税務情報レポート
MJS税経システム研究所・税務システム研究会の顧問・客員研究員による租税を中心とした多彩な研究成果および最新の税制改正および制度や動向、判例研究等に関するリポートです。
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2025/12/17 消費税会計制度
リース会計に関する会計と税務(その4) リース会計基準の改正を理解するために
1.リース取引に関する消費税の取扱い今般のリース会計基準の改正を受けた消費税については、貸手側の処理についての改正があるだけです。したがって、借手側の対処としては、特に変わるところはありませんが、ファイナンス・リース取引、オペレーティング・リース取引について、確認をしておきたいと思います。(1)ファイナンス・リース取引と消費税借手におけるファイナンス・リース取引の場合、税務上も固定資産計上をすることになり、消費税においても、固定資産計上の金額に関して仕入れ税額控除を行うことになります。このことをあらためて解説したのが消費税基本通達5-1-9です。(リース取引の実質判定)5-1-9事業者が行うリース取引が、当該リース取引の目的となる資産の譲渡若しくは貸付け又は金銭の貸付けのいずれに該当するかは、原則として、所得税又は法人税の課税所得の計算における取扱いの例により判定するものとし、この場合には、次のことに留意する。(1)所法第67条の2第1項《リース取引に係る所得の金額の計算》又は法法第64条の2第1項《リース取引に係る所得の金額の計算》の規定により売買があったものとされるリース取引については、当該リース取引の目的となる資産の引渡しの時に資産の譲渡があったこととなる。(注)この場合の資産の譲渡の対価の額は、当該リース取引に係る契約において定められたリース資産の賃貸借期間(以下9-1-31及び11-3-2の2において「リース期間」という。)中に収受すべきリース料の額の合計額となる。(2)所法第67条の2第2項又は法法第64条の2第2項の規定により金銭の貸借があったものとされるリース取引については、当該リース取引の目的となる資産に係る譲渡代金の支払の時に金銭の貸付けがあったこととなる。すなわち、法人税法、所得税法でリースであるとされる場合、すなわちリース会計基準のリース取引のうちオペレーティング・リース取引でない場合には、売買として処理をするため、資産の引き渡しのタイミングが消費税における譲渡の時点となります。通達の(2)は、いわゆるセールアンドリースバック取引であり、これは金融取引だとされることを述べています。ということで、ファイナンス・リース取引については、法人税において資産計上と減価償却の処理をするわけで、消費税での取扱いもこれに準じることになります。ただし、1つ留意するべき点が利息相当額の取扱いです。6-3-1(金融取引及び保険料を対価とする役務の提供等)法別表第二第3号《利子を対価とする貸付金等》の規定においては、おおむね次のものを対価とする資産の貸付け又は役務の提供が非課税となるのであるから留意する。(平11課消2-8、平13課消1-5、平14課消1-12、平15課消1-13、平19課消1-18、平20課消1-8、平22課消1-9により改正)(中略)(17)所法第67条の2第3項《リ-ス取引の範囲》又は法法第64条の2第3項《リ-ス取引の範囲》に規定するリース取引でその契約に係るリース料のうち、利子又は保険料相当額(契約において利子又は保険料の額として明示されている部分に限る。)したがって、利息相当額については、課税仕入れではなく非課税仕入れとして処理をしなければならないことになります。(2)オペレーティング・リース取引と消費税リース会計基準では、オペレーティング・リース取引も資産計上であり、法人税法では賃貸借処理となっています。消費税法もこの取扱いに準じることになりますので、賃貸借処理によることとなり、賃借料として支払う都度その支払金額が課税仕入となります。ここで問題は、多くの企業では会計システムにより消費税申告書を自動作成しているという点です。リース会計基準により使用権資産を計上した際には課税仕入にはせず、リース料を支払う際にはリース債務の減少と利息相当額の計上を行う部分を課税仕入にしなければならないという問題を会計システムでの運用上、どのように対処するかが実務的には課題になると思われます。そこで次節では、オペレーティング・リース取引での消費税の会計処理方法について、会計システムで消費税を自動計算する前提の下で、検討します。2.オペレーティング・リース取引での消費税の取扱い(1)オペレーティング・リース取引と消費税連載第3回までの数値例では、リース会計基準により以下のような仕訳が行われていました。前述の通り、使用権資産を計上する段階で仮払消費税がデフォルトの科目マスターにより計上されることになります。しかし、法人税法第53条に基づく仕訳は年間累計ベースで以下のようになるはずであり、消費税でも同様に考えることになります。会計システムでは、リース会計基準に基づく仕訳が起きている中、消費税申告書の作成は法人税法・消費税法ベースでの計算を行わせなければなりません。すなわち、仕入税額控除は、712,591円ではなく36,517円となるようにシステム上、登録しておく必要があります。会計システムにおいて、「仮払消費税」という科目において712,591円を取り消して、36,513円を登録するといった仕訳を入れれば、消費税の計算はできるかもしれません。しかし、科目別税区分一覧表といった消費税のチェック資料を出力した際、使用権資産に対応する仕入税額がなく、賃借料という科目に金額がなくても仕入税額があるといった形の異常点があるように見える表が出力されることになりそうです。そこで、筆者の私案にすぎませんが、期中においては賃貸借処理で仕訳入力をしておいて、期末(企業によっては四半期末ごと)において、賃貸借処理からリース会計基準に基づく会計処理に決算修正を入れると解決するのではないでしょうか。それを次節で検討します。(2)消費税計算を優先した仕訳の検討①リース契約締結時点の仕訳リース会計基準に従うならば、リース資産の計上を行うべきところですが、これを決算修正で行うという想定です。したがって、このタイミングでは<仕訳なし>が会計処理ということになります。②リース料支払い時の仕訳(1月の初回分と2月分)リース料支払時には、リース会計基準ではリース負債の減少を認識しますが、税法基準では、賃借料の計上ということになります。そこで、仕訳は以下のようになり、支払総額を賃借料として仮払消費税を認識するため、利息相当額についての支払利息の計上はしません。②-2リース料支払い時の仕訳(3月)③減価償却費の計上減価償却費の計上は、リース会計基準に基づく仕訳なので決算修正仕訳として計上します。④年間累計での仕訳(①から③の合計)以上の結果、リース契約の開始から最初の決算期までの仕訳の合計は以下のようになります。⑤リース会計基準への修正仕訳リース会計基準に基づく年間累計仕訳は以下のとおりになっていました。ただし、使用権資産の計上における仮払消費税は、「前払費用」もしくは「長期前払費用」として計上しておくことが良いのではないでしょうか。仮払消費税の科目を使ってしまうと消費税申告書の計算上、仕入税額控除が過大になる可能性があるためです。そして、これは資産に係る控除対象外消費税額等と同様のものと考えることができますので、年間の賃借料に係る消費税額分だけ取り崩していけばよいのだと考えます。この結果、修正仕訳としては以下のようになります。皆様の事務所、顧問先で利用している会計システムにおける消費税計算の仕組みが十分に理解できていない場合、上記のような工夫で期中は法人税法・消費税法に準拠した会計処理を行うことで、消費税計算の正確性を確保することができるものと考えます。なお、ファイナンス・リース取引であっても、リース料総額が300万円以下といった重要性の基準等により会計処理を賃貸借処理で行っていく場合、消費税の処理が気になるところです。また、中小企業では、中小企業の会計指針にはリース会計基準は適用されていませんので、そもそも従来通りの賃貸借処理を行うことになります。そこについては、以前より公表されている国税庁の質疑応答事例「所有権移転外ファイナンス・リース取引について賃借人が賃貸借処理した場合の取扱い」により、リース料について支払うべき日の属する課税期間における課税仕入れとする処理(分割処理)を行うことが認められています。したがって、本来、リース取引開始時に使用権資産に対応する仕入税額控除をしなければならないといった問題点はありません。提供:税経システム研究所
