税務情報レポート
MJS税経システム研究所・税務システム研究会の顧問・客員研究員による租税を中心とした多彩な研究成果および最新の税制改正および制度や動向、判例研究等に関するリポートです。
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2025/09/16 消費税国際税務
トランプ関税に負ける日本経済――消費税が転嫁できない日本企業に再びおとずれたチャンス
はじめに去る7月22日(現地時間)、日米関税交渉が合意に達しました。米国は、日本からの自動車を含む大部分の輸入貨物に対して、15パーセントの関税を課すことなどで合意したことになります。これに対して、経団連など経済界は概ね好意的な反応を示しています。一方、日本政府は、中小企業への資金繰り支援を行うとのことです。ところで、日本経済は「失われた30年」を過ごしてきました。本稿は、関税が消費税と同じ性格を持っていること、日本企業は消費税を転嫁することなく販売価格を下げる方策を取り続けてデフレを誘発したと考えられることから、速やかに関税分を転嫁すべきことを主張するものです。1.消費税の転嫁に失敗してきた歴史を振り返る1989年4月、消費税は3%の税率で導入されました。その後、1997年4月に5%に、2014年4月に8%に、そして、2019年10月に原則10%に引き上げられて今日に至っています。消費税は、理論的には取引段階毎に転嫁されて最終小売価格に含まれることになるので、消費税の税率分だけ消費者物価が上昇することになります。そして、その状態が継続することになります。ところが、実際はそうではなさそうです。日本の消費者物価指数(CPI)の資料を見てみましょう。この資料は、2020年を100とした場合の消費者物価指数の推移を示したものです。【図表1:日本の消費者物価指数の推移】(出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構資料)図表1(特に、1990年以降の拡大図)を見ていただくと、消費税率の引き上げが行われると、その都度消費者物価指数も上がるのですが、その翌年には逆に下がるように見えます。例えば、1997年4月に5%になったので、2%の物価上昇があったものの1998年以降物価が下がっています。2014年4月には8%になったのですが、2015年に物価が少し下がっているように見えます。2019年10月以降も類似しています。つまり、消費税率が引き上げられると消費が減少するので、日本企業はその分を吸収すべく企業努力をしてしまうので、物価が下がってしまった。その結果、「失われた30年」になってしまったと言われているのです。そして、その間、日本人の給与はほとんど上がることがありませんでした。2.トランプ関税を転嫁できていない現状を確認する次に、4月以降、25%の追加関税措置により、27.5%に引き上げられた米国の自動車関税に日本企業はどのように対処したのか、です。2では、自動車業界を見ていきます。自動車については、財務省の貿易統計でトランプ関税の影響を確認することができます。【図表2:令和7年6月の自動車・自動車部品の対米輸出(抜粋)】(出典:財務省貿易統計)図表2は、2025年7月30日に公表された財務省貿易統計の中から対米輸出の自動車・自動車部品のみを抜粋したものです。これによると、令和7年6月に米国向けの自動車は、令和6年6月と比べると、台数では3.4%増加したのに対して、価額では伸率-26.7%と大幅に減少しています。これは、25%の追加関税のすべて又は大部分を日本側で負担したことを意味します。一方の自動車部品は、数量は微減しているので、少しですが一部は米国側で負担させたものと思われます。なぜ、このようなことをしたのでしょうか。それは、米国内の小売価格を値上げしたくないからです。これは、米国内における競合企業の動向を考慮して、自社の価格競争力を減らさないようにするためです。簡単に言えば、「ガマン比べ」です。なお、2025年8月28日に公表された財務省貿易統計でも、上と類似した結果となりました。3.日本の消費税と同じ対応をトランプ関税でも続けるかここで問題になるのは、自動車業界をはじめとする対米輸出企業が日本の消費税への対応と同じことを対米輸出で続けるか、ということです。昔からの日本企業のウリは、「良いものを安く売ること」です。レクサスなどの高級ブランドを構築したものの、自動車も引き続き同じかもしれません。これを今後も続けると、「失われた30年」と同じことになるかもしれません。そうすると、再び日本の給与が上がらない状態に逆戻りするかもしれません。さて、7月27日には米国とEUとの関税交渉がまとまり、日本と同じ15%の関税が適用されることになりました。これで、中国と韓国(早期に合意するでしょう。)を除いた主要国との関税交渉がまとまったことで、米国自動車業界が関税をどの程度転嫁するのか、に焦点が移ります。米国メーカーも自動車や自動車部品を海外から仕入れる場合もあるので、本格的に関税を転嫁した価格競争が行われることになるでしょう。個人的には、日本の自動車会社が、早期に関税を転嫁した自動車を米国内で販売することを期待しています。自動車は数年おきにモデルチェンジを行うので、その時まではできない、という意見もあります。しかし、図表2のように、関税を輸出元の日本で被ると、すべてを大企業が負担してくれればいいのですが、一部は中小企業に及ぶでしょう。それを前提とするかのように、日本政府は中小企業への資金繰り支援を行うと報道されています。おわりにトランプ大統領が再任されたことで、日本からの輸出品に高率の関税が課せられることになりました。関税は消費税と同じように、理論上は最終小売価格に転嫁されて消費者が負担すべきものです。しかし、日本企業は、これまで消費税への対応を上手くできずにデフレが続きました。その結果、消費税への根拠のない批判が国民に浸透してきました。一方、ここ数年は、ロシアのウクライナ侵攻を契機とする円安による輸入品の価格高騰、給与の引き上げに伴う物価上昇などにより消費者物価指数は上昇してきました。さて、トランプ関税は、日本企業にある意味でチャンスを与えてくれるものと考えられます。関税分を価格に転嫁して、米国内でより高価で販売していくことにより米国の物価上昇を促すべきです。関税を反映したインフレが生じることにより、トランプ政権の経済政策の誤りを是正させて、関税率を引き下げさせることで世界経済を正常化の方向に向かわせるべきでしょう。消費税への対応で失敗した日本企業は、今度はトランプ関税でその力を試されていると考えることができるのではないでしょうか。今度こそ、失敗しないでほしいと願っています。提供:税経システム研究所
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2025/09/10 相続・贈与税
代償分割と相続税計算の注意点
1.はじめに今回は相続における遺産分割方法の1つである「代償分割」についてみていきたいと思います。被相続人の財産のほとんどが不動産や自社株式であるような場合のほか、財産の取得者を個別に決定するのが煩雑な場合など、相続実務においては、遺産規模の大小にかかわらずよく検討される方法になります。実務上注意すべき点もありますので、下記事案をもとに代償分割と相続税計算における注意点等をみていきたいと思います。2.事案(1)前提事項被相続人:母A相続人:長男B(Aと同居)、次男C相続財産(みなし相続財産も含む)Aの自宅土地と建物(相続税評価額1.2億円、時価1.5億円):長男Bが取得現金2,000万円:次男Cが取得死亡保険金:3,000万円:長男Bが取得代償金:7,500万円(長男Bから次男Cへ支払い)長男Bが自宅土地と建物を取得する代わりに、長男Bから次男Cへ代償金を支払う。代償金の算定については、自宅土地建物の時価の1/2で算定している。(1.5億円×1/2=7,500万円)3.代償分割について(1)意義代償分割とは、遺産分割の方法のうちの1つで、遺産の分割に当たって相続人などのうちの1人または数人に相続財産を現物で取得させ、その現物を取得した人が他の相続人などに対して債務を負担するもので、一般的に現物分割が困難な場合等に行われる方法です。参考)遺産分割の主な方法の概要現物分割遺産をそのままの形(現物)で分割する方法共有分割遺産を共同(共有名義)で分割する方法換価分割遺産を売却して現金化して分割する方法代償分割遺産を現物取得した人が、他の相続人には代償金として支払うことにより分割する方法■相続税基本通達11の2-9注書き「代償分割」とは、共同相続人又は包括受遺者のうち1人又は数人が相続又は包括遺贈により取得した財産の現物を取得し、その現物を取得した者が他の共同相続人又は包括受遺者に対して債務を負担する分割の方法をいいます。(2)代償分割の活用が想定される主な遺産分割のケース相続財産の大半が自宅不動産や自社株式等の場合で、共有や分散しての取得が状況に適していないような場合に、取得すべき者(自宅不動産であれば同居親族、自社株式であれば会社の後継者等)が取得して、他の相続人には代償金として支払うようなケース預貯金や有価証券の口座数が多すぎる等、個別に取得者を定めて分割を行うことが実務上煩雑となるような場合に、いったん相続人のうちの一人が全てを取得して、他の相続人には代償金として支払うようなケース(3)代償金の金額は自由に設定できる代償金は相続人間で合意すれば、金額や支払方法を自由に決めることができます。