経営研究レポート
MJS税経システム研究所・経営システム研究会の顧問・客員研究員による中小・中堅企業の生産性向上、事業活性化など、経営に関する多彩な各種研究リポートを掲載しています。
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2025/07/31 人事労務管理
昨今労務事情あれこれ(212)
1.はじめに昨今、オンラインカジノをめぐる報道をよく目にするようになっています。警察庁などからも情報が発信されている通り、たとえ海外で合法的に運営されているオンラインカジノであっても、国内からこれにアクセスして金銭を賭ける行為は賭博罪や常習賭博罪に該当し、常習賭博罪とされた場合には、3年以下の拘禁刑が刑法で定められています。今年の年明け以降、タレントやスポーツ選手などがオンラインカジノを利用したことが発覚し、書類送検、一定期間の活動自粛、制裁金が課されるなどの法的、または社会的な処分を受けています。また、某放送局においては、社内調査により従業員がオンラインカジノを利用していたことが判明し、社内で厳重注意処分を受けた後も利用をやめず、その賭金も多額であったことが露見したことから、常習賭博の容疑で逮捕されるといった事態になっています。2024年に警察庁が行った調査によれば、国内におけるオンラインカジノサイトの利用経験者は推計で約336万9千人とされており、国内における年間賭額は推計1兆2千億円あまりとなっています。テレビやラジオ、ネットや動画サイトで著名人を使って宣伝し、あたかも合法であるように謳って客集めをしていたということもあり、また、スマホとクレジットカードで簡単にカジノに参加できる手軽さもあり、この調査結果を併せて見ると、仕事関係者の中にオンラインカジノを利用した人がいても不思議ではないように思えてしまいます(注1)。オンラインカジノの利用は、業務とは無関係の私生活上の犯罪行為ということになりますが、私生活上の犯罪や問題行動が、企業の業務や信用などに悪い影響を及ぼすような場合に、解雇を含めた懲戒処分を行うことはできるのでしょうか。今回は私生活上の問題行動による懲戒処分の可否について、判例などを踏まえながら考えていきます。2.雇用契約上の会社と従業員の関係とは会社と従業員は雇用契約を締結し、従業員は雇用契約の内容や就業規則に定められた服務規律などに則って労働を提供することになります。就業規則における懲戒規定においては、「会社は、企業秩序や職場規律を乱した場合に、該当する従業員を懲戒処分できる」といったような表現がよく見られますが、雇用契約や就業規則は、各従業員の私生活にまで効力が及ぶわけではなく、あくまでも就業中の行動について定めを行っているに過ぎません。したがって、従業員が業務時間外に起こした私的な問題行動を理由として、会社が直ちに懲戒処分を行うことは、私生活に過度に介入することになるため、原則としてこれは認められないとされています。例えば、電車内での痴漢行為により罰金刑を受けた従業員を諭旨解雇とした懲戒処分に対し、裁判所は「解雇権の濫用」として無効と判断しています。(東京メトロ事件H27.12.25東京地裁)(注2)では、従業員が私生活上で起こした問題行動により、会社がなんらかの損害を被った場合などに該当する従業員に対して懲戒処分を行うことはどのように評価されるのでしょうか。3.会社の社会的評価に影響がある場合は処分が可能雇用契約や就業規則は就業中の行動について定めたものであることを先述しました。その一方で、従業員は雇用契約に付随する義務として、業務中はもとより、業務外においても、会社の利益や名誉、信用を毀損することなく行動する義務を負っているものと解されています。会社としては、事業を運営していくために、名誉、信用や評判といった社会的評価を維持していくことは不可欠であり、これらに重大な影響を与える従業員の行為については、私的なものであっても、なんらかの処分を行うことは可能であると考えられています。では、どのような場合が「重大な影響を与える行為」とされるのでしょうか。この点について、裁判例では「従業員の不名誉な行為が会社の体面を著しく汚したというためには、当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界における地位、経営方針及びその従業員の会社における地位、職種等諸般の事情から総合的に判断して、会社の社会的評価に及ぼす影響が相当に重大であると客観的に評価される場合でなければならない」(要旨)とされています。(日本鋼管事件S49.3.15最高裁)端的に言えば、「懲戒処分ができるかどうかはケースバイケース」とも読み取れますが、会社も従業員も「コンプライアンス」が強く求められる令和の時代において、具体的にどのようなケースが懲戒処分に該当する行為とされるのかを考えてみましょう。4.懲戒処分の対象となる私生活上の問題行動とは?「会社の社会的評価に重大な影響を及ぼす」と考えられる私生活上の問題行動として、以下のようなものが想定されます。①犯罪とされる行為:暴行傷害、窃盗、性犯罪、飲酒運転による交通事故、賭博など犯罪行為の態様や程度が悪質かつ重大であり、犯行の経緯・動機に酌量の余地もなく、また、会社名などを含めてマスコミで実名報道されたような場合は、会社に対して有形無形のダメージを与えたものとして、懲戒処分を行っても問題ないものと考えられます。②SNS他ネットにおける不適切な投稿会社を強く誹謗中傷する投稿や企業秘密に該当する内容を投稿したような場合には一定の懲戒処分が認められる可能性が高いのですが、このようなケース以外でも、個人のアカウントにおいて、業務時間外に行われた投稿が、社会常識に照らして不適切な内容だとして「炎上」してしまうことがあります。アカウントが本名ではなくハンドルネーム(ネット上でのニックネーム)であったとしても、最近では、本名や住所、勤務先をはじめとした個人情報があっという間に特定され、ネット上に晒されてしまうことが珍しくありません。こうなると、投稿内容が業務に無関係な内容だったとしても、会社に苦情の電話やメールが殺到し業務に支障をきたすばかりでなく、いわゆるクチコミサイトなどに会社の評判として虚実入り交じった内容が書き込まれるなど、会社の名誉や信用が大きく毀損されることになります。このような場合は、その質や程度などにより会社の行う懲戒処分が認められやすくなります。③社内の不倫倫理的な問題はありますが、単に不倫が行われているだけでは懲戒処分は困難であると言わざるを得ませんが、事情により判断は異なります。例えば、同じ部署内で不倫が発覚して部署内の雰囲気が悪くなるなどにより業務遂行に著しい影響を及ぼした場合や、職場風紀・秩序を乱し正常な企業運営を阻害した場合のほか、男女間の関係を厳しく律することが相応しい職場(例:バス運転手とバスガイドなど)における不倫行為などで他の従業員に不安と動揺を与えたようなケースでは懲戒処分を有効とした判例があります。(長野電鉄事件S41.7.30東京高裁)5.問題行動と懲戒処分の内容とのバランスは?懲戒処分することが問題ないと判断されたケースでも、問題行動と処分の内容のバランスも考えなければなりません。一言で「懲戒処分」と言っても、就業規則においては譴責から懲戒解雇まで様々な処分の態様が定められているはずです。問題行動の内容や会社が受けた損害と照らして、バランスを欠いた不当に重い処分を行ったような場合、その懲戒処分が無効と判断されることがあるため、処分内容を検討する際には慎重を期することが必要です。会社側からすれば、「私生活上の問題行為発覚⇒即懲戒処分」と考えがちですが、その問題行為が会社にどれだけの損害や悪い影響を及ぼしているのかについてまずは考えなければなりません。問題行動を起こした従業員は責められてもやむを得ないとはいえ、処分を考える際は一旦冷静になり客観的な視点で判断する必要があります。<注釈>警察庁オンラインカジノの実態把握のための調査研究結果(概要)https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/hoan/onlinecasino/jittaichosa.png一方で類似の痴漢事案において、有罪判決を受けたことを理由とした懲戒解雇を有効とした判例もある(小田急電鉄事件H15.12.11東京高裁)提供:税経システム研究所
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2025/07/29 人事労務管理
退職に関わるトラブル回避(第10回) 整理解雇3
【サマリー】前回は、「整理解雇」に関する重要判例と、コロナ禍での「整理解雇」の判例について解説いたしました。コロナ禍という未曽有の事態においても、「整理解雇の4要件」を厳しく求められることを確認いたしました。今回は、我が国における「整理解雇」の手段の1つである、「希望退職募集」について解説したいと思います。1.希望退職募集と早期退職優遇制度希望退職募集とは、自主的な退職を促進するために、退職金の上積などの特別利益を提示して、合意退職を実現する経営施策です。日本では、解雇権濫用法理により解雇が制限されているため、人員削減が必要な場合でも、解雇時に生じる可能性がある係争を回避するため、とくに大企業・中堅規模企業では希望退職募集の手法が定着しています。類似するものとして、早期退職優遇制度があります。これは高齢化対策の一環として、定年を迎える前に第2の人生に踏み出す者に対して退職金に優遇措置を講じる制度です。希望退職募集との比較では、希望退職募集が臨時的施策であるのに対し、早期退職優遇制度は恒常的な制度とされる傾向がみられます。希望退職募集は、労働者の退職の意思表示(申込み)を誘引する事実行為であり、退職を強要するものではありません。したがって、使用者は希望退職をある程度自由に募集できます。一般的に、希望退職募集の際、①募集時期、②募集人員、③募集対象者、④退職上積金の有無――などが提示され、その条件や方法なども、使用者が自由に決定できるものとなっています。また、希望退職募集の対象者を制限することも原則として可能です。たとえば、募集対象を一定年齢以上に制限したり、地方工場の従業員のみを対象にしたりすることも法的に問題ありません。労働者はその意思に基づき、自己都合で自由に退職できるため、労働者の権利が制限されないからです。