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第72回 比較分析のいろいろ(12) ~中小企業実態基本調査の活用(その1)

2023/10/20

1.はじめに

決算書の比較分析をする場合、自社の数値同士を比較するのが最も一般的な比較です。当期の決算数値を前期(あるいは前年同期)と比較分析するとか、月次推移を分析するといったことが該当します。

ただし、自社の決算数値を自社以外の数値と比較してみると、客観的に自社の位置付けが見え、課題が浮き彫りになるといった効果が期待できます。とはいえ、自社以外の決算数値はなかなか手に入らないといった問題もあります。そこで今回からは、自社の決算数値を自社以外と比較したい場合に活用できる「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を取り上げ、その概要を説明するとともに、活用法を考えてみようと思います。

2.ケースで考える中小企業実態基本調査の活用(その1)

まずは、ある経理部での様子を描いた【ケース1】をご覧ください。

【ケース1】

飲食店を営むK社では、年度決算が終わり、取引銀行に決算書を見せた際、財務安全性を見る指標の一つである「自己資本比率」の水準が低いことを指摘されました。それまでK社では自己資本比率を意識することはありませんでしたが、中小企業の自己資本比率がどの位の水準なのかが気になり始めました。

社長:「他の中小企業の水準も知りたいところだが、うちには他の中小企業の決算書なんてないからな。何か他の中小企業と比較する方法はないものだろうか…」

【ケース1】には、他の中小企業の経営指標(自己資本比率)の水準がどの位なのか気になっている社長の様子が描かれています。

大企業が同業他社の決算数値と比較したいといった場合であれば、上場企業の決算書をEDINET(Electronic Disclosure for Investors' NETwork=金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム)や各社のホームページから入手することができます。しかし、中小企業の決算書となるとなかなか手に入りませんし、仮に手に入ったとしてもその数は非常に少ないことでしょう。

こんなときに活用できるのが、中小企業庁が実施している「中小企業実態基本調査」という調査結果で、業種別などにもデータをとることができます(なお、個々の会社ごとのデータをとることはできません)。とはいえ、いざ自分で中小企業実態基本調査を活用しようとすると、どこにあるどの情報を見たら良いのか分からないといった事態に陥ることもあります。

そこで以下では、中小企業実態基本調査について、その概要や活用法を考えてみようと思います。

3.中小企業実態基本調査の概要

中小企業実態基本調査は、「中小企業を巡る経営環境の変化を踏まえ、中小企業全般に共通する財務情報、経営情報及び設備投資動向等を把握するため、中小企業全般の経営等の実態を明らかにし、中小企業施策の企画・立案のための基礎資料を提供するとともに、中小企業関連統計の基本情報を提供するためのデータ収集を行うことを目的」に、中小企業庁によって毎年実施されている調査です。

対象の中小企業に「企業の概要」「決算」等の報告を求め、その集計結果等が下記のとおり公表されています。調査・分析結果がPDFファイルにて、また統計データがExcelファイルにて掲載されており、無料でダウンロードすることもできます。

■政府統計の総合窓口(e-Stat)内の「中小企業実態基本調査」
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00553010&tstat=000001019842

◇対象企業

調査対象となるのは中小企業者であり、業種に応じて、資本金(または出資の総額)が基準金額以下(資本金基準)か、従業員数が一定数以下(従業員数基準)のいずれかがあてはまる企業者(会社、個人)となっています(中小企業基本法2条1項)。

これに該当する中小企業の母集団の中から、統計的な手法を用いてサンプリングした中小企業に対して、「企業の概要」「決算」等の報告を求めることになります。その上で、得られた回答から母集団の状況(決算数値等)を推計するといった手法がとられているようです。

◇業種別のブレイクダウン

調査結果はいくつかの切り口でブレイクダウンして集計されていますが、最も基本となる切り口は、業種別の分類です。大きくは11業種(「建設業」「製造業」「卸売業」「小売業」「宿泊業、飲食サービス業」など)に分類(大分類)されています。それぞれの業種(大分類)はさらにブレイクダウンして67業種に分類(中分類)されています。

◇その他のブレイクダウン

業種別の切り口をさらに「従業者規模別」「売上高階級別」「資本金階級別」「設立年別」といった切り口でブレイクダウンした集計がされていたりします。

4.中小企業の業種別の自己資本比率を調べてみよう

(1) 中小企業実態基本調査結果の概況資料を活用する

「自己資本比率」については中小企業実態基本調査で実際に調査・分析対象項目となっており、その結果が公表されています(「令和3年中小企業実態基本調査の概況 (令和2年度決算実績)」P22)。したがって、この資料を活用するのが一つです。

自己資本比率=自己資本(純資産)÷負債・純資産合計

【図表1】業種別自己資本比率(令和元年度(2019年度)~令和3年度(2021年度))
(出所)中小企業実態基本調査「令和4年調査の概況(令和3年度決算実績)」
(中小企業庁)P22

【図表1】を見ると、自己資本比率が業種別(大分類)平均でどの位の水準なのか、3年間でどのように推移しているのかが分かります。法人企業全体では40%前後の水準で推移しています。財務安全性の判断の観点からは、自己資本比率30%以上が一つの目安になることがありますが、ほとんどの業種の平均値はこれを上回る水準になっているようです。ただし、「宿泊業、飲食サービス業」については30%を大きく下回る水準であり、かつ、この3年間で下落が続いており、特にコロナ禍に入った令和2年度(2020年度)では13.98%まで下落してしまっています。

ちなみにさらに遡って平成28年度から平成30年度の3年間の自己資本比率を見てみると、【図表2】のとおりでした。

【図表2】業種別自己資本比率(平成28年度(2016年度)~平成30年度(2018年度))
(出所)中小企業実態基本調査「令和元年調査の概況(平成30年度決算実績)」
(中小企業庁)P23

法人企業全体ではやはり40%前後の水準で推移しています。「宿泊業、飲食サービス業」については、コロナ禍前でも30%を大きく下回る水準で推移していますが、コロナ禍に入った令和元年度の落ち込みが目立ちます。

ここまで見てきたように、自己資本比率など中小企業実態基本調査で実際に調査・分析対象項目となっている経営指標であれば、「(1)中小企業実態基本調査結果の概況資料を活用する」方法で対処することができます(ちなみに、調査・分析対象項目となっている経営指標は【図表3】のとおりです)。ただし、この方法だと、中小企業実態基本調査での調査・分析対象項目になっていない経営指標を知りたい場合には対処できなくなってしまいます。

こうした場合の対処方法については次回説明しようと思います。

【図表3】中小企業実態基本調査での調査・分析対象項目となっている経営指標
(出所)中小企業実態基本調査「令和4年調査の概況(令和3年度決算実績)」
(中小企業庁)P20

5.おわりに

自社の決算数値を自社以外と比較したい場合なども想定し、今回からは「中小企業実態基本調査」を取り上げ、その概要を説明するとともに、業種平均と比較するなど、活用法を考えていきたいと思います。

今回は、そもそも中小企業実態基本調査がどんなもので、調査・分析結果がどこに掲載されているのかといった入り口部分から説明しました。また、自己資本比率を調べてみるというケースを使いながら、まずは「(1) 中小企業実態基本調査結果の概況資料を活用する」方法を、実際の公表資料を交えて説明しました。

次回以降も引き続き、「中小企業実態基本調査」の活用法を考えていきたいと思いますので、そちらも併せてお読み頂き、実務上の参考にして頂ければ幸いです。

提供:税経システム研究所

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