アウトライン審査事例
国税不服審判所が示した審査請求事件の裁決例は、正確な税務処理を行っていくうえで見落とせません。アウトライン審査事例では実務家の皆様にとって実用性の高い裁決事例を簡潔に紹介。併せて、参照条文も記載しておりますので、実務上の判断の一助としてお役立てください。
1131 件の結果のうち、 1 から 10 までを表示
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2024/09/09
収益を分割計上した審査請求人の会計処理が公正処理基準に適合すると判断された事例(全部取消し)
【裁決のポイント】法人税法上、収益の計上時期の原則は、目的物の引渡しの日または役務の提供の日(引渡し等の日)の属する事業年度であるが、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準(公正処理基準)に従って引渡し等の日に近接する日(たとえば検針日)の属する事業年度の収益として経理することも認められている。最高裁は、公正処理基準では収益は収入の原因となる権利が確定した事業年度の益金に計上され、権利確定時期はそれぞれの権利の特質を考慮し決定されるべきという判決を出している。消費税法上も同様に解される。本件の審査請求人は、発注先に納入する部品のためだけに必要な金型等製作費については、契約で、その費用を発注先が負担し、部品の量産開始日を含む月から24カ月の月額均等分割払で受領することとされ、毎月末に収益計上していたが、コロナ禍での取引先支援として分割払中の残額および限定月の新規発注分について一括払いがなされた。審査請求人はそれら一括払費を前受金で処理し、毎月末に収益に振り替える会計処理をしたところ、税務署から一括受領した日の属する事業年度において全額を益金の額に算入すべきとする更正処分を受けた。国税不服審判所は、契約の法的性質、審査請求人が提供する役務の特質、基本契約書に変更はないことから、審査請求人の会計処理は、公正処理基準に適合すると判断した事例である。(令和2年4月1日から令和3年3月31日までの事業年度の法人税、同課税期間の消費税等の各更正処分他・全部取消し・令和5年12月21日裁決)【主な争点】一括払費の前受金勘定の残高(本件差額)は、令和3年3月期の所得の金額の計算上、益金の額に算入されるか。【裁決の要旨】金型等相当額の負担に係る審査請求人とN社との契約(本件金型等契約)は、①N社から部品製造のための金型等の製作を依頼された審査請求人がこれに応じて金型等を製作するという物の引渡しを伴わない請負契約、②N社が審査請求人に金型等の維持、管理を委任する準委任契約及び③審査請求人が製作した金型等についてN社に一定の権利を付与する権利設定契約に係る各役務(本件各役務)を審査請求人が提供し、N社から審査請求人に対してその対価として金型等相当額を支払うことを内容とする混合契約と解される。そして、本件役務は審査請求人により継続的に日々提供されるという特質を有する。金型等相当額の支払に関する本件基本契約書の条項は本件一括払の後も審査請求人とN社との間で変更されていないことからすれば、上記の本件金型等契約の実態は、本件一括払の後も変わるものではない。以上によれば、金型等相当額は、均等分割払方式で受領したか一括払で受領したかにかかわらず、本件部品の量産開始日を含む月から24回にわたり、毎月末日の経過でその支払請求権(収入の原因となる権利)が順次確定するものと認められ、審査請求人が、本件一括払費を均等分割払方式の際と同様に、本件部品の量産始日を含む月から24回にわたり、毎月末日に収益計上した会計処理は、公正処理基準に適合するものと認められる。一括で受領した金型等相当額の全額を受領した日の属する事業年度の益金の額に算入すべきとは認められない。【参照条文】法人税法第22条の2(第3款《益金の額の計算》第1目《収益の額》)本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2024/09/02
現金売上の記帳漏れについて、過失はあるが、故意に脱漏したとまでは認められないとして重加算税が取り消された事例(全部取消し)
