会計研究レポート
MJS税経システム研究所・会計システム研究会の顧問・客員研究員による新会計基準や制度改正等をできるだけわかりやすく解説した各種研究リポートを掲載しています。
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2025/08/21 財務会計
中小企業向け国際財務報告基準第3版(3)
1.はじめに本シリーズでは、2025年2月に国際会計基準審議会(InternationalAccountingStandardsBoard:IASB)が公表した「中小企業向け国際財務報告基準(第3版)」(以下、「中小企業向けIFRS(第3版)」という)を説明しています。今回は、第29章「法人所得税(IncomeTax)」(IAS第12号に相当する)を解説します。2.範囲法人所得税には、課税所得にもとづくすべての国内外の税金が含まれます。また、法人所得税には、子会社、関連会社またはジョイント・アレンジメント(注1)から報告企業への分配について支払われる源泉徴収税なども含みます(29.1項)。法人所得税には、当期税金と繰延税金があります。3.当期税金の認識と測定当期税金とは、ある期の課税所得または税務上の欠損金について、納付すべきまたは還付される税額をいいます。日本でいう法人税等です。当期および過年度の課税所得に対する未払税金については、当期税金負債(未払法人税等)を認識します。当期および過年度の支払額がこれらの期間の支払うべき額を上回る場合、その超過額を当期税金資産(未収還付法人税等)として認識します(29.4項)。過年度に納付した税金の還付を受けるために繰戻控除ができる税務上の欠損金については、当期税金資産(未収還付法人税等)を認識します(29.5項)。当期税金負債・当期税金資産は、報告日までに制定されている、または実質的に制定されている税率と税法を用いて、それぞれ支払う・回収すると見込まれる金額で測定します(29.6項)。4.繰延税金の認識(1)一般認識原則資産と負債の認識には、企業がその資産の帳簿価額の回収、または負債の決済を予想していることが内在しています。帳簿価額の回収または決済により、将来の納税額が、回収または決済が税務上の影響を及ぼさない場合よりも大きくなる可能性が高い場合は繰延税金負債を、小さくなる可能性が高い場合は繰延税金資産を認識します。したがって、課税所得に影響を与えずに資産の帳簿価額を回収、または負債を決済すると予想される場合は、繰延税金は生じません(29.7項)。将来の期間における回収可能額について繰延税金資産が、支払額について繰延税金負債が認識されます。これらの税金は、財政状態計算書における企業の資産と負債の帳簿価額と、税務当局が資産と負債に帰属させている金額との差異(一時差異という)、税務上の欠損金、または繰越税額控除から生じます(29.8項)。次のような場合に一時差異は生じますが、これらの一時差異のすべてが繰延税金資産、繰延税金負債を生じさせるわけではありません(29.13項)。①企業結合で取得した識別可能な資産と引き受けた負債が公正価値で認識されているが、税務上では公正価値で認識されていない場合②資産を再測定したが、税務上では再測定されない場合(2)将来加算一時差異(繰延税金負債)と将来減算一時差異(繰延税金資産)すべての将来加算一時差異について繰延税金負債を認識しますが、繰延税金負債が次のいずれかから生じる場合は、繰延税金負債は認識されません。①のれんの当初認識②企業結合ではなく、かつ、取引時に会計上の利益にも課税所得(税務上の欠損金)にも影響を与えない取引における資産または負債の当初認識(注2)繰延税金資産は、将来減算一時差異を利用できる課税所得が生じる可能性が高い範囲内で、すべての将来減算一時差異について認識されます。ただし、上記②の当初認識に該当する場合は、繰延税金資産は認識されません(29.16項)。子会社、支店、関連会社に対する投資およびジョイント・アレンジメントに対する持分に関連して生じる将来加算一時差異については繰延税金負債を、将来減算一時差異については繰延税金資産を認識します(29.14項)。5.繰延税金と当期税金の測定繰延税金資産・負債は、報告日までに制定されている、または実質的に制定されている税率と税法にもとづいて、繰延税金資産が実現する期、または負債が決済される期に適用予定の税率で測定されます(29.27項)。なお、当期税金資産・負債(未収還付法人税等・未払法人税等)、繰延税金資産・負債を現在価値に割り引くことは認められていません(29.32項)6.表示と開示財政状態計算書では、繰延税金資産はすべて非流動資産に、繰延税金負債はすべて非流動負債に分類されます(29.36項)。当期税金資産(未収還付法人税等)と当期税金負債(未払法人税等)については、企業が金額を相殺する法的強制力のある権利を有しており、かつ、純額で決済するか、資産の実現と負債の決済を同時に行うことを意図している場合に限り、両者を相殺します(29.37項)。繰延税金資産と繰延税金負債については、以下の場合に限り、両者を相殺します(29.37A項)。①当期税金資産と当期税金負債を相殺する法的強制力のある権利を有しており、かつ、②繰延税金資産と繰延税金負債が、同一の税務当局が次のいずれかに対してされた法人所得税に関するものである同一の納税主体異なる納税主体ではあるが、重要な額の繰延税金資産の回収または繰延税金負債の決済が見込まれている将来の各期間において、当期税金資産(未収還付法人税等)と当期税金負債(未払法人税等)を純額で決済するか、またはこれら資産の実現と負債の決済を同時に行うことを意図している納税主体(注3)開示については、財務諸表の利用者が、当期税金と繰延税金の内容や財務的影響を評価できるような情報を開示します(29.38項)。税金費用(収益)の主要な内訳を別個に開示することとされており、この内訳には当期税金費用(収益)、一時差異の発生と解消に係る繰延税金費用(収益)の額などがあります(29.39項)。<注釈>ジョイント・アレンジメントは、複数の当事者が共同支配を有する取り決めです。日本基準には、②に相当する規定はありません。シンプルな例としては、連結グループ全体の繰延税金資産の合計が100、繰延税金負債の合計が70であれば、これらを相違して繰延税金資産30にするという感じです(納税制度は各国で異なりますので、完全かつ正確な説明ではありません)。なお、日本基準では、異なる納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債の相殺表示は、連結納税制度が採用されている場合の連結納税グループ間での相殺を除いて、認められていません。提供:税経システム研究所
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2025/08/07 財務会計
公益法人制度の改正(7)
