公認会計士が伝える!シリーズ

公認会計士が伝える! 中小企業の経営指標の活用術 第13回

売上高経常利益率の業種別分析①

2026/04/17

著者 :  中島 努

1.はじめに

P/LやB/Sなどの決算書を分析する上で、決算書に実際に載っている数値自体を分析(前期の数値と比較するなど)することはもちろん重要ですが、それだけでは課題に気付きにくいことがあります。そんなとき、「経営指標」を使えば、課題なども浮き彫りになりやすくなります。そこで、本稿「公認会計士が伝える! 中小企業の経営指標の活用術」では、いろいろな経営指標を取り上げながら、その活用について考えていこうと思います。

本稿ではこれまで、財務安全性に関連するさまざまな経営指標を取り上げ、業種別や売上高階級別などの分析をしてきました。今回からは収益性に関連する経営指標を取り上げ、さまざまな角度から分析していこうと思います。

収益性関連の経営指標のうち、まずはP/Lから容易に算出でき、企業が日常的に行っている活動全体での収益性を見るための重要指標である売上高経常利益率を取り上げ、業種別の分析を進めていきます。自社の属する業種の特徴を踏まえながら、自社の指標と業種平均との比較などを行っていただければと思います。

2.中小企業の売上高経常利益率を業種別に分析してみよう

(1)売上高経常利益率とは

P/Lの利益には、売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期純利益、当期純利益といったものがありますが、税引前当期純利益や当期純利益は一時的な損益(特別損益)によって大きく変動するため、比較的安定した収益性の指標として、今回は経常利益に着目して分析を進めていこうと思います。ただし、経常利益金額だと規模等の異なる企業間の比較がしづらいため、売上高に対する割合、つまり売上高経常利益率で分析をしようと思います。

売上高経常利益率 = 経常利益 ÷ 売上高

(2)中小企業の売上高経常利益率の業種別分析 ~売上高経常利益率が高い業種/低い業種

本稿執筆時点で中小企業庁による中小企業実態基本調査の結果(確報)が公表されている直近年度は2023年度決算実績(2025年7月30日公表)となります。今回、中小企業の売上高経常利益率を業種別に分析するに際して、コロナ禍前の2018年度決算実績からの6年度分のデータを集計し、年度別推移表を作成しました(【図表1】、【図表2】参照)。【図表1】と【図表2】の数値は同一ですが、【図表1】は「全業種平均との乖離度合い」に着目した分析に資するよう、全業種平均との乖離度合いが大きい業種・年度が分かりやすくなるようにアレンジしています。また、【図表2】は「年度別推移での変動幅」に着目した分析に資するよう、年度別推移の中で最も売上高経常利益率が高い年度と低い年度が分かりやすくなるようにアレンジしています。

【図表1】業種別の売上高経常利益率の年度別推移(2018~2023年度実績)
~全業種平均との乖離度合いの分析
【図表2】業種別の売上高経常利益率の年度別推移(2018~2023年度実績)
~年度別推移での変動幅の分析

①全業種平均

2018~2023年度における全業種平均の売上高経常利益率は3.3%~4.4%の間で推移し、この間の平均は3.9%となっています。この間の変更幅は1.1ポイント(4.4-3.3)に収まっています。コロナ禍を含む期間であるにもかかわらず全業種平均では年度ごとの変動はそれ程大きくはないようです。

ただし、業種別に見ていくと異なる状況が見られるので、以下では業種別にブレイクダウンして分析を進めることにします。

②売上高経常利益率が高めの業種

2018~2023年度の平均(【図表1】の「平均」の列)を見ると、売上高経常利益率が高めの業種としては「学術研究、専門・技術サービス業」(10.3%)、「不動産業、物品賃貸業」(9.6%)、「情報通信業」(6.4%)が挙げられ、全業種平均(3.9%)を大きく上回っています。2018~2023年度を通じて同様の傾向が見て取れますので、これは一過性のものではないといえます。

■学術研究,専門・技術サービス業

2018~2023年度における「学術研究,専門・技術サービス業」の平均は10.3%に達しており、全業種平均3.9%と比べて大幅に高い水準となっています。この間の売上高経常利益率は7.8%~13.8%で推移しており、全業種平均(3.9%)より大幅に高い状況は一過性のものとはいえません。また、この間の変動幅は6.0ポイント(13.8-7.8)となっており、ある程度の変動が見られます。

知識集約型の業種で人件費以外のコストが低い一方、専門性の高い高付加価値のサービス提供により高い利益率が得られているものと想定されます。専門性や独自ノウハウを活かしたサービスであれば価格競争に巻き込まれにくくなるため、利益率も高めになるのではないかと考えられます。

■不動産業,物品賃貸業

2018~2023年度における「不動産業,物品賃貸業」の平均は9.6%に達しており、全業種平均3.9%と比べて高水準となっています。この間の売上高経常利益率は7.6%~12.6%で推移しており、全業種平均より大幅に高い状況は一過性のものとはいえません。また、この間の変動幅は5.0ポイント(12.6-7.6)となっており、ある程度の変動が見られます。

建物や設備など賃貸物件の減価償却費などは発生するものの、それ以外の原価(商品仕入原価や製品製造原価など)があまりかからず、賃貸契約が開始すれば、その後は追加のコストは少なく、利益率(売上総利益率や売上高営業利益率)が高めになるのではないかと想定されます。

■情報通信業

2018~2023年度における「情報通信業」の平均は6.4%と、全業種平均3.9%と比べて高めの水準となっています。この間の売上高経常利益率は5.4%~7.8%で推移しており、全業種平均より高めの状況は一過性のものとはいえません。また、この間の変動幅は2.4ポイント(7.8-5.4)となっており、年度ごとの変動はそれ程大きくはないようです。