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2025/12/12 所得税国際税務
「給付付き税額控除」って何ですか? ~米国勤労税額控除をヒントに~
はじめに最近、日本でも給付付き税額控除の導入について議論が始まっています。給付付き税額控除は、米国や英国など多くの国で実施されていますが、日本では経験がありません。また、一口に給付付き税額控除といっても、色々なパターンがありますが、「税額が減少して、場合によっては政府から給付金が支給される」といった情報が出ているのみです。筆者自身、「給付付き税額控除は、生活保護と似ているのではないか。」と質問を受けたこともあり、一般的な理解が不十分と感じています。そこで、米国で採用されている制度の概要と、日本で給付付き税額控除を導入する際に問題になる事項について、説明いたします。1.給付付き税額控除とは日本の給付付き税額控除制度が議論され始めたばかりで、その骨格がわかりません。本稿では、米国の制度を参考にして、解説していきます。米国の給付付き税額控除は、勤労税額控除(EITC)という名称です。勤労税額控除は、その名の通り、➀所得税(給与所得者・事業所得者)を対象とすること、➁扶養している子等の人数に応じて給付額が異なること、③所得制限があること、④65歳未満が対象であること、⑤投資所得が一定額以下であること、などを満たす場合に適用されます。つまり、高所得者は対象から外れますし、中所得者であっても扶養している子等の人数が多ければ、低所得者よりもより多い給付を受けられる制度です。これをイメージ図で示すと、図表1のとおりです。≪図表1:給付付き税額控除のイメージ図≫(出典:筆者作成)2.米国の勤労所得税額控除の概要ここでは米国の勤労所得税額控除の概要を説明します。米国の勤労所得税額控除の目的は、低所得者から中所得の労働者を支援することです。つまり、現役世代のための制度です。そして、勤労意欲を促進して、労働市場への参加を促進しています。65歳以上の高齢者については、受け取る年金に関して別の優遇制度があるため、本制度は受けられません。米国勤労税額控除は1975年に導入され、その後、何度も制度が改正されてきました。現在は、給与所得者(年金は除きます)・事業所得者で投資所得が一定額(2025年は11,940ドル)以下の場合に適用されます。なお、給付額は所得額(具体的には、調整後所得金額)と扶養子女の数によって変動します。2025年においては、図表2のようになっています(米国では物価調整するため、金額は毎年変わります)。≪図表2:所得制限額と最高給付額≫(出典:IRS資料より筆者作成)図表2は、例えば、独身者の場合で扶養する子等が0人であっても調整後所得金額が19,104ドル以下であれば、649ドルの税額控除を受けることができるということを示しています。仮に、算出所得税額が649ドル以下(例えば、300ドル)の場合は、差額(この場合、349ドル)が還付されます。また、算出所得税額が649ドルを超える(例えば、1,000ドル)場合には、1,000-649=351ドルだけを納税すればいいことになります。また、夫婦合算申告者に扶養する子等が3人いる場合、調整後所得金額が68,675ドル以下の場合には、最高8,046ドルの税額控除を受けることができます。図表2を見ていただくと、扶養する子等の人数により所得制限額と最高還付額が異なります。米国の給付付き税額控除制度には50年の歴史があります。米国は小切手社会でしたが、確定申告書において還付されることが多いので、確定申告書に口座情報が記載されている場合がほとんどです。つまり、米国国民(居住者)は口座情報を国に提供しているのです。その結果、5年前の新型コロナ禍における給付金がスピーディに国民の手に渡りました。3.日本で給付付き税額控除を導入する際に問題となること(1)確定申告の有無上述したように、給付付き税額控除は、原則として、国の制度ですので、所得税の問題です。個人の所得金額と扶養する子等の人数によりある程度の還付金額(1ドル=150円とすると、最大で120万円超)が発生するので、相当の財源が必要です。ただし、ここでは財源を云々することはしません。それよりも重要なことは、確定申告の有無です。米国を含む日本以外の先進国は、確定申告が義務付けられています。一方、日本の給与所得者の大部分は、年末調整のみで課税関係が終結するので確定申告をしません。そこで、米国を含む他の先進国の国税当局が居住者の所得金額を把握しているのに対して、日本の国税庁は居住者の全ての所得を把握していないので、米国などと同じ制度を導入することができません。例えば、米国では毎年1億5000万枚を超える確定申告書が提出されている(夫婦合算申告制度もあります)のに対して、日本では2,000万枚強です。ということで、確定申告をする居住者が少ない日本では、他の先進国と同じような給付付き税額控除制度が導入できないかもしれません。(2)マイナンバーの活用確定申告が義務付けられていない日本においても、所得情報の収集は可能です。日本でもマイナンバーの活用が始まりました。国民は、国とつながり始めました。そこで、給与の源泉徴収義務者にマイナンバーを記載してもらい、年間の給与収入金額や家族構成などの必要な情報を国税庁に通知します。また、高齢者については、原則として、給付付き税額控除の対象とはならないとは思いますが、日本年金機構などの年金支払者にマイナンバーと紐付けて、その情報を国税庁に集約します。同じことは、利子・配当などを取り扱う金融機関に、生命保険料控除については生命保険会社に、地方税情報を地方公共団体に、それぞれ国税庁に情報を集約してもらいます。一方、国民は「マイナポータル」を通じて、行政が保有する以下の情報を確認します。すなわち、➀所得税・住民税の課税情報、➁社会保険料や医療費情報、③生命保険料控除証明書、④年金記録などの情報です。そして、もっとも重要なことは、国民一人ひとりの口座番号をマイナンバーと紐付けることです。このようにすることにより、国は居住者の所得を正確に把握することができます。(3)給付金支払の際、地方公共団体職員の負担が軽減されるこれまで、景気対策などで国が国民に対して給付金を配る際、地方公共団体の職員に過度な負担を負わせてきました。上のように、「マイナポータル」を通じて、居住者と国との間の連携ができることになれば、他の先進国のように給付付き税額控除が導入できるようになります。その結果として、国が国民に対してスピーディに給付金を支払うことができるようになります。まとめ本稿では、米国の勤労税額控除に基づいて給付付き税額控除を説明してきました。米国型の給付付き税額控除を導入すると、扶養する子等の人数によって所得税額の還付額(給付額)が増えることになり、結果として子育て支援をすることができます。もっとも、米国以外の国でもその国の事情に即した給付付き税額控除が導入されています。G7諸国では、カナダとフランスが米国と同じような制度を持っており、対象者は勤労者に限定しています。他の国々では、それぞれに低所得者対策を講じているようです。いずれにしても、日本では給付付き税額控除の議論が始まったばかりです。まずは、給付付き税額控除の制度と対象者を理解するところから始めた方がいいでしょう。多くの国のように勤労世代のための制度にするのか、全世代を対象にするのか、が大きな分岐点と思っています。その上で、少子高齢化が急速に進んでいる日本にとって、最適な制度を構築できるようにしていければと考えています。提供:税経システム研究所
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2025/12/09 消費税
消費税の納税義務判定のポイント解説(第26回) 過去にインボイス登録をしていた事業者の留意点
