税務情報レポート
MJS税経システム研究所・税務システム研究会の顧問・客員研究員による租税を中心とした多彩な研究成果および最新の税制改正および制度や動向、判例研究等に関するリポートです。
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2025/07/01 消費税
令和6年度消費税改正④ 消費税のプラットフォーム課税・金地金等の取得
1.消費税のプラットフォーム課税の創設(1)改正の趣旨デジタルサービス市場の拡大によりプラットフォームを介して多くの国外事業者が国内市場に参入している中で、国外事業者の納めるべき消費税の捕捉や調査・徴収が課題となっています。こうした課題に対し、国内外の事業者間の競争条件の公平性や適正な課税を確保するため、国外事業者が提供するデジタルサービスを対象にプラットフォーム課税を導入することとなりました。(2)改正内容①プラットフォーム課税の概要国外事業者がデジタルプラットフォームを介して行う電気通信利用役務の提供(事業者向け電気通信利用役務の提供に該当するものを除きます。以下「消費者向け電気通信利用役務の提供」といいます。)のうち、下記②の「特定プラットフォーム事業者」を介してその対価を収受するものについては、特定プラットフォーム事業者が行ったものとみなして、特定プラットフォーム事業者が申告・納税を行います(消法15の2①、〔図表1〕参照)。なお、国税庁ホームページでは、「消費税のプラットフォーム課税に関するQ&A(プラットフォーム事業者用)令和6年7月」(以下「プラットフォーム課税Q&A」といいます。)などの資料が公表されています。〔図表1〕消費者向け電気通信利用役務の提供に係る申告納税義務者(出典:国税庁「消費税のプラットフォーム課税について」(令和6年4月))②特定プラットフォーム事業者特定プラットフォーム事業者の指定国税庁長官は、プラットフォーム事業者のその課税期間において、その提供するデジタルプラットフォームを介して国外事業者が日本国内において行う消費者向け電気通信利用役務の提供に係る対価の額のうち、そのプラットフォーム事業者を介して収受するものの合計額が50億円を超える場合には、そのプラットフォーム事業者を「特定プラットフォーム事業者」として指定します。この指定は、「特定プラットフォーム事業者の指定届出書」(以下「指定届出書」といいます。)の提出期限(その提出期限までに指定届出書の提出がない場合は、指定通知を発した日)から6か月を経過する日の属する月の翌月の初日に指定の効力が生じます(消法15の2②、プラットフォーム課税Q&A問14)。特定プラットフォーム事業者の届出上記アの「特定プラットフォーム事業者」に該当する事業者は、その課税期間に係る確定申告書の提出期限までに指定届出書を所轄税務署長を経由して国税庁長官に提出しなければなりません(消法15の2③、プラットフォーム課税Q&A問13)。特定プラットフォーム事業者の公表等国税庁長官は、特定プラットフォーム事業者を指定したときは、その特定プラットフォーム事業者に対してその旨を通知するとともに、国税庁ホームページに次の事項を公表しなければなりません(消法15の2④、消令29⑤、プラットフォーム課税Q&A問14、〔図表2〕参照)。特定プラットフォーム事業者のデジタルプラットフォームの名称特定プラットフォーム事業者の氏名・名称特定プラットフォーム事業者の指定の効力が生ずる年月日なお、通知を受けた特定プラットフォーム事業者は、対象となる国外事業者に対し、プラットフォーム課税の対象となる旨及び対象となる年月日を速やかに通知しなければなりません(消法15の2⑤、プラットフォーム課税Q&A問16)。〔図表2〕特定プラットフォーム事業者名簿特定プラットフォーム事業者の氏名又は名称(日本語)(令和6年12月6日現在)iTunes株式会社アマゾンウェブサービスジャパン合同会社グーグルアジアパシフィックプライベートリミテッド任天堂株式会社(出典:国税庁「特定プラットフォーム事業者名簿」)確定申告書への明細書添付特定プラットフォーム事業者は、プラットフォーム課税の対象となる消費者向け電気通信利用役務の提供の対価の合計額等を記載した明細書を確定申告書に添付しなければなりません(消法15の2⑮、規則11の5⑤、プラットフォーム課税Q&A問17)。(3)用語の説明①電気通信利用役務の提供電気通信利用役務の提供とは、アプリ配信のほか、電子書籍・音楽の配信などの電気通信回線(インターネット等)を介して行われる役務の提供をいいます。②デジタルプラットフォーム「デジタルプラットフォーム」とは、不特定かつ多数の者が利用することを予定して電子計算機を用いた情報処理により構築された場であって、その場を介してその場を提供する者以外の者が消費者向け電気通信利用役務の提供を行うために、その消費者向け電気通信利用役務の提供に係る情報を表示することを常態として不特定かつ多数の者に電気通信回線を介して提供されるものをいい、例えば、アプリストアや電子書籍のオンラインモールなどが該当します(消法15の2①、プラットフォーム課税Q&A問3)。(4)改正時期上記(2)の改正は、令和7年4月1日以後に国内において行われる消費者向け電気通信利用役務の提供について適用します(令和6年改正法附則13⑥)。2.金地金等を取得した場合の事業者免税点制度等の制限(1)改正の趣旨高額特定資産は、一の取引の単位の税抜金額(1,000万円以上)で判定することとされていますが、金又は白金の地金等(以下「金地金等」といいます。)の取引による特例の恣意的な潜脱を防止するため、その課税期間中の金地金等の税抜仕入金額の合計額が200万円以上である場合について、高額特定資産を取得した場合と同じく、事業者免税点制度の適用及び簡易課税制度選択届出書の提出を制限することとなりました。(2)改正内容①取扱い事業者が、消費税の確定申告を本則課税で行う課税期間中に金地金等の課税仕入れを行った場合において、その課税期間中の税抜仕入金額の合計額(12か月換算)が200万円以上であるときは、次のア及びイの取扱いがあります。金地金等の課税仕入れを行った課税期間の翌課税期間から、その課税仕入れを行った課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間については、免税事業者となることはできません(消法12の4③、消令25の5④)。金地金等の課税仕入れを行った課税期間の初日から、同日以後3年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までの期間については、「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出することができません(消法37③五)。(3)届出様式の改訂上記(2)の改正に伴い、次の届出書の様式が改訂されました。高額特定資産の取得等に係る課税事業者である旨の届出書消費税簡易課税制度選択届出書(4)改正時期上記(2)の改正は、令和6年4月1日以後に国内において事業者が行う金地金等の課税仕入れ及び保税地域から引き取られる金地金等について、適用します(平成6年改正法附則13④)。提供:税経システム研究所