退職金の加算などの好条件を提示して希望退職を募ると、有能な人材が流出してしまう可能性がある一方で、退職してほしい人材が残り、経営の維持が困難となる事態が生じることがあります。この問題を避けるため、多くの場合は、希望退職募集の際に「退職上積金の支給を会社が承認した者に限る」とする会社承認規定を設ける手法が採られています。このような定めをすることも、労働者が本来有する自己都合での退職の権利は制限されず、問題はないとされています。会社承認規定は、退職金を加算する早期退職優遇制度、または希望退職募集と一体にして運用することにより、合意退職という形で労働者の意思を尊重できます。使用者の業務上の必要性にも応え、さらには解雇に伴う労使紛争の回避も可能とするものとなり、重要な意義を有しています。会社承認規定に基づいて使用者が承認するか否かは、人事政策目的などの合理的な観点から、使用者の広い裁量が認められるべきです。仮にこれを制約するとしても、使用者の不承認が信義に反するような特段の事情が存するなど、極めて例外的な場合に限られます。会社承認規定の実務上のポイントは、従業員へ事前に「退職上積金の支給を受けられるのは、使用者が承認した者だけであり、承認しない者には支給しない」と周知することです。そうしないと、使用者が対象外とする従業員が応募した場合、退職上積金の支給を受けられず、退職する意思があることのみ使用者に知られ、以後在籍しづらくなるという問題が生じてしまいます。実務上さらに重要なのは、会社承認規定を設けるとともに、有能な従業員に「残ってほしい。応募して来ても承認しない」と知らせることです。そうすれば、不承認により在籍しづらくなる事態を避け、有能な人材の流出の防止につながります。会社承認規定を設けない場合は、有能な人材へ事前に「残ってほしい。会社の中心になると考えている。期待している」などと述べるしか方法がありません。承認権者は、人事部長や社長など、使用者の意図を十分理解して判断できる者に限定しておくと良いでしょう。承認権者には使用者の意図を十分に伝達し、情に流されて対象者以外を承認してしまうような事態は避ける必要があります。希望退職募集の際、従業員は会社に必要とされているか、応募するか否かによるメリット、デメリットなどに悩むので、使用者は、従業員が応募を判断する際に必要な情報を十分提供しなければなりません。2.重要判例1「大手ガラス製造会社事件東京地裁平21・8・24判決」大手ガラス製造会社(以下、会社)が実施した早期退職優遇制度に関連して、同制度の適用除外とされた元社員が、会社に対して優遇措置を受ける権利があるとして提訴した事案。<事件の概要>原告は、長年同社に勤務し、一定の役職に就いていましたが、会社の経営合理化策の一環として早期退職制度(転進支援制度)の募集がなされた際、当初の条件に基づいて退職の意思を示し、退職願を提出しました。ところが、退職願提出後に会社が制度内容を一部改訂し、新たに退職金に約5,000万円を加算する「早期退職者優遇制度」を導入しました。原告は、制度変更後の優遇措置を受けられるべきであると主張し、これを認めなかった会社に対して退職金の増額分の支払いを求めて訴訟を提起しました。<判決のポイント>第一に、裁判所は、原告と会社の間で当初の早期退職制度(転進支援制度)に基づく「合意退職」がすでに成立していたと認定しました。すなわち、退職願の提出と、会社からの承認・退職条件の通知をもって、両者間の合意退職が成立していたという見解です。第二に、裁判所は、原告が主張するような「新制度(早期退職者優遇制度)の周知義務」については、法的根拠がないと判断しました。すでに合意退職が成立した後で制度が新設された場合、その適用対象となるか否かは企業側の裁量に委ねられ、会社が特に原告に対して新制度の内容を知らせる義務を負うとはいえないとしました。第三に、早期退職優遇制度の支給対象者の選定や支給額の決定は、企業の人事政策に関する広範な裁量に属する事項であるとし、その裁量行使に社会通念上著しい逸脱や濫用がない限り違法とはならないという、いわゆる「裁量権法理」を適用しました。その結果、会社の判断は信義則違反にもあたらず、原告の請求は棄却されました。<まとめ>本判例は、企業が実施する早期退職優遇制度において、制度の設計・運用がどこまで企業の裁量に委ねられるか、また制度変更時における適用の可否や情報提供の義務の有無などについて、重要な判断を示したものです。まず、退職に関する合意は、労働者の申込み(退職願提出)と企業の承諾(条件提示や承認)によって成立するものであり、その後に制度内容が変更されたとしても、すでに成立した合意に遡って適用されるわけではないことが確認されました。次に、企業が新たな優遇制度を導入した場合、それをすでに退職が決定した者に遡及的に適用する義務はなく、周知義務や公平配慮義務といったものが当然に発生するわけではない点は、制度設計の実務上非常に重要です。さらに、早期退職優遇制度や転進支援金制度の支給対象者の選定は、企業の合理的裁量の範囲内で決定できるという考えが明確に示されたことで、今後の人員整理施策や退職勧奨の設計においても企業側が注意すべき枠組みが確認されたといえます。この判例は、労働契約における合意解約の成立時期や、優遇制度適用の境界線に関する重要な実務指針を与えるもので、今後の制度運用においても参考とすべき裁判例といえるでしょう。3.重要判例2「外資系ソフトウエア会社事件東京地裁平15・11・18判決」会社が実施した早期退職制度に対し、従業員が応募したものの、会社による承認前に自己都合で退職したため、特別退職金の支給が行われなかった件について、当該従業員は、制度の他の適用者と同様の扱いを求めて訴えを提起した事件。<事件の概要>会社は平成14年12月19日、早期退職優遇制度(以下「本制度」)を発表しました。本制度では、退職を希望する従業員に対して、通常よりも有利な特別退職金などが支給される内容であり、従業員にとって魅力ある条件が提示されていました。会社が発行した文書には、本制度の利用にあたっては、対象となる従業員がまず応募し、その後、会社が応募内容を確認した上で承認するか否かを決定するという手続きが明示されていました。さらに、本制度を利用せずに自己都合で退職する場合には、離職票に記載される退職理由は「会社都合」ではなく「自己都合」となる旨の記載もありました。原告は、平成14年11月19日頃、上司に対し、複数の企業から転職の誘いを受けていることを伝えました。これに対し上司は、原告が当時システム統合プロジェクトにおいて購買部門の日本側責任者を務めていた点に着目し、その経験は今後社内でのコンサルタント業務への転身に活かせるとして、原告を会社に引き留めました。そして本制度が公表された平成14年12月19日、上司は総務部全体を対象に説明会を開き、制度の概要を説明し、その後、原告と個別に面談を行って会社への残留を強く促しました。さらに12月24日には、2回目の個別面談を実施し、再び慰留の意向を示した上で、会社にとって重要な人材は原則として制度の対象外であると告げました。翌年の平成15年1月7日、3回目の面談が行われ、原告が退職の意思を明確に示したうえで本制度の適用を求めたのに対し、上司は原告が特別退職金の対象にはならないことを伝えました。それでも原告は、1月8日付で正式に本制度への応募を行いましたが、1月17日、会社から本制度の適用対象外である旨の通知を受けました。<判決のポイント>本件で争点となっている特別退職金付きの早期退職制度は、原告と被告との間の既存の雇用契約とは別個の契約の成立が問題となるものです。そのため、原告の請求を認めるには、当該早期退職制度(以下「本プログラム」)の適用を前提とした雇用契約の解約について、原告と被告の間で合意が成立している必要があります。しかしながら、本プログラムにおいては、従業員からの応募に対し、会社側がその適用の可否を判断する権限を留保していると解されます。したがって、従業員からの応募は、あくまでも雇用契約終了に向けた「申込み」にとどまり、会社がこれを承認してはじめて「承諾」となり、契約として成立する構造になっていました。このような前提からすれば、本件において原告と被告の間で、プログラムに基づく雇用契約終了の合意が成立しているとは認められません。これに対し原告は、他の適用者との公平性や信義則の観点から、被告には原告にも本プログラムを適用すべき義務があると主張しました。しかしながら、仮に平等取扱いや信義則を考慮したとしても、それだけで会社に対して本プログラムの申込みを承諾する法的義務が生じるとは言い難いと、原告の主張を退けました。さらに仮に原告の主張を前提としても、原告が信義則違反の根拠とする点──すなわち、他の従業員にはプログラム適用を積極的に勧めたのに、原告には適用を拒否したことが整理解雇を回避するための形式的手段(潜脱)であるという主張──についても、仮にそれが真実であれば、制度そのものの有効性が否定される可能性があり、かえって原告にも本プログラムを適用すべき法的根拠とはならないとしました。<まとめ>名称は企業によって異なるものの、早期退職制度を導入し、退職希望者に対して退職金の上乗せなどの優遇措置を講じる企業は少なくありません。ただし、こうした制度には、企業側が一定の適用条件を設けているのが一般的です。そのため、制度の適用を受けられなかった元従業員が企業を相手に訴訟を起こすケースも多く見られます。裁判例では、制度上定められた条件を満たしていない場合には、優遇措置を受ける権利は認められないとする判断が多数を占めています。4.実際の事例(コロナ禍における整理解雇)都内に貸しビル数件とビジネスホテルを4件運営しているA社が、コロナ禍でホテル部門の売上が85%減少したことに加え、以前から老朽化が懸念されていたホテルがあったため、そのホテルを売却することとして、ホテル部門の人員削減をすることになりました。そこで筆者に「人員再編計画(リストラ)」の策定の依頼があり、慎重に打合せを重ねた結果、ホテル部門120名の1/3となる40名を最終的に整理解雇することとし、まずは希望退職者の募集を実施することになりました(図表1参照)。図表1<人員再編計画>ホテル1棟売却に伴う人員再編計画を書面と説明会にてホテル部門の全従業員に周知しました。募集対象者は、公平性を保つため、売却するホテルに勤務している従業員のみならず、ホテル部門の本社管理部を含めた全ての従業員としました。また、万が一退職されては困る従業員が応募した場合に備えて、会社承認規定を設け、念のため事前に個別に慰留しておくことなど、慎重に準備をしたうえで募集要項に従って募集を開始しました。予定人員に達しない場合、最終的には解雇をも視野に入れることも周知しました。希望退職者の募集要項は次の通りです。結果は、当初の予想に反して募集開始から2日間で募集人数を上回る47名の応募があり、即日打ち切りとなりました。募集人数に及ばずに退職勧奨、さらには解雇ともなれば訴訟に発展しかねない事案だったがゆえに、「整理解雇」としては大成功だったと言えるかもしれませんが、応募人数通りの退職者を認めるとなると業務に支障を来すのは必至でした。そのため、数名のベテラン従業員に対して残留するように説得し、最終的に42名の退職希望者を承認することとなりました。コロナ禍で先行きが不透明な時期であったことも影響して、他の業種へ職種転換を希望する者が多かったのも、予想以上に応募人数が多かった要因と考えられます。このように、希望退職募集は、会社の思惑通りに行く場合ばかりではなく、今回のケースのように予定数を大幅に上回る応募者があったり、逆に、予定数に満たないケースもあります。また前述の通り、会社として必要な人材が流出し、退職してもらいたい人材が残るリスクがある点も留意しておかなければなりません。提供:税経システム研究所
