税金ワンポイント
税務に関するニュースの中でも、注目度の高いトピックスを取り上げ紹介していく税金ワンポイント。主要な改正情報はもちろん、税務上、判断に迷いやすい税金実務のポイントを毎週お届けします。速報性の高い、タイムリーな情報を皆様の実務にお役立てください。
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2026/05/11
法人成りと実質所得者課税の原則
節税対策として、個人事業主が法人を設立し、事業を法人に移転するいわゆる「法人成り」は広く知られた手法である。法人税率が所得税の最高税率より低いことに加え、役員報酬による所得分散や各種制度の活用により、一定の税負担軽減効果が見込まれるためである。ただし、法人成りの多くは事業拡大等の経済合理性を伴うものであるが、節税目的が主たる動機とみられる場合には、税務調査において真の納税者が個人なのか法人なのかが精査されることになる。そして、その判断は実質課税の原則に基づいて行われる。実質課税の原則とは、私法上の形式や名義に拘束されることなく、所得の実質的な帰属者に対して課税するという考え方であり、所得税法12条及び関連通達(注1)に根拠や解釈等が示されている。すなわち、形式上の権利帰属と経済的実態が乖離する場合には、実際に所得を享受する者に課税するというものである。この観点から、「法人成り」をみると、単に法人を設立して帳簿処理を切り替えるのみでは不十分であり、事業の実態が法人へ移転していることが前提となる。令和元年5月30日東京地裁判決(税務訴訟資料269号-56・順号13279)(注2)においても、この点が明確に示されている。本件は、北海道で漁業を営む個人事業主が法人を設立し、収益を法人に帰属させて申告していた事案であるが、税務調査の結果、課税当局は当該収入を個人に帰属するものとして所得税の更正処分を行い、裁判所もこれを支持した。裁判所が重視したのは、形式と実態の乖離である。漁業権はすべて個人名義で取得され、法人は漁業協同組合の組合員資格を有していなかった。また、漁船、倉庫、車両といった主要な事業用資産も個人名義のままであった。さらに、漁業収入はすべて個人の銀行口座に入金され、法人口座の利用実績はほとんど認められなかった。納税者自身も税務調査において「法人成り後も対外的に変わったところはない」旨を認めている。これらの事情から、法人は単なる名義主体にすぎず、実質的な所得の帰属主体は個人であると判断されたのである。なお、納税者は「信託関係を通じて法人が実質的な受益者である」と主張したが、財産の分別管理が行われておらず、信託の効果意思も認められないとして排斥されている。この事案は、形式的に法人を設立し、帳簿処理を変更したのみでは足りず、実態が伴わない限り法人成りの効果が認められないことを示すものである。漁業権や免許などの権利関係を法人に移転できるか、あるいは移転できない場合はどのような実態を整備しているのか、資産の名義変更、資金の法人口座への集約、法人としての契約関係の構築など、実態の移転を伴って初めて法人成りの効果は認められるといえる。法人成りに際しては、節税効果のみに着目するのではなく、実態整備の重要性を十分に認識する必要がある。<注釈>https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/03/01.htmhttps://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2019/pdf/13279.pdf提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2026/05/11
食事支給の運用設計
令和8年4月、食事支給に係る非課税限度額が月額7,500円へ引き上げられた(注1)。実に42年ぶりの改正である。この機会に制度の新設や拡充を検討する企業は多いと考えられるが、実務上の要点は「課税を生じさせない運用設計」に尽きる。まず押さえるべきは、非課税要件が「従業員負担割合50%以上」と「食事価額から従業員負担額を控除した残額が月額7,500円以下」の二要件の同時充足である。所基通36-38の2はこれらを満たす場合に限り経済的利益がないものとして取り扱うとしており、いずれか一方でも欠ければ、食事価額から従業員負担額を差し引いた残額の全体が給与として課税される。したがって、非課税とするためには「負担割合」と「月額上限」の双方を満たすよう、提供日数も含めて制度設計を行う必要がある。食券方式においても同様の注意を要する。例えば、1食900円(税抜)の食券を従業員に500円で提供し、月20食利用された場合、会社負担は8,000円となり限度額を超過する。このようなケースでは、利用上限の設定や会社補助額の見直しに加え、月次の利用実績管理を徹底することが重要である。さらに、従業員から徴収する金額を売上として処理するか預り金として処理するかにより消費税の取扱いが異なるため、会計処理方針を事前に統一しておく必要がある。また、いわゆる食事手当として一定額を給与に上乗せする場合には、その金額の多寡にかかわらず原則として全額が給与課税となる(注2)。