インボイス制度が導入されて2年が経過しました。実務の現場では、いったんインボイス登録をしたものの、その後登録を取りやめる事業者もいるようです。今回は、かつてインボイス登録をしていた個人事業者Aと個人事業者Bを題材に、インボイス登録をやめる際の手続きと、その後における納税義務判定上の留意点について解説します。【前提条件】個人事業者A:令和5年10月1日登録(課税売上高:約800万円/年)個人事業者B:令和6年2月1日登録(課税売上高:約600万円/年)AおよびBは、インボイス登録により課税事業者となったが、令和6年11月中に「登録取消届出書」を提出している。1.インボイス登録をやめる際の手続きと登録の効力適格請求書発行事業者がその登録をやめたい場合には、納税地を所轄する税務署長に「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」(以下「登録取消届出書」という。)を提出します(消法57の2⑩一)。登録取消届出書の提出があった場合、原則として、その提出があった日の属する課税期間の翌課税期間の初日に登録の効力が失われます。本事例では、令和6年11月中に登録取消届出書を提出しているため、令和7年1月1日にインボイス登録の効力が失われ、AおよびBはいずれも令和7年は適格請求書発行事業者ではなくなります。なお、登録取消届出書を課税期間の末日から起算して15日前の日の翌日からその課税期間の末日までの間に提出した場合には、登録の効力が失われるのは翌々課税期間の初日になります。仮に、本事例で登録取消届出書を令和6年12月18日から令和6年12月31日の間に提出した場合、登録の効力が失われるのは令和8年1月1日になります。この場合、令和7年は適格請求書発行事業者としての申告が必要になります。このため、登録取消届出書の提出時期には十分な注意が必要です。国税庁では、インボイス登録をやめる場合などに提出すべき書類について、個人事業者と法人に分けて解説しています。詳細は、国税庁ホームページの以下のページで確認できます。(出典)「インボイス発行事業者の登録を取り消す場合などに提出すべき書類」国税庁https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0024005-050_01.pdf2.インボイス登録をやめた後の納税義務判定の留意点インボイス登録をやめた後は、原則として、その事業者の基準期間における課税売上高などにより納税義務を判定します。事業者免税点制度の全体像は、消費税の納税義務判定のポイント解説(第1回)「事業者免税点制度とは」を参照してください。ただし、過去に登録の経過措置によりインボイス登録をした事業者は、適格請求書発行事業者でなくなった後も課税事業者が強制される、いわゆる「2年縛り」が適用されるケースがあるため注意が必要です。3.登録の経過措置と「2年縛り」免税事業者がインボイス登録を受けるためには、原則として、課税事業者選択届出書を提出しなければなりませんが、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中は、登録申請書のみで「登録希望日」から登録し課税事業者となることができる措置(登録の経過措置)が講じられています(28年改正法附則44④、消基通21-1-1)。登録の経過措置の適用期間は、令和4年度税制改正前においては令和5年10月1日の属する課税期間(個人事業者の場合は令和5年中の登録)に限られていました。これが改正により、登録開始日が令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間(個人事業者では令和6年から令和11年までの登録)に延長されました。ただし、この延長された期間において登録の経過措置により登録をした場合には、課税事業者が強制される「2年縛り」が適用される改正も同時に行われました(28年改正法附則44⑤、インボイス通達21-1-1(注))。この「2年縛り」はあくまで改正により延長された期間に登録を受けた場合に限り適用されるため、もともと登録の経過措置の適用が認められていた令和5年10月1日の属する課税期間中に登録を受けた場合には適用されません。整理すると、次のとおりです。登録開始日「2年縛り」令和5年10月1日の属する課税期間適用なし令和5年10月1日の属する課税期間の翌課税期間~令和11年9月30日までの日の属する課税期間適用あり本事例に当てはめると、個人事業者Aは令和5年10月1日に登録しているため、「2年縛り」の適用はありません。したがって令和7年は適格請求書発行事業者ではなく、基準期間における課税売上高は1,000万円に満たないため、免税事業者になります。一方、個人事業者Bは令和6年2月1日に登録しているため、「2年縛り」が適用されます。課税事業者であることが強制される期間は、登録開始日(令和6年2月1日)の属する課税期間(令和6年1月~12月)の翌課税期間(令和7年1月~12月)から、登録開始日以後2年を経過する日(令和8年1月31日)の属する課税期間(令和8年1月~12月)までの各課税期間となります。【個人事業者Bの「2年縛り」の適用期間】したがって個人事業者Bは、令和7年は適格請求書発行事業者ではないものの、課税事業者として消費税の申告が必要になります。このようにインボイス登録を取りやめた後でも、過去の登録状況によっては課税事業者としての消費税の納税義務が生じることがあります。したがって、納税義務判定を行う際には、過去のインボイスの登録時期や登録の経過措置の適用の有無などを確認することが重要です。提供:税経システム研究所
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2025/12/03 相続・贈与税
相続税の重要テーマポイント解説(相続財産取得の有無による贈与加算)
【ポイント】生前に贈与を受けた財産の価額を相続税の課税価格に加算しますが、暦年課税と相続時精算課税の加算の仕方が異なることに留意します。【解説】1贈与財産価額の加算相続財産とは、相続開始時に被相続人が所有していた財産だけではありません。民法には特別受益という概念があります。遺留分侵害額請求の計算において、被相続人から生前に贈与を受けた財産についても相続財産に加算して計算します。これは生前の不当な財産分散の抑止のためだと考えられます。分与を受けなかった相続人の保護でもあります。また、加算する場合、贈与を受けた時の価額ではなく、相続開始時の価額に引き直して計算します。2相続税法の取扱い被相続人から生前に贈与を受け、受贈金額が110万円を超えた場合、暦年課税の贈与税の申告と納税をします。贈与を受けた財産の価額をとめどもなく加算することは、実務的に大変困難です。そこで、相続開始前7年以内(以下「加算対象期間」といいます。)の贈与財産の価額(以下「加算対象贈与財産」といいます。)及び相続時精算課税の適用を受けた贈与財産の価額を加算することにしています。加算するのは、被災した財産の特例(措法70の3の3)を除き、贈与を受けた時の金額です。相続税法における贈与財産の加算は、もちろん民法の特別受益の概念を引き継いだものでしょう。また、税務の特殊性として相続税回避を狙った贈与が一般的であることから、相続税贈与税の一体課税の一環として加算していると考えられます。とりわけ加算期間を延伸したことが証左となっています。3暦年課税の取扱い(1)加算する者相続税法第19条第1項の規定により、加算対象贈与財産の価額を加算するのは「相続又は遺贈(以下「相続等」といいます。)により財産を取得した者」です。つまり、相続財産を取得しない相続人又は受遺者は、生前いくら贈与を受けていたとしても相続税の対象にならず、加算対象贈与財産の価額を加算しません。相続放棄をした相続人についても同様加算する必要はありません(相基通19-3)。相続放棄したとしても、例えば生命保険金のようなみなし相続財産を取得している場合、相続財産を取得したことになるので加算の対象となることに注意してください。(2)贈与期間生前の贈与を加算する場合の贈与を受けた期間は2024年(令和6年)1月1日以後の相続開始から、相続開始前7年以内です。なお、2023年(令和5年)12月31日以前は相続開始前3年以内の贈与が加算の対象でした(相法19①)。加算対象期間とは、原則として、相続開始日から遡って7年前の応当日をいいますが、経過措置があります(相基通19-2)。