1.はじめに
P/LやB/Sなどの決算書を分析する上で、決算書に実際に載っている数値自体を分析(前期の数値と比較するなど)することはもちろん重要ですが、それだけでは課題に気付きにくいことがあります。そんなとき、「経営指標」を使えば、課題なども浮き彫りになりやすくなります。そこで、本稿「公認会計士が伝える! 中小企業の経営指標の活用術」では、いろいろな経営指標を取り上げながら、その活用について考えていこうと思います。
前回からは収益性に関連する経営指標のうち売上高経常利益率を取り上げ、業種別に年度別推移などを分析しましたが、今回も引き続き売上高経常利益率の分析を進めていきます。自社の属する業種の特徴を踏まえながら、自社の指標と業種平均との比較などを行っていただければと思います。
2.中小企業の売上高経常利益率を業種別に分析してみよう(続き)
(3)売上高経常利益率のブレイクダウン ~売上総利益率、売上高営業利益率との関係
前回は業種別の売上高経常利益率に着目し、それが全業種平均と比べて高めの業種として、「学術研究、専門・技術サービス業」、「不動産業、物品賃貸業」、「情報通信業」が挙げられました。一方、売上高経常利益率が全業種平均と比べて低めの業種としては、「生活関連サービス業、娯楽業」、「卸売業」、「運輸業、郵便業」が挙げられました。年度別の推移を見ると、年度ごとの変動はあるものの、売上高経常利益率が高めの業種はいずれの年度も高めの水準にあり、逆に低めの業種はいずれの年度も低めの水準にありました。これはそれぞれの業種の特性といっても良いでしょう。そこで今回は売上高経常利益率をさらにブレイクダウンすることで、業種ごとにどんな特性が見られるのかを分析していこうと思います。
ところで、P/Lの利益には、売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期純利益、当期純利益といったものがありますが、経常利益に影響するのは売上総利益と営業利益です。そこで、売上高経常利益率をさらにブレイクダウンして分析していくために、売上総利益率と売上高営業利益率を算出してみることにします。
売上総利益率 = 売上総利益 ÷ 売上高
売上高営業利益率 = 営業利益 ÷ 売上高
(4)業種別の売上総利益率、売上高営業利益率、売上高経常利益率
業種ごとの損益構造の特性を洗い出すために、今回の分析では【図表3】のような表を作成してみることにしました。2018~2023年度の業種別平均値を用いることで、年度ごとの利益率の変動をならすようにしました。そして、「全業種平均の利益率」と「各業種の利益率」とを比較し、利益率が高め・低めの業種が分かるようにしました。

利益率が高め・低めの業種を洗い出すため、今回の分析では、売上総利益率が全業種平均の130%以上、営業利益率・経常利益率が全業種平均の150%以上の基準を設定しました。営業利益率や経常利益率は絶対値として数値が小さいことから、全業種平均との±50%の乖離で判定することにしました。一方、売上総利益率については絶対値として数値が大きいので、全業種平均との±30%というより小さい乖離で判定することとしました。
【図表3】の売上総利益率・売上高営業利益率・売上高経常利益率の全業種平均との比較から、それぞれの業種は概ね次のようにグルーピングすることができそうです。
グルーピング
A 売上総利益率・売上高営業利益率・売上高経常利益率とも高めの業種
- 学術研究、専門・技術サービス業
- 不動産業、物品賃貸業
- 情報通信業
- サービス業(他に分類されないもの)
B 売上総利益率はやや低めだが、営業利益率・経常利益率はやや高めの業種
- 建設業
- 製造業
C 売上総利益率は高めだが、営業利益率・経常利益率は低めの業種
- 宿泊業・飲食サービス業
- 生活関連サービス業・娯楽
- 小売業
Dいずれの利益率も低めの業種
- 卸売業
- 運輸業・郵便業
(5) 売上総利益率・売上高営業利益率・売上高経常利益率とも高めの業種についての分析
前回も分析したとおり、売上高経常利益率が全業種平均と比べて特に高めの業種として、「学術研究、専門・技術サービス業」、「不動産業、物品賃貸業」、「情報通信業」が挙げられます。では、これらの業種の売上総利益率と売上高営業利益率はどうなっているでしょうか。【図表3】のとおり、これらの業種はいずれも、売上総利益率・売上高営業利益率とも全業種平均と比べて高めとなっていることが分かります。
また、これら3業種ほどではないものの、「サービス業(他に分類されないもの)」も各利益率が高めのところにグルーピングできそうです。
以下、それぞれの業種ごとに分析していきます。
■学術研究、専門・技術サービス業
「学術研究・専門・技術サービス業」では、売上総利益率が51.9%(全業種平均の2.0倍)、売上高営業利益率が8.2%(平均の2.8倍)、売上高経常利益率が10.3%(平均の2.6倍)といずれも全業種平均を大きく上回っています。
参考までに、2023年度実績で売上高に対する比率を算出したところ、【図表4】のとおりとなっています。売上原価率は45.7%と全業種平均(74.4%)よりもとても低くなっています。売上原価の内訳を見てみると、労務費や外注費はかかるものの、商品仕入原価・材料費の比率が全業種平均と比べてとても低くなっており、売上高に対する売上原価率がとても低くなる主要因となっています。一方、販管費率は45.7%と全業種平均(22.3%)よりもとても高くなっています。販管費では人件費やOthersの比率が高くなっています。Othersの部分については、中小企業実態基本調査で販管費の内訳が集計されている科目について特に大きなものが見当たらず、内容は定かではありませんが、例えば、業務の外部委託費(外注費)のようなものが販管費に入っていることが想定されます。自社でOthersの比率が高い場合は内容を確認し、重点的な管理対象に含めると良いでしょう。売上原価と販管費のTotalで見ると、全業種平均よりも低く、売上高営業利益率が高くなっていることが分かります。
知識集約型の業種で人件費以外のコストの比率が低い一方、専門性の高い高付加価値のサービス提供により高い利益率が得られているものと想定されます。また、専門性や独自ノウハウを活かしたサービスであれば価格競争に巻き込まれにくくなるため、利益率も高めになるのではないかと考えられます。
これらのことから、当業種は高付加価値・高効率型の業種といっても良いでしょう。

