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第74回 比較分析のいろいろ(14) ~中小企業実態基本調査の活用(その3)

2023/12/15

1.はじめに

決算書の比較分析をする場合に、自社の決算数値を自社以外の数値と比較してみると、客観的に自社の位置付けが見え、課題が浮き彫りになるといった効果が期待できます。中小企業の場合、自社以外の決算数値はなかなか手に入らないといった問題もありますが、「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を活用することで、自社以外の数値と比較することも可能になります。そこで、本稿では中小企業実態基本調査の概要を説明すると共に、活用法を考えてみようと思います。

2.ケースで考える中小企業実態基本調査の活用(その3) ~P/Lに関わるデータを活用する

まずは、ある経理部での様子を描いた【ケース2】をご覧ください。

【ケース2】

飲食店を営むK社では、年度決算が終わり、取引銀行に決算書を見せた際、収益性を見る指標の一つである「売上高経常利益率」の水準が低いことを指摘されました。それまでK社では中小企業の平均的な売上高経常利益率を意識することはありませんでしたが、どの位の水準なのかが気になり始めました。

社長:「他の中小企業の水準も知りたいところだが、うちには他の中小企業の決算書なんてないからな。何か他の中小企業と比較する方法はないものだろうか…」

【ケース2】には、他の中小企業の経営指標(売上高経常利益率)の水準がどの位なのか気になっている社長の様子が描かれています。今回は中小企業実態基本調査を活用して、業種別の利益率を調べてみようと思います。

3.中小企業の業種別の利益率を調べてみよう

(1) 中小企業実態基本調査結果の概況資料を活用する

中小企業実態調査での調査・分析対象項目になっている指標は、概況資料をそのまま活用することができます。利益率のうち「売上高経常利益率」については調査・分析対象項目になっており、【図表1】のように、調査結果の概況資料にも掲載されています(なお、マイナス値の場合は「-」表示されている)。

【図表1】業種別の売上高経常利益率(令和元年度(2019年度)~令和3年度(2021年度))
(出所)中小企業実態基本調査「令和4年調査の概況(令和3年度決算実績)」
(中小企業庁)P21

【ケース2】のK社の社長は、自社の売上高経常利益率をこの概況資料の「宿泊業、飲食サービス業」の値と比較し、自社の売上高経常利益率が中小企業の業種平均よりも低い水準にあることを理解することができました。

(2) Excelで掲載されている統計表を活用する

【ケース2】のK社の社長は、売上総利益率や売上高営業利益率などの業種平均の水準も気になりました。しかし、業種別の売上総利益率や売上高営業利益率などについては調査・分析対象項目になっておらず、調査結果の概況資料にも掲載されていませんでした。

こんなとき、自分が知りたい経営指標の実績値をもっと柔軟に知ることができたら便利なはずです。そのための方法が、Excelで掲載されている統計表を活用する方法になります。

以下では、P/Lに関わる統計表を見ていこうと思います。

①Excelで掲載されている統計表を入手する

P/Lに関わる統計表を見たい場合は、【図表2】の「3.売上高及び営業費用」のところにいくつかの切り口でのP/Lデータが掲載されています。前回取り上げたB/Sについては法人企業だけなのに対して、「売上高及び営業費用」(P/L)については、「法人企業」のデータと「個人企業」のデータの両方があることがお分かり頂けると思います。

【図表2】中小企業実態基本調査の年度別データの一覧画面(抜粋)
(出所)e-Statの中小企業実態基本調査「令和4年確報(令和3年度決算実績)」画面の一部を抜粋(点線枠は筆者が追加)

特に、点線枠を付けた「(2)産業中分類別表 1)法人企業」が、法人企業の業種別のP/Lを見たい場合に最も基本となる統計表です。実際のサイトで【図表2】の点線枠内のEXCELボタンをクリックすることで、業種別のP/LのExcelファイルをダウンロードできますので、試してみて頂ければと思います。

②入手できるP/LのExcelデータの形

入手できるP/LのExcelデータの形は【図表3】のとおりです。

【図表3】P/LのExcelデータの形
(注)実際には上表の1行目の項目が「建設業」や「製造業」などの大分類での業種(11業種)と、さらに中分類での業種(67業種)まで細分されている。
個人企業についての統計表では、「※」欄に※印を付けた科目等についてのみデータが集計されている(なお、「※」欄は筆者が追加したものである)。

法人企業については「売上高及び営業費用」(=P/L)が業種別(「大分類:11業種」及び「中分類:67業種」)等に細分して集計されています。これは中小企業各社のP/Lを業種ごとに合算して、あたかも「建設業」社とか「製造業」社のP/Lがあるかのようなイメージになります。

P/Lの勘定科目については、一般的に重要性の高い勘定科目(例えば、「労務費」「人件費」「減価償却費」「支払利息・割引料」など)も区分して金額が集計されています。その結果、これらの勘定科目に関わる経営指標を自分で算出することもできるので有用です。

③実際に自分で経営指標を算出してみる

【図表3】のようなP/Lがあれば、業種別に、知りたい経営指標(ここでは各種の利益率)を自分で算出することができます。

【ケース2】にある飲食店K社が、自社の属する業種の「売上総利益率」・「売上高営業利益率」・「売上高経常利益率」・「売上高当期純利益率」がそれぞれどの位の水準になっているのかを知りたいときには、中小企業実態基本調査のP/LのExcel統計表を使って、自分で算出することができます。

【図表4】自社の属する業種の各種利益率(2020年度及び2021年度)を自分で計算

【図表4】では、2020年度と2021年度それぞれの中小企業実態基本調査結果として公表されているP/LのExcel統計表を使って、「全業種」、飲食店K社の属する大分類業種である「宿泊業、飲食サービス業」、さらには中分類業種である「飲食店」までブレイクダウンして各利益率を算出したものになります。このように、大分類業種や中分類業種のデータを活用することで、自社の事業により近い業種平均値をつかむことができます。

なお、【図表4】の「宿泊業、飲食サービス業」や「飲食店」を見ると、売上高営業利益率より売上高経常利益率の方が大きく上回っていますが、これは、営業外収益としてコロナの助成金等が計上されているのではないかと推測されます。

【図表4】では、直近の2年度分のみを比較してみましたが、中小企業実態基本調査結果として掲載されているP/LやB/S等のExcel統計表は、2003年度実績以降のものですので、もっと長い期間の決算数値を比較することも可能です。

4.おわりに

本連載では現在、自社の決算数値を自社以外と比較したい場合に活用できる「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を取り上げています。

今回は、P/Lに関わるデータを活用するという観点から、P/Lに関わるデータの入手方法、入手できるP/LのExcelデータの形などについて説明しました。特に、Excelで掲載されているP/Lの統計表を活用することで、業種別にいろいろな利益率を自分で算出することができることがお分かり頂けたと思います。Excelファイルで公表されていることで、中小企業実態基本調査の調査結果の活用の幅が格段に広がるものと思っています。

次回以降も引き続き、「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)の活用法を考えていきたいと思いますので、そちらも併せてお読み頂き、実務上の参考にして頂ければ幸いです。

提供:税経システム研究所

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