事業者を指定したときは、その特定プラットフォーム事業者に対してその旨を通知するとともに、国税庁ホームページに次の事項を公表しなければなりません(消法15の2④、消令29⑤、プラットフォーム課税Q&A問14、〔図表2〕参照)。特定プラットフォーム事業者のデジタルプラットフォームの名称特定プラットフォーム事業者の氏名・名称特定プラットフォーム事業者の指定の効力が生ずる年月日なお、通知を受けた特定プラットフォーム事業者は、対象となる国外事業者に対し、プラットフォーム課税の対象となる旨及び対象となる年月日を速やかに通知しなければなりません(消法15の2⑤、プラットフォーム課税Q&A問16)。〔図表2〕特定プラットフォーム事業者名簿特定プラットフォーム事業者の氏名又は名称(日本語)(令和6年12月6日現在)iTunes株式会社アマゾンウェブサービスジャパン合同会社グーグルアジアパシフィックプライベートリミテッド任天堂株式会社(出典:国税庁「特定プラットフォーム事業者名簿」)確定申告書への明細書添付特定プラットフォーム事業者は、プラットフォーム課税の対象となる消費者向け電気通信利用役務の提供の対価の合計額等を記載した明細書を確定申告書に添付しなければなりません(消法15の2⑮、規則11の5⑤、プラットフォーム課税Q&A問17)。(3)用語の説明①電気通信利用役務の提供電気通信利用役務の提供とは、アプリ配信のほか、電子書籍・音楽の配信などの電気通信回線(インターネット等)を介して行われる役務の提供をいいます。②デジタルプラットフォーム「デジタルプラットフォーム」とは、不特定かつ多数の者が利用することを予定して電子計算機を用いた情報処理により構築された場であって、その場を介してその場を提供する者以外の者が消費者向け電気通信利用役務の提供を行うために、その消費者向け電気通信利用役務の提供に係る情報を表示することを常態として不特定かつ多数の者に電気通信回線を介して提供されるものをいい、例えば、アプリストアや電子書籍のオンラインモールなどが該当します(消法15の2①、プラットフォーム課税Q&A問3)。(4)改正時期上記(2)の改正は、令和7年4月1日以後に国内において行われる消費者向け電気通信利用役務の提供について適用します(令和6年改正法附則13⑥)。2.金地金等を取得した場合の事業者免税点制度等の制限(1)改正の趣旨高額特定資産は、一の取引の単位の税抜金額(1,000万円以上)で判定することとされていますが、金又は白金の地金等(以下「金地金等」といいます。)の取引による特例の恣意的な潜脱を防止するため、その課税期間中の金地金等の税抜仕入金額の合計額が200万円以上である場合について、高額特定資産を取得した場合と同じく、事業者免税点制度の適用及び簡易課税制度選択届出書の提出を制限することとなりました。(2)改正内容①取扱い事業者が、消費税の確定申告を本則課税で行う課税期間中に金地金等の課税仕入れを行った場合において、その課税期間中の税抜仕入金額の合計額(12か月換算)が200万円以上であるときは、次のア及びイの取扱いがあります。金地金等の課税仕入れを行った課税期間の翌課税期間から、その課税仕入れを行った課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間については、免税事業者となることはできません(消法12の4③、消令25の5④)。金地金等の課税仕入れを行った課税期間の初日から、同日以後3年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までの期間については、「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出することができません(消法37③五)。(3)届出様式の改訂上記(2)の改正に伴い、次の届出書の様式が改訂されました。高額特定資産の取得等に係る課税事業者である旨の届出書消費税簡易課税制度選択届出書(4)改正時期上記(2)の改正は、令和6年4月1日以後に国内において事業者が行う金地金等の課税仕入れ及び保税地域から引き取られる金地金等について、適用します(平成6年改正法附則13④)。提供:税経システム研究所
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