(3)加算対象贈与財産の価額加算対象贈与財産は、贈与を受けた時の金額です。民法の規定による相続開始時の時価を加算することは、税務においては煩雑すぎることから贈与時の価額を加算します。ただし、2024年1月1日以後については、相続開始前3年を超え7年以内の贈与は、その合計額から100万円を控除した金額が加算されます。これは、些少な贈与金額まで拾い上げて加算することの煩雑さを避けるためにできた規定です。相続開始前3年以内の贈与については、控除額の規定はありませんので、少額贈与であっても全額加算されます。4相続時精算課税の取扱い相続時精算課税とは受贈財産の価額を「相続の時に精算する」制度です。そのため相続時精算課税の適用を受けている場合、相続財産の取得の有無にかかわらず受贈財産の価額を、特定贈与者(相続時精算課税選択届出書を提出した受贈者に係る贈与者のことをいいます。以下同じ。)の相続税の課税価格に加算します。相続財産を取得しなかった者についての財産は「みなし相続財産」として相続税の課税対象となります。相続等により財産を取得しなかった場合とは相続の放棄も該当します。2024年1月1日以後の贈与については、基礎控除が創設されたことにより、相続税の課税価格の加算は、次の規定となっています。財産の取得者相続税の課税価格条文相続等により財産を取得した相続時精算課税適用者特定贈与者から相続等により財産を取得した相続時精算課税適用者は、特定贈与者からの贈与により取得した財産で第21条の9第3項の規定の適用を受けるものの価額から第21条の11の2第1項の規定による控除(基礎控除)をした残額を相続税の課税価格に加算した価額をもって、相続税の課税価格とする。相法21の15①相基通21の15-2相基通21の15-2の2相続等により財産を取得しなかった相続時精算課税適用者特定贈与者から相続等により財産を取得しなかった相続時精算課税適用者は、特定贈与者からの贈与により取得した財産で第21条の9第3項の規定の適用を受けるものを特定贈与者から相続(相続時精算課税適用者が特定贈与者の相続人以外の者である場合には、遺贈)により取得したものとみなして第1節の規定を適用する。特定贈与者から相続又は遺贈により取得したものとみなされた財産に係る相続時精算課税の規定の適用については、次に定めるところによる。1財産の価額は、贈与の時における価額とする。2財産の価額から基礎控除をした残額を相続税の課税価格に算入する。相続時精算課税に係る基礎控除をした残額を加算する(相基通21の16-1他)。相法21の16①相基通21の16-1(注)5加算のまとめ課税方式相続財産の取得の有無相続財産に加算の有無2024年以後暦年課税取得あり加算する相続開始前3年を超え前7年以内については、合計額から100万円の控除あり取得無し加算しない-相続時精算課税取得あり加算する各年分の贈与について110万円の基礎控除あり取得無し加算する《贈与税の実務判断》暦年課税では、相続財産を取得しなかった場合は相続財産に贈与財産は加算しない。しかし、相続時精算課税を適用した場合、特別控除額が大きいため相続時点で十分財産の贈与を受けたとしても、相続財産を取得しないケースも出てくる可能性がある。このため、相続財産を取得しない場合でも相続税の納税義務が生じるとしたものである。加算しないでよいとするとこの特例の存在意義がなくなる。富裕層が精算課税を適用すると必ず相続税の納税義務者となってしまう。相続税対策としては不都合が生じる。提供:税経システム研究所
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2025/11/26 相続・贈与税財産評価
貸家建付地の評価と小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等における「一時的に賃貸されていなかった家屋(空室)の敷地」に対する判定の相違
1貸家建付地の評価(1)貸家建付地の評価の考え方家屋の借家人は家屋に対する権利を有するほか、その家屋の敷地についても、家屋の賃借権に基づいて、家屋の利用の範囲内で支配権を有していると認められ、逆にその範囲において地主は利用についての受忍義務を負うことになっています。そのため、貸主が借家人の有する支配権を消滅させるためには、いわゆる立退料の支払いを要する場合もあり、また、その支配権が付着したままの状態でその宅地を譲渡する場合にはその支配権が付着していないとした場合における価額より低い価額でしか譲渡できないことになります。そこで、貸家(借家権の目的となっている家屋)の敷地である貸家建付地の価額は、その宅地の自用地としての価額から、その価額にその宅地に係る借地権割合とその貸家に係る借家権割合との相乗積を乗じて計算した価額を控除した価額によって評価するのが相当であると考えられています。(2)貸家建付地の評価貸家(評基通94≪借家権の評価≫に定める借家権の目的となっている家屋)の敷地の用に供されている宅地(以下「貸家建付地」とする)の価額は、次の算式により計算した価額によって評価します(評基通26)。上記の算式における「賃貸割合」は、その貸家に係る各独立部分がある場合に、その各独立部分の賃貸の状況に基づいて、次の算式により計算した割合によります。(3)課税時期に「一時的に賃貸されていなかったと認められる家屋の敷地」について貸家建付地として評価する宅地は、課税時期において現実に貸家の用に供されていたか否かにより判定すべきですが、課税時期において、たまたま一時的に空室になった場合についてまで硬直的な判断を行うことは、実情に即したものとはいえないものと考えられることから、空室の敷地について次のような判定基準を設けています。貸家建付地の評価において、課税時期に「一時的に賃貸されていなかったと認められる家屋の敷地」とは、次の①から④のいずれにも該当する場合をいいます(資産評価企画官情報第2号平成11年7月29日、評基通26(注)2)。したがって、次の①から④のいずれか一つでも満たさなかった場合には、貸家建付地の評価が認められず、その宅地は自用地として評価されます。2小規模宅地等の減額特例における貸付事業用宅地等の判定(1)小規模宅地等の減額特例のあらまし相続人等が、相続等によって取得した財産のうち、その相続開始の直前において被相続人等の事業の用(貸付事業用宅地等が含まれる)又は居住の用に供されていた宅地等のうち一定の宅地等がある場合には、その宅地等のうち一定の面積までの部分(貸付事業用宅地等は200㎡が限度)については、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、減額される割合等の区分ごと割合(貸付事業用宅地等は50%)が減額されます(措法69の4)。(2)貸付事業用宅地等の範囲貸付事業用宅地とは、被相続人等の貸付事業(不動産貸付業その他政令で定めるものに限る)の用に供されていた宅地等で、一定の要件を満たす宅地等について相続人等が相続等により取得したもの(相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等などを除く)をいいます(措法69の4③四)。(3)貸付事業用宅地等の判定(原則)相続人等が相続等により取得した宅地等について、「被相続人等の貸付事業の用に供されている宅地等」(措法69の4③四)であるか否かの判定は、課税時期において、その宅地等が現実に貸付事業の用に供されていたか否かにより判定します。(4)上記(3)の緩和措置課税時期において、従前から行っていた貸付事業がたまたま一時的に中断されたに過ぎない場合にまで、前記(3)と同様の判定を行うことは、実情に即したものとはいえないものと考えられることから、措置法通達69の4-24の2では、被相続人等の貸付事業の用に供されている宅地等(措法69の4③四)には、貸付事業に係る建物等のうち相続開始時において一時的に賃貸されていなかったと認められる部分がある場合におけるその部分に係る宅地等の部分が含まれることを留意的に明らかにしています。(5)共同住宅の一部が空室となっていた場合令和3年4月1日付で公表された「資産課税課情報(第9号国税庁資産課税課(事例6)共同住宅の一部が空室となっていた場合)では、19頁(参考)で次のような記述があります。