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2025/07/28 企業経営
中小企業のM&Aと企業価値評価(第18回)
【サマリー】引き続き我が国の中小企業におけるM&Aと企業価値評価の実務について解説します。前回はデュー・デリジェンスの実施で明らかとなった検出事項への対応について説明しました。本稿では最終契約の締結に向けた詳細条件の交渉について説明します。本稿では引き続き下記図表1の10.について説明します。【図表1M&Aの基本的な流れ】DDが完了すると、最終契約締結に向けた手続に移行することになります。DDで発見された検出事項(前稿で説明しました)や基本合意の段階では検討が不足していた事項などについて双方で交渉して、詳細な条件を最終契約書に落とし込むことがこのフェーズでの目標となります。本稿では最終契約の締結に向けた詳細条件に関する交渉のポイントについて説明します。1.株式に関する事項中小企業のM&Aの場合、売り手サイドの株主はオーナーまたはその一族が100%保有しているケースが多いために、株式譲渡の際には100%の株式が売り手サイドから買い手サイドに容易に移転することになりますが、オーナー関係者以外の株主(少数株主)が存在する場合、当該少数株主の株式をどう取り扱うかが論点となります。実務的には、オーナーが当該少数株主から一旦株式を買い取って100%にまとめることが一般的です。従って、買い手サイドからは売り手サイドのオーナーに対して事前に100%にまとめることを要請することになるものと考えます。2.契約に関する事項ターゲット企業の経営権が買い手サイドに移った後でも、従来から存在する契約を継続することが望ましい場合には買い手サイドは当該契約を継続できるように売り手サイドの協力を要請することとなります。例えばオーナーの不動産を賃借している場合、オーナーの関係者等が保有している重要な特許やライセンスなどを使用している場合、その他株主が変更することが契約終了の条件となっている重要な契約(チェンジ・オブ・コントロール条項のある契約)などがそれに該当します。重要な契約については法務DD等でリスト化されていると思われますので、買い手サイドでは改めて個々の契約内容を検討してその継続の可否を判断することになります。また、中小企業のM&Aの場合、オーナーが金融機関などに会社債務に関する個人保証契約を締結している場合が多く、M&Aの成立後、売り手サイドのオーナーは直ちに当該保証の解除を求めることになると考えられます。買い手サイドとしてこのような保証解除はやむを得ないと思われます。DDによってターゲット企業の契約書の整備が十分でないという検出事項があれば、取引基本契約や金銭消費貸借契約などの重要な契約についてはクロージングまでに契約書の作成を要請することとなります。3.役員・従業員に関する事項M&Aの完了後、ターゲット企業の新たな役員の選定とそれまでの役員の退職金をどのようにするかを決める必要があります。中小企業のM&Aは後継者不在を理由とするケースが多いために、売り手サイドのオーナーはクロージングの後に引退することが多く見受けられます。但し、ターゲット企業の営業や技術のノウハウはオーナーに帰属していることも多いために、一定の期間は引継ぎの名目で役員ではない顧問契約を結ぶことも実務ではよくあることです。役員退職金についても今までの貢献度を考慮して双方交渉によって決めることになりますが、株式の譲渡価格にも影響を与えるため買い手サイドは慎重に判断すべきです。従業員の雇用条件の検討も重要論点です。一般的には現状の雇用条件を一定期間継続するケースが多いといえますが、ターゲット企業の業績が芳しくない場合には、買い手サイドはクロージング前にリストラなどを要請することになるものと思われます。ターゲット企業に役員への貸付金や役員からの借入金がある場合には、買い手サイドはクロージング日までに回収または返済を完了させることが望ましいといえます。オーナーが私的な理由でターゲット企業にゴルフ会員権、生命保険、保養所などの不動産を所有させている場合にもオーナーに買い取ってもらうのが良いでしょう。4.その他の事項最終契約書の日付と実際の株式の譲渡日であるクロージング日をいつに設定するかも重要です。買い手企業が上場企業であれば最終契約書の日に情報開示することになると思われます。上場企業でなくても、最終契約書に織り込むべき事項が双方で合意できた段階で速やかに最終契約書を作成するのが良いでしょう。クロージング日についても前提条件として売り手サイドにDDで発見された検出事項に対応する義務を負わせた場合には、その履行状況をモニタリングするために一定の期間を設けることがあります。一方で小規模なM&Aや売り手サイドに特段の義務がない場合には最終契約書の日付とクロージング日を同じ日に設定することもあります。最終契約の締結に向けた詳細条件のフェーズは、売り手サイド及び買い手サイドにとっても自分たちにいかに有利な条件を引き出せるか、まさにM&Aの大詰めの局面です。重要なことは双方ともに譲歩できない条件とある程度譲歩できる条件を整理しておくことです。買い手サイドは株式価格の引き下げやリスク低減、売り手サイドは買い手サイドの要求に対する対応が論点となりますが、M&Aも結局は人間が主役ですので、感情的なしこりを残さないように成功裏にクロージングさせることを心がけるべきといえます。提供:税経システム研究所
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2025/06/30 人事労務管理
昨今労務事情あれこれ(211)
1.はじめに近年、「大人の発達障害」に関する記事をマスコミやメディアで見聞きすることが多くなってきました。曰く、「職場において、他の従業員とは一風変わった言動がみられる、空気が読めない、周りと協力することができない、何度指導しても頑固に自分のやり方を変えない」などなど…。厚生労働省が5年に1度実施する障害者雇用実態調査(令和5年度調査)によれば、従業員5人以上の事業所に雇用されている障害者数約110万7000人のうち発達障害者は約9万1000人となっています。前回調査(平成30年)では約3万9000人という結果でしたので、雇用者数で言えば2倍超の増加ということになります。また、2022年12月に厚生労働省から発表された「生活のしづらさなどに関する調査」(令和4年)によると、医師から発達障害と診断された者の数(推定値)は87万2000人となっています。先述のような言動があるとしても、安易にレッテルを貼ることは慎まなければなりません。国立大学法人山梨大学事件(甲府地判.R2.2.25)では、発達障害とのレッテルを貼ったような人事課長の発言が違法であると断じられています。一方で、日本では約10人に1人の割合で発達障害の傾向のある人がいると推定されていることを踏まえると、職場に発達障害の傾向をもつ従業員がいることは特別なことではないと考えることもできます。今回は、こうした傾向をもつ従業員に対し、どのように接していけばいいのかについて考えていきます。2.発達障害とはそもそも、発達障害とはどのようなものなのでしょうか。発達障害は生まれつきの脳機能の障害の一種であり、法令(発達障害者支援法)においては以下のように定義されています。自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの一言で「発達障害」と言ってもいくつかの種類があり、それぞれに異なった特性を持っています。①自閉症スペクトラム障害(ASD)過去には「自閉症」「広汎性発達障害」「アスペルガー症候群」などとされていた障害を統合した障害。対人関係の構築や他者とのコミュニケーションが不得手、特定の物に強いこだわりを持つなどの特性を持つ。②注意欠陥多動性障害(ADHD)不注意や多動性、衝動性などの特性を持つ。単純なミスが多い、頻繁に物を失くしたり忘れ物をしたりする、順番や約束を守るのが不得手などの行動がみられる。③学習障害(LD)知的な遅れがないにもかかわらず、読み書きや計算、話す、聞くなどのうち、特定の行為が著しく苦手で、学習が困難な状態である障害。文章がスムーズに読めない、誤字脱字が多い、図形やグラフを理解できないなどの特性がみられる。定義では「低年齢において発現する」とされていますが、発達障害の症状の有無は外見からは判別困難で、日常生活でも特に支障なく生活できることも少なくありません。そのため、本人や周囲も発達障害に気づかず医師の診断も受けないまま社会人になり、職場でのコミュケーションや業務遂行上のトラブルなどで「自分は発達障害かもしれない…」と気になり受診した結果、大人になってから診断されるケースが多くなっています。また、受診をしても「傾向はあるものの診断基準を満たさない」として正式に発達障害と診断されない「発達障害グレーゾーン」の方々も存在しています。では、これらの方々が職場で直面する問題の典型例はどのようなものなのでしょうか。3.発達障害を持つ従業員にまつわる職場でのあれこれ各障害の特性にもよりますが、職場で直面する問題には、対人関係や業務の進め方に関するものが多くみられます。