はじめに「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」が、昨年2024年(令和6年)5月に改正され、新たな公益法人制度が2025年(令和7年)4月から始まっています。この改正内容を受けて2024年(令和6年)12月に改正された「公益法人会計基準」(以下、改正会計基準)が公表されました。全体の構成は、前回で示したとおりです。今回からその内容を具体的に確認していきたいと思います。8.財務報告の目的前回のリポートで、改正会計基準が、日本公認会計士協会が公表した非営利組織モデル会計基準を模していることを指摘しました。しかし改正会計基準の冒頭で記されている財務報告の目的は、非営利組織モデル会計基準にも、改正前の公益法人会計基準にも含まれていなかった内容です。(1)公益法人の組織の特性ここでは、公益法人(公益社団法人または公益財団法人)は、「民間の公益活動によって、公益の増進及び活力ある社会の実現に資することを目的として」(改正会計基準、par.1)いる組織であるとしております。そして、その特質としては、次の2点が挙げられています(改正会計基準、par.2)。反対給付を伴わない資源提供を受けること外部の資源提供者から反対給付を伴わない資源提供を受け、これを主たる財政的基盤として、組織目的を達成するための活動を行うことが、一般的であること。多様なステークホルダーの存在。特に資源提供者が、公益法人にとって重要であること。(2)公益法人における財務報告の目的上述の特性に基づいて、公益法人における財務報告は、「その活動基盤となる資源提供者を念頭に置いた情報(資源提供者の意思決定に有用な情報、資源の受託者としての説明責任を果たすための情報)を提供することが主要な目的となる。」(改正会計基準、par.4)とされています。そして反対給付を伴わない資源提供者にとっては、「その対象となる法人が、その資源提供によって実現したい公益活動を確実に実施できる財政基盤や事業実績を有しているかを把握するための情報が有用である。」(改正会計基準、par.3)と説明されています。有用な情報とは、その情報を入手することにより、その意思決定が改善される情報を指します。そのため、改正会計基準では、公益法人の財政基盤は、反対給付を伴わない資源提供に依存していることを前提として、換言するならば、寄付や補助金等がなければ、公益目的事業の収支がマイナス(支出超過)となる法人を前提として、寄付等を行う者(いわば、出捐者)の寄付等を行うことに関する意思決定を改善させる情報を提供することが、公益法人における財務報告の目的であると説明していることになります。加えて、異なる文脈となりますが、既に資源を提供した者に対して、「提供を受けた資源が有効かつ効果的に使用され、資源提供者の期待する公益目的の実現に寄与していること」(改正会計基準、par.4)を説明する責任があると述べています。ここでは、説明責任と表記されていますので、会計責任とは異なり、責任解除の概念を伴わない責任を指しています。寄付者等の出捐者達は、公益法人の機関としての集まりは形成しておらず、責任解除する機関が存在していません。さらに改正会計基準により、既存の出捐者に対して情報の報告(特定の者に対する情報の伝達)がなされるわけではありません。あくまで、情報の開示(不特定多数の者に対する情報の伝達)を求めているに過ぎない(改正会計基準、par.7)ことに留意しなければなりません。さらに、公益法人が公益認定を受けているが故に、税制優遇措置を受けていることから、「政府への納税行為を通じて間接的に納税者等から財務資源が付託されているものとも考えられる」(改正会計基準、par.5)ために、資源提供者として、幅広く国民や地域社会も念頭に置くべきとの考えが示されています。そしてこうした考え方に従えば、多様なステークホルダーの多様な情報ニーズに対応していくことにつながるとの見解も示されています(改正会計基準、par.5)。(3)財務報告における情報ニーズ改正会計基準では、財務報告が対応すべき情報ニーズとして、次の3つを挙げています。「①公益法人の継続的活動能力に関する情報公益法人が継続的にサービスを提供するための組織基盤に関する情報。組織の経済的資源・債務・純資産に関する情報(ストック情報)がこれに対応する。②公益法人の組織活動(提供サービス及びその有効性・効率性)公益法人の活動実績(資源獲得・資源投入)などに関する情報。組織の活動実績に関する情報(フロー情報)がこれに対応する。③資源提供目的との整合性に関する情報提供された資源が適切に利用されているか、特に、特定の活動目的のために提供された資源が、指定された使途に合致・整合した形で利用されているかなどに関する情報。使途制約の課された資源に関する情報、法令に基づく公益法人としての財務規律に関する情報などがこれに対応する。財務規律に関するものなど公益法人として法令に基づき開示すべき情報は、認定法等の規定に基づき適切な開示が行われる必要がある。」(改正会計基準、par.6)(4)改正会計基準における「財務報告の目的」の位置づけ以上から、寄付者等の資源提供者に対する有用な情報提供を主要な目的としながらも、既存の資源提供者への説明責任遂行や、その他様々な情報ニーズに対応する情報開示を求めていることから、改正会計基準の「財務報告の目的」は一般目的として位置づけられます。また反対給付を伴わない資源提供がなされることが一般的であるとしながら、そのストック情報が公益法人の継続的活動能力をいかに明らかにするのか、また財務情報の範囲内で投入された資源の有効性や効率性がフロー情報としていかに明らかにされるのかが、その後の基準の内容となる財務諸表の構成要素や認識・測定にいかなる制約を付しているのか否かは、次回以降確認することにします。提供:税経システム研究所
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2025/07/17 管理会計
中小企業が身につけておきたい原価管理の知識(24)
1.はじめに本シリーズでは、経営・会計において欠かせない原価管理の考え方を紹介します。今回は、前回に続き、原価企画の例として、富士フイルムビジネスイノベーション株式会社(以下、同社)による開発時の取り組みを説明します。原価企画では、計画時の見積額からコストが大きく変動することがあり、その対処が必要になります。以下では、コスト変動管理で用いられる帳票について紹介します。2.コスト変動管理で使用される帳票表1変動メニュー表のイメージ(出所)吉田・伊藤(2021,p.173)をもとに筆者作成。前回の記事では、同社のコスト変動管理が、「(1)コスト変動事項の把握とリスト化」、「(2)変更の申請」、「(3)コスト変動の確認と承認」、「(4)図面の変更」、「(5)供給企業からの原価見積額の回答」、「(6)コスト変動状況の集計と確認」という手順で行われることを説明しました。これらの取り組みを行う時に、コスト変動事項を一覧表として登録した変動メニュー表が使用されます。変動メニュー表は、表1のような形で開発機能チームごとに記載、管理されます。開発機能チームの設計リーダが責任者として、この帳票の運用を担当しています。コストの変動(増加、減少)の発生が予測される時、設計者は変動メニュー表にメニュー(変更事項)、変更図面の番号・名称とあわせて、変更事項を導入する前のコスト、変更時のコスト変動予測額(増加額、減少額)と増加が予想される時にはその理由をあわせて記載します。導入前のコストの精度を確認できるように、導入前のコストが設計者による見積額(設計欄)、コストテーブル(注1)を用いた見積額(基準欄)、供給企業による見積額(供給企業欄)のどちらにあたるかを選択して、コストを記載します。