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2025/06/25 消費税
消費税の納税義務判定のポイント解説(第24回) 新設法人の納税義務の免除の特例④ インボイスの登録申請
1.新設法人の納税義務の免除の特例とは新設法人の納税義務の免除の特例(以下「新設法人の特例」といいます。)とは、基準期間のない事業年度の期首資本金が1,000万円以上の新設法人(社会福祉法人を除きます。)について、消費税の納税義務を免除しないとする特例です(消法12の2①)。この特例の概要は、消費税の納税義務判定のポイント解説(第22回)「新設法人の納税義務の免除の特例①」を参照してください。今回は、この特例の適用を受ける新設法人がインボイスの登録申請を行う場合の留意点を解説します。2.新設法人がインボイス登録をする場合の特例新たに設立された法人がインボイスの登録申請を行う場合には、新たに設立された法人等の登録時期の特例(以下「登録時期の特例」といいます。)の適用を受けることができます。これは、事業を開始した日の属する課税期間の末日までに、「事業を開始した日の属する課税期間の初日から登録を受けようとする旨」を記載した登録申請書を提出した場合には、その課税期間の初日、つまり法人の設立日にインボイスの登録を受けたものとみなされる特例です(消令70の4、消規26の4、消基通1-4-7、1-4-8)。この特例は、「新設法人の特例」の適用を受けたかどうかに関わらず、全ての新設法人が適用を受けることができます。3月決算法人を例に、取扱いを確認してみましょう。【前提条件】X3年4月1日に資本金1,000万円で設立X3年4月1日(設立日)に遡ってインボイス登録することを希望している【図1】適格請求書発行事業者の登録申請書【1/2】一部抜粋登録申請書【1/2】下段の「事業者区分」のうち、次の2つの欄に☑を入れます。☑「新たに事業を開始した個人事業者又は新たに設立された法人等」☑「事業を開始した日の属する課税期間の初日から登録を受けようとする事業者」その上で、事業を開始した日の属する課税期間の初日(法人の設立日)である「X3年4月1日」を記載します。また、このほかに登録申請書【2/2】中段「B登録要件の確認」にも必要事項を記載します。【図2】「登録時期の特例」の適用を受けた場合の登録日の考え方登録申請書に上記【図1】で解説した「事業を開始した日の属する課税期間の初日から登録を受けようとする旨」を記載し、事業を開始した日の属する課税期間の末日、つまり、設立1期目の末日であるX4年3月31日までに納税地の所轄税務署長に提出します。これにより、事業開始した課税期間の初日(設立日)に遡って登録を受けたものとみなされるため、この法人の登録日はX3年4月1日になります。なお、「登録時期の特例」の適用を受けようとする場合の登録申請書の提出期限は設立1期目の末日(X4年3月31日)であり、確定申告書の提出期限(X4年5月31日)ではないことに注意が必要です。X4年4月1日以降に登録申請書を提出する場合には、設立日に遡ってインボイス登録することはできません。3.新設法人が「登録時期の特例」の適用を受けない場合のインボイス登録「新設法人の特例」の適用を受ける事業者が、上記2で解説した「登録時期の特例」の適用を受けずにインボイス登録をする場合には、インボイスの登録の時期を選ぶことができません。この場合の登録日は、登録申請書の提出後に届く登録通知書で確認をすることになります。登録申請書【2/2】「A免税事業者の確認」には登録希望日を記載する欄がありますが、登録希望日を記載することができるのは、免税事業者である課税期間中に登録をする場合のみです。「新設法人の特例」が適用される期間中は課税事業者であるため、登録希望日を記載する(登録時期を選ぶ)ことはできません。3月決算法人を例に、取扱いを確認してみましょう。【前提条件】X3年4月1日に資本金1,000万円で設立X3年4月1日(設立日)に遡ってインボイス登録することを希望しない設立1期目の期中に登録申請書を提出する【図3】できるだけ適格請求書発行事業者の登録申請書【1/2】一部抜粋登録申請書【1/2】下段の「事業者区分」のうち、次の2つの欄に☑を入れます。☑「新たに事業を開始した個人事業者又は新たに設立された法人等」☑「上記以外の課税事業者」(「新設法人の特例」により課税事業者となるため)また、このほかに登録申請書【2/2】中段「B登録要件の確認」にも必要事項を記載します。【図4】「登録時期の特例」の適用を受けない場合の登録日の考え方「登録時期の特例」の適用を受けない場合には、登録の時期を選ぶことができないため、登録申請書の提出後に届く登録通知書で登録日を確認することになります。なお、【図4】では登録申請書の提出と登録日がいずれも設立1期目になっていますが、登録申請書の提出が期末に近い場合には、登録日が設立2期目の日付になることも考えられます。また、設立1期目中に減資を行わない場合には、設立2期目も「新設法人の特例」の適用により課税事業者になるため、設立2期目中に登録をするときも同様の取扱いになります。国税庁のホームページでは、今回解説をした新設法人のケースも含めて、ケース別に登録申請書の記載方法をフローチャート形式で解説しています。登録申請書を作成する際の参考になります。「相続により適格請求書発行事業者の事業を承継していない個人事業者・法人用」https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shohi/annai/pdf/0022012-012.pdf「相続により適格請求書発行事業者の事業を承継した個人事業者用」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0024009-069_01.pdf提供:税経システム研究所
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2025/06/18 所得税国際税務
国外財産調書の10年
はじめに居住者の方(非永住者の方を除きます。)で、その年の12月31日においてその価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を有する場合には、その国外財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した国外財産調書を、その年の翌年の6月30日までに、住所地等の所轄税務署に提出しなければなりません。そして、国外財産調書の提出が提出期限内にない場合又は提出期限内に提出された国外財産調書に記載すべき国外財産の記載がない場合などに、その国外財産に関して所得税・相続税の申告漏れ(死亡した方に係るものを除きます。)が生じたときは、その国外財産に係る過少申告加算税等が5%加重されます。本稿は、国外財産調書の10年と題して国税庁公表資料を題材として、その提出状況と筆者が考える問題点について述べていきたいと思います。1.国外財産調書の提出状況(1)国外財産調書に基づく国外財産の状況国外財産調書の提出が始まったのは2013年12月31日現在の国外財産からです。