①あいまいな表現や抽象的な指示を理解しにくいASDの場合、「適当にやっといて」のような曖昧な指示を受けても、具体的に何を求められているのか十分に理解や推測ができないため、期待と異なる成果物を出してしまうことがあります。②優先順位付けが難しい、ケアレスミスが多いADHDの場合、業務の優先順位付けが苦手で、重要業務を後回しにしてしまう、期限を守れないなどがみられることがあります。また、不注意や細かい確認作業が苦手な結果、データ入力ミスや書類の記入漏れなどを多発させてしまうことがあります。③対人関係のトラブルASDの場合、対人関係の構築が苦手であり、また、表情や声色などの非言語的な相手のメッセージを察することが難しい場合が多いことから、上司・同僚などとコミュニケーション上の行き違いにより対人関係のトラブルにつながることがあります。これらの光景、どこかで見た…という方も多いかもしれません。では、様々な障害の特性を踏まえ、会社側はどのように接していくべきなのでしょうか。4.会社側の対応は?-ひと工夫と合理的配慮発達障害をもつ従業員(グレーゾーンを含む)が働きやすい職場とするためには、各障害の特性に即した形で、業務遂行のためのひと工夫が欠かせません。具体的には以下のような対処が考えられます。【コミュニケーション面】指示を明確かつ具体的に「適当に」「なるべく早く」といった曖昧な指示ではなく、業務内容やそのゴール地点、期限などを明確に指示する。その際、メールやグループウェアなどを用いて指示の記録を文字に残すことも効果的。丁寧なフィードバック進捗状況や、指示を出した側が意図しない方向に進んでいないかなどは定期的に確認する。【職場環境面】長時間じっとしていられないなど集中力が散漫になりやすい場合、業務を短い時間に区切る、短いタスクに区切るなどにより達成感を感じやすくする。感覚過敏なケースもあるため、周囲の音(電話の着信音や話し声など)や職場の明るさなどに対して、遮音目的のヘッドホンの使用を認める、照明の明るさを抑えるなどの配慮を行う。そもそも、企業は障害のある従業員がその特性を理由に不利益を被ることがないよう、環境整備や業務内容の調整など「合理的配慮」の提供が義務づけられています(障害者差別解消法第5条)。発達障害を持つ従業員の場合、苦手な部分を周囲がサポートすることにより、こだわりの強い分野の業務などで高い能力を発揮することがあります。細かな配慮は一見すると面倒な、後ろ向きの対処に思えるかもしれませんが、彼らだけではなく、すべての従業員にとっても働きやすい環境を作ることにつながります。本稿は法令等に準じた形で「障害」の表記にしています。提供:税経システム研究所
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2025/06/27 企業経営
昨今の経済情勢を背景に地域企業経営はどう対処するのか
【サマリー】経済産業省、中小企業庁、厚生労働省、外郭団体、自治体等が出している多くの補助金・助成金の受給ニーズが高まっています。今回は補助金・助成金の基本的なところから、主に補助金についてご紹介していきます。税金社保料をはじめ様々なコストが上昇する傾向が続いています。2030年代半ばまでに最低賃金を1,500円とする政府方針を受けて政策やメディアは給料(人件費)をあげる必要を説いていますが、売上成長の見通しが明るいわけではない情勢でこのようにコスト圧力が急激にかかる環境変化は、地域企業にとって由々しき事態となっています。私がお受けする相談で目立って増えているのは「法人税の節約」「運用」に加えて、「補助金・助成金」です。今回は「補助金・助成金」についてご紹介していきます。(1)補助金・助成金の基本基本的に補助金は経産省や中企庁、助成金は主に(他外郭なども助成金という名称を使用します)厚労省が管轄しています。補助金と助成金の違いは、管轄官庁が違うということだけではありません。厚労省が出している助成金の予算原資は私たちが支払う社会保険料の雇用保険部分から拠出されています。税金ではないのかと驚かれる方も多いです。社会保険料がどんどん上がっていき(雇用保険も労災保険も上がってきています)、今や所得税よりも負担が重くなってきている情勢です。このように厚労省の助成金は私たちが納めている社会保険料の一部が原資であるため、全事業者がまんべんなく受給できる配慮がされていると言われています。つまり納めた社会保険料の一部が助成金で戻されるという構造です。つまり、「比較的受給しやすい」のです。対して「補助金」の予算原資は主に税金です。「比較的受給しにくく、受給後の進捗報告などの義務があります。また、助成金は人事労務関連の制度で、比較的申請負担が少なく、金額が少額の場合が一般的です。補助金は事業存続と成長に関連する制度で、申請時の事務負担がかなり大きく、上限数億円にのぼるような大きな制度もあります。事務の煩雑さと負担の重さで足踏みする企業も多いでしょう。(2)補助金の誤解補助金受給を希望する事業者の多くは、当初の段階で大きな誤解があることが多いです。「国からお金がもらえる」という認識です。それには条件があるのです。何かを買った一部を補助するのが補助金なので何か買わないといけない。購買物の価格の一部を補助するのが原則。つまり自腹を切ることがつきまとう。補助金は買ってから後に支給されるので先に資金が必要。補助金は損益計算書に「雑収入」として計上され、税金がかかる。受給後は、当初提出した申請資料に記載された事業や改善が計画通りに進んでいるか報告義務が発生する。申請事務が煩雑で負担が重いのは、不正受給を抑止するためです。ただし、それが理由で事務負担が重くなりすぎてしまうことが、一般の事業者が補助金を活用しづらい要因になっています。(3)補助金申請の段取り2020年から補助金は電子申請することになりました。これまでは書類申請だったわけです。電子申請をするためには、申請1か月前くらいにID取得の手続きをしておく必要があります。電子申請システムの名称は「Jグランツ」と言います。当初は経産省の補助金制度のみの対応となっていましたが、現在はその他の省庁や自治体等の補助金制度についても順次対応が進められています。補助金申請で必要になるのは「法人代表自身」または「個人事業主自身」が取得することができる「GビズIDプライム」というアカウントです。オンライン申請と書類郵送申請があり、発行期間はオンラインなら最短即日、郵送なら原則2週間以内とされています。申請したい補助金の申請期限を鑑みて、余裕をもって早めに取得することをおすすめします。(4)申請数が多いとされる(使い勝手の良い)補助金小規模事業者持続化補助金【一般型】本補助金事業は、小規模事業者自らが作成した持続的な経営に向けた経営計画に基づく、地道な販路開拓等の取組(例:新たな市場への参入に向けた売り方の工夫や新たな顧客層の獲得に向けた商品の改良・開発等)や、地道な販路開拓等と併せて行う業務効率化(生産性向上)の取組を支援するため、それに要する経費の一部を補助するものです。(出典:公式HPhttps://r6.jizokukahojokin.info/index.php)ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(もの補助)ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金は、中小企業・小規模事業者等が今後複数年にわたり相次いで直面する制度変更(働き方改革や被用者保険の適用拡大、賃上げ、インボイス導入等)等に対応するため、中小企業・小規模事業者等が取り組む革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行うための設備投資等を支援するものです。(出典:公式HPhttps://portal.monodukuri-hojo.jp/)IT導入補助金IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者等の労働生産性の向上を目的として、業務効率化やDX等に向けたITツール(ソフトウェア、サービス等)の導入を支援する補助金です。対象となるITツール(ソフトウェア、サービス等)は事前に事務局の審査を受け、補助金HPに公開(登録)されているものとなります。また、相談対応等のサポート費用やクラウドサービス利用料等も補助対象に含まれます。(出典:公式HPhttps://it-shien.smrj.go.jp/)(5)補助金・助成金の申請を外注する場合の注意点補助金・助成金の申請を外注で請け負う事業者があります。もともと、厚労省の助成金は社労士が、経産省・中企庁の補助金は中小企業診断士や行政書士などが外注を受けるのが一般的でした。不適切な受給が明らかになった場合は、申請主体の事業者のみならず申請を代行した請負事業者までが責任を負わねばならなくなります。たとえば、コロナ禍の雇用調整助成金の不正受給の頻発を経て、社労士事務所の中には助成金の申請の請負に慎重になっているところもあります。その一方で、申請外注を受けている社労士事務所への依頼が集中しています。そこで近年、申請代行業者が増えています。一般的な申請代行業者は事務効率をよくし、採択率の高い制度に絞って請け負っています。つまり依頼する事業者の現状に応じた補助金・助成金にオーダーメードで対応してくれるわけではありません。費用は、着手金と成功報酬です。低額で請け負ってくれる業者に実際に依頼したところ、採択されやすいように申請内容を事実と全く異なる内容(異なる事業)で申請されていました。十分なヒアリングをしないで申請書類を作成しているようでした。申請事前事後報告もなく、補助金事務局から問い合わせが来たことで申請を知るという状況。補助金事務局からの質問や確認の電話は申請事業者の代表者に入るので、大混乱になります。虚偽申請は不正受給なので、重いペナルティを覚悟しなければなりません。経産省・中企庁の補助金は記載内容が「経営計画」「事業計画」であるため、事業の詳細情報を理解しなければ申請資料作成ができません。そのため、外注できる業者は限られると考えるべきです。信用できる外注業者は、業務内容からみて、低価格では到底請け負えません。採択率を上げる申請書類作成の自動化を可能にした、専門のAIシステムの開発をした会社があります。