変動事項の導入予定時期は、計画段階で記載し、計画に沿って導入が行われたかを実績日まで管理していきます。導入ランク(比率)は、コスト低減のリスク管理のために使うもので、リスクの程度を比率で表し、「コスト低減額×比率」の算出結果をランク後という欄に記載します。同社のコスト変動管理では、コスト変動額を極力少なくするために、現状の可視化を重視しています。変動メニュー表を運用する時にも、登録時点での原価見積の精度が低くても、設計者に速やかに登録してもらうようにすることが重要になります。ただし、同社では、コスト変動の予測額は、図面変更の内容が未確定の段階で設計者が見積りを行う場合があり、予測の精度がだいぶ低くなってしまうことが課題になっています。そのような時、コストテーブルを用いた見積りの実行や、変更がほぼ確定した時点で見積額を修正するといったことにより、予測の精度を高めるための工夫が行われています。さらに、コスト変動管理のうち手順「(6)コスト変動状況の集計と確認」では、全ての開発機能のコスト変動を定期的に集計し、商品単位での変動額全体の推移が把握されています。この時に集計するコスト変動には、「コスト変動予測額(変動メニュー表に登録された段階の金額)」と「コスト変動実績額(供給企業から回答のあった金額)」があります。活動の実行管理を担当する原価推進責任者がこれらの金額を集計し、その内容についてコスト変動管理全体を統括する開発商品QCD責任者が確認しています。ここまで見たように、同社では、変動メニュー表を用いてコストの増減が予想される変動事項を継続的に把握することで、計画時からのコストの変動を抑えるための対策をいち早く実行できるようにしています。参考文献谷武幸.2022.『エッセンシャル管理会計第4版』中央経済社.吉田栄介・伊藤治文.2021.『実践Q&Aコストダウンのはなし』中央経済社.<注釈>部品や材料ごとに、原価情報をまとめた資料(データベースとしての役割を持つもの)を、コストテーブルと言います(詳細は、第12回の記事をご覧ください)。変動メニュー表では、コストテーブルに記載のある金額を参考に、基準欄の数値が記載されます。提供:税経システム研究所
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2025/07/10 管理会計
生成AIを活用した財務・非財務情報の分析(5)
1.営業成績を高める要因の分析企業業績の向上を図るためには、まずもって多くの売上高を確保することが重要です。企業の予算編成において最初に設定されるのが営業予算(売上高予算)であることからも明らかなように、営業は企業経営において最も基礎的かつ戦略的な要素であり、その実行力が全社的な業績にも大きな影響を与えることになります。営業活動は、現場の営業担当者一人ひとりの行動の質や意欲が、組織全体の成果に直結するといっても過言ではありません。したがって、営業担当者のパフォーマンスを高める要因を把握し、適切な支援や施策を講じることは、営業部門のマネジメントにおける重要課題といえるでしょう。では、営業担当者の営業成績、とりわけ売上高の向上に寄与する要因にはどのようなものが考えられるでしょうか。たとえば、近年多くの企業で測定が進んでいるエンゲージメントスコアは、重要な影響要因となるかもしれません。エンゲージメントスコアは、働きがいや目的意識、組織との心理的な一体感を含む概念であり、高いエンゲージメントを持つ従業員は、自発的な行動や創造的な提案を通じて、高い業績を上げる傾向があるとされています。また、営業経験年数も、業務遂行能力や顧客対応力の成熟度を反映する変数であり、経験豊富な担当者ほど成果を上げる傾向がありそうです。そのほかにも、働き方の効率性やワークライフバランスの状況を示す勤務時間や、業務量の大きさや営業機会の多寡を表す担当クライアント数も重要な影響要因となるかもしれません。このように営業成績の多寡に影響を及ぼす複数の要因が考えられますが、はたして、これらの要因は本当に営業成績に影響を及ぼすのでしょうか。また、これらの要因のうち、とくに重要性の高い要因はどれなのでしょうか。これらを明らかにすることができれば、より戦略的に売上高向上に向けた営業部門のマネジメントを実現することができるのです。このような分析は、営業担当者と各変数(エンゲージメントスコア、営業経験年数、平均勤務時間(週)、クライアントアサイン数、営業成績)を結び付けたデータセットがあれば、生成AIを用いて容易に実行することが可能です。今回は、ある企業の営業部門に所属する50名の営業担当者のデータを用いて、分析を実行してみたいと思います。データは担当者(担当者ID)ごとに、図表1のように整理されています(注1)。図表1営業担当者別データ(10名分のみの抜粋)出所:筆者作成2.生成AIを用いた分析の実行今回は、前述のデータを用いて、エンゲージメントスコア、営業経験年数、平均勤務時間(週)、クライアントアサイン数の各変数が、営業成績に及ぼす影響を分析してみたいと思います。今回実行する分析モデルを図示すると図表2のようになります。図表2営業成績に影響を与える要因の分析モデル出所:筆者作成それでは、生成AIを用いて分析を実行してみましょう。分析データを添付したうえで、以下の指示(プロンプト)を書き、実行してみましょう。なお、今回も分析にあたってはChatGPT4-oを使用しています。図表3ChatGPT4-oへの入力画面出所:ChatGPT4-oを用いて筆者作成これを実行すると、図表4のような結果が出力されます。図表4出力結果出所:ChatGPT4-oを用いて筆者出力ここでは、エンゲージメントスコア、営業経験年数、平均勤務時間(週)、クライアントアサイン数が営業成績(各担当者の売上)に与える影響と分析結果の解釈が示されています(注2)。この結果から、今回投入したエンゲージメントスコア、営業経験年数、平均勤務時間(週)、クライアントアサイン数はいずれも、営業成績に影響があることがわかります。より詳しくみると、分析対象企業では、営業経験年数は1年あたり58万円の営業成績増効果が、エンゲージメントスコアは1ポイントあたり45万円の営業成績増効果があるようです。その一方で、平均勤務時間が1時間あたり48万円営業成績を減少させる効果があることもわかります。以上の分析から、当該企業がさらに営業成績を向上させるためには、エンゲージメントの強化策を講じることや、業務プロセスを見直し、長時間労働を是正することが効果的であることを明らかにすることができました。生成AIを用いたデータ分析を活用することで、財務業績を向上させるための施策としての非財務的な要因を明らかにすることもできるのです。<注釈>今回分析に利用するデータは下記URLからダウンロードいただけます。https://www.dropbox.com/scl/fi/lmt611u48qpk5zewizdr0/staff_data.xlsx?rlkey=h6lfa50olww5oh1ona8bc5awr&dl=0図表4に示されている回帰係数とは、各変数が営業成績に与える影響の強さを示しており、有意性(p値)とは、各変数と営業成績の関係性が統計的にみて意味のある関係性であるかどうかを示しています(p値が0.01もしくは0.05を下回っている場合に、統計的にみて意味のある関係性があると判断します)。また、もモデル全体の説明力を示すR2とは、営業成績の変動の81.9%を、今回投入した4つの変数(エンゲージメントスコア、営業経験年数、平均勤務時間(週)、クライアントアサイン数)で説明できていることを意味しています。分析結果の見方については、稿を改めてご説明させていただきます。提供:税経システム研究所