【裁決のポイント】「隠ぺいし、又は仮装し」に該当する事実があれば、重加算税が課される(国税通則法第68条)。ここで、「隠ぺいし」とは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実について、これを隠匿あるいは故意に脱漏することをいうと解釈されている。本件の審査請求人は建設業者で、2年分の税務調査を受けて、税務署から7件の現金売上の記帳漏れを指摘され、領収書を渡さず受領した代金の経理担当役員Eによる個人的な費消を認める文書の提出を求められた。審査請求人は税務署の文案を修正し、管理不十分でEが個人的に費消したと思われても仕方ないが、売上計上漏れは悪気がないことを理解して戴きたい等と書いた申立書を提出し、不明の現金はEへの役員賞与とする修正申告を行った。原処分庁は、役員賞与と追認したのだから、売上計上漏れは単なる事務処理の誤りでなく故意であり、事実の隠ぺいに該当するとして重加算税を課した。国税不服審判所は、Eが過失により本件工事代金について領収証の発行を行わなかった事実が認められるだけで、故意に本件工事代金に係る領収証を発行しなかった事実まで認められないとして、審査請求人への重加算税の賦課決定処分を取り消した事例である。(令和2年12月期、令和3年12月期の各事業年度の法人税に係る重加算税の賦課決定処分他・全部取消し・令和5年12月4日裁決)【主な争点】審査請求人に重加算税が課される「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があるか。【裁決の要旨】原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる(認定事実)。(イ)審査請求人の現金管理と経理は、全てEが行っている。(ロ)審査請求人は、通常、売上代金を現金で受領した際に取引先に対して領収証を発行し、その控えを保管している。(ハ)審査請求人は、現金の入出金等について日計帳に記録しており、当該日計帳の作成をEの知人に依頼している。Eは、当該日計帳の作成に当たり、預金通帳、上記(ロ)の領収証の控え、経費に係る領収証及びレシートをその年の12月と翌年1月に知人へ引き渡している。(ニ)審査請求人は、H商工会に記帳代行を委託し総勘定元帳を作成しており、預金通帳、上記(ロ)の領収証の控え、上記(ハ)の日計帳、経費に係る領収証及びレシートを1年分まとめてH商工会へ引き渡している。(ホ)審査請求人の本件各事業年度における本件各工事以外の工事には、各売上金額が1,000万円を超えるものも多くあり、これらと比較すると、本件各工事の各売上金額はいずれも低額の部類に属する(2年とも売上高の0.2%弱)。本件工事代金が日計帳に記載されず、総勘定元帳に計上されていなかったのは、上記の通常の場合とは異なり、審査請求人が、本件工事代金に係る領収証を故意又は過失により発行しなかったか、その控えを故意又は過失により破棄したことによるものと認められる。そして、本件工事代金の領収証を発行しなかったことについては、Eが領収証の発行を失念した旨の記述のある本件申立書があるものの、同記述からは、同人が、過失により本件工事代金について領収証の発行を行わなかった事実が認められるだけで、同人が、故意に本件工事代金に係る領収証を発行しなかった事実まで認められるものではない。また、本件工事代金についてのみ領収証の作成や帳簿への記載がなされなかったことが意図的なものであるとうかがい得るような規則性・共通性なども見いだし難い。そのほか、領収証を作成しながらその控えを故意に破棄したことなどを裏付ける証拠は見当たらない。Eが、本件工事代金を審査請求人に帰属する金員であると認識した上で、個人的に費消したことを認める証拠もない。そうすると、審査請求人が課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実について、隠匿あるいは故意に脱漏したとまでは認められないことから、国税通則法第68条第1項に規定する「隠蔽」に該当するとは認められない。【参照条文】国税通則法第68条《重加算税》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2024/08/26
公売公告処分は適法、しかし滞納国税の分割納付誓約期間内に公売に付したという判断は合理性を欠き不当であるとして、処分が取り消された事例(全部取消し)
