会計研究レポート
MJS税経システム研究所・会計システム研究会の顧問・客員研究員による新会計基準や制度改正等をできるだけわかりやすく解説した各種研究リポートを掲載しています。
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2025/03/27 管理会計
生成AIを活用した財務・非財務情報の分析(2)
1.PDCAサイクルのなかで会計情報を活用するはたして、読者の皆さんは自社の(もしくはクライアント企業の)会計情報をどの程度経営に活かすことができているでしょうか。企業業績の向上を図るためには、経営のPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクル、より具体的にいえば、計画策定、予算編成、期中管理、業績評価、分析・改善などのコントロールプロセスのなかで、会計情報を効果的に活用し、改善のための施策を講じることが期待されます。しかし、実務において、会計情報を効果的に活用できている企業は決して多くはないのが現状です。もちろん、多くの企業では、一定の活用はなされているものと思います。売上高や利益額(利益率)について時系列の推移を見たり、前年度、前々年度との比較を行ったり、また、様々な経営判断の際に事業やプロジェクトの収益性を評価したりと、いくつかの場面における検討材料として会計情報が使われているのではないでしょうか。しかし、会計情報の活用の場面は、これらにとどまりません。たとえば、計画の場面一つをとっても、会計情報を活用する方法は数多く考えられます。具体的には、人件費、販売費、広告費が、どの程度売上高の向上に寄与しているのかを分析し、適正な資源配分がなされているかを検討したり、いくつかの資源配分パターンごとに将来予想される財務業績のシミュレーションをしたり、さらには、期末に実績値が確定するのを待たずに期中の情報を用いて期末の着地点を予測し、早い段階で計画や資源配分の修正を図る(これらは、それぞれ着地予想、ローリング予測と呼ばれます。具体的な分析方法は、改めてご紹介させていただきます)などの方法が挙げられます。これらが実現できれば、より多くの業績向上のチャンスをつかむことができるのです。しかし、多くの企業では、「そんな分析を実行するシステムは自社にはない」、「システム導入には莫大なコストがかかる」「どんな分析をすればいいかわからない」などの理由で、上記の活用に踏み切れずにいるようです。たしかに、数年前までは上記の理由は、至極全うなものでした。しかし、生成AIの進化によって、大掛かりなシステム投資をせずとも、これらの分析を行うことが可能になっています。2.生成AIを活用した財務に関する問題点の把握前回のリポートに続き、生成AI(ChatGPT4oを使用)を活用することで、どのようなことができるのか、見てみましょう。今回は、財務諸表およびいくつかの財務指標のデータを使用して、財務上の問題点の抽出をしてみましょう。今回は、設例として架空の企業の財務情報を使用します。データには、2014年から2024年までの売上高、売上原価、人件費、資本的支出、研究開発費、営業利益率、ROE、PBRのデータが格納されています。まずは、注のURLからダウンロードをお願いいたします(注1)。そのうえで、生成AIに各指標のトレンドをグラフ化してもらい、営業利益率が下降トレンドに切り替わった年度を確認してみましょう。データのダウンロードが完了したら、図1のように、以下の指示(スクリプト)をコピー&ペーストし、データを添付したうえで右下の実行ボタンを押します。指示(スクリプト)(注2)この企業の各財務指標の時系列推移をグラフ化してください。グラフタイトルは英語表記のみとしてください。なお、RevはRevenue(売上高)、CoSはCostofsales(売上原価)、PEはPersonnelexpenses(人件費)、CAPEXはCapitalexpenditure(資本的支出)、R&DはResearchanddevelopment(研究開発費)、OMはOperatingMargin(営業利益率)、ROEはReturnofequity(株主資本利益率)、PBRはPricebook-valueratio(株価純資産倍率)を表しています。また、営業利益率が前年度を下回っている年度について、すべての図に×印を付けてください。図1スクリプトとデータの添付すると、以下のようなグラフが出力され、各指標のトレンドを確認することができます。図表2各財務指標のトレンドの可視化図表2をみると、売上高は増加傾向にある一方で、営業利益率はやや下降トレンドにあることがわかります。また、営業利益率が2020年度から2022年度にかけて下降している一方で、同じ時期におけるROEは大きく上昇しているなど、いくつかの特徴が見えてきます。それでは、その他にこの情報からわかることはないのでしょうか。以下の指示を入力して、引き続きChatGPTに分析してもらいましょう。指示(スクリプト)このグラフからわかる財務上の問題を具体的に指摘してください。すると、多くの問題点の指摘が返ってきます。なお、ChatGPTから毎回同じ内容が出力されるとは限りません。図表3とは異なる結果が出力されることもありますが、概ね分析結果は一貫しているものと思います。図表3財務上の問題点の指摘この情報から、自社の財務に関するいくつかの検討事項が浮き彫りになってきました。売上原価や人件費の増加、研究開発費の不足、PBRの悪化など、重要な事項の指摘がなされています。ChatGPTの出力結果が必ずしも正しいとは限らないという点には最大限の注意を払う必要がありますが、財務上の問題点を改善するためのきっかけを与えてくれることは間違いありません。今回のリポートでは、PDCAサイクルのうち、計画の段階における生成AIを活用したデータ分析についてみてきました。生成AIはうまく活用することで、分析の手間やコストを大幅に削減することができるだけでなく、新たな気付きを与えてくれることもあります。次回以降も、財務・非材情報の分析における生成AIの様々な活用方法をご紹介していきたいと思います。<注釈>https://www.dropbox.com/scl/fi/e3bad1rpu6ie0rzkit8po/data202502.xlsx?rlkey=053fgw5ls8ryazqi9y22robka&dl=0ChatGPTによって作図をする場合、初期設定では日本語フォントの文字化けが発生してしまいます。そのため、図1では、作図の際に各指標を英語で表記していますが、日本語フォントデータをアップロードすることで、日本語表示をすることも可能です。図1の指示を行う前に、日本語フォントデータファイルを以下URLからダウンロードし、データを添付したうえで、「グラフ描画の際には日本語フォントを使用してください」という指示を行ってください。https://www.dropbox.com/scl/fi/v1dbluh8sgb4vl04pek9c/NotoSansJP-Black.ttf?rlkey=aqazot7kr7w1u8om7k6b0z672&dl=0提供:税経システム研究所
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2025/03/27 財務会計
2015年改訂版 中小企業向け国際財務報告基準(22)