被相続人等の事業の用に供されていた宅地等とは、相続開始の直前において、被相続人等の事業の用に供されていた宅地等で、その宅地等のうちに被相続人等の事業の用に供されていた宅地等以外の用に供されていた部分があるときは、その被相続人等の事業の用に供されていた部分に限られる(措令40の2④)。例えば、相続開始の直前に空室となったアパートの1室については、相続開始時において継続的に貸付事業の用に供していたものと取り扱うことができるか疑義が生ずるところであるが、空室となった直後から不動産業者を通じて新規の入居者を募集しているなど、いつでも入居可能な状態に空室を管理している場合は相続開始時においても被相続人の貸付事業の用に供されているものと認められ、また、申告期限においても相続開始時と同様の状況にあれば被相続人の貸付事業は継続されているものと認められる。したがって、そのような場合は、空室部分に対応する敷地部分も含めて、アパートの敷地全部が貸付事業用宅地等に該当することとなる。3貸家建付地の評価と貸付事業用宅地等の減額特例における空室判定の比較「一時的に賃貸されていなかったと認められる家屋の敷地」の判定について、貸家建付地の評価と貸付事業用宅地等の減額特例を比較すると、上記1(3)および2(3)・(4)・(5)から下表のようになります。貸家建付地の評価貸付事業用宅地等の減額特例①各独立部分が課税時期前に継続的に賃貸されてきたものであること。①同左②賃借人の退去後速やかに新たな賃借人の募集が行われ、空室の期間中、他の用途に供されていないこと。②同左③賃貸されていない期間が、課税時期の前後の例えば1か月程度であるなど一時的な期間であること③賃貸されていない期間について1か月程度の言及なし。④課税時期後の賃貸が一時的なものではないこと。④同左4実務上の対応(1)貸家建付地の評価貸付事業用宅地等における「空室期間が1か月程度であるなど一時的な期間であること」について、納税者の主張が認められた裁決もありますが(平成20年6月12日:取消し)、ほとんどの争いで納税者の主張が退けられています(平成28年12月7日:棄却他)。実務上は、空室期間が「課税時期の前後の1か月程度」を超えた場合には、空室部分の家屋の敷地は貸家建付地の評価が認められないと考えるべきと思われます。(2)貸付事業用宅地等の減額特例貸付事業用宅地等の減額特例では課税時期に賃貸されていることを原則としつつ緩和措置を設けており、その緩和措置では1か月程度の期間制限に言及していません。そのため、空室期間が1か月程度を超えて数か月が経過したとしても貸付事業用宅地等の減額特例が適用されるものと想定されます。しかし、空室期間の言及がないとしても、相続税の申告期限(10か月)まで空室であったとすれば、空室期間が長期化していることから、貸付事業用宅地等の減額特例の適用は認められないと考えるべきと思われます。提供:税経システム研究所
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2025/11/21 所得税税制改正
大学生世代親族の控除について~特定扶養親族・特定親族・源泉控除対象親族の整理~
令和7年度税制改正により、一定の大学生世代の親族に対する「特定親族特別控除」が創設されました。この世代の一定の扶養親族については、昨年までは扶養控除の中の「特定扶養親族」として63万円の控除がありましたが、今回は、この「特定扶養親族」と創設された「特定親族」の範囲の違いと「特定親族特別控除」の概要、また、やはり改正された源泉徴収事務に係る「源泉控除対象親族」の範囲も踏まえて、大学生世代親族の控除について整理をしていきたいと思います。1特定扶養親族の範囲(1)控除対象扶養親族控除対象扶養親族とは、生計を一にしている合計所得金額58万円(改正前は48万円)以下の親族のうち、年齢が16歳以上の者をいいます(所法2①三十四・三十四の二)。(2)特定扶養親族特定扶養親族とは、控除対象扶養親族のうち、年齢が19歳以上23歳未満の親族等をいい(所法2①三十四の三)、控除対象扶養親族に該当していることを前提として、その親族の合計所得金額の要件が58万円に引き上げられました(改正前48万円)。特定扶養親族を有する場合は、63万円の控除を受けることができます(所法84①かっこ書き)。この63万円の控除額については改正前と変更はありません。2特定親族の範囲特定親族とは、生計を一にする年齢が19歳以上23歳未満であり、合計所得金額が123万円(給与収入188万円に相当)以下の親族で控除対象扶養親族に該当しない者(合計所得金額が58万円超の者)をいいます(所法84の2①)。3特定扶養親族と特定親族の相違特定扶養親族と特定親族とも、大学生世代の親族の年齢はいずれも19歳以上23歳未満ですが、その親族の合計所得金額が58万円以下であるか、58万円超123万円以下であるかの相違があります。4特定親族特別控除の創設居住者が特定親族を有する場合には、特定親族特別控除として、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から、その特定親族1人につき、その特定親族の合計所得金額に応じ、次のとおりの控除額を控除することとされました(所法84の2①③)。【国税庁資料】5特定扶養控除と特定親族特別控除の関係「特定扶養親族と特定親族の相違」の関係を示すと、次の図のようになります。大学生世代の親族の合計所得金額が58万円以下であれば(特定扶養親族の範囲に含まれます)、扶養控除として63万円が控除され、合計所得金額が58万円超123万円以下であれば(特定扶養親族の範囲から除かれます)、特定親族として63万円から3万円までの特別控除を受けることができます。【国税庁資料】6源泉控除対象親族の範囲(1)源泉徴収税額表の改正令和8年1月1日以後に支払うべき給与については、「令和8年分源泉徴収税額表」を使用して源泉徴収税額を求めることになります。なお、基礎控除額58万円に、37万円・30万円・10万円又は5万円が加算される特例については、令和8年分以後の「源泉徴収税額表」には織り込まれておらず、これらの特例については、年末調整又は確定申告の際に適用を受けることになります。(2)扶養親族等の数の算定方法の変更各月(日)の給与に係る源泉徴収税額は、源泉徴収税額表によって求めますが、その税額は、従業員から提出を受けた扶養控除等申告書等に記載された扶養親族等の数によって異なります。令和7年分までの源泉徴収事務においては、「源泉控除対象配偶者」及び「控除対象扶養親族」の数などを基に扶養親族等の数を算定していましたが、令和8年分以後においては、「源泉控除対象配偶者」及び「源泉控除対象親族」の数などを基に扶養親族等の数を算定することになりました。(3)源泉控除対象親族の範囲源泉控除対象親族とは、次の①又は②のいずれかに該当する者をいいます。控除対象扶養親族居住者と生計を一にする親族のうち、年齢19歳以上23歳未満で合計所得金額が58万円超100万円以下の者したがって、大学生世代の親族でその年の給与収入が123万円超165万円以下と見込まれる者は、源泉徴収税額表における扶養親族等に該当することになります。【国税庁資料】提供:税経システム研究所
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2025/11/19 法人税
自社株式承継とみなし役員への該当のタイミングに注意