非課税とするためには現物支給であることが前提であり、例外は深夜勤務に伴い現物支給が困難な場合に限られる。この場合であっても、対象者は正規の勤務時間として深夜帯が設定されている従業員であること、1食当たり650円以下の範囲に限定される点に留意が必要である。適正に制度設計を行えば、食事支給制度は賃上げに代わる処遇改善策として有効に機能する。固定的な人件費の増加を抑えつつ、従業員の実質的な手取りを増加させることが可能である。また、会社が弁当業者や契約食堂に直接支払う食事代は、取引形態によっては消費税の課税仕入れに該当し、仕入税額控除の対象となる点も重要である。今回の改正を契機として、自社の制度設計および運用体制を改めて点検することが求められる。<注釈>https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2594.htmhttps://www.nta.go.jp/law/shitsugi/gensen/03/44.htm提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2026/04/27
決算賞与が当期の損金として認められる要件とは
決算期を迎え、業績が好調だった年には、従業員への還元を兼ねて決算賞与の支給を検討する会社は少なくない。しかし、その処理を誤ると、支給した賞与が当期の損金に算入できないという事態になりかねない。決算賞与は「支払う予定」で足りるものではなく、税務上の要件を満たすことが不可欠である。使用人賞与の損金算入時期は、原則として実際の支給日が属する事業年度であるが、一定の要件を満たす場合には未払計上による当期損金算入が認められる法人税法施行令72条の3)。実務上重要なのは、同条第2号に定めるいわゆる「通知基準」であり、各使用人ごとに支給額を具体的に通知し、その事業年度終了日の翌日から1か月以内に支払うこと、かつ当期に損金経理を行うことが求められる(注1)。この要件は形式的なものではなく、充足しない場合にはその時点で当期損金算入は否定される。また、「通知」が有効と認められるためには、期末時点で債務が確定していることが前提となる。例えば、「支給日に在職する者に限り支給する」といった条件がある場合には、支給日まで権利が確定しないため、事前通知は税務上の通知とは認められない(法人税法基本通達9-2-43)。この点は東京地裁平成24年7月5日判決(税資262号順号11987)(注2)においても確認されている。同判決は、期末までに個人別の支給額通知がなされておらず、かつ1か月以内の支払いもなかった事案につき、施行令の要件を充足しないとして損金算入を否認した。さらに、支給額の決定自体が事業年度終了後であったことから、期末時点で債務は成立していないとして、一般原則からも損金算入を認めなかった。したがって、実務では、期末までに個人別の支給額を確定し、その内容を書面等により客観的かつ個別に通知した上で、期末翌日から1か月以内に通知額どおり支払う体制を整備することが不可欠である。また、就業規則や賞与規程、個別通知書、社内決裁資料等を整合的に保存し、税務調査において説明可能な状態を確保しておく必要がある。なお、賞与に係る社会保険料の会社負担分については、賞与を支払った月の末日時点における従業員の在籍状況により納付義務が確定する仕組みである(法人税基本通達9-3-2)。したがって、決算期末に未払計上した賞与について翌期に支払う場合には、期末時点で当該保険料の債務は確定しておらず、未払計上しても当期の損金には算入されない。賞与本体とは異なる取扱いとなる点に留意が必要である。<注釈>https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5350.htmhttps://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2012/pdf/11987.pdf提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2026/04/20
非営利法人における収益事業課税
「NPO法人などの非営利団体は税金がかからない」と誤解されることがある。しかし、この理解は正確ではない。確かにNPO法人等は法人税法上、公益法人等として取り扱われるが、「非営利=非課税」ではない。法人税法は、公益法人等であっても「収益事業」を行う場合には、その部分について法人税を課すと定めている(法人税法4条)。収益事業とは、法人税法施行令5条1項に列挙された物品販売業、不動産貸付業、出版業など34業種について、継続して事業場を設けて営むものをいう。判断において重要なのは、「非営利」という事業の目的ではなく、「事業の実態」である。社会的意義の高い活動であっても、対価を得て継続的に行われる経済活動であれば、収益事業に該当し得る。この点を理解する上で参考となるのが、平成28年3月29日東京地裁判決税務訴訟資料第266号-57(順号12835)(注1)である。原告であるNPO法人は、建物貸付事業、ホテル運営、魚の養殖販売、地域情報誌の発行など複数の事業を展開していた。裁判所は、建物貸付事業については入居者との賃貸借契約に基づく家賃等収入を重視して不動産貸付業に当たるとし、地域情報誌の発行事業についても広告掲載料収入を得るフリーペーパーとして出版業に当たると判断した。