執筆日現在、2023年12月31日現在の国外財産の提出状況まで公表されています。これら合計11年分の資料のうち、国外財産の提出状況を図表1にまとめました。【図表1:国外財産調書の提出状況】(出典:国税庁資料に基づいて筆者作成)図表1をご覧いただくと、国外財産調書の提出枚数と国外財産金額が順調に増加していることがわかります。提出枚数は2013年5,539件が2023年には13,243件に、国外財産の合計は2013年2.51兆円が2023年6.49兆円にそれぞれ増加しています。(2)加算税の加重措置件数と増差所得金額の状況国外財産調書制度は、富裕層と呼ばれる納税者が「自主的に」提出することになっています。ただし、富裕層が全員国外財産調書を提出するとは限りません。そこで、国外財産調書を適切に提出した場合加算税の減額措置がある一方で、その逆(国外財産調書を提出しない又は重要な財産を記載していない)には、加算税を加重することとされています。これについて、図表2で加重措置件数と増差所得金額をお示しします。【図表2:加算税の加重措置件数と増差所得金額(単位:億円)】(出典:国税庁資料に基づいて筆者作成)2.国外財産調書の問題点(1)最近の円安をどのように考えるかご案内のように、ロシアによるウクライナ侵攻により、それまで1米ドル=115円程度だった円は大幅に円安になりました。一時は1米ドル=160円を超えるなどして、日本政府は為替介入を行いました。為替については、第2次トランプ政権の関税政策により円高方向ではありますが、引き続き140円台となっています。国外財産調書は円貨で計算することになっているので、円高の時には金額が少なくなる一方、円安の場合は多く表示されます。これを図表1に当てはめてみると、2013年は1米ドル=97.75円、2014年は109.45円でしたが、2022年は144.81円、2023年は141.84円となっています。2013年と2023年を比べると、1.45倍になっています。そうなると、国外財産調書の金額も為替を考慮した方がいいと思います。(2)国際的な株高を考えなくてもいいのか図表1には表示していませんが、国外財産調書のうち有価証券の割合が毎年50%を超えています。具体的は2013年では2.51兆円のうち1.56兆円が有価証券でした。2023年も6.39兆円のうち4.1兆円が有価証券です。2013年に比べると2023年では2.6倍に増えました。有価証券ということは、株式や国債、投資信託などが含まれます。このうち、外国の国債は国外財産に含まれます。これ以外は外国に所在する証券会社等と契約したものが国外財産になります。ちなみに、新NISAで外国株式やオルカン(オールカントリーという投資信託)に投資している方は増えましたが、こちらは国内の証券会社との契約ですので国内財産になります。ここで、米国の代表的指標であるS&P500指数を調べてみました。それによると、2013年は1681だったのが2023年は4769と2.84倍に上昇しました。もちろん、国外財産調書に記載された有価証券がすべてS&Pに投資されたわけではありませんが、海外の金融市場は新型コロナの影響を受けつつも順調に上昇していることはご存知のとおりです。こうなると、国外財産調書の有価証券の金額が2.6倍になったとしても、米国S&Pの伸びと比較すると、ほとんど変わりません。ということは、国外財産調書の提出枚数は順調に増加したものの、(ちょっと乱暴ではありますが)海外金融市場における上昇幅と比較するとそれほど増えているわけではないと言っても過言ではないようです。(3)加算税の加重措置件数は高止まりしている図表2をご覧いただくと、加算税の加重措置件数は2019年には450件ほどでしたが、ここ4年ほどは300件程度です。国外財産調書の提出枚数は順調に増加しているにもかかわらず、加算税の加重措置件数は高止まりしていると考えられます。このことは、制度開始から10年以上経過しているにもかかわらず、未だに国外財産調書を提出していない又は重要な情報を記載していない富裕層が相変わらず一定数いるということです。ここ数年は新型コロナの影響で税務調査は比較的困難な状況にあったことを考えると、引き続き一定の富裕層は国外財産調書を提出していないのではないかと考えられます。もっとも、上述したように最近の海外金融市場における上昇と円安の影響を直接受けて、急に国外財産が5000万円を超えることになった納税者はいるかもしれません。しかし、一般の納税者の感覚からすると、外国の証券会社に一定以上の有価証券を寄託することができる人は、まさに富裕層だからこそ、と思われます。いずれにしても、合計で13,243枚(2023年)しか提出されていない国外財産調書に関して、加重措置件数が300件程度というのでは国外財産調書を真面目に提出している方とそうでない方との公平性が担保できていないのではないでしょうか。まとめ本稿は、国外財産調書の10年と題して、同制度に関する国税庁公表資料を紹介するとともに、その問題点を記載してみました。図表1を見ていただくと、国外財産調書の提出枚数と金額は順調に増加してきました。一方、加算税の加重措置件数は高止まりしているといってもいい状況です。富裕層は相当前から海外のプライベートバンクを利用しています。富裕層は所得金額が高く、納税額も多額になることから、どうしても税金を払いたくないという誘惑にかられます。このような状況下、富裕層に対する適正な課税、特に真面目に国外財産調書を提出している方とそうでない方との公平性を確保することが求められると思います。提供:税経システム研究所
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2025/06/11 相続・贈与税税制改正
相続時精算課税に係る基礎控除の創設と期限後申告における相続時精算課税の適用の可否
1相続時精算課税に係る基礎控除の創設令和5年度税制改正において、相続時精算課税について暦年課税とは別に110万円の基礎控除が創設され(相法21の11の2①、措法70の3の2①)、まず、この基礎控除額を控除した後に、従来の限度額2,500万円の特別控除額を控除することとされました。すでに、令和6年1月1日以後に贈与により取得した財産について適用されています。なお、同一年中に2人以上の特定贈与者からの贈与により財産を取得した場合の基礎控除額110万円は、特定贈与者ごとの贈与税の課税価格で按分することになります(相法21の11の2②)。また、特定贈与者の死亡に係る相続税の課税価格に加算される令和6年1月1日以後に贈与により取得した財産の価額は、基礎控除額を控除した後の残額とされているため(相法21の15①)、相続税の計算の際、基礎控除額部分は対象外となります。【国税庁資料】2相続時精算課税の申告及び届出の確認令和6年1月1日以後に贈与により財産を取得し、新たに相続時精算課税制度の適用を受けようとする受贈者で、この基礎控除後の課税価格がある場合には、贈与を受けた財産に係る申告書の提出期限までに、相続時精算課税選択届出書及び受贈者や特定贈与者の戸籍謄本や抄本など、一定の書類を申告書に添付して提出する必要があります。