速くてもミスしない! 公認会計士の仕事術講座

第87回 比較分析のいろいろ(27) ~中小企業実態基本調査の売上高階級別B/Sの分析(その1)

2025/01/17

1.はじめに

中小企業の場合、自社以外の決算数値はなかなか手に入りませんが、「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を活用することで、自社以外の数値と比較することも可能になるため、本連載では中小企業実態基本調査の概要を説明すると共に、活用法を考えています。

今回からは中小企業のB/S項目の構成比について売上高階級別分析を進めていきます。なお、「純資産」「負債」「資産」の順に分析していきます。

2.中小企業のB/S項目の構成比を売上高階級別に見てみよう(その1)

中小企業の売上高階級別B/Sの構成比(2022年度決算実績)を算出したところ、【図表1】のとおりとなっています。

【図表1】中小企業の売上高階級別B/Sの構成比(2022年度決算実績)

【図表1】からは次のような点を読み取ることができます。

(1)純資産の構成比の分析

純資産の構成比は、全売上高階級の平均が42%となっています。売上高階級別に見ると、最も高いのが「10億円超」の階級(44%)で、最も低いのが「500万円以下」の階級(△7%)となっています。概ね売上高階級が低くなるほど、純資産の構成比が下がる傾向が見られます。売上高が低い企業では、赤字になりやすかったり、利益が少額になりやすかったりするため、純資産の構成比が小さくなっていると考えられます。特に「500万円以下」の階級では、純資産が△7%と、債務超過になっていることが分かります。この階級は、母集団企業数の6%を占めていますが、財務的な安全性の点(資金繰りや投資の余力など)に課題がある可能性があります。債務超過になると金融機関からの追加借入も難しくなってきます。

「500万円以下」の階級における純資産の構成比が△7%となっている背景には、以下の要因が考えられます。まず、小規模な家族経営によっていることが少なくないことが想定され、必要以上に利益を出さないことが考えられます。また、売上高が低いため、利益を十分に確保できず、赤字経営に陥りやすいことが挙げられます。赤字が続くと、純資産が減少し、最終的には債務超過に陥る可能性が高まります。そして、この階級の企業は資金繰りが厳しく、運転資金や投資資金を確保するために借入に依存する傾向があります。特に、金融機関からの借入が難しい場合、役員や親族からの借入に頼ることが多くなり、これが負債の増加につながります。

次いで純資産の構成比が低いのが「1千万円超~3千万円」の階級の19%、「500万円超~1千万円」の階級の29%です。「500万円以下」の階級が債務超過であるのに対して、これらの階級ではある程度の純資産の水準を確保できています。

各社の状況等によっても異なりますが、財務的な安全性の観点からは純資産の構成比(自己資本比率)30%以上が一つの目安と言われることもありますが、これをクリアするまでには至っていません。

さらに売上高階級が上の「3千万円超」の5つの階級では、いずれの階級も純資産の構成比(自己資本比率)が30%以上の水準となり、「10億円超」の階級では44%にまで上がっています。売上高階級が上がるほど財務的な安全性が高まっていることが読み取れます。

なお、「10億円超」の階級だけで資産総額の6割ほどを占め、「1億円超」の階級まで広げると実に9割ほどを占めているため、全売上高階級の純資産の構成比は、これらの売上高階級が高い層の数値に近似した値となっています。つまり、全売上高階級の平均の純資産の構成比はこれらの階級の影響を強く受けていることが分かります。これにより、全体の平均が42%と高めに見える一方で、実際には多くの中小企業が30%未満の純資産構成比(自己資本比率)となっており、財務的な安全性が高い水準にあるわけではないと考えられます。

(2)負債(流動負債・固定負債)の構成比の分析

①負債全体

負債の構成比は、全売上高階級の平均が58%(流動負債が28%、固定負債が30%)となっています。上記「(1)純資産の構成比の分析」に記載のとおり、概ね売上高階級が低くなるほど、純資産の構成比が下がるため、逆に負債の構成比は上がる傾向が見られます。その理由を探るため、以下、「②固定負債」と「③流動負債」の主要項目別内訳を見ていくことにします。

なお、全売上高階級の平均の負債(流動負債・固定負債)の構成比が、「1億円超」の階級の影響を強く受けていることは、上記「(1)純資産の構成比の分析」に記載したとおりです。

②固定負債

中小企業の売上高階級別B/Sのうち、固定負債の主要内訳項目別の構成比(2022年度決算実績)を算出したところ、【図表2】のとおりとなっています。

【図表2】中小企業の売上高階級別B/S(固定負債の内訳)の構成比(2022年度決算実績)