【裁決のポイント】税務署長が滞納国税を徴収するため、差押財産等を入札などによって売却する制度が「公売」で、公売公告は公売期日の10日前までに税務署の掲示板などに掲示される。公告がなされると滞納者に通知される。公売に付すべき時期の判断には、税務署長に裁量権があるが、公売によって事業や生活の維持が困難になると見込まれる場合は、立ち直るまで猶予することが社会政策上及び国民経済上適当で、徴税目的に適うとして、原則1年の分割納付も認められている。運送業を営む審査請求人は、20年以上断続的に滞納し、猶予期間内に完納できない場合の「分割納付誓約書」を提出して本税を納付し、残すは加算税と延滞税であったが、税務署長が差押え不動産の公売公告処分を行った。審査請求人は、事業継続上必要不可欠な駐車場用地である、誓約どおり自主納付を続けているとして、処分の取消しを求めた。国税不服審判所は、公売公告処分は適法である、しかし自主納付の見込み、公売による換価額、滞納者への影響等を考慮して判断すれば、税務署長による公売に付す時期の判断は、差押財産の換価に関する制度の趣旨・目的に照らして合理性を欠く不当であるとして、処分を全部取り消した事例である。(公売公告処分・全部取消し・令和5年8月21日裁決)【主な争点】本件公売公告処分は、公売に付すべき時期を誤った違法又は不当なものであるか否か。【裁決の要旨】国税の徴収は、私法秩序との調整を図りつつ、国民の納税義務の適正な実現を通じて国税収入を確保することを目的としており、財産を差し押さえた場合は、滞納者の意思にかかわらず、直ちに換価手続に入るのが原則である。その第一段階である公売公告処分は、国税局長等の判断が事実の基礎を欠くか又は社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲の逸脱又は濫用してされたと認められる場合に限り、違法となる。また、違法であるとまではいえないものの、公売公告処分に係る裁量権の行使が、差押財産の換価に係る制度の趣旨・目的に照らし合理性を欠く場合には、不当と判断すべきものと解される。原処分庁の主張する、徴収担当職員が審査請求人に公売手続を進める旨伝えてから本件公売公告処分までの期間は約5年10か月あり代替土地を探す期間として十分である、審査請求人に対し、「分割納付誓約書」による分割納付を行っているうちは公売手続が停止するとの見解を表明していないことなどの事情を考慮すれば、本件各不動産を公売に付する時期について、原処分庁に裁量権の範囲の逸脱又は濫用があったとは認められないから、本件公売公告処分は適法である。しかしながら、本件公売公告処分は、審査請求人が「分割納付誓約書」の納付計画のとおりに分割納付を履行している限りは、直ちに本件各不動産が公売に付されることはないと期待し、代替土地を確保し得る機会及び期間が事実上なかったというべき時期においてされており、本件各不動産の公売による請求人の影響が大きいという事情があった反面、本件公売公告処分を本件分割納付誓約期間内に直ちにしなければならないというべき点を見出すことはできない。本件公売公告処分は、公売に付すべき時期について裁量権の行使が合理性を欠く不当な処分であり、その全部を取り消すべきである。【参照条文】国税徴収法第95条《公売公告》、第96条《公売の通知》事務提要「換価事務の取扱いについて」本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2024/08/19
通院のための自家用車のガソリン代等は商品購入代や施設利用料で、医療費控除の対象となる医療費に含まれないとされた事例(棄却)
【裁決のポイント】通院費は、医師等による診療等を受けるため直接必要な費用で、かつ、通常必要とされるものに限り、医療費控除の対象となる(所得税基本通達73-3《控除の対象となる医療費の範囲》)。タクシー代は病状からみて緊急の場合や電車バスの利用ができない場合に、途中の高速代も含めて、医療費控除の対象となる。通院費は人的役務の対価として支出されるものをいうため(所得税法施行令第207条第3号)、電車代やバス代が含まれる。一人で通院することが危険な場合に付き添う親族の交通費も医療費控除の対象となる。本件の審査請求人は、通院のための自家用車のガソリン代、高速代及び駐車場料金も医療費控除の対象の通院費になるとして、税の還付を求めて更正の請求を行った。税務署は、人的役務の提供の対価でないガソリン代等は通院費に当たらないとして認めなかった。国税不服審判所は、税の公平な負担を図るため、医療費控除の対象となる医療費の範囲は法令の規定により限定され、上記通達にいう通院費は、人的役務の提供の対価に限られると解するのが相当であると判断し、審査請求人の主張を棄却した事例である。(平成30年分から令和2年分の所得税及び復興特別所得税の各更正の請求に対する理由なし通知処分・棄却・令和5年11月6日裁決)【主な争点】本件ガソリン代等は、本件ガソリン代等が所得税基本通達73-3にいう通院費に該当し、医療費控除の対象となる医療費か。