なお、基礎控除後の課税価格がない場合には、申告義務がないことから、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、相続時精算課税選択届出書、一定の書類を単独で提出しなければなりません(相法21の9②)。相続時精算課税選択届出書(令和6年分以降用)には、3欄に次のような記載欄があります。また、相続時精算課税選択届出書をその提出期限までに提出しなかった場合には、相続時精算課税の適用を受けることはできず、その場合における宥恕規定は設けられていないので注意が必要です(相基通21の9‐3)。3期限後申告における相続時精算課税の適用の可否国税庁は昨年11月27日に、この改正に関係する「質疑応答事例」を3題追加しました。その中に、「相続時精算課税選択届出書を単独で提出した後に贈与税の期限後申告書を提出する場合の相続時精算課税の適用の可否(令和6年1月1日以後の贈与の場合)」というものがあります。照会内容は、期限内に選択届出書は提出しているが、当初は贈与を受けた株式の価額を100万円、つまり相続時精算課税に係る基礎控除額以下と認識していたため、贈与税の申告書は提出していなかったというケースについてです。その後、その株式の価額について評価誤りがあり、正しくは500万円であったことが判明し、基礎控除額を超えたために期限後申告書を提出することとなった場合、相続時精算課税を適用して贈与税額を計算できるかというものです。これに対し、選択届出書を期限内に提出していることから、期限後申告であっても相続時精算課税の適用を受けることは可能ですが、期限内に贈与税の申告書の提出がなかったために、限度額2,500万円の特別控除の適用は受けられないという回答がなされています。相続税法基本通達21の9-3(注)2では、「相続時精算課税選択届出書のみをその提出期限までに提出した場合には、相続時精算課税の適用を受けることができることから、例えば、贈与により財産を取得した者が当該規定に基づいてその提出期限までに相続時精算課税選択届出書のみを提出していた場合において、当該贈与を受けた年分に係る贈与税についての期限後申告書を提出することとなった場合でも、引き続き相続時精算課税の適用を受けることができることに留意する。」とされています。一方で特別控除については、期限内申告書に控除を受ける金額、基礎控除額、前年以前にこの特別控除を適用し控除した金額等の記載がある場合に限り適用されることとなっています(相法21の12②、措規12)。結果として、期限後申告では500万円から基礎控除額110万円を控除した390万円の20%、78万円を納税することになります。提供:税経システム研究所
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2025/06/04 消費税
外国人旅行者向け消費税免税制度の見直し① 「リファンド方式」への改正後の免税店の会計処理
1.「リファンド方式」への改正(1)改正の趣旨外国人旅行者向け消費税免税制度については、不正利用を排除し、免税店が不正の排除のために負担を負うことのない制度とするため、令和8年11月1日以後の免税対象物品の譲渡については、出国時に持出しが確認された場合に免税販売が成立する制度に見直されます。(2)改正内容免税店が、外国人旅行者に対して免税対象物品を譲渡した場合で、その外国人旅行者がその購入日から90日以内に出港地の税関長による確認を受けたときは、その確認をした旨の情報(以下「税関確認情報」といいます。)を免税店において保存することを要件として、その免税対象物品の譲渡について、消費税が免除されます。この改正に伴い、実務上、消費税等相当額を含めた価格で販売し、出国時に持出しが確認された場合に免税店から外国人旅行者に対し消費税等相当額を返金する「リファンド方式」となります。図表1「リファンド方式」のイメージ出典:外国人旅行者向け免税制度の見直し(案)について(財務省・国税庁・経済産業省・観光庁)2025年1月図表2「90日以内の税関確認」のイメージ出典:外国人旅行者向け免税制度の見直し(案)について(財務省・国税庁・経済産業省・観光庁)2025年1月2.免税店の消費税に関する会計処理(1)課税売上げから免税売上げへ振替上記1の「リファンド方式」による免税店の消費税に関する会計処理は、販売時に課税売上げを計上し、税関確認情報を取得後、次のいずれかの方法により、免税売上げに振り替えます。取得の都度、当初の課税売上げを特定して、免税売上げに振り替える方法(個別振替方式)月次等の一定のタイミングで一括して免税売上げに振り替える方法(一括振替方式)なお、外国人旅行者が税関で持出し確認を行わないなどにより、税関確認情報を保存できない場合には、振替処理を行わず、当初のまま課税売上げとなります。(2)設例による仕訳例【設例】A免税店では、食料品以外の商品を販売しています。次のそれぞれの場合の仕訳は、どのようになりますか。課税売上げで販売(税抜経理の場合)外国人旅行者に対し、商品を11,000円(うち消費税等相当額1,000円)で販売しました。外国人旅行者に消費税等相当額が返金された場合(個別振替方式の場合)上記①の取引について、税関確認情報を取得し、保存しました。消費税等相当額1,000円を返金しました。外国人旅行者に消費税等相当額が返金されなかった場合上記①の取引について、免税販売の要件を満たしていますが、外国人旅行者の都合等で返金できないことになり、当事者間の契約により返金不要となりました。上記①の取引について、外国人旅行者が税関で持出し確認を行わないなどにより、税関確認情報を保存できませんでした。【仕訳例】提供:税経システム研究所
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2025/05/28 相続・贈与税
相続開始前7年以内に贈与があった場合における相続税の課税価格への加算額及び贈与税額の控除について
1暦年課税制度における相続前贈与の加算期間の延長相続又は遺贈により財産を取得した者が、その相続開始前7年以内(改正前:3年以内)にその相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合には、その贈与により取得した財産(以下「加算対象贈与財産」とします)の価額(加算対象贈与財産のうち、その相続開始前3年以内に取得した財産以外の財産にあっては、その財産の価額の合計額から100万円を控除した残額)を相続税の課税価格に加算することになりました(相法19)。なお、上記の改正は、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税について適用されています。2令和10年に相続が開始した場合における生前贈与財産に対する取扱いの具体例長女は、父及び母から贈与により下表のように財産を取得しましたが、令和10年10月10日に父が死亡しました。下表の贈与財産について、父の相続税の課税価格に加算される金額及び相続税額から控除される暦年課税分の贈与税額控除の金額はどのようになるでしょうか。なお、長女は下表の贈与財産について、相続時精算課税を選択していません。