ただし、現物財産を取得した相続人は、他の相続人へ支払う代償金を工面する必要がありますので注意が必要です。(4)他の分割手法に比べ小規模宅地特例の適用を有利に行える場合がある遺産が不動産の場合、小規模宅地特例の適用は相続税計算において大きなポイントとなりますが、遺産分割方法の観点から見ると、換価分割では売却が絡みますので、申告期限までの所有の要件等に抵触する可能性があり、また、共有分割では全ての共有者が適用要件を満たすとは限りませんのでフルに特例の適用が受けられない可能性があります。一方、代償分割による取得の場合は、特例の適用を受けられる者に全て現物取得させることで、特例をフルに受けられる可能性が高く、他の分割手法に比べて、小規模宅地特例の適用を有利に行える可能性があります。上記2の事案でも同居親族の長男Bが自宅を全て取得すれば、小規模宅地特例(特定居住用宅地)をフルに適用することができます。3.代償財産の価額と相続税の課税価格へ算入する金額代償金の算定については、対象となる現物財産を「相続税評価額」若しくは「時価」のどちらをベースに算定するか等算定のベースとなる価格について、時に相続人間で大きく争いになることもあります。代償金の決定は相続人間で自由に決めることができますが、相続税の課税価格の計算においては相続税基本通達11の2-9、相続税基本通達11の2-10を基に決めることになります。上記2の事案においては、長男Bが次男Cへ交付した代償金は7,500万円ですが、この代償金の算定は、特定されている現物財産(自宅土地建物)の時価ベースで算定がされていますので、相続税の課税価格計算上は下記の通りこれを相続税評価額ベースに引き直して計算を行うことになります。※相続税基本通達11の2-10(1)の方法による場合はその方法も認められます。■相続税基本通達11の2-9(代償分割が行われた場合の課税価格の計算)代償分割の方法により相続財産の全部又は一部の分割が行われた場合における法第11条の2第1項又は第2項の規定による相続税の課税価格の計算は、次に掲げる者の区分に応じ、それぞれ次に掲げるところによるものとする。代償財産の交付を受けた者相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額と交付を受けた代償財産の価額との合計額代償財産の交付をした者相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額から交付をした代償財産の価額を控除した金額(注)「代償分割」とは、共同相続人又は包括受遺者のうち1人又は数人が相続又は包括遺贈により取得した財産の現物を取得し、その現物を取得した者が他の共同相続人又は包括受遺者に対して債務を負担する分割の方法をいうのであるから留意する。■相続税基本通達11の2-10(代償財産の価額)11の2-9の(1)及び(2)の代償財産の価額は、代償分割の対象となった財産を現物で取得した者が他の共同相続人又は包括受遺者に対して負担した債務(以下「代償債務」という。)の額の相続開始の時における金額によるものとする。ただし、次に掲げる場合に該当するときは、当該代償財産の価額はそれぞれ次に掲げるところによるものとする。共同相続人及び包括受遺者の全員の協議に基づいて代償財産の額を次の(2)に掲げる算式に準じて又は合理的と認められる方法によって計算して申告があった場合当該申告があった金額(1)以外の場合で、代償債務の額が、代償分割の対象となった財産が特定され、かつ、当該財産の代償分割の時における通常の取引価額を基として決定されているとき次の算式により計算した金額A×(C÷B)(注)算式中の符号は、次のとおりである。Aは、代償債務の額Bは、代償債務の額の決定の基となった代償分割の対象となった財産の代償分割の時における価額Cは、代償分割の対象となった財産の相続開始の時における価額(評価基本通達の定めにより評価した価額をいう。)4.代償分割を行った場合の相続税計算にあたり留意すべきその他のポイント(1)遺産分割協議書への記載は必須遺産分割協議書に、代償金の支払いが代償分割によるものであることの記載がない場合には、単純に金銭を贈与したものと判断される恐れがありますので注意が必要です。贈与とみなされることのないように、遺産分割協議書には代償分割であること、代償金の支払い内容について明確に記載します。(2)取得した遺産額を超えて代償金の支払いをした場合取得した遺産額を超えて代償金の支払いをした場合にはその超える部分は金銭の贈与があったものとして贈与税課税の対象になる可能性があります特に、死亡保険金を取得して代償金を支払う場合がありますが、死亡保険金は税務上はみなし相続財産として相続税の課税価格に算入しますが、民法上は受取人固有の財産であるため被相続人の遺産には含まれません。死亡保険金を取得した者が他に取得した遺産が少ないような場合で、代償金の交付額がその取得遺産額を超えてしまうような場合は、その超えた部分は贈与となってしまいますので注意が必要です。(3)不動産等の現物で代償金支払いをした場合代償金の支払いを現金で行わずに、不動産等の現物で支払いを行うことも可能ですが、その場合、不動産等の譲渡になりますので、譲渡所得税の対象となります。提供:税経システム研究所
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2025/09/03 相続・贈与税
相続税の重要テーマポイント解説27(換価分割と相続税・所得税の申告)
【ポイント】換価分割による遺産分割であっても、相続税の課税価格に加算される相続財産の価額は、財産評価基本通達に基づく価額です。ただし、換価代金の配分により財産の取得割合が異なります。【解説】1相続税の申告(1)相続税の課税価格換価分割は相続財産を譲渡してその代金を分配する分割ですが、事実上所得税や住民税等が控除された金額が実質的に手元に残ります。相続人各人が取得する価額は、換価処分の時期や処分代金の配分時期によって変動します。しかし、相続税の申告における財産の価額は、換価処分の時期や金額にかかわらず相続開始日現在の価額、つまり財産評価基本通達に基づいた価額です。(2)換価分割の態様相続財産を換価して分割することは、実際的な分割の一手段としてよく活用されています。ただし、換価時期を相続税の申告期限と平仄を合わせる必要はなく、相続人や買い手の都合により千差万別です。相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内と定められているため、原則として換価代金の配分を取り決めておく必要があります。配分される金額により課税価格が異なるからです。申告期限前に換価されたとしても、その代金の配分が決められている場合と、決められていない場合の課税価格が異なります。また、換価が申告期限後になることも多いことから、相続税の申告期限前又は申告期限後により、取扱いが異なることに留意します。更に、換価分割は譲渡所得の対象なりますので、譲渡収入金額の配分にも影響があります。2換価の時期による相続税の課税価格の計算相続税の申告にあたって、換価代金の配分割合(以下「取得割合」といいます。)をどのようにするか、態様別に解説します。(1)相続税の申告期限までに換価が行われている場合取得割合があらかじめ確定している場合法定相続分で配分することがあらかじめ決められている場合相続財産の価額に法定相続分割合を乗じた価額です。法定相続分での配分とした場合、未分割の状態であるかのような状況にも解釈されることがあるので、書面で明確に法定相続分により配分した事実を残しておきます。当然、遺産分割協議書に記載があればよいことになります。換価代金の取得割合が決められている場合換価代金の取得割合が相続人間であらかじめ決められているときは、その割合を相続財産の価額に乗じて計算した価額です。様々なパターンが想定されますが、取得割合の合計は1.0になることに留意します。換価代金があらかじめ確定していない場合換価の時点では換価代金の配分が決められていないが、相続税の申告期限までに決まった場合相続税の申告期限までに決まった配分価額によります。取得割合が決まっている場合は、その取得割合を相続財産の価額に乗じて計算した価額です。換価の時点及び相続税の申告期限までに取得割合が確定していない場合取得割合が確定していない場合は、未分割と同じですので、換価した相続財産の相続時現在の評価額に法定相続分割合を乗じて算出した金額で申告します。この場合は通常、未分割として相続税の申告期限を経過しているため、実際に配分することにより相続税の課税価格に異動が生じます。分割が確定した時に相続税法第32条第1号に基づく更正の請求又は同法第31条第1項に基づく修正申告を行い納税額の是正をします。