他方、ホンモロコ事業については、帳簿上確認できる販売が農林業等として整理されることに加え、イベント販売も継続的な物品販売業と認めるに足りる立証を欠くとして、収益事業には当たらないとされた。このように、一つの法人が複数の事業を営む場合であっても、事業ごとに課税・非課税の判断が分かれることを明確に示した点に本判決の意義がある。実務上は、これらの判断を前提として、収益事業と非収益事業を区分した経理処理を徹底することが不可欠である。なお、公益法人については令和7年4月1日以後に開始する事業年度から新たな公益法人会計基準が適用されるとされており(施行後一定期間は特例的な取扱いあり)、収益事業に係る経理区分の重要性は今後さらに高まると考えられる。もっとも、当該会計基準の適用範囲については個別の法人類型ごとに確認を要する点に留意が必要である。以上のとおり、非営利法人であっても、その活動内容によっては課税関係が大きく異なる。名称や目的にとらわれず、事業の実態に即した判断を行うことが、適正な税務対応の前提となる。<注釈>https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2016/pdf/12835.pdf提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2026/04/13
共同親権と税制の取扱い
令和8年4月1日から、離婚後の子の親権について「共同親権」を選択できる制度が施行された(注1)。この制度導入により税制や公的支援の取扱いが大きく変わるのではないかと懸念する声もある。しかし結論からいえば、日本の税制や社会保障制度は「親権の形式」ではなく、「所得」「生計関係」「監護の実態」などを基準に設計されているため、共同親権が導入されたことによって直ちに税務上の取扱いが変更されるわけではない。この制度は、令和6年法律第33号による民法等改正により創設されたものであり、離婚後の親権について父母双方を親権者とする選択肢を認めるものである。従来、日本では離婚時には父母のいずれか一方のみを親権者とする単独親権が採用されていたが、改正後は父母の協議または家庭裁判所の判断により、父母双方を親権者とすることが可能となった。ただし、虐待やDVのおそれがある場合など、共同親権が子の利益に反すると認められるときは単独親権とされるなど、子の利益を最優先とする枠組みは維持されている。この改正を踏まえ、税務上問題となるのが、離婚後の養育費や扶養控除(注2)の取扱いである。まず養育費については、子の生活費や教育費として通常必要と認められる範囲の金銭であれば、受け取った側に所得税は課されない。また、通常の生活費・教育費の範囲内で支払われるものは贈与税の課税対象ともならない(注3)。これらの取扱いは共同親権の有無によって変わるものではない。なお、養育費については、扶養義務者から生活費や教育費として通常必要と認められる範囲であれば贈与税の課税対象とはならないが、一括で多額の金銭を受け取る場合には、その金額が生活費・教育費として通常必要な範囲を超えると判断され、贈与税が課される可能性があるため注意が必要である。次に扶養控除である。所得税法上、扶養控除の対象となる扶養親族の要件としては、「納税者と生計を一にする」こと、および合計所得金額が一定額以下であること等が定められており、親権の有無は要件とはされていない。したがって、子の生活費や学費などを継続的に負担しており、実質的に生計を一にしていると認められる場合には、別居親であっても扶養控除の対象となり得る。ただし、一人の子を父母双方が同時に扶養控除の対象とすることはできないため、実務上はどちらが扶養控除を適用するかをあらかじめ整理しておく必要がある。さらに、公的支援制度の取扱いも基本的には同様である。例えば児童扶養手当は、法律上「児童を監護している者」を基準に支給対象者が判断され、所得制限も受給者本人の所得を基準として判定される仕組みである。また、障害児支援や特定疾病医療費助成などの医療費助成制度についても、世帯所得や医療保険単位を基準として自己負担上限が決定される制度設計となっている。<注釈>https://www.moj.go.jp/content/001449160.pdfhttps://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1180.htmhttps://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4405.htm提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2026/04/06
青色事業専従者給与の適正額
