公認会計士が伝える!シリーズ

公認会計士が伝える! 中小企業の経営指標の活用術 第18回

ROA(総資産利益率)の業種別分析①

2026/09/18

著者 :  中島 努

1.はじめに

最近では金利上昇の動きが見られており、企業経営において資金調達コストへの意識が高まりつつあります。中小企業においては、これまでも資金調達そのものが容易であったとは言い難いものの、低金利の環境のもとでは借入に伴う金利負担は相対的に軽い状況にありました。しかし、今後は金利の上昇により、経営資源を投入する(資産を保有する)こと自体のコストがこれまで以上に重要になってきます。こうした環境下では、「どれだけ利益を出しているか」だけではなく、「どれだけの経営資源(資産)を使って効率的に利益を生み出しているか」という視点が重要となってくるでしょう。

本稿では、前回まで5回にわたって売上高経常利益率並びに売上総利益率、営業利益率の業種別分析をしてきました。これらの売上高利益率はP/Lのみから容易に算出できる収益性の指標ですが、B/Sについては全く考慮されていません。

そこで、近時の企業環境にも鑑み、今回からはP/LとB/Sの両方を使って算出する収益性の重要指標であるROA(総資産利益率)を取り上げ、さまざまな角度から分析していこうと思います。自社の属する業種の特徴を踏まえながら、自社の指標と業種平均との比較などを行っていただければと思います。

2.中小企業のROA(総資産利益率)を業種別に分析してみよう

(1) ROA(総資産利益率)とは

収益性を見る重要な指標である売上高経常利益率や売上総利益率、売上高営業利益率はP/Lから容易に算出できるものでもあり、多くの企業が重要視している指標の1つといえます。しかし、売上高経常利益率等が同水準であれば収益性は同水準といえるでしょうか。例えば、次のような2つの企業を考えてみます。

この場合、両社の売上高経常利益率はいずれも10%となり、この利益率だけを見ると収益性は同程度であると評価されます。しかし、A社とB社では総資産が大きく異なっています。売上に対する利益率からは同じように見えるものの、A社は比較的少ない経営資源(資産)で効率よく利益を生み出している一方、B社は同じ利益を得るためにより多くの資産を必要としていることから、資産の活用効率という点では課題がある可能性があります。

このように、資産を効率よく活用して利益を稼ぎ出せているかを見るのに使えるのがROAという指標です。

ROAは「経常利益などの利益÷総資産」で算出することができ、A社のROAは10%(10÷100)、B社のROAは5%(10÷200)となります。同じ利益を上げているにもかかわらず、資産を考慮して算出した収益性には大きな差があることが分かります。

このように、売上高経常利益率などの売上高利益率の指標は、「売上に対してどれだけ利益が出ているか」を把握することはできますが、「どれだけの経営資源(資産)を使ってその利益を生み出しているのか」という点までは把握することができません。

また、利益を増やそうとするときに売上高利益率の向上ばかりに注力してしまうと、利益率の改善そのものが目的となり、経営判断を誤る可能性があります。特に、資産の活用という観点が抜け落ちてしまう点には注意が必要です。例えば、遊休資産を圧縮するとか、売上債権・棚卸資産の回転を高めるといった改善余地があるにもかかわらず、そうした改善機会に気づきにくくなってしまいます。

こうした資産に関わる視点を補うために有効なのが、ROAです。ROAは、企業が保有する総資産をどれだけ効率的に活用して利益を生み出しているかを示す指標ですので、P/LとB/Sの両面から収益性を捉えることができます。

なお、ROAの分子は、当期純利益、経常利益、営業利益などを使うことが考えられますが、当期純利益は一時的な損益(特別損益)によって大きく変動すること、営業利益は支払利息など中小企業にとって重要な項目が反映されないことなどを踏まえ、本稿では、特に断りのない場合、ROAの分子には「経常利益」を使うこととします。

そして、ROAは次のように「売上高利益率」と「資産の回転」という2つの要素に分解することができます。

ROA(総資産利益率)= 経常利益 ÷ 総資産
=(経常利益÷売上高)×(売上高÷総資産)
=売上高経常利益率 × 総資産回転率

(注)1.分子の利益には、当期純利益や営業利益などを用いることもある。
2.分母には総資本(負債+純資産)を用いることもある(ただし総資産と同額)。

(2)中小企業のROA(総資産利益率)の業種別分析 ~年度別推移の分析

本稿執筆時点で中小企業庁による中小企業実態基本調査の結果が公表されている直近年度は2024年度決算実績(2026年6月29日に確報版公表)となります。今回、中小企業のROAを業種別に分析するに際して、コロナ禍前の2018年度決算実績からの7年度分のデータを集計し、年度別推移表を作成しました(【図表1】)。

