公認会計士が伝える!シリーズ

公認会計士が伝える! 中小企業の経営指標の活用術 第4回

「固定比率」「固定長期適合率」の業種別分析②

2025/07/18

著者 :  中島 努

1.はじめに

前回と今回とで、固定資産の調達に関わる長期的な財務基盤の安定性を測る経営指標である「固定比率」と「固定長期適合率」を取り上げ、業種別に分析しています。

2.中小企業の固定比率、固定長期適合率を業種別に分析してみよう(その2)

(2)中小企業の固定比率、固定長期適合率の業種別分析(つづき)

前回は、「(1) 固定比率、固定長期適合率とは」でそれぞれの指標の概要を説明した上で、さらに「(2)中小企業の固定比率、固定長期適合率の業種別分析」として、中小企業実態基本調査の結果が入手できる直近年度(2022年度)を中心に、①全業種平均、②固定比率、固定長期適合率が低めの業種、③固定比率、固定長期適合率が高めの業種、④固定比率と固定長期適合率の差が大きい業種、について分析しました。

今回は、前年度(2021年度)やコロナ禍前(2018年度)と比較して大きな変動があるのかどうかを分析していきます。

中小企業における固定比率と固定長期適合率はどの位の水準になるのか、中小企業実態基本調査のデータを活用して業種別に算出した結果は【図表1】のとおりです。以下では、このデータに基づいて分析を進めますが、その分析は業種に見られる特徴などを探るものであるため、あくまでも業種平均で行っており、個々の企業については状況が異なる点にはご留意ください。

【図表1】中小企業の業種別の固定比率、固定長期適合率(前回と同じ)

⑤年度(前年度)と2022年度との比較

【図表1】の2021年度(前年度)と2022年度とを比較すると、全業種平均で固定比率が114%から109%、固定長期適合率はいずれの年度も64%とほぼ横ばいで推移しています。業種別に算出してみたところ、固定比率、固定長期適合率とも多くの業種で増減率が±15%程度以内の水準に収まっており、これらの比率は比較的安定した指標と言えるかもしれません。

そんな中で、「サービス業(他に分類されないもの)」の固定比率が153%から92%へと大幅に改善(改善率40%)し、長期的な財務基盤の安定性の上昇が際立っています。「サービス業(他に分類されないもの)」の固定資産と純資産の資産合計(負債・純資産合計)に対する構成比の変化を見てみたところ、固定資産の構成比が55%から43%、純資産の構成比が36%から47%となっており、2021年度はコロナ禍の影響で特に純資産が減っていたことなどが影響したのではないかと想定されます。

なお、逆にこれらの比率が上昇した場合には、長期的な財務基盤の安定性が低下しているおそれがあります。2021年度からこれらの比率が上昇(悪化)した業種はいくつかあるものの、上昇率は5%程度に収まっており、大きく悪化したという状況にはなっていません。ただし、これらの比率が高い場合や大きく上昇(悪化)している場合には注意が必要です。その対応策については、後ほど「(3)中小企業の経営に活かすための具体的な対応策」のところで考えてみます。

⑥年度(コロナ禍前)と2022年度との比較

【図表1】の2018年度(コロナ禍前)と2022年度とを比較すると、全業種平均で固定比率が113%から109%、固定長期適合率が68%から64%となっており、固定比率、固定長期適合率とも若干改善し、長期的な財務基盤の安定性が上昇しています。

業種別に見ても、固定比率、固定長期適合率ともにコロナ禍前よりも下落(改善)している業種が多くなっています。コロナ禍を経て、現金預金の構成比が高まっている業種が多いことも影響していると考えられます。

一方、2018年度(コロナ禍前)よりも固定比率が上昇(悪化)した業種には、「不動産業・物品賃貸業」(上昇率12%)、「宿泊業・飲食サービス業」(上昇率11%)、「サービス業(他に分類されないもの)」(上昇率8%)があります。ただし、固定長期適合率については概ね横ばいないし下落(改善)している状況であり、かつ固定長期適合率が100%を大きく下回る水準であるため、業界平均値では、長期的な財務基盤の安定性に懸念が高まっている状況ということではないようです。

(3)中小企業の経営に活かすための具体的な対応策

固定比率や固定長期適合率は、中小企業の長期的な財務基盤の安定性を測る重要な指標です。これらの指標を活用して経営の安定化を図るための具体的な対応策としては、次のようなものが考えられます。

①固定資産の適正管理

固定資産は企業の財務基盤に大きな影響を与えるため、適正な管理が求められます。

その際には次のような視点を持つことが大切です。

(例)

✓設備投資前の検討と資金の手当て

多額の設備投資を実施するような場合、投資額の割に投資の効果が小さいと財務基盤の安定にマイナスの影響が生じるため、事前に投資の効果をよく検討するようにするとともに、過剰な投資とならないように留意します。また、設備投資のための資金は自己資金か長期借入などでまかなうようにすることも必要です。

✓遊休資産の売却

使用されていない設備や不動産があれば、それを売却して借入金を返済することで財務基盤の安定性を高めることができます。遊休資産を保有し続けることは、資金のムダ遣いにつながるため、早期に処分することが望まれます。

②固定負債の適正管理

固定負債は固定長期適合率に直接影響を与えるため、適正な管理が必要です。

その際には次のような視点を持つことが大切です。

(例)

✓設備投資資金の手当て

設備投資のための資金は、自己資金でまかなえない場合でも、長期借入などの長期資金でまかなうようにすることが望まれます。

✓資本増強

内部留保の積み立てや増資を行い、自己資本を増強します。これにより、固定資産に対する自己資本の割合を高め、長期的な財務基盤の強化につなげることができます。

✓補助金等の活用

設備投資などに関連して、政府や地方自治体が補助金等を提供することがあります。これらを活用して資金調達の一部を補うことで、借入金の増加を抑制することも考えられます。

3.おわりに

本稿では、中小企業の長期的な財務基盤の安定性を測る重要な指標である「固定比率」と「固定長期適合率」について、業種別に分析しました。これらの指標は、企業の長期的な財務基盤の安定性を評価する上で非常に有用であり、経営判断の一助となります。

固定比率と固定長期適合率の差異や業種ごとの特徴を理解することで、企業の財務状況をより正確に把握することができます。特に、固定比率や固定長期適合率が高い場合や、前期と比べて大きく上昇(悪化)している場合は長期的な財務基盤の安定性に課題が生じている可能性があるため、原因をよく調べてみることが重要です。経営指標を活用しながら問題点の有無を把握するとともに、今回説明した「中小企業の経営に活かすための具体的な対応策」なども参考に、健全な財務運営を目指していくことが望まれます。

次回以降も引き続き経営指標の活用法を考えていきたいと思いますので、そちらも併せてお読みいただき、実務上の参考にしていただければ幸いです。

提供:税経システム研究所

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