公認会計士が伝える!シリーズ

公認会計士が伝える! 中小企業の経営指標の活用術 第17回

売上高経常利益率の業種別分析⑤

2026/08/21

著者 :  中島 努

1.はじめに

P/LやB/Sなどの決算書を分析する上で、決算書に実際に載っている数値自体を分析(前期の数値と比較するなど)することはもちろん重要ですが、それだけでは課題に気付きにくいことがあります。そんなとき、「経営指標」を使えば、課題なども浮き彫りになりやすくなります。そこで、本稿「公認会計士が伝える! 中小企業の経営指標の活用術」では、いろいろな経営指標を取り上げながら、その活用について考えていこうと思います。

本稿では現在、収益性に関連する経営指標のうち売上高経常利益率を取り上げ、業種別に分析を進めています。自社の属する業種の特徴を踏まえながら、自社の指標と業種平均との比較などを行っていただければと思います。

2.中小企業の売上高経常利益率を業種別に分析してみよう(続き)

【図表15】は、業種別の売上総利益率・売上高営業利益率・売上高経常利益率を示したものであり、全業種平均との比較による特徴から、それぞれの業種をにグルーピングしました。

【図表15】2018~2023年度の業種別平均値(前回の【図表11】と同じ)

これまでグルーピングについて、該当する業種ごとに詳しく分析しました。今回はグルーピングについて該当する業種ごとに詳しく分析することにします。

(8) 売上総利益率・営業利益率・経常利益率とも低めの業種

売上総利益率・営業利益率・経常利益率とも低めの業種としてグルーピングできるのは、「卸売業」、「運輸業・郵便業」です。

以下、それぞれの業種ごとに分析していきます。

■卸売業

「卸売業」では、売上総利益率が15.4%(全業種平均の0.6倍)、売上高営業利益率が1.8%(全業種平均の0.6倍)、売上高経常利益率が2.3%(全業種平均の0.6倍)と、いずれも全業種平均を大きく下回っています。

参考までに、2023年度実績(単年度)で売上高に対する比率を算出したところ、【図表16】のとおりとなっています。売上原価率は85.1%と全業種平均(74.4%)よりも高くなっています。売上原価の内訳を見てみると、商品仕入原価・材料費の比率が79.1%と全業種平均(49.1%)と比べて突出して高くなっています。一方、労務費や外注費などの比率が全業種平均よりも低くなっています。「卸売業」では、仕入れて売るという取引仲介が事業の中心となり、売上原価の大半を商品仕入原価が占めています。仕入商品に価値を付加して販売するというよりは売上規模を大きくして利益を稼ぐという業態のため、他の業種と比べて売上原価率が非常に高水準となっています。

また、販管費率は12.8%と全業種平均(22.3%)よりもとても低くなっています。人件費やOthersなどの比率が低くなっていることが要因となっています。店舗運営を伴う小売業に比べて販管費の絶対水準が低く抑えられています。常設の店舗や大規模な接客スペースを持たない形態が多く、賃借料や広告宣伝費が膨らみにくいといったことが考えられます。売上規模を大きくして稼ぐため、売上に対する販管費の比率が低めになりやすいといった面もあります。

売上原価と販管費のTotalで見ると、全業種平均よりやや高く、売上高営業利益率がやや低くなっていることが分かります。

「卸売業」は、売上総利益が薄い一方で、販管費は軽めという構造で、 仕入条件の微妙な差や在庫回転・物流効率の差が営業利益率を左右しやすくなっています。

【図表16】(参考)対売上高の比率(2023年度実績)~卸売業

■運輸業・郵便業

「運輸業・郵便業」では、売上総利益率が23.6%(全業種平均の0.9倍)、売上高営業利益率が1.4%(全業種平均の0.5倍)、売上高経常利益率が2.5%(全業種平均の0.6倍)と全業種平均よりも低くなっています。

(注)「 運輸業・郵便業」には、道路旅客運送業、道路貨物運送業、水運業、倉庫業、運輸に附帯するサービス業などが含まれる(なお、中小企業では郵便業は該当なし)。

参考までに、2023年度実績(単年度)で売上高に対する比率を算出したところ、【図表17】のとおりとなっています。売上原価率は76.8%と全業種平均(74.4%)よりもやや高くなっています。売上原価の内訳を見てみると、商品仕入原価・材料費の比率が11.0%と全業種平均(49.1%)と比べてとても低くなっている一方、労務費や外注費、Othersなどが全業種平均よりも高くなっているのが目立ちます。