自社で申請する申請書類作成作業を大幅に効率化するため社内でエンジニアが手弁当で開発したそうです。彼らは一般事業会社で、クライアントの要請に応じてAIシステムを貸出し、営業成績が大きくアップしたと聞いています。この企業のように、自社申請する方向でその効率化を進めることができるのが理想的と考えます。(6)まとめコスト高に追い込まれる経営環境での、補助金・助成金の活用は良い対策に間違いありません。さらに活用している企業も格段に増えました。ただ、最初にして最大の悩みは、自社が受給できる補助金・助成金を全部ピックアップすることです。これがとてつもない時間を食います。さらに自社に適合するかどうかの判断のために補助金・助成金個々の細かい資料を読み込まねばなりません。その結果、自社は申請資格がないことが発覚したりすると、長い原稿のデータが一気に飛んだ時のような感覚になります。自前申請をするにあたって私が試した中で、これに落ち着いているという方法をご紹介します。「補助金・助成金そのものを調べる」と前述のような罠にはまります。そこで、「○○の課題解決制度」などでネット検索してみてください。検索結果に中央官庁、地方自治体問わず、補助金・助成金の情報がヒットします。地方自治体も補助制度を多数出しています。自治体の制度は予告なく自治体HPに掲載されて始まり、予算が満了すると静かにHPから消えて終わります。人気の制度では、「省エネ設備導入補助」などがあります。新型のエアコンに入れ替える際に活用されています。私の取っているリサーチ方法で面倒なのは、補助金・助成金の過年度のHPも混在してヒットすることです。同じ名前の助成金補助金制度でも、毎年、一部が変更になっていますので、当然進行期の情報にアクセスしなければなりません。また、法人のみならず個人が受給する制度も混在してヒットしてきますので、選別に労力と集中力が必要となります。まず1つ納得のいく補助金・助成金をみつけて、申請実務をやってみてください。そうすると「百聞は一見に如かず」です。1つ実行するとコツがわかって、調べ方も改善され、申請事務の効率化も図られていきます。提供:税経システム研究所
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2025/06/26 医療経営
戦略的医療機関経営 その166
【サマリー】施設基準の見直しによる増収も今回で最後です。最後は食事や生活に関する費用と保険外併用療養費です。とくに増収を考えるうえで、保険外併用療養費の対策がちょっとしたアイデアや知恵が増収に結びつきます。それぞれの医療機関の特徴や強み合わせて料金設定などを考えてみてください。1.今後の執筆予定施設基準とは(構造、主な要件、用語)基本診療料(主な施設基準、入院基本料、)重症度、医療・看護必要度、在宅復帰率特掲診療料施設基準の届出適時調査入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費2.入院時食事療養費について入院患者に限らず、医療において、「食事」の位置づけは、以下のようなことが考えられます。疾病の予防高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満などの生活習慣病は、適切な食事管理によって予防可能です。さらに健康的な食事は、がんや認知症などの発症リスクも低減させます。治療糖尿病では「食事療法」が治療の基本柱の一つです。慢性腎臓病ではタンパク質や塩分の制限が不可欠です。胃潰瘍や消化器疾患でも、刺激物の制限などで症状が改善することが知られています。参考)治療食エネルギーコントロール食(糖尿病、肥満症、脂肪肝、脂質異常症、心臓疾患、妊娠中毒症、高血圧)たんぱく質・ナトリウムコントロール食(急性腎炎、慢性腎炎、ネフローゼ症候群、急性腎不全、慢性腎不全、腎盂腎炎、透析、糖尿病性腎症、妊娠高血圧症候群、慢性肝炎、肝硬変)脂質コントロール食糖尿病食腎臓病食肝臓病食胃潰瘍食貧血食膵臓病食脂質異常症食痛風食回復の促進や合併症の予防、入院患者では、十分な栄養をとることが回復を早め、褥瘡や感染症の予防につながります。特に手術後やがん治療中は、エネルギー・タンパク質の需要が高まり、食事管理が回復に直結します。生活の質(QOL)の向上そもそも食べることを嫌いな人は基本的にはいないでしょうが、好きな食事を楽しめることは、患者の精神的満足や意欲に良い影響を与えます。摂食・嚥下機能が落ちた患者には、安全で美味しい食事の工夫が重要。(とろみ、きざみ、ミキサー等)チーム医療管理栄養士が医師・看護師・薬剤師と連携し、栄養状態を評価し、個別の食事計画を立てます。また近年では栄養サポートチーム(NST)として、重症患者への栄養介入を行うケースに診療報酬で評価する傾向にあります。入院時食事療養費は、上記のような理由で医療の一環として、患者の病状等に応じて必要な栄養量の食事を提供するものです。入院中の1食の提供に係る費用のうち、標準負担額を患者自身が負担し、残りを保険者が負担します。ちなみにどんな大食漢でも入院時食事療養費の算定は1日3食に限られています。入院時食事療養費は、(Ⅰ)(Ⅱ)に分かれています。食事療養費Ⅰは、対象が特別な栄養管理が必要な患者(例:糖尿病、腎臓病などで特別な食事管理が必要な場合)で、内容は管理栄養士が個別に作成した治療食になります。特別な献立や調理など手間暇がかかるので、費用は一般的に高めです。(医療保険の適用があるが、通常の食事よりコストがかかる)対して、食事療養費Ⅱの対象は特別な食事制限のない一般の入院患者です。内容は普通の病院食(標準的な栄養バランスの食事)「常食」と言います。費用は定額での自己負担(現在は1食あたり510円が基本)です。さらに患者に事前にメニューから選択させて食事を提供した場合は、別途追加料金を取ることができます。このように細かな配慮をすることによって、患者満足度を上げること、(嫌いなものは残すので)食材のロスの低減、収入のアップにもつながります。近年の食材の高騰によって、入院患者の食事を提供する委託業者の値上げラッシュが続いています。医療機関側もその金額で契約せざるを得ない状況です。場合によっては食事に関する費用が収入を上回ってしまうこともあります。少しでも安い食材を使った献立や食材の入手ルートの模索などが現場では行われています。3.入院時生活療養費について入院時生活療養費とは、介護保険との均衡の観点から、医療療養病床に入院する65歳以上の者の生活療養(食事療養並びに温度、照明及び給水に関する適切な療養環境の形成である療養をいう。)に要した費用について、保険給付として入院時生活療養費を支給されるものです。入院時生活療養費の額は、生活療養に要する平均的な費用の額を勘案して算定した額から、平均的な家計における食費及び光熱水費の状況等を勘案して厚生労働大臣が定める生活療養標準負担額、病状の程度、治療の内容その他の状況をしん酌して厚生労働省令で定める者については、別に軽減して定める額を控除した額となっています。出典:全国健康保険協会4.保険外併用療養費について保険外併用療養費とは、文字通り医療保険が認められていないものです。通常であれば、1つの疾患の治療行為の中で、保険が認められているものと認められていないものを一緒に行ってはいけないルールになっています(混合診療)もし実施してしまったら、保険が認められているものの3割負担だったものが、治療の開始時に遡って100%自己負担となります。しかし、保険が認められるまでに非常に長い時間がかかるのも事実なので、そのタイムラグの救済のために、保険外併用療養費という部分的な混合診療の制度ができました。保険で、点数が決められていませんので、医療業界では珍しく医療機関自身が価格を決められます。保険外併用療養費制度には大きく3つに分類されます。選定療養、評価療養、患者申し出療養です。「選定療養」は、基本的に将来の保険導入を前提にしていません。患者の自由な選択によって実施することができます。患者から徴収する金額は医療機関側が自由に決められますが、事前に地方厚生(支)局へ届出る必要があります。代表的な選定療養費は「差額ベッド代」です。個室の場合の差額ベッド代は1日当たりの平均費用は8,437円(2023年7月1日現在、厚労省・中央社会保険医療協議会)です。2~4人部屋だと1日当たり平均2,724~3,137円となっています。ただ、差額ベッド代は病院によって差が大きく、平均値では実態がつかみにくいです。最低額はわずか50円。最高額は福岡県北九州市の小倉記念病院の特別室で、1日当たり38万5,000円(2023年)、1泊2日だと77万円にもなります。差額ベッド代が高い医療金の傾向としては、大学病院、(芸能人など著名人が出産する)産婦人科病院などが高い金額が設定されていることが多いです次に「評価療養」ですが、将来的に公的保険給付の対象とするべきかどうか評価を行う療養の事です。先進医療(※1)や治験(※2)など厚生労働省が定める高度な療養で、現在は公的保険の対象ではないが、将来的な保険導入のための評価を行うものとして認められた療養のことです。先進医療先進医療とは、日本の医療制度において、厚生労働大臣が認めた高度で最先端の医療技術のことです。まだ保険適用にはなっていないけれど、有効性や安全性について一定の評価がされており、保険診療と組み合わせて受けることができるのが特徴です。例を挙げると、がんの治療の重粒子線治療や、眼科の多焦点眼内レンズを使った手術などがあります。治験治験とは、新しい薬や治療法が本当に安全で効果があるかを確認するために、人に協力してもらって行う試験のことです。正式には「臨床試験」と呼ばれます。流れとしては動物実験などで安全性を確認し、健康な人で安全性を確認(第Ⅰ相)し、患者さんで効果や副作用を確認(第Ⅱ相)し、より多くの患者さんで最終確認(第Ⅲ相)します。大きくはこの3つにフェーズが分かれています。そして、最後に国に申請→承認されると一般に使えるようになります(薬価がつくということ)。最後に患者申し出療養ですが、最終的に実施する医療の内容は先進医療となりますが、患者が申し出の起点であることがポイントです。さらに実施する医療機関は安全性を鑑みて、臨床研究中核病院で行われます。収入を少しでも上げるための保険外併用療養費を考えるとき、患者申し出療養や評価療養の「先進医療」の取り組みは非常に高額な料金設定が可能です(弊社クライアント病院で重粒子線知慮意を行っていますが、患者負担は数百万円です)が、実施するための医師、設備などを準備することも困難です。そのような取り組みの素地などがあるなど以外は取り組まないほうが無難です。すぐにできる保険外併用療養費対策としては、差額ベッド代です。具体的には高額な差額ベッド代が徴収できるような豪華な個室にするとか、複数人の入院患者の部屋をパーテーションで区切り、準個室として差額ベッド代を徴収する取り組みが考えられます。提供:税経システム研究所