3加算対象贈与財産は相続税の課税価格に加算相続又は遺贈により財産を取得した者(相続人等)が加算対象期間内に被相続人から暦年課税に係る贈与により財産を取得している場合には、その贈与により取得した加算対象贈与財産の価額は相続税の課税価格に加算されます(相法19①)。なお、加算対象期間は、令和5年度税制改正により、次のように見直しされました(相法19、改正法附則19①~③)。4相続開始前3年以内に取得した財産以外の財産に対する100万円控除令和5年度税制改正により、加算対象贈与財産のうち相続開始前3年以内に取得した財産以外の財産は、総額100万円まで相続税の課税価格に加算されないことになりました(相法19①)。相続開始前3年以内に取得した財産以外の財産の価額の合計額が100万円以下である場合には、その財産を贈与した被相続人の死亡に係る相続税の課税価格に加算される財産の価額はありません(零になります)。この100万円を上限とした控除は、贈与により財産を取得した年分ごとに控除するものでなく、相続開始前3年以内に取得した財産以外の財産の価額の合計額から100万円を上限に控除するものです。5「課された贈与税」は相続税額から控除財産を贈与により取得した年中において、被相続人(父)以外の贈与者(母)から暦年課税に係る贈与により財産を取得しているためにその年分に贈与税の課税が生じているときには、被相続人(父)から贈与により取得した財産に課された贈与税の部分(暦年課税分の贈与税額控除の金額)は、相続税法第19条第1項に規定する「課せられた贈与税」に該当し、被相続人(父)の死亡に係る相続税額から控除されます。上記の場合における暦年課税分の贈与税額控除の金額は、相続人(長女)に課されたその年分の暦年課税分の贈与税額に、相続人(長女)に係るその年分の暦年課税に係る贈与税の課税価格のうち、相続人(長女)が被相続人(父)から取得した加算対象贈与財産の価額が占める割合を乗じて計算した金額になります(相令4①、措令40の4の5②)。なお、相続開始前3年以内に取得した財産以外の財産については、100万円控除はありません。6具体的な計算過程父の死亡に係る相続税の課税価格に加算される金額及び暦年課税分の贈与税額控除の金額は、それぞれ次のようになります。(1)父の死亡に係る相続税の課税価格に加算される金額(加算対象贈与財産の価額)相続開始前3年以内に取得した財産以外の財産の価額(注1)加算対象期間のうち相続開始前3年以内に取得した財産以外の財産に係る期間に取得した財産(イ及びハ)が100万円控除の対象になります。(注2)相続開始前3年以内に取得した財産以外の財産の価額の合計額が100万円以下のため、相続税の課税価格に加算される金額は0円になります。相続開始前3年以内に取得した財産の価額110万円(ホの価額)合計額(加算対象贈与財産の価額)0円(①の価額)+110万円(②の価額)=110万円(2)相続税額から控除される暦年課税分の贈与税額控除の金額令和6年分の贈与令和7年分の贈与(注3)相続開始前3年以内に取得した財産以外の財産(イ及びハ)については、100万円控除をする前の価額に基づき暦年課税分の贈与税額控除の金額を計算することになります。暦年課税分の贈与税額控除の金額の合計額0.9万円(①の金額)+10.3万円(②の金額)=11.2万円提供:税経システム研究所
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2025/05/21 その他の税・法令等
令和7年度税制改正での電子帳簿保存法 新たな加算税の軽減措置の追加
1.令和7年度税制改正で電子取引に係る改正が入りました電子帳簿保存法では、従来、スキャナ保存と電子取引の保存において、電磁的記録に記録された事項に関し、隠蔽し、又は仮装された事実に基づいた申告等によって重加算税が課せられる場合においては、その電磁的に記録された事項に関して生じた申告漏れ等に課される重加算税の割合を10%加重する措置がありました(電帳法8⑤)。令和7年度税制改正では、この規定に対して、加重措置の対象から除外される場合が設けられました。(1)改正の内容加重措置の対象から除外されるのは、その保存が特定電磁的記録であり、その記録が次に掲げる要件を満たしている場合となります(改正電帳法8⑤)。その電子取引の取引情報に係る電磁的記録の記録事項について訂正又は削除を行った事実及び内容を確認することができる特定電子計算機処理システム(訂正又は削除を行うことができないものを含む。)を使用してその電磁的記録の授受及び保存を行うこと。その電子取引の取引情報に係る電磁的記録の記録事項(金額に係るものに限る。)を訂正又は削除を行った上で国税関係帳簿に係る電磁的記録等に記録した場合には、その訂正又は削除を行った事実及び内容を確認することができる特定電子計算機処理システム(訂正又は削除を行った上で国税関係帳簿に係る電磁的記録等に記録することができないものを含む。)を使用してその電磁的記録の授受及び保存を行うこと。その電子取引の取引情報(請求書・納品書等の重要書類に通常記載される事項に限る。)に係る電磁的記録の記録事項とその取引情報に関連する国税関係帳簿に係る電磁的記録等の記録事項との間において、相互にその関連性を確認することができるようにしておくこと。上記①及び②の特定電子計算機処理システムを使用してその電子取引の取引情報に係る電磁的記録の授受及び保存を行ったことを確認することができるようにしておくこと。(2)特定電磁的記録と特定電子計算機処理システム上記の中で、特定電磁的記録と特定電子計算機処理システムという新しい概念が登場します。特定電磁的記録とは、次に掲げる電磁的記録とされています。保存要件に従って保存が行われている電子取引の取引情報に係る電磁的記録災害その他やむを得ない事情により、保存要件に従って電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存をすることができなかったことを証明した場合又は納税地等の所轄税務署長が保存要件に従ってその電磁的記録の保存をすることができなかったことについて相当の理由があると認めた一定の場合に、保存要件にかかわらず保存が行われているその電磁的記録特定電子計算機処理システムとは、国税庁長官の定める基準に適合する電子計算機処理システムとされています。特定電磁的記録は、真実性、検索性、見読可能性、システム書類の備付けの電子取引データの保存要件を満たしているシステムで作成・保存されている電子データということになるかと思われます。特定電子計算機処理システムに関する国税庁長官が定める基準とは、次に掲げるいずれかの電磁的記録を本稿1.(1)に掲げた要件に従って行うことができる機能を有していることであるとされています。仕入れ明細書または適確請求書に記載すべき事項に係る電磁的記録の仕様としてデジタル庁が管理するものに従って提供された電子取引の取引情報に係る電磁的記録金融機関等のいずれかに預金口座又は貯金口座を開設している預金者又は貯金者の委託を受けて、金融機関等が行うこれらの口座に係る資金を移動させる為替取引の取引情報に係る電磁的記録これは、デジタル庁が管理する仕様に従って送受信されたデジタルインボイスや預貯金口座における決済データのいずれかの電子取引について、要件に従って保存ができるシステムのことをいうことになります。