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第80回 比較分析のいろいろ(20) ~中小企業実態基本調査の活用(その9)

2024/06/21

1.はじめに

中小企業の場合、自社以外の決算数値はなかなか手に入りませんが、「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を活用することで、自社以外の数値と比較することも可能になるため、本連載では中小企業実態基本調査の概要を説明すると共に、活用法を考えてきました。

ここまで見てきた中小企業の業種別P/Lの活用についてのまとめの意味もかねて、前回から3回にわたって、P/L活用の流れを整理しておこうと思います。説明は「宿泊業,飲食サービス業」を例にして、中小企業実態基本調査のデータを使いながら行います。

2.中小企業の業種別P/Lの活用についてのまとめ(その2)

まずは、ある経理部での様子を描いた【ケース4】をご覧ください。

【ケース4】(前回と同じ)

飲食店を営む法人企業K社(従業者規模は30名前後、年間売上高は8億円前後)では、取引銀行に決算書を見せた際、収益性を見る指標の一つである「売上高経常利益率」の水準が低いことを指摘されました。これをきっかけに、中小企業の平均的な売上高経常利益率がどの位の水準なのかが気になり始め、自社の決算数値を他の中小企業の決算数値と比較したい場合に、中小企業実態基本調査が活用できることを知りました。

そして、中小企業実態基本調査を活用しようと、いろいろ調べてみることにしました。そんな中、ふと社長は思いました。

社長:「中小企業と言っても従業者数や売上水準って結構幅があるよなぁ。うち位の規模の中小企業の収益性ってどんな感じなんだろう」

以下の説明は、K社の業種や従業者数規模、売上高水準に合致する統計表を使って分析していますが、その方法を参考にして、自社の分析の際は自社に合致した業種や規模の統計表を使って頂ければと思います。

□P/Lのブレイクダウンの切り口(つづき)

前回は「(1)ブレイクダウンの切り口① ~業種別(中分類)」として、大分類(全11業種)の業種別P/Lをさらに中分類(全67業種)の業種別P/Lにブレイクダウンする切り口について説明しました。今回は、大分類(全11業種)の業種別P/Lをさらに「従業者規模別」にブレイクダウンする切り口について説明します。

(2)ブレイクダウンの切り口② ~従業者規模別

大分類(全11業種)の業種別P/Lを、さらに従業者規模別に細分した「大分類業種別かつ従業者規模別P/L」も公表されています。

中分類(全67業種)ではなく、あくまでも大分類(全11業種)がベースになっていますが、もっと自社の従業者規模に近いデータを参照したいという場合には、従業者規模別にブレイクダウンした統計表を活用することができます。

統計表(前回の【図表1】を参照)の「3.売上高及び営業費用」に、「(1)産業別・従業者規模別表」があり、これが大分類業種かつ従業者規模別にブレイクダウンしたP/Lとなります。

ちなみに、従業者規模は【図表2】のように細分されています。

【図表4】中小企業実態基本調査における従業者規模別の切り口
法人・個人
合計
法人企業 個人企業
法人計 5人以下 6~20人 21~50人 51人以上

【ケース4】のK社は、従業者規模30名前後の法人企業ですので、自社に近い従業者規模の業種別P/Lを参照したいのであれば、大分類業種「宿泊業,飲食サービス業」の中の、「法人企業21~50人」のP/Lを活用することが考えられます。

【図表5】は、こうした数値自体が中小企業実態基本調査の調査結果として公表されているものではありません。自社の決算数値を同業種・同規模の中小企業の平均的な数値と比較したいといった場合に、知りたい指標などを自身で検討した上、自身で当該数値を算出してまとめている表になります。元にしたデータは、中小企業実態基本調査の平成30年度~令和3年度(2018~2021年度)の年度ごとの決算実績から、各年度の「3.売上高及び営業費用-(1)産業別・従業者規模別表」のExcelファイルをダウンロードした上で、筆者が加工して作成したものになります。

ここでは各種の指標等がピックアップされていますが、筆者がこれらをピックアップした根拠は概ね以下のとおりです。

✓主な段階利益の利益率をピックアップ
・売上総利益率、営業利益率、経常利益率、当期純利益率

✓これらの利益率を分析する上で必要な内訳項目をピックアップ
・売上原価や販管費の主要な内訳項目

✓母集団の規模を把握しておくための情報を追加
・母集団の企業数や従業者数

✓自社と比較しやすいように単位当たり売上高の情報を追加
・1社当たり売上高、従業者1人当たり売上高

これはあくまでも今回筆者が実施した分析の切り口に過ぎませんので、実際には、読者の方々がご自分の必要とする情報に応じて分析対象項目を適宜ピックアップして頂くことを想定しています。

【図表5】自社の属する大分類の業種かつ自社と同水準の従業者規模にブレイクダウンして

【図表5】からは次のような点が読み取れます。

✓2018年度から2021年度にかけて、従業者21~50人の宿泊業・飲食サービス業では、母集団企業数については横ばいで推移している。なお、宿泊業,飲食サービス業全体のうち従業者21~50人の企業は10%ほどを占めている。

✓1社当たり売上高は、2019年度で前年度比28%増の244百万円となったものの、2020年度では21%減の192百万円まで減少している。新型コロナウイルスの影響が大きいことが想定される。

✓従業者1人当たり売上高は5~7百万円の水準で推移している。

✓売上総利益率は65~70%位の水準で推移している。売上原価に占める商品仕入原価・材料費部分が大きい一方、労務費部分は小さい。

✓売上高営業利益率は2018年度が△0.2%、2019年度が0.7%と低水準であったが、2020年度、2021年度にはともに△12%台と大幅な赤字となっており、新型コロナウイルスの影響が大きいことが想定される。

✓売上高に対する比率は、販管費の中でも特に人件費率の上昇が際立っており、2018年度の28.3%から上昇が続き、2021年度には39.3%となっている。これは、人件費を売上高の減少に応じて減らすことができなかったものと想定される。

✓以上のことから、宿泊業・飲食サービス業の従業者21~50人の中小企業は、新型コロナウイルスの影響などで売上高が大きく減少し、利益率も低下したことがわかる。また、販管費率、特に人件費率の上昇など、経営の効率化やコスト削減に課題があることが想定される。

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今回は「(2)ブレイクダウンの切り口② ~従業者規模別」の説明までとさせて頂き、残りのブレイクダウンの切り口の説明は次回に譲ろうと思います。

提供:税経システム研究所

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