青色事業専従者給与(注1)は個人事業主にとって強力な節税制度であるが、その給与額は「労務の対価として相当」と認められる範囲に限り必要経費に算入される。届出さえ提出していれば自由に金額を設定できるわけではなく、過大部分は必要経費不算入となる。実務上は、この「相当性」の立証が最大の論点となる。所得税法第57条第1項が定める必要経費算入要件は、以下の3つである。その年の3月15日まで(開業が後の場合は開業後2か月以内)に「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出し、変更の都度「変更届出書」を遅滞なく提出していること。生計を一にする配偶者その他の親族(15歳以上)が、その年を通じて6か月超、専ら当該事業に従事していること(所得税法57条1項、所得税法施行令165条)。給与額が「労務の対価として相当と認められる金額」の範囲内であること。このうち1および2は確認が比較的容易であるのに対し、3は法律上明確な基準が定められておらず、税務調査や訴訟において争点となることが少なくない。「届出さえ出せばよい」という誤解が根強い中、その危険性を明確に示したのが令和4年12月9日長野地裁判決(税務訴訟資料第272号(順号13785))(注2)である。本件は、開業医が看護師資格を有する配偶者に年額1,800万円の専従者給与を支給したとして申告したのに対し、課税庁が推計計算により適正額を算出のうえ更正処分を行った事案である。当初月額20万円であった給与は、短期間に30万円、45万円、70万円、80万円、100万円と段階的に増額され、賞与を含め年額1,800万円に達していた。しかし、各増額時点において業務内容や責任範囲の拡大を裏付ける客観的資料は存在せず、裁判所は、課税庁が地域の看護師給与水準等を基礎として推計計算により適正額を算出したことは合理的であると判断し、約800万円を適正給与相当額と認定した。本判決が示すのは、青色事業専従者給与においては形式的要件の充足だけでなく、給与水準の合理性を客観的資料により説明できることが不可欠であるという点である。特に給与額を増額する際には、職務内容や責任範囲の変化を説明できる資料を整備しておくことが重要である。職務分掌書、勤務時間の記録、同業他社の給与水準に関する資料などを保存しておくのが、過大給与否認リスクへの有効な備えとなる。<注釈>https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2075.htmhttps://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2022/pdf/13785.pdf提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2026/03/23
輸出免税の基本と実務
国外で消費される取引には課税しない仕組みを採用している。この考え方に基づき、消費税法7条1項は「本邦からの輸出として行われる資産の譲渡又は貸付け等」について消費税を免除する制度を設けている。これがいわゆる輸出免税(注1)である。輸出取引は課税売上に該当しつつ税額が免除されるため、対応する仕入税額控除を受けることができ、結果として仕入消費税の還付が生じる場合もある。この点から、輸出事業者にとって輸出免税は極めて重要な制度である。ただし、この免税が適用されるためには、実体的要件と手続的要件の両方を満たす必要がある。実体的要件とは、取引が「輸出として行われる資産の譲渡等」に該当することである。つまり、資産の譲渡と輸出行為が一体として行われる取引でなければならないということである。手続的要件としては、輸出許可書等の税関長が証明する書類を保存することが求められており、これらの書類は課税期間末日の翌日から2月を経過した日から7年間保存する必要がある。実務上、しばしば見受けられる誤解に、「商品が最終的に海外に渡れば輸出免税になる」というものがあるが、消費税法上の輸出免税は、単に国外に持ち出された結果のみで判断されるものではない。重要なのは、当該資産の譲渡が輸出取引として国外への搬出と一体で行われているかという点である。この点を明確に示した裁判例として、いわゆる中古自動車輸出事件(大阪地裁平成21年12月3日判決)がある(注2)。本件では、中古自動車販売業者が国内の販売スペースにおいてロシア人船員らに中古車を販売し、その後、購入者が携帯品・別送品として国外に持ち出していた。事業者は国外で消費される取引であるとして輸出免税の適用を主張したが、裁判所はこれを認めなかった。判決は、当該取引は国内で自動車を譲渡した後に購入者が持ち出したにすぎず、「輸出として行われる資産の譲渡」には該当しないと判断した。また、輸出免税の適用には税関長の証明書類の保存が必要であり、これを欠く場合には同制度の適用は認められないとも判示している。実務においては、外国人や海外事業者との取引であっても、国内で取引が完結している場合には課税取引となる可能性がある。また、輸出取引であっても輸出許可書等の証明書類を保存していなければ免税の適用は受けられない。さらに、訪日外国人向けの免税制度である「輸出物品販売場(注3)」(消費税法8条)とは制度趣旨や適用要件が異なるため、両制度を混同しないことも重要である。<注釈>https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6551.htmhttps://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2009/pdf/11341.pdfhttps://www.nta.go.jp/publication/pamph/shohi/menzei/201805/0523.htm提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2026/03/16