1.はじめにこのシリーズでは、2015年に国際会計基準審議会(InternationalAccountingStandardsBoard:IASB)が公表した「改訂版中小企業向け国際財務報告基準」(以下、「中小企業向けIFRS(2015年版)」という)について解説しています。2022年9月に、IASBは、公開草案「中小企業向け国際財務報告基準(第3版)」(以下、「公開草案(第3版)」という)を公表しており、本シリーズでも、適宜「公開草案(第3版)」に触れています。IASBのウェブサイトによると、「中小企業向け国際財務報告基準(第3版)」は、2025年の第一四半期に公表される予定です。今回は、「中小企業向けIFRS(2015年版)」の第28章「従業員給付」について、「公開草案(第3版)」で修正された分も含めて説明します。2.範囲と一般認識原則(1)範囲従業員給付とは、取締役や経営者を含む従業員が提供した勤務と交換に、企業が与えるすべての形態の対価をいいます。本章は、第26章で規定されている「株式に基づく報酬取引」以外のすべての従業員給付に適用されます。適用対象となる従業員給付は、短期従業員給付、退職後給付、その他の長期従業員給付および解雇給付の4種類です(28.1項)(注1)。(2)すべての従業員給付に関する一般認識原則従業員が提供した役務の結果として与えた従業員給付については、費用を認識するとともに、従業員に直接支払った金額または基金への拠出制度として支払った金額を差し引いた後の金額を負債として認識します(28.3項)(注2)。3.短期従業員給付短期従業員給付は、従業員が関連する勤務を提供した期間の末日後1年以内にすべての決済期限が到来する従業員給付です(ただし、解雇給付を除きます)。短期従業員給付の具体例は、賃金や給料、1年以内に発生すると予想される短期有給休暇(年次有給休暇及び有給疾病休暇等)、1年以内に支払うべき利益分配や賞与などです(28.4項)。短期従業員給付については、割引前の金額で測定します(28.5項)。4.退職後給付退職後給付とは、雇用関係の終了後に支払われる従業員給付(ただし、解雇給付を除きます)であり、大別すると次の2つの制度があります。(5)確定拠出制度ある期間に支払うべき掛金を費用として認識するとともに、その掛金額からすでに支払った額を控除した額(つまり未払額)を負債として認識します(28.13項)。(2)確定給付制度確定給付債務の現在価値から年金資産(制度資産ともいいます)の公正価値を差し引いた額を、確定給付負債として認識します(28.15項)。確定給付債務の現在価値を算定する際に用いる割引率は、原則として、優良社債の市場利回りを参照して決定します(28.17項)。確定給付制度債務と関連費用の測定において、過大な労力やコストがかからない場合は、予測単位積増方式(projectedunitcreditmethod)を用います(28.18項)(注3)。予測単位積増方式では、確定給付債務の測定において、各種の数理計算上の仮定(たとえば、割引率、年金資産に係る期待収益率、予想昇給率、離職率、死亡率)を用います。確定給付制度に関しては、積立方針を含む制度の一般的な説明、数理計算上の差異の認識に関する会計方針(純損益またはその他の包括利益の項目のいずれで認識したか)、当期中に認識された数理計算上の差異の金額、使用した主な数理計算上の仮定などを開示する必要があります(28.41項)。5.その他の長期従業員給付その他の長期従業員給付には長期有給休暇、長期勤続給付、長期障害給付、従業員が関連する勤務を提供した期間の末日から12か月以上後に支払うべき利益分配や賞与などがあります(28.29項)。その他の長期従業員給付については、その債務の現在価値から年金資産の公正価値を差し引いた額を、負債として認識します(28.15項)。その他の長期従業員給付については、従業員に提供する長期給付の分類ごとに、給付の内容、債務の金額および積立ての範囲を開示します(28.42項)。6.解雇給付解雇給付とは、次のいずれかの結果として支払うべき従業員給付であり、自己都合退職や定年退職の際に支払われる給付は含まれません(28.1項)。7通常の退職日前に従業員の雇用を終了するという企業の決定(解雇の場合)②その給付と引き換えに、自発的退職を受け入れるという従業員の決定(退職募集に応じた場合)(注4)解雇給付は企業に将来の経済的便益をもたらさないので、ただちに費用として認識します。また、企業が次のいずれかを明白に確約(コミット)している場合にのみ、解雇給付を負債および費用として認識します(28.34項)。従業員を通常の退職日前に終了すること自発的退職を行った募集の結果として解雇給付を支給すること解雇給付の期日が決算日から1年超の場合には、その給付は現在価値で測定します。解雇給付については、従業員に提供する解雇給付の分類ごとに、給付の内容、債務の金額および積立ての範囲を開示します(28.43項)。7.日本の中小企業会計における規定(1)中小企業の会計に関する基本要領退職給付引当金については、退職金規程や退職金等の支払いに関する合意があり、退職一時金制度を採用している場合において、当期末における退職給付に係る自己都合要支給額を基に計上します。中小企業退職金共済、特定退職金共済、確定拠出年金等、将来の退職給付について拠出以後に追加的な負担が生じない制度を採用している場合は、毎期の掛金を費用処理します。(2)中小企業の会計に関する指針確定給付制度を採用している場合は、退職給付債務に未認識数理計算上の差異および未認識過去勤務費用を加減した額から年金資産の額を控除した額を退職給付引当金として計上します(注5)。中小企業退職金共済制度、特定退職金共済制度、確定拠出年金制度のように拠出以後に追加的な負担が生じない確定拠出制度を採用している場合は、毎期の掛金を費用処理します。2つとも、確定拠出制度と確定給付制度の会計処理を規定します。確定拠出制度の会計処理については、「中小企業向けIFRS(2015年版)」とほぼ同じです。確定給付制度の会計処理については、「中小企業の会計に関する指針」は未認識数理計算上の差異などを反映させている点で「中小企業向けIFRS(2015年版)」と類似しています。しかし、「中小企業の会計に関する指針」では、控除する年金資産の額が公正価値かどうかは明記されていないといった点も挙げられます。<注釈>IFRSのIAS第19号「従業員給付」も同様の規定であり、退職給付以外の有給休暇や解雇給付も含めた従業員給付全般を対象にしている点が、日本基準とは異なります。支払った金額が従業員の勤務提供から生じた義務を超過する場合は、一定額を資産として認識します。「公開草案(第3版)」では、「過大な労力やコストがかからない場合」が削除され、企業は必ず予測単位積増方式を用いる必要があります。「公開草案(第3版)」では、文言が少し修正され、「雇用の終了と引き換えに、給付を受け入れるという従業員の決定」となっています。ただし、一定の場合には、退職給付に係る期末自己都合要支給額を退職給付債務とする方法(簡便的方法)を適用できます。提供:税経システム研究所
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2025/03/20 財務会計
IFRS第 18号「財務諸表における表示及び開示」(6)
本レポートでは、IASBより2024年4月に公表された会計基準IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示(PresentationandDisclosureinFinancialStatements)」(以下、IFRS18といいます)について解説しています。IFRS18は、とくに損益計算書に大きくかかわるものであり、国際会計基準を任意適用している日本企業にも影響を与えることとなります。なお、IFRS18は従来のIAS1「財務諸表の表示(PresentationofFinancialStatements)」を置き換えるものであり、IFRS18の適用は2027年1月1日と規定されていますが、それより前の早期適用も認められています(注1)。5.損益計算書のポイント(続き)下記の損益計算書は、以前のレポート「IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」(1)」において示した、IFRS18における損益計算書の様式に、⑥の吹き出し(▢)等を加えたものになります。■損益計算書(Statementofprofitorloss)(注2)⑥「為替差額(foreignexchangedifferences)」の表示について公開草案ED/2019/7「全般的な表示及び開示(注3)」(以下、ED(2019)といいます)では、「純損益に含めた為替差額を、その為替差額を生じさせた項目から生じる収益及び費用と同じ純損益計算書の区分に分類しなければならない」(par.56)とされていました。つまり、元々どのような項目から為替差額が発生したかによって、その為替差額が純損益計算書のどの区分に表示されるのかが決定されるということです。IFRS18においても同様の規定が示されています(par.B65)。IFRS18では、為替差額の純損益計算書における区分表示について、以下のような例が示されています(par.B66)。項目例表示区分売掛金から発生した為替差額営業区分に表示借入金から発生した為替差額財務区分に表示ただし、IFRS18では、「過度なコストや労力(unduecostoreffort)」を要する場合には、営業区分に区分することとされています(par.B68)日本の会計基準にもとづき作成される損益計算書では、為替差益・為替差損は営業外収益・営業外費用の区分に表示されるため、IFRS18との違いに注意する必要があるでしょう。