【裁決の要旨】所得税基本通達73-3《控除の対象となる医療費の範囲》(本件通達)は、社会保険制度の充実や医療技術の進歩に伴い、医師等が行う診療等それ自体の対価よりも、これに付随ないし関連する費用の負担の方が重くなっているという実情や、医療費控除の制度が異常な出費に伴う担税力の減殺を調整する措置であるという趣旨を踏まえ、医師等による診療等を受けるための通院費で通常必要なものを、本来の医療費の支出に不可欠な一定の付随的費用として医療費に含めており、本件通達の取扱いは当審判所においても相当であると認める。もっとも、所得税の公平な負担を図るため、医療費控除の対象となる医療費の範囲は法令の規定により限定されている。所得税法施行令第207条第3号に掲げる病院、診療所又は助産所へ収容されるための人的役務の提供の対価については、例えば、病状からみて急を要する場合にタクシーを利用して入院したときのタクシー代などがこれに当たると解され、そうすると、病院等へ通院するためのバス等の運賃等も、同号の解釈として定められている本件通達にいう通院費に含まれると解するのが相当である。そして、本件通達にいう通院費は、人的役務の提供の対価に限られると解するのが相当であるところ、本件ガソリン代等は、いずれも商品の購入の対価として支出されたもの又は設備若しくは施設等の利用の対価として支出されたものにすぎず、人的役務の提供の対価とはいえないものであるから、本件通達にいう通院費に該当しないと認められる。【参照条文】所得税法第73条《医療費控除》所得税法施行令第207条《医療費の範囲》所得税基本通達73-3《控除の対象となる医療費の範囲》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2024/08/19
海外の取引先から販売を委託された楽器は、当該取引先が国内に持ち込んで、国内で引き渡された国内仕入れであるという主張が認められた事例(一部取消し)
【裁決のポイント】消費税法による仕入税額控除は、国内において行う課税仕入れに適用される(第30条《仕入れに係る消費税額の控除》)。課税仕入れが国内において行われたかどうかの判定は、当該課税仕入れが資産の譲受けである場合は、当該資産の譲受けが行われる時において当該資産が所在していた場所が国内にあるかどうかにより判定すべきとされている(第4条)。また、課税仕入れに係る帳簿及び請求書等を保存しない場合には、課税仕入れの適用はない(第30条)。本件の審査請求人は弦楽器の販売業を営み、海外取引先から購入した楽器の仕入金額を、課税仕入れとして仕入税額控除を計算し申告したが、税務署は、国内仕入れでないとして認めなかった。審査請求人は、海外取引先から販売を委託され、海外取引先が国内に持ち込んだ楽器を一定期間預かって、国内の演奏家等へ貸し出しなどしながら販売しており、購入時には楽器は国内にあったと主張した。国税不服審判所は、審査請求人の提出した資料から、各楽器は審査請求人が譲受けした時に国内に所在したと認めるのが相当であるとしたうえで、領収証に日付がない一部の取引は仕入税額控除の適用がないと判断した事例である。(平成26年11月1日~平成29年10月31日までの各課税期間の消費税及び地方消費税の各更正処分並びに過少申告加算税の各賦課決定処分・一部取消し・令和3年8月2日裁決(非公開))【主な争点】本件各取引は、国内において行った課税仕入れに該当し、当該課税仕入れに係る消費税額を課税標準額に対する消費税額から控除することができるか。【裁決の要旨】①本件各楽器の譲受け時の所在場所について請求人が提出した委託販売契約書の写し、楽器貸与契約書の写し等の証拠によれば、審査請求人の主張する取引形態によって本件各取引が行われていたことが推認され、そうすると、審査請求人は国内において本件各楽器の引渡しを受けたと解するのが相当である。②本件各取引に係る課税仕入れを行った日について審査請求人が作成した「国内取引課税仕入れ年月日等一覧表」の各日付は、取引形態に応じ、事業者から預かった楽器については当該事業者に対して購入の意思を表示した日を、売買契約が締結された楽器については当該契約で定める所有権が移転する時(購入代金を完済した時)を、そのほかの楽器については事業者から楽器を譲り受けた日をそれぞれ課税仕入れを行った日とするものであり、いずれも資産の引渡しの日として合理的であると認められる。