1.はじめに今回とりあげるのは、会社の後継者である自分の子供が、まだ役員に就任していないのにも関わらず税務上は役員とみなされてしまうケースをみていきます。特に後継者に株式の承継を進めていきながら、徐々に職制や権限を上昇させていくような場合、気づかないうちにこの状況になってしまうこともありますので注意したいところです。2.事案甲社の創業者である代表取締役社長Aには2人の子供(長男Bと次男C)がいます。この2人については大学卒業後に上場企業での勤務を経て、数年前より甲社に入社しています。将来的にはこの2人に会社を継いでもらう予定であり、Aが保有する甲社株式についても毎年2人に少しずつ承継を進めています。2人については、役員にはまだ就任しておらず、他の従業員に比べて速いペースで昇格させていますが、支給する給与と賞与については、同じ職制の他の従業員と同じ基準で支給していますので、給与面で特別待遇をしているようなことはありません。今般、税務調査で長男Bについては、みなし役員に該当するため、Bへの給与・賞与の支給は役員報酬としての取扱いとなるとの指摘を受けてしまいました。■長男Bについて年齢:40歳経営企画部長甲社株式保有割合7%人事・採用面や会社の経営企画の最終決定をしている等社内における重要事項の決裁を行っている■次男Cについて年齢35歳経理部課長甲社株式保有割合6%経営上の主要な決定には関与しておらず、経理課長として一定の責任を持ちながら通常の経理業務を行っている。3.みなし役員の判定(1)対象者会社法上の役員は「取締役」「監査役」「会計参与」等となりますが、税務上は、一定の要件を満たす者について、役員とみなして、税務上の取扱い規定が適用されることになります。(「みなし役員」と言われています)このみなし役員は下記①と②の2つに大別されます。①法人の使用人(職制上使用人としての地位のみを有する者に限ります。)以外の者で、その法人の経営に従事しているもの【法人の使用人以外の者】取締役または理事となっていない総裁、副総裁、会長、副会長、理事長、副理事長、組合長等合名会社、合資会社および合同会社の業務執行社員人格のない社団等の代表者または管理人相談役、顧問などで、その法人内における地位、職務等からみて実質的に法人の経営に従事していると認められるもの②同族会社の使用人(職制上使用人としての地位のみを有する者に限ります。)のうち下記の持株要件の全てを満たすもので、法人の経営に従事しているもの【持株要件】その会社の株主グループをその所有割合の大きいものから順に並べた場合に、その使用人が所有割合50%を超える第一順位の株主グループに属しているか、または第一順位と第二順位の株主グループの所有割合を合計したときに初めて50%を超える場合のこれらの株主グループに属しているか、あるいは第一順位から第三順位までの株主グループの所有割合を合計したときに初めて50%を超える場合のこれらの株主グループに属していること。その使用人の属する株主グループの所有割合が10%を超えていること。その使用人(その配偶者およびこれらの者の所有割合が50%を超える場合における他の会社を含みます。)の所有割合が5%を超えていること。(2)法人の経営に従事しているものこのみなし役員の判定は、上記(1)①、②のいずれにおいても、「法人の経営に従事しているもの」が要件となっています。「法人の経営に従事しているもの」については、明確に定めはありませんが、法人の主要な業務執行の意志決定に参画することをいうとされており、具体的には経営方針に参画して、下記のような事項についての計画・決定に自己の意志を表明し反映させるような場合が該当すると考えられています。人事・給与販売・仕入・製造・重要な経営計画資金調達・設備投資4.今回の事案について長男B、次男Cともに職制上の使用人としての地位のみを有していますので、3(1)②の区分での判定になります。持株要件の判定では、同族関係者で100%保有していますので持株要件のイ)、ロ)の要件を満たし、BとCともに本人で5%超を保有していますので、持株要件のハ)の要件も満たします。Bについては、人事採用や経営企画面での最終決定をおこなっている等経営上の重要事項の決定をおこなっていますので、「法人の経営に従事しているもの」の要件に十分該当し「みなし役員」に該当するものと考えられます。一方、Cについては、持株要件は満たしていますが、通常の経理業務のみをおこなっているため「法人の経営に従事しているもの」にはあたらないと考えられますので「みなし役員」には該当しないものと考えられます。みなし役員へ該当する場合、その該当する者への給与は税務上、役員報酬としての取扱いになってしまいます。毎月の給与については「定期同額給与」、賞与については「事前確定届出給与」に該当しない場合は、基本的に損金不算入となってしまうため、厳しい状況になる可能性があります。本件のように、後継者候補の親族が会社に入社し、自社株式の承継を進めながら、職制も上昇していくような場合は、このみなし役員の判定には常に気をつけていく必要があります。提供:税経システム研究所
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2025/11/12 消費税
外国人旅行者向け消費税免税制度の見直し③ 「リファンド方式」における免税対象物品の範囲等と免税販売手続等
1.はじめに外国人旅行者向け消費税免税制度については、不正利用を排除し、輸出物品販売場を経営する事業者(以下「免税店」といいます。)が不正の排除のために負担を負うことのない制度とするため、令和8年11月1日以後の免税対象物品の譲渡については、出国時に持出しが確認された場合に免税販売が成立する「リファンド方式」に見直されます。今回は、リファンド方式における免税対象物品の範囲等の見直しと免税販売手続等の見直しについて見ていきます。2.免税対象物品の範囲等の見直し(1)免税対象物品の範囲等免税対象物品の範囲等については、図表1のとおり見直されます(消法8①、消令18④、「輸出物品販売場制度に関するQ&A(リファンド方式・概要編)」(以下「リファンド方式Q&A」といいます。)問4)。図表1免税対象物品の範囲等の見直し出典:国税庁「【令和7年度税制改正】輸出物品販売場制度は令和8年11月からリファンド方式に移行します」(2)免税対象物品上記(1)の免税対象物品とは、次のア~ウ以外の物品をいいます(消法8①、消規6)。金及び白金の地金金貨及び白金貨消費税が非課税とされる物品3.免税販売手続等の見直し(1)免税購入対象者免税店における免税販売は、外国人旅行者等の「免税購入対象者」に対する販売に限られます(消法8①、消令18①)。この「免税購入対象者」に関する改正はなく、図表2のとおりです(リファンド方式Q&A問3)。図表2免税購入対象者国籍免税購入対象者外国籍非居住者のうち、次のア~ウのいずれかに該当する者「短期滞在」、「外交」、「公用」の在留資格をもって在留する者寄港地上陸許可、船舶観光上陸許可、通過上陸許可、乗員上陸許可、緊急上陸許可、遭難による上陸許可を受けて在留する者合衆国軍隊の構成員等日本国籍非居住者であって、国内以外の地域に引き続き2年以上住所又は居所を有する者(2)免税購入対象者の確認方法等の見直し免税店は、免税購入対象者本人から旅券等の提示を受けて購入者が免税購入対象者であることを確認し、その旅券等に記載された情報の提供を受ける必要があります。この確認する際の提示書類等について、図表3のとおり見直されます(消令18②)。図表3免税購入対象者の確認方法等(下線部分が主な変更点です)出典:国税庁「【令和7年度税制改正】輸出物品販売場制度は令和8年11月からリファンド方式に移行します」(3)購入記録情報として提供する項目の見直し単価100万円(税抜価額)以上の商品を販売した場合、商品の属性に応じ、次のア~イの事項を組み合わせて「免税対象物品を特定するに足りる事項(商品情報詳細)」を提供することとされています(消法8②、消令18⑥、消規6の4①、図表4参照)。免税対象物品の具体的な名称、ブランド名、型番号、形状若しくは色彩等の特徴又は鑑定書(鑑別書)若しくは保証書付きである旨シリアル番号の付された腕時計のような商品は、上記の事項に加えそのシリアル番号図表4商品情報詳細の設定例出典:国税庁「【令和7年度税制改正】輸出物品販売場制度は令和8年11月からリファンド方式に移行します」(4)直送制度の見直し免税購入対象者が免税店で運送契約を締結し、その場で免税対象物品を運送事業者へ引き渡す免税販売方式(いわゆる直送制度)については、現行制度に代えて消費税法第7条(輸出免税制度)により免税の適用を受けることができることとされます。そのため、リファンド方式移行後に直送制度を適用する場合、免税店における一連の免税販売手続や購入記録情報の提供は不要となります(リファンド方式Q&A問22)。なお、免税店で購入した免税対象物品の別送の取扱いは、令和7年3月31日をもって廃止されました(リファンド方式Q&A問23)。図表5リファンド方式における別送と直送の適用関係の違い出典:国税庁「リファンド方式Q&A問23」提供:税経システム研究所