情報通信業は、ソフトウェア開発やITサービスなど、知識集約型で高付加価値なサービス提供により高い利益率が得られているものと想定されます。

③売上高経常利益率が低めの業種

2018~2023年度の平均(【図表1】の「平均」の列)を見ると、売上高経常利益率が低めの業種としては「宿泊業、飲食サービス業」(1.1%)が挙げられます。その他では、「小売業」(2.0%)、「生活関連サービス業、娯楽業」(2.2%)、「卸売業」(2.3%)、「運輸業、郵便業」(2.5%)もやや低めとなっています。

■宿泊業、飲食サービス業

2018~2023年度における「宿泊業、飲食サービス業」の平均は1.1%にとどまり、全業種平均3.9%と比べて低水準となっています。全業種平均の売上高経常利益率が3.3%~4.4%の間で推移しているのに対して、「宿泊業、飲食サービス業」は△4.2%~3.5%の間で推移しており、この間の変動幅は7.7ポイント(3.5-△4.2)に達しており、売上高経常利益率が大きく変動しています。特にコロナ禍での業績の落ち込みが大きく、平均値を押し下げた大きな要因の1つとなっています。ただし、コロナ禍以外のときも売上高経常利益率は低めの水準となっています。この業種の売上高経常利益率が低い主な要因としては、サービス提供にかかる人件費や店舗維持費などの固定費が大きく、販管費率が高くなりやすい構造であることが考えられます。また、原材料費やエネルギーコストの高騰なども利益率を押し下げる要因と考えられます。

■小売業

2018~2023年度における「小売業」の平均は2.0%と、全業種平均3.9%と比べて低めの水準となっています。この間の売上高経常利益率は1.5%~2.6%で推移しており、全業種平均より低めの状況は一過性のものとはいえません。また、この間の変動幅は1.1ポイント(2.6-1.5)に収まっていますが、売上高経常利益率自体が低い水準にあるため、年度ごとの変動はあるともいえそうです。小売業の利益率が低い主な要因は、原価率が高く売上総利益率が低いこと、同業他社との価格競争が激しい市場環境、規模の経済が働きにくい小規模事業者の多さ、そして販管費率の抑制が難しい点などが影響していると考えられます。また、消費者ニーズの多様化やEC市場の拡大など、外部環境の変化も利益率に影響を与えていると想定されます。

なお、コロナ禍前の2018~2019年度は特に全業種平均を下回る度合いが大きく、その頃と比べると売上高経常利益率の改善が見られます。

■生活関連サービス業、娯楽業

2018~2023年度における「生活関連サービス業、娯楽業」の平均は2.2%と、全業種平均3.9%と比べて低めの水準となっています。この間の売上高経常利益率は△0.0%~3.4%で推移しており、全業種平均より低めの状況は一過性のものとはいえません。また、この間の変動幅は3.4ポイント(3.4-△0.0)となっており、比較的大きな変動が見られます。特にコロナ禍の2020年度(△0.0%)、2021年度(1.6%)の落ち込みが大きく、平均値を押し下げた要因の1つとなっています。コロナ禍ではイベント・体験型サービスなどの集客が難しかったなど、特に影響を受けやすい業種でした。

この業種の利益率が低い主な要因は、サービス提供にかかる人件費や広告宣伝費などの販管費率が高く、売上総利益率が高くても販管費で利益が圧迫されやすい構造であることが考えられます。

■卸売業

2018~2023年度における「卸売業」の平均は2.3%と、全業種平均3.9%と比べて低めの水準となっています。この間の売上高経常利益率は1.9%~2.7%で推移しており、全業種平均より低めの状況は一過性のものとはいえません。また、この間の変動幅は0.8ポイント(2.7-1.9)となっており、年度ごとの変動はそれ程大きくはないようです。「卸売業」の利益率が低い主な要因としては、原価率が高く粗利率が低いこと、価格競争が激しい市場構造、規模の経済が働きにくい小規模事業者の多さ、そして付加価値サービスの提供が限定的である点などが影響していると考えられます。

■運輸業、郵便業

2018~2023年度における「運輸業、郵便業」の平均は2.5%と、全業種平均3.9%と比べて低めの水準となっています。この間の売上高経常利益率は1.3%~3.4%で推移しており、全業種平均より低めの状況は一過性のものとはいえません。また、この間の変動幅は2.1ポイント(3.4-1.3)となっており、比較的大きな変動が見られます。特にコロナ禍の2020年度(1.3%)、2022年度(1.9%)の落ち込みが大きく、平均値を押し下げた要因の1つとなっています。「運輸業、郵便業」の利益率が低い主な要因としては、燃料費や人件費の上昇、需要の増減による収益変動、価格競争の激化、そして外部環境(コロナ禍や原材料費高騰など)の影響を受けやすいことが考えられます。

3.おわりに

本稿では、今回から中小企業の「売上高経常利益率」について取り上げ、6年度分の推移を業種別にブレイクダウンして分析しました。全業種平均と比較して売上高経常利益率が高めの業種、低めの業種に着目した分析を行うとともに、6年度分の推移に現れた特徴にも着目しました。そこからは業種別の特徴も現れていました。業種ごとの利益率の差は、収益構造・コスト構造・市場環境・外部要因が複合的に作用していると考えられます。自社の属する業種の特徴をつかむヒントにもなることと思います。

次回以降も引き続き、「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を活用しながら、経営指標の活用法を考えていきたいと思いますので、そちらも併せてお読みいただき、実務上の参考にしていただければ幸いです。

提供:税経システム研究所

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