「運輸業・郵便業」は、輸送サービスの提供などを行う業態のため、商品仕入原価・材料費の比率はとても低くなっています。一方で、輸送サービスの提供のために人員(ドライバーや作業員など)を確保する、あるいは外部事業者に配送を委託する必要があるなど、労務費や外注費の比率が高くなっています。Othersに何が含まれているかは定かではありませんが、「運輸業・郵便業」では、燃料費、通行料、車両の整備や保険などの費用が相当程度かかるものと想定されますので、こうした諸費用がOthersに含まれているものと考えられます。動産・不動産賃借料や減価償却費も全業種平均より高く、運輸等のための車両をリースないし保有している影響と想定されます。

また、販管費率は20.8%と全業種平均(22.3%)よりもやや低くなっています。人件費やOthersなどの比率がやや低くなっていることが要因となっています。「運輸業・郵便業」の場合、原価の方に計上される人件費(労務費)が多い一方、販売のための人件費や、販売促進・店舗維持などに係る費用が少なめであることが想定されます。

売上原価と販管費のTotalで見ると、全業種平均よりやや高く、売上高営業利益率がやや低くなっていることが分かります。

「運輸業・郵便業」は、原価側の人件費(労務費)や外注費の重さが利益を左右する業種といえます。

【図表17】(参考)対売上高の比率(2023年度実績)~運輸業・郵便業

3.売上高経常利益率の業種別分析を実務に活かすための視点

(1)売上高経常利益率を課題発見のための入口指標として位置付ける

売上高経常利益率は、会社全体の収益性を1つの数値で把握できる便利な指標ですが、実務上はこの指標から改善策を直接導き出すというより、課題を発見するための入口として捉えるのが良いでしょう。例えば、売上高経常利益率の推移を見たり業種平均との比較をすると、推移の傾向や変動状況で気になる部分が出てきたり、業種平均との違いで気になる部分が出てきたりします。そうした場合には、売上高経常利益率の分析だけで終わらせず、売上高営業利益率、売上総利益率へとブレイクダウンして分析を進めていくことができます。

例えば、売上高経常利益率に変動が見られる場合、売上総利益率の段階で変動が見られるのか、営業利益率の段階で変動が見られるのか、営業外収益・費用のところで変動が見られるのかを見極め、変動の要因は何かを探っていくことになるでしょう。

(2)自社に近い業種や規模の企業の平均値を比較対象とする

本稿でのここまでの分析からは、売上高経常利益率の水準は業種ごとに大きく異なり、また、その差は一時的な要因ではなく、損益構造の違いによるところが大きいことが分かりました。したがって、実務においては、自社に近い業種の数値と比較することが基本になります。本稿での業種別分析は基本的に大分類の11業種を用いて進めていますが、中小企業実態基本調査ではさらに中分類の業種(67業種)にブレイクダウンすることができます。例えば、大分類の業種「宿泊業・飲食サービス業」は、中分類の業種(「宿泊業」「飲食店」「持ち帰り・配達飲食サービス業」の3つ)に分かれているので、自社がレストランを営んでいるのであれば「飲食店」の数値を比較対象にすることが考えられます。

また、比較対象として自社と規模(売上高規模や従業員数規模など)が近い企業の数値を使うことも考えられます。この場合、中小企業実態基本調査は、「大分類の業種かつ売上高階級別」や「大分類の業種かつ従業員数規模別」といった形でデータ(Excelデータ)をとることができるので、各種利益率など必要な数値は自分で算出することができます。そうすれば、自社に近い業種や規模の企業の平均値との比較も可能となります。

(3)数値の良し悪しだけでなく構造の違いに着目する

売上高経常利益率そのものの高低を評価するのではなく、なぜその水準になっているのかという構造面に着目することが重要となります。

特に、業種平均と比較する際に自社の数値の良し悪しを見ることにとどまらず、売上高に対する売上原価や販管費の比率、さらにはそれぞれの内訳費目ベースでの比率に着目して、どの費目が業種平均との差を生んでいるのかを確認することなどが、分析のポイントとなるでしょう。