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2025/07/03 管理会計
企業が生き残るための製品・サービスの原価計算の勘所(19)
1.岡本[2000]による販売費及び一般管理費の分類前々回の(17)で、販売費及び一般管理費を分類するにあたり、一橋大学岡本清名誉教授の名著『原価計算』の最新版である六訂版[岡本,2000]による販売費及び一般管理費の分類にもとづいて、どのような観点から体系づければよいかについて検討しました。岡本[2000]では、まず、販売費及び一般管理費を、文字どおり販売費と一般管理費に分類し、さらに、販売費を注文獲得費、注文履行費、販売事務費に分けて説明していますが、一般管理費については勘定科目を例示しているものの、本文において説明はしていません。2.岡本[2000]による販売費分析の総論(1)「販売費会計」ではなく「販売費分析」という意味岡本[2000]では、第13章「営業費計算」の第4節で、「販売費の分析」について説明しています[岡本,2000,pp.700-713]。岡本[2000]では、販売費は、これを経常的に製品へ配賦されることはなく、一般管理費とともに、期間原価として当該会計期間の収益と対応して計算するので、販売費の計算では、販売費会計(marketingcostaccounting)とはいわずに、販売費分析(marketingcostanalysis)というほうが普通である[p.700]と述べています。岡本[2000]が、「営業費会計」ではなく「営業費分析」であると主張した意味を、筆者なりに吟味してみます。会計情報は、企業の経済活動に起因した資産・負債・純資産の増減や収益・費用の発生に関するデータが、財務会計システムに記録されて作成されます。財務会計システムでは、仕訳と転記によって記録しています。原価計算においても、計算した原価データは、工業簿記において、仕訳と転記により、記録されます。原価を計算しただけではなく、これを財務会計システムと結びつけなければ、計算結果を財務諸表上に反映することはできません。ということになれば、貸借対照表や損益計算書で、会計情報をそれぞれ正しく表示することはできなくなります。このことに関連して、「原価計算基準」[大蔵省企業会計審議会,1962]では、「二原価計算制度」において、原価計算を次のように定義しています。この基準において原価計算とは、制度としての原価計算をいう。原価計算制度は、財務諸表の作成、原価管理、予算統制等の異なる目的が、重点の相違はあるが相ともに達成されるべき一定の計算秩序である。かかるものとしての原価計算制度は、・・・、財務会計機構と有機的に結びつき常時継続的に行なわれる計算体系である。原価計算制度は、この意味で原価会計にほかならない。上記の「原価計算基準」[大蔵省企業会計審議会,1962]からの引用箇所でいう「財務会計機構」とは、先述した「財務会計システム」と同義であると考えてください。たんに原価を計算しただけで、財務会計機構(=財務会計システム)と結びついていなければ、常時継続的に行われる計算体系としての、原価計算制度(=原価会計)ではない、ということです。一方で、意思決定や業務管理のためには、必ずしも財務会計システムと結びついていなくても、必要に応じて経営管理のための会計情報を作成し、利用することがあります。これは、管理会計目的としての会計情報の利用法としての特徴です。財務会計システムとは結びつかない管理会計目的の会計情報について、「原価計算基準」[大蔵省企業会計審議会,1962]では、これを否定しているわけではなく、「二原価計算制度」において、「特殊原価調査」という名称で、次のように定義しています。広い意味での原価の計算には、原価計算制度以外に、経営の基本計画および予算編成における選択的事項の決定に必要な特殊の原価たとえば差額原価、機会原価、付加原価等を、随時に統計的、技術的に調査測定することも含まれる。しかしかかる特殊原価調査は、制度としての原価計算の範囲外に属するものとして、この基準には含めない。岡本[2000]は、営業費に関する原価データを、管理会計目的で作成・利用することを念頭におき、必ずしも財務会計システムに結びつけるものではなく、いわんや外部に報告する会計情報ではない、という考えのもとで「営業費会計」ではなく「営業費分析」であると主張したのではないかと、筆者は考えます。つまり、特殊原価調査の一環として営業費分析をとらえていたために、営業費会計(marketingcostaccounting)とはいわない、という説明をしているのではないか、というのが筆者の解釈です。(2)販売費のセグメント別分析岡本[2000]では、販売費分析では、販売費管理のために費目別および機能別に把握された販売費を、販売セグメント別に分析をする[p.700]と説明しています。マーケティングの領域では、販売市場を設定するにあたり、市場を細分化して検討することが多いと聞きます。管理会計目的として、収益性を検討する場合には、営業費をセグメント別に分析することで、セグメントごとの具体的な収益性を理解することに役立ちます。岡本[2000]は、一般的に行われる販売セグメント別分析として、次の5項目をあげています[p.700]。製品品種別分析販売地域別分析顧客種類別分析注文規模別分析販売経路別分析販売費分析の上記5項目については、日本商工会議所簿記検定試験のテキスト[岡本・廣本,2024a]においても、紹介しています。また、岡本[2000]は、販売セグメント別分析は、経常的分析と臨時的分析とに区分しています[p.700]。経常的分析とは、たとえば、月次の経営会議などでセグメント別の収益性を検討するときに報告されるべき情報です。岡本[2000]によると、経常的分析では、各セグメントの業績を測定し、問題点を探索するための一般的な分析であり、そのためには、実績データをセグメントごとに分析し、予算と実績を比較するというかたちをとる[p.700]といいます。これに対して、臨時的分析は、随時必要に応じて経営上の課題を検討するときに行われます。岡本[2000]では、臨時的分析は、注文規模別に分析する場合であれば、注文規模が小さい顧客との取引を継続するか否かという個別的分析となるため、実績データではなく、未来の予測データにもとづく差額原価収益分析が必要になると説明しています[pp.700-701]。参考文献伊藤嘉博・目時壮浩、2021『異論・正論管理会計』中央経済社。大蔵省企業会計審議会、1962「原価計算基準」大蔵省企業会計審議会。岡本清、2000『原価計算』六訂版、国元書房。岡本清・廣本敏郎、2024a『検定簿記講義/1級工業簿記・原価計算下巻』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎、2024b『検定簿記講義/2級工業簿記』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎・尾畑裕・挽文子、2008『管理会計』中央経済社。小林啓孝、1997『現代原価計算講義』第2版、中央経済社。小林啓孝・伊藤嘉博・清水孝・長谷川惠一、2017『スタンダード管理会計』第2版、東洋経済新報社。清水孝、2006『上級原価計算』第2版、中央経済社。清水孝、2014『現場で使える原価計算』中央経済社。清水孝・長谷川惠一・奥村雅史、2004『入門原価計算』第2版、中央経済社。園田智昭、2021『プラクティカル原価計算』中央経済社。谷武幸、2022『エッセンシャル管理会計』第4版、中央経済社。提供:税経システム研究所
