経営研究レポート
MJS税経システム研究所・経営システム研究会の顧問・客員研究員による中小・中堅企業の生産性向上、事業活性化など、経営に関する多彩な各種研究リポートを掲載しています。
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2025/03/28 人事労務管理
昨今労務事情あれこれ(208)
1.はじめに4月から事業年度が開始する多くの会社において、3月と4月は年度末の処理と新年度の準備が重なり、管理部門の皆さまは繁忙期を迎えておられることでしょう。4月からの年度はじめのタイミングで36協定(時間外・休日労働に関する協定)や変形労働時間制をはじめ、労働法令に基づいて毎年、労使で書面による労使協定を締結しなければならないような取り扱いが多く存在していることから、その対応にも追われているという人事・総務のご担当や経営者の方も多いのではないかと思います。労使協定を締結する際には「労働者の過半数を代表する者」が労働者側の代表として、会社との協定締結の当事者となりますが、この過半数代表者の選出方法にもいくつかのルールが存在しています。このルールから外れた形で労働者代表を選出してしまうと、せっかく締結した協定が無効とされてしまう恐れもあるので、労働者代表を選出するプロセスは、ルールにのっとり適切に行っておきたいところです。そこで今回は、労使協定を締結する際に問題となる労働者代表の適正な選出方法について考えてみたいと思います。2.そもそも「労使協定」とは何かそもそも、「労使協定」とはどのような法的な位置付けのものなのでしょうか。簡単にいえば、労使協定とは「会社と労働者の代表との間で合意した事項を書面にして協定(締結)するもの」ということができます。労使間でこの協定を締結することにより、労働者の意志を反映させたうえで、法令上で禁止されている事項を例外的に免れることができる、という意味合いのある書面です(これを「免罰的効力」といいます)。たとえば、「36協定」の場合を考えてみましょう。労働基準法により労働時間は1日8時間、週40時間までと定められており、原則として、使用者は法定労働時間を超えての労働や、法定休日に労働を命じることは禁止されています。しかし、会社の業務運営上で、突発的に法定労働時間を超えて残業をしてもらわなければならない場合や、法定休日に働いてもらわなければならない事情が起こったりすることはよくある話です。こうした事態の際、法令で定められているから一切これを認めないとなると、会社としては円滑な業務運営が難しくなりますし、それが理由で会社の業績が低迷……となってしまうと、従業員としても安心して働ける職場とはいえなくなってしまいます。そこで、使用者と労働者が「36協定」(時間外労働・休日労働に関する協定)を締結し、従業員の意志を協定に反映させることを条件に、本来禁止されている法定時間外労働・休日労働をさせても使用者に対して罰則が適用されない取り扱いとしているのです。この定めが労働基準法の第36条にあることから「36(サブロク)協定」と通称されています。この36協定の場合は、法的に有効とするためには締結後に労働基準監督署に届け出ることが必要となりますので、協定を締結しても監督署への届出を怠ってしまうと先述の「免罰的効力」は発生せず、時間外労働や休日労働は違法ということになってしまいます。多種存在する36協定以外の労使協定の中には、有効とされるためには労働基準監督署への届出が必須とされているものが多くある一方で、届出は不要で協定の効力が生じるものもあります(注1)。様々な内容の労使協定がありますが、協定の一方の当事者である労働者代表の選出が重要である点は共通しています。3.労働者代表=労働者の過半数を代表する者労使協定は一定のテーマに限定はされますが、いわば「会社と労働者との間の約束事を書面にしたもの」と考えることができます。ただ、従業員ひとりひとりから約束事の合意を取り付けることは難しいため、約束事の当事者として、だれか一人代表を決めてもらい、その代表者が合意した約束事はすべての従業員が合意したものとして扱う、というのが労使協定の考え方です。したがってこの「代表者」は従業員の多数の意見を反映する立場でなければなりませんので、労使協定の当事者となり得る労働者代表は「労働者の過半数を代表する者」と労働基準法で定められているわけです。具体的には、以下のようにされています。事業場に使用されているすべての労働者の過半数で組織する労働組合(過半数組合)がある場合はその労働組合過半数組合がない場合は、労働者の過半数を代表する者②の場合、その事業場に在籍している労働者であればだれでもいい、ということではなく、要件と選出するための正しい手続が定められています。【過半数代表者の要件】1.管理監督者でないこと過半数代表者となる者は、労働基準法第41条第2号に定める管理監督者でないこととされています。ここでいう「管理監督者」とは、一般的には部長、工場長など労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある人が該当します。2.過半数代表者となる労働者を選出することを明らかにしたうえで、投票・挙手などにより選出すること過半数代表者となる者が、代表者として相応しいかどうかを判断する機会が他の従業員に与えられ、過半数がその人の選任を支持していることが明確になるような手続を経て選出されていることが必要です。挙手や投票などの民主的な方法で選出することが求められるわけですが、選出に当たっては必ずしも従業員が一同に会する必要はなく、たとえば全社員への回覧によって任否の決議を得るというような方法でも差し支えはありません。一方、社員の親睦組織(社員会・社員友の会など)代表者が自動的に過半数代表者とする選出方法は、親睦団体が社員相互の親睦を目的としたものであり、労働者の意志を代表する団体ではないことから、この団体の代表者を過半数代表とすることは不適当とされています。3.使用者の意向によって選出された者ではないこと使用者が一方的に指名した従業員を過半数代表としたり、一定の役職者が自動的に過半数代表となったりするような方法は適正な選出方法とはいえません。不適切な選出方法により選出された過半数代表者が労使協定締結の当事者となっている場合、締結した労使協定は無効とされてしまいますので、安易な方法による選出は避けなければなりません。では、こうした点を踏まえ、過半数代表者の選出においてはどのような点に注意しなければならないのでしょうか。4.こんな時はどうしたら?上記の要件や選出方法を満たしていれば、労使協定の当事者として正当性が認められるわけですが、以下のようなケースではどのように対処すべきなのでしょうか。1.従業員が1人しかいない場合従業員が1人であっても、時間外労働や休日労働などが発生しないというわけではありませんし、その他の労使協定を締結する局面もないわけではありません。このような場合、過半数代表者になり得る従業員は、この唯一の従業員しかいませんので、この方が自動的に過半数代表者として会社と労使協定を締結することになります。2.過半数代表者が退職してしまった場合協定を締結した際の過半数代表者が退職してしまったら、新たな過半数代表者と労使協定を締結し直さなければいけないのでしょうか。この場合、労使協定の有効期間内については、その協定は有効であり、新たに締結し直す必要はありません。協定の有効期間が満了し、新たな有効期間で締結し直すタイミングで新たな過半数代表者のもとで労使協定を締結することになります。労使協定の主目的は、労働者の権利や職場環境を守ることですが、会社側にとっても、法令通りで運用しづらい労務管理上の規制に対し、労使双方の合意に基づいた新たな枠組みのもとで対処することができるようにするものです。代表者としての責務などを十分に説明し、本人も納得したうえで過半数代表者となってもらうようにし、そのプロセスは記録に残しておくなどの措置が必要と考えます。選出等の適切な筋道を経て、目的を理解し、職場環境を整備していくようにしましょう。<注釈>労使協定とは(奈良労働局監督課)6ページ参照https://jsite.mhlw.go.jp/nara-roudoukyoku/content/contents/002105047.pdf提供:税経システム研究所
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2025/03/25 人事労務管理
退職に関わるトラブル回避(第9回) 整理解雇2
【サマリー】前回は、「整理解雇」について、その有効性が「整理解雇の4要件」を満たしているかどうかで厳格に判断されるということを、重要判例を交えて解説いたしました。経営難だからと言って、従業員を簡単に解雇できるわけではなく、企業は法的リスクを慎重に検討し、必要な手続きや条件を満たす必要があることを説明いたしました。今回は、整理解雇の重要判例をもう一つご紹介するとともに、コロナ禍という特殊な状況下での「整理解雇」の判例を2件ご紹介したいと思います。1.整理解雇の4要件(前回レポートの再掲)①人員削減の必要性整理解雇を正当化するには、経営上の理由が明確であることが必要です。企業が客観的に高度の経営的危機下にあり、存続し続けるために人員削減がやむを得ない状況にあること。例えば、以下のような状況が該当します。連続した赤字経営による財務状況の悪化事業再編や経営統合による組織縮小業績低迷により倒産の危機が迫っている場合企業がこの必要性を説明するには、具体的な経営データが求められます。損益計算書や資金繰り表などの客観的な資料を基に、裁判所や労働者に「やむを得ない」と認識される必要があります。②解雇回避努力整理解雇を行う前に、可能な限り他の方法で解雇を回避する努力を尽くすことが求められます。裁判所は、企業がどれほど真摯に解雇回避努力を行ったかを厳しく審査します。主な解雇回避措置には以下があります。役員報酬の削減や配当の停止経営陣が最初に痛みを負担する姿勢を示すことが重要です。希望退職者の募集自主的な退職を促し、対象者に割増退職金を提供するなど、従業員の納得を得られる措置を講じることも、解雇回避努力として認められる可能性が高まります。配置転換や出向他部署やグループ会社での雇用維持の可能性を最大限に探ります。賃金や労働時間の調整賃金カット、一時休業、勤務日数の削減などを検討します。その他、経費削減や、新規採用の停止なども解雇回避措置として求められます。③人選の合理性解雇をする人選に関しては、客観的で合理的な基準かつ公正である必要があります。勤務成績、勤務態度等の評価を基準にする場合、会社への貢献度等を基準にする場合、雇用形態等を基準にする場合など、いずれの場合も公平性が求められます。また、性別、年齢、人種などに基づく基準は違法となりますので、注意が必要です。勤務成績や能力業務の遂行能力や実績に基づく評価が公平に行われているか。勤続年数長期勤続者を優先的に保護することが考慮される場合があります。家計事情や生活影響高齢者や家庭を支える立場の従業員を配慮するケースもあります。職務内容の適合性解雇対象者が不要とされる業務に従事している場合、選定が合理的とされやすいです。④手続きの妥当性上記①~③についての説明、解雇の時期や方法について、従業員に対して十分に説明・協議を行うことが必要となります。仮に①~③の要件が満たされていたとしても「本日をもって解雇とします」のような手順は認められません。労働組合や従業員代表との協議整理解雇を実施する前に、事前に労働組合や従業員代表と協議し、その意見を尊重することが求められます。解雇理由の説明解雇の背景や理由を明確に説明し、従業員が理解できるようにすることが重要です。通知期間の遵守法律に基づく解雇予告期間(通常30日)を確実に守ります。予告手当を支給する場合でも、対象者に丁寧に説明する必要があります。2.重要判例「学校法人N学園事件奈良地裁令2・7・21判決」大学の学部廃止に伴い解雇・雇止めされた教授や専任講師らが地位確認を求めた裁判で、奈良地裁は、職種を限定して雇用されていた場合でも整理解雇の法理が適用されると判断しました。裁判所は、異動が完全に不可能とは言えず、総人件費削減の努力も行われていないことから、解雇回避の努力が十分でなかったと指摘。また、大学の財政が経営破綻するほど逼迫しておらず、労働組合との協議も尽くされたとは言えないとして、整理解雇の要件を満たしていないと結論づけました。<事件の概要>N学園は、大学のほかに幼稚園から女子短大までを運営する学校法人であり、本件大学は平成19年以降、ビジネス学部と情報学部の2学部で構成されていました。原告らはN学園と労働契約を結び、平成26年以降、本件大学で教授や准教授、専任講師として勤務していました。