公認会計士が伝える!シリーズ

公認会計士が伝える! 中小企業の経営指標の活用術 第10回

財務安全性関連指標の業種別・売上高階級別分析②

2026/01/16

著者 :  中島 努

1.はじめに

本稿「公認会計士が伝える! 中小企業の経営指標の活用術」では、いろいろな経営指標を取り上げながら、その活用について考えています。

前回は、財務安全性に関連する経営指標である「流動比率」「当座比率」「固定比率」「固定長期適合率」「債務償還年数」「インタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)」「自己資本比率」を取り上げ、まずは全業種平均での売上高階級別の分析をしました。

今回は、主要な業種にブレイクダウンして、業種別・売上高階級別の分析を進めていくことにします。

2.中小企業の財務安全性関連の経営指標を業種別・売上高階級別に分析してみよう(続き)

(3)中小企業における「母集団企業数」「従業者数」「売上高」の業種別の構成割合

前回は全業種平均での売上高階級別の分析を実施しましたが、今回はさらに業種別(大分類業種)にブレイクダウンして分析していきます。ただし、大分類業種は11業種に及ぶため、今回は分析対象業種を主要業種に絞ることとしたいと思います。そこで、主要業種を見極めるため、まずは中小企業実態基本調査結果が公表されている最新年度である2023年度実績(2025年7月30日公表)のデータを使って、「母集団企業数(注1)」、「従業者数(注2)」並びに「売上高」について、全業種を100%としたときの業種別の構成割合を算出してみることにします。

【図表2】中小企業における「母集団企業数」「従業者数」「売上高」の業種別の構成割合(2023年度実績)

【図表2】のように「母集団企業数」と「売上高」の上位5業種は一致しており、「従業者数」についても4業種は一致していることに鑑み、以下における主要業種別の分析は、「全業種」並びに「建設業」「製造業」「卸売業」「小売業」「不動産業・物品賃貸業」に絞って行うこととします。

(4)「建設業」における売上高階級別の財務安全性関連指標の分析

【図表3】「建設業」での売上高階級別の財務安全性関連の経営指標(2023年度実績)

①全業種平均との比較分析

【図表3】の建設業(法人)平均と全業種(法人)平均を比較してみると、いずれの経営指標についても建設業平均は全業種平均よりも良好な水準にあります。建設業平均で見ると、「短期的な支払能力」(流動比率、固定比率)、「固定資産の調達に関わる長期的な財務基盤の安定性」(固定比率、固定長期適合率)、「借金の返済能力」(債務償還年数)、「利息の支払能力」(ICR)、「資本構成の安定性」(自己資本比率)とも良好な水準といえます。

②売上高階級別の分析

■ 財務安全性に懸念のある階級、良好な階級

7つの財務安全性関連指標のうち、注意が必要とされる基準(【図表3】(注)3)に該当するものに着目すると、最も売上高水準の低い「500万円以下」の階級では7つの指標すべてが該当しています。次いで売上高水準の低い3つの階級(「500万円超~1千万円」「1千万円超~3千万円」「3千万円超~5千万円」)は5つの指標が該当しています。一方、さらに売上高水準が高い「5千万円超~1億円」の階級では1つの指標が該当するのみで、さらに売上高水準が高い3つの階級(「1億円超~5億円」「1億円超~5億円」「10億円超」)では1つも該当していません。

このことから、全体的な傾向として、売上高水準が5千万円以下の階級では財務安全性についての懸念点が多く、1億円超の階級では懸念点があまりないことが読み取れます。

■ 小規模事業者における財務状況

「500万円以下」の階級では、流動比率・当座比率ともに30%前後と極めて低く、自己資本比率も△149%と債務超過の状態です。債務償還年数やICRもマイナス値であり、利益が出ていないことや資金繰りの逼迫が伺えます。このような状況ながら存続している点についてですが、借入の中に金融機関以外からの借入(役員等からの借入と想定される)が相当程度含まれており、売上高水準の低い階級ほど借入全体に占める金融機関以外からの借入の割合が高い傾向があることから、役員等からの借入でしのいでいる様子が伺われる点は補足しておきます。