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2025/11/05 法人税
口頭による債権放棄と貸倒損失の計上
今回は、口頭による債権放棄をした場合の法人税基本通達9-6-1の適用を認めなかった裁決を題材に確認・検討してみることにする。1.法人税基本通達の確認法人税基本通達9-6-1は、貸倒れとして損金の額に算入できる事実と金額について規定しており、同通達(4)では、次のとおり、法人の有する金銭債権について、「債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合」をその事実とし、その金銭債権の額のうち、「その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額」を損金算入できる金額としている。(4)債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額2.国税不服審判所裁決この事案(注1)では、債権者は債務者に対する債権を放棄する意思を有していたと認められ、これに沿った会計処理も債権者及び債務者において行われていたが、書面による債務免除がされていないとして法人税基本通達9-6-1(4)の適用が否定された。この裁決書の概要は次のとおりです。1事実(4)基礎事実以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いはなく、国税不服審判所(以下「審判所」という。)の調査の結果によってもその事実が認められる。リ請求人は、債務者に対し有していた設備の賃貸料に係る売掛金の全額4,800,000円(以下「本件債権」という。)を放棄したとして、同額を雑損失として平成24年12月31日付で計上した(以下、請求人がしたとする本件債権の放棄を「本件債権放棄」という。)。ヌ債務者は、請求人が上記リの本件債権放棄をしたとして計上した本件債権放棄の額に相当する金額を債務免除益として平成24年12月31日付で計上し、これを平成24年分の所得税に係る事業所得の金額の計算上、収入金額に含めて同年分の所得税の確定申告をした。3判断(2)争点2(請求人が本件債権放棄をしたとして計上した雑損失の金額は、貸倒損失として損金の額に算入されるか否か。)についてイ法令解釈等(イ)・・・また、法人税基本通達9-6-1は、法律上金銭債権が消滅した場合の貸倒れの基準を定め、同通達の(4)は、その基準の一つとして、書面による債権放棄の場合における金銭債権の貸倒れに係る損失の額を当該事業年度の損金の額に算入するためには、法人の有する金銭債権について、①債務者の債務超過の状態が相当期間継続し(債務超過状態継続の要件)、②その金銭債権の弁済を受けることができないと認められること(回収不能の要件)のいずれの要件も満たすことが必要である旨定めているところ、この取扱いは、書面による債権放棄が、その債権が回収不能となったことにより行われた場合には、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額を貸倒れとして損金の額に算入することを明らかにしたものであり、当審判所においても相当であると認められる。(ロ)そして、回収不能であるか否かの判断は、債務者の返済能力という不可視的事由に関わるから、その判断の公正を期するためには客観的かつ外観的事実に基づいて行われることを要するというべきである。(ハ)また、回収不能とはいえない債権を放棄した場合、その実質は、対価なくして経済的価値を有する債権を債権者が任意に処分したことになり、他方、債務者にとっては、経済的利益の供与を無償で受けたといえるのであるから、その行為について通常の経済取引として是認できる合理的な理由が存在しない限り、これを寄附金として扱うべきであると解するのが相当である。ハ当てはめ及び当事者の主張の当否(イ)本件債権を放棄した事実の有無債権放棄は債権者の単独行為であり、かつ、その意思表示は何ら方式が限定されないところ、請求人は、本件事業年度末頃において債務者に対する本件債権を放棄する意思を有していたと認められること、また、これに沿った会計処理が請求人及び債務者において行われたことからすると、請求人は本件債権を放棄する意思表示をしたと認められ、請求人が本件事業年度末において本件債権を放棄した事実が認められる。(ロ)本件債権放棄による損失の額の貸倒損失に該当するか否か債権放棄により法律上金銭債権が消滅した場合の貸倒れの基準の一つを示したのが法人税基本通達9-6-1の(4)であるところ、本件債権の放棄が行われた本件事業年度末の前後における債務者の収入の状況は、・・・のとおりであり、本件事業年度中の債務者からの売掛金の回収状況も、・・・のとおりであるから、本件債権の全額が回収不能とは認められない。また、・・・のとおり、本件債権を放棄した事実は認められるが、本件債権放棄が書面により行われたことを示す証拠がないことからすれば、債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額はないのであるから、本件債権放棄は法人税基本通達の(4)に掲げる事実に該当しない。・・・・・・・・・・・・(略)・・・・・・・・・・・・・・・・・・したがって、本件債権放棄は法人税基本通達9-6-1に定める法律上の貸倒れに該当せず、請求人が本件債権放棄をしたとして計上した雑損失の金額は、貸倒損失として損金の額に算入されない。そして、本件債権放棄は、上記のとおり、回収不能とはいえない債権を放棄したものであるから、対価なくして経済的価値を有する債権を債権者が任意に処分したものであり、かつ、その行為について通常の経済取引として是認できる合理的な理由が存在するとは認められないから、請求人が本件債権放棄をしたとして計上した雑損失の金額は、寄附金の額に該当する。(下線は筆者による)3.「書面」による債務免除について「書面」による債務免除とは、必ずしも当事者間の協議により締結された契約による必要はなく、債権者から債務者に対して書面により債務免除の事実を明らかにしていれば足りるとされている(注2)(注3)。しかし、債務免除は、民法において債権者の一方的な意思表示(単独行為)によってされ、かつ、その意思表示の方式は限定されない(民法519(注4))ことから、口頭による債務免除の場合も適用が認められるのではないかと考えられるが、法人税基本通達9-6-1(4)の適用に当たっては、客観的、外観的事実に基づいて行われたことを要する(注5)として、債務免除を書面により行うことを求めているので、口頭による場合のように債務免除を行ったことを示す証拠がない場合には、同通達の適用が認められないとされている。4.検討等この事案の場合、審判所は法人税基本通達9-6-1(4)の適用について、通達の文言を忠実に読み、「本件債権を放棄した事実は認められるが、本件債権放棄が書面により行われたことを示す証拠がないことからすれば、債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額はないのであるから、本件債権放棄は法人税基本通達の(4)に掲げる事実に該当しない。」、「本件債権放棄は法人税基本通達9-6-1に定める法律上の貸倒れに該当せず、請求人が本件債権放棄をしたとして計上した雑損失の金額は、貸倒損失として損金の額に算入されない。」として、債権放棄の事実を認めつつも、書面により明らかにされた債務免除額がないことから、同通達の適用を否定している。確かに、「回収不能であるか否かの判断は、債務者の返済能力という不可視的事由に関わるから、その判断の公正を期するためには客観的かつ外観的事実に基づいて行われることを要する」ことから、書面によることを求めていると考えることができる。この事案の場合、請求人が書面による免除を行ったかは確認できていないものの、債務免除は、民法において債権者の一方的な意思表示(単独行為)によってされ、かつ、その意思表示の方式は限定されていない(民法519)。また、債務免除の効力は、免除する意思が示された通知が相手方に到達することが必要とされている(民法97①)。