平成29年3月時点で、原告1~4はN学園と無期労働契約を締結、原告5は別大学を定年退職後にN学園と契約を結び(契約形態は争いあり)、原告6・7は本件大学の前身校で定年退職後、1年契約の有期雇用となっていました。平成29年3月31日、N学園は原告1~5を解雇し、原告6・7に対しては有期契約の更新を拒否しました。N学園は平成22年度の認証評価で、本件大学の学生定員の充足率の低さや赤字が指摘され、抜本的な改善が求められました。平成25年には平成26年度からの学生募集停止を決定し、在籍学生がゼロになった時点で学部廃止を予定。その後、平成28年に財政難などを理由に雇止めを通知し、平成29年2月には、学生募集停止により教員が過員となり、雇用継続が困難であることを解雇理由として通達しました。Xらは、この解雇・雇止めが労契法16条・19条に違反し無効であると主張し、N学園に対し、労働契約上の地位確認と未払い賃金の支払いを求めて提訴しました。<判決のポイント>N学園側は、原告らは、職種限定で雇用されていたと主張するが、仮に、職種限定の合意があったとしても、そのことから直ちに整理解雇法理の適用が排除されることになるものではない。すなわち、本判決は、①人員削減の必要性については、ビジネス学部・情報学部の募集停止により学生らがほとんどいなくなったため教員が過員状態になったとはいえ、被告は資産超過の状態にあって、解雇しなければ経営破綻するといったひっ迫した財政状態ではなかったと判示した。また、②解雇回避努力については、原告らを人間教育学部や保健医療学部に異動させる努力を尽くしていないことや、総人件費の削減に向けた努力をしていないと判示した。さらに、③人選の合理性については、一応は選考基準が制定されてはいるものの、これを公正に適用したものとは言えないと判示した。また、④手続の相当性についても、組合と協議を十分に尽くしたものとは言えないと判示した。<まとめ>少子高齢化に伴う若年層の減少により、教育機関の経営環境は一層厳しくなっています。本件も、そのような社会的変化を背景に、学校法人が運営する大学において、学部の廃止を理由とした教員の削減が問題となった事例です。経営上の理由による解雇、いわゆる整理解雇の有効性は、一般的に①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続きの相当性の4要素を総合的に考慮して判断されます。しかし、経営が逼迫しているとは言えない場合は、特に②解雇回避努力の有無が実務上の焦点となることが多いです。解雇回避努力とは、解雇に至る前に、配転(部署異動)や出向などの措置を講じることで雇用の維持に努めたかどうかを指しますが、一般的には、職種や勤務地が限定された従業員であっても、直ちに配転や出向が不要とされるわけではなく、可能性があれば検討すべきとされています。本判決もこの考え方に沿っており、職種限定契約であっても異動の可能性を排除すべきではないとしました。もっとも、過去の裁判例には、職種限定契約の従業員については解雇回避努力の必要性が乏しいと判断した例もあります。そのため、実際の判断では、従業員が職種を限定するに至った経緯や、企業内で他の職種に就く可能性などを個別に精査し、解雇回避努力の有無を事案ごとに慎重に判断する必要があります。3.コロナ禍における整理解雇の重要判例1「外資系大型客船運行会社事件東京地裁令5・5・29判決」新型コロナウイルスの影響でクルーズ船の運航ができず、人員削減が避けられなくなったため、会社は退職勧奨に応じなかった7人を解雇しました。東京地裁は、これを整理解雇に該当すると判断しましたが、希望退職者の募集を行わなかったことが直ちに解雇回避の努力不足にはあたらないとしました。また、特定の部門で重要な人材が流出する可能性があったことや、雇用調整助成金を受け取っても人件費を5割削減する目標の達成は困難だったと結論づけました。<事件の概要>被告(以下、「C社」)は、米国などに本社を置く世界最大級のクルーズ船運行会社(以下、「親会社」)の完全子会社であり、日本国内で親会社のクルーズ旅行商品の販売などを行う企業です。令和2年2月頃、親会社が運航するクルーズ船(Dプリンセス号)で新型コロナウイルスの感染が拡大し、700人以上が感染、10人以上が死亡する事態となりました。同年3月から10月にかけて、米国疾病予防管理センターが国内のクルーズ船運航を禁止したため、C社の売上は3月以降完全に途絶え、この状況は令和4年7月頃まで続きました。同年4月、C社の社長は親会社から、世界的な人件費削減方針として50%の削減が決定され、C社も同様の措置を取る必要があると伝えられました。また、運航再開後に必要最小限の人員を確保することを前提に、人員削減案の作成を指示されました。6月2日、社長は、C社の正社員67名のうち24名を人員削減の対象とし、対象外の従業員や役員についても給与(報酬)を一律20%減額することを決定しました。同月4日頃、C社は原告を含む対象者に対し、特別退職金(原告には月給の約4.7カ月分)の支給、有給休暇の買取り、退職日を6月30日とすることを内容とした退職合意書を交付し、退職勧奨を行いました。6月26日、C社は退職に合意しなかった原告を含む7名に対し、同月30日付で解雇することを記載した解雇予告通知書をメールで送付し、解雇を実施しました。原告は、この解雇が無効かつ違法であると主張し、C社に対し、雇用契約上の地位の確認と解雇後の賃金支払いを求めるとともに、社長に対して不法行為または会社法429条1項に基づく損害賠償を請求し、提訴しました。<判決のポイント>本件解雇は整理解雇に該当するため、労働契約法16条に基づき、整理解雇の4要件を総合的に考慮し、客観的に合理的な理由があるか、社会通念上妥当かどうかを判断するのが適当です。C社は、令和2年6月末の時点で、少なくとも1年間は売上が見込めない可能性が非常に高い状況にありました。また、C社が運転資金を借りている親会社も営業損失が拡大し、借入れで資金を確保する状態にありました。そのため、経費削減の一環としてC社に対し、人件費を50%削減するよう要請しました。C社としては、これに応じなければ事業の継続が難しく、高度な人員削減の必要性がありました。本件解雇に際し、C社は経費削減策として、販売費を大幅に削減し、出張旅費や交際費を全額カットしました。また、解雇に先立ち退職勧奨を実施し、その対象外の従業員や役員についても給与(報酬)を20%削減するなど、一定の解雇回避措置を講じていたと評価できます。C社は希望退職者の募集を行ないませんでしたが、それは正社員67名が5つの部門に分かれ、各部門で細かく役割が分かれていたためです。希望退職を募ることで、各部門の中核を担う従業員が辞める可能性があり、組織の存続が危うくなる恐れがありました。整理解雇は組織の維持を目的として行われるため、事業の継続が可能な範囲で合理的な解雇回避措置を取れば足り、希望退職者を募らなかったことが直ちに解雇回避努力の不足を意味するわけではありません。また、C社の状況では、雇用調整助成金を活用しても人件費を50%削減することは難しく、助成金を受給せずに解雇を実施したことが解雇回避努力の欠如に当たるとはいえません。解雇対象者の選定にあたっては、C社は部門全体を対象に、一律の基準で業務の重要性や生産性、従業員の年次評価、新業務への適応能力などを考慮し、合理的な方法で選定を行っており、不合理な点は認められません。さらに、解雇前の団体交渉では、C社は財務状況を示す説明資料を提供し、選定理由や雇用調整助成金を利用しなかった理由、希望退職者募集を実施しなかった理由について回答しており、適切な対応を行っていたといえます。以上の点から、本件解雇は有効であると判断されました。<まとめ>本件は、新型コロナウイルスの影響による急激な業績悪化を理由とした整理解雇の事例であり、その特殊性や臨時的な側面を有しています。しかし、この裁判例では、整理解雇の実務全般にも参考となる2つの重要な点が示されています。まず、雇用調整助成金の利用については、元々は解雇回避のために必ずしも必要とはされていませんでしたが、新型コロナによる業績悪化に伴う整理解雇の事案では、厚生労働省などが雇用調整助成金の活用を推奨していた状況に加え、会社側も助成金の利用を検討していたと説明していたため、その活用が強く求められたと判断されました。実際、雇用調整助成金を利用しなかったことで、解雇回避措置としての適切性が低いと判断され、解雇が無効とされたケースもあります(次に解説、タクシー会社事件・仙台地裁令和2年8月21日判決)。しかし、本件では、雇用調整助成金を利用しても必要な人件費削減を達成できないなど、合理的な理由が説明できる場合には、助成金を利用しなかったことが直ちに整理解雇の無効につながるとは言えないと判断されました。また、整理解雇を行う前に希望退職を募集しなかった場合でも、それが事業運営上必要であり、合理的かつ具体的な理由が示されている場合には、ただちに解雇が無効とはなりませんでした。しかし、合理的な理由が示されない場合には、希望退職の募集を行わなかったことで、整理解雇の有効性が否定されるリスクがあることも指摘されています。総じて、整理解雇は経営上の判断による措置であり、経営を取り巻くさまざまな事情を考慮したうえで、その実施と内容を決定するのは経営者の裁量に委ねられています。そのため、希望退職の募集などの一般的な手法の妥当性を考慮しつつも、必ずしもそれに拘束される必要はないことを改めて確認した判決といえます。4.コロナ禍における整理解雇の重要判例2「タクシー会社事件仙台地裁令2.8.21判決」新型コロナウイルスの影響で売上が減少したタクシー会社の運転手が、有期契約の途中で解雇されたことに対し、雇用の継続を求めて争った事件。仙台地裁は、雇用調整助成金などの活用が可能だったにもかかわらず、会社がそれを利用せずに解雇に踏み切ったことを問題視し、解雇を無効と判断しました。また、整理解雇の4要素を検討した結果、人員削減の必要性については、会社の倒産が避けられないほど緊急かつ深刻な状況とは認められず、解雇対象者の選定基準にも合理性が欠けていると指摘されました。さらに、労働組合との団体交渉においても、会社側の説明が十分でなかったことが判断の決め手となりました。<事件の概要>仙台市で営業するタクシー会社Aは、新型コロナウイルスの影響で利用客が激減し、事業継続のため人件費の削減が必要だとして整理解雇を実施しました。これにより解雇された有期雇用契約者の甲らが、解雇の無効を主張して提訴しました。裁判所は、有期雇用契約期間中の解雇には「やむを得ない事由」が必要であるとし、その判断にあたっては整理解雇の4要素を総合的に考慮すべきだと指摘しました。そのうえで、各要素を踏まえた判断を示し、本件解雇は「やむを得ない事由」を欠いており無効であると結論付けました。①人員削減の必要性についてA社の令和2年4月の収支は、運賃収入501万円に対し経費が1902万円となり、単月で1415万円の赤字でした。一方で、資産超過は3133万円であり、人員削減の必要性は一定程度認められるものの、従業員を休業させることで6割の休業手当の支出に抑えられ、さらに雇用調整助成金を申請すればその大部分が補填される見込みでした。そのため、直ちに整理解雇を行わなければ倒産が避けられないほどの緊急かつ高度な必要性があったとは認められないと判断しました。A社は、毎月500万円以上の赤字が続いていたこと、雇用調整助成金の支給時期が不明確であったこと、多額の未払い費用があったことを主張しました。しかし、裁判所は、雇用調整助成金の活用によって収支改善の可能性があり、未払い費用も直ちに全額支払う必要があったとはいえないこと、さらに金融機関や代表者からの融資の余地もあったことを指摘し、A社の主張を退けました。②解雇回避措置の相当性A社は一部従業員の休業を実施したものの、厚生労働省や宮城県タクシー協会、東北運輸局が雇用調整助成金の申請や臨時休車措置の活用を強く推奨していたにもかかわらず、それらを利用しませんでした。このため、解雇を回避するための努力が不十分であり、相当性が低いと判断されました。③人員選択の合理性および④手続の相当性についてA社は、解雇対象者の選定基準について十分な説明を行っておらず、人員選択の合理性を示す証拠もありませんでした。そのため、人員選択の合理性および手続の相当性も認められないと判断されました。<まとめ>A社は長年にわたり営業損失が続いており、本件解雇の時点では収益の悪化に加え、財務面でも大きな赤字を抱え、実質的に倒産に近い状況でした。雇用調整助成金の特例措置が講じられていましたが、根本的に財政面を改善できるほどのものではなく、加えて、当時は助成金の申請が殺到しており、申請したとしてもいつ支給されるか不透明な状況でした。そのため、裁判所が「助成金は翌月から支給される」という前提で判断を下した点には疑問が残ります。さらに代表者や金融機関からの融資の可能性を解雇回避の理由とした点も、企業側にとっては受け入れがたい判断だといえるでしょう。こうした事情を踏まえれば、A社が契約期間の途中で解雇に踏み切らざるを得なかったのは、やむを得ない判断で、解雇対象者の選定方法や債権者への説明不足など、手続き面に課題があったことは否定できませんが、十分に「緊急かつ深刻な状況」であったと考えられるのではないでしょうか。以上のことから今回の判決は、コロナ禍という未曽有の事態において、過酷な判決と言わざるを得ません。提供:税経システム研究所
