1.はじめに
P/LやB/Sなどの決算書を分析する上で、決算書に実際に載っている数値自体を分析(前期の数値と比較するなど)することはもちろん重要ですが、それだけでは課題に気付きにくいことがあります。そんなとき、「経営指標」を使えば、課題なども浮き彫りになりやすくなります。そこで、本稿「公認会計士が伝える! 中小企業の経営指標の活用術」では、いろいろな経営指標を取り上げながら、その活用について考えていこうと思います。
本稿では現在、収益性に関連する経営指標のうち売上高経常利益率を取り上げ、業種別に分析を進めています。自社の属する業種の特徴を踏まえながら、自社の指標と業種平均との比較などを行っていただければと思います。
2.中小企業の売上高経常利益率を業種別に分析してみよう(続き)
【図表11】は、業種別の売上総利益率・売上高営業利益率・売上高経常利益率を示したものであり、全業種平均との比較による特徴から、それぞれの業種をA~Dにグルーピングしました。

これまでグルーピングAとBについて、該当する業種ごとに詳しく分析しました。今回はグルーピングCについて該当する業種ごとに詳しく分析することにします。
(7) 売上総利益率は高めだが、営業利益率・経常利益率は低めの業種についての分析
売上総利益率は高めだが、営業利益率・経常利益率は低めの業種としてグルーピングできるのは、「宿泊業・飲食サービス業」、「生活関連サービス業・娯楽業」、「小売業」です。
以下、それぞれの業種ごとに分析していきます。
■宿泊業・飲食サービス業
「宿泊業・飲食サービス業」では、売上総利益率が65.0%(全業種平均の2.5倍)と突出して高くなっている一方、売上高営業利益率が△3.4%(全業種平均は2.9%)、売上高経常利益率が1.1%(全業種平均の0.3倍)と全業種平均を大きく下回っています。
参考までに、2023年度実績(単年度)で売上高に対する比率を算出したところ、【図表12】のとおりとなっています。売上原価率は32.0%と全業種平均(74.4%)よりもとても低くなっています。売上原価の内訳を見てみると、商品仕入原価・材料費の比率が26.8%と全業種平均(49.1%)と比べてとても低くなっているのを始め、売上原価の各内訳項目の比率が全業種平均よりも低くなっています。一方、販管費率は66.4%と全業種平均(22.3%)よりもとても高くなっています。人件費を始め、動産・不動産賃借料やOthersなどの比率がとても高くなっていることが主要因となっています。
「宿泊業・飲食サービス業」では、材料費の占める比率が相対的に低くなっています。その背景として、調理や接客などの人件費や水道光熱費、調理等の設備や飲食スペース、宿泊施設などの設備関連の費用がかかることが考えられます。これらは売上高に関わらず発生する固定費であることが多いため、売上高に応じて変動する材料費率をある程度の枠に収める必要があると考えられます。なお、これらの費用の中には本来、売上原価になるようなものも含まれると考えられますが、売上原価と販管費の区別を厳密には行わず、販管費として処理しているケースが多いものと想定されます。そのため、原価側より販管費側にコストが厚く計上されやすい構造になっており、売上原価率が低い一方で、販管費率が高くなっていると考えられます。
なお、売上原価と販管費のTotalで見ると、全業種平均より高く、売上高営業利益率が低くなっていることが分かります。
「宿泊業・飲食サービス業」は“売上総利益率は高いが販管費が極めて重い”固定費高止まり型の損益構造になっているといえるでしょう。