<注釈>PrimaryFinancialStatements,FinalStage[https://www.ifrs.org/projects/completed-projects/2024/primary-financial-statements/#final-stage](accessedon2024/11/18)PrimaryFinancialStatements,Publisheddocuments「EffectsAnalysis:IFRS18PresentationandDisclosureinFinancialStatements」p.16[https://www.ifrs.org/projects/completed-projects/2024/primary-financial-statements/#published-documents](accessedon2024/11/18)*上記ファイル自体のURLは以下[https://www.ifrs.org/content/dam/ifrs/publications/amendments/english/2024/effect-analysis-ifrs18-april2024.pdf](accessedon2024/11/18)本レポートでは、以下の会計基準および財務会計基準機構・企業会計基準委員会による日本語訳を、一部修正のうえ引用。InternationalAccountingStandardsBoard.2019.GeneralPresentationandDisclosures.ExposureDraftED/2019/7.IASB.*本基準の日本語訳については、以下のページより入手。[https://www.asb-j.jp/jp/iasb_activity/press_release/y2019/2019-1217.html](accessedon2024/11/18)提供:税経システム研究所
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2025/03/13 管理会計
企業が生き残るための製品・サービスの原価計算の勘所(16)
1.販売費及び一般管理費への注目前々回の(14)では、販売費及び一般管理費について、「実務の場面では、各顧客に関連して販売費及び一般管理費が一律に同じ割合で発生するのではなく、顧客ごとに販売費の、場合によると、一般管理費も含めた費用の発生額が異なる場合が多い」から検討が必要であると説明しました。また、前回の(15)では、わが国の原価計算研究において多大な貢献をした一橋大学岡本清名誉教授の名著『原価計算』の最新版である六訂版[岡本,2000]を引用して販売費及び一般管理費に注目する必要性と、「原価計算基準」[大蔵省企業会計審議会,1962]における販売費及び一般管理費の分類基準について説明しました。販売費及び一般管理費については、「原価計算基準」[大蔵省企業会計審議会,1962]では、製品原価と区別して販売費及び一般管理費を期間原価とすることを規定しています[四(二)]。また、販売費及び一般管理費は、原価計算では「営業費」とよぶことがあります。岡本[2000]でも、販売費及び一般管理費を「営業費」として説明しています。今回は、岡本[2000]で説明している「営業費と製造原価との比較」の議論を紹介し、販売費及び一般管理費の特徴についての理解を深めたいと思います。2.販売費及び一般管理費と製造原価との比較岡本[2000]では、第13章を「営業費計算」とし、第1節の「営業費の意義」において、第2項で営業費計算の重要性が増大したことを説明しています。つづいて第3項の「営業費と製造原価との比較」においては、問答形式によって「営業費と製造原価との比較」を説明しています。問答の「問」は、次のとおりです[岡本,2000,p.692]。[例題13-1]製造原価との比較において、営業費の特異な性質を明らかにしなさい。岡本[2000]は、これに対する問答の「答」において、①決定的な影響をもたらす顧客の心理的要因、②販売方法の多様性と変動性、③困難な因果関係の測定、という論点をあげて説明しています[pp.692-693]。(3)決定的な影響をもたらす顧客の心理的要因この論点について、岡本[2000]は、次のように指摘しています。製造は、工場という特定の場所で、特定の従業員により、機械的な反復作業によって行なわれる。これにたいして販売は、各地に散在する多少とも不特定多数の顧客を相手にして行なわれる。これら不特定多数の顧客が、自社製品にたいしどのように反応するかを予測することは、いちじるしく困難である。しかも顧客の心理的要因こそ、販売活動に決定的影響を及ぼす要素である[p.692]。岡本[2000]が、「営業費と製造原価との比較」において、「不特定多数の顧客が、自社製品にたいしてどのように反応するか」という「顧客の心理的要因」を「決定的な影響をもたらす」として第一の論点にあげていることは、重要なポイントです。この第一の論点は、②販売方法の多様性と変動性および③困難な因果関係の測定といった、第二の論点および第三の論点の前提にもつながる問題提起であると考えます。岡本[2000]があげる「自社製品」という論点は、後述のマーケティング・ミックスにおける4Pにおける製品・商品または4Cにおける顧客の課題解決策もしくは顧客価値という要素に相当すると考えられます。(2)販売方法の多様性と変動性この論点について、岡本[2000]は、次のように指摘しています。特定の製品を製造する方法は、企業によって本質的に異なることはなく、各社とも基本的には同一の原材料、同種の機械設備を使用する。これにたいして販売方法は、顧客の心理的要因に合わせて選択しなければならないので、どの販売方法でなければならないということはなく、直接的な戸別訪問販売から複雑な流通機構を利用する方法まで、各社各様に行なってさしつかえない。一企業にとって、仮に最良と思われる流通方法があったとしても、顧客のニーズはたえず変化し、また技術の進歩によって、製品の保管、取扱、運送方法などもたえず変化するので、昨日の最良の方法は、今日の最良の方法ではないかもしれない[p.692]。①の論点における「不特定多数の顧客の自社製品に対する反応」という「決定的な影響をもたらす」「顧客の心理的要因」は、②販売方法の多様性と変動性においては、「顧客のニーズはたえず変化」するという論点につながります。岡本[2000]があげる「販売方法」または「流通方法」の「多様性と変動性」という論点は、後述のマーケティング・ミックスにおける4Pにおける流通または4Cにおける利便性という要素に相当すると考えられます。(3)困難な因果関係の測定この論点について、岡本[2000]は、次のように指摘しています。工場では、通常、原価材の投入量と、それによって生ずる製品の産出量との関係は、比較的正確に測定できる。しかし販売活動では、たとえば広告費の投入によって、販売量がどれだけ増加するかを測定することは、至難の業である。というのは、広告は顧客の心理に訴えて販売に影響をもたらす一要素にすぎず、製品の特徴、価格、包装、流通方法、競争企業の活動、季節的要因、経済環境の変化などが、相互に影響しあって、販売量の変化に結びつくからである。また、一般管理活動で重要なウエイトを占めつつある研究開発活動についても、研究開発プロジェクトが成功する可能性は、きわめて少ないといわれる。したがって、研究開発努力とそれから生じた成果とを、因果関連的に測定することは困難である[p.692]。①の論点における「不特定多数の顧客の自社製品に対する反応」という「決定的な影響をもたらす」「顧客の心理的要因」は、③困難な因果関係の測定においては、「広告は顧客の心理に訴えて販売に影響をもたらす一要素にすぎ」ないために、「広告費の投入によって、販売量がどれだけ増加するかを測定することは、至難の業である」という一例の議論につながります。その理由について岡本[2000]は、「製品の特徴、価格、包装、流通方法、競争企業の活動、季節的要因、経済環境の変化などが、相互に影響しあって、販売量の変化に結びつくからである」と説明しています。マーケティングの領域では、マーケティング戦略におけるマーケティング・ミックスの要素として、Pを頭文字とする4つのポイント(4P)を論じています。