2.実務的な対応今般の改正は、請求や決済の取引についてデジタルデータを用いて事務負担の軽減や適切な保存が実現するような適切な電子取引の普及を促進することを意図しているものと考えられます。したがって、実務的には、生産性の向上を目的に取引情報を電子的に送受信するシステムを導入し、それが前述1.(1)で掲げた4つの要件をクリアするようなシステムとなっているということが課題になると考えられます。1つ目の訂正又は削除を行った事実及び内容を確認することができる特定電子計算機処理システムを使用するというのは、納品書、請求書、領収書などの電磁的記録を特定電子計算機で送受信しているということになります。その電磁的記録の金額に係る記録事項を訂正または削除を行ったうえで国税関係帳簿に係る電磁的記録等に記録した場合ということは、例えば、受領した請求書データに誤りがあり、訂正後の請求書データを再度授受して、当初のデータは削除したうえで、国税関係帳簿に係るシステムに流し込むといった処理が2つ目の要件が想定しているところになります。そして3つ目の要件では、帳簿との相互関連性が確保されていることを求めています。したがって、電子取引での電子データの授受から販売管理システム、購買管理システムもしくは財務会計システムへ取り込んだ処理全般を通して、訂正削除の履歴が確認できる(あるいは訂正・削除ができない仕組み)ことが求められ、電子帳簿システム、電子取引のシステムの双方から関連性が確保されていることが求められます。そして、4つ目の要件で、そうした授受及び保存を実施したことが確認できることが求められているということになります。新設された制度に対応した販売管理・会計ソフト等のイメージ出典:国税庁「請求書等を帳簿に自動連係する仕組みに対応した制度が新設されました」よりデジタルインボイスのインフラが整備されつつある社会状況に対応して、好ましい電子取引から電子帳簿への仕組みの構築というものを推奨する改正といえるのではないでしょうか。なお、今回の改正は、令和9年1月1日以後に法定申告期限が到来する所得税及び法人税について適用されます。提供:税経システム研究所
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2025/05/14 相続・贈与税
相続税の重要テーマポイント解説26(暦年課税と精算課税がある場合の相続税の課税価格の加算)
QA及びBは相続開始前7年以内に300万円を被相続人から贈与を受け、暦年課税で申告した。3年後1,000万円の贈与を受けたので相続時精算課税で申告した。なお、Aは相続財産を取得したが、Bは取得していない。相続財産の加算はどうすればいいか。【ポイント】被相続人から生前に贈与を受け、受贈金額が110万円を超えた場合、暦年課税の贈与税の申告と納税をします。贈与を受けた財産の価額をとめどもなく加算することは、実務的に大変困難です。そこで、相続開始前7年以内(以下「加算対象期間」といいます。)の贈与財産の価額(以下「加算対象贈与財産」といいます。)及び相続時精算課税の適用を受けた価額を加算することにしています。加算するのは、贈与を受けた時の価額です。【解説】1原則加算対象財産の価額は、暦年課税で申告している場合、相続財産の取得の有無に応じて加算の態様が異なります。適用の概要は次の通りです。課税方式相続財産の取得の有無課税価格に加算の有無2024年以後相法暦年課税有加算する相続開始前3年を超え前7年以内については、合計額から100万円を控除する19①無加算しない-相続時精算課税有加算する各年分の贈与について110万円の基礎控除がある21の15①無加算する21の16①2相続時精算課税適用者が、相続開始前7年以内の贈与財産がある場合(1)加算対象期間内の贈与財産があり、相続財産を取得している場合相続時精算課税適用者であっても、適用を受ける以前に贈与を受けた財産が加算対象期間内に取得した財産に該当する場合は、相続財産に加算します。相続開始前3年を超え前7年以内の期間に贈与を受けた金額の合計額から100万円を控除した金額を加算します。贈与税の申告の有無には関係がありません。基礎控除以下であっても加算となることに留意します(相基通19-1)。(2)加算対象期間内の贈与財産があり、相続財産を取得していない場合相続開始前7年以内の贈与加算は、相続又は遺贈により相続財産を取得した者に適用されます(相法19)。相続時精算課税の適用を受けた財産は、相続税の課税価格に加算する若しくは相続等により取得したものとみなされることから、相続時精算課税適用者が、適用を受ける前に贈与により取得し、加算対象期間内に該当する財産は、特定贈与者の相続税の課税価格に加算する必要があります。3相続時精算課税の適用を受けた財産が基礎控除以下の場合相続時精算課税適用者が特定贈与者からの贈与により取得した相続時精算課税の適用を受ける財産が、相続税法第21条の16第3項第2号の規定の適用により相続税の課税価格に算入する金額がない場合(基礎控除110万円を適用した場合)においても、加算対象期間内に贈与により取得した財産があるときは、加算対象期間の贈与財産を加算します(相基通19-11)。この取扱いは、相続時精算課税を選択した場合、その後の贈与は全て相続時精算課税となり、受贈財産価額が110万円以下で特定贈与者の相続財産に加算する金額がなくても、すべて相続時精算課税の適用を受けることとなります。そのため相続時精算課税適用前の加算対象期間内の贈与財産は相続税の課税価格に加算することになります。4事例の回答相続時精算課税適用者は特定贈与者の相続財産の取得の有無にかかわらず、相続財産を取得したとされます。相続開始前7年以内の暦年課税適用財産についても加算の対象となります。提供:税経システム研究所
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2025/05/07 法人税
為替予約の取扱い(法人税)
1.概要ここのところ円安の状況が続いていますが、為替相場の変動は輸出入を行う企業を中心に企業経営において重要な問題となります。為替変動のリスクヘッジのために、「為替予約」を検討する企業も増えてきているように思われます。今回は法人税における「為替予約」の取扱いについてみていきたいと思います。外貨で物を売り買いするような場合、売上・仕入などの収益・費用科目については取引時に金額が確定しますが、売掛金・買掛金等の資産・負債科目は取引から入金・支払いまでの間に為替変動の影響を受ける場合があります。このような為替変動リスクをヘッジする手段として「為替予約」があります。為替予約は予め金融機関との間で決済時の為替レートを取り決めておく方法です。予約実行時点で取引採算が確定できるというメリットがありますが、一度予約すると原則、取消ができず期日に受け渡しの義務が生じる等留意点もございます。2.為替予約の税務上の取扱い(1)外貨建取引の円換算の原則内国法人が外貨建取引を行った場合の円換算額は、外貨建取引を行った時における外国為替の売買相場により換算した金額とされています。