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第77回 比較分析のいろいろ(17) ~中小企業実態基本調査の活用(その6)

2024/03/15

1.はじめに

自社の決算数値を自社以外の数値と比較してみると、客観的に自社の位置付けが見え、課題が浮き彫りになるといった効果が期待できます。中小企業の場合、自社以外の決算数値はなかなか手に入らないといった問題もありますが、「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を活用することで、自社以外の数値と比較することも可能になります。そこで、本稿では中小企業実態基本調査の概要を説明すると共に、活用法を考えてみようと思います。

前回に続き今回も、業種別P/Lからさらに売上高階級別にブレイクダウンする方法について説明します。

2.ケースで考える中小企業実態基本調査の活用 ~売上高階級でのブレイクダウン(その2)

まずは、ある経理部での様子を描いた【ケース3】をご覧ください。

【ケース3】(前回と同じ)

飲食店を営むK社では、取引銀行に決算書を見せた際、収益性を見る指標の一つである「売上高経常利益率」の水準が低いことを指摘されました。これをきっかけに、中小企業の平均的な売上高経常利益率がどの位の水準なのかが気になり始め、自社の決算数値を他の中小企業の決算数値と比較したい場合に、中小企業実態基本調査が活用できることを知りました。

そして、中小企業実態基本調査を活用しようと、いろいろ調べてみることにしました。そんな中、ふと社長は思いました。

社長:「中小企業と言っても売上水準って結構幅があるよなぁ。そもそも中小企業の売上水準ってどんな感じなんだろう。それに、売上水準が違えば収益性にも相当な違いがあるんじゃないか…」

【ケース3】には、中小企業の売上水準や、売上水準の違いによる収益性の違いが気になっている社長の様子が描かれています。では、こんなときはどうしたら良いのでしょうか。

3.中小企業の売上水準の違いによる収益性の違いを調べてみよう(前回の続き)

前回は、「「売上高階級別」にブレイクダウンする(その1)」として「企業数や従業者数を絡めた分析」をしました。今回は「「売上高階級別」にブレイクダウンする(その2)」として、まずは「全業種合計の利益率に現れた特徴」を俯瞰しておこうと思います。自社の利益率を他の中小企業の数値と比較する場合には、全業種合計ではなく、自社の属する業種を分析すれば良いかもしれませんが、後述するように、全業種合計の利益率に特徴的な傾向が見られるため、今回は参考までに全業種合計での利益率の分析結果を紹介させて頂きます。そのため、業種別・売上高階級別の分析については次回に譲りたいと思います。

(2)「売上高階級別」にブレイクダウンする(その2)~全業種合計の利益率に現れた特徴

前回説明した方法で、中小企業実態基本調査の年度別データの一覧画面の「3.売上高及び営業費用」の中にある「(4)産業別・売上高階級別表」からExcelデータ(法人企業)をダウンロードできますので、これを加工することで、【図表1】のような売上高階級別の各種利益率のデータを算出することも可能です。

【図表1】全業種合計(法人企業)の売上高階級別の利益率(2021年度決算実績)
(注)中小企業実態基本調査(令和3年度(2021年度)決算実績)の「3.売上高及び営業費用-(4)産業別・売上高階級別表 1) 法人企業」のExcelファイルを加工の上、筆者が作成(【図表2】も同様)。

□全業種合計で見てみる

【図表1】を見て筆者が注目したのは、売上総利益率と営業利益率では現れている傾向が大きく異なっている点です。売上総利益率については、売上高が大きくなるほど下がる傾向が顕著に見てとれる一方、営業利益率については、売上高が大きくなるほど上がる傾向が顕著に見てとれます。つまり、全く逆方向となっているのです。しかも、売上高階級別の利益率の差は売上総利益率・営業利益率とも相当程度大きく、たまたまとは言えそうもありません。念のためコロナ禍前の2018年度決算実績値を算出してみたところ、売上高が大きくなるほど売上総利益率は下がり、営業利益率は上がるという傾向は同じように現れていました(末尾の【参考】を参照)。

売上高階級別の経常利益率や当期純利益率については、営業利益率ほど顕著ではありませんが、営業利益率に準じた傾向が現れています。売上総利益率だけ逆方向の傾向が出ているのはなぜなのでしょうか。

【図表1】のように、「売上総利益率」は売上高が大きくなるほど下がる傾向が見てとれたのに対して、「営業利益率」は逆に売上高が大きくなるほど上がる傾向が見てとれたことから、売上原価率や販管費率の内訳項目にブレイクダウンしてさらに分析を進めてみることにします。