(2)相続税の申告期限までに換価が行われていない場合取得割合があらかじめ確定している場合あらかじめ配分割合が確定している場合は、相続税の価額は配分された金額に応ずるものとなりますので、相続財産の価額にその割合を乗じた金額を取得したとして計算し申告します。取得割合が確定していないが、換価代金を遺産分割の対象とするなどの合意がある場合上記(1)②ロと同様、未分割と同じ取扱いとなります。3所得税(譲渡所得)の取扱い換価分割により譲渡益が生じる場合、換価対象財産を取得した相続人には譲渡所得が発生します。相続人が複数の場合、どの相続人がどのような申告を行うかが問題となります。実務的には次のように取り扱います。(1)換価時に取得割合が確定している場合換価代金を法定相続分割合で取得する、もしくは法定相続分で取得することが取り決められている場合換価代金を、後日遺産分割の対象に含める合意をするなどの特別の事情がない等、換価代金が法定相続分で配分されることが取り決められていることから、譲渡所得は、各相続人が換価代金に法定相続分割合を乗じて収入金額を算出します。換価の時までに取得割合が確定している場合この場合は、相続財産の一部の遺産分割の確定になります。当然、譲渡所得は、各相続人が換価代金に取得割合を乗じて収入金額を算出します。(2)換価時に換価代金の取得割合が確定していない場合所得税の申告期限までに取得割合が確定していない場合相続人が複数の場合、その財産は法定相続分の共有状態にあります。共有状態の財産の譲渡所得の申告は、共有割合で行います。換価代金を後日遺産分割の対象に含める合意をするなどの特別の事情があり、その後、換価代金の分割が行われたとしても、共有持分による譲渡所得に異動が生じるものではないことから、更正の請求や修正申告をすることはできません。所得税の申告期限までに換価代金の取得割合が確定している場合所得税の確定申告の期限までに換価代金が分割され、それに基づいて申告があった場合は、その申告は認められます。4換価するにあたって、一人の名義で譲渡した場合の取扱い複数の相続人等が相続財産を換価分割するにあたって、譲渡費用や手数の関係で相続人等のうち一人の名義に相続登記をして譲渡することがあります。これは、換価手段の一つで、便法であることから贈与の問題は生じません(国税庁質疑応答事例「遺産の換価分割のための相続登記と贈与税」)。ただし、換価代金や経費等の配分は適切に行います。5相続税の実務対応換価分割は、相続税の課税価格に大きな影響を及ぼします。遺産分割の一態様であることから、その配分により相続税の負担の問題が起きます。当然譲渡所得の申告と納税手続きも必須です。相続人が複数いる場合、丁寧な説明と税負担に対するシミュレーションが必要です。譲渡に係る所得税・住民税の負担を事前に計算して分割割合等を提案します。例えば、被相続人と同居していた相続人A及び同居していなかったBが、被相続人の居住用土地建物を2分の1ずつ取得したような場合、小規模宅地等の特例を受けることができるのはAが取得した2分の1です。このような場合、Aが宅地全体を取得し、代償金として相応の対価をBに支払う遺産分割をすれば、相続税の負担の緩和となります。ただし、Aは譲渡所得に係る所得税の負担が生じますが、代償金等の額で調整することができます。提供:税経システム研究所
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2025/08/27 消費税
外国人旅行者向け消費税免税制度の見直し② 「リファンド方式」における免税販売手続の方法等
1.はじめに前回は、令和8年11月1日以後の免税対象物品の譲渡について、出国時に持出しが確認された場合に免税販売が成立する「リファンド方式」の概要と改正後の輸出物品販売場を経営する事業者(以下「免税店」といいます。)の会計処理について、解説しました。今回は、リファンド方式における免税販売手続の方法等を具体的に見ていきます。2.免税販売手続の方法等令和8年11月1日以後の外国人旅行者等(以下「免税購入対象者」といいます。)に対する免税販売手続の方法等は、次の図のようになります。図の①~⑧の順番に解説いたします。出典:国税庁「輸出物品販売場制度に関するQ&A(リファンド方式・概要編)問2」旅券等の提示・情報の提供免税店は、免税購入対象者本人から旅券等の提示を受け、その旅券等に記載された情報の提供を受けます(消令18②)。次の免税購入対象者の区分に応じた旅券等の提示がない場合は、免税販売手続を行うことはできません。イ以外の免税購入対象者……旅券各種上陸許可を受けて在留した免税購入対象者……各種上陸許可書及び旅券なお、日本国籍を有する免税購入対象者(国外に2年以上居住する者)に対して免税販売手続を行う場合は、旅券に加え「在留証明」「戸籍の附票の写し」又は「個人番号カード」(以下「証明書類」といいます。)の提示を受け、旅券及び証明書類に記載された情報の提供を受けます(消規6の2)。免税購入対象者であることを確認免税店は、①で提示を受けた旅券等により、購入者が免税購入対象者であることを確認します。免税購入対象者に対して必要事項を説明免税店は、免税販売手続の際、免税購入対象者に対して、次のア及びイの旨を説明しなければなりません(消令18③、消規6の3)。税関の確認は購入日から90日以内の出国時に旅券を提示等し、かつ、免税購入対象者は税関の求めに応じて免税対象物品を提示できるようにしなければならないこと税関の確認を受けた免税対象物品を遅滞なく輸出しなければならず、それを輸出しなかった場合には、免除された消費税額に相当する消費税を徴収され、かつ、罰則の適用対象となること免税対象物品の引渡し(税込価格で販売)免税店は、免税対象物品を免税購入対象者本人に引き渡します。なお、現行制度の免税価格(税抜価格)での販売から課税価格(税込価格)での販売に変更されることとなります。また、一般物品と消耗品の区分が廃止されることに伴い、消耗品の購入上限額及び特殊包装要件は廃止され、購入下限額(5千円)の判定はこれらの区分をせずに行うこととされます。購入記録情報の提供免税店は、免税販売手続の際、遅滞なく国税庁(免税販売管理システム)に購入記録情報を提供しなければなりません(消法8②)。税関確認情報の取得免税店は、免税購入対象者が免税対象物品を持ち出す(輸出する)ことにつき、その購入日から90日以内の出国時に税関の確認を受けた旨の情報(税関確認情報)について、国税庁(免税販売管理システム)から取得します(消令18⑨)。購入記録情報及び税関確認情報の保存免税店は、国税庁(免税販売管理システム)に提供した購入記録情報及び取得した税関確認情報を整理して、免税対象物品の譲渡を行った日の属する課税期間の末日の翌日から2月を経過した日から7年間、これを納税地又はその取引に係る事務所等に保存しなければなりません(消法8④、消令18⑩)。なお、購入記録情報及び税関確認情報の保存がない場合、免税購入対象者に対する販売であっても免税の適用を受けることはできません。ただし、事業者が災害その他やむを得ない事情により保存できなかったことを証明した場合には、この限りではありません(消法8④但書、消基通8-1-7)。免税が成立し、免税購入対象者へ返金取得した税関確認情報等に基づき、免税対象物品に係る消費税相当額を免税購入対象者に返金します。提供:税経システム研究所
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2025/08/20 相続・贈与税
令和6年分の相続時精算課税の申告が前年比で約6割も増加した要因
1令和6年分の贈与税の申告状況令和7年6月2日に国税庁から公表された「令和6年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について(記者提供資料)」(以下「提供資料」といいます)では、相続時精算課税の申告(納税なし)が令和5年分の申告と比較して約6割も増加しています。本稿では、相続時精算課税の申告が前年比で約6割も増加した要因を探ります。https://www.nta.go.jp/topics/pdf/0025005-063.pdf2暦年課税及び相続時精算課税別の申告状況の推移提供資料では、暦年課税を適用した申告人員は約40万人(対前年比▲14%)で、その申告納税額は3,274億円(同+9.7%)となっており、前年分と比較すると、申告人員は減少しましたが、申告納税額は増加しています。一方、相続時精算課税を適用した申告人員は約8万人(対前年比+60%)で、その申告納税額は661億円(対前年比+17%)となっており、前年分と比較すると、いずれも増加しています。上記の<暦年課税及び相続時精算課税別の申告状況の推移>のうち、令和5年分と令和6年分について、暦年課税と相続時精算課税の比較一覧を作成すると下表のようになります。3令和5年分までの暦年課税及び相続時精算課税別の申告状況相続時精算課税が創設された平成15年分から数年間は別として、平成27年分から令和5年分では、相続時精算課税の申告は贈与税の申告のうち1割にも満たない状況が続いていました(前頁の申告状況の推移参照)。相続時精算課税の申告が贈与税の申告のうち1割にも満たない状況が続いた要因は、「使い勝手の悪さ」と言われています。