■ 赤字や債務超過等が指標に与える影響

5千万円以下の4つの階級では、固定比率がいずれもマイナス値、債務償還年数がマイナス値ないし異常な長期、ICRがいずれもマイナス値、自己資本比率がいずれもマイナス値(債務超過)となっています。固定比率や自己資本比率がマイナス値になっているということは、純資産がマイナス値になっていることを意味します。また、債務償還年数やICRがマイナス値になっているということは、利益(当期純利益ないし営業利益)がマイナスになっていることを意味します。つまり、これらの階級では“利益が出ていない状況や債務超過等の状況”に陥っていることが想定されます。

■ 売上高の増加に伴う財務指標の改善傾向と、「10億円超」の階級に見られる特徴

売上高水準が高くなるほど財務安全性の各指標は良好な水準になる傾向は見られるものの、売上高水準が最も高い「10億円超」の階級が最も良好な値を示しているわけではない点も特徴の1つといえるかもしれません。例えば、流動比率や当座比率は「5千万円超~1億円」「1億円超~5億円」「5億円超~10億円」の階級よりも低い値になっています。このことから、売上高水準が「10億円超」の階級では、借入をして積極的な設備投資を行って売上高を増やしていっている様子(成長戦略としての積極投資)が伺われるとともに、必要な資金を調達できる様子(資金調達力の高さ)も伺われます。

➂まとめと留意点

✓小規模建設業者(売上高5千万円以下)は、収益性の低さ・債務超過といった深刻な課題を抱えており、財務安全性がとても低い水準にとどまっており、収益改善策や資本増強の検討が重要課題と考えられます。ICRや債務償還年数のマイナス値は、利益が出ていないことや、資金繰りが逼迫をしている状況を示しており、金融機関以外(役員借入等)に依存してしのいでいることも想定されます。

✓中規模以上(1億円超)では、財務安全性が大きく改善しており、成長とともに健全性が高まる傾向が明確に現れています。

(5)「製造業」における売上高階級別の財務安全性関連指標の分析

【図表4】「製造業」での売上高階級別の財務安全性関連の経営指標(2023年度実績)

①全業種平均との比較分析

【図表4】の製造業(法人)平均と全業種(法人)平均を比較してみると、いずれの経営指標についても製造業平均は全業種平均よりも良好な水準にあります。製造業平均で見ると、「短期的な支払能力」(流動比率、固定比率)、「固定資産の調達に関わる長期的な財務基盤の安定性」(固定比率、固定長期適合率)、「借金の返済能力」(債務償還年数)、「利息の支払能力」(ICR)、「資本構成の安定性」(自己資本比率)とも良好な水準といえます。

②売上高階級別の分析

■ 財務安全性に懸念のある階級、良好な階級

注意が必要な基準に該当する指標数を確認すると、最も売上高水準の低い「500万円以下」の階級では、7つの指標すべてが該当しています。次いで「500万円超~1千万円」では6つ、「1千万円超~3千万円」では5つが該当しており、財務安全性に大きな懸念があることが分かります。「3千万円超~5千万円」「5千万円超~1億円」「1億円超~5億円」ではいずれも2つが該当しており、3千万円以下の各階級と比べて財務安全性にかかる懸念が減るものの、なお注意が必要な水準にあるといえます。これらの階級では特に債務償還年数とICRで注意が必要との判定になっており、いずれも利益が出ているかが大きく影響する指標であることから、収益性に課題があるといえそうです。

一方、5億円超の各階級では1つも該当しておらず良好な水準となっています。

このことから、全体的な傾向として、売上高水準が低い3千万円以下の階級では財務安全性についての懸念点が多く、それより売上高水準が上の3千万円超の階級においてもなお懸念点が残り、さらに上の5億円超の階級まで来ると懸念点があまりないことが読み取れます。