【図表2】からは次のような点を読み取ることができます。

固定負債については、売上高階級別に見ると、最も低いのが「10億円超」の階級(24%)で、特に高いのが「1千万円超~3千万円」の階級(53%)、「500万円以下」の階級(52%)、「3千万円超~5千万円」の階級(48%)となっています。概ね売上高階級が低くなるほど、固定負債の構成比が上がる傾向が見られます。売上高が低い企業では、赤字になりやすかったり、利益が少額になりやすかったりするため、十分な自己資本がなく、長期借入(役員からの借入を含む)による資金調達が大きくなっているものと想定されます。会社のお金と社長個人のお金の区分があいまいで、不足資金を社長が出してやりくりをしているケースも想定されます。

【図表2】を見ると、売上高階級の低い層で長期借入(金融機関以外)の構成比が高いのがよく分かります。具体的には、「500万円以下」の階級が33%、「500万円超~1千万円」の階級が22%、「1千万円超~3千万円」の階級が15%、「3千万円超~5千万円」の階級が15%となっており、こうした階級では必要な資金を役員等からの借入に大きく依存している状況が見てとれます。

逆に、「10億円超」の階級は、固定負債の構成比が24%と、他の階級と比べて特に低くなっています。売上高の大きい階級であるため利益も出やすく、自己資本が充実していることが理由の一つとして想定されます。

③流動負債

中小企業の売上高階級別B/Sのうち、流動負債の主要内訳項目別の構成比(2022年度決算実績)を算出したところ、【図表3】のとおりとなっています。

【図表3】中小企業の売上高階級別B/S(流動負債の内訳)の構成比(2022年度決算実績)

【図表1】及び【図表3】からは次のような点を読み取ることができます。

他の階級では概ね流動負債に比して固定負債の構成比が高いのに対して、「10億円超」の階級では固定負債に比して流動負債の構成比が高いのも特徴の一つです。【図表3】に掲げた流動負債の主要勘定別の内訳を見ると、「10億円超」の階級は、仕入債務の構成比が13%と、他の売上高階級と比べて高くなっていることが分かります。「大企業は取引規模が大きいため、運転資金の需要も高くなりやすく、これにより、仕入れや在庫保有のための短期的な資金が必要となり、流動負債が増加するのではないか」といったことも想定されます。

また、【図表3】に掲げた流動負債の主要勘定別の内訳を見ると、売上高階級の低い層で短期借入(金融機関以外)の構成比が高いのがよく分かります。具体的には、「500万円以下」の階級(35%)、「500万円超~1千万円」の階級(20%)、「1千万円超~3千万円」の階級(11%)で構成比が高くなっており、こうした階級では必要な運転資金についても役員等からの借入に大きく依存している状況が見てとれます。

3.おわりに

本連載では、自社の決算数値を自社以外と比較したい場合に活用できる「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)について、現在は中小企業の売上高階級別B/Sの活用について取り上げています。

今回は純資産と負債について分析し、負債についてはさらに内訳項目別にブレイクダウンして、特徴を分析してみました。今回の純資産と負債の分析から、中小企業の財務構造における売上高階級別の特徴が浮かび上がったことと思います。特に、売上高が低い企業ほど純資産の構成比が低く、債務超過に陥りやすいことが分かりました。次に、売上高階級が上がるにつれて、純資産の構成比が改善される傾向が見られましたが、多くの中小企業が依然として30%未満の純資産構成比(自己資本比率)に留まっており、財務的な安全性が十分とは言えない状況です。

さらに、負債の構成比についても、売上高が低い企業ほど高くなる傾向が確認されました。特に、売上高階級の低い層では金融機関以外(役員等)からの借入に依存する度合いが高いことが分かりました。

これにより、企業の財務的な安全性を評価する際には、売上高階級別のB/Sデータを活用することが有用と考えます。中小企業の経営者の方などは、自社の財務状況を売上高階級の近い同業他社と比較することで、改善点や強化すべきポイントを検討する材料とすることができるでしょう。

次回以降も引き続き、「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を使った売上高階級別B/Sの活用法を考えていきたいと思いますので、そちらも併せてお読みいただき、実務上の参考にしていただければ幸いです。

提供:税経システム研究所

コラム・レポート

税務
税務デイリーニュース
税務情報レポート
税金ワンポイント
アウトライン審査事例
会計
会計研究レポート
速くてもミスしない!公認会計士の仕事術講座
経営
経営研究レポート
商事
商事法研究レポート
わかる民法(債権法)改正トピックス

PR インフォメーション

TOP