③帳簿等の保存状況について一部の取引については、各取引に係る課税仕入れを行った日(一覧表の日付)とは異なる日付が総勘定元帳に記載されている、領収証には課税資産の譲渡を行った年月日の記載がないことから、これらの各取引については、帳簿に「課税仕入れを行った年月日」が記載されていると認めることはできないから、帳簿及び請求書等の保存がない課税仕入れに該当することとなる。本件各取引のうち、帳簿等保存取引については課税仕入れに係る消費税額を課税標準額に対する消費税額から控除することができるが、帳簿等保存取引以外の各取引については控除することはできない。【参照条文】消費税法第2条《定義》、第4条《課税の対象》、第30条《仕入れに係る消費税額の控除》消費税法施行令第6条《資産の譲渡等が国内において行われたかどうかの判定》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2024/08/05
勤務実態のない従業員に支払った給与および負担した法定福利費について、いずれも損金算入は認められないとされた事例(棄却)
【裁決のポイント】法人が負担した費用が、当該法人の事業遂行上必要なものではなく、役員が個人的に負担すべきものと認められる場合には、当該費用は当該役員に対する給与に当たると解するのが相当とされる。また、仮装経理等により支給した役員給与は損金に算入されない。本件の審査請求人が給与等を支払い、法定福利費を負担していたAについて、税務署は、審査請求人との関係においてAが従業員として労務の提供をしていたとは認められず、Aへの給与は前代表者が個人負担すべきAへの生活費の援助である、前代表者死亡前に支給された金額は前代表者に対する給与、死亡後に支払われた金額はAへの寄附金に該当するなどとして、更正処分等を行った。国税不服審判所は、給与等の実質はAと前代表者との個人的な関係に基づいた生活費の援助と認めるのが相当であり、事実を仮装して経理をすることにより支給した前代表者への役員給与に該当する、勤務実態がない者に係る法定福利費は事業遂行上必要のないものであるから、いずれも損金の額に算入されないと判断した事例である。(平成25年9月期から平成29年9月期までの各事業年度の法人税の各更正処分及び重加算税の各賦課決定処分他、棄却他、令和3年12月8日裁決(非公開))【主な争点】Aに対する本件各給与等、Aに関する本件各法定福利費のうち、前代表者の死亡前に係る金額は、本件前代表者に対する役員給与に該当するか否か。【裁決の要旨】当該費用が当該法人の事業遂行上必要なものではなく、役員が個人的に負担すべきものであるか否かの判断は、単に当該法人の主観的な意図、判断によるのではなく、当該費用を支出した趣旨、目的等の諸般の事情を総合的に考慮し、社会通念に照らして客観的に行わなければならないものと解される。本件受給者には勤務実態がないことから本件各給与等は本件受給者に対する給与及び賞与とは認められず、また、前代表者と本件受給者は平成6年頃から交際を開始しており、審査請求人が本件受給者に金員を支給することとなる平成8年12月より前には既に、本件受給者が前代表者から毎月一定額の金員を受領することとなっていた経緯等を総合的に判断すると、本件各給与等の実質は、本件受給者と前代表者との個人的な関係に基づいた生活費の援助である。これは、本件前代表者が個人として負担すべき費用を審査請求人が負担したものにほかならないから、審査請求人の費用負担により本件前代表者が得た経済的な利益は、本件前代表者に対して支給する給与に含まれるものというべきである。本件各給与等のうち本件前代表者の死亡前に係る金額は、本件前代表者に対する役員給与に該当する。そして、仮装経理により支給したものと認められることから、損金の額に算入することはできない。法定福利費は、一般的には健康保険法等の法律に基づいて従業員等のために事業主が強制的に負担する費用であると認められ、各法定福利費の支出により前代表者が享受した経済的な利益があったとも認められないから、各法定福利費のうち前代表者の死亡前に係る金額は、前代表者に対する役員給与とは認められない。しかしながら、勤務実態がないため当該従業員等に対する給与が職務の対価性がなく給与ということができない場合には、当該給与の支給に伴って計上される法定福利費についても損金の額に算入されないと解される。【参照条文】法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》、第34条《役員給与の損金不算入》、第37条《寄附金の損金不算入》法人税基本通達9-4-2の2《個人の負担すべき寄附金》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2024/07/29