■ 小規模事業者における財務状況

「500万円以下」の階級では、流動比率・当座比率ともに30%前後と極めて低く、自己資本比率も△117%と債務超過の状態です。債務償還年数やICRもマイナス値であり、利益が出ていないことや資金繰りの逼迫が伺えます。このような状況ながら存続している点については建設業の分析の中で説明したことと同様の状況が当てはまっていると考えられます(「(4)「建設業」における売上高階級別の財務安全性関連指標の分析」参照)。

■ 赤字や債務超過等が指標に与える影響

3千万円以下の3つの階級では、固定比率がいずれもマイナス値ないし異常な高さ、債務償還年数とICRがいずれもマイナス値、自己資本比率がマイナス値(債務超過)ないし低率となっています。建設業と比較するとより売上高水準の低い階級に集中はしているものの、これらの階級については建設業の分析の中で説明したことと同様の状況が当てはまっていると考えられます(「(4)「建設業」における売上高階級別の財務安全性関連指標の分析」参照)。

■ 売上高の増加に伴う財務指標の改善傾向と、「10億円超」の階級に見られる特徴

売上高水準が高くなるほど財務安全性の各指標は良好な水準になる傾向は見られるものの、売上高水準が最も高い「10億円超」の階級が最も良好な値を示しているわけではない点は建設業と同様で、建設業の分析の中で説明したことと同様の状況が当てはまっていると考えられます(「(4)「建設業」における売上高階級別の財務安全性関連指標の分析」参照)。

➂まとめと留意点

✓小規模製造業者(売上高3千万円以下)は、収益性の低さ・債務超過といった深刻な課題を抱えており、財務安全性がとても低い水準にとどまっており、収益改善策や資本増強の検討が重要課題と考えられます。ICRや債務償還年数のマイナス値は、利益が出ていないことや、資金繰りが逼迫をしている状況を示しており、金融機関以外(役員借入等)に依存してしのいでいることも想定されます。

✓中規模以上(5億円超)では、財務安全性が大きく改善しており、成長とともに健全性が高まる傾向が明確に現れています。

3.おわりに

本稿では、中小企業の財務安全性関連の経営指標の中から「流動比率」「当座比率」「固定比率」「固定長期適合率」「債務償還年数」「インタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)」「自己資本比率」の7つを取り上げ、売上高階級別の分析を進めています。

中小企業の財務安全性関連の経営指標について、売上高階級別の分析を主要な業種別にブレイクダウンして進めていく上で、「母集団企業数」「従業者数」並びに「売上高」の観点から重要性の高い5つの業種(「建設業」「製造業」「卸売業」「小売業」「不動産業・物品賃貸業」)をピックアップしました。その上で今回は、「建設業」と「製造業」について、売上高階級別の分析を実施しました。

次回は、「卸売業」と「小売業」について、売上高階級別の分析を実施する予定です。

次回以降も引き続き、「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を活用しながら、経営指標の活用法を考えていきたいと思いますので、そちらも併せてお読みいただき、実務上の参考にしていただければ幸いです。

<注釈>

  1. 中小企業実態基本調査の用語の解説では、「母集団企業数は、事業所母集団データベース(令和4年次フレーム)による。」とされています。これは、総務省統計局が整備・運用している「事業所母集団データベース(Business Register)」のことで、中小企業実態基本調査など、各種統計調査の「母集団企業数」の基礎データとして使用されます。
  2. パート・アルバイトなども含みますが、正社員・正職員の就業時間に換算した人数として集計されます。
    計算式:「正社員・正職員以外(パート・アルバイトなど)」全員の就業時間合計(1 週間分)÷ 正社員・正職員の所定労働時間(1 週間分)
提供:税経システム研究所

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