具体的には、相続時精算課税を選択すると、その年分後は、少額の贈与であっても必ず申告が必要になる煩わしさなどがありました。そのため、令和5年度税制改正により次の4の見直しが行われ、令和6年度から施行されることになりました。4令和5年度税制改正による見直し相続時精算課税の使い勝手を向上させるため、相続時精算課税について、次の見直しが行われ、令和6年1月1日から施行されることになりました。(1)少額贈与に対する課税除外相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、暦年課税の基礎控除とは別途、課税価格から基礎控除110万円を控除できることとするとともに、特定贈与者の死亡に係る相続税の課税価格に加算等をされる当該特定贈与者から贈与により取得した財産の価額は、上記の控除をした後の残額とすることになりました(相法21の11の2・21の15・21の16、措法70の3の2)。上記の改正は、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る贈与税について適用されます。(2)贈与により取得した財産が一定の被害を受けた場合の取扱い相続時精算課税適用者が特定贈与者からの贈与により取得した土地又は建物が、当該贈与を受けた日から当該特定贈与者の死亡に係る相続税の期限内申告書の提出期限までの間に一定の災害によって相当の被害を受けた場合において、当該相続時精算課税適用者が贈与税の納税地の所轄税務署長の承認を受けたときは、当該相続税の課税価格への加算等の基礎となる当該土地又は建物の価額は、当該贈与の時における価額から当該価額のうち当該災害によって被害を受けた部分に対応する金額を控除した金額とすることになりました(措法70の3の3)。上記の改正は、令和6年1月1日以後に土地又は建物が災害により被害を受けた場合について適用されます。5相続時精算課税の申告が前年比で約6割も増加した要因次の(1)が主な増加要因ですが、次の(2)も暦年贈与は対象外となっていることから増加要因といえます。(1)相続時精算課税による基礎控除額は相続財産に加算されない上記4の財務省資料のうち、「毎年、110万円まで課税しない(暦年課税の基礎控除とは別途の措置)」部分の見直しが主な増加要因と考えられます。暦年課税による贈与であれば、贈与者が死亡すると生前贈与財産(7年間)はすべて相続財産に加算されます(基礎控除110万円も含め加算されます)(一定期間に限り100万円までの控除がありますが)。一方、相続時精算課税による贈与財産が相続財産に加算される場合には、贈与財産から毎年の基礎控除110万円は課税されない(加算されない)ことになっています。相続時精算課税を選択した贈与が10年継続すれば、相続人1人当たり1,100万円(110万円×10年)が特定贈与者の相続予定財産から除外されることになります。相続人が2人・3人であれば2,200万円・3,300万円になることから、富裕層にとっては使い勝手が良い見直しといえます。(2)自然災害に対する救済措置増加要因として上記(1)には及びませんが、自然災害を受けた場合の救済措置も相続時精算課税の贈与財産(土地・建物に限定)に限り認められるものであり、増加要因といえます。提供:税経システム研究所
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2025/08/14 会計制度
リース会計に関する会計と税務(その1) リース会計基準の改正を理解するために
1.リース会計基準の改正リース会計基準が改正となり、2027年4月からは改正後の基準での会計実務が開始されます。その早期適用にも備えて、令和7年度税制改正大綱でリースに関する法人税の取扱いに関する記述が入りました。これまでのリース会計基準では、所有権移転外ファイナンス・リース取引の場合、個々のリース資産に重要性が乏しいと認められる場合は、オペレーティング・リース取引の会計処理に準じて、通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行うことができる(企業会計基準適用指針第16号「リース取引に関する会計基準の適用指針」(以下、「旧適用指針)という。)34項)という取扱いが存在していました。中小企業の多くではこの取扱いを活用して、オペレーティング・リースと同様に賃貸借処理をしてきたものと思われます。そこで本稿では、税制の理解の前にリース会計基準について解説をしていきます。(1)現行のリース会計基準での会計処理現行のリース会計基準では、リース取引は下記のように分類されていました。ファイナンス・リース取引とは、リース契約に基づくリース期間の中途において当該契約を解除することができないリース取引又はこれに準ずるリース取引で、借手が、当該契約に基づき使用する物件(以下「リース物件」という。)からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ、かつ、当該リース物件の使用に伴って生じるコストを実質的に負担することとなるリース取引をいうとされています(企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」(以下、「旧基準)という。)5項)。物件の賃貸の中でも、当該リース物件を自己所有するとするならば得られると期待されるほとんどすべての経済的利益を享受することでき、当該リース物件の取得価額相当額、維持管理等の費用、陳腐化によるリスク等のほとんどすべてのコストを負担するということが、物件を購入して所有するのと経済的実質が同じであることに着目しています。オペレーティング・リースは、ファイナンス・リース以外のリース取引とされています(旧基準8項)。ファイナンス・リースのうち、リース契約上の諸条件に照らしてリース物件の所有権が借手に移転すると認められるものを所有権移転ファイナンス・リース取引と呼び、それ以外の取引を所有権移転外ファイナンス・リース取引と呼んでいます。所有権移転ファイナンス・リース取引とは、次の①から③のいずれかに該当する取引であるとされています(旧適用指針10項)。リース契約上、リース期間終了後又はリース期間の中途で、リース物件の所有権が借手に移転することとされているリース取引リース契約上、借手に対して、リース期間終了後又はリース期間の中途で、名目的価額又はその行使時点のリース物件の価額に比して著しく有利な価額で買い取る権利(以下合わせて「割安購入選択権」という。)が与えられており、その行使が確実に予想されるリース取引リース物件が、借手の用途等に合わせて特別の仕様により製作又は建設されたものであって、当該リース物件の返還後、貸手が第三者に再びリース又は売却することが困難であるため、その使用可能期間を通じて借手によってのみ使用されることが明らかなリース取引(2)通常の売買取引に係る方法に準じた処理と賃貸借処理これまでのリース会計基準では、ファイナンス・リース取引については、通常の売買取引に係る方法に準じた処理、すなわちリース資産とリース負債を計上する資本化と呼ばれる処理が求められていました。それに対して、オペレーティング・リース取引については、通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行うこととされています(旧基準15項)。したがって、リース料の支払い時に、その支払額を賃借料、リース料等の勘定科目で費用処理することになります。所有権移転外ファイナンス・リース取引の場合、個々のリース資産に重要性が乏しいと認められる場合は、オペレーティング・リース取引の会計処理に準じて、通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行うことができる(旧適用指針34項)という取扱いが存在しています。個々のリース資産に重要性が乏しいと認められる場合とは、次の①から③のいずれかを満たす場合とされています(旧適用指針35項)。重要性が乏しい減価償却資産について、購入時に費用処理する方法が採用されている場合で、リース料総額が当該基準額以下のリース取引リース期間が1年以内のリース取引企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリース取引で、リース契約1件当たりのリース料総額(維持管理費用相当額又は通常の保守等の役務提供相当額のリース料総額に占める割合が重要な場合には、その合理的見積額を除くことができる。)が300万円以下のリース取引上記③の300万円基準があることで、パソコン、複合機といった事務機器をはじめとする器具備品のリースの多くが所有権移転外ファイナンス・リース取引であっても、通常の賃貸借取引に係る方法により会計処理されてきたといえます。2027年4月から適用される新リース会計基準でも上記のような重要性の基準は残りますが、建物など不動産賃貸借契約やオペレーティング・リースもファイナンス・リースと同様に資産計上が必要となるため、多くの企業で資産計上に対応するための準備が必要だと言われています。2.