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2025/03/19 企業経営
中小企業のM&Aと企業価値評価(第16回)
【サマリー】引き続き我が国の中小企業におけるM&Aと企業価値評価の実務について解説します。前回までは売り手サイドと買い手サイドとの交渉後に実施する「基本合意の締結」について説明しました。本稿ではデュー・デリジェンスの実施について説明します。本稿では下記図表1の9.について説明します。【図表1M&Aの基本的な流れ】1.デュー・デリジェンスの目的デュー・デリジェンス(以下、DD)とは、M&Aなどの取引の対象となる企業や事業などについて、事前に詳細を調査して検討することをいいます。M&Aの当事者である企業や事業の売り手サイドと、買収することを検討している買い手サイドを比較すると、当該企業や事業に関する情報は質・量ともに圧倒的に売り手サイドに有利な状況です。この情報格差を是正して対等な立場から交渉できるようにするためにDDが実施されます。また、DDによってM&Aにおける売買価格の算定の基礎となる情報(正常収益力、資産負債の時価情報、財務に影響を与えるリスク情報等)が提供されることになります。さらに、買収を実施するか否かの意思決定にも、DDは非常に重要な役割を持っています。2.DDの種類DDは調査の目的に合わせて、いくつかの種類に分類されます。①事業DD事業DDは、対象企業(売り手サイド)のビジネスモデル、外部・内部の経営環境、リスク分析、将来事業計画の評価、キャッシュ・フロー分析などを行ないます。ビジネスモデルでは、収益構造の特徴を踏まえた商品別・顧客別・地域別分析が検討されます。これらの検討結果は後ほど述べる財務DDと密接な関係にあります。また、市場動向、競合他社の動向などの外部経営環境や人事・組織面の内部経営環境などから対象企業の強みや弱みを明らかにしていきます。事業DDは主として経営コンサルタント、会計事務所が担当します。②人事DD人事DDは、対象企業の構成員によって醸成される組織風土、組織体系、人事制度や就業規則、賃金給与体系、退職金制度などを分析することになります。M&Aは企業文化が異なる企業同士が融合することとなるために、人事面での問題点や利点をあらかじめ知っておくことは買収後のスムースな企業統合を目指す上でも重要です。人事DDは、労務コンサルタントや社会保険労務士等が担当します。③法務DD法務DDでは、対象企業で発生した、もしくは現状発生している訴訟(立場が原告、被告とも)の評価、コンプライアンスの状況、反社会的勢力との関係の有無、対象企業と従業員間でのトラブル(未払残業代、各種ハラスメントなど)に関する調査などが実施されます。近年では、法的なリスクが顕在化した場合、一気に業績が悪化する事例が多く見受けられるために、買い手サイドでは法的なリスクの網羅的な把握と評価が必須となります。法務DDは弁護士や法律事務所が行うこととなります。④知的財産権DD知的財産権とは、発案・発明、ソフトウェア、企業や商品のブランドなど無形の財産に関する権利の総称です。知的財産権は対象企業が長年にわたり築いてきたものであり、当該企業の超過収益力を生み出す原動力ともいえます。従って、対象企業が重要な知的財産権を有する場合には、法的に保護される期限、将来の収益力にどの程度貢献するかという評価(価値源泉分析)が必要となります。これらは弁理士、会計事務所等が担当します。⑤財務DD財務DDは、対象企業の財政状態や損益の実態把握、正常収益力の把握、簿外債務(対象企業の帳簿に計上されていない債務)や偶発債務(債務保証など、特定の事象が発生した場合に対象企業が負担する義務が発生することになる債務)の有無などを行ないますが、各種DDの中で最も重要な調査といえます。財務DDの目的と効果は以下のとおりです。【図表2財務DDの目的と効果】財務DDの調査結果は、買い手サイドの意思決定や買収価格算定及び将来の統合計画に重要な情報を提供することになるために、実施者は依頼者(買い手サイド)の要望に的確に対応する必要があります。財務DDは、主として公認会計士や会計事務所が実施します。⑥ITに関するDDITに関するDDは、対象企業が利用している情報システムの現状と活用状況を把握して統合後のIT戦略策定に必要な情報を提供するものです。対象企業のITが今後も必要不可欠なものか、あるいは買い手サイドの情報システムを用いてコストダウンを図ることができるのかなどの判断は統合後の重要な論点となります。ITに関するDDはITコンサルティング会社が実施します。以上、DDには様々な形態があります。これらのうち、買い手サイドが必要と認めたDDを実施することとなりますが、法務DDと財務DDは中小企業のM&Aにおいては不可欠な手続であると筆者は考えます。3.財務DDの特徴筆者が多く経験している財務DDには、以下の特徴があります。①資料の不備が多い財務DDを実際に行なうこととなったら、対象企業に資料を要求することとなりますが、入手できない場合や入手したとしても欲しい情報が不足している場合が非常に多いのが現状です。こういうケースでは、DD実施者が自ら情報を作成することもあります。②膨大、複雑な情報入手した情報が膨大であり、その分析に多くの時間が割かれることも実務では珍しくありません。また、データのロジックが複雑でその解析に多大な労力を要することもあります。③短期間での調査財務DDは通常、限定的かつ短期間で報告書を作成して報告する必要があります。従って、期限間際になると長時間にわたり報告書の作成と修正が繰り返されます。④限定される対応者M&Aは極めて限定された関係者のみによって秘密裏に進められます。財務DDも同様で、関係者以外への情報漏えいには細心の注意を払うことになります。業務を実施する場所は対象企業の会議室(データルームと呼ばれます)を使用することが一般的ですが、関係者以外にはその存在を知られないようにする必要があります。また、データの受け渡しも窓口を最小限に絞って行われます。このような特徴を有するために、財務DDは豊富な経験と事前の下準備が重要なポイントとなるのです。提供:税経システム研究所
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2025/02/28 人事労務管理
昨今労務事情あれこれ(207)
1.はじめに元タレントの女性トラブル対応を発端として、某テレビ局の対応に大きな批判が集まりました。本件に関しては真偽不明の点も多く事案検証が現在進行中でもあるので、この場で詳細に言及はしませんが、何が批判の的になっているのでしょうか。これは一言で言えば、局において自社従業員の人権や心身の安全や、健康への配慮などが疎かになっていたのではないかと推測される点かと考えます。「従業員の心身の安全や健康への配慮」を企業に義務付けたものを「安全配慮義務」と言います。これは、労働契約法他の法令に明文化されており、具体的な内容はともかく、「安全配慮義務」という言葉を耳にしたことのある人事総務担当の方や経営者の方は多いのではないかと思います。では、企業はどのあたりまでの配慮が求められているのでしょうか。今回は企業の安全配慮義務について考えてみたいと思います。2.安全配慮義務の具体的内容「安全配慮義務」とは具体的にどのように義務付けられているものなのでしょうか。根拠とされている各種法令では、まず、労働契約法において「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」(第5条)とされています。また、労働安全衛生法においては「事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。(以下略)」(第3条1項)と定められていますが、これらの条文は極めて抽象的であり、事業主による具体的な対応を定めているものではありません。さまざまな業種の企業がある中で、安全配慮義務の内容ついて、全てを一律に決められるものではないとも言えます。実際、判例においては「労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によつて異なるべきものである」(最高裁判決S59.4.10)としていることからも、あくまでケース・バイ・ケースの対応ということになりますが、端的に言えば、従業員が安全・健康に働くことができるよう、職場環境を整備したり、想定できる事故に対する防止策を実施する、心身の不調を招くような労働環境に対する対策を実施する……というところが業種を問わない共通項ということになるのではないでしょうか。【職場環境面】従業員の身体に対する安全を保護する事業所内の明るさや温度・湿度、騒音などの管理工場の機械・設備の適切な点検やメンテナンスによる安全稼働の確認安全装置(転落防止柵や手すりなど)の設置機械設備の安全な操作方法の指導・指示【健康配慮】従業員の心身の健康を保護する長時間労働の防止定期健康診断やストレスチェックの実施セクハラ・パワハラ等各種ハラスメント未然防止策の策定上記の例のようなさまざまな配慮を企業側が行っていたとしても、事故が発生したり、心身に不調をきたす従業員が出てしまったりすることがあります。こうした事態が発生した際でも、先述の労働契約法においては、特に罰則等は定められていません。(注:労働安全衛生法には、事案の内容により罰則が課される場合もあり)しかし、法令上の罰則はなくても、事故などの原因として安全配慮義務違反が問われた場合、従業員から損害賠償を求められる可能性があります。もちろん、労災保険でカバーできる損害賠償もあるのですが、近年の損害賠償請求額の高額化の流れの中で、思わぬ負担を負うことになるリスクもはらんでいます。これまで企業の安全配慮義務違反が問われ裁判になったケースをいくつか見てみましょう。3.安全配慮義務違反の実例・裁判例1.陸上自衛隊において、隊内の整備工場で車両整備中、バックしてきたトラックに轢かれて隊員が死亡したケース国は公務員に対し安全配慮義務を負っており、自衛隊員の場合であってもいわゆる平時においては安全配慮義務を必要不可欠であるとして、国の公務員に対する安全配慮義務を認定した(陸上自衛隊事件S50.2.25最高裁判決)。2.宿直勤務中の従業員が、侵入してきた強盗に殺害されたケース会社は、高額品を扱っているにもかかわらず、一人で社内での宿直勤務を命じたのであるから、宿直場所である社屋内に部外者が容易に侵入できないような設備を設置し、かつ、強盗などが侵入した場合には、危害を免れることができるような施設を設けるとともに、これらの施設を十分に設置することが難しい場合は、宿直勤務者を増員する、宿直勤務者に対する安全教育を十分に行うなど、従業員の生命、身体等に危険が及ばないように配慮する義務があったとした(川義事件S59.4.10最高裁判決)。3.職場におけるいじめや嫌がらせを受け自殺に追い込まれたケース自殺した職員に対するいじめは長期間にわたり執拗に行われていたものであり、いじめを働いていた職員は「死ね」などの暴言を浴びせていたこと、自殺した職員の勤務状態、心身の状態を認識していたことを考えると、自殺の可能性を予見することは可能であったとして、いじめを働いていた職員個人に対し損害賠償の支払いを命じるとともに、事業所は執拗ないじめを認識可能であったのに、それを防止する措置を取らなかったことは安全配慮義務違反であり、いじめを働いていた職員と連帯して損害賠償を支払うことを命じた(誠昇会北本共済病院事件H16.9.24さいたま地裁判決)。これらのケースを見ていくと、「会社が事故防止対策を講じるなど、求められる義務を果たしているか」「事故や傷病等と安全配慮義務を怠ったことに因果関係があるか」「予見可能性があるか」といった観点により、安全配慮義務違反が認定されていることがわかります。では、会社が安全配慮義務を果たすために、どのようなことに取り組むべきなのでしょうか。4.安全配慮義務を果たすために会社が取り組むべきこと●労働安全衛生体制の整備事業所の規模や業種により総括安全衛生管理者等や産業医の選任が義務付けられています。これらの管理者を中心に社内の労働環境の整備等を行うとともに、誤操作防止のための安全設備の設置、操作マニュアル等の完備を行っておくようにしましょう。●従業員の心身の健康管理の徹底定期健康診断やストレスチェックを行うことのほか、産業医など労働者の心身の健康について相談できる体制を整えておくようにしましょう。また、長時間労働が目立つ従業員との面談や、産業医による面接指導などで、労働時間短縮に向けた対策を行っていくことも重要です。●ハラスメント対策各種ハラスメントに関する教育研修のほか、ハラスメント防止の社内方針周知、苦情申出担当の設置、被害を受けた従業員に対する心身のケアなどを行うと共に、ハラスメントに対しては厳しい態度で臨む姿勢を明確に打ち出すなどハラスメントが起きにくい環境を整えましょう。従業員の心身の安全と健康、災害時の対応まで安全配慮義務に求められる法的責任は非常に幅広い範囲に及びます。正直ハードルが高いと感じられる部分もあるかもしれませんが、単なる義務の履行にとどまらず、従業員の満足度向上や信頼関係の醸成、生産性の向上にもつながる取り組みであると考え、積極的に取り組んでいきたいものです。提供:税経システム研究所