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2025/06/18 企業経営
企業探検家 野長瀬先生の経営お悩み相談室(第19回)
毎回いろいろな企業経営者のお悩みをテーマとし、その悩みを解決する糸口を企業探検家・野長瀬裕二先生がアドバイス形式で解説していきます。筆者が見てきた様々な企業の成功例や工夫の事例、そこから見えてくる普遍的なノウハウを紹介し、各回のテーマの悩みに寄り添う情報をお伝えします。<相談内容>首都圏で、ピアノ教室を親の代から営んでおります。一人娘である私も音楽大学を卒業し、親と私で二か所の教室を経営しております。教室のある土地も建物も、親の名義で、交通の便も良い立地にあります。教室のある地域は、少子化の流れの中ですが、子供の数は横ばいと恵まれています。しかし、最近、近隣に新しい音楽教室が複数できているので、競争が生じています。今のところ、当社教室にはたくさんの子供が通ってくれていますが、今後の経営について不安があります。どのように手を打っていくべきでしょうか。■市場の状況ご相談の通り、図1に示されていますが、15歳未満の子供の人口比率は今や10%近くであり、年々、減少しています。御社の教室の立地する地域は子供が横ばいということですから、首都圏の中でも好立地にあるということができます。図1年代別人口割合推移(令和6年総務省統計)一方、好立地であるから競合の教室も新設されるのでしょう。今は、多くの生徒さんが集まっているからよいのでしょうが、これからどのようにしていくべきか。明確な経営戦略を打ち出すべき時期と言えるでしょう。■強みと課題を考えよう御社の強みは、親御さんから二代にわたり、地域でピアノ教室を運営し続けてきたことにあると言えるでしょう。生徒の親御さんとのつながりがあり、昔の生徒さんが今度は子供を持つ親になるといった部分で、紹介により生徒が集まる機会を多く持っています。また、不動産を親御さんがお持ちですから、新しく地域に参入するライバルより、家賃等の固定費が低く抑えられています。音楽教室を開くには、不動産のコストに加えて、防音工事、高額な楽器代等の初期コストがかかります。すでに投資を回収している先行業者が有利と言えるでしょう。その意味では、地域におけるコストリーダーシップを持っていますので、いざとなれば低価格戦略を採用する余地も残されています。一方、市場の変化に対応した戦略を採用せずとも、これまではうまくいっていました。そのために、時流を読み先手を打つような経営がなされてこなかったことが課題と言えるでしょう。ここで、親御さんの若いころと今との経営環境の違いを考えましょう。出生数の減少を除くと、共働き家庭の増加が大きな違いです。税金と社会保障費を合計した国民負担率が上昇しているため、共働き家庭が増え、どの家庭も、子供の教育に関して社会で活躍する母親の発言力が強くなっています。また、教育ビジネスとしては、学習塾や通信教育といった学力を伸ばす習い事があり、そこに人気のある水泳・英語・ピアノが学ぶ候補に加わり、家庭によってはサッカーや野球のチームに参加させる場合もあります。つまり、地域の教育市場においては、「一定の所得水準があり教育熱心な共働き家庭」が重要顧客であり、その顧客が様々な習い事に優先順位をつけて子供に投資していくのです。その意味では、「ピアノに一番力を入れる家庭」から「色々な習い事を並行させる家庭」まで多彩であり、各層に対して満足度を向上させていくような指導メソッドが求められています。旧来型の音楽教室は、この部分への対応が遅れていることがあります。御社の場合は、地域の既存の人脈から生徒が集まるようですが、他地域から転居してきたご夫婦はインターネットで検索して習い事の教室を選ぶことが多いです。その意味では、スマホ対応のWEBページ作成、SNS活用については、対応が急がれると考えられます。■顧客ニーズにどう対応すべきか表1顧客ニーズの階層layer1音楽の専門家を目指すlayer2音楽の優先度が高いlayer3受験を優先するが音楽もlayer4色々な習い事を並行子供でピアノを習う子供のご家庭は、大きく表1に示される4つの層(layer)に分かれます。習うのはお子さんですが、お金の出し手はご両親や祖父母ということになります。高度な芸事を身に着けようと思うと、専門的な指導が必要となります。表1のlayerの上位層になるほど、合理的かつ厳格な指導の必要性が高くなります。これは、スポーツの場合でも、サッカーや野球でプロを目指すような層と、楽しく遊べばよいとする層では、必要となる反復練習の質と量が異なることと一緒です。趣味で音楽をやる人は、それなりの曲を10分弾くことができれば、精神的な満足が得られます。一方、プロになるということは、2時間のコンサートの曲を完璧に演奏し聴衆を満足させなければならず、そのレパートリーを複数持っていないとなりません。コンクールで入賞するには、バッハの対位法の曲、古典のソナタ、ロマン派や現代音楽の名曲といった課題曲を一通り弾かねばならないのです。以前、日本で一番権威があるとされる国内コンクールの優勝者を30年間分見たことがあるのですが、国際的にご活躍されている方はごく一部です。コンクールに挑む人は上手な人ばかりなのですが、国内の一流コンクールに入賞するのはごく一部で、そのごく一部が国際的に活躍しているのが実態です。上位層の生徒の指導については、国内外の水準を知っている教師による教育メソッドと過去の指導実績が問われます。教室とご両親の連携により、教え子のコンクールへの挑戦、音大の受験といった実績を積み重ねていくことで、資質ある生徒が集まるようになります。一方、市場における顧客の数で行くとlayer3、layer4の習い事を掛け持ちする家庭のウェートが大きくなります。子供の能力を色々な方向で伸ばしていきたいとする教育熱心な家庭は、負担できる教育費の範囲で音楽を習わせようとします。この層は、受験が近づくと習い事をやめていくことが多いので、幼稚園の年長から小学校4年ぐらいまでのお子さんが生徒の主流となります。この層を対象にする場合に、layer1、layer2の生徒たちのように基礎の反復練習をしっかりやっていくと、時間的な制約もあって何も身につかないことがあります。この層の親御さんは、自宅に来客が来た時に、子供が「難易度は低いが聴き映えのする曲」を弾いて褒められれば大満足という場合もあります。ゲーム音楽でもアニメの主題曲でも、もちろんクラシックでもよいのですが、聴き映えの良い曲群を「~年頑張ればこれが弾ける」という学習モデルを作っていくことが顧客満足につながります。■今後の経営戦略のあり方経営戦略の体系を要約すると表2の通りに示されます。基本戦略は、まずは地域内の競争優位をいかに確保するか(戦略1)となります。地域内の競合に勝っていくには、表1における各layerを満足させて行くメソッドを確立することが重要となります。特定のlayerに強みを持つような方向もありますが、必要に応じて外部人材の力を借りて指導コンテンツを充実させていくことも必要です。メソッドがあると、著書を出版し、教育者向けのセミナーを開催するといった事業も展開可能です。layer毎にコースを設けて、料金体系を多様化するという方法もあります。表2経営戦略の体系1.各layerに対応したメソッドを確立して地域内の競争優位を確保2.経営資源の有効活用、外部人材の登用、付帯収入を確保3.増えつつあるシニア層の市場の確保地域内の競争優位性を確保した上で、経営資源について考えていく(戦略2)ことが次に考えられます。設備としては、よい立地にピアノと防音室を複数お持ちなので、生徒さんが空き時間に借りて練習できるようにすることで付帯収入が得られます。近年はマンション住まいの比率が高く、生徒は電子ピアノしか弾くことのできない環境にいる場合が多いです。よいアコースティック楽器で練習する機会が都市部では不足しています。また、家族だけで教室を運営していると、多数の生徒を捌ききれません。外部人材を登用することで、教室の稼働率を増やすことが可能となります。専門性の高い上位層については、外部のプロとの連携を行うことも有益です。さらには最適な楽譜や楽器の紹介による手数料の確保も考えられます。layer3、layer4の顧客には、知的財産権に注意しつつ、曲のアレンジを行い、作業を外部人材と連携するなどして手数料収入を得ることも可能です。WEB、SNSの活用による集客・収益化も、家族の協力や外部人材との連携により可能となります。YouTuberの中には、音楽で100万登録するツワモノもいますが、言語を超えたコンテンツだからでしょう。日本国内の人のみが視聴するコンテンツでも万単位の登録にこぎつけている方もいて、そこまでいけば教室の宣伝と収益化に寄与することになります。御社の最も取りこぼしているのが、図1にも示されている通り、人口が増え続けているシニアの市場です。大手の楽器メーカー系音楽教室も近年ここに力を入れています。解散した金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査(総世帯)」(令和5年)によると、年代別の貯蓄額は表3の通りとなっています。小学生の親は30歳代が多いと思われますが、貯蓄額でみると50歳代、60歳代は、その倍以上の資産をお持ちです。60歳代になるとさらに時間の余裕もあります。まさに時間とお金に余裕がある層向けのマーケティングは、少子化の流れの中で重要となります。動体視力や反射神経が落ちる中でも、音楽は老化防止に有益と言われています。この世代は、仕事の一線から退いた後、あるいは子育てが一段落した後、学びと人間的なつながりを求めています。音楽を学びつつ、仲間を持ち、教養を高めるような場への参加は、長続きする傾向があるようです。表3年代別の金融資産保有額(令和5年金融広報中央委員会)小学生のように受験で辞めるということもありません。一方、シニアの場合、若いころに弾いた経験のあった人と全くの初心者では、指導方法もまるで異なります。プライドの高い人もおり、その意味では子供を教える以上に多様性への対応が必要です。いずれにせよ、layer1-layer4の各層への対応、経営資源の活用、シニア市場の確保といった戦略の中からできる部分を徐々に行っていくことが成長の原動力となります。成長などせず「うちはそこそこでよい」と考えた時点で、新規参入する若手がこれらの戦略を採用してくると市場を根こそぎ奪われてしまいます。少子化とは、多くのサービス業において、そうしたリスクがあるということです。自分の市場を守るためにも、成長するという前提で、可能なところから試行錯誤していくことが必要です。過去に、映像系のベンチャーの経営が行き詰った事例を見たことがありますが、よい映画作品を創る能力と、それを収益につなげる能力は別物なようです。それと同様に、よい音楽を演奏し、よい音楽家を育てる能力があっても、経営能力を磨いていくことは音楽教室の経営者にとり重要です。経営的なものの考え方を徐々に強化していかれるよう祈念申し上げます。提供:税経システム研究所