損害賠償請求権について、各事業年度末において、個別貸倒引当金を計上できる客観的な事実は認められないと判断された事例(棄却)
【裁決のポイント】横領という不法行為による損害賠償請求権も売掛金のように貸倒れ等による損失が見込まれる金銭債権と認められ、中小法人(大法人の子会社を除く)は業種に関係なく金銭債権を対象に貸倒引当金制度(個別貸倒引当金・一括貸倒引当金)を適用できる。個別貸倒引当金は、貸倒れのリスクが高まった個別債務者の金銭債権(個別評価金銭債権)ごとに繰り入れる方法で、当該事業年度の終了時点までに生じた更正認可決定や手続開始決定等の他、「当該金銭債権の一部の金額につきその取立て等の見込みがないと認められる」客観的事実に基づき、貸倒れリスクが高い場合に認められるべきものと考えられる。本件の審査請求人は、元経理社員Aによる横領に対する損害賠償請求権について、Aは無職で債務超過が1年以上続き、返済の意思も示されないなどとして、平成30年5月期及び令和元年5月期に個別貸倒引当金を計算して損金算入したところ、税務署は一括貸倒引当金の対象であるとして認めなかった(平成29年5月期は一括貸倒引当金の対象にしていた)。国税不服審判所は、各事業年度末に、Aには個別貸倒引当金を計上できる客観的な事実は認められないとして、税務署の処分を適法と判断した事例である。(平成28年6月1日から令和元年5月31日までの各事業年度の法人税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分、他・棄却・令和3年9月27日裁決(非公開))【主な争点】平成30年5月期及び令和元年5月期における損害賠償請求権は、個別評価金銭債権に該当するか。【裁決の要旨】個別評価による繰入れは、債務者につき、「債務超過の状態が相当期間継続し、かつ、その営む事業に好転の見通しがないこと」、「災害、経済事情の急変等により多大な損害が生じたこと」及び「その他の事由」が客観的事実によって裏付けられ、これらの事由により、当該金銭債権の一部の金額につきその取立て等の見込みがないことが確実に予想される場合に認めるものと解される(法人税法施行令第96条《貸倒引当金勘定への繰入限度額》第1項第2号)。平成30年5月期及び令和元年5月期において、少なくとも平成30年5月期においては、審査請求人がAに対する損害賠償請求訴訟を提起しておらず、その他Aに対して返済を求めた証拠は認められない。また、Aが収入といえるものを受領していたとは認められないものの、Aが収入を得て審査請求人に弁済する可能性も否定できず、その他Aの財務状況等を確認できる客観的な証拠もなく、当審判所の調査及び審理によっても、かかる事実は認められない。Aは収入がないこと、返済の意思を見せていないことをもって、直ちにAに対する損害賠償請求権が将来における貸倒れの発生が確実に予想される場合に該当するとはいえない。したがって、Aに対する損害賠償請求権の一部の金額につきその取立て等の見込みがないことが確実に予想される場合とは認められず、Aに対する損害賠償請求権は、いずれも個別評価金銭債権に該当しない。【参照条文】法人税法第52条(第7目貸倒引当金)法人税法施行令第96条《貸倒引当金勘定への繰入限度額》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2024/07/22
国内で購入した商品を、機内持ち込み荷物で外国に運び売却した取引が、税関長の証明等がないから輸出免税取引に該当しないと判断された事例(棄却)
【裁決のポイント】事業者が国内において行う課税資産の譲渡等のうち、輸出取引に当たるものについては、内国消費税である消費税は外国で消費されるものには課税しないという考えに基づき、消費税が免除される(輸出免税)。輸出免税の適用を受けるためには、輸出取引等の区分に応じて、輸出許可書、税関長の証明書または輸出の事実を記載した帳簿や書類を整理し、納税地等に7年間保存する必要がある(消費税法施行規則第5条《輸出取引等の証明》)。美術工芸品の販売業等を営む法人である審査請求人は国内のネットオークションで落札した美術工芸品を、代表者が機内持ち込み荷物として飛行機に持ち込んで中国・上海に運び(いわゆるハンドキャリー)、販売し、輸出免税を適用して消費税の申告をしたところ、税務署は輸出取引等に該当する取引であることを証する書類の保存がないから輸出免税規定は適用されないとして更正処分等を行った。