製品・商品(product)、価格(price)、販売促進(promotion)、流通(place)の4要素です。その後、4Pの議論は、製品・商品を提供する側からのプロダクト・アウトの考え方であるとして、マーケット・インの考え方にもとづく4Cが提唱されました。4Cの議論では、4Pをそれぞれ次のように置きかえています。製品・商品⇒顧客の課題解決策(customersolution)または顧客価値(customervalue)価格⇒顧客が製品やサービスを得るために負担する費用(customercost)販売促進⇒顧客とのコミュニケーション(communication)流通⇒利便性(convenience)岡本[2000]が、「製品の特徴、価格、包装、流通方法」などが「販売量の変化に結びつく」と説明した項目は、前述の4Pまたは4Cのマーケティング・ミックスの要素とおおむね重なるものだと理解できます。また、マーケティングの領域で3C分析といわれる手法では、顧客・市場(Customer)、競合他社(Competitor)、自社(Company)に関する情報をふまえて経営上の課題を解決するといわれています。岡本[2000]が、「競争企業の活動、季節的要因、経済環境の変化など」といっている論点とおおむね対応すると考えられます。(4)営業費の管理と分析手法は不十分岡本[2000]は、「問答の解答」の最後に、次のとおり述べています。これらの特異な性質のために、製造原価と比較して、営業費の管理と分析手法の開発は、いまだに不十分であり、今後の研究にまたなければならない[p.692]。岡本[2000]があげる、①決定的な影響をもたらす顧客の心理的要因、②販売方法の多様性と変動性、③困難な因果関係の測定、という論点、および、最後の指摘は、もっともなことです。その一方で、これらの論点に関して管理会計の研究領域のみでは解決方法を提示するためのフレームワークあるいは手法にたどり着くことが難しいということを認めざるを得ません。岡本[2000]がいう「今後の研究」の方向性としては、管理会計的な視点から、マーケティングの研究領域において提案されているフレームワークを検討し、これらの先行研究を援用して学際的な研究をすることが有効です。3.岡本[2000]が提起する「営業費計算の主要問題」岡本[2000]は、前述の3つの論点で営業費と製造原価との比較をとおして営業費の特徴を説明したのち、営業費計算における主要な問題として、①営業費の分類、②営業費の管理、③営業費の分析、の3点を挙げています。次回以降は、これらの論点にしたがって販売費及び一般管理費の論点について検討します。参考文献伊藤嘉博・目時壮浩、2021『異論・正論管理会計』中央経済社。大蔵省企業会計審議会、1962「原価計算基準」大蔵省企業会計審議会。岡本清、2000『原価計算』六訂版、国元書房。岡本清・廣本敏郎・尾畑裕・挽文子、2008『管理会計』中央経済社。小林啓孝、1997『現代原価計算講義』第2版、中央経済社。小林啓孝・伊藤嘉博・清水孝・長谷川惠一、2017『スタンダード管理会計』第2版、東洋経済新報社。清水孝、2006『上級原価計算』第2版、中央経済社。清水孝、2014『現場で使える原価計算』中央経済社。清水孝・長谷川惠一・奥村雅史、2004『入門原価計算』第2版、中央経済社。園田智昭、2021『プラクティカル原価計算』中央経済社。谷武幸、2022『エッセンシャル管理会計』第4版、中央経済社。提供:税経システム研究所
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2025/03/06 財務会計
公益法人制度の改正(4)
はじめに「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」(以下、改正前公益認定法)が、昨年2024年(令和6年)5月に改正(改正後の法律は、以下、改正公益認定法)され、新たな公益法人制度が2025年(令和7年)4月から始まります。この改正の内容のなかで、今回は、遊休財産額の保有制限に係る改正を取り上げて解説します。遊休財産とは、端的に表現するならば、使用しておらず、ないしは使用する予定がないままに保有している財産を指しており、遊休財産額とはその金額です。公益認定される法人が遊休財産を過度に保有するということは、経済資源の効率的な利用という社会全体の観点からは、望まれるものではありません。そのため、社会全体の利益に鑑み、遊休財産額の保有制限が設けられてきました。そして公益目的事業費の1年分の額が、遊休財産額の保有制限となっています。しかし、その保有制限に対して、もっと余裕を持たせて欲しいとの要望があったことを踏まえて、その制限を緩和する方向での改正が行われました。5.遊休財産額の保有制限の改正(1)改正の背景遊休財産額は、具体的には次の算式により算定されています。遊休財産額=資産額-(負債額+基金額)-(控除対象財産額-対応負債額)ここにいう控除対象財産とは、現に使用されているあるいはその将来の使用が明確に決まっている財産として、遊休財産額の算定から控除されるものです。例えば、公益目的保有財産や公益目的事業を行うために必要な収益事業等に供する財産として使用している財産のほか、特定費用準備資金や資産取得資金、寄附者による使途指定が付されて寄附された財産等が、控除対象財産に該当します。対応負債は、そうした控除対象財産の取得のための資金調達となった負債を指しています。この対応負債は、遊休財産額の算定上、正味の控除対象財産額を計算するために、上記算式のとおりとなっています。こうした公益認定基準が設けられたときには、1年分の公益目的事業費相当額の資産を保有していれば、法人を取り巻く環境の変化にも対応できるものと考えられていました。しかし、公益目的事業に重大な影響を与えるにもかかわらず、予見することが困難な自然災害や新型コロナ感染症のパンデミック等といった事態に備えるには不十分であるとの意見が広く存在していました。要するに、何に使用するのかが決められていない資産についても、万が一に備えるという意味で、一定程度の財産保有は、遊休財産額の保有制限とは別に認められるべきであるとの考え方が示されていました。(2)「遊休財産額」の保有制限から「使途不特定財産額」の保有制限へ上記の背景をもって、予見が困難な災害等に備えるための財産を、保有制限から除こうとの方向性が示されました。ただし、遊休財産という用語には、使用されておらず、かつ将来の使用が計画ないしは予定されていないものという意味が込められています。そこで、予見が困難な災害等に備えるための資産、すなわちいつどれだけ何に使用するのかが明確には決まっていない資産をも保有制限から除くために、遊休財産という用語に代えて、「使途不特定財産」という用語が用いられることとなりました。改正公益認定法第16条第1項では、「公益法人の毎事業年度の末日における使途不特定財産額は、当該公益法人が公益目的事業を翌事業年度においても行うために必要な額として、当該事業年度前の事業年度において行った公益目的事業の実施に要した費用の額(その保有する資産の状況及び事業活動の態様に応じ当該費用の額に準ずるものとして内閣府令で定めるものの額を含む。)を基礎として内閣府令で定めるところにより算定した額を超えてはならない。」と規定されることとなりました。そして第2項で、使途不特定財産額は、「公益法人による財産の使用若しくは管理の状況又は当該財産の性質に鑑み、公益目的事業又は公益目的事業を行うために必要な収益事業等その他の業務若しくは活動のために現に使用されておらず、かつ、引き続きこれらのために使用されることが見込まれない財産」と定義されています。(3)公益目的事業継続予備財産使途不特定財産から除かれるとされた予見困難な災害等に備えるための財産は、「公益目的事業継続予備財産」と呼ばれ、改正公益認定法第16条第2項のなかで、「災害その他の予見し難い事由が発生した場合においても公益目的事業を継続的に行うために必要な限度において保有する必要があるもの」と定義づけられています。そしてこの公益目的事業継続予備財産については、内閣府令「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律施行規則」(以下、公益認定等規則)第35条にて、その設定要件として次の3つが定められています。