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2025/06/26 管理会計
生成AIを活用した財務・非財務情報の分析(4)
1.利益計画の実現手段としての予算の重要性経営計画において設定された利益目標を実現するためには、利益目標をその実行計画である予算に落とし込み、予算が確実に実行されるようにこれを効果的に運用しなければなりません。利益目標を実現するためには、財務目標数値を各責任単位(事業部、部門、課など)に割当てて予算目標を設定し、②目標達成のために必要となる経営資源を各部門間で調整し、③各部門の財務目標の達成に向けて責任と権限を明確化し各部門の統制をはかる必要があります。利益目標を実現するためには、予算をいかに効果的に運用できるかがカギになるのです。予算を効果的に運用するためには、図表1に示すように、予算のPDCAサイクルを回していくことが必要です。すなわち、適切な予算目標の設定(Plan)、期中における予算目標の遂行(Do)、月末・四半期・年度末の目標達成度評価(Check)、アクションプランや次期以降の改善・計画修正(Action)というサイクルを回すことで、予算目標の達成を確実にするとともに、さらなる改善を図っていくのです。図表1予算のPDCAサイクル出所:筆者作成2.効果的な予算のためのデータ分析の活用予算のPDCAサイクルをまわしていくうえでも、データ分析は強い武器となります。たとえば、データを活用することで、予算目標の達成度を月次で確認しながら年間の予算目標の達成可能性をシミュレーションすることや、予算目標の設定レベル(目標の達成難易度)と達成率の因果関係を分析することなどの分析を行うことが可能です。複数年度に渡る予算・実績のデータが蓄積されていれば、過年度の情報をもとにして、翌年度の予算編成の基礎数値(推定売上高、推定コスト、推定利益)などを計算することも可能です。これらの分析をするためには、継続的に予算と実績値に関するデータが蓄積されていることが必要です。予算のために会計・情報システムを導入していれば、一定のルールに基づいて過年度データが蓄積されているはずですから、分析に必要となるデータを出力することは容易でしょう。しかし、多くの企業では、予算のためのデータは表計算ソフト(Excel等)を用いて手動で作成されていることが少なくありません。その場合、データの集計方法や集計範囲が異なると、適切な分析を実行することができなくなってしまいますので、データ集計にあたってのルールを作成しておくことも重要です。3.予算達成度のシミュレーション(予算フォーキャスト)今回のリポートでは、データ分析を予算に活用する一例として、予算目標の達成可能性をシミュレーションする予算フォーキャストをご紹介したいと思います。予算フォーキャストとは、毎月(もしくは四半期ごと)の予算達成度から予算目標の達成可能性をシミュレーションし、環境変化にあわせて予算の柔軟な運用を可能にする仕組みです。シミュレーションの結果、予算目標の達成が難しくなってきた場合には、目標達成に向けて早期にアクションプランの修正を図り、逆に、予算目標が前倒しで達成できる場合は、早期に目標の上方修正を行います。これによって、予算目標の達成可能性を高め、環境変化に応じた予算の柔軟な運用を行うのです。予算フォーキャストでは、月次もしくは四半期ごとに予算目標の達成度を確認しながら、過年度の予算・実績データや市場・経済環境の動向を踏まえつつ、年度の予算目標の達成度をシミュレーションしていきます。図表2は予算フォーキャストのイメージ図を示しています。この図では、第3四半期時点で、予算目標達成ラインに11,000(76,000-65,000)届いていません。このまま期末を迎えると売上高の着地がどうなるかについてシミュレーションをした結果が、第3四半期時点から期末にかけての破線で表されており、このままでは期末着地時点の売上は80,000にとどまってしまうことが推定されています。このように、予算目標の達成可能性を評価し、可能な限り早い段階から予算目標の達成に向けたアクションプランや、予算目標の見直しを図るのが予算フォーキャストなのです。図表2予算フォーキャストのイメージ図出典:筆者作成4.生成AIで予算フォーキャストを実行するそれでは、ChatGPT4o(omni)を用いて売上高に関する予算フォーキャストを実行してみましょう。データは、ある企業の2021年第1四半期から2024年第2四半期までの14四半期分のデータを用います。これを用いて、2024年第3四半期および第4四半期の売上高を推定し、着地時点の予算目標達成度をシミュレーションしてもらいましょう。データは注に示すURL(注1)からダウンロードしてください。まず、ChatGPTにフォーキャストを実行してもらうための指示を出してみましょう(図表3)。指示にあたっては、どのような分析を実行したいのか、シミュレーションにどのようなデータを使用するのか、グラフ化にあたってどのような点に注意して欲しいのかを明確に指示することがポイントです。#実行して欲しい内容2024年期末の予算目標売上高は48,000,000円です。これを実現するための各四半期のあるべき売上高と、実績売上高のギャップが知りたい。また、過年度の売上高の実績を踏まえて、2024年第3四半期、期末時点の着地予想売上高をシミュレーションしてください。これをグラフ化し、各四半期の予算目標達成率も示してください。#データの説明シミュレーションにあたっては、data202505.xlsxのなかの売上高のデータを用いてください。これには自社の2021年第1四半期から2024年第2四半期までの売上高データが入っています。#グラフ出力の注意点グラフの出力にあっての注意点は以下のとおりです。日本語フォントは添付のフォントデータを使用してください累積売上で目標とのギャップを示してくださいQ1、Q2は実績、Q3、Q4は見込みとして線種を変えて表示してください各点に金額と達成率のラベルを表示し、Q4でギャップを矢印で示してください売上金額は百万円単位で表示してください各四半期のあるべき売上高と実績値の金額を可視化してください図表3ChatGPTへの指示出典:筆者作成(ChatGPTへの指示画面)やや複雑な指示を与えていますので、期待する結果がすぐに出力されるとは限りませんが、期待と異なる出力結果となった場合には、改善して欲しい内容を追加指示することで、再度分析を実行してくれます。分析の結果、図表4のような結果が得られました。