サマリ
年々増加している訪日外国人に対して、日本の医療機関の外国人患者の受け入れ態勢を整備する観点から、政府主導で外国人患者の受け入れ医療機関に対しての認証制度(JMIP)が始まった。この新しい認証制度についての内容と課題について記述する。
1.増える訪日外国人
先日まで、ラグビーワールドカップが開かれており、日本中が大いに沸きました。このワールドカップの観戦のために世界中から外国人が訪日したのは、まだ記憶に新しいところでしょう。2020年には東京でオリンピックが開かれる予定であり、ワールドカップ時以上の外国人がやってきます。日本政府観光局(JNTO)によると、2018年に日本を訪れた外国人の数は、3119万2千人で、前年比8.7%増でした。この数値は日本政府観光局が統計を取り始めた1964年以降最高の訪日外国人の数値です。内訳は、訪日人数の多い順から中国、韓国、台湾、香港、タイとなっています。上位4か国で、73.4%を占めます。次いでシンガポール、マレーシアと続きますが、この2国は近年訪日人数が急増しています。いずれにしてもアジア諸国からの訪日が圧倒的に多いことがわかります。
政府主導の観光立国実現にむけたアクションプログラムが2015年から動き出しており、このような活動の結果、成果とも言えます。このアクションプログラムの中に、不慮のけがや病気への対応として「安全・安心に日本の医療サービスを受けられる体制を充実させるため、医療通訳・外国人向けコーディネーター等が配置された拠点病院や外国人患者受入れ医療機関認証制度(JMIP)の認証病院等の拡大に規模感とスピード感を持って取り組む。これらを中心に、2015 年度中に都道府県毎に最低1ヶ所以上の外国人旅行者受入可能で幅広い症例に対応できる医療機関を自治体等と連携し選定する」との記述があります。
今回のレポートは、この記述内にある「外国人患者受入れ医療機関認証制度」(JMIP)について基本的な内容と課題を紹介します。
□年間外国人患者受け入れ実績
2.外国人患者受入れ医療機関認証制度(JMIP)とは
JMIPは、日本医療教育財団が、厚生労働省の支援のもと、国内の医療機関に対して、外国人の受け入れ態勢に対しての認証を行っています。すでに認証を受けた医療機関は、2019年9月の時点で67医療機関が認証済みです。
□日本医療教育財団 JMIP:http://jmip.jme.or.jp/index.php
□認証施設:http://jmip.jme.or.jp/search.php
以下JMIPからの抜粋
□認証制度の対象となる医療機関
日本医療教育財団の認定調査員により、書面調査と訪問調査を実施します。書面調査では、「現況調査票」、「自己評価票」および「事前提出資料」を事前に提出していただきます。訪問調査では担当者合同面接や院内ラウンド調査等を通じて、院内(施設内)の外国人患者受入れ体制を確認します。訪問調査の調査結果をもとに、有識者からなる「認証審査会」において最終的な判定を行います。
□審査の方法
認証を得た医療機関には、日本医療教育財団より認証書が発行されます。認証医療機関は、医療を必要とするすべての外国人に安心、安全に医療を提供できる体制があることが証明されたことになります。認証医療機関は、JMIPのホームページ上を通じて、外国人患者の受入れ体制が整備された病院(健診施設)であることを告知することができます。
書面調査は、外国人受診者に対する対応マニュアルの整備の有無や、記録整備、通訳の配置などが確認されます。そして実際にサーベイヤー(訪問調査員)が医療機関に訪問して調査する内容は、受付表や予約表の内容の確認から始まり、調査票、スタッフの日報、紹介状、同意書、問い合わせ対応ツール(翻訳アプリや会話集など)などの現物と使用状況などを直接確認します。訪問調査は2日間が基本です。調査終了後、1か月半程度で医療機関に中間報告が行われます。この中間報告の中に「C」評価があった場合、すみやかに改善策を立案、実行し補充的調査を行うことになります。補充的調査が終了し、2~3か月後に最終判定が通知されます。通知は、「認証」か「認証留保」のいずれかですが、特段のことがなければ認証となることが多いようです。認証された医療機関には、「認証書」が送られます。認証機関は3年間です。ちなみに認証留保になった医療機関には、改善要望書が送られ、改善の後再度審査を受けることになります。改善要望内容により、書面審査だけの場合もあれば、再度訪問調査を受ける場合もあります。
3.実際の医療機関の受け入れ態勢
事例)国立国際医療センター病院
この病院は新宿に所在していることもあり、以前から外国人患者が非常に多く2015年にJMIPの認証を受けました。我が国は国民皆保険制度のもとでの医療ですが、外国は保険制度自体が大きく異なる場合が多いです。たとえば、検査や薬の処方などは、日本では特に断りもなく必要に応じて実施されますが、外国では、検査や薬についての医療費(支払額)の概算を示し、患者の同意を得てからでないと実施できない国もあります。また宗教や文化の違いについても事前に医療従事者が理解していないと、大きなトラブルになります。イスラム教徒の女性は、家族以外の異性に肌を見せません。さらに男性医師の診察などにも抵抗を示すことがあります。救急の場合は、許容されると助言、アドバイスなどをすることで、理解を得られることもあるので、外国人の宗教や文化を相互に理解することが必要です。
このような知識の理解のために、外部の研修に参加したり、院内での研修を企画し、職員だけではなく、周辺の他の医療機関にも参加を呼び掛けて実施しています。
□国立国際医療センター病院の主な外国人対応
4.課題
「外国人患者」とひとくくりにして、話を続けていますが、外国人患者は観光客など短期滞在者と、留学や就労など長期滞在者に区分ができます。短期滞在者が具合が悪くなった場合、まず相談するのが、ホテルなどの宿泊先や外国人向け案内所です。ホテルや案内所の方がJMIPのことを知っていて、その認証医療機関を紹介してくれるということは、まだ難しいのではないかと考えられます。その理由は、JMIP自体の知名度が低いことと、JMIP承認医療機関数が少ないことが挙げられます。したがって観光客や宿泊施設、案内所に対しJMIPの啓蒙活動が必要であると思います。長期滞在者については、居住地域にコミュニティも存在し、その中で徐々に口コミでJMIPについても知られていくと思われますが、居住地の近隣にJMIP認証医療機関がない場合は、JMIP非認証医療機関に受診するでしょう。そのようなJMIP非認証医療機関では特に「言葉」のコミュニケーションをとることが難しく、この点が診療面でも金銭面でもトラブルになることが多いようです。
メディカルツーリズムとして、日本の医療機関が外国人を受け入れて収入を得ることは、診療報酬点数が医療費抑制策によって下がり続ける現状においては、魅力的な増収策の一つです。しかし、外国人患者を受け入れるための戦略や周到な準備を怠ると増収どころか費用ばかりかさむ事態にもなりかねません。JMIPの認証を受けるなど外国人患者を受け入れる準備には、様々な費用もかかります。この投資する費用に見合うだけの効果が見込まれるかどうかもJMIPチャレンジの判断材料となりますが、特に都市部の医療機関や地方でも外国人の来訪が多い都市の医療機関は、外国人患者が、突然来院する可能性が高いので、外国人患者の受け入れ態勢、対応方法など最低限の準備はしておくべきだと考えます。
参考)外国人受け入れ態勢の現状