【公益目的事業継続予備財産の要件】法人の実情に鑑み、資金を保有する必要性があること当該法人の事業内容、資産及び収支の状況、予見し難い災害等の発生により想定される公益目的事業継続が困難となる事態、予見し難い災害等が発生した場合でも公益目的事業を継続するための平時の取組みの状況等に鑑み、公益目的事業を継続的に行うための資金を保有する必要性があること予備財産の限度額が算定されていること予見し難い災害等に起因して必要となる資産の額を算定することは困難であると思われるため、上記一の必要性と公的機関等における各種検討結果・研究内容、過去に発生した類似の事例を基にしつつ、かつ平時の取組みにより抑制できる部分は除いて、その限度額を算定。予備財産額がその限度額以下であること予備財産は、使途が特定されていない公益目的事業財産であるから、公益目的事業会計における使途不特定の財産額(対応負債額を除く)を超えてはならないこと。具体的には、上記二の限度額と公益目的事業会計における「資産額-(負債額+基金額)-(控除対象財産額-対応負債額)」のいずれか少ない額以下であること。そして公益目的事業継続予備財産を保有している場合、その保有の理由及びその3つの要件の内容を毎事業年度の経過後3ヶ月以内に、法人自らが公表しなければなりません(改正認定法第16条第3項、公益認定等規則第37条第1項及び第2項)。当然ながら、その保有の理由としては、既述の3つの要件に適合することが説明されなければなりません。なおこうした公表は、インターネットの利用等の適切な方法により行うこととされています(公益認定等規則第37条第3項)。(4)使途不特定財産額の保有制限額の算定(公益認定等規則第34条)上述の公益目的事業継続予備財産を考慮するならば、使途不特定財産額は、次の算式により算定されることになります。使途不特定財産額=資産額-(負債額+基金額)-(控除対象財産額-対応負債額)-公益目的事業継続予備財産額そして使途不特定財産額となる「1年分の公益目的事業費相当額」は、原則として、前事業年度までの過去5年間の各事業年度における公益目的事業費相当額の平均額となります。平均額を採用するのは、コロナ禍において生じたような公益目的事業費が突発的に激減したりした場合、保有制限額も急減することとなり、結果的に事業の安定性や継続性に問題が生じる程度で使途不特定財産額の保有が制限されるリスクを回避する意図があると考えられます。なお、特例として、公益目的事業の規模が急速に拡大しているような場合には、過去5年間の平均額をもって保有制限額とするならば、拡大している公益目的事業の規模に応じた財産を確保することができなくなる可能性もあるとして、その事業年度または前事業年度の公益目的事業費相当額を保有限度額とすることも認められています。図表:遊休財産規制の見直し(出所)内閣府公益認定等委員会事務局「新しい公益法人制度説明資料」(2025年1月10日)、スライド25。https://www.koeki-info.go.jp/regulation/pdf/20250110kaisetsu.pdf提供:税経システム研究所
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2025/02/27 管理会計
中小企業が身につけておきたい原価管理の知識(21)
1.はじめに本シリーズでは、経営・会計において欠かせない原価管理の考え方を紹介します。今回は、前回に続き、原価企画の例として、富士フイルムビジネスイノベーション株式会社(以下、同社)による製品開発時の取り組みについて説明します。原価企画では、計画時点での見積額から原価が大幅に変動する場合があり、コスト変動を可能な限り抑えることが課題になります。以下では、コスト変動の管理について考えてみます。2.コスト変動のリスク管理表1コスト変動リスクの一例設計リスク共通項対策リスク例:熱、騒音、安全基準他部門要求対策リスク例:加工性、組立性構成リスク構成漏れリスク例:未出図分漏れ、リスト作成ミス小組立リスク例:仕入先変更、手配単位変更(出所)加登(1993,p.176)を基に筆者作成。前回の記事でも確認したように、原価は、内的・外的な要因によって変動します。目標原価を達成するうえで、コスト変動のリスクを最小限に抑えることが重要になります。例えば、事務機器の開発では、開発期間中に発生する様々なコスト変動のリスク事項を表1のような一覧表にして管理することがあります。3.コスト変動に対する管理の取り組み例ここでは、コスト変動のリスク管理に関する同社の取り組み内容を見てみましょう。同社の原価企画で、コスト変動が予想されるリスク事項への対策を検討します。コストの増加、減少が予想される項目を予測額とともに一覧表にして、変更策を検討します。次に、一覧表に記載された項目について、開発活動機能チームのリーダーを中心として変更策の内容とそれを実行した場合に開発機能の目標を達成できるかを確認し、開発商品QCD(Quality品質-Cost原価-Delivery納期)責任者に申告します。開発QCD責任者は、変更内容とコスト変動の予測額を確認し、妥当な変更であるか、増加額を最小限に抑えるために他の対策は無いか、目標額以内に入っているかなどを確認します。増加額を最小限に抑える対策が他にもあったり、原価の目標額が未達であったりした時は、開発活動機能チームのリーダーに戻され、再度検討の指示が出されます。変更予定の項目が確認され、変更内容に関して問題が無ければ承認されます。開発QCD責任者によって変更予定の項目が承認されると、図面の変更や変更手続きが開始され、出図され、外注の部品については取引先へと伝達されます。取引先からの原価見積りの回答額が変動予定額を下回れば、提案内容通りに図面の変更が行われます。回答額が変動予定額を上回ると、調達部門担当者による取引先との交渉を中心とする原価改善活動が行われます(注1)。最後に、原価推進責任者が、開発機能ごとのコスト変動の予測額と実績額を集計し、その数値を開発QCD責任者が確認することで、目標設定時の変動許容額に収まるように管理します。以上のように、同社では、開発活動機能チームのリーダーを中心に変動額の推移を可視化することによって、現状の進捗状況を把握し、コスト変動を抑制する取り組みが行われています。参考文献加登豊.1993.『原価企画:戦略的コストマネジメント』日本経済新聞社.谷武幸.2022.『エッセンシャル管理会計第4版』中央経済社.吉田栄介・伊藤治文.2021.『実践Q&Aコストダウンのはなし』中央経済社.<注釈>交渉だけではコストのギャップが解消できないと判断された時は、同社内の設計部門に戻して設計者による改善の検討を行うこともあります。提供:税経システム研究所
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2025/02/20 財務会計
2015年改訂版 中小企業向け国際財務報告基準(21)
1.はじめにこのシリーズでは、2015年に国際会計基準審議会(InternationalAccountingStandardsBoard:IASB)が公表した「改訂版中小企業向け国際財務報告基準」(以下、「中小企業向けIFRS(2015年版)」という)について解説しています。2022年9月に、IASBは、公開草案「中小企業向け国際財務報告基準(第3版)」(以下、「公開草案(第3版)」という)を公表しており、本シリーズでも、適宜「公開草案(第3版)」に触れています。IASBのウェブサイトによると、「中小企業向け国際財務報告基準(第3版)」は、2025年の第一四半期に公表される予定です(注1)。今回は、「公開草案(第3版)」の第23章「顧客との契約から生じる収益」の開示規定について説明し、この章の説明を終えることにします。2.開示規定(1)カテゴリ別の表示顧客との契約から認識した収益は、次のようなカテゴリに分けて表示します(23.121項)。財の販売サービスの提供ロイヤリティ手数料(2)顧客との契約包括利益計算書で区分表示されている場合を除き、顧客との契約から生じた債権または契約資産について認識した減損損失額を開示します(23.122項)。(3)契約残高次の事項を注記する必要があります(23.123項)。顧客との契約から生じた債権、契約資産および契約負債の期首残高と期末残高(区分表示していない場合)報告期間に認識した収益のうち、期首残高の契約負債残高に含まれていたもの報告期間に、過去の期間に充足した履行義務、または部分的に充足した履行義務から認識した収益(例:変動対価の見積値の変動)(4)約束顧客との契約における約束に関する次のような情報を開示します(23.124項)。