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2025/05/29 人事労務管理
昨今労務事情あれこれ(210)
1.はじめに少子高齢化の進展に伴う労働人口の減少により、企業の人材不足が深刻化しています。我が国の生産年齢人口(15歳から64歳)は1995年(平成7年)には8,716万人、総人口に占める割合は69.3%であったのですが、この年をピークとして減少に転じ、2023年(令和5年)には7,395万人、総人口に占める割合は59.5%となっています。特に、飲食や宿泊などの業界では、コロナ禍からの旅行需要の回復やインバウンド需要の高まりもあり、人手不足が顕著となっています。また、スーパーやコンビニといった店舗型の小売業では、低賃金や長時間労働、休日の取得しにくさなどが人手不足の原因となっているようです。今後も労働人口の減少が避けられない状況の中で、国は「働き方改革」の柱のひとつとして、シニア人材と言われる65歳以上の高齢者を働き手として積極的に雇用していくことを推奨しています。2021年には改正高齢者雇用安定法の中で、定年制度の廃止や定年の70歳まで引き上げなどの措置により70歳までの就労機会を確保することを努力義務として定めています。シニア人材の中には、豊富な経験や知識を持ち、これまで培ってきた技術やノウハウ、人脈などを活かし即戦力として活躍する可能性のある人々が多く存在しています。こうした企業側のメリットだけでなく、生涯現役として生きがいや意欲が高まる、健康な生活を送る一助となるなど、シニア人材側にも多くのメリットが生まれるものと考えられます。今回は人手不足解消の手段としてのシニア層活用について、メリットや注意点などを考えていきたいと思います。2.シニア人材採用の背景とメリット先述の通り、労働力人口の減少に伴う人手不足を補う手段として、シニア人材の活用は不可欠とも言えるものですが、労働意欲が高い高齢者が多いこともシニア人材の活用の追い風となっています。高齢社会白書(令和6年版)によれば、60代後半就業率は男性で6割以上、女性4割以上と65歳を過ぎても多くの人が就業している実態があります。また、現在収入のある仕事をしている60歳以上の者のうち「働けるうちはいつまでも働きたい」との回答が約4割にのぼり、「70歳くらいまで」と合わせると約9割が高齢期にも高い就業意欲を持っていることが明らかになっています。こうした高い意欲を持ち、豊富な経験や知識、ノウハウや人脈をもつシニア人材を即戦力として活用できることは、企業にとって大きなメリットと言えます。さらにこれまで培った技術やノウハウを若手の従業員に継承してもらうことによるシニア人材の役割は非常に大きいものとも言え、競争力の向上につながることが期待できます。一方で、労働意欲が高いとはいえ、現役世代のように週40時間のフルタイム勤務は体力面で厳しいという声も少なくありません。これに対応するために、時短勤務やフレックスタイム、時差出勤などいわゆる「柔軟な働き方」を整備していくことが考えられます。整備の過程で仕事の進め方の見直し、業務効率化を図るツールの導入などの取り組みは、シニア人材だけでなく全社的な労働環境の改善につながる可能性がある点もメリットとして考えて良いでしょう。こうしたメリットの反面で、シニア人材を活用していく上での課題といったものも存在しています。どのような点に注意し、改善を図っていく必要があるのでしょうか。3.シニア人材活用における課題体力面・健康面への配慮シニア人材の活用を考える上で、最も重要かつ優先される課題はやはり健康面ではないでしょうか。働く意欲も高く、元気な方が多いとはいえ、体力、記憶力、判断力などはどうしても現役世代には劣ってしまいます。また、持病や慢性痛(肩腰膝などの関節痛)などの様々な健康面のリスクを抱えていることも多いため、業務負荷が過重とならないよう企業側が配慮することが求められます。IT・デジタルへの対応力どのような業界・業務であっても、今やIT・デジタル機器なしで完結する仕事はほとんどないといっても過言ではありません。現在のシニア層は、パソコンが一般化した「Window95」が登場した頃には30代から40代であり、いわばバリバリの現役世代でしたので、以前の高齢世代と比べればITやデジタルへの対応は容易とはいえ、日進月歩のIT・デジタルツールへの対応となると、時間がかかってしまう面があるのはやむをえないとも言えます。こうした点をフォローする仕組みを整備することも企業側が配慮すべき点のひとつと言えるでしょう。若手世代との摩擦人は歳をとると頑固になりがちです。豊富な経験や知識を持つシニア人材ですが、昔のやり方にこだわってしまったり、新しい考え方を受け入れなかったりすることで、若手社員との摩擦を起こしてしまうことがあります。逆に、若手世代・現役世代の中にはシニア人材を「昔の人」として軽んじた扱いをしてしまい、シニア人材のモチベーションを下げてしまうケースもあります。企業として、シニア人材に期待する役割を明確にするとともに、シニア人材に対して最新の業界動向やビジネスモデルを学ぶ機会を提供して新しい考え方を取り入れやすい環境を整えることが必要です。モチベーションやコミュニケーションの問題働く意欲が高いとされるシニア人材ですが、中にモチベーションが低く、仕事に対する姿勢が受け身がちというケースも散見します。積極的に業務に関与せず指示を受けたことだけしかやらないという姿勢を目にした若手社員が不満を募らせて、組織全体の雰囲気や生産性に悪影響を及ぼしてしまう恐れもあります。また、他者とのコミュニケーションの際の距離感の取り方が近く、昨今の若手社員に対し、必要以上にプライベートに踏み込んだコミュニケーションをとってしまい、鬱陶しがられる例も存在します。価値観の違いと言ってしまえばそれまでなのですが、こうしたことでコミュニケーションが不足してしまっては本末転倒です。若手社員とシニア人材が緩い雰囲気で率直な意見交換をできる場を設けるなどの配慮が必要となるでしょう。多くの配慮や環境整備が必要とはいえ、人材不足を補うだけでなく、若手社員のモチベーションアップや組織の活性化につながるなどシニア人材がうまく活用できた際には、配慮や環境整備の労力を上回るメリットがあります。能力を十分に発揮してもらえるような仕組みづくりが大切です。提供:税経システム研究所
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2025/05/27 企業経営
中小企業のM&Aと企業価値評価(第17回)
【サマリー】引き続き我が国の中小企業におけるM&Aと企業価値評価の実務について解説します。前回はデュー・デリジェンスの目的と種類について説明しました。本稿ではデュー・デリジェンスの実施で明らかとなった検出事項への対応について説明します。本稿では引き続き下記図表1の9.について説明します。【図表1M&Aの基本的な流れ】1.デュー・デリジェンスにおける検出事項デュー・デリジェンス(以下、DD)を実施した結果、当初想定されていなかった様々な問題点が検出されます(これを検出事項と呼びます)。前回ご紹介したDDによって、例えば以下のような検出事項が考えられます。《財務DDによる検出事項》棚卸資産や固定資産に多額の含み損が存在していること本来営業費用として処理すべき勘定科目が営業外損益や特別損益項目に含まれていることによる正常収益力分析の修正訴訟による賠償責任などの負債が会計帳簿に記載されていないこと財務制限条項(金融機関から借り入れを行う際に金融機関から遵守を要請されている事項)に抵触している、または抵触する可能性があること役員や親族へ金銭を多額に貸し付けていること業績不振の子会社株式を保有していること他社または親族が経営している会社へ債務保証していること《人事DDまたは法務DDによる検出事項》従業員に対して適切な残業代を支払っていないことここ数年の間、離職率が高水準で推移していること第三者より訴訟を提起されている事実保有する土地や建物に有害物質(PCB、アスベストなど)が使われていること規程類が十分に整備されていないこと2.検出事項に対する対応策上記のような検出事項が発見された場合、買い手サイドはどのように対応すればよいでしょうか。筆者は様々な対応策を見てきましたが、主なものを説明します。①検出事項をそのまま受け入れる検出事項が軽微かつ限定的であり、ディールの実行に大きな影響を与えないと判断されたリスクについては、契約変更や金額変更もせずにそのまま受け入れることが考えられます。但し、判断の見極めが非常に難しいために明らかに軽微なものを除き、そのまま受け入れることには慎重さが求められます。②買収価格の調整多額の含み損を抱える資産の存在、業績不振の子会社株式などの検出事項については、当該潜在的損失額を買収価格から減額させることで買い手サイドのリスクを減殺することができます。また、正常収益力分析に変更がある場合には、DCF法で算定された株式価値を変更する必要があります。➂買収スキームの変更会計帳簿に計上されていない債務が発見された場合、買い手サイドが株式を取得した後に当該債務を負担することになります。このような状況では、株式取得に変えて事業譲受けなどのスキームに変更することで予期せぬ債務の引き継ぎを避けることができます。また、役員や親族へ金銭を多額に貸し付けている場合や業績不振の子会社株式を保有している場合には、売り手サイドに引き取ってもらうことも考えられます。