■生活関連サービス業・娯楽業
「生活関連サービス業・娯楽業」では、売上総利益率が36.4%(全業種平均の1.4倍)ととても高くなっている一方、売上高営業利益率が0.6%(全業種平均の0.2倍)、売上高経常利益率が2.2%(全業種平均の0.6倍)と全業種平均を大きく下回っています。
参考までに、2023年度実績(単年度)で売上高に対する比率を算出したところ、【図表13】のとおりとなっています。売上原価率は62.8%と全業種平均(74.4%)よりも低くなっています。売上原価の内訳を見てみると、商品仕入原価・材料費の比率は51.5%と全業種平均(49.1%)と比べてやや高くなっている一方、労務費や外注費などの比率が全業種平均よりも低くなっています。また、販管費率は35.3%と全業種平均(22.3%)よりも高くなっています。人件費や動産・不動産賃借料、Othersなどの比率が高いことなどが要因となっています
「生活関連サービス業・娯楽業」には、洗濯・理容・美容・浴場業、旅行業、家事サービス業、娯楽業などが含まれ、物販のように仕入が中心となるモデルではなく、提供価値の多くが、人手によるサービスや、施設・設備を活用した体験などから生まれます。 そのため、売上原価のうち商品仕入原価・材料費は相対的に抑えられる一方、販管費の人件費や設備にかかる費用などの比率が高くなっています。販管費の中のOthersで何が多いのかまでは分かりませんが、設備の維持や保守に関する費用、消耗品費、業務委託費などが他の業種よりも多めにかかっているのかもしれません。
なお、売上原価と販管費のTotalで見ると、全業種平均より高く、売上高営業利益率が低くなっていることが分かります。
「生活関連サービス業・娯楽業」も「宿泊業・飲食サービス業」と同様、“売上総利益率は高いが販管費が極めて重い”固定費高止まり型の損益構造になっているといえるでしょう。

■小売業
「小売業」では、売上総利益率が29.8%(全業種平均の1.2倍)とやや高くなっている一方、売上高営業利益率が1.1%(全業種平均の0.4倍)、売上高経常利益率が2.0%(全業種平均の0.5倍)と全業種平均を下回っています。
参考までに、2023年度実績(単年度)で売上高に対する比率を算出したところ、【図表14】のとおりとなっています。売上原価率は70.7%と全業種平均(74.4%)よりもやや低くなっています。売上原価の内訳を見てみると、商品仕入原価・材料費の比率が65.1%と全業種平均(49.1%)と比べてとても高くなっている一方、労務費や外注費、Othersなどの比率が全業種平均よりも低くなっています。「小売業」では、売上の大部分が仕入れた商品の販売によって構成されるため、売上原価の中心は商品仕入原価・材料費となっています。 一方で、労務費や外注費など、主として製造の工程でかかる費用は相対的に小さくなっています。したがって、原価構造は“仕入依存型”となり、粗利率は仕入価格や価格設定の影響を強く受けやすいといえるでしょう。
また、販管費率は27.4%と全業種平均(22.3%)よりもやや高くなっています。内訳を見ると、人件費を始め、動産・不動産賃借料、Othersなどが高めで、店舗の維持・運営に不可欠な固定的費用がかかっていることが分かります。販管費は売上規模に対して相対的に高くなる傾向があるといえます。
売上原価と販管費のTotalで見ると、全業種平均より高く、売上高営業利益率が低くなっていることが分かります。
「小売業」は“仕入に依存し、それ以外の原価が少なめのため粗利率はやや高めとなる一方、店舗運営コストが大きくなりやすいため、営業利益率を圧迫しやすい業種”といえます。

3.おわりに
本稿では、中小企業の「売上高経常利益率」について取り上げて分析をしています。今回は全業種平均と比較して“売上総利益率は高めだが、営業利益率・経常利益率は低めの業種”に着目し、売上総利益率や売上高営業利益率までブレイクダウンして分析を進めました。その結果、これらの業種に見られる損益構造の特徴が見て取れました。自社の業種特性を正しく理解し、それに即した経営指標を活用することは、経営改善や持続的成長のために有用です。業種ごと・企業ごとに損益構造や課題は大きく異なるため、単に平均値と比較するだけでなく、自社の強みや弱みを的確に把握し、指標を経営判断や改善活動に活かすことが、実践的な経営管理につながるでしょう。
次回以降も引き続き、「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を活用しながら、経営指標の活用法を考えていきたいと思いますので、そちらも併せてお読みいただき、実務上の参考にしていただければ幸いです。