本件債権放棄については、上記裁決1(4)リ及びヌのとおり、請求人は本件債権を放棄したとして、平成24年12月31日付で貸倒損失を計上しており、また、債務者も同日に債務免除益を計上していることから、請求人から債務者に債務免除の意思表示がされ、その通知が債務者に到達していると考えるのが素直な判断と考える。加えて、請求人の代表社員が債務者自身である事実からもこのように考えることに異論はないと考える。そうすると、審判所の本件債権放棄が書面により行われたことを示す証拠がないことから貸倒損失として損金の額に算入されないという判断は、あまりにも通達の字面を重視した判断と考える(注6)。5.その他(1)寄附金該当性についてこの裁決において審判所は、本件債権放棄についての処分を寄附金の額に該当すると判断している。寄附金の範囲については、法人税法37条7項において「寄附金の額は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもつてするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く。次項において同じ。)をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする。」と規定しており、「資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」をその前提としていることからすれば、これらの行為が給与に該当する場合には、寄附金には該当しないことになる。(2)給与該当性について法人税法34条4項は、「前三項に規定する給与には、債務の免除による利益その他の経済的な利益を含むものとする。」と規定し、法人税基本通達9-2-9では、その例として「(4)役員等に対して有する債権を放棄し又は免除した場合(貸倒れに該当する場合を除く。)におけるその放棄し又は免除した債権の額に相当する金額」を掲げている。(3)まとめ以上の検討から、この事案において審判所が、貸倒損失の計上を否認し、寄附金としたことに疑問が残る。筆者は、寄附金ではなく、給与とすべきではないかと考える。なお、筆者の経験では、給与とされる場合でも、①金銭消費貸借契約の作成、②貸付けに関する株主総会決議及び③受入れのための会計伝票の作成を条件に貸付金処理が認められていると理解している。<注釈>国審平成28年2月8日(裁決事例集№102)松尾公二編著『法人税基本通達逐条解説(十一訂版)』1105頁(税務研究会出版局、令和5年)国税庁(質疑応答事例)〔貸倒損失〕1第三者に対して債務免除を行った場合の貸倒れ債権者が債務者に対して債務を免除する意思を表示したときは、その債権は、消滅する。宇都宮地判平成15年5月29日(税資253号順号9355)日本税理士連合会「令和8年度税制改正に関する建議書」(令和7年6月25日)15頁では、貸倒損失に関する改正要望を明らかにしており、今後の動向に注目したい。提供:税経システム研究所
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2025/10/29 経営・運営公益法人
新公益法人制度と会計(第5回)
新公益法人制度と会計について、前回は公益認定法の改正点として公益法人等の責務と中期的収支均衡について記載させて頂きました。第5回では、引き続き中期的収支均衡の内容について解説させて頂きます。(1)中期的収支均衡の定義中期的に収支を均衡しなければならないという規定は、公益認定法第14条で定義されています。その具体的な計算方法や中期的に収支を均衡させなければならない期間は、公益認定法施行規則により規定されています。具体的内容は、当該規則の第15条から第23条までで構成されています。まず、第15条で以下のように中期的均衡期間を定め、第16条では年度剰余額又は年度欠損額の計算方法等を定義しています。第15条(中期的収支均衡)法第14条に規定する内閣府令で定める期間(以下「中期均衡期間」という。)は五年間とし、同条の規定により、公益法人が公益目的事業を行うに当たって当該期間に図られるようにしなければならない収支の均衡(以下「中期的収支均衡」という。)については、この款に定めるところによる。第16条(年度剰余額等の算定)公益法人は、毎事業年度の終了後、次項の規定により当該終了した事業年度(以下この款において「当該事業年度」という。)に生じた年度剰余額又は年度欠損額を、第3項又は第4項の規定により当該事業年度に係る暫定残存剰余額又は残存欠損額を、それぞれ算定するものとする。2当該事業年度に生じた年度剰余額は、第一号に掲げる額(以下この項において「収入額」という。)が第2号に掲げる額(以下この項において「費用額」という。)以上である場合において、収入額から費用額を控除した額とし、当該事業年度に生じた年度欠損額は、収入額が費用額を下回る場合において、費用額から収入額を控除した額とする。ただし、収入額が費用額を下回る場合において、年度欠損額を零とすることができる。一次に掲げる額の合計額イ当該事業年度の損益計算書に計上すべき公益目的事業に係る経常収益(一般純資産に係るものに限る。)の額ロ当該事業年度の公益充実資金(第23条第1項に規定する公益充実資金をいう。以下この条及び第19条において同じ。)の取崩額(取崩額の全部又は一部を第36条第3項第1号に掲げる財産(以下この条、次条、第19条、第23条及び第30条において「公益目的保有財産」という。)に係る資産の取得又は改良に充てた場合にあっては、当該公益目的保有財産に係る資産の取得又は改良に充てた額を控除した額)ハ収益事業等を行う公益法人にあっては、当該事業年度に収益事業等から生じた収益(収益事業等における収益から、管理費のうち収益事業等に按分される額を控除した額)に100分の50を乗じて得た額二次に掲げる額の合計額イ当該事業年度の損益計算書に計上すべき公益目的事業に係る経常費用(一般純資産に係るものに限る。)の額(公益充実資金の取崩しにより又は次条第1号に掲げる使途として取得又は改良した公益目的保有財産に係る減価償却費の額が含まれる場合には、当該減価償却費の額のうち、当該公益目的保有財産の取得又は改良に係る価額のうち当該取崩しの額又は当該使途に充てることにより解消額とした額に相当する部分の額を除く。)ロ当該事業年度の公益充実資金の積立額3当該事業年度において年度剰余額が生じた場合、当該事業年度に係る暫定残存剰余額は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める額とする。一過年度残存剰余額(当該事業年度の前事業年度における当該前事業年度以前の各事業年度(第19条第1項の規定により特例残存欠損額を算定した事業年度を除く。)に係る残存剰余額をいう。以下同じ。)の合計額が零以上の場合(次号及び第3号に掲げる場合を除く。)当該年度剰余額二過年度残存欠損額(当該事業年度の前事業年度における当該前事業年度以前の各事業年度(当該事業年度の開始の日前4年以内に開始した事業年度に限るものとし、第19条第1項の規定により特例残存欠損額を算定した事業年度を除く。)に係る残存欠損額をいう。以下同じ。)の合計額が当該年度剰余額以上の場合零三前号に掲げる場合のほか、過年度残存欠損額の合計額が零を超える場合当該年度剰余額から当該合計額を控除した額4当該事業年度において年度欠損額が生じた場合、当該事業年度に係る残存欠損額は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める額とする。一過年度残存欠損額の合計額が零以上の場合(次号及び第3号に掲げる場合を除く。)当該年度欠損額二過年度残存剰余額の合計額が当該年度欠損額以上の場合零三前号に掲げる場合のほか、過年度残存剰余額の合計額が零を超える場合当該年度欠損額から当該合計額を控除した額上記のように、第16条の規定は第4項までの内容として、旧法にはない複雑な計算方法を行う点に留意する必要があります。今回は、紙面の都合上、条文の列挙にとどめ、次回以降で当該規程の用語の整理と図解を用いた具体的な計算方法を説明します。次回も引き続き、新公益法人制度(中期的収支均衡)についてご説明させて頂きます。提供:税経システム研究所
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