税務調査対応と投資収益の認識
今回取り上げるのは、海外の投資商品(FX運用口座)から生じた利益の計上時期と、これに先立つ税務調査の違法性が争われた事案である(令和5年10月27日東京地裁判決・税務訴訟資料第273号順号13896)(注1)。納税者は海外の資産運用サービスを通じてFX等の取引を行い相当額の利益を得ていたが、これを申告していなかった。所轄税務署は調査の結果、所得税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分を行い、納税者が取消しを求めたものである。まず問題になったのは、調査手続きの違法性である。納税者は、事前通知が不十分であったこと、調査官が複数回にわたり電話をかけ、突然自宅を訪問したこと、体調不良を訴えたにもかかわらず書類提出を急かす発言をしたことなどを挙げ、憲法31条の法意に反する重大な違法があると主張した。これに対し裁判所は、調査手続に瑕疵があったとしても、それが直ちに課税処分の取消事由となるものではないとの従来の枠組みを前提とした。そして、調査の手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し、または社会通念上相当な限度を超えて濫用にわたるなど重大な違法を帯び、実質的に「何らの調査なしに更正処分をしたに等しい」と評価できる場合に限り、処分は違法になると判示した。この判断は手続上の不備が常に処分取消しに直結するわけではないことを改めて示すものである。調査の現場では、調査が不意打ち的に行われたことに対する不満や心理的負担から、調査の必要性や相当性を強く争いたくなる場面もある。しかし、調査手続きの瑕疵の主張のみによって処分が覆る可能性は限定的であることを踏まえて冷静に対応する姿勢が必要である。もちろん、調査官の言動が社会通念上相当な限度を超えていないかを観察し、調査の経緯を記録に残すことは重要である。次に、海外FX運用口座の利益をいつ雑所得の総収入金額に計上すべきかが争われた。所得税法36条1項は、収入金額はその年において収入すべき金額とすると定めており、判例・実務はこれをいわゆる権利確定主義として解している。納税者は、投資商品の償還期限は将来であり、日々の損益は確定していないと主張した。しかし、本件口座は、IDとパスワードにより随時ログインして取引履歴や損益状況を確認でき、償還期限前でも出金が可能な仕組みであった。裁判所は、このような実態を踏まえ、各取引日において収入の原因となる権利が確定していたとして、その年分の雑所得に算入すべきであると判断した。「まだ出金していないから申告は不要である」「投資期間が終わった後でまとめて申告すればよい」という理解は適切ではない。現在は確定申告期であり、海外の投資商品や暗号資産、各種オンライン取引を通じて利益を得ている場合には、権利が確定した時点で課税関係が生じることを前提に、申告義務の有無を慎重に確認し、期限内に適正な申告を行う必要がある。<注釈>https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2023/pdf/13896.pdf提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2026/03/09
免税事業者が課税事業者となる場合の棚卸資産の調整について
消費税の免税事業者が課税事業者となる場合、課税事業者になる以前に仕入れた棚卸資産の取扱いには注意が必要である。一定の要件を満たせば、免税期間中に仕入れた棚卸資産についても、課税事業者となった課税期間において仕入税額控除の対象とすることができる。確定申告の際に見落としが生じないよう、制度の内容を正確に把握しておきたい。免税事業者は消費税の申告納税義務が免除されているため、仕入時には消費税と本体価格を区分せず、税込金額をそのまま仕入原価として処理する。その結果、期末に在庫として残る棚卸資産は、消費税相当額を含んだまま計上されることとなる。その後、免税事業者から課税事業者に転換した後にこの棚卸資産を販売すると、売上に係る消費税は申告・納税の対象となる。しかし、対応する仕入について仕入税額控除が行われなければ、同一の取引に対して消費税を実質的に二重に負担することとなり、納税者に不合理な負担が生ずる。この不均衡を調整するため、消費税法第36条第1項では、免税事業者が課税事業者となった場合において、課税事業者となる日の前日に所有する棚卸資産については、免税期間中の課税仕入れであっても、当該課税期間における課税仕入れとみなす旨を規定している。これがいわゆる「棚卸資産に係る消費税額の調整」(注1)である。対象となる棚卸資産は、商品、製品、半製品、仕掛品、原材料、貯蔵中の消耗品等で、現に所有しているものをいう。適用に当たっては、棚卸資産の品目、数量、取得価額等を記載した明細書を作成し、法定保存期間である7年間保存する必要がある。