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2025/02/28 医療経営
戦略的医療機関経営 その163
【サマリー】今回のレポートは、特掲診療である。「特掲診療料」とは、個別の診療行為などを診療報酬で評価したものである。診療所、病院、在宅医療や訪問看護ステーション、調剤薬局などがかかわる施設基準も当然存在する。今回は届出の多い特掲診療料の施設基準を取り上げる。1.今後の執筆予定施設基準とは(構造、主な要件、用語)基本診療料(主な施設基準、入院基本料)重症度、医療・看護必要度、在宅復帰率特掲診療料施設基準の届出適時調査入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費2.特掲診療料の基本特掲診療料とは、基本診療料のように一括して評価、支払うことが妥当ではない「特別な診療行為」について、個々の点数を設定したものです。□主な特掲診療料特掲診療料も基本診療料と同様に、施設基準の「告示」と「通知」があります。特掲診療料の「告示」は、「第一届出の通則」から「第十七経過措置」、さらにそれに係る別表(第一~第十三)という構成になっています。3.代表的な特掲診療料の診療報酬項目①医学管理等「B008薬剤管理指導料」特に安全管理が必要な医薬品が投薬又は注射されている患者の場合380点1の患者以外の患者の場合325点※1点10円算定要件入院している患者のうち、(1)については別に厚生労働大臣が定める患者に対して、(2)についてはそれ以外の患者に対して、それぞれ投薬又は注射及び薬学的管理指導を行った場合に当該患者に係る区分に従い、患者1人につき週1回かつ月4回(※)に限り算定する入院中に最大限、算定するために、入院初日に薬剤師は入院患者へ服薬指導を実施することがポイント留意事項薬剤管理指導料は、当該保険医療機関の薬剤師が医師の同意を得て薬剤管理指導記録に基づき、直接服薬指導(※)、服薬支援その他の薬学的管理指導(処方された薬剤の投与量、投与方法、投与速度、相互作用、重複投薬、配合変化、配合禁忌等に関する確認並びに患者の状態を適宜確認することによる効果、副作用等に関する状況把握を含む。)を行った場合に週1回に限り算定できる。また、薬剤管理指導料の算定対象となる小児及び精神障害者等については、必要に応じて、その家族等に対して服薬指導等を行った場合であっても算定できる服薬指導:薬剤師がその専門性を活かし、薬の効能、飲み忘れ防止、残薬の確認、服薬後の観察(副作用などの発見)を行うこと服薬指導に関する診療報酬では、患者本人に対する服薬指導が算定の基本ですが、患者本人が意識がないなどコミュニケーションが取れない場合は、患者のご家族に服薬指導を行います。この場合も服薬指導に関する診療報酬は算定できます。この点は意外に算定から漏れていることが多いです。薬剤管理指導料の(1)は、抗悪性腫瘍剤、免疫抑制剤、不整脈用剤、抗てんかん剤、血液凝固阻止剤(内服薬に限る。)、ジギタリス製剤、テオフィリン製剤、カリウム製剤(注射薬に限る。)、精神神経用剤、糖尿病用剤、膵臓ホルモン剤又は抗HIV薬が投薬又は注射されている患者に対して、これらの薬剤に関し、薬学的管理指導を行った場合に算定する施設基準常勤の薬剤師が、2名以上配置されているとともに、薬剤管理指導に必要な体制がとられていること。なお、週3日以上常態として勤務しており、かつ、所定労働時間が週22時間以上の勤務を行っている非常勤薬剤師を2人組み合わせることにより、当該常勤薬剤師の勤務時間帯と同じ時間帯にこれらの非常勤薬剤師が配置されている場合には、これらの非常勤薬剤師の実労働時間を常勤換算(※)し常勤薬剤師数に算入することができる。ただし、常勤換算し常勤薬剤師に算入することができるのは、常勤薬剤師のうち1名までに限る常勤換算:多様な働き方を認めたのもので、要件を満たす非常勤薬剤師2名の勤務時間の合計が、常勤薬剤師の所定労働時間を超えている場合、常勤薬剤師2名以上の要件のうち、1名に充当できるというもの。この点を踏まえて非常勤の勤務時間の管理を行うのがポイント。医薬品情報の収集及び伝達を行うための専用施設「医薬品情報管理室」(DI)(※1)を有し、院内からの相談に対応できる体制が整備されていること。医薬品情報管理室の薬剤師が、有効性、安全性等薬学的情報の管理及び医師等に対する情報提供を行っている(※2)こと医薬品情報管理室:この部屋は専用施設が条件ですので、他の用途では使えませんので注意が必要です。医師等への情報提供:情報提供した事実、証拠が必要です。適時調査など外部監査の際に提示できるようにしておくのがポイント。当該保険医療機関の薬剤師は、入院中の患者ごとに薬剤管理指導記録を作成し、投薬又は注射に際して必要な薬学的管理指導(副作用に関する状況把握を含む。)を行い、必要事項を記入するとともに、当該記録に基づく適切な患者指導を行っていること②在宅時医学総合管理料施設入居時等医学総合管理料C002-2施設入居時等医学総合管理料は、通院が困難な施設入居者に対して、計画的な医学管理のもと定期的に訪問診療を行い、総合的な在宅療養計画を作成した場合に算定される診療報酬です。1在宅療養支援診療所又は在宅療養支援病院*であって別に厚生労働大臣が定めるものの場合イ病床を有する場合別に厚生労働大臣が定める状態の患者に対し、月2回以上訪問診療を行っている場合単一建物診療患者が1人の場合3885点単一建物診療患者が2人以上9人以下の場合3225点単一建物診療患者が10人以上19人以下の場合2865点単一建物診療患者が20人以上49人以下の場合2400点①から④まで以外の場合2110点月2回以上訪問診療を行っている場合((1)の場合を除く。)単一建物診療患者が1人の場合3185点単一建物診療患者が2人以上9人以下の場合1685点単一建物診療患者が10人以上19人以下の場合1185点単一建物診療患者が20人以上49人以下の場合1065点①から④まで以外の場合905点在宅療養支援診療所又は在宅療養支援病院:在宅療養支援診療所とは、在宅療養をされる方のために、その地域で主たる責任をもって診療にあたる診療所です。在宅療養支援病院とは24時間365日体制で往診や訪問看護*を行う200床未満病院のことをいいます。往診と訪問看護(診療):在宅療養している患者で疾病、傷病のため通院が困難な者に対し、患者または患者家族などが電話などで直接、保険医療機関に診療を求め、診療を行うことを「往診」という。定期的(計画的)に看護、診療を行うことを訪問看護(診療)という。双方とも患家に行き、診療を行うが、計画的な診療なのか要望による診療なのかにより診療報酬点数も異なる。施設などの単一の建物に訪問する際に、一回の施設訪問時に複数人の訪問診療を実施すると効率的ですが、一人当たりの診療報酬点数は低くなりますので注意が必要です。また最終的には施設(在宅)での看取りまで在宅医療の役目です(在宅医療の診療報酬点数の中で、もっとも点数が高いのも在宅の看取りに関する点数です)施設基準介護支援専門員(ケアマネジャー)、社会福祉士等の保健医療サービス及び福祉サービスとの連携調整を担当する者を配置していること在宅医療を担当する常勤医師が勤務し、継続的に訪問診療等を行うことができる体制を確保していること他の保健医療サービス及び福祉サービスとの連携調整に努めるとともに、当該保険医療機関は、市町村、在宅介護支援センター等に対する情報提供にも併せて努めること地域医師会等の協力・調整等の下、緊急時等の協力体制を整えることが望ましいこと③検査D026検体検査判断料二検体検査管理加算Ⅳ特掲診療料の「検査」には、検体検査料、生体検査料、診断穿刺・検体採取料、薬剤料、特定保健医療材料の五つに区分されます。この中から検体検査料内の「検体検査管理加算」を解説します。検体検査管理加算は、病院内の検体検査を行う体制を評価した点数です。(Ⅰ)から(Ⅳ)まであり、検査を実施したことの点数である「検査実施料」と検査値を判断する医師側の「検査判断料」に区分されます。検体検査管理加算は、(Ⅰ)から(Ⅳ)まであり、(Ⅳ)はその中でも最も点数が高く、最も算定要件も厳しくなっています。検体検査管理加算(Ⅳ)の施設基準院内検査を行っている病院又は診療所であること。当該保険医療機関内に臨床検査を専ら担当する常勤の医師(※1)が配置されていること。当該保険医療機関内に常勤の臨床検査技師が十名以上配置されていること。当該検体検査管理を行うにつき十分な体制が整備されていること院内検査に用いる検査機器及び試薬のすべてが受託業者から提供されていないこと(ブランチ(※2)は除外)臨床検査を専ら担当する医師:勤務時間の大部分において、検体検査結果の判断の補助を行うとともに検体検査全般の管理、運営並びに院内検査に用いる検査機器及び試薬の管理についても携わるものをいうブランチ注意事項臨床検査を専ら担当する医師の所定労働時間のうち検体検査の判断の補助や検体検査全般の管理、運営に携わる時間がわかるもの緊急検査を常時実施できる体制についての資料(従事者の勤務状況など具体的にわかるもの)臨床検査の精度管理の実施状況の資料(実施責任者、実施時期、実施頻度など)臨床検査の適正化に関する委員会の運営規定国際標準化機構が定めた臨床検査に関する国際規約に基づく技術能力の認定を受けていることを証する文書の写し(国際標準検査管理加算の届出の場合)提供:税経システム研究所
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2025/02/27 企業経営
昨今の経済情勢を背景に地域企業経営はどう対処するのか(第4回)