図表4ChatGPTを用いた売上高に関する予算フォーキャスト出典:ChatGPTを用いて出力予算目標である48,000,000円の売上高を実現するために各四半期で達成すべき売上高と実績値のギャップや、第3四半期、第4四半期(期末)の着地予想売上高が計算されています。これによると、第2四半期までの売上実績値のまま推移した場合、期末時点では目標の91.3%にしか届かず、目標未達に終わってしまうという結果がシミュレーションされています。第2四半期終了時に期末の着地点をシミュレーションすることで、早期のうちに改善策を検討し、どのようにして遅れを取り戻すのかについての策を検討することができるのです。また、図表4のように、今後の推移を可視化することができれば、問題の重要性を直感的にも理解させることも可能になります。予算を効果的に運用するために、生成AIの力を借りてみてはいかがでしょうか。<注釈>https://www.dropbox.com/scl/fo/3pnbn1dmgho6xg1jlx9xz/AORITDUjREbDwQoyeh3s-ww?rlkey=xyb5omanca3osgcpli6knr61x&dl=0提供:税経システム研究所
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2025/06/19 財務会計
中小企業向け国際財務報告基準第3版(2)
1.はじめに本シリーズでは、2025年2月に国際会計基準審議会(InternationalAccountingStandardsBoard:IASB)が公表した「中小企業向け国際財務報告基準(第3版)」(以下、「中小企業向けIFRS(第3版)」という)を説明しています。今回は、IFRS第13号「公正価値測定」と整合させるために新設された第12章「公正価値測定」を解説します。両者の内容はほぼ同じですが、「中小企業向けIFRS(第3版)」では簡略化、簡素化されている箇所(例えば、開示規定)もあります。2.定義と範囲公正価値は、測定日における市場参加者間の秩序ある取引において、資産を売却するために受け取るであろう価格、または負債を移転するために支払うであろう価格と定義されています(Glossaryofterms)。このように、公正価値はいわゆる出口価格とされています。第12章は、他の章で公正価値測定または公正価値測定に関する開示が要求または許容されている場合に適用されますが、第26章「株式に基づく報酬」と第20章「リース」には適用されません(12.1項)。また開示規定については、第28章「従業員給付」において公正価値測定される年金資産と、第27章「資産の減損」において回収可能価額が公正価値から処分費用を控除した額とされる資産には適用されません(12.2項)。3.測定(1)公正価値の目的公正価値測定の目的は、測定日における市場参加者間で、資産の売却または負債の移転が秩序ある取引として行われるであろう価格を見積もることです(12.3項)。(2)測定原則公正価値は、企業固有の測定ではなく、市場に基づく測定です。したがって、公正価値は、市場参加者が資産または負債の価格を決定する際に使用する前提と同じものを用いて測定されます。企業が資産を保有する意図や負債を決済する意図は反映させません(12.4項)。公正価値測定においては、資産の売却取引または負債の移転取引が主要な市場(主要な市場が存在しない場合は、最も有利な市場)で行われることを仮定します(12.6項)。主要な市場は、資産や負債の取引数量と頻度が最も大きい市場です。最も有利な市場は、取得や売却にかかる付随費用を考慮したうえで、資産の売却による受取額を最大化または負債の移転に対する支払額を最小化できる市場です(末尾に設例を記載してあります)。(3)非金融資産への適用非金融資産の公正価値測定は、市場参加者による資産の最有効使用(企業がその資産を最有効使用するまたは資産を最有効使用する他の市場参加者に売却する)を基礎に測定されます(12.10項)。(4)評価技法同一の資産または負債の価格が市場で直接観察できない場合、企業は評価技法を用いて公正価値を測定します。その際には、関連する観察可能なインプットの使用を最大化し、観察不能なインプットの使用を最小化しなければなりません。(12.14項)。評価技法としては、次の3つが挙げられています(12.15項)。マーケットアプローチ同一または類似の資産、負債について市場取引から生じた価格と、その他の関連する情報を用いて評価する方法です。コストアプローチ資産の用役能力(servicecapacity)を再調達するために、現時点で必要とされる金額を計算する方法です。インカムアプローチ将来の金額を単一の現在価値に割り引いて評価する方法です。例えば、割引キャッシュ・フロー法やオプション価格算定モデルが該当します。(5)公正価値のヒエラルキー(階層)公正価値を測定するために用いる評価技法へのインプットは、3つのレベルに区分されています(12.22項)。レベル1測定日において企業がアクセスできる同一の資産、負債に関する活発な市場における無調整の相場価格です。レベル2レベル1に含まれる相場価格以外のインプットのうち、資産、負債について直接的または間接的に観察可能なものです。例えば、活発な市場における類似の資産の相場価格などです。レベル3資産、負債に関して観察不能なインプットです。4.開示企業は、当初認識後の財政状態計算書において、公正価値で測定される資産および負債の種類ごとに、以下の事項を開示します(12.28項)。報告期間末日における帳簿価額公正価値ヒエラルキーのレベル公正価値測定に用いた評価技法に関する記述レベル3に分類される経常的な公正価値測定(recurringfairvaluemeasurements)(注1)については、当期中に純損益またはその他の包括利益として認識した額も開示されます(12.29項)。【設例】主要な市場または最も有利な市場A社は、トレーディング目的で保有する棚卸資産について、X市場とY市場で販売している。両市場とも活動な市場であり、公正価値の入手可能性などの条件は満たしているものとする。X市場:売却価格30百万円付随費用5百万円Y市場:売却価格28百万円付随費用2百万円X市場が主要な市場であると判断した場合、資産の公正価値は30百万円(付随費用は調整しない)です。一方、Y市場が主要な市場であると判断した場合、資産の公正価値は28百万円(付随費用は調整しない)です。いずれの市場も主要な市場でないと判断した場合、資産の公正価値は最も有利な市場における額とします。付随費用を考慮した受取代金は、X市場では25百万円(=30百万円-5百万円)、Y市場は26百万円(=28百万円-2百万円)なので、Y市場が最も有利な市場になります。したがって、資産の公正価値はY市場における売却価格28百万円(付随費用は調整しない)です。<注釈>経常的な公正価値測定とは、各報告期間末において要求または許容されている公正価値測定です。提供:税経システム研究所
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2025/06/12 管理会計
企業が生き残るための製品・サービスの原価計算の勘所(18)