約束を充足する通常の時点(例:出荷時、納品時、サービス提供時、サービス完了時)重要な支払い条件返品義務、返金義務、その他の類似義務製品保証や関連する義務の種類(5)約束の充足時期の決定時間の経過とともに充足される約束については、収益の認識に際して用いた方法を開示します(23.125項)。(6)未充足の約束未充足の約束の重要性とこれらの約束が充足される予想時期に関する定量的情報または定性的情報を開示します(23.126項)。(7)契約獲得コストと契約履行コスト契約獲得コスト(契約を獲得するためのコスト)と契約履行コスト(契約を履行するためのコスト)に関する次の情報を開示します(23.127項)。契約獲得コストまたは契約履行コストから認識した資産について、資産の主要区分別の期末残高報告期間に認識した償却および減損損失の金額(8)一定の事実貨幣の時間価値の調整を行わなかった場合(23.59項)、または契約獲得コストを費用処理した場合(23.105項)は、その事実を開示します(23.128項)「公開草案(第3版)」でも、収益認識に関する開示は規定されていますが、IFRS第15号や企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」の規定にはある「収益の分解(情報)」(注2)などはないため、簡略化されていると言えるでしょう。<注釈>https://www.ifrs.org/projects/work-plan/2019-comprehensive-review-of-the-ifrs-for-smes-standard/(最終アクセス日は2025年1月5日)。「収益の分解(情報)」は、顧客との契約から認識した収益を、収益とキャッシュ・フローの性質、金額、発生時期および不確実性に影響を与える主要な要因に基づく区分に分解した情報を開示することです。提供:税経システム研究所
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2025/02/13 管理会計
生成AIを活用した財務・非財務情報の分析(1)
2025-02-219:00追記当記事につきまして、タイトルに変更がございました。謹んでお詫び申し上げますとともに、下記のとおり訂正いたします。(変更前)生成AIを活用した財務・非財務情報の活用(1)↓(変更後)生成AIを活用した財務・非財務情報の分析(1)1.生成AIの発展とビジネスでの活用生成AI(GenerativeAI)の爆発的な成長は、ビジネス環境を大きく変貌させています。ChatGPT、MicrosoftCopilot、GoogleGeminiなど、多くの生成AIが登場し、日々その内容はアップデートされ続けています。生成AIは我々の生活の様々な場面で用いられるようになっていますので、おそらく読者の皆さんも、なんらかの生成AIに触れたことがあるのではないでしょうか。そもそも生成AIとは、大量のデータを学習して新しいデータやコンテンツを生成する能力を持つ人工知能技術のことを言います。その基盤技術には、ニューラルネットワークと呼ばれる人間の脳の神経伝達を模した計算モデルが使用されており、まるで、人間が学習を通じて新たなものを創造するのと同じようなプロセスによって、文章、音声、映像などを作り出すことができるのです。グローバルなビジネスシーンでは、生成AIの活用が爆発的なスピードで進んでいます。総務省(2024)(注1)では、日本、米国、ドイツ、中国の4か国の企業における生成AIの活用状況についての調査結果が示されていますが、日本企業の利用状況は、他国から大幅に遅れをとっていることがわかります。メールや議事録、資料作成等の補助への生成AIの活用状況(注2)は、米国(84.7%)、ドイツ(72.7%)、中国(84.4%)に対して、日本(46.8%)となっており、また、生成AIの自社製品やサービスへの組み込みについても、米国(79.4%)、ドイツ(68.7%)、中国(84.0%)に対して、日本(34.6%)となっています。同調査では、その他様々な場面での生成AIの活用状況が示されていますが、いずれの項目においても日本企業での活用の程度は低い状況となっています。日本企業の生成AI利用率の低さの背景には、生成AI利用によって生ずるリスクに対する懸念があるのかもしれません。事実、生成AIは常に正確な情報を出力してくれるとは限りませんし、まれに誤った情報を出力してしまうこともあります。また、出力された情報の根拠となる資料が完全に示されないこともあります。近年の生成AIはこれらの問題に対処するように、情報の精度も格段に上がり、出力情報の根拠資料も明確に示すように改良が進められてきました。これらの改良によって、生成AIの利用リスクは生成AIが世に出始めた当初に比べて非常に小さくなっていますが、リスクが全くなくなったわけではありません(注3)。したがって、生成AIを利用する場合は、生成AIに依存し過ぎず、それを使う側の人間も情報をアップデートし、スキルを高めていく必要がありますが、だからといって、生成AIを過度に恐れる必要もありません。使い方によっては、生成AIはビジネスを格段にレベルアップさせるための大きな武器となるのです。2.生成AIで会計情報を活かす本リポートでは、生成AIを活用しながら会計情報をどのように活かすことができるのか、具体的な活用方法を含めて解説していきます。これまで、会計というと、主に貨幣的価値によって表現される財務情報が主役でしたが、近年では、財務情報が生み出されるプロセスの情報である非財務情報をマネジメントすることの重要性に対する企業の認識も高まっています。なかには、非財務情報がどのようなプロセスを通じて財務業績、ひいては企業価値の向上をもたらすのかについて、相関や因果関係の分析を行う企業も現れ始めています。たとえば、アサヒグループでは、環境に関する取り組み(非財務情報)が、企業の活動を通じて、企業業績(財務業績)に影響を与える過程を図1のような仮説として示し、その検証と改善を行っています。図1非財務情報と財務情報を結び付ける仮説検証出典:アサヒグループ統合報告書(2024),pp.39-40.生成AIが登場する以前であれば、上記のような分析を行うことは容易ではありませんでした。大規模なシステム投資を行うか、統計やプログラミングに長けた高度な能力を持つ人材を獲得しなければ、そもそも基本的なデータ分析ですら、実行することは難しかったでしょう。しかし、生成AIの登場により、データ分析の実行環境は大きく変化しています。とくに、もっとも名の知れた生成AIと言っても過言ではないChatGPTは、データ分析能力が非常に高いことでも有名です。本リポートでは、ChatGPTを用いて、分析コードを一切使わずにデータ分析を行う方法を解説していきます。具体的な解説は、次回のリポートからとさせていただきますが、さいごに、簡単な分析例をお示しして、第一回のリポートを閉じたいと思います。3.ChatGPTを用いたデータ分析今回はある架空の企業データ(注4)を用いて、分析を試みます。データには、10年分の売上高、広告費、給与、社員研修の時間、および有給取得率が含まれています。また、分析は、ChatGPTの最新モデルであるGPT-4o(GPT-4omni)を用いることにします。GPT-4oは、ユーザー登録後、使用回数制限はありますが、無料版でも使用することが可能です(注5)。まず、注3のリンクから、今回の分析に必要となるExcelファイルをダウンロードしてください。その後、ChatGPTにユーザー登録後、図2の①の箇所をクリックし、当該Excelファイルを添付します。その後、②メッセージ記入欄に以下の指示(プロンプト)を入力し、③実行します。「これは自社の10年分の財務・非財務情報です。このデータを用いて、広告費、給与、社員研修の時間、有給取得率が売上高に与える影響について分析を実行し、統計分析の専門用語を使用せずに解釈を記述してください。影響関係が不確実なものについては、出力は不要です。また、具体的な影響(たとえば、有給取得率が〇%増えると、売上が約〇円増加する)がわかるように解釈を記述してください。」図2ChatGPTの初期入力画面すると、図3のような結果が出力されます。ChatGPTを用いた分析の結果、この企業においては、社員研修時間や有給取得率の増加が売上高の向上に寄与しているものの、広告費の増加は売上高の向上に寄与していないことが確認できました(注6)。今回のリポートでは、これ以上の追加的な分析は行いませんが、ChatGPTと対話を繰り返すことにより、さらに詳細な分析やグラフの出力などを行うことも可能です。