また期末に保有する外貨建債権・債務については期末時換算法か発生時換算法により評価しますが、売掛金や買掛金等の短期外貨建債権・債務については、法定換算方法が期末時換算法とされているため、実務上、期末時換算法で評価している会社が多いと思います。(法法61条の8①、法法61条の9①、②)短期外貨建債権外国通貨を受け取る期限が当該事業年度終了の日の翌日から1年以内に到来するものをいいます。短期外貨建債務外国通貨を支払う期限が当該事業年度終了の日の翌日から1年以内に到来するものをいいます。発生時換算法外貨建資産等の取得又は発生の基因となった外貨建取引の円換算に用いた外国為替の売買相場により換算した金額をもって期末時の円換算額とする方法をいいます。期末時換算法期末時の外国為替の売買相場により換算した円換算額をもって期末時の円換算額とする方法をいいます。(2)為替予約等の先物外国為替契約等を締結している場合の円換算内国法人が為替予約等の先物外国為替契約等により外貨建取引によって取得等した外貨建資産等の円換算額を確定させた場合において、先物外国為替契約等の締結の日においてその旨を帳簿書類に記載したときは、その外貨建資産負債の円換算額はその確定した換算額によります。(法法61条の8②)為替予約等を行った場合の売掛金・買掛金などの外貨建資産負債は、為替予約により確定した円換算額で評価することになります。(3)為替予約差額の配分について(原則)法人が期末に有する外貨建資産等につき上記(2)の適用を受けたときは、先物外国為替契約等の締結の日(その日が外貨建資産等の取得又は発生の基因となった外貨建取引を行った日前である場合には、外貨建取引を行った日)の属する事業年度から外貨建資産等の決済等の日の属する事業年度までの各事業年度に為替予約差額を配分し、益金の額又は損金の額に算入することになります(法法61の10①、法令122の9)。期間配分は日数按分によるほか、月数按分によることも可能です(1月に満たない端数は1月とする)期末に為替予約等をしている外貨建資産等を有している場合には、為替予約差額について期間配分を行うことになります。外貨建取引後に為替予約をした場合と外貨建取引前に為替予約をしている場合で処理に違いがありますので、下記で見ていきたいと思います。(処理方法については様々な会計処理が想定されますので、下記はその中での1つの例示となることや説明の便宜上省略している部分もありますのでご留意下さい)為替予約差額外貨建資産等の金額を先物外国為替契約等により確定させた円換算額と、外貨建資産等の金額を外貨建資産等の取得又は発生の基因となった外貨建取引を行った時の外国為替の売買相場により換算した金額との差額をいう。①外貨建取引後に為替予約する場合イ)令和7年3月1日:商品仕入(50,000ドル)直物為替相場:1ドル=150円借方金額貸方金額仕入7,500,000円買掛金7,500,000円ロ)令和7年3月10日:為替予約契約締結直物為替相場:1ドル=152円先物為替相場(予約レート):1ドル=155円直々差額(取引日から予約締結日までの直物為替相場の差額)は予約契約締結事業年度に帰属(152円-150円)×50,000ドル=100,000円借方金額貸方金額為替差損100,000円買掛金100,000円先物為替相場(予約レート)で買掛金の円換算額を確定させる(155円-152円)×50,000ドル=150,000円借方金額貸方金額前払費用150,000円買掛金150,000円ハ)令和7年3月31日(決算日)為替予約差額(直先差額)の配分を行う(155円-152円)×50,000ドル×1ヶ月/2ヶ月=75,000円※月数按分を採用借方金額貸方金額為替差損75,000円前払費用75,000円ニ)令和7年4月30日:買掛金支払いと残りの為替予約差額の配分買掛金の支払い(予約レートで確定)借方金額貸方金額買掛金7,750,000円現金預金7,750,000円残りの為替予約差額(直先差額)の配分を行う(155円-152円)×50,000ドル-75,000円=75,000円借方金額貸方金額為替差損75,000円前払費用75,000円②外貨建取引前に為替予約する場合先物為替相場(予約レート):1ドル=155円を既に締結済みイ)令和7年3月1日:商品仕入(50,000ドル)為替:1ドル=150円借方金額貸方金額仕入7,500,000円買掛金7,500,000円取引前予約の場合は仕入時に予約レートで計上することも可能である(法基通13の2-1-4)先物為替相場(予約レート)で買掛金の円換算額を確定させる(155円-150円)×50,000ドル=250,000円借方金額貸方金額前払費用250,000円買掛金250,000円ロ)令和7年3月31日(決算日)為替予約差額の配分(155円-150円)×50,000ドル×1ヶ月/2ヶ月=125,000円※月数按分を採用借方金額貸方金額為替差損125,000円前払費用125,000円ハ)令和7年4月30日:買掛金支払いと残りの為替予約差額の配分買掛金の支払い(予約レートで確定)借方金額貸方金額買掛金7,750,000円現金預金7,750,000円残りの為替予約差額(直先差額)の配分を行う(155円-150円)×50,000ドル-125,000=125,000円借方金額貸方金額為替差損125,000円前払費用125,000円(4)短期外貨建資産等に係る為替予約差額の配分方法の特例について外貨建資産等が、短期外貨建資産等である場合には、為替予約差額を一括してその事業年度に係る益金の額又は損金の額に算入することができます。(法法61の10③)選択の方法は、外国通貨の種類を異にする短期外貨建資産等ごとに選定することができます。手続きこの一括計上を選択する場合には、選択しようとする事業年度の確定申告書の提出期限までに、外国通貨の種類を異にする短期外貨建資産等ごとに、書面により納税地の所轄税務署長に届出が必要となります。変更手続き変更をする場合には、変更する事業年度開始の日の前日までに納税地の所轄税務署長に変更承認申請書を提出し、その承認を受ける必要があります。提供:税経システム研究所
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2025/04/30 法人税事業承継
組織再編税制(会社分割)を利用した事業承継(2)