国税不服審判所は、本件ハンドキャリー取引が輸出免税規定の適用を受けるためには、消費税法施行規則第5条第1項第1号による税関長の証明等が必要であるとして、税務署の各処分は適法と判断した事例である。(平成26年11月1日から令和元年10月31日までの各課税期間の消費税等の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分・棄却・令和4年1月26日裁決(非公開))【主な争点】本件ハンドキャリー取引に輸出免税規定が適用されるか。【裁決の要旨】本件ハンドキャリー取引は、内国貨物である本件各商品を本件代表者が手荷物として航空機に持ち込むことによって本邦から外国に向けて送り出す方法で行われていたことから、消費税法第7条《輸出免税等》第1項第1号(本邦からの輸出として行われる資産の譲渡)に該当する。そして輸出免税規定が適用されるためには、消費税法施行規則第5条《輸出取引等の証明》第1項第1号所定の輸出許可書等を保存することにより、輸出取引等に該当するものであることが証明される必要がある。しかしながら、審査請求人は、本件ハンドキャリー取引について税関長から輸出許可書等の交付を受けていない。したがって、本件ハンドキャリー取引は、消費税法施行規則第5条第1項第1号所定の方法により証明がされているとは認められない。審査請求人は、本件ハンドキャリー取引について、消費税法第7条第1項「第5号」(前各号に掲げる資産の譲渡等に類するものとして政令で定めるもの)に該当するから、契約書などの書類から輸出であることが証明されればよく、本件代表者が取引に係る売上代金の受取金額を月別に記載した「收据」と題する書類により容易に知ることができ、代表者の渡航記録等から輸出の事実も証明できるから、輸出免税規定が適用されるべきである旨主張する。しかしながら、本件ハンドキャリー取引は消費税法第7条第1項「第1号」に該当するものであるから、審査請求人の主張は、その前提を欠くものであって理由がない。【参照条文】消費税法第7条《輸出免税等》消費税法施行令第17条《輸出取引等の範囲》消費税法施行規則第5条《輸出取引等の証明》関税法第67条《輸出又は輸入の許可》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2024/07/08
事業部長の肩書を与えられて売上を請け負っていた元従業員の隠ぺい仮装行為を、審査請求人の行為と同視できると判断された事例(棄却)
【裁決のポイント】重加算税の対象となる隠ぺい仮装の行為が、納税者である法人において経営上重要な地位にある役員や従業員によるものでなく、退職して雇用関係がない状態で業務を請け負っていた元従業員によるものだった場合でも、法人の行為と同視することができるか。イベント企画会社の審査請求人を退職した元従業員Aであったが、審査請求人から事業部長の肩書と交渉・契約の権限を与えられ、審査請求人の売上の半分以上を請け負っていた。しかしAは請負売上先のために立替払いしたと嘘の領収証を見せて審査請求人から現金等を詐取し、請負売上先には立替金が差し引かれていない真実の請求書を偽造して届け、Aの報告を信じた審査請求人は売上高を過少に帳簿記載したことで、重加算税が課された。国税不服審判所は、Aは審査請求人と雇用契約がなくとも、審査請求人の代理人として、経営上の重要な地位にあったから、その隠ぺい仮装行為は、審査請求人の行為と同視することができ、このことは審査請求人がAの行為を知っていたか否かに左右されないと判断した事例である。(平成27年1月1日から令和元年12月31日までの各課税期間の消費税等の各更正処分及び重加算税の各賦課決定処分・棄却・令和4年1月13日裁決(非公開))【主な争点】元従業員の隠ぺい仮装行為を、審査請求人の行為と同視することができるか。【裁決の要旨】Aは、審査請求人との直接の雇用契約こそないものの、審査請求人の総売上金額の大半を占める、審査請求人の主要な事業である本件イベント業務について、審査請求人の事業部長の肩書で、請負売上先との交渉を行い、審査請求人の名義で、請負売上先と契約を締結し、その売上金は、審査請求人の各銀行口座に入金され、記帳されていた。一方で、審査請求人も、Aの上記の活動を承知の上で、それを許して利益を上げ、Aに対して、本件イベント業務について具体的な指示等をすることもなかったのであるから、Aは、本件イベント業務について、審査請求人から包括的な権限を与えられ、審査請求人の代理人、補助者として、本件イベント業務を、事実上一任されていたといえる。以上のとおり、本件において、Aは、審査請求人の代理人、補助者等の立場にある者で、いわば審査請求人の身代わりとして審査請求人の課税標準の発生原因たる事実に関与し、当該課税標準の計算に変動を生じさせた者であるといえ、審査請求人に対する重加算税の賦課に関し、Aの行った本件各隠蔽仮装行為は、審査請求人の行為と同視することができる。このことは、本件各隠蔽仮装行為について、審査請求人がこれを知っていたか否かに左右されない。【参照条文】国税通則法第68条《重加算税》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2024/07/01