中小企業実態基本調査結果として公表されているP/LのExcelデータには、売上原価や販管費の内訳項目が載っています。この中から、売上原価に占める割合が高い「商品仕入原価・材料費」「労務費」「外注費」と、販管費に占める割合が高い「人件費」「動産・不動産賃借料」をピックアップし、売上高に対する比率を計算してみました。

【図表2】売上原価率・販管費率の主な内訳
全業種合計(法人企業)(2021年度決算実績)
(注)上表の各比率は、売上高(売上高階級ごと)に対する比率である。

その結果、売上原価の内訳項目である「商品仕入原価・材料費」「労務費」「外注費」とも、売上高が大きくなるほど、売上高に対する比率が上がる傾向が見てとれます。中でも「商品仕入原価・材料費」は売上高階級ごとの比率の差が顕著になっています。

一方、販管費の内訳項目である「人件費」「動産・不動産賃借料」とも、売上高が大きくなるほど、売上高に対する比率が下がる傾向が見てとれます。中でも「人件費」は売上高階級ごとの比率の差が顕著になっています。

その要因として、もしかすると、「売上高が大きくなると、1件ごとの粗利は小さくても、規模の利益が働き、販管費を賄えるだけの営業利益を上げられる」ということはあるかもしれません。薄利多売とまでは言いませんが、販売量がある程度以上確保できるのであれば、販売価格を抑えて1件ごとの粗利は小さくても採算は確保できるでしょう。ただ、それだけではなかなか説明が付きづらいところがあるように思います。

私の推定での話になりますが、むしろ別の要因が影響しているのではないかと思われます。それは、本来であれば売上原価に計上すべきものであっても、売上高が小さい階級では売上原価と販管費の厳密な区分を行わずに販管費として処理しているケースが多いのではないかということです。労務費・人件費についても同様のことが言えるのではないかと考えます。前回の原稿(仕事術 第76回【図表3-A】など参照)にもあったように、法人企業の場合、1社当たりの従業者数は、売上高階級1千万円以下の階級では2人、1千万円超3千万円以下の階級でも3人といった状況です。家族などごく少人数で営んでいる企業であると想定され、従業者は諸々の業務を行っており、人件費はまとめて販管費として処理していることも想定されます。

また、売上原価率と販管費率を合計してみると、売上高が小さくなるほど、当該比率は上がる傾向が顕著ですので、この点からもそうした状況が推測されます。いずれにせよ、売上高が小さい階級では、人件費率が高く、その負担が重くのしかかっている様子が見てとれます。売上高がある程度以上確保できるような企業では、もっと従業者を増やしてでもそれ以上に多くの売上を上げているものと思われます。

このように見てくると、自社の利益率を中小企業の平均的な利益率と比較しようとする際、売上原価と販管費の区分が適切に行われていない可能性も踏まえておくことが必要でしょう。その意味では、売上高階級別の売上総利益率に注目するよりは、営業利益率に注目した方が良いのではないかというのが、ここまで分析をしてきた私の考えです。売上総利益率を売上高階級別にブレイクダウンする場合は、ここまで指摘した点、具体的には、「売上原価と販管費の区分が適切に行われていない可能性があること」「売上高が小さい階級では人件費の負担が大きいこと」などを念頭に置いた上で参照した方が良いでしょう。

4.おわりに

本連載では現在、自社の決算数値を自社以外と比較したい場合に活用できる「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を取り上げています。

今回は、P/Lに関わるデータを活用する際に、売上高階級別にブレイクダウンすることにスポットを当て、売上高階級と各種利益率との間に見られる傾向を分析してみました。今回は業種別にブレイクダウンせずに全業種の合計数値をもとに分析してみましたが、売上高階級別の差は想像以上に大きかったように感じました。また、今回の分析を通じて、売上総利益率を売上高階級別にブレイクダウンする場合には注意が必要そうな状況も読み取れました。

次回以降も引き続き、「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)の活用法を考えていきたいと思いますので、そちらも併せてお読み頂き、実務上の参考にして頂ければ幸いです。

【参考】全業種合計(法人企業)の売上高階級別の利益率(2018年度決算実績)
(注)中小企業実態基本調査(平成30年度(2018年度)決算実績)の「3.売上高及び営業費用-(4)産業別・売上高階級別表 1) 法人企業」のExcelファイルを加工の上、筆者が作成。
提供:税経システム研究所

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