■不動産業、物品賃貸業
「不動産業、物品賃貸業」では、売上総利益率が42.7%(全業種平均の1.7倍)、売上高営業利益率が8.8%(平均の3.0倍)、売上高経常利益率が9.6%(平均の2.5倍)といずれも全業種平均を大きく上回っています。
参考までに、2023年度実績で売上高に対する比率を算出したところ、【図表5】のとおりとなっています。売上原価率は54.9%と全業種平均(74.4%)よりもとても低くなっています。売上原価の内訳を見てみると、動産・不動産賃借料はかかっているものの、商品仕入原価・材料費、労務費、外注費などが全業種平均と比べてとても少なくなっており、売上高に対する売上原価率がとても低くなる主要因となっています。一方、販管費率は36.0%と全業種平均(22.3%)よりもとても高くなっています。販管費では人件費の比率がやや高くなっている他、動産・不動産賃借料、減価償却費、租税公課なども発生しているのが目に留まります。本来、売上原価になるようなものが販管費に含まれている可能性もありますが、物件の所有ないし賃借に伴う費用が発生しているものと想定されます。
売上原価と販管費のTotalで見ると、全業種平均よりも低く、売上高営業利益率が高くなっていることが分かります。賃貸契約が開始すれば、その後は追加のコストは少なく、利益率(売上総利益率や売上高営業利益率)が高めになっているのではないかと想定されます。
これらのことから、当業種はストック型の収益、追加コスト抑制型の業種といっても良いでしょう。

■情報通信業
「情報通信業」では、売上総利益率が45.9%(全業種平均の1.8倍)、売上高営業利益率が5.4%(平均の1.9倍)、売上高経常利益率が6.4%(平均の1.6倍)といずれも全業種平均を上回っています。
参考までに、2023年度実績で売上高に対する比率を算出したところ、【図表6】のとおりとなっています。売上原価率は52.7%と全業種平均(74.4%)よりもとても低くなっています。売上原価の内訳を見てみると、労務費や外注費はかかるものの、商品仕入原価・材料費の比率が全業種平均と比べてとても少なくなっており、売上高に対する売上原価率がとても低くなる主要因となっています。一方、販管費率は41.4%と全業種平均(22.3%)よりもとても高くなっています。販管費では人件費やOthersの比率が高くなっています。Othersの部分については、上記「学術研究、専門・技術サービス業」での説明に準じます。なお、売上原価と販管費のTotalで見ると、全業種平均よりも低く、売上高営業利益率が高くなっていることが分かります。
「情報通信業」は、ソフトウェア開発やITサービスなど、知識集約型で高付加価値なサービス提供により高い利益率が得られているものと想定されます。
これらのことから、当業種は高付加価値・高効率型の業種といっても良いでしょう。

■サービス業(他に分類されないもの)
「サービス業(他に分類されないもの)」(注)では、売上総利益率が41.7%(全業種平均の1.6倍)、売上高営業利益率が3.6%(平均の1.2倍)、売上高経常利益率が4.7%(平均の1.2倍)といずれも全業種平均を上回っています。
(注)「サービス業(他に分類されないもの)」には、廃棄物処理業、自動車整備業、機械等修理業(の 一部)、職業紹介・労働者派遣業などが含まれる。
参考までに、2023年度実績で売上高に対する比率を算出したところ、【図表7】のとおりとなっています。売上原価率は59.0%と全業種平均(74.4%)よりもとても低くなっています。売上原価の内訳を見てみると、労務費や外注費はかかるものの、商品仕入原価・材料費の比率が全業種平均と比べてとても低くなっており、売上高に対する売上原価率がとても低くなっています。一方、販管費率は37.3%と全業種平均(22.3%)よりもとても高くなっています。販管費では人件費やOthersの比率が高くなっています。Othersの部分については、上記「学術研究、専門・技術サービス業」での説明に準じます。なお、売上原価と販管費のTotalで見ると、全業種平均よりもやや低く、売上高営業利益率がやや高くなっていることが分かります。
「サービス業(他に分類されないもの)」は、労務費や外注費の比率が高く、商品仕入原価の比率が低いため、人手や専門性を活かしたサービス提供によって高い付加価値を生み出し、全業種平均を上回る利益率を維持しているものと想定されます。
これらのことから、当業種は人材集約型で付加価値が高めの業種といっても良いでしょう。

3.おわりに
本稿では、中小企業の「売上高経常利益率」について取り上げて分析をしています。今回は全業種平均と比較して売上高経常利益率が高めの業種に着目し、売上総利益率や売上高営業利益率の状況にブレイクダウンして分析を進めました。その結果、これらの業種に見られる損益構造の特徴が見て取れました。自社の業種特性を正しく理解し、それに即した経営指標を活用することは、経営改善や持続的成長のために有用です。業種ごと・企業ごとに損益構造や課題は大きく異なるため、単に平均値と比較するだけでなく、自社の強みや弱みを的確に把握し、指標を経営判断や改善活動に活かすことが、実践的な経営管理につながるでしょう。
次回以降も引き続き、「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を活用しながら、経営指標の活用法を考えていきたいと思いますので、そちらも併せてお読みいただき、実務上の参考にしていただければ幸いです。