また、簡易課税制度を選択している場合には、原則としてこの調整は適用されない点にも留意が必要である。令和5年10月1日から開始された適格請求書等保存方式の下では、仕入税額控除の要件として適格請求書の保存が求められる。免税期間中の仕入についても控除の適用を受けるためには、請求書の保存状況を事前に確認しなくてはならない。適格請求書発行事業者以外の者からの仕入れについては、経過措置として一定割合による控除が認められており、仕入時期に応じて80%または50%の控除割合(注・2026年税制改正予定)を適用する必要がある。なお、課税事業者が免税事業者となる場合には逆の調整が必要となる。免税事業者となる日の前日の属する課税期間において、期末棚卸資産に含まれる消費税相当額を仕入税額控除から差し引く調整を行わなければならない。これは、課税期間中に仕入税額控除の適用を受けながら、免税事業者となった後の売上については納税義務を負わないという不均衡を防ぐためのものである。<注釈>https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6491.htm提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2026/03/02
事業所得と給与所得の区分ルール
所得税法上、事業所得(注1)とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性および有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいう。これに対し、給与所得(注2)とは、雇用契約等に基づき、使用者の指揮命令に服して提供する労務の対価として受け取る所得をいう。とりわけ、給与支払者との関係において、空間的・時間的な拘束を受けつつ、継続的または断続的に労務や役務の提供が行われ、その対価として支給されるものであるかどうかが重要な判断要素となる。また、事業所得と給与所得の区分は、契約の形式や名称、あるいは当事者の主観的な認識のみによって決せられるものではない。あくまで、業務の実態に即した客観的判断が求められる点に留意すべきである。例えば、弁護士が受け取る毎月定額の顧問料は、業務量の多寡によって金額が変動しないことから、一見すると給与のようにも見える。しかし、一般には給与所得ではなく、事業所得に該当する場合が多い。実際、弁護士が当該報酬を給与所得として申告したところ、事業所得に該当するとして否認された事例(最判昭和56年4月24日・民集35巻3号672頁)がある。これとは逆に、事業所得として申告されたものが給与所得に該当すると判断された事例として、令和5年6月22日名古屋地方裁判所判決(税務訴訟資料第273号・順号13859)(注3)がある。本件では、医師が複数の医療機関から健康診断業務の対価として受け取った報酬について、勤務日時や場所が医療機関側によって指定されていたこと、業務遂行に必要な設備や備品が医療機関側で用意されていたこと、さらに医療事故に関する実質的な責任主体が医療機関側にあったことなどが重視され、給与所得に該当すると判断された。税務調査の場面では、納税者自身の所得区分が事業所得か給与所得かという点のみならず、その納税者に対して支払いを行う側の調査において、所得区分が問題とされるケースも少なくない。例えば、いわゆる一人親方について、事業所得として確定申告がなされていたものの、実態としては請負契約や業務委託契約に基づくものではなく、常用工として時間管理の下で支払われているとして、税務署が給与所得と認定するケースである。確かに、特段の仕事道具を必要とせず、材料の支給を受けて現場作業を行っているような場合には、給与所得に該当する可能性が高いといえる。また、税務署の立場からすれば、外注費を給与として認定することにより、消費税の課税仕入れを否認できる点で都合がよい側面もある。もっとも、現場の実情によっては、必ずしも継続的に仕事を確保できるとは限らず、たとえ高額な仕事道具を必要としない場合であっても、現場までの車両を自己負担で用意し、交通費の支給も受けられないといった事情が存在することも多い。また、他の事業者からの依頼に応じて業務を行うことに制限がないことや、近年ではインボイス発行事業者として登録するなど、対外的に事業者であることを示す行動を取るケースも見受けられる。事業所得と給与所得の区分は、個別具体的事情の総合判断によるものであり、単一の要素のみで結論が導かれるものではない。契約内容と実態との乖離がないかを慎重に検討し、判例や通達を踏まえた適切な対応が求められる。<注釈>https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1350.htmhttps://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1400.htmhttps://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2023/pdf/13859.pdf提供:株式会社日本ビジネスプラン
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