図3ChatGPTによる解析結果生成AIをうまく使いこなすことができれば、会計情報を効果的に活用し、データに基づく経営を行うことが可能になります。次回のリポートから、ChatGPTを用いた様々な分析についてご紹介していきますので、ぜひこの機会に生成AIのビジネスへの活用を検討していただければと思います。<注釈>総務省(2024)「国内外における最新の情報通信技術の研究開発及びデジタル活用の動向に関する調査研究」https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r06/html/datashu.html#f00063総務省(2024)への回答のうち、生成AIの活用状況について「業務で使用中(効果はでている)」および「業務で使用中(効果は測定中または不明)」と回答したものを生成AIを活用しているものとして割合を計算しています。生成AI利用のリスクについては稿を改めてご紹介させていただきます。Excelデータは、以下のURLよりダウンロードいただけます。https://www.dropbox.com/scl/fi/j1kt3co2kowa47ie2bqdq/data.xlsx?rlkey=lp3jyzp6c0n5dvg7bsazmihar&dl=0ChatGPTのアカウント作成のためには、メールアドレス、名前、電話番号等のご登録が必要となります。また、利用にあたっては、自社のセキュリティ基準を確認し、また、機密情報や社外秘の情報をしないよう注意をお願いいたします。分析結果の確認方法についても、次回以降のレポートでご説明していきたいと思います。提供:税経システム研究所
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2025/02/06 財務会計
公益法人制度の改正(3)
はじめに「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」(以下、改正前公益認定法)が、昨年2024年(令和6年)5月に改正(改正後の法律は、以下、改正公益認定法)され、新たな公益法人制度が2025年(令和7年)4月から始まります。この改正の内容のなかで、今回は、収支相償(中期的収支均衡)の判断においても影響を与え、また遊休財産額(改正後は、使途不特定財産)の保有制限や公益目的事業比率等にも影響を与える「公益充実資金」を取り上げて、解説します。いわば財務三規律に重大な影響を及ぼす改正内容であると言えます。公益充実資金は、今回の改正により創設された制度ですが、従来の特定費用準備資金や資産取得資金の制度を引き継ぎながら、さらに法人により柔軟な資金の積立てを可能とするものとなっています。4.公益充実資金の創設(1)改正の背景従来、「特定費用準備資金」(改正前施行規則(注1)第18条)や「資産取得資金」(改正前施行規則第22条第3項第3号)の制度が存在しており、それらを積み立てた場合には、その積立額は、会計帳簿上は費用ではありませんが、公益目的事業比率や収支相償の判断においては費用の額に含められる措置が取られてきました。特定費用準備資金は、将来の特定の活動の実施のために特別に支出する費用のために積み立てる資金を指していました。また資産取得資金は、将来に、公益目的事業等にとって必要な実物資産の取得や改良のために積み立てられる資金を指していました。そして、その積立額に相当する資産は、特定資産等として資金拘束されることが求められてきました。これら、特定費用準備資金や資産取得資金については、それら資金に係る実行可能性のある将来計画の策定が求められていました。それらの資金に関わって拘束されている具体的な資産の額は遊休財産額には含められないこととされていました。特定費用準備資金や資産取得資金の制度により、収支相償の要件を容易に充たすことができるようになると考えられていました。しかし、上述のとおり、その制度の利用のためには、実行可能な計画を立てる必要があるとともに、将来の特定の支出のための資金として紐付きでの資金拘束を行う必要がありました。このことは、確実に公益目的事業の拡大につなげるための措置であったと言えます。しかし、恒常的に公益目的事業において余剰が生じている場合には、その公益目的事業の拡大や新規の公益目的事業の計画がないとき、あるいはそれらについて明確な計画が立てられていない場合には、収支相償を充たすための仕組みとしては機能できないこととなっていました。すなわち将来計画を有することができない法人にとっては、公益目的事業において余剰がある場合には収支相償を充たすことができないリスク、また収益事業等にて余剰が生じる法人にあっても、遊休財産額の保有制限に抵触するリスクが生じていました。加えて、将来の収入の減少等の不安定要素について備えなければ、事業の継続が困難になるとの意見もありました。そこで事業、特に公益目的事業の継続を考慮するならば、従来の特定費用準備資金や資産取得資金の制度を緩和(拡充)することが求められました。(2)公益充実資金への拡張公益充実資金とは、公益目的事業を充実させるため将来において必要となる資金(注2)(改正公益認定法第14条)を指します。改正前の制度である特定費用準備資金や資産取得資金を統合し、「法人の実情や環境変化に応じた柔軟な資金管理が可能となるよう、使途変更の柔軟性等を高めたものとして創設」(改訂ガイドライン(注3)、154頁)されました。そして公益充実資金を積み立てるには、一定の使途の具体性(目的や時期、必要額等)が必要とされており、次の要件をすべて満たすことが求められています。「一公益目的事業に係る将来の特定の活動又は将来の特定の公益目的保有財産に係る資産の取得若しくは改良(以下、「公益充実活動等」という。)に係る費用等の支出に充てるために必要な資金として積み立てられるものであること。二公益充実資金に関する次に掲げる事項を当該事業年度の終了後、インターネットの利用その他の適切な方法により速やかに公表していること。当該事業年度の末日における公益充実活動等ごとの内容及び実施時期当該事業年度末日における積立限度額(公益充実活動等ごとの所要額の合計額をいう。以下同じ。)及びその算定根拠当該事業年度の公益充実資金の取崩額及び積立額当該事業年度の末日における公益充実資金の額前事業年度の末日における公益充実活動等ごとの内容及び実施時期、積立限度額及びその算定根拠並びに公益充実資金の額、その他内閣総理大臣が必要と認める事項三公益充実資金を公益充実活動等以外の支出に充てるために取り崩す場合について特別の手続が定められていること。四当該事業年度の末日における公益充実資金の額が第二号ロの積立限度額以下であること。五財産目録、貸借対照表又はその附属明細書において、他の資金と明確に区分して表示されていること。」(改正施行規則第23条)(3)公益充実活動等に関する補足説明公益充実資金は、公益充実活動等に係る費用等の支出に充てるために積み立てることができますが、公益充実活動等には、「既存事業を維持するために将来の収支変動に備えた積立てや将来の収入減少に備えた積立ても可能」(改訂ガイドライン、155頁)とされています。将来の収支変動に備えた積立てについては、「過去の実績や事業環境の見通しを踏まえて活動見込みや限度額を合理的に見積もることが出来ること(事業構造から収入が多い年・少ない年(支出が多い年・少ない年)があるなど)」(改訂ガイドライン、155頁脚注)が、そして将来の収入減少に備えた積立てについては、「外的な要因により将来の収入減少が合理的に見込まれること(保有する有価証券の配当が減少傾向にありそれが引き続く可能性が高い、補助金制度の見直しが進められており補助金を受け取れなくなる可能性が高いなど)」(改訂ガイドライン、155頁脚注)が、公益充実活動等に含められるために必要とされています。参考:公益充実資金が取り崩される場合には、改正前の特定費用準備資金等と同様に、取り崩した事業年度の収支相償等の判断において、費用の額から控除して、収支相償等の判断が行われることになります。<注釈>内閣府令第68号「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律施行規則」(平成19年)。以下、このレポートでは改正前施行規則と呼ぶことにします。なお、改正された施行規則は、内閣府令第87号(令和6年)であり、以下、改正施行規則と呼ぶことにします。公益充実資金には、公益目的事業を充実させるために将来に必要なる資金を運用することを目的として保有する財産も含みます(改正施行規則第23条)。内閣府公益認定等委員会「公益認定等に関する運用について(公益認定等ガイドライン)」を指し、以下、このレポートでは、平成20年度版を改正前ガイドライン、令和6年改訂を改訂ガイドラインと呼ぶことにします。提供:税経システム研究所