前回(2025年1月15日掲載)では、組織再編税制が個人や中小企業の事業承継にも利用できる制度であることの例として「相続が生じる前」に会社分割の事例を紹介し、その際、相続後においても会社分割により同様のことが可能であることを述べました。そこで、今回は「『相続後』の会社分割と株式譲渡による円滑な事業承継」が可能であることを事例(注1)を用いて確認したいと思います。(1)事例の概要X社は、もともと創業者甲の100%出資により設立された株式会社ですが、甲の死亡(相続)により甲の子供である乙と丙がそれぞれX社株式の50%ずつを承継しました。X社において乙と丙はそれぞれ異なる事業の経営を行っています。また、当社全体の経営方針等を巡って乙と丙で対立しています。そこで、乙と丙が互いに独立して事業を進めるために、X社を2つに分割して乙がX社を100%保有し、丙が新会社を100%保有する形態にすることを考えています。まず、X社は、新設分割(分割型分割)を行って新会社を設立し、新会社株式を直ちに乙と丙にそれぞれに交付します。そして、乙は交付を受けた新会社株式の全部を丙に譲渡し、丙は保有するX社株式の全部を乙に譲渡します。その結果、乙はX社株式の100%を保有し、丙は新会社株式の100%保有することとなります。(2)X社の課税関係イ適格要件分割が適格分割となる場合とは、①完全支配関係の場合、②支配関係の場合、③共同事業を行う場合、④事業を独立して行う場合(分割型分割の場合のみ)の4つの類型に分かれます。この事例の場合、乙と丙の兄弟で100%保有していますので、「①完全支配関係の場合」の要件に該当するか否かをまず検討することになり、この場合の適格要件は、①金銭等不交付要件と②完全支配関係継続要件の2つになります(法人税法2条12号の11イ、法人税法施行令4条の3第6項他)。①金銭等不交付要件金銭等不交付要件とは、分割対価資産として分割承継法人又は分割承継親法人(注2)のうちいずれか一の法人の株式以外の資産が交付されないこと(株式が交付される分割型分割にあっては、その株式が分割法人の発行済株式(自己株式を除きます。)の総数のうちに占める分割法人の各株主の有する分割法人の株式の数の割合に応じて交付されるもの(按分型の分割型分割)に限ります。)をいいます(法人税法2条12号の11、法人税法施行令4条の3第5項)。この事例の場合、新設分割において新会社の株式のみが分割対価資産としていったんⅩ社に交付され、それが直ちにⅩ社の株主である乙及び丙に全部交付されます。分割対価資産として分割承継法人(新会社)の株式以外の資産は交付されず、分割承継法人(新会社)の株式は、分割法人(Ⅹ社)の100%株主である乙及び丙に全部交付されることで按分型の分割型分割に該当します。したがって、金銭等不交付要件を満たすことになります。②完全支配関係継続要件単独新設分割である分割型分割に該当するこの事例の場合、その分割後に分割法人(Ⅹ社)と分割承継法人(新会社)との間に同一の者(乙及び丙)(注3)による完全支配関係が生ずることになりますが、完全支配関係の継続が見込まれることが求められるのは、乙及び丙と分割承継法人(新会社)との間の完全支配関係となります(注4)。この事例の場合、乙は、交付を受けた分割承継法人(新会社)の株式の全部を丙に譲渡して分割承継法人(新会社)の株式を保有しなくなりますが、同一の者の中での譲渡であり、乙及び丙という同一の者による分割承継法人(新会社)の完全支配関係には影響を及ぼしません。丙は、乙から譲渡を受けた分を含めて分割承継法人(新会社)の株式の100%を保有し続ける見込みですから、同一の者(乙及び丙)と分割承継法人(新会社)との間の完全支配関係の継続が見込まれるため、完全支配関係継続要件を満たすことになります。ロ事例の適格性この分割は、金銭等不交付要件及び完全支配関係継続要件を満たしますので、適格分割に該当することになります。ハ資産及び負債の移転価額適格分割により、資産及び負債を移転した場合には、帳簿価額による引継ぎをしたものとして所得の計算をすることとされています(法人税法62条の2第2項)。したがって、分割に係る資産及び負債の移転に関する譲渡損益は生じません。移転するこれらの含み損益は、新会社においてその譲渡等が行われたときに新会社において課税されます。(3)個人株主(親族)の課税関係イ分割後の株式の取得価額分割型分割により分割承継法人の株式のみを取得した場合、旧株の従前の取得価額のうち純資産移転割合(注5)を乗じて計算した部分の金額をその分割承継法人の株式に引き継ぐこととされ(所得税法施行令113条1項)、分割型分割後の旧株の取得価額は、旧株の従前の取得価額のうち、純資産移転割合を乗じて計算した部分以外の部分の金額を付け替えることとされています(同令113条3項)。ロ分割後の株式の譲渡の課税関係乙が行う丙に対する新会社株式の譲渡、丙が行う乙に対する貴社株式の譲渡は、いずれも一般株式等の譲渡として申告分離課税20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)によりが行われることとなります(措法37の10①、復興財源確保法13、地法附則35の2①⑤)。(4)まとめこの事例の場合には、法人税の課税は生じることはなく、乙と丙との株式の譲渡に関する課税(申告分離課税、上記(2)ロ)が生じることになります。なお、消費税等についても非課税や軽減措置が認められています(注6)。前回及び今回取り上げたように、いわゆる「事業承継税制」以外の税制(制度、手法)を用いることで、円滑な事業承継が可能になるのではないかと考えています。<注釈>この事例も、平成27年10月21日開催の九州北部税理士会「事業承継のための新たな手法」で解説した事例の一つで、その後もいくつかの税理士会で内容等を修正等して解説しており、直近では昨年5月に東京税理士会第7回会員研修会でも取り上げています。書籍としては、本職事務所客員税理士の小松誠志氏が『事例検討法人税の視点からみた事業承継・M&Aの実務ポイント』(大蔵財務協会、令和3年)等に取りまとめています。基本的に分割の直前に分割承継法人と分割承継法人以外の法人との間にその法人による完全支配関係(「直前完全支配関係」といいます。)があり、かつ、分割後に分割承継法人とその法人との間にその法人による完全支配関係が継続することが見込まれている場合におけるその直前完全支配関係がある法人をいいます。一の者が個人の場合には、その者と親族等の特殊の関係のある個人を含むこととされています(法人税法施行令4条1項、4条の2第2項)。乙と丙は兄弟(親族)の間柄ですので、乙と丙で同一の者と判定されます。乙及び丙と分割法人(X社)との間の完全支配関係が継続することが見込まれているとしても適格性に影響はありません。仮に分割後に分割法人(X社)株式を第三者に譲渡することが見込まれている(乙及び丙と分割法人(X社)との間の完全支配関係が継続することが見込まれていない)としても、この事例の場合の適格性には影響はありません。純資産移転割合は、原則として、「分割型分割の直前の移転資産の簿価純資産価額」の「分割法人の分割型分割の日の属する事業年度の前事業年度の簿価純資産価額」に占める割合をいいます(所得税法施行令61条2項2号)。消費税は、法人税法上の適格又は非適格に係わらず、分割が合併の場合と同様に権利義務の包括承継であることから資産の譲渡等に該当せず、不課税取引とされています(『平成13年改正税法のすべて』(国税庁・511、512頁)、末安直貴『回答実例消費税質疑応答事例集』18頁(大蔵財務協会、令和3年)。登録免許税は、一定の軽減はあるものの課税され(登録免許税法別表1二十四(一)ト、同表一(二)イ・ハ、租税特別措置法80条1項3号、同条1項6号)、不動産取得税は、一定の形式移転と認められるものは非課税とされています(地方税法73条の7第2号、同法施行令37条の14)。提供:税経システム研究所
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