ファイナンス・リース取引の改正のポイント(1)リース会計基準の特質今回の「リース取引に関する会計基準」(以下、「リース会計基準」という。)の改正は、国際会計基準審議会のIFRS第16号「リース」の改正が2016年に公表されたことを受けて、両基準の相違点を解消するために行われました。その結果、すべてのリースを使用権の取得として捉えて使用権資産を貸借対照表に計上し、借手のリースの費用配分の方法については、リースがファイナンス・リースであるか、オペレーティング・リースであるかにかかわらず、使用権資産に係る減価償却費及びリース負債に係る利息相当額を計上するというIFRS第16号と同様の会計処理を採用することになりました。国際会計基準の特徴として、実質優先主義、法的形式よりも経済的実質を優先するということが挙げられてきました。リース会計基準もまさに典型例であり、リースの対象物の法的な所有者である貸手ではなく、借手に資産計上を求めます。なぜなら、典型的なリース契約においては、リース契約により顧客(借手)は、当該資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有し、かつ、顧客が、当該資産の使用を指図する権利を有することになります(リース会計基準第6項参照)。当該資産を、契約期間を通じて事業のために使用することができる半面、契約期間を通じて当初の期待通りの収益が得られないことが判明してもリース料を支払い続けなければなりません。この経済的効果は、資産を割賦購入した場合とほとんど同じです。それであれば、契約に基づく使用権資産を借手の資産として計上することを求めようというのがIFRS第16号の発想です。そして、今般の改正では、リースの識別というプロセスが重視されることになりました。そこでは、「リース契約」という契約の名称であるか否かに関わらず、不動産賃貸契約であろうと、役務提供契約であろうと、契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合、当該契約はリースを含むことになります(リース会計基準第26項)。(2)リースの識別というアプローチこうした思考からは、リースの識別をリース契約という名称に関わらず行わなければリース会計基準を適用すべきリース契約を網羅できないことになります。経済雑誌等では、「すべての契約を洗いなおせ」「契約書は総務だけが保管しているとは限らない」といった扇情的な見出しが躍っています。リースの識別の例として、ASBJ「リースに関する会計基準の適用指針」(以下、「適用指針」という。)では、説例として下記のような事例を挙げています。鉄道での貨物輸送を委託する契約において、コンテナ輸送用とかタンク車といった貨車の種類は特定するものの、10両分という範疇であれば、資産の特定がないため、リースは含まないと考える。しかし、車両を特定し、独占使用、使用を指図する権利を持っていれば、その契約にはリースを含むとする例(説例2)。小売業者が空港内の搭乗エリアにある区画を使用する契約を、空港運営会社と締結した場合、割り当てた区画を使用期間中いつでも変更する権利を空港運営会社が有していればリースは含まれないと考える。しかし、区画が特定され、区画の移動を空港運営会社が求める場合、移転のためのコストの全額を空港運営会社が負担するような契約ならばその契約にはリースを含むとする例(説例3)。ネットワーク・サービスの利用契約において、ネットワーク・サービスの水準は利用開始時に決定するのみでその後の変更はできず、設置されたサーバの使用方法についての指図ができないといった場合、その契約にはリースは含まれないと考える。しかし、ネットワーク・サービスの水準を変更することを求めたり、サーバ機が特定され、その使用について利用者が使用法等について指示できる場合にはリースを含むとする例(説例5)。このように表面上は、リース契約という文言はなくとも、「契約の中にリースを含む」部分があれば、そこについてはリース会計基準を適用することになります。そのため、あらゆる契約の中から「特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する」契約関係が内包されていないかという観点でリース会計基準と対象となる契約内容を拾い出していく作業が必要になるのです。提供:税経システム研究所
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2025/08/06 法人税その他の税・法令等
破産手続きにおける債権者の税務の取扱いについて
1概要企業倒産については、負債総額は前年度比で減少したものの、倒産件数は3年連続で増加しており(注1)、今後も新型コロナウイルス関連融資の返済本格化に加え、物価上昇や後継者・人手不足、米国政権の政策運営を巡る不確実性など国内外にリスク要因が増しており、破産を含めた倒産の増加が懸念されます(注2)。破産法は、支払不能又は債務超過の状態にある債務者の財産等の清算手続において、債権者その他の利害関係者の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに、債務者の経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的としています(破産法1条)。破産手続開始の原因について、破産法は債務者が支払不能(破産法2条11項)又は債務超過(個人、存立中の合名会社、合資会社は支払不能に限ります。)の状態にある場合(破産法15条1項、16条1項・2項)の2つの事由を定めています。破産手続き開始の申立権利者は、支払不能又は債務超過の債務者はもちろん、これらの債務者に対して債権を有する債権者も含まれています(破産法18条1項)。申立権者からの破産手続き開始の申立てについて、裁判所が破産手続開始の原因となる事実があると認めるときは、原則として破産手続開始の決定がなされます(破産法30条1項)。債権者(破産債権者)は、債務者が破産手続きに入った場合、その債務者(破産債務者)に対する金銭債権について、個別評価金銭債権に対する貸倒引当金や貸倒損失の計上を検討することになります。そこで本稿では、破産手続きの流れの中で「破産手続開始の申立て」「破産手続開始の決定」「破産手続終結の決定」の時における債権者の税務上の取扱いについて解説(注3)します。破産手続の流れ(注4)2破産手続開始の申立てが行われた場合貸倒引当金の適用法人に該当する法人の有する金銭債権につき破産法の規定による破産手続開始の申立てが行われている場合には、その債権者に対する金銭債権の50%に相当する金額を貸倒引当金として繰り入れることが認められています(法人税法52条1項、法人税法施行令96条1項3号)。なお、この場合に回収不能見込額が50%未満であっても、50%相当額を繰入れできることになります。ただ、この場合あくまでも形式的に債務者に対する金銭債権の50%相当額の繰入に留まるわけで、仮に債務者の債務超過の状態が相当期間継続しており、回収不能見込額が50%を超える場合には、その回収見込額により債務超過状態の継続等による一部回収不能額の繰入れ(法人税法52条、法人税法施行令96条1項2号)をした方がより多くの不良債権処理ができることになります。前述のとおり、破産法上、破産手続開始の原因となる事実は、法人であれば支払不能又は債務超過(存立中の合名会社、合資会社は支払不能に限ります。)となっていることから、債務超過の状態が相当期間継続している場合には、回収不能見込額による債務超過状態の継続等による一部回収不能額の繰入れが認められることになります。なお、この場合の「相当期間」とは、おおむね1年以上とされています(法人税基本通達11-2-6)。ところで、貸倒引当金の損金算入制度は、各事業年度において、債務者に一定の事実が生じていることを条件に繰入れを認めるもので、翌事業年度においてその繰入れした金額全額を益金の額に算入する、いわゆる洗替方式が採られています(法人税法52条10項)(注5)。したがって、破産手続開始の申立ての日を含む事業年度に限って繰入れが認められるというものではありません。3破産手続開始の決定が行われた場合破産手続開始の決定後、破産債権者はその有する破産債権につき配当を受けることになります。もっとも、その破産債権について配当を受けることができないと認められる部分につき債権放棄をした場合、債務者の債務超過の状態が相当期間継続していること、債権放棄額を書面により債務者に対して明らかにしていることを条件に、その債権放棄額は貸倒損失として損金の額に算入することができます(法人税法22条3項3号、法人税基本通達9-6-1(4))。なお、この場合の「相当期間」とは、毎期洗替をすることを原則とする貸倒引当金の場合とは異なり、最終処理であることから「債権者が債務者の経営状態をみて回収不能かどうかを判断するために必要な合理的な期間」(注6)とされ、「形式的に何年ということではなく、個別の事情に応じその期間は異なる」(注7)とされています(注8)。債務者が個人である場合、破産者のプラスの財産である破産財団をもって破産手続の費用を支弁するに不足すると認められる場合に、破産手続の開始決定と同時に破産手続の廃止の決定(破産手続きの同時廃止)がされます(破産法216条1項)(注9)。