1.岡本[2000]による販売費及び一般管理費の分類前回の(17)で、販売費及び一般管理費を分類するにあたり、一橋大学岡本清名誉教授の名著『原価計算』の最新版である六訂版[岡本,2000]による販売費及び一般管理費の分類にもとづいて、どのような観点から体系づければよいかについて検討しました。岡本[2000]では、「営業費の分類例」において、4桁のコードを用いて機能別分類を強調した分類例を示しています[岡本,2000,pp.694-696]。岡本[2000]では、まず、販売費及び一般管理費を、文字どおり販売費と一般管理費に分類し、さらに、販売費を注文獲得費、注文履行費、販売事務費に分けて説明していますが、一般管理費については勘定科目を例示しているものの、本文において説明はしていません。2.岡本[2000]による販売費及び一般管理費の管理についての説明(1)注文獲得費および注文履行費の発生と受注活動との関係岡本[2000]では、第13章「営業費計算」の第3節で、「販売費の機能別分類とその管理」として注文獲得費と注文履行費の管理について説明しています[岡本,2000,pp.697-700]。冒頭で岡本[2000]は、再度、注文獲得費、注文履行費および販売事務費が機能別の分類であることを注意喚起しています。そして、問答形式によって「注文獲得費および注文履行費の定義と、これらの費用と受注活動との関係」を説明しています。問答の「問」は、次のとおりです[岡本,2000,p.697]。[例題13-2]注文獲得費と注文履行費の内容、および受注とこれらの費用との因果関係を説明しなさい。岡本[2000]では、これに対する問答の「答」において、①注文獲得費の定義、②注文履行費の定義、を説明した後、③これらの費用と受注活動との因果関係について、販売活動の計画が原因となって注文獲得費が発生し、注文獲得費の発生によって受注活動という結果が生じ、受注活動が原因となって注文履行費が発生する、という因果連鎖を図によって説明しています[p.697]。(2)注文獲得費の管理注文獲得費の管理について、岡本[2000]は、「受注獲得費の効果測定は極めて困難であり、これをいかほど発生させるべきかは、明確に把握できないために、その発生額は、経営者が方針で定めざるをえず、その管理方法は、注文獲得費予算を割当予算(appropriationbudget)の形で設定し、その予算と実績との比較によらざるを得ない」[pp.697-698]と述べています。そして、この注文獲得費予算の割当額は、販売活動計画にもとづいて設定するべきであると述べています[岡本,2000,p.698]。また、予算と実績との比較について、岡本[2000]は、①注文獲得費を予算どおりに使ったとしても顧客の注文を獲得できなければ意味がない、②割当予算の多くは自由裁量固定費であるから、通常予算どおりに使用されて予算差異はほとんど生じない、③注文獲得費の管理は、コントロールの段階よりも、プランニングの段階のほうがはるかに重要である、とも述べています[p.698]。注文獲得費の管理については、日本商工会議所簿記検定試験のテキスト[岡本・廣本,2024a;2024b]においても、同様の説明があります。(3)注文履行費の管理岡本[2000]は、注文履行費は、機械的、反復的な作業から発生するため、標準原価ないし変動予算による管理が可能となる[p.699]と述べています。注文履行費の管理については、日本商工会議所簿記検定試験のテキスト[岡本・廣本,2024a;2024b]においても、同様の説明があります。標準原価や変動予算で管理するためには、反復作業の作業量を測定するための「管理要素単位(controlfactorunit)」を設定する必要があるとして、次のような例をあげています[p.699]。そして岡本[2000]では、上述のように選定した管理要素単位について、動作研究、時間研究にもとづいて標準を設定したら、たとえば納品書1通を作成するための標準時間が3分であったとすると、1時間当たりの納品書標準作成数は20通であると見積り、このデータにもとづいて納品書作成作業の労務費予算を設定した後、納品書の実際作成数に見合う予算許容額と実績とを比較し、差異分析を行う、と説明しています[pp.699-700]。この管理要素単位を用いた方法は、「営業費計算」の章を追加した『原価計算』第三版[岡本,1980]から寸分違わず説明されています。この方法は、キャプラン(RobertS.Kaplan)とクーパー(RobinCooper)たちが提唱した活動基準原価計算(activity-basedcosting:ABC)の考え方と非常に似ています。とはいえ、キャプランとクーパーがABCを提唱したのは1980年代後半ですので、それに先立ち『原価計算』第三版[岡本,1980]で上述のような方法を提案している岡本名誉教授の慧眼については、本当に敬服いたします。参考文献伊藤嘉博・目時壮浩、2021『異論・正論管理会計』中央経済社。大蔵省企業会計審議会、1962「原価計算基準」大蔵省企業会計審議会。岡本清、1980『原価計算』三訂版、国元書房。岡本清、2000『原価計算』六訂版、国元書房。岡本清・廣本敏郎、2024a『検定簿記講義/1級工業簿記・原価計算下巻』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎、2024b『検定簿記講義/2級工業簿記』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎・尾畑裕・挽文子、2008『管理会計』中央経済社。小林啓孝、1997『現代原価計算講義』第2版、中央経済社。小林啓孝・伊藤嘉博・清水孝・長谷川惠一、2017『スタンダード管理会計』第2版、東洋経済新報社。清水孝、2006『上級原価計算』第2版、中央経済社。清水孝、2014『現場で使える原価計算』中央経済社。清水孝・長谷川惠一・奥村雅史、2004『入門原価計算』第2版、中央経済社。園田智昭、2021『プラクティカル原価計算』中央経済社。谷武幸、2022『エッセンシャル管理会計』第4版、中央経済社。提供:税経システム研究所
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2025/06/05 財務会計
公益法人制度の改正(6)
はじめに「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」が、昨年2024年(令和6年)5月に改正され、新たな公益法人制度が2025年(令和7年)4月から始まっています。この新制度の主たる改正内容を、これまでのリポートにて確認してきました。今回は、そうした改正内容を受けて2024年(令和6年)12月に公表された「公益法人会計基準」(以下、改正後会計基準)の構成の変化に注目します。7.「公益法人会計基準」の改正(1)改正前の公益法人会計基準元来「公益法人会計基準」は、1977年(昭和52年)3月に公益法人の監督官庁の連絡会議となる公益法人監督事務連絡協議会の申し合せとして設定されました。当時は、公益認定と法人格の付与が一体化した制度でした。いわば監督目的のための会計基準でした。その後、2004年(平成16年)10月に、外部報告向けの会計基準へと変更する重要な改正が行われました。この改正により収支予算書等は内部管理目的であるとして、公益法人会計基準からは除外され、別途の申し合わせとして規定されることになりました。