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インボイス制度~売手が負担する振込手数料相当額の取扱い~

2023/06/16

著者 :  西野道之助

カテゴリ:  消費税
補助項目:  税制改正

売手側が振込により売上代金を回収する際に、振込手数料相当額が差し引かれて入金されているケースが見受けられます。

インボイス制度導入に伴い、このように買手側の都合で差し引かれた金額について、どのように対応すべきであるのかが問題視されていました。

今回は、この問題に対する令和5年度税制改正の内容や、財務省・国税庁のQ&Aをもとに、どのような処理を行うべきか確認していきたいと思います。

1. 少額な返還インボイスの交付義務免除~令和5年度税制改正~

インボイス発行事業者が国内で行った課税資産の譲渡等につき、返品や値引き、割戻しなどの売上げに係る対価の返還等を行った場合には返還インボイスの交付義務がありますが、その金額が税込1万円未満である場合には、返還インボイスの交付義務が免除されることとされました(新消法57の4③、新消令70の9③二)。

この改正により、売手が負担する振込手数料相当額を売上値引きとして処理している場合には、通常の場合、その振込手数料相当額は1万円未満となりますので、返還インボイスの交付義務が免除されることになります。

出典:国税庁資料

2. 売手が負担する振込手数料を支払手数料として処理する場合~財務省Q&A~

財務省は、「インボイス制度の負担軽減措置のよくある質問とその回答(令和5年3月31日時点)」として、全21問のQ&Aを公表しています。

その中で、売手が負担する振込手数料を支払手数料として処理する場合についての記載がされていますが(問17)、その振込手数料を支払手数料、つまり課税仕入れとして処理している場合には、そもそも返還インボイスは必要ありませんが、仕入税額控除の対象とするためには、金融機関や取引先からのインボイスが必要になる点は変わりがないとしています。

ただし、令和5年度改正による少額特例(令和5年10月1日から令和11年9月30日までの期間、基準期間における課税売上高が1億円以下又は特定期間における課税売上高が5千万円以下の事業者が行う税込1万円未満の課税仕入れについて、インボイスの保存がなくとも一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除が可能)の対象となります。

更に、会計上は支払手数料として処理し、消費税法上は対価の返還等として取扱うことも問題ないとしていますが、対価の返還等の基となった適用税率(判然としない場合には合理的に区分)による必要があるほか、帳簿に対価の返還等に係る事項(要件設定やコード表、消費税申告の際に作成する帳簿等により明らかであれば問題なし)を記載し、保存する必要に留意する旨の記載がされています(問18)。

3. 売手が負担する振込手数料相当額に対する対応~国税庁Q&A~

国税庁は4月14日、「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」を改訂し、売手が負担する振込手数料相当額について、新たに2問が追加されています。

その中で、取引当事者間の契約関係等により、次のように対応が分けられるとしています(問30)。

(1) 売手が振込手数料相当額を売上値引きとする場合

回答は前述の1.と同様ですが、対価の返還等を行った場合の適用税率について、軽減税率(8%)対象の課税資産の譲渡等を対象とした振込手数料相当額の売上値引きには、軽減税率(8%)が適用されるという具体的な記載があります。

出典:国税庁資料

(2) 売手が買手から「代金決済上の役務提供(支払方法の指定に係る便宜)」を受けた対価とする場合

売手は、請求金額から差し引かれた振込手数料相当額について、仕入税額控除の適用を受けるためには、買手から交付を受けた適格請求書の保存が必要となるとしています。

更に、売手側において、この振込手数料相当額について仕入明細書等を作成し、買手の確認を受けて仕入税額控除を行うことができる(新消法30⑨三)旨や、前述の少額特例の適用についても記載がされています。

出典:国税庁資料

(3) 買手が売手のために金融機関に対して振込手数料を立替払したものとする場合

売手は、買手が金融機関から受け取った振込手数料に係る適格請求書及び買手が作成した立替金精算書等の交付を受け、振込手数料に係る仕入税額控除を行うことになり、この場合、買手が請求金額から差し引く金額が金融機関の振込手数料と同額である必要があります。

更に、買手が金融機関のATMを使って振込手続を行った場合、そのATM手数料は自動販売機特例(適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の自動販売機及び自動サービス機により行われる商品の販売等の取引)の対象となるため、買手が金融機関から受け取った適格請求書及び買手が作成した立替金精算書等の保存は不要となり、売手は、買手が差し引いた金額が振込手数料であること及び立替えでの支払が金融機関のATMでの振込みであることを確認した上で、一定の要件の下で帳簿のみの保存により仕入税額控除を行うことが可能となる旨や、少額特例の適用についても記載がされています。

出典:国税庁資料

なお、問31では、支払手数料としての経理処理をインボイス制度の開始後、売上げに係る対価の返還等としての経理処理に変更することに問題はなく、経理処理を支払手数料としつつ、消費税法上は売上げに係る対価の返還等とすることについて、支払手数料のコードを売上げに係る対価の返還等と分かるように別に用意するといった、通常の支払手数料と判別できるように明らかにする対応が考えられると記載がされています。

いずれにせよ、下請代金支払遅延等防止法(下請法)の下では、取引発生前に振込手数料を下請業者が負担する旨の書面での合意がある場合にのみ、親事業者が負担した実費の範囲内でその手数料を差し引いて下請代金を支払うことが認められることになります。

この機会に改めて確認する必要があるのではないでしょうか。

提供:税経システム研究所

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