したがって、債務者が個人の場合には破産手続の廃止の決定を受けたに過ぎず、免責決定については未了の段階であったとしても、事実上回収不能であることから、この時点で貸倒損失を計上することが認められます(法人税法22条3項3号、法人税基本通達9-6-2)。なお、破産法上は同時廃止がされる債務者について、個人債務者に限定していませんが、実務上法人債務者について同時廃止がされることは基本的に無いようです(注10)。ところで、個人の破産手続きにおいては、債務者が破産手続開始の申立てをした場合には、申立てと同時に免責許可の申立てがされたものとみなされます(破産法248条4項)。破産手続の開始決定と同時に破産手続きの廃止決定がなされた場合であっても、債務者の免責許可の申立てに対する裁判所の判断が残ることになります。裁判所による免責許可の決定が確定するまでの間、債権者個々の権利行使も禁止され(破産法249条)、最後配当等により弁済されなかった破産債権は、免責許可決定の確定によりその責任を免れることになります(破産法253条)。したがって、個人の破産債務者に対する金銭債権は、免責許可の決定の確定時に貸倒損失として損金の額に算入することができると考えます(法人税法22条3項3号、法人税基本通達9-6-1)。4破産手続終結の決定が行われた場合法人の破産手続きにおいては、破産手続開始の決定は一般に法人の解散事由とされています(会社法471条、641条等)。そのような法人は、破産手続きによる清算の目的の範囲内で存続しているにすぎないため、破産手続が終結した場合には、法人格が消滅するのが原則であり、破産手続終結の登記がされ、登記記録が閉鎖されます。破産法人の法人格の消滅の時点は条文上の規定はありませんが、通説では破産手続終結の決定の公告の時点とされています。法人格が消滅している以上、当然に破産法人であった法人に分配可能な財産はないのであり、この時点で破産債権者が破産法人に対する金銭債権もその全額が滅失したと考えられます。したがって、破産手続終結の決定の公告の時点で、債権者は破産法人に対する破産手続の終結決定(又は廃止決定)を理由に法人税基本通達9-6-1により貸倒損失として損金の額に算入することができます。なお、破産管財人から配当額ゼロの証明がある場合、その証明が受けられない場合であっても債務者の資産処分が終了し、今後の回収が見込まれないまま破産終結まで相当の期間がかかる場合には、破産終結前であっても配当がないものとしてその全額について法人税基本通達9-6-2を適用して貸倒損失として損金の額に算入することができます(注11)。ところで、従前、破産法の手続においては債権の額が法的に切り捨てられるという手続きが基本的に存在しないことなどを理由に法律上の貸倒損失(法人税基本通達9-6-1)の適用ではなく、事実上の貸倒損失(法人税基本通達9-6-2)が適用されるとの見解(注12)がありましたが、法人の破産債務者に対する金銭債権について国税不服審判所裁決(注13)では、破産手続の廃止決定又は終結決定の時に債権は滅失すると判断していました。また、令和6年11月27日に更新された国税庁ホームページ記載の質疑応答(注14)においても前記裁決をなぞるようにして法人税基本通達9-6-1の適用であることを明らかにしています。なお、法人税基本通達9-6-1において、会社更生法、民事再生法、会社法(特別清算)の法的手続きによる場合が定められ、破産法の手続については定められていませんが、これは、会社更生法、民事再生法、会社法(特別清算)においては、法的に債権を消滅(切り捨て)させる手続きが定められている(注15)のに対して、破産法における法人の破産手続では配当されなかった部分の債権を消滅させる手続きがないことによるものと考えます。しかしながら、法人税基本通達9-6-1は法的に債権が滅失する場合を示していることからすると、破産法の手続の場合においても、廃止決定又は終結決定が出されることで、その破産法人の登記も閉鎖され、破産債権者の破産法人に対する金銭債権もその全額が滅失したものと考えられることから、これら決定が出された場合には同通達の適用がされると考えます(注16)。(参考)債務者に保証人がいる場合は、保証人にはその免責の効果は及ばないとされており(破産法253条2項)(注17)、主債務者の破産手続が終了しても、保証人は引き続き保証を負うことになりますので直ちに貸倒損失として損金の額に算入することは認められないことになります。<注釈>東京商工リサーチ(https://www.tsr-net.co.jp/news/status/transition/)によると、過去3年間の倒産件数(債務額)は2022年6,428件(2,331,443百万円)、2023年8,690件(2,402,645百万円)、2024年10,006件(2,343,538百万円)となっています。株式会社聘珍楼が令和7年5月21日に破産手続きの申立てをした旨が同社ホームページで明らかにされています(https://www.heichin.com/wp-content/uploads/2025/05/information2.pdf)。本稿解説は、小職の過去の解説を直近の条文等及びデータ並びにMJS客員講師である毛塚衛弁護士のアドバイスなどを基に再構成したものです。小著『不良債権処理と再生の税務』428頁(大蔵財務協会、2012年)会計慣行からいわゆる差額補充法も認められています(法人税基本通達11-1-1)。国税庁ホームページ(質疑応答事例)法人税〔貸倒損失〕「1第三者に対して債務免除を行った場合の貸倒れ」前掲注6参照。ゴルフ場を営む債務者の債務超過状態の判断期間を本格的に収益の計上を開始する3年ないし5年とした裁判例(横浜地判平成5年4月28日(税資195号199頁)・東京高判平成7年5月30日(税資209号940頁))があります。破産法上は同時廃止がされる債務者について、個人債務者に限定していませんが、実務上法人債務者について同時廃止がされることは基本的にありません。伊藤眞ほか『条解破産法〔第3版〕』1487頁(弘文堂、2022年)国審平成20年6月26日(裁決事例集№75)、国税庁ホームページ(質疑応答事例)法人税〔貸倒損失〕「6残余財産がない破産法人の破産手続終結の決定があった場合における当該破産法人に対する金銭債権の貸倒れ」原一郎「貸倒損失」武田昌輔ほか『法人税の損金の研究』226頁(日税研論集Vol.42、1999年)、東京国税局法人税課長編『回答事例による法人税質疑応答集』625頁(大蔵財務協会、2004年)、中野真純「法律上・事実上・形式上の貸倒処理」27頁(税務弘報、2009年9月)国審平成20年6月26日(裁決事例集№75)法人税〔貸倒損失〕「6残余財産がない破産法人の破産手続終結の決定があった場合における当該破産法人に対する金銭債権の貸倒れ」会社更生法204条1項、民事再生法178条1項、会社法571条3項法人税基本通達9-6-1に定められた事由は、あくまでも法律上債権が消滅する場合を例示したに過ぎないと考えられます。会社更生法203条2項、民事再生法177条2項、会社法571条2項においても付従性の原則の例外として、保証人等に切捨ての効果は及ばないことが規定されています。提供:税経システム研究所
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2025/07/30 地方税
不動産の取得に係る税金(不動産取得税)
家屋や土地を取得した場合には、都道府県から不動産取得税が課税されます。取得した家屋や土地が居住用の場合には特例が設けられています。1.家屋に対する不動産取得税家屋を取得した場合には、その家屋の固定資産税評価額の4%の不動産取得税が課税されます。不動産取得税は、建築の場合には固定資産税評価額が23万円未満(建築以外の場合には12万円未満)の場合には免税となります。また、その家屋が住宅(別荘は除かれる。以下同じ)の場合には、平成18年4月1日から令和9年3月31日までは、税率が3%に軽減されます。2.特例適用住宅の1,200万円控除次の要件を満たす特例適用住宅を新築した場合には、家屋の固定資産税評価額から1,200万円(認定長期優良住宅は1,300万円)が控除され、不動産取得税はその3%とされます。家屋の床面積(マンション、アパート等は共用部分をあん分して加算)が50㎡以上240㎡以下であること(注)賃貸マンション等は40㎡以上240㎡以下【算式】不動産取得税=(固定資産税評価額-1,200万円※)×3%※認定長期優良住宅は1,300万円個人が上記の要件を満たす中古住宅を取得し、その個人の居住用としたときは、新耐震基準に適合(又は建築日付が昭和57年以後)する場合には、家屋の固定資産税評価額から以下の図表に掲げる金額が控除され、不動産取得税はその3%とされます。【算式】不動産取得税=(固定資産税評価額-控除額)×3%〔図表〕特例適用中古住宅の減額される額建築された日控除額平成9年4月1日~1,200万円平成元年4月1日~平成9年3月31日1,000万円昭和60年7月1日~平成元年3月31日450万円昭和56年7月1日~昭和60年6月30日420万円昭和51年4月1日~昭和56年6月30日350万円3.土地に対する不動産取得税土地を取得した場合には、その土地の固定資産税評価額の4%(平成15年4月1日から令和9年3月31日までは3%)の不動産取得税が課税されます。その土地の固定資産税評価額が10万円未満の場合には免税となります。4.宅地の価格の特例宅地に対する不動産取得税の課税標準は固定資産税の評価額ですが、土地の取得が平成9年1月1日から令和9年3月31日までに行われた場合には、固定資産税評価額の2分の1とされます。5.特例適用住宅用地の軽減措置前記2.の新築の特例適用住宅や特定既存住宅の敷地については、①土地を取得して2年(平成11年4月1日から令和8年3月31日までの取得については3年)以内にその上に特例適用住宅を新築した場合、または②特例適用住宅を新築後1年以内にその敷地を取得した場合、③新築後1年以内に特例適用住宅とその敷地を取得した場合には通常の不動産取得税から次の金額が軽減されます。6.申告手続き家屋の不動産取得税について新築の特例適用住宅や特定既存住宅の特例を受ける場合や土地の不動産取得税について新築の特例適用住宅や特定既存住宅の敷地の特例を受ける場合には、都道府県の条例によって申告する必要があります。提供:税経システム研究所