【サマリー】金利上昇トレンドが明らかになっている状況で、銀行借入に頼らない企業への脱皮方策についてご紹介します。日経新聞1月6日の報道によれば日銀の植田和男総裁は6日、全国銀行協会の賀詞交歓会で挨拶し、「2025年も経済物価情勢の改善が続いていくのであれば政策金利を引き上げ、金融緩和度合いを調整していく」と語った。とのこと。引き続き金利を上げる方向を年頭に宣言されたわけです。「経済はよくなっている」という論調が一部で周知の前提として語られることがありますが、経営現場の情勢とは遊離した議論と思います。もちろん手放しでどんどん金利をあげて行くべき局面だとおっしゃっているわけではなく、「極めて慎重に情勢を見極めて」政策金利を上げるタイミングと上げ幅を判断するというニュアンスで語られています。しかし、昨年すでに市中金融機関金利は0.15%一律でアップしたばかりであり、融資を受けて現在進行形で返済を行っている企業にとっては頭の痛い年頭の方針宣言であったと言えます。本稿では金利に対する知識と、金利上昇(コスト負担上昇)に対する経営側の対処についてご一緒に考えて行きたいと思います。(1)銀行金利はなかなか複雑金利2%とすると、一般的には返済時に借りた額の2%を加算して返済するというイメージです。実際に銀行から借り入れをする際には、金利と返済期間と返済方法の三点を合意して契約を結びます。これによって同じ金額を借りるにしても金利の負担額はかなり違ってきます。金利計算は複雑になるので、自社の金利計算を行う場合はネット上の金利シミュレーションアプリを活用します。金利に関する知識を深めることが目的ではないので、基本的な部分だけを確認の意味で共有します。返済期間が短い(1年以内)一括返済は負担が軽い利息=元金×利率÷365日(閏年は366)×借入日数で決まります。→長い期間借入をするほど負担は重くなります。返済方法は「元利均等返済」「元本均等返済」の2種があります。総負担額の元金均等返済の方が、わずかに総支払金額が低くなります。月次返済額が同じ金額になるのが「元利均等」、月次返済額が変動するのが「元金均等」です。返済時の利便性のイメージから元利均等を選ぶ企業が多いようですが特に良いことがあるわけではありません。(2)単純金利と長期借入金の場合の総支払額比較例・年3.2%で借り入れた1000万円を1年後に返済する場合の金利負担額1000万円×0.032÷365日×365日=32万円←これはわかりやすいです。暗算できる範囲です。・年3.2%で借り入れた1000万円を毎月分割返済し10年後に完済する場合の金利負担額(ローンシュミレーターを使って計算)元金均等:1613280円総負担率:16.13%元利均等:1698344円総負担率:16.98%■金利3.2%で借りた借入金の金利負担は、長期借入金では、32万円ではないということです。負担率は約16%~17%になります。ちなみに金利の上限は、利息制限法で定められています。10万円未満の場合…20%10万円以上100万円未満の場合…18%100万円以上の場合…15%(3)ここまでのコメント単純にこれまでの数字を見ていくと、短期借入金(1年以内に完済)が一番お得です。だから借入が必要な時は長期ではなく短期で借りましょうというのは早計です。長期借入金のメリットは、計画的な資金繰りができる以外に、銀行の信用です。長期の月次(多頻度)の返済実績は無形の「信用」となります。資金調達ニーズはスポットではなく、継続的に発生するものです。別途の借入申請を行う際に、結論までのスピードが速くなったり、謝絶されなくなるのは「信用」がついているからと言えます。【地域金融論の講義で使っているたとえ】筆者が大学で30年ほど講義している地域金融論の授業でお話ししている例えをご紹介します。地域金融機関の営業の仕事は、「一定の地域にどれだけ多くの友達を作っていくか」です。知らない人には不安で貸せない。よく知っている友人ならすぐ返してもらえるなら少しくらいは貸してもよいとなり、返済してくれる実績ができて、資金需要の意味がよく理解できれば再度の借金の相談にも抵抗感がなくなっていくでしょ。と言う話です。これを「信用」と呼んでいます。というものです。(4)金利上昇環境下での企業の対応金利上昇分のコストを吸収することが難しい企業は、外部からの資金調達を行わずに経営を行うためにはどうするかを考え工夫して、構造改革に取り組むことが不可欠となります。各社、コロナ期に本来は発生しなかった借入が発生しているケースがあります。できれば融資残高も段階的に早期完済を進めていければさらに可です。結論を言えば、銀行借入を頼りにした経営をしないですむ構造に経営の構造自体を改革することが対策です。①借入金の調達コストは実際は金利以上に大きく掛かっている可能性があります金利が上がる=コスト増大ですが、実は調達コストは金利だけではありません。毎月の返済の金利部分は「経費」として損益計算に入ってきますが、「元本返済」は「経費ではない」ため損益計算に入ってきません。つまり「元本返済」は決算では益金となっており、法人税が掛かっているということなのです。②資金ニーズの発生構造を消滅させる公式の資金調達ニーズは2つしかありません。1)運転資金短期的な出金と入金のズレを補うための資金です。つまり、モノの取り扱いで、販売後の入金よりも仕入先への支払い出金の方が早くなっていると発生する資金ニーズです。これをなんらかの形で賄えないと黒字倒産となるわけです。現代のビジネスは、現金決済されることが少なく、ほとんどが信用取引で成り立っています。かつ、仕入れた商品はすぐに販売できるわけではなく、在庫として動かない期間もあります。そして、売れても代金が決済されるまでキャッシュは入ってきません。このような事情により、入金より出金が先行する構造が固定化されてきました、それを補うための資金が必要です。この構造をそのままにして売上成長著しい事態となると、過剰債務に陥り、せっかく働いて業績が好調なのにお金は残らない本意ではない状況となります。買掛債務回転日数と売掛債権回転日数を計算した場合、売掛債権回転日数が買掛債務回転日数より短くなるように取引条件の調整や取引構造の改善などを行うことで、たちまち運転資金のニーズが発生しなくなります。これは以前からの取引条件を自社の都合よく買える変更を「言いにくい」ため、改善が進みませんが、「言い方」「タイミング」を工夫して改善している企業はあります。ここは真剣に取り組まねばならない課題です。近年は手形取引がどんどん衰退して、30日後振込み等が一般化しています。以前は手形が主流であったため大手顧客の売掛債権回転日数は異常に長かったのですが、近年の状況変化で、運転資金のニーズを消滅させることが可能になってきました。2)設備資金設備導入の際の資金ニーズです。多額の資金ニーズになることも多く、返済期間も長期になり負荷が重い借入となります。さらに設備資金を借り入れる際に、銀行は法定耐用年数で設備を捉えますが、税法上の法定耐用年数は実際の設備の耐用年数とはかけ離れていることが多く、企業側は実質耐用年数と設備導入資金の回収計算をしっかりやる習慣がありません。実質の回収期間の長い設備投資は、設備導入をしても絵利益率に影響が低く、導入メリットが少ないということです。返済途中になんらかのリスクが発生した場合は危険です。回収期間が短い設備投資は、利益率が高く、導入メリットが大きいと言えます。このような判断を導入判断時に行うようにしたいものです。設備資金の借入をなくしていく方法で、以前からよく用いられてきた手段は「リース」です。現行設備をリースバックしてくれる業者に売却して借入残高を完済し、リース料で継続使用する方法もあります。また自社の設備は含み資産が出るものかどうか調べ、中古売却金で新設備導入時の自己資金の影響力がどの程度あるか検討します。ものによっては中古設備の海外ニーズが強いものもあり、かなりの価格で売却できるものがあります。自動車を購入する時にリセールバリューは人々の強い関心事です。【借入を減少させる改革を行った企業事例】データセンター企業サーバーコンピューターの新規導入スピードが速く、設備資金ニーズが経常的に発生することから、一般企業にサーバーコンピューターを買ってもらって即時償却を使って法人税対策としてもらい、そのサーバーコンピューターを、レンタル料を払って借りて使うという工夫をしている企業があります。つまり自社は設備資金を拠出しないで設備を得る工夫をされました。協力してくれた企業は法人税対策ができ、レンタル料で利回りが取れ、4年後にデータセンター企業が買い取ってくれる仕組みです。利回りは100%を超えます。法人税対策の伝統的な方法が当局によってシャットダウンされている状況では、多くの企業に喜ばれて活用されています。このようにして急成長企業では、先行して発生する多額の設備資金ニーズに対して、「借入に頼らない方法」を考えて解決しています。ここまでは公式の資金ニーズです。しかし厄介な資金ニーズは非公式の「赤字資金」です。業績不振によって資金不足に陥った場合の支払資金の調達を、「運転資金」名目で融資申請するケースを指します。実質的な赤字資金を貸す場合、銀行は貸付資金の回収が論理としては見えません。赤字資金ニーズの発生原因を特定しそれを解決するというような余裕がなくなっているのが赤字資金発生企業です。赤字資金ニーズの発生が始まると、ブラックホールのようにお金を吸い込み始めます。つまりどんどん赤字資金ニーズが膨らむということです。銀行に謝絶される融資の多く実質的な赤字資金の借入申請です。しかし、これを謝絶すると、その企業が破綻してしまい、既に貸している貸付残高が回収できなくなるリスクがあります。銀行にとっては判断が難しい案件と言うことになります。近年ではこういう状況の融資先には、銀行の方から「リスケ」を提案し、元本返済猶予と引き換えに、ブラックホールに融資を継続することを一旦とめて、経営改善計画策定を要求して建て直しを促すようにしています。決算が黒字でも赤字でも「赤字資金」ニーズは発生します。これを発生させないように管理するのが本来の「資金繰り」の目的です。(5)まとめ金利の上昇トレンドに対する方策として、借入に頼らない構造への企業改革を行うことを提案しました。急にそれだけを聞くと、そんな事は有り得ないと感じるかもしれませんが、国の経済成長が長期間停滞して、経済成長を背景としない要因で物価が上がってきています。この環境は「あり得ない」環境ではないでしょうか?その際に経営が考えることは「存続の確保」です。そのためになすべきことは支出の最小化です。企業の支出項目の大きいものは①仕入②人件費③借入返済(④地代家賃or荷造り運賃)です。他の項目はこれら3つ(4つ)に比べれば金額規模が相当に低いのではないでしょうか?大規模支出項目の1つである借入返済は、企業の構造を変えることで、なくす(最小化する)ことができるということです。これまではこれで問題なかった状態から環境が変わるので、平常時ではない緊急体制の守備スイッチを入れて構造改革を進めることで、環境が好転した際にさらに強い企業体ができるということになります。是非ご検討され迅速にチャレンジして頂けるよう祈念いたします。提供:税経システム研究所
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2025/02/26 企業経営
企業探検家 野長瀬先生の経営お悩み相談室(第17回)
毎回いろいろな企業経営者のお悩みをテーマとし、その悩みを解決する糸口を企業探検家・野長瀬裕二先生がアドバイス形式で解説していきます。筆者が見てきた様々な企業の成功例や工夫の事例、そこから見えてくる普遍的なノウハウを紹介し、各回のテーマの悩みに寄り添う情報をお伝えします。<相談内容>地方圏で食品スーパー5店舗を展開しています。地域の人口は減少を続け、前期はギリギリ黒字でしたが、今期は赤字転落の懸念があります。堅実経営を続けてきたので、自己資本比率は50%程度です。今後の経営について、手詰まり感があります。どのように考えていけばよいでしょうか。■厳しい業界構造これまで黒字と堅実な財務内容を維持してこられたことに敬意を表します。近年、同種の企業の倒産が毎年見られます。状況の良い企業は買収され、そうではない企業は廃業・倒産していく。2008年頃をピークに日本全体の人口は減り始めていますが、地方圏ではさらにその傾向が前倒しで進んできました。それに加えて、大手流通チェーンとの競合もあって、経営環境は厳しくなっています。大型・中小型ショッピングモール、ディスカウンターも含めて、経営体力の勝負となりつつあります。大手GMS(総合スーパー)の利益率も、それほど高くないのが実情です。中小規模の地場スーパーチェーンの生き残りは大変な時代です。■中堅・大手企業はどのように動いているか食品スーパー業界は、中堅規模であっても高収益な事例があります。規模の経済は重要であるものの、生鮮食品、総菜、弁当等の工夫、パート労働力の戦力化、システム化といったオペレーション改革が見られます。これらの手法については参考にすべきものがあるでしょう。GMSの大手は、スーパー以外に不動産賃貸、金融、各種サービスを行い、その上で海外に進出しています。食品スーパー業界の大手は、1兆円を目指す規模で、M&Aにも積極的です。企業によっては、ホームセンター事業、スポーツセンター事業等に多角化しています。国内人口が縮小していく中で、①多角化、②M&A、③グローバル化、の方法による成長戦略が採用されています。御社のような中小企業においても、③のグローバル化を除いた①、②を考慮に入れた成長戦略が考えられます。さらに、③オペレーション改革を加えて考えていくことが重要となります。■過疎地域の事例を見てみようさらに店舗の立地も重要です。筆者は34の人口減少自治体を会員とする研究会を実施していますが、各自治体のスーパー事情は異なっています。平野部の人口減少率がまだ少ない都市部では1万人当たり2軒前後のスーパーがあり、過疎が進展する中山間地域ではスーパーが0軒の地域から5軒程度の地域まで幅広いのが実態です。軒数だけを見ると誤解される方もおられるかもしれません。人口減少する都市部と過疎地域では立地するスーパーの傾向が異なっています。表1都市部と過疎地域のスーパー比較都市部大規模チェーン店+業務スーパー+α過疎地域農協系スーパー+小規模地場+中堅地場+α表1に示されている通り、都市部では大規模チェーン店やショッピングモールがあり、価格競争が激しい。小規模なスーパーが生き残るには過酷な状況と思われます。