なお、以下では基本的に大分類(全11業種)の業種別に分析を進めていきますが、中小企業実態基本調査では中分類(全67業種)の業種別にもデータをとることができます。したがって、以下で取り上げる指標について、実際に自社と業種平均との比較をする際には、自社の属する中分類の業種平均と比較することが考えられます。

【図表1】業種別のROAの年度別推移(2018~2024年度実績)

ROAは「売上高経常利益率 × 総資産回転率」となりますので、【図表1】の「業種別のROAの年度別推移」を、「業種別の売上高経常利益率の年度別推移」(【図表2】)と「業種別の総資産回転率の年度別推移」(【図表3】)に分解することができます。

【図表2】業種別の売上高経常利益率の年度別推移(2018~2024年度実績)

業種別の売上高経常利益率については、「公認会計士が伝える! 中小企業の経営指標の活用術」(第13回~17回)において分析しましたので、そちらを参照していただければと思います。なお、今回2024年度決算実績も追加していますが、売上高経常利益率が高めの業種、低めの業種に特に変わりはありませんので、業種ごとの特徴などについてはこのときの分析結果が当てはまるでしょう。

【図表3】業種別の総資産回転率の年度別推移(2018~2024年度実績)(単位:回)

【図表3】に示した総資産回転率の推移を見ると、全体としては各業種とも概ね安定的に推移しているものの、一部の業種で特徴的な変動が見られます。

例えば、「宿泊業、飲食サービス業」や「生活関連サービス業、娯楽業」については、コロナ禍の影響により需要が大きく落ち込んだ時期(2020~2021年度辺り)に売上が急減した一方で、店舗設備などの固定資産は短期間で縮小できないことから、総資産回転率が一時的に低下していると考えられます。これらの業種は需要変動の影響を強く受けるため、外部環境の変化が回転率に直接反映されやすい特徴があるともいえそうです。なお、例えば「宿泊業、飲食サービス業」(大分類業種)であれば、中分類業種として「宿泊業」「飲食店」「持ち帰り・配達飲食サービス業」に分かれます。それぞれで業態が大きく異なり、総資産回転率も大きく異なる可能性がある点にはご注意ください。

また、「サービス業(他に分類されないもの)」については、業種の内訳が多様であり、対面サービスの制約等の影響を受けた事業も含まれることから、同様にコロナ禍の時期に一定の変動が見られます。

一方で、「学術研究・専門・技術サービス業」については、上で説明した業種とはやや異なる動きが見られます。「学術研究・専門・技術サービス業」は売上の変動が比較的安定しています。一方で、資産の内訳を見たところ投資その他の資産の割合が高く、資産規模が売上に対して大きめの状態で推移しています。投資その他の資産の割合が他の業種と比べて突出して高く、資産規模も比較的変動しており、コロナ禍の影響による売上高の変動というよりも、資産保有の変動が総資産回転率の変動をもたらしているようです。

以上見てきたように、一部業種では総資産回転率の推移に変動が見られるものの、直近年度や期間平均の水準を見る限り、こうした一時的な変動の影響は概ね収束しているものと想定され、各業種の総資産回転率には、当該業種の事業構造に基づく特徴が表れていると考えられます。

なお、総資産回転率の水準には業種別に傾向が見られますが、その分析については次回に譲りたいと思います。

3.おわりに

本稿では、今回から中小企業のROA(総資産経常利益率)について取り上げており、今回はROA、並びにそれを2つに分解した売上高経常利益率と総資産回転率について、2018~2024年度の7年度の間の推移を分析してみました。

業種別の売上高経常利益率については以前に本稿で分析を行ったため、今回は特に総資産回転率の年度別推移に現れた特徴にも着目しました。そこからは多くの業種で安定的に推移している一方、一部の業種ではコロナ禍辺りで変動が見られ、業種別の特徴も現れていました。自社の属する業種の特徴をつかむヒントにもなることと思います。

次回以降も引き続き、「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を活用しながら、経営指標の活用法を考えていきたいと思いますので、そちらも併せてお読みいただき、実務上の参考にしていただければ幸いです。

提供:税経システム研究所

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