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2025/07/23 法人税相続・贈与税医療業務
医療法人制度の取扱いの整理
1.はじめに医療法人制度が創設されてから75年が経過しましたが、これまで数々の変更が行われてきました。昔(30年前まで)は医師又は歯科医師が常時3名以上勤務する病院規模の医療機関でないと医療法人の認可は下りなかったということを知らない人も多いだろうと思います。また社会福祉法人や宗教法人などと異なり、どうして医療法人には財団と社団があるのだろうか疑問を抱いている人も多いのではないかと思います。医療法人制度にはいろいろな何故?があり、その何故がある故にこれまで制度の改正が行われてきました。これまでどのような改正がどの時代に行われてきたのかということを項目風に取り上げて整理してみたいと思います。2.制度創設戦後の昭和25年~27年にかけて、社会福祉法人や宗教法人や学校法人など特別な法律に基づくいわゆる特別法人が続々と誕生しました。医療事業においても昭和25年医療法改正により法人化が認められました。これが医療法人制度の始まりです。これは個人医療機関が設備投資を行うための資金集積を容易ならしめることを目的として制度化されたものです。そして、医療法人という形態を採った理由は次のような事情によるものでした。医療事業には非営利性が求められるため、株式会社等の営利法人成りはなじまない。家業としての個人医療機関に民法第34条(当時)による公益法人並みの要件を求めることは難しい。つまり医療法人は営利法人と公益法人との間に位置する中間法人ととらえられました。この時、医療法には次のような規定が設けられました。第39条病院又は医師若しくは歯科医師が常時3人以上勤務する診療所を開設しようとする社団又は財団は、この法律の規定により、これを法人とすることができる。2この規定による法人は、医療法人と称する。第54条医療法人は剰余金の配当をしてはならない。ところが厚生省(当時)が作成した医療法人社団のモデル定款には、出資者に対して、退社した場合の持分払戻請求権と解散した場合の残余財産分配請求権を認める定めが謳われました。つまり定款で次のように定めることを認めました。第9条社員資格を喪失した者はその出資額に応じて払戻しを請求することができる。第34条本社団が解散した場合の残余財産は払込済出資額に応じて分配するものとする。なぜ出資者に法人の財産を払い戻すことを認めるような定款を認めたのか、ということについては、出資者になんらかのインセンティブを与えなければせっかく創った医療法人制度が活用されないのではないかという心配があったのではないかともいわれています。本来ならば社会福祉法人などの特別法人と同じように、財団・社団の区別をせず非営利が徹底された医療法人とすべきだったといえますが、医療体制の確保という喫緊の課題があった当時としては医療法人を普及させるためにやむを得なかったのかもしれません。そのため出資者に認められた財産の払戻しや分配を受ける権利(これを出資持分といいます)は、医療法第54条の剰余金配当禁止規定に抵触する可能性があるという問題を抱えながら医療法人制度はスタートすることになりました。3.昭和60年医療法改正(第一次)それまで医療法人成りが認められていたのは病院又は医師若しくは歯科医師が常時3人以上勤務する診療所に限られていましたが、昭和60年の医療法改正により、医師若しくは歯科医師が一人又は二人の診療所も医療法人成りを認める改正が行われました。これにより、クリニック規模の診療所が節税対策のため続々と医療法人成りをしていくことになりました。また、この時の改正では、理事長が医師でない医療法人(産婦人科病院)の乱脈診療事件をきっかけに、医療法人の指導監督の強化が図られ、理事長は原則として医師又は歯科医師であること、施設の管理者である医師又は歯科医師は理事となることを義務付ける改正も行われました。4.昭和59年出資持分の評価方法に類似業種比準方式導入昭和58年、取引相場のない株式の相続税評価に類似業種比準方式が導入されましたが、医療法人の出資持分は対象外とされていました。しかし翌年において医療法人の出資持分の評価についても類似業種比準方式が採用されることになりました。それが財産評価基本通達194-2「医療法人の出資の評価」の新設です。ただし、医療法人は配当禁止規定があるため比準要素(配当、利益、純資産)のうち配当要素は算式に入れない、つまり比準価額を求める算式の分子は利益と純資産の2つの要素ということになりました。5.平成18年第5次医療法改正第5次医療法改正で、持分の定めのある法人の新設は禁止されました。この背景には当時の政権が打ち出した聖域なき構造改革路線により規制改革・民間開放推進会議が打ち出した医業への株式会社参入論がありました。まさに昭和25年の創設時に、剰余金配当禁止規定を設けながら出資者に払戻しができる定款の作成をも認めてしまった矛盾を指摘するものでした。厚生労働省は、医療法人には剰余金を配当することが禁止されているため営利法人の参入は認められないと主張しますが、出資者に対する出資持分の払戻しや残余財産の分配は剰余金の配当にほかならず、株式会社と何ら変わるところはなく、医療法の剰余金配当禁止規定をもって株式会社参入不可の根拠とすることはナンセンスであるというものでした。厚生労働省は、医業への営利企業参入を阻止するためには、出資者に対する出資持分権を廃止する以外にないと考え、出資持分の定めのある医療法人の設立は今後認めないとして医療法人の非営利性を徹底するための改正を行いました。なお、従来の出資持分の定めのある医療法人については、出資持分なしの法人に移行するまでの間(当分の間ということになっています)出資持分ありのままの法人で存続することを認めるという経過措置が医療法附則で規定されました。この経過措置の適用を受ける医療法人、つまり従来からの出資持分の定めのある医療法人のことを経過措置型医療法人と呼びます。6.平成20年法人税法施行令136条の3第2項の新設持分の定めのある医療法人は、出資者に対して持分払戻し義務を負っていますが、持分なしの医療法人となるにあたって出資者が出資持分を放棄すると、その払戻し義務が消滅します。いうならば、持分払戻し義務免除益が生ずることになりますが、この「生ずる利益の額」については法人税法施行令136条の3第2項を新設し、益金に算入しないとすることにしました。会計上は、益金に算入しないということは、損益計算書に計上せず利益積立金として処理することになります。つまり、放棄によって出資金(資本金)が消滅し代わりに利益積立金が計上されることになります。<法人税法施行令136条の3第2項>社団である医療法人で持分の定めのあるものが持分の定めのない医療法人となる場合において、持分の全部又は一部の払戻しをしなかったときは、その払戻しをしなかったことにより生ずる利益の額は、その医療法人の各事業年度の所得の計算上、益金の額に算入しない。7.平成26年医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予及び免除制度創設出資持分の定めのある医療法人(経過措置型医療法人)の持分なしの法人への移行がなかなか進まない状況が続いたため、移行促進策として平成26年租税特別措置法に医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予及び免除制度が創設されました。そして医療法も改正され医療法附則において認定医療法人というものが規定されました。その内容は平成26年10月1日からの3年間のうちに、持分ありの法人が持分なしの法人に移行することを決定し(決定した医療法人を認定医療法人という)、決定後(認定医療法人の認定を受けた後)移行完了までの間において、相続が発生した場合は、被相続人の出資持分に対応する相続税分を猶予し、移行完了した時点で免除するという規定(当時措置法70条の7の9~14)でした。