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2025/01/30 管理会計
企業が生き残るための製品・サービスの原価計算の勘所(15)
当初掲載していた記事に追加された箇所がございます。謹んでお詫び申し上げますとともに、下記のとおり追加しました。(追加箇所)2.原価計算基準における販売費及び一般管理費の分類基準(2)機能別分類末尾(追加内容)と規定しています1.販売費及び一般管理費への注目前回の(14)では、販売費及び一般管理費について、「実務の場面では、各顧客に関連して販売費及び一般管理費が一律に同じ割合で発生するのではなく、顧客ごとに販売費の、場合によると、一般管理費も含めた費用の発生額が異なる場合が多い」から検討が必要であると説明しました。商品販売業においては、商品の仕入単価は、おおむね変動費として管理することができます。また、製造業においては、製品製造原価、とくに製品単価については、詳細に分類・計算して分析・管理に役立てるための研究を長年蓄積してきました。したがって、売上原価については、原価管理の手法がいろいろと確立しています。これに対して、販売費及び一般管理費は、「原価計算基準」[大蔵省企業会計審議会,1962]においては、「販売費および一般管理費は、これを期間原価とする」[四(二)]と規定されています。「原価計算基準」[大蔵省企業会計審議会,1962]では、「販売費および一般管理費原価要素の分類基準」[三七]については説明しているものの、「販売費および一般管理費の計算」[三八]では、「製造原価の費目別計算に準」[三八]じて、「一定期間の発生額を計算する」[三八]と規定していることから、販売費及び一般管理費を製品別に集計することを想定してはいないようです。こういった状況について、わが国の原価計算研究において多大な貢献をした一橋大学岡本清名誉教授は、名著『原価計算』の三訂版から営業費計算を設け[岡本,1980,p.i]、営業費計算の重要性が増大したことについて、現段階で最新版の六訂版まで次のように説明しています。原価計算の主目的が公開財務諸表の作成にあるときは、営業費計算はあまり注目されなかった。なぜならば、営業費は期間損益計算上、期間原価(periodcosts)として処理され、製品や仕掛品に割り当てられることはないので、単に費目別実際発生額を把握すればよかったからである。ところが、・・・、広告費、販売促進費、研究開発費、電算機による情報処理費などがいちじるしく増加してきた。そこでこれらの営業費とりわけ販売費を、製品品種別、販売地域別、顧客別、販売ルート別などに分析し、収益性の改善を図らなければならない。このようにして、営業費計算は人々の注目を集めるようになったのであるが、製造原価と異なり、営業費は極めて特異な性質をもつ原価であるために、営業費をどのようにして管理すべきか、経営管理者の意思決定に役立つように、営業費をどのように分析すべきかは、きわめて難解な問題であって、それは原価計算担当者にたいする重大な挑戦となっている[岡本,2000,pp.691-692]。2.原価計算基準における販売費及び一般管理費の分類基準原価計算においては、原価を体系的に把握するために、これを分類することが必要です。一般的に、製造原価の計算では、原価要素を、材料費・労務費・経費、直接費・間接費、固定費・変動費などに分類することが説明されています。「原価計算基準」[大蔵省企業会計審議会,1962]では、製造原価要素の分類基準として、材料費・労務費・経費という形態別分類[八(一)]、機能別分類[八(二)]、直接費・間接費という製品との関連における分類[八(三)]、固定費と変動費という操業度との関連における分類[八(四)]、管理可能費・管理不能費という管理可能性に基づく分類[八(五)]、を規定しています。販売費及び一般管理費の計算においても、これらの費用を分類する必要があります。「原価計算基準」[大蔵省企業会計審議会,1962]では、製造原価と同様に、形態別分類、機能別分類、直接費と間接費、固定費と変動費、管理可能費と管理不能費を、「販売費および一般管理費要素の分類基準」[三七]としてあげています。(1)形態別分類「原価計算基準」[大蔵省企業会計審議会,1962]では、販売費及び一般管理費の要素を、形態別分類によって、「給料、賃金、消耗品費、減価償却費、賃借料、保険料、修繕料、電力料、租税公課、運賃、保管料、旅費交通費、通信費、広告料等にこれを分類する」と説明しています[三七(一)]。「原価計算基準」[大蔵省企業会計審議会,1962]において、製造原価の形態別分類では、消費する経営資源によって分類しています。物品を消費して発生した原価は材料費に、労働力を消費して発生した原価は労務費、それ以外の経営資源を消費して発生した原価は経費に分類しています。(2)機能別分類「原価計算基準」[大蔵省企業会計審議会,1962]では、機能別分類によって、販売費及び一般管理費の要素を、「広告宣伝費、出荷運送費、倉庫費、掛売集金費、販売調査費、販売事務費、企画費、技術研究費、経理費、重役室費等にこれを分類する」[三七(二)]と説明しています。また、機能別の「分類にさいしては、当該機能について発生したことが直接的に認識される要素を、は握して集計する。たとえば広告宣伝費には、広告宣伝係員の給料、賞与手当、見本費、広告設備減価償却費、新聞雑誌広告料、その他の広告料、通信費等が集計される」[三七(二)]と規定しています。(3)直接費と間接費「原価計算基準」[大蔵省企業会計審議会,1962]では、「販売費および一般管理費の要素は、販売品種等の区別に関連して、これを直接費と間接費とに分類する」[三七(三)]と規定しています。製造原価要素を直接費と間接費とに分類することについては、「製品との関連における分類とは、製品に対する原価発生の態様、すなわち原価の発生が一定単位の製品の生成に関して直接的に認識されるかどうかの性質上の区別による分類」[大蔵省企業会計審議会,1962,八(三)]と規定しています。これに倣えば、販売費及び一般管理費を直接費と間接費とに分類する基準は、「販売品種等に対する原価の発生が直接的に認識されるかどうかの区別による」ということができるでしょう。(4)固定費と変動費「原価計算基準」[大蔵省企業会計審議会,1962]では、販売費及び一般管理費を固定費と変動費とに分類することについて説明していません[三七(四)]。しかしながら、この分類基準は、製造原価の分類と同様に、操業度との関連による分類であることは間違いありません。いうまでもなく、固定費は操業度の変動にかかわらず一定期間一定額が発生する費用であり、変動費は操業度の変動によって比例的に増減する費用です。(5)管理可能費と管理不能費「原価計算基準」[大蔵省企業会計審議会,1962]では、販売費及び一般管理費を管理可能費と管理不能費とに分類することについても、説明していません[三七(五)]。しかしながら、この分類基準も、製造原価の分類と同様に、「原価の発生が一定の管理者層によって管理しうるかどうかによる分類」[八(五)]であることは間違いないでしょう。参考文献伊藤嘉博・目時壮浩、2021『異論・正論管理会計』中央経済社。大蔵省企業会計審議会、1962「原価計算基準」大蔵省企業会計審議会。岡本清、1980『原価計算』三訂版、国元書房。岡本清、2000『原価計算』六訂版、国元書房。岡本清・廣本敏郎・尾畑裕・挽文子、2008『管理会計』中央経済社。小林啓孝、1997『現代原価計算講義』第2版、中央経済社。小林啓孝・伊藤嘉博・清水孝・長谷川惠一、2017『スタンダード管理会計』第2版、東洋経済新報社。清水孝、2006『上級原価計算』第2版、中央経済社。清水孝、2014『現場で使える原価計算』中央経済社。清水孝・長谷川惠一・奥村雅史、2004『入門原価計算』第2版、中央経済社。園田智昭、2021『プラクティカル原価計算』中央経済社。谷武幸、2022『エッセンシャル管理会計』第4版、中央経済社。提供:税経システム研究所
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