④最終契約書への反映DDで発見された検出事項におけるリスクの程度や発生可能性の評価が難しい場合、最終契約書に以下の事項を織り込むことでリスクを売り手に移転させることが可能となります。(ア)クロージングの前提条件への反映検出事項が発見されても、クロージング日までに当該リスクが解消されていれば買い手サイドの立場からは問題ありません。そのため、クロージングの前提条件として、最終契約書の中で当該リスクをクロージング日までに解消することを約束させる方法があります。例えば、事業を継続する上で重要な役割を果たしている従業員がクロージングの後に在籍するかどうかが不透明な場合、売り手サイドが当該従業員に対して継続して在籍することの同意を入手することを約束させることは有用と思われます。(イ)表明保証DDは時間的及び予算的制約の下で実施されるために、ターゲット企業のリスク要因をすべて洗い出すことは実務上困難といえます。そのため、調査により明らかとなったもの以外の偶発債務や簿外債務がないことを売り手サイドが表明して保証することを最終契約書に織り込むことが一般的です。これを表明保証と呼びます。表明保証があるにもかかわらず、予期せぬ簿外債務等が発見された場合には売り手サイドに賠償責任が生じるために買い手サイドとしては一定の安心感を持つことができます。また表明保証には、賠償請求の他に違反した場合に買い手サイドがディールをキャンセルできる権利を付すこともあります。違反がある場合には買い手サイドがキャンセルできるために買い手サイドには有利な条件ではありますが、売り手サイドでは重要性に乏しい違反事実があったとしてもキャンセルの可能性があるために、実務上は「売主による表明及び保証が重要な点において真実かつ正確であること」などの文言を入れることが多いといえます。➄譲渡代金の一部後払いクロージングに当たっては、通常は譲渡代金の全額を支払うことが一般的ですが、表明保証違反がないことを一定期間確認する意味で譲渡代金の一部後払いを選択することも考えられます。⑥買収自体の断念DDによる検出事項が買収後の事業に与える影響が大きい、または不確実性が高いと買い手サイドが判断した場合には買収自体を断念することになるでしょう。特に訴訟に関する損害賠償請求額が多額となる可能性が高い、簿外債務がないことが確信できない場合(有害物質の影響も含む)などは、断念を検討する必要性が高まるものと思われます。提供:税経システム研究所
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2025/05/22 医療経営
戦略的医療機関経営 その165
【サマリー】保険医療機関は、行政によるさまざまな調査、指導を受ける義務がある。申請した施設基準に条件が適しているのか、また適正な手順で保険申請(レセプト請求)されているかなどを中心に調査され、もし誤った手順や施設基準の申請を行っていたら、軽い場合で指導、悪質な場合や重責なケースの場合などは、遡って返還処置を命令されることもある。経営的なダメージはもちろん、イメージダウンになり、患者数の減少にもつながる。医療機関としては絶対にこのようにことにならないように取り組まなくてはならない。1.今後の執筆予定施設基準とは(構造、主な要件、用語)基本診療料(主な施設基準、入院基本料、)重症度、医療・看護必要度、在宅復帰率特掲診療料施設基準の届出適時調査入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費2.適時調査は行政指導の一環保険医療機関に対する行政指導は、「保険診療の取り扱い、診療報酬の請求などに関する事項について周知徹底させること」を目的として行われます。保健医療機関は健康保険法第73条により、厚生労働大臣の指導(行政指導)を受ける義務があります。その行政指導には、地方自治体が行う「医療法第25条第1項に基づく立ち入り検査」および厚生労働省が行う「個別指導」「共同指導」「適時調査」「監査」があります。□適時調査と医療監視の違い適時調査医療監視医療監視原則年1回原則年1回調査対象施設基準の届出に基づいた正しい運営がされているか安全管理体制や感染対策などが適切にできているか調査機関地方厚生(支)局保健所適時調査は、地方厚生(支)局が主に病院を対象に行い、施設基準の届出に則った正しい運営や保険請求が行われているかを確認します。原則1年に1回実施するよう決まっていますが、実際には数年に1度のペースで行われるケースもあります。一方、医療監視は保健所などが実施する立ち入り検査です。安全管理体制や感染対策が適切にできているかをチェックします。いずれも外部の人間が医療機関に確認するために来ますが、確認する内容が異なります。返金など金額的なデメリットに繋がりやすいのは、「適時調査」のほうです。□医療法に基づく立ち入り検査の概要(出典:厚生労働省)□立ち入り検査の結果(特定機能病院)(出典:厚生労働省)□行政指導の種類適時調査個別指導実施主体:地方厚生局対象:施設基準の届出を行なった保健医療機関頻度:原則年1回実施指導内容:施設基準届出項目の実施状況(人事管理、業務規程、運用管理など)実施主体:厚生労働省、地方厚生局、都道府県概要:診療報酬請求等に関する情報提供があった場合、個別指導を実施したが改善が見られない場合、集団的個別指導を受けた保険医療機関等のうち、翌年度の実績においても、なお高点数保険医療機関等に該当する場合等に保険医療機関等を一定の場所に集める等して個別面談方式により行う指導集団指導集団的個別指導実施主体:地方厚生局と都道府県の共同など対象:新規指定の場合(開院1年以内)、臨床研修指定病院等形式:指導対象となる保険医療機関、保険医等を一定の場所に集めて講習等の方式で実施実施主体:地方厚生局と都道府県の共同など概要:保険医療機関等の機能、診療科等を基準とする類型区分に応じて、診療(調剤)報酬明細書(レセプト)の1件当たりの平均点数が高い保険医療機関等を一定に場所に集めて講義形式で行う指導共同指導監査実施主体:厚生労働省、地方厚生局、都道府県の共同対象:特定範囲の保険医療機関(臨床研修指定病院など)指導内容:適時調査+個別指導実施主体:厚生労働省、地方厚生局、都道府県対象:適時調査や個別指導において保険医療機関等の診療内容または診療報酬の請求について、不正または不当が疑われる保険医療機関や保険薬局指導内容:書面審査および必要と認められる場合には患者等に対する実施調査、指導後の措置は「注意」「戒告」「取消」となる。日常の保険診療が適切に行われていれば、医療法に基づく立ち入り調査と施設基準の適時調査で済みます。しかし、その調査で指摘事項があった場合や、地方厚生(支)局等に患者の通報や院内の内部告発等があった場合は、「個別指導」や「監査」の対象になります。具体的な事前の指摘事項があるわけですから、当然追及も厳しくなります。そして、指導後も不備が続く場合は、適時調査や個別指導では過去1~5年分の請求について自主返還が求められ、監査では該当項目の過去5年分の請求に40%を上乗せした額(140%)の返還が求められます。3.適時調査適時調査は地方厚生(支)局が、届出を受理した保健医療機関に出向き、届出内容の調査・確認を行うとともに施設基準などの周知徹底と適正化を図ることが目的です。具体的には、関係書類の確認と院内視察が行われます。この適時調査で届け出内容に不備が見つかった場合は、届出の変更や届出の取り下げの指示があります。返還金が発生した場合には、その金額を保険者や患者に変換することになります。改善指導後も改善されない場合は、届出の受理が取り消されたり、6か月間届出ができなくなったりします。□適時調査実施要項等(厚生労働省ホームページ)厚生労働省のホームページに適時調査実施要項等がアップされています。この実施要項に沿って適時調査は行われますので、事前に確認して準備を行います。また、適時調査の当日に地方厚生(支)局職員が持参しチェックする調査表も公表されていますので、併せて確認準備を行います。□適時調査対象医療機関原則「医科」の病院が対象です。ただし、共同指導、特定共同指導は「歯科」も含まれます。さらに対象の病院のなかでも、新たな施設基準の届出を行った病院、新規指定の病院、新規届出の病院が優先的に適時調査の対象病院となります。□実施頻度適時調査は、原則1年に1回行われます。しかし、実際は2~3年に1回の頻度で行われているようです。コロナが蔓延していた時期は、まったく行われていませんでしたので、コロナが終息してきた現在、再び適時調査が実施されるようになってきました。□調査項目重点施設基準と呼ばれる項目がありますので、その項目はほぼ確実に確認されます。また診療報酬改定後で新設点数があった場合、その施設基準も確認されます。今回の改定で言うと、職員の処遇改善が実施されたかどうかを確認しています。重点施設基準項目□実施通知適時調査の約1か月前に、地方厚生(支)局より、所定の様式で通知が送付されます。通知には適時調査の根拠、目的、調査の日時と場所、事前提出書類、当日準備書類が記載されています。事前提出書類は、調査当日の10日前までに地方厚生(支)局に提出します。□適時調査当日の流れあいさつ、調査目的、担当者紹介(基本は3名)グループごと調査説明入院基本料(5基準)等の基本診療料および入院時食事療養費関係一般的な事項及び掲示特掲診療料施設基準関係の書類確認院内ラウンド調査のとりまとめ、結果の打ち合わせ(調査担当者のみで)講評(調査結果を病院側に口頭で伝達、改善が必要な指摘事項がある場合は、後日文書で通知)あいさつ。お見送り□適時調査の件数と変換金額施設基準の増加や複雑化によって、届出の不備や届け出た内容と実際の運用が異なるケースが多発しています。令和5年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況(出典:厚生労働省)返還金額は、保険医療機関等から返還を求めた額が、約46億2千万円(対前年度比約26億5千万円増)(内訳)指導による返還分:約13億5千万円(対前年度比約3億3千万円増)適時調査による返還分:約32億0千万円(対前年度比約24億0千万円増)監査による返還分:約7千万円(対前年度比約8千万円減)提供:税経システム研究所
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