そして従前の公益法人会計基準(以下、改正前会計基準)(注1)は、法人格の付与と公益性の認定が一体化していた制度から、準則主義により法人格が付与されるとともに、別途公益性の認定がなされるという、いわゆる二階建ての制度への変革に合わせて、特に公益認定等に資するように2008年(平成20年)4月に改正されました。また改正前会計基準では、会計情報の具体的な作成方法等については、その運用指針のなかで定められていました。改正後会計基準との相違を浮き彫りにするために、改正前会計基準の構成を次に示しておきます。【改正前会計基準の構成】(2)改正後会計基準既述のとおり、公益法人会計基準は、公益認定基準の変更に対応するための改正、換言するならば改正された財務規律(中期的収支均衡等)に適合するような情報開示となるような改正が行われました。そしてそれとともに、「わかりやすい財務諸表」を標榜した改正もなされました。そのため、公益認定基準の改正に合わせるという意味とは異なる趣旨が包含されたものとなっています。そのことは、改正後会計基準の構成をみれば明らかであると思われます。【改正後会計基準の構成】上記より、会計基準の構成そのものを大きく変更したことがわかります。この変更は、日本公認会計士協会の非営利組織会計検討会より2019年(平成31年)7月に公表されていた「非営利組織モデル会計基準」(注2)を導入しようとする意図があったためと考えられます。非営利組織モデル会計基準の構成は、その詳細は省略して示すならば、次のとおりです。【非営利組織モデル会計基準の構成】今回の公益法人会計基準の改正は、改正前会計基準を基盤に置いて、公益法人制度の改正に合わせるように開発されたものではなく、非営利組織モデル会計基準を基盤として、公益法人制度における要請を加味したものとなっていると解するのが、合理的理解であるといえます。<注釈>2008年(平成20年)4月に公表された後、2009年(平成21年)10月および2020年(令和2年)5月に改正されています。https://jicpa.or.jp/specialized_field/files/0-0-0-2c-20200918_1.pdf提供:税経システム研究所
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2025/05/29 管理会計
中小企業が身につけておきたい原価管理の知識(23)
1.はじめに本シリーズでは、経営・会計において欠かせない原価管理の考え方を紹介します。今回は、前回に続き、原価企画の例として、富士フイルムビジネスイノベーション株式会社(以下、同社)による開発時の取り組みを説明します。原価企画では、計画時の見積額からコストが大きく変動することがあり、その対処が必要になります。以下では、前回の記事で確認した予備費を使用しながら同社で行われるコスト変動管理の進め方を説明します。2.コスト変動管理の進め方図1コスト変動管理の手順(出所)筆者作成。同社では、コスト変動のリスクを最小限に抑えて、商品の目標原価を達成することを目的に、コスト変動管理が行われます。コスト変動管理は、図1のような手順で進められています。(1)コスト変動事項の把握とリスト化開発期間中に生じる部品費や金型費等に関するコスト変動事項を把握します。例えば、本格的な試作や品質評価による予想外の品質不良の発生、保守・安全・環境対応のトラブルの発生、企画時に曖昧さを残したまま設計を開始したことで事後的に起こる仕様の変更があります。コストの変動を最小限に抑えるため、変動事項とともに予想される変動額をリスト化して、改善策を考えるために準備します。コスト変動の予想額は、主に図面を作成する設計者が算定します。経験が浅い設計者が担当する場合には、原価管理機能部門が補助を行うことで、予測の精度を高めるようにしています。(2)変更の申請手順(1)でリストアップされたコスト変動事項や予想額について、主に開発機能チームの設計リーダーが、その内容と開発機能の目標を達成しているかを確認して、開発商品QCD(Quality品質-Cost原価-Delivery納期)責任者に申告します(注1)。(3)コスト変動の確認と承認開発機能チームの設計リーダーから申告を受けると、開発商品QCD責任者は、コスト変動の内容と予測額を確認し、妥当な変更か、変動額を最小限に抑える他の案は無いか、目標値以内に入っているか等を確認します。もし、他の案があったり、目標原価が未達であったりした時には、開発機能チームの設計リーダーに戻されて、再度検討を求められます。上記の確認で変更内容に問題がなければ承認されます。開発商品QCD責任者や原価推進責任者は、手順(1)から手順(3)の取り組みを素早く進めて、コスト変動をより最小限に抑えた案が承認されるように統制することで、開発活動をスムーズに進めるように努力しています。(4)図面の変更変更案が承認されると、図面を変更するための手続きが始められ、出図され、部品等の供給企業へと渡ります。供給企業には、変更後の原価見積が依頼されます。(5)供給企業からの原価見積額の回答供給企業からの原価見積回答額が予定の変動額を下回れば、図面の変更がそのまま進められます。逆に、原価見積回答額が予定の変動額を上回ってしまうと、調達部門による供給企業との交渉を中心に原価低減の活動を行います。交渉だけではコストの乖離が解消できないと判断される時は、同社の開発機能チームに戻されて、設計者による改善の検討を行うこともあります。(6)コスト変動状況の集計と確認開発機能ごとに算定されたコスト変動の予想額と実績額を、原価推進責任者が全体で集計し、その状況を開発商品QCD責任者が確認することで、コスト変動額が目標設定時の予備費以下になるように管理します。また、コスト変動の推移を可視化することで、開発機能チームの設計者にとって予備費がどの程度使用されたかが分かり、コスト変動を抑制する動機付けにもなります。上記の手順を通じて、コスト変動を抑え、商品の目標原価を達成するため継続的な管理が進められています。3.コスト変動管理での状況に応じた対処コスト変動管理では、基本的に、開発機能チームを中心に、予備費を使用したり、開発機能ごとの目標値の達成状況を基にした変更可否の判断を行ったりしています。ただし、ある開発機能チームの目標達成が厳しい時には、開発商品QCD責任者が開発機能全体での達成状況を確認した上で、変更の可否を判断します。例えば、手順(5)で、コストの乖離が残るものの、製造段階までの時間的な余裕がないという時には、図面の大きな変更はせずに製造段階での対処事項としておき、製造開始後のコスト変動を抑制する活動の中でフォローアップします。このように活動の進行状況に応じて対処することも、コスト変動を継続的に管理する上で重要な取り組みだと言えるでしょう。参考文献谷武幸.2022.『エッセンシャル管理会計第4版』中央経済社.吉田栄介・伊藤治文.2021.『実践Q&Aコストダウンのはなし』中央経済社.<注釈>同社では、コスト変動管理全体を開発商品QCD責任者が統括し、その実行管理を原価推進責任者が各開発機能チームの設計リーダーと協力して行います。コスト変動管理を行う上での組織体制は前回の記事でも解説していますのでご覧ください。提供:税経システム研究所
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