裁判上の和解に基づき元勤務先から受け取った金員のうち、未払賃金相当額以外の部分に、損害賠償金が含まれているとは認められないと判断された事例(棄却)
【裁決のポイント】個人所得は、その性質によって次の10種類に分かれ、所得税は、納税義務者に帰属するすべての所得に対して課税されるのが原則で、社会政策その他の見地から所得税を課さないものについては非課税所得の規定がある。たとえば、交通事故などで、心身に加えられた損害に基づいて取得する保険金、損害賠償金、慰謝料などが非課税所得である。本件の審査請求人は、元勤務先に対して、解雇無効の訴訟を起こし、裁判所で和解して、未払賃金の額を超える解決金を受け取った。税務署は、未払賃金(給与所得)を引いた残額について、未払賃金の遅延損害金(雑所得)と、労務の提供の対価といえない一時の所得(一時所得)であるとして課税処分をしたことから、審査請求人が、未払賃金部分以外はパワーハラスメントや解雇の慰謝料で、非課税所得であると主張した。国税不服審判所は、和解に至る経緯から、審査請求人は、控訴審の和解で受け取った解決金に、損害賠償金及び慰謝料は含まれていないことを認識して和解に応じたもので、未払賃金相当額以外の部分は非課税所得に該当しない、税務署の処分は適法であると判断した事例である。(令和元年分所得税等の更正処分(更正の請求に対してされた更正をすべき理由がない旨の通知処分を併せ審理)及び過少申告加算税の賦課決定処分・棄却・令和4年12月13日裁決(非公開))【主な争点】和解金(本件解決金)から未払賃金相当額を引いた残額(本件金員)は、「心身に加えられた損害」に基因して取得する慰謝料及び損害賠償金として、所得税法の非課税所得に該当するか。【裁決の要旨】本件和解条項には、「これまでの未払賃金を含めた解決金」との文言があることから、本件解決金に和解の成立の日までの未払賃金を含むことは明らかであるが、本件解決金から未払賃金に相当する金額を控除した残額である本件金員については、和解条項には特段の記載がなく、その性質は明らかでない。本件和解に至る経過等について、第一審判決では、審査請求人の損害賠償等請求を棄却した。そして、A社は、第一審判決で地位確認請求及び賃金支払等請求を認容した部分の取消し等を求めて控訴したのに対して、審査請求人は、控訴及び附帯控訴を行わなかった。そうすると、控訴審訴訟において、損害賠償等請求に係る内容は審理の対象とならず、審査請求人及びA社との間では、地位確認請求及び本件賃金支払等請求に係る内容が争われていたものと認められる。賃金支払等請求には、未払賃金に加えて、それに対する遅延損害金に係る内容が含まれていたことからすると、審査請求人及びA社は、本件金員に、遅延損害金に相当する金員を含むことを合意したものと認めるのが相当である。そして、本件金員から遅延損害金相当額を控除した金員である残りの差額(本件差額)についてみると、控訴審訴訟においては、A社としては、本件金員に損害賠償金を含むことを否定した上で、和解条項によって本件和解を行っており、審査請求人もこれを認識の上で、本件和解に応じたものと認められる。したがって、審査請求人及びA社は、本件差額を、地位確認請求及び賃金支払等請求に係る争いを解決するための金員とすることを合意したものと認めるのが相当である。以上のとおり、本件金員は、心身に加えられた損害に基因して取得する損害賠償金が含まれているものとは認められず、所得税法9条1項17号に規定する非課税所得に該当しない。【参照条文】所得税法第9条《非課税所得》、第28条《給与所得》、第34条《一時所得》、第35条《雑所得》所得税法施行令第30条《非課税とされる保険金、損害賠償金等》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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