業務スーパーはFC方式の低価格志向のローコスト運営のチェーン店であり、過疎地域にも時として出店しています。図1適疎戦略研究会会員自治体(2024年12月)研究会の会員自治体は図1に示される通りです。関西二府四県の全府県6と市町28が参加しています。過疎地域においては、商圏が小さいため大規模なチェーンの立地は限られています。このような地域で頼りになるのは、農協系のスーパーや販売店です。道の駅に各種食品を並べている場合もあります。中山間地域で町営スーパーを運営している事例もあります。会員自治体の平均が1万人当たり2軒程度のスーパー立地であり、人口が1万人を切った面積の広い自治体から立地が難しくなるのです。町営スーパーは町の中心部を離れた山の中の集落に立地しています。財政的な裏付けがないと、公立スーパーは成立しません。過疎自治体の買い物需要を主に担っているのは、小規模の地場スーパーと中規模の地場スーパーです。御社は小規模な地場スーパーに分類されるでしょう。中規模の地場スーパーとは、地域をまたがって広域出店しているチェーンです。過疎自治体においては、買い物価格は都市部のスーパーに比べて割高となります。近隣の自治体の品揃えの良い大型店に自家用車で買い物に行くなら30-60分程度は要します。そのコストとの比較で適正な市場価格が形成されていきます。スーパーの立地が0軒の自治体は人口が1万人を切っていて商圏が小さい存在です。そうした自治体では、どのように買い物をしているかを調査したところ、表2の通りであることがわかりました。最も多いのが、自家用車で隣接する自治体のスーパーまで買い物に行く人々です。表2スーパー0自治体における買い物の形態1.自家用車で買い物2.公共交通で買い物3.移動販売業者、マルシェから買い物4.通販業者から買い物5.ネットで買い物ごく一部ですが、公共交通を利用して買い物をしている人もいます。しかし、便数も少なく、どこの自治体も収益状況が苦しいため、改善には苦慮しています。近年、大企業グループで移動販売事業を手掛ける事例も見られます。隣接地域のスーパーで仕入れて、貨物車で過疎地域の自宅近くまで運ぶ形態(Aタイプ)。自社で仕入れて貨物車で自治体と連携した場所まで運ぶ形態(Bタイプ)。これらA、Bのタイプは徐々に伸びていますが、広域の過疎地域では中心部の住民に利用が限られているようです。Bタイプの場合、移動販売車が来る日にマルシェと呼ぶ様々な店が集まるイベントが開催されることがあります。移動販売業者は、多少割高となり、品揃えがトラックの容量に制約されるという課題もありますが、自治体と様々な安否確認等の連携協定を結んでいる事例が増えています。生協等の通販業者の利用もある程度普及しています。衣服やし好品等はインターネットで買い物する事例も若い世代を中心にみられます。■地場スーパーの生き残る方法上記の通り、都市部の大規模チェーン店と価格競争するような立地は厳しいと思われます。一方、人口減少が進んだ地域は徐々に顧客層が縮小していきます。消費者物流の範囲内で、事業内容を多角化していくことが一つの道です。例えば、観光客の需要をとらえるような品揃え。あるいは会員の家まで宅配する。コンビニと併設するなど、品揃えの拡大策も事例があります。弁当や総菜に注力し、イートインの食堂・喫茶店的な位置づけも考えられます。近隣の同業種、異業種をM&Aしていくという方法もあります。お年寄りのためにネット通販代行をするといった方法も考えられます。いずれにせよ、コアとなる顧客層をがっちりと捕まえ、その顧客層の喜ぶサービスを拡大していくことが最も企業価値を向上させることにつながります。地域の自治体と連携していくことも重要です。そうした取り組みを続けていくことで、地域のステークホルダーに「必要なインフラ」と認識してもらうことが第一歩となります。まずは、小規模地場スーパーのNo.1としての地位を確保し、中規模地場スーパーに出来ないきめ細かい地域密着のサービスを提供してオンリーワンとなる方法を探索しましょう。表3における1-3が実現できれば、自治体や他社との連携による独自のポジションをとることも容易となります。独自のポジションをとることに成功したなら、地域内の同業種、異業種の事業統合の機会も増大するでしょう。財務的な負荷を高めずに、表3の戦略目標の達成に向けて、具体案を練り、優先順位の高いところから実践していくことです。表3戦略目標の体系1.地場小規模スーパーNo.12.地場中規模スーパーには出来ない地域密着のサービス3.消費者物流範囲の事業多角化4.自治体や他社との連携5.M&A、他社の事業統合日本中、人口減少は今後さらに加速していきます。その中で、地域の買い物を担っている地場スーパーの役割は大きくなります。高齢者が運転免許の返納をした後は交通弱者となっていきます。都市部のスーパーより多少割高であっても、気軽にある程度の品揃えから選ぶことのできる環境は地域のインフラとなっていきます。全国的な大規模チェーン店が今後撤退する地域も出てくるでしょう。そのような時に頼られる存在として生き残るために、今すべきことを着実に一つずつ実行に移していきましょう。提供:税経システム研究所
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2025/01/31 人事労務管理
昨今労務事情あれこれ(206)
1.はじめに厚生労働省が先日発表した人口動態統計(速報値)によれば、2024年上半期の出生数は前年比5.7%減の350,074人となり、上半期としては過去最低を更新しました。単純計算としてこの数値を2倍しても、ようやく70万人をわずかに超える値となり、下半期の出生数次第では、年間の出生数が初めて70万人を下回る可能性も出てきています。年間の出生数は2016年に100万人を割って以降、2019年に90万人割れ、2022年が約77万人と初めて80万人を下回り、2023年には約73万人とさらに減少、そして2024年は70万人割れの可能性と減少の加速が止まらない状況にあります。婚姻数の減少や経済的理由による出産意欲の低下が背景にあると見られていますが、その一方で、総人口に占める65歳以上人口の割合を示す高齢化率は29.1%(2024年)となっており、少子高齢化と人口減少の進展は、今後の労働力不足にも深刻な影響を及ぼすことは間違いありません。そうした状況の中、2024年5月に改正された育児・介護休業法が2025年4月から段階的に施行されます。育児・介護休業法はこれまでもたびたび改正が行われていますが、今回の改正は、「子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現する措置の拡充」や「次世代育成支援対策の推進・強化」、「介護離職防止のための両立支援制度の強化」などを支援することが趣旨とされています。そこで今回は育児・介護休業法の改正のポイントと、法改正に伴う企業の対応を考えていきます。2.改正のポイント先述の通り、今回の法改正は以下の3つを主な改正趣旨としています。子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充育児休業の取得状況の公表義務の拡大や次世代育成対策支援の推進・強化介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等間近に迫った2025年4月改正の内容はどのような内容か見ていきます。図表子の看護休暇制度の見直し現行改正後名称子の看護休暇子の看護等休暇対象となる子の範囲小学校就学の始期に達するまで小学校3年生修了まで取得事由病気・ケガ予防接種・健康診断現行の事由に加えて・感染症に伴う学級閉鎖等・入園式・入学式・卒園式労使協定の締結により除外できる労働者①引き続き雇用された期間が6ヶ月未満②週の所定労働日数が2日以下週の所定労働日数が2日以下※現行の①を撤廃1.子の看護休暇制度の見直し現行の「子の看護休暇」について見直しが行われ、対象となる子の範囲や取得事由などが見直されます。2.所定外労働の制限の対象拡大現行では「3歳に満たない子」を養育する労働者は事業主に請求することで所定外労働の制限(残業免除)を受けることが可能でした。改正後は「小学校就学前の子」を養育する労働者が請求により残業免除を受けることができるものと対象が拡大されます。3.テレワークの推進①現行では、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者には「育児目的休暇」「子供の年齢に応じて、育児休業に関する制度、フレックスタイム制、時差出勤制度等一定の措置のうち必要なもの」を講じること(努力義務)とされています。改正後は「3歳に満たない子を養育する労働者がテレワークを選択できるよう措置を講ずる」(努力義務)が追加されます。②現行では、3歳に満たない子を養育する労働者に対し、短時間勤務制度を講じることとされていますが、短時間勤務措置の対象から除外することが可能な労働者に対しては、以下の措置を講じることとされています(代替措置)。育児休業に関する制度に準ずる措置時差出勤フレックスタイム制保育施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与この代替措置に「テレワーク」が追加されます。4.育児休業等の取得状況の公表義務の拡大「常時雇用者数1,000人以上の企業」に対し、毎年1回以上男性の育児休業等の取得状況を公表することが義務付けられていますが、改正後は「常時雇用者数300人以上の企業」に適用範囲が拡大されます。5.介護離職防止のための措置の義務化仕事と介護の両立支援制度を効果的に周知し、必要な制度を利用しやすい環境を整えることにより介護離職防止を図るものとし、以下の措置が事業主の義務となります。介護に直面した旨の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認介護に直面する前の早い段階(40歳等)での両立支援制度等に関する情報提供仕事と介護の両立支援制度を利用しやすい雇用環境の整備(研修や相談窓口の設置)要介護状態の家族を介護する労働者がテレワークを選択できるよう事業主に努力義務勤続6ヶ月未満の者を労使協定により介護休業対象から除外可能な規定の廃止では、改正に向けて、企業はどのように対応すべきでしょうか。3.法改正に向けての企業の対応は?●就業規則(育児介護規程)・労使協定の見直し今回の改正育児・介護休業法は2025年4月施行部分と同年10月施行部分の2段階で改正が行われることになっています。今回の法改正に伴い、制度を利用可能な労働者の範囲が拡大されているものがあります(残業免除、子の看護等休暇、介護休暇など)。自社の育児介護規程のうち、法改正に該当する部分の規定変更や労使協定の見直しなどは確実に対応しておく必要があります。●業務体制・人員配置の再検討これまで対象外だった従業員の中にも制度利用の可能者が出てきます。これまで通りの業務体制では、いざ時短勤務や残業免除、テレワークなどの利用者が出た時に日々の業務遂行に影響が出ることも考えられます。現行の業務分担や人員配置で対応が可能なのかどうかも検討の必要がありそうです。●法改正内容の周知と理解の促進育児介護休業の諸制度を利用しやすい職場内の空気を醸成することも重要と考えます。経営者層や管理者層の中には、育児介護休業の諸制度を利用することに対し、ネガティブな反応をする方がいまだに存在していることは残念なことです。管理者層、一般従業員を問わず、現行制度からの変更点ほか重要なポイントを周知するための研修などを実施するなど、個々の理解を深めていく対応が求められます。このように企業側が対応すべき点は多岐にわたることになります。今回の法改正への対応をきっかけとして、育児・介護に直面した従業員が安心して事態に対処できるような環境を整備することは、離職率低減・採用力強化にもつながり、ひいては自社の競争力強化に資するものと考えます。提供:税経システム研究所
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2025/01/30 人事労務管理
退職に関わるトラブル回避(第8回) 整理解雇1