例えば、上記のような分析の結果、自社の損益構造として「材料費中心」「人件費中心」「固定費が重い」などといった特徴がつかめるかもしれません。仮に、材料費が中心の損益構造で材料費率が高止まりしているのであれば、材料の管理に弱点がある、原価計算ができていない、価格転嫁の検討がなされていないなどといった課題が見つかるかもしれません。

そして、売上高経常利益率の差が見えた場合には、売上総利益率と販管費率のどちらが主要因なのかを見極めることが重要です。具体的には、売上高経常利益率 → 売上高営業利益率 → 売上総利益率の順に段階的に確認し、差が生じている段階(原価側か販管費側か)を特定していきます。

このように、業種平均と比較することで、自社がどのような損益構造になっているのかが明確になり、経営改善の検討にもつなげやすくなります。

(4)「Others」の重要性が高い場合は確認対象とする

業種別分析でも見られたとおり、売上原価や販管費のうち「Others」の比率が高い業種・企業は少なくありません(注)。

(注)売上原価でOthersが大きい業種には、「運輸業・郵便業」「製造業」「情報通信業」などがある。また、販管費でOthersが大きい業種としては、「宿泊業・飲食サービス業」「情報通信業」「学術研究、専門・技術サービス業」「生活関連サービス業・娯楽業」などがある。

中小企業実態基本調査では売上原価や販管費などの内訳項目のデータ収集に限りがありますので、本稿の分析で「Others」として記載しているものも、自社の売上原価や販管費であればその内訳をつかむことができるはずです。実務においては、「Others」のまま放置せず、金額の大きいものなどを中心に内訳を確認し、継続的に発生している費用や比率の高い費用など、管理対象とすべき費用を明確にしていくことが重要です。

筆者がかつて財務諸表の監査業務に携わっていたときも、「Others」の中に重要な問題が隠れていないかは大事な着眼点の一つでした。「Others」の中には、どの勘定に入れていいか分からないので一旦「Others」にしておこうといったものが含まれ、目が行き届かなくなるケースもあり得るので、ここに改善の糸口が潜んでいることもあるでしょう。

(5)売上原価と販管費の区分

例えば、「製造業」や「宿泊業・飲食サービス業」などでは売上原価と販管費との区分を厳密に行っている企業と、区分を厳密には行わずに製造にかかわる人件費などもまとめて販管費として処理しているのではないかと思われる企業とがあります。

特に従業員数が少ない中小企業では、1人の従業員が製造・サービス提供と管理業務を兼務しているケースも少なからずあると思われますので、売上原価と販管費を厳密に区分すること自体が難しい場合もあります。また、厳密な区分を行おうとすると、管理のための手間やコストが増え、必ずしも費用対効果が見合わないケースもあるでしょう。

このような場合には、無理に区分の精度を追い求めるのではなく、売上原価と販管費を合算したコスト構造に着目し、全体として売上高に対するコストがどの程度になっているかを把握するという考え方も有効かと思います。重要なのは、会計処理上の区分を厳密にすること自体ではなく、自社の損益構造を把握し、改善の検討につなげられるかどうかであり、中小企業の実務においては、実態に即した割り切りも必要といえるでしょう。

ここまで考えてきたように、業種平均との比較は、優劣を判定するための答えを与えてくれるのではなく、差の要因を考えるためのヒントを与えてくれるものです。平均値と照らし合わせながら、自社の損益構造の特徴を探り、改善の検討につなげていくことが実務上の有効な活用方法といえるでしょう。

4.おわりに

本稿では、中小企業の「売上高経常利益率」について取り上げて分析をしてきました。今回は全業種平均と比較して“売上総利益率・営業利益率・経常利益率とも低めの業種”に着目し、売上総利益率や売上高営業利益率までブレイクダウンして分析を進めました。また、これまで5回にわたって行ってきた売上高経常利益率の業種別分析のまとめとして、「売上高経常利益率の業種別分析を実務に活かすための視点」を挙げさせていただきました。これらを参考に、自社の売上高経常利益率、さらには売上総利益率や営業利益率についても分析を行い、自社の課題発見や改善策の検討に活かしていただければと思います。

次回以降も引き続き、「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を活用しながら、経営指標の活用法を考えていきたいと思いますので、そちらも併せてお読みいただき、実務上の参考にしていただければ幸いです。

提供:税経システム研究所

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