また複数の出資者のうちの一人が持分を放棄したことにより他の出資者に対して生ずるみなし贈与についても同様の扱い(猶予及び免除)とするという規定です。これがまったく人気がなく受け入れられませんでした。この制度を利用して持分なしの法人に移行したのはごくわずかだけという失敗作でした。それは、出資持分に係る相続税は免除されても、持分なしへの移行にあたり持分を放棄したことに対して相続税法66条4項の規定が適用され医療法人を個人とみなして贈与税が課される可能性があったからです。特に診療所規模の医療法人にあっては、このみなし贈与規定の適用を受けないための要件(相続税法施行令第33条第3項)をクリアすることはできませんでした。8.平成29年度、医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予及び免除制度の改正失敗作の創設から3年後の平成29年、租税特別措置法が改正されるとともに医療法も改正され、認定医療法人の要件の改正が行われました。結論を述べれば、認定医療法人の認定を受けた法人が持分なしの法人に移行し、移行した後6年間、改正された認定要件(追加された8つの運営要件)を満たし続ければ法人に対しみなし贈与課税はしない、というものです。なお、改正された認定要件の内容については「認定医療法人の認定要件のうちの運営要件についてその1」及び「認定医療法人の認定要件のうちの運営要件についてその2」の税務情報リポートを参照してください。持分なしの法人に移行した後6年の間に、改正された認定要件を満たせず認定の取消しがあった場合には、法人にみなし贈与課税が行われます。認定が取り消されたのだからもとの持分ありの法人に戻る、ということはありません。どういう理由にせよ、いったん持分なしの法人になったら二度と持分ありの法人に戻ることはできません。だからこそみなし贈与課税が出てくるわけです。9.令和5年度医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予及び免除制度の改正上記8の制度について、適用期間が令和8年12月31日まで延長されました。前回の延長期限は令和5年9月30日まででした。また認定医療法人の認定を受けてから持分なしの法人に移行完了しなければならない期限が、これまでの3年から5年に延長されています。煩雑な手続きを3年以内にという縛りは短すぎるかな、という配慮があったのかもしれませんが、とにもかくにも、持分なしの法人に移行し、かつ、みなし贈与課税を受けずに済ませるためには、10年くらいの長い期間、認定要件(具体的には8つの運営要件)を満たし続けなければならない制度です。昭和25年の医療法人制度創設の時のツケ(つまり出資者に払戻請求権や残余財産分配請求権を定款に定めることを厚生労働省自らが認めたツケ)が、今日このような難しい制度を作り上げているといってもいいかもしれません。10.おわりに以上のように75年の間に医療法人のありようはずいぶんと変わりました。昭和25年当時は、医療関係者(開業医や医師会)のどんな形でもいいから法人化を認めてほしいという要望と医療体制の確保という課題が合致し医療法人制度が誕生しましたが、非営利の徹底という第5次医療法改正からは、医療法人への規制がずいぶんと強化されて今日に至っています。第7次医療法改正(平成27年改正、28年施行)では医療法人のガバナンスに関する規定がたくさん設けられました。ガバナンス規定には「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」いわゆる公益法人制度関連三法の一つである「一般社団・財団法人法」の規定が援用(読み替え規定)されています。それらの内容については次の機会に紹介したいと思います。なお、今回は出資額限度法人については触れませんでした。出資額限度法人は紆余曲折があり解決しなければならない課題を多く含む法人で、法律に規定されない存在のままになっていますが、現実には一定数存在します。平成19年以降においては財団法人か又は持分の定めのない社団医療法人の新設しか認められていませんが、社団法人においては基金制度を採用することができることになっているため、出資額限度法人は注目されない存在になっているといってもいいかもしれません。なぜなら出資額限度法人は出資者へ払戻す金額は出資額を限度とするという法人で、この扱いは、返還すべき金額は拠出した基金の額を超えてはならないとする基金制度を採用した法人と、ほぼ同じとみていいからです。もちろん出資額限度法人は「持分の定めのある法人」の領域の話であり、基金制度を採用した基金拠出型法人は「持分の定めのない法人」の領域の話であって、土俵が異なりますが、持分の定めのある法人を経過措置型法人などと呼び持分なしへ移行するまでの存在と位置付けている今日にあっては、もはや出資額限度法人はその意義を失っているように個人的には思えます。法律にきちんと規定され医療法人の一つの類型として人格を付与されることはもうないのではないでしょうか(持分の定めのある医療法人をなくす方向で動いているのですから)。提供:税経システム研究所
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2025/07/16 経営・運営公益法人
新公益法人制度と会計(第4回)
新公益法人制度と会計について、前回は制度改正等に伴うスケジュールの後半部分を記載させて頂きました。第4回では、制度改正等の具体的な内容について解説させて頂きます。(1)公益認定法の改正点について公益認定法は、令和6年5月22日に改正となりました。主な改正点は、公益法人の責務が制定されたほか、旧法でいう収支相償、遊休財産額、外部理事及び外部監事の必置、区分経理及び財産目録の備置き及び閲覧等になります。公益法人等の責務とは、以下の内容になります。(公益法人等の責務)第三条の二公益法人は、公益目的事業の質の向上を図るため、運営体制の充実を図るとともに、財務に関する情報の開示その他のその運営における透明性の向上を図るよう努めなければならない。2国は、前項の規定による公益法人の取組を促進するため、必要な情報の収集及び提供その他の必要な支援を行うものとする。今回の改正では、財務規律である中期的収支均衡(旧収支相償)や使途不特定財産額(遊休財産額)の保有制限についての運用を緩和する代わりに、外部理事や外部監事を設置して公益法人のガバナンス強化を図るとともに、法と会計の整合性の確保を通じて情報の透明性を強化することを主眼としています。そのため、上記の公益法人等の責務が制定されたことが、そのことを担保する根拠条文になると考えられます。(2)中期的収支均衡について中期的収支均衡という用語は、認定法規則のものとなります。しかしながら、収支均衡は、そもそも公益認定基準や認定を受けた後も遵守すべき要件として、公益認定法に規定されている条文です。(公益認定の基準)第五条行政庁は、前条の認定(以下「公益認定」という。)の申請をした一般社団法人又は一般財団法人が次に掲げる基準に適合すると認めるときは、当該法人について公益認定をするものとする。六その行う公益目的事業について、第十四条の規定による収支の均衡が図られるものであると見込まれるものであること。上記の条文は、公益認定申請の段階で必要となる要件です。第14条の規定による収支均衡とは以下の条文になります。(公益目的事業の収入及び費用)第十四条公益法人は、その公益目的事業を行うに当たっては、内閣府令で定めるところにより、当該公益目的事業に係る収入をその実施に要する適正な費用(当該公益目的事業を充実させるため将来において必要となる資金として内閣府令で定める方法により積み立てる資金を含む。)に充てることにより、内閣府令で定める期間において、その収支の均衡が図られるようにしなければならない。改正法では、中期的収支均衡の計算を府令委任し、柔軟な運営が出来るような構成になっています。以下に示す旧法では、単に適正な費用を償う額を超える収入を得てはならないと規定されていました。(公益目的事業の収入)第十四条公益法人は、その公益目的事業を行うに当たり、当該公益目的事業の実施に要する適正な費用を償う額を超える収入を得てはならない。このことで、公益目的事業では赤字を出さなくてはならないという誤解が生じておりました。収支相償では、2年間でその黒字を解消するという運用が行われておりましたが、改正法等において明確に規定されました。また、改正法第14条では、府令委任する中で、公益目的事業を充実させるため将来において必要となる資金として内閣府令で定める方法により積み立てる資金についても、中期的収支均衡に含む概念として新設された項目もあります。今回は、主として中期的均衡の新旧の条文の比較やその概要について、説明させて頂きました。次回も引き続き、新公益法人制度(中期的収支均衡)についてご説明させて頂きます。提供:税経システム研究所
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