【サマリー】前回は、ハラスメントが発生した際の、行為者に対する懲戒処分や解雇に関しての裁判例をご紹介しました。また、行為者のみならず、ハラスメントに対する企業の責任の重さについても解説いたしました。今回は、企業が経営悪化や事業縮小などにより従業員の雇用を維持できなくなり、人員削減を目的として行う解雇、「整理解雇」について解説いたします。1.整理解雇の有効性整理解雇は、企業が経営不振や事業再構築の必要性から、やむを得ず従業員を解雇する措置の一つです。特に日本においては労働者の雇用を保護する観点から、整理解雇に対して厳しい要件を課しています。そのため、整理解雇を行う際には、企業は法的リスクを慎重に検討し、必要な手続きや条件を満たす必要があります。「整理解雇」も事業主から労働契約を解除する以上、労働契約法16条で、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定められている「解雇権濫用法理」が適用されます。したがって、事業主がいつでも一方的に実施できるものではありません。それに加え、その整理解雇が有効かどうかは、「整理解雇の4要件」をも満たす必要があります。2.整理解雇の4要件①人員削減の必要性整理解雇を正当化するには、経営上の理由が明確であることが必要です。企業が客観的に高度の経営的危機下にあり、存続し続けるために人員削減がやむを得ない状況にあること。例えば、以下のような状況が該当します。連続した赤字経営による財務状況の悪化事業再編や経営統合による組織縮小業績低迷により倒産の危機が迫っている場合企業がこの必要性を説明するには、具体的な経営データが求められます。損益計算書や資金繰り表などの客観的な資料を基に、裁判所や労働者に「やむを得ない」と認識される必要があります。②解雇回避努力整理解雇を行う前に、可能な限り他の方法で解雇を回避する努力を尽くすことが求められます。裁判所は、企業がどれほど真摯に解雇回避努力を行ったかを厳しく審査します。主な解雇回避措置には以下があります。役員報酬の削減や配当の停止経営陣が最初に痛みを負担する姿勢を示すことが重要です。希望退職者の募集自主的な退職を促し、対象者に割増退職金を提供するなど、従業員の納得を得られる措置を講じることも、解雇回避努力として認められる可能性が高まります。配置転換や出向他部署やグループ会社での雇用維持の可能性を最大限に探ります。賃金や労働時間の調整賃金カット、一時休業、勤務日数の削減などを検討します。その他、経費削減や、新規採用の停止なども解雇回避措置として求められます。➂人選の合理性解雇をする人選に関しては、客観的で合理的な基準かつ公正である必要があります。勤務成績、勤務態度等の評価を基準にする場合、会社への貢献度等を基準にする場合、雇用形態等を基準にする場合など、いずれの場合も公平性が求められます。また、性別、年齢、人種などに基づく基準は違法となりますので、注意が必要です。勤務成績や能力業務の遂行能力や実績に基づく評価が公平に行われているか。勤続年数長期勤続者を優先的に保護することが考慮される場合があります。家計事情や生活影響高齢者や家庭を支える立場の従業員を配慮するケースもあります。職務内容の適合性解雇対象者が不要とされる業務に従事している場合、選定が合理的とされやすいです。④手続きの妥当性上記①~③についての説明、解雇の時期や方法について、従業員に対して十分に説明・協議を行うことが必要となります。仮に①~③の要件が満たされていたとしても「本日をもって解雇とします」のような手順は認められません。労働組合や従業員代表との協議整理解雇を実施する前に、事前に労働組合や従業員代表と協議し、その意見を尊重することが求められます。解雇理由の説明解雇の背景や理由を明確に説明し、従業員が理解できるようにすることが重要です。通知期間の遵守法律に基づく解雇予告期間(通常30日)を確実に守ります。予告手当を支給する場合でも、対象者に丁寧に説明する必要があります。3.整理解雇の注意点整理解雇を行う際には、以下のリスクや影響を十分に検討する必要があります。●法的リスク整理解雇が4要件を満たさない場合、労働者から訴訟が提起される可能性があります。解雇無効の判決が出た場合、以下のような問題が生じます。解雇期間中の賃金支払い義務解雇の撤回および復職命令企業イメージの低下また、裁判例では、解雇の妥当性が厳しく審査される傾向があります。●社内の士気低下解雇により残った従業員のモチベーションが低下する可能性があります。従業員が「次は自分かもしれない」と感じることで生産性が低下し、離職率が上昇するリスクもあります。●社会的信用の損失整理解雇の進め方によっては、企業の評判が損なわれ、顧客や取引先の信頼を失うことがあります。特に説明不足や手続きの不備がある場合、批判を受けやすくなります。4.重要判例整理解雇に関する代表的な裁判例をご紹介します。「外資系金融機関(銀行)事件東京地裁平10・8・17判決」外資系金融機関(銀行)の特定部門の閉鎖に伴う余剰人員の整理解雇は認められるか?人員整理の必要性なく無効との判決<事件の概要>外国銀行東京支店のアシスタント・マネージャーとして勤務していたXは、アジア太平洋地域の輸出入業務を担当していました。しかし、平成9年2月に経営方針の転換により部門の閉鎖が発表され、退職勧奨を受けました。銀行側はXが雇用継続を希望する場合、一般事務職への異動と給与の大幅な減額を提示しましたが、Xは労働条件の変更について争う権利を主張しつつ、異動を受け入れませんでした。銀行は労働組合と団体交渉を行ったものの合意には至らず、同年9月30日にXを整理解雇しました。この解雇をめぐる仮処分事件では、裁判所が解雇を無効と判断し、Xの地位保全および賃金仮払いの仮処分決定を出しました。本件では、その異議審で仮処分決定が認可されています。争点は次の2点です。①就業規則に整理解雇の規定がない場合、解雇が許されるか、②今回の整理解雇に人員削減の必要性があったかどうかです。<判決の概要とポイント>1、銀行は解雇を行使しうるのは本件就業規則に掲げた解雇事由に限られるという趣旨で解雇事由を設けたわけではないと解するのが相当である。従って、就業規則に掲げた解雇事由に該当しない普通解雇も許されるというべきである。2、ある部門の人員の削減に経営上の必要性があり、かつ、経営上の必要性が企業経営上の観点から合理性を有すると認められる場合であっても、解雇によって達成しようとする経営上の目的とこれを達成するための手段である解雇ないしその結果としての失職との間に均衡を失しないことを要する。本件は、東京支店の前記部門を閉鎖することに伴い同部門に配属されていたXは余剰人員となってしまい、同人を他の部署のアシスタント・マネージャーとして配転することはできなかったので、銀行はXを解雇したというのであり、そうすると、解雇自体は経営上の必要性があると認められ、また、企業経営上の観点からも合理性を有すると認められる。しかし、銀行は、余剰人員となったXについて人員削減の方法として解雇という方法以外に、他の部署に配属し、その後数年間のうちに東京支店のアシスタント・マネージャーの役職者の自然減を待つことによっていずれXが余剰人員ではなくなることを待ち、数年間が経過した時点でもなおXが余剰人員であった場合にはXを解雇するという方法もとりえたにもかかわらず、そのような方法を選択せずに解雇という方法を選択していることに照らせば、解雇については解雇によって達成しようとする経営上の目的とこれを達成するための手段ないしその結果との間に均衡が失われている。そうすると、本件解雇については、経営上の必要性があり、かつ、経営上の必要性が企業経営上の観点から合理性を有すると認められるものの、解雇によって達成しようとする経営上の目的とこれを達成するための手段である解雇ないしその結果としての失職との間には均衡が失われているというべきであるから、結局のところ、解雇については人員削減の必要性を肯定することができない。従って、解雇は権利濫用として無効である。<まとめ>企業のリストラにおける人員整理には、次の2つの重要な問題が指摘されています。1.就業規則の解雇事由の範囲まずは就業規則に記載されていない理由による解雇(普通解雇)は許されるのかという問題です。通常、整理解雇は就業規則に「事業の縮小」や「業務上やむをえない事由」などの形で定められるか、または包括的な条項でカバーされます。しかし、本件ではそうした規定がなく、解雇事由が例示列挙なのか限定列挙なのかが争点となりました。裁判所は、就業規則の記載内容や他条文の規定から、解雇事由を例示列挙と判断しました。民法の原則に基づき、解雇事由が明確に限定されている場合を除き、例示列挙として解釈すべきとしています。ただし、解雇事由を限定列挙とする学説も有力であり、就業規則の適切な整備が実務上重要です。2.人員削減の必要性前述の通り、整理解雇が解雇権の濫用とならないためには、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④解雇手続の妥当性の4要素が総合的に考慮されます。本件では、裁判所が人員削減の必要性を認めないとして解雇を無効としました。裁判所は、経営上の必要性や合理性が認められるにもかかわらず、解雇以外に剰員の一時的な配置転換や自然減を待つ方法が取れたと指摘し、必要性を否定しました。しかし、これは本来②の解雇回避努力に関する問題であり、さらにこの方法が経営上非現実的であるとの批判もあります。また、配置転換を試みたかどうかの議論は、あくまでも本件のように多くの部署を有する大企業でのことであり、複数部署を持たず、配置転換が物理的に不可能な零細企業が経営悪化を理由とする整理解雇の場合は、役員報酬の削減や経費削減、全従業員の賃金減額等の措置を試みたかどうかなどが議論となります。原決定では、①の必要性を直ちに否定せず、②~④の不足を理由に解雇を無効としました。いずれにしても、正社員の整理解雇には4要素が厳格に求められ、経営悪化ではなく組織再編による整理解雇は依然として厳しく制限されています。次回は、コロナ禍の整理解雇やその他の重要判例について解説します。提供:税経システム研究所
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2025/01/29 マイナンバー関連
運転免許証とマイナンバーカードとの一体化 -マイナ免許証の導入-
1.はじめに政府は、昨年10月29日に運転免許証とマイナンバーカードを一体化した、いわゆる「マイナ免許証」の2025年3月24日からの導入を閣議決定した。マイナンバーカードと運転免許証一体化については、2021年12月に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画(注1)」の中で、マイナンバーカードの普及及び利用の推進ための施策の一つとして、「令和6年度(2024年度)末にマイナンバーカードとの一体化を開始する」と明記された。警察庁は、これを受けて策定した「デジタル社会の実現に向けた重点計画に基づく警察庁中長期計画(注2)」において、「運転免許証は国民に広く普及しており、運転免許関係手続については、より一層国民の利便性向上や負担軽減が求められているところ、例えば、住所変更等の際、市区町村の窓口で手続を行った後、警察署等に別途届け出る必要がある等、国民に一定の負担が生じていた。このため、令和6年度(2024年度)末までに、各都道府県警察が個別に整備しているシステムを、警察庁が整備する共通基盤上に集約するとともに、所要の改修を行うことにより、マイナンバーカードとの一体化を実現する。そして、これにより、住所変更手続のワンストップ化、居住地外での迅速な運転免許証の更新及び優良運転者のオンラインによる更新時講習受講を可能とする」として、マイナンバーカードに運転免許証を搭載する仕組みやその運用方法についての検討を進めてきたが、閣議決定の報道で正式な運用開始日の発表が行われたことで、改めて注目を集めることとなった。本稿では、まず、マイナ免許証の具体的な仕組みを見ていくとともに、マイナ免許証のメリット、デメリットを解説する。2.運転免許証とマイナンバーカードの一体化運転免許証保有者が転居した場合には、一度市区町村の窓口で転入手続を行った後、住民票等の新住所を確認できる書類を持って、警察署等に別途届け出る必要があり、国民に手続面で負担が生じているとされる。また、運転免許統計(注3)によると、令和5年度に住所変更により運転免許証の記載事項を変更した件数は164万件(運転免許証保有者数8186万人)であり、新規に免許証を取得する人数とほぼ同程度となっていることから、運転免許センターや警察署等にも大きな事務負担が発生している。現在の運転免許証は、券面に免許保有者の住所が印刷されるとともに、ICチップの中に住所の電子データが記録されている。住所変更時には、免許証裏面の備考欄に変更後の住所が追記されるだけでなく、ICチップ内のデータを書き換え、警察庁が保有する免許データベース内の住所が変更されることとなるが、この処理は、免許センターや警察署内でのみでしか行うことができないため、住所変更手続きの際には、免許証を持って警察署等に出向く必要がある。警察署等での手続きを省略するためには、免許証への現住所の記載やICチップへの記録を行わないようにすることが考えられるが、その場合でも、制度上は何らかの方法で免許保有者は転居先住所を警察に届ける必要があり、また、運転免許証は身分証明書として利用されることも多いことから、住所記載の廃止については、現在まで検討されてこなかった。これに対して、マイナンバーカードには、最新の住所が記載・記録されており、転居等の際にも自治体窓口での転入手続きの際に券面記載事項やICチップ内に記録される住所等が変更されるため、この際に警察庁と連携することができれば、警察署等での手続きなしに、運転免許証に紐づく現住所の変更を実施することが可能になる。このため、警察庁は、運転免許証とマイナンバーカードの一体化に伴う必要な規定を整備するために、道路交通法の一部を改正する法律案を国会に提出し、2022年4月27日に成立・公布された。その後関係制度の整備、システム開発が行われ、2025年3月24日から希望者が運転免許証の情報をマイナンバーカードに記録(マイナ免許証の発行)することができることとなった。マイナンバーカードへの運転免許証情報の記録については、マイナンバーカードのICチップ内に、警察庁が開発した運転免許証アプリケーションを追加し、このアプリケーション内に、免許証の番号、免許の年月日・有効期間、免許の種類、免許の条件等、顔写真が記録されることとなるが、氏名や住所の情報、本籍地は記録されない(図1)。ここで、マイナンバーカードへの運転免許証アプリケーションの搭載については、自治体窓口で行うことはできないため、マイナ免許証登録は、運転免許センターや警察署等の窓口で行うことになる。また、免許証に紐づく住所の変更は、公的個人認証サービス(JPKI)を利用した最新の利用者情報(4情報)提供サービスが利用されるため、マイナ免許証を登録する際に、転居時等に警察庁に対して最新の住所を提供することに同意する旨の申請を行うあらかじめ行っておく必要がある(図2)。JPKIの電子署名用電子証明書には、4情報(氏名、住所、生年月日、性別)が記載されており、免許保有者が転居先自治体で移入手続きを行うと、証明書が失効するため、警察庁は、電子証明書の失効情報を検知すると、免許保有者が新住所提供に同意している旨をJ-LISに通知し、転居後の住所を入手することができる。このため、免許保有者は、自治体で移入手続きを行えば、警察庁が保有する免許データベース内の住所を変更することができ、また、マイナ免許証自体には、住所情報は記録されていないため、運転免許センターや警察署等での手続きを行う必要も無い。結婚等で氏名が変更された場合も同様に自治体窓口での手続きで完了するほか、本籍地の変更についても、マイナポータル上で手続きを行うことができるようになる。図1マイナンバーカードのICチップに対する運転免許証アプリケーションの追加ここで、マイナ免許証については、マイナ保険証とは異なり、現在の運転免許証をマイナ免許証に切り替えなければならないわけではない。このため、運転免許証を新たに取得したり、有効期限が来て免許証を更新したりする際には、①マイナ免許証のみを使用して従来の運転免許証を破棄・返納する、②マイナ免許証と従来の運転免許証を併用する、③従来の運転免許証のみを使用する、のいずれかを選択することができる。警察署等での手続きが不要なのは、①のマイナ免許書のみを保有する場合のみであり、②、③の場合においては、従来同様に警察署等での手続きが必要となる点に注意いただきたい。図2公的個人認証サービス(JPKI)を利用した転居時の住所情報の更新2.マイナ免許証のメリット・デメリットマイナ免許証導入のメリットとしては、先に述べた、住所変更手続きが簡単になる点のほかに、運転免許の手数料が安くなること、更新講習をオンラインで受講できるようになることが挙げられる。まず手数料だが、現在の、運転免許更新手数料2500円に対して、マイナ免許証導入後は、マイナ免許証のみの場合には400円値下げされ2100円に、従来と同じ免許証の場合には350円値上げされて2850円になる。ただし、マイナ免許証と従来の免許証を併用する場合は、更新手数料は2950円となるため、従来の免許証のみを持つ場合よりも100円手数料が高くなる(表1)。また、更新のタイミングの前に、マイナ免許証に切り替えたいという場合は、講習や適性検査を受ける必要はないが、切り替えのための1500円の手数料がかかることとなる。表1来年3月以降の運転免許証取得更新手数料(カッコ内は現在との比較)新規取得免許更新マイナ免許証1550円(-500円)2100円(-400円)従来の免許証2350円(+300円)2850円(+350円)両方保有する場合2450円(+400円)2950円(+450円)もうひとつのメリットが、免許更新の際の講習のオンライン化である。免許証の更新手続では、更新申請の際に運転免許センターや警察署等で、優良運転者は30分、一般運転者講習は1時間の講習を受ける必要があるが、マイナ免許証を取得すればパソコンやスマートフォンを用いて24時間オンラインで講習を受けることが可能となる。優良運転者の免許(ゴールド免許)更新時の講習をオンラインに置き換えるモデル事業は、すでに2022年2月1日からマイナンバーカードを持つゴールド免許を保持する70歳未満の運転者を対象に、北海道・千葉県・京都府・山口県の4道府県で実施されている。このモデル事業は、スマートフォンやパソコン等から専用サイトにアクセスして、講習を受講するもので、受講の際には、専用サイトにアクセス後、マイナンバーカードをかざして暗証番号を入力することで本人確認を行い、運転免許証番号を入力した上で、自宅等で動画講習やミニテストを受講する。また、動画視聴中は計3回、顔画像の撮影を行うことで、途中で受講者が入れ替わることを防止している。来年3月以降導入されるオンライン講習については、現在のモデル事業の仕組みがベースとなると想定されているが、対象者がマイナ免許証保有者に限定され、優良運転者だけでなく一般運転者(5年間で軽微な違反が1回の方)も受講可能となる。また、通常、対面での講習手数料は、優良運転者が500円、一般運転者が800円かかるが、オンライン講習を受講する場合はいずれの手数料も200円と安価に設定されている。このため、先に、マイナ免許証と従来の免許証を併用する場合は、更新手数料は、従来の免許証単体よりも100円高くなると記載したが、講習手数料を考慮すると、費用面でのメリットがあることがわかる。但し、受講後は現在と同様、運転免許センターや警察署での更新手続きを行う必要があるため、免許の更新はオンラインだけでは完結しない。運転免許センターでは、申請書等とマイナ免許証を提示し、職員が端末で受講を確認(顔画像による本人確認を含む)し、適性検査を実施した後に、マイナ免許証の更新が行われる(従来の免許証併用の際は新運転免許証も受け取り)。また、「違反運転者」や初回の更新はオンライン講習を受けることはできない。それでは、次に、マイナ免許証のデメリットを見ていこう。まず一つ目は、マイナ免許証は、マイナンバーカード内の免許証アプリ内のデータであり、マイナンバーカード券面には免許証の情報が一切記載されないことである。このため、マイナンバーカードだけを見ても、運転免許の資格を有しているかは確認できず、何らかの電子的手段で免許情報の確認を行う必要がある。現在予定されている確認方法は、①スマートフォンやパソコンに、警察庁が用意する「マイナ免許証読み取りアプリ」をインストールして確認する、②マイナポータルを経由して確認する、③運転免許センターや警察署等に設置している申請自動受付機で確認する、の3つであるが、①、②については、事前に設定した4桁のPIN入力が必須となる。このため、4桁PINを忘れていると免許情報の確認が行えず、例えばレンタカーを借りることができない等の問題が発生する可能性がある(PINを忘れた場合でも、警察官等はPINの入力なしにマイナ免許証の情報を読み取れる専用端末を保有するため、免許不携帯に問われることは無い)。2つ目のデメリットは、運転免許の更新時期とマイナンバーカード・JPKIの更新時期のずれにより発生する手間と費用の問題である。現在のマイナンバーカードの有効期間は10年間、JPKIの証明書については5年間となっている一方で、運転免許証については、免許取得年数や違反回数、年齢によって3から5年間のいずれかとなっている。マイナンバーカードを更新すれば自動的にマイナ免許証が更新されるわけではなく、それぞれで更新の手続きが必要になる。このため、多くの場合、免許証の有効期間の間で、JPKI電子証明書との紐づけ手続きやマイナンバーカードの更新手続きが発生することが想定され、このために、従来よりも多く警察署での手続きや手数料等が発生する可能性がある。例えば図3に示すように、マイナンバーカードを発行して2年後に5年間有効のマイナ免許証を搭載した場合、カード発行5年後(免許証搭載2年後)に、JPKI証明書の更新が発生するため、免許証と証明書の紐づけ更新のために警察署での手続きが必要となる。また、マイナンバーカードの更新時には、マイナ免許証の情報自体は有効であるが、更新後の新たなカードへのマイナ免許証設定が必要となるため、再度警察署等へ行き、運転免許証アプリケーションの搭載手続きを行う必要が生じることになり、従来よりも免許保有者に負担がかかるることになる。図3マイナンバーカードと免許証の更新時期のずれによる新たな負担3つ目が、海外旅行等で国外でクルマを運転する場合には、従来の運転免許証が必要となる点である。わが国で発行されている国際運転免許証は、あくまでも日本国内で所持している免許証の翻訳版という位置づけであり、海外でクルマに乗る場合は原本の所持が必要になる。マイナ免許証は、マイナンバーカード内の電子データであり、海外ではその内容を確認することができないため、免許証原本としての効力を有しない。このため、国際運転免許証の発行を予定している場合には、マイナ免許証と従来の免許証の2枚持ちが必須となる。そして、4つ目のデメリットは、マイナンバーカードを紛失した際の再発行に時間がかかる点である。現在の運転免許証の再発行は、運転免許センターで手続きをした場合は即日交付される。しかし、マイナンバーカードを紛失すると、再発行に約1ヶ月半程度かかるため、マイナ免許証のみを保持する場合には、その間は運転ができないこととなる。もちろん、従来の運転免許証の再発行手続きを行うことで、即日で受け取ることも可能であるし、マイナンバーカードの特急発行も開始されているが、警察ではマイナンバーカードの発行は行っていないので、再度マイナ免許証を希望する場合は、自治体でマイナンバーカードを再発行し、警察署等でマイナ免許証の再交付を受ける必要がある。4.終わりに本稿では、来年3月から始まるマイナンバーカードと運転免許証の一体化について見てきた。新しい制度では、マイナンバーカードさえ持っていれば別途運転免許証を持ち歩く必要がない、オンライン講習を受講できるなど、マイナンバーカードを所持することのメリット拡大につながる反面、従来の免許証の所持をやめてマイナ免許証に一本化するには、まだ多くの課題があるといえる。また、レンタカー業界や運輸業界等、運転免許証を業務で利用している企業は、免許証情報を読み取るためのICカードリーダーやシステムの導入が不可欠となるため、新たな負担が発生することも想定される。来年の春には、iPhoneにマイナンバーカード機能の搭載が始まり、将来的には、免許証情報についてもスマートフォンへの登録が始まると想定される中で、マイナ免許証が自分にとってどのようなメリットがあるかを慎重に考えて、マイナ免許証へ切り替えるのか、従来の免許証と併用するのか、切り替えずに今のままで行くのか、いずれかの方法を選択していただきたい。<注釈>「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(2021年12月24日閣議決定)(内閣官房),https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/digital/20211224_policies_priority_package.pdfデジタル社会の実現に向けた重点計画に基づく警察庁中長期計画(警察庁),https://www.npa.go.jp/policies/policy/digital/honbun_npa.pdf運転免許統計令和5年度版(警察庁交通局運転免許課),https://www.npa.go.jp/publications/statistics/koutsuu/menkyo/r05/r05_main.pdf提供:税経システム研究所
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