新型コロナウイルス感染症の影響を受け経営が非常に厳しい状況におかれたテナントより、家賃の減額の申出を受けたオーナー企業からの相談が多くもちかけられるようになりました。
原則として、オーナーである企業がテナントに対して賃料の減額を行った場合、その賃料を減額したことに合理的な理由がなければ、減額前の賃料の額と減額後の賃料の額との差額については、相手方に対して寄附金を支出したものとして税務上取扱われることになり、寄附金の損金算入限度額の計算が必要となります。
一方で、災害を受けた得意先等に対して、その復旧を支援することを目的として災害発生後相当の期間(災害を受けた取引先が通常の営業活動を再開するための復旧過程にある期間)内に売掛金、未収請負金、貸付金その他これらに準ずる債権の全部又は一部を免除した場合には、その免除したことによる損失の額は、寄附金や交際費等の額に該当しないこととしています(法基通9-4-6の2、措通61の4(1)-10の2)。
国税庁は、令和2年4月16日に更新した「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱い関するFAQ」
(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kansensho/pdf/faq.pdf)において、以下のとおり賃料の減額を行った場合の取扱いを公表しました。
問4.《 賃貸物件のオーナーが賃料の減額を行った場合》〔4月13日追加〕
当社は、店舗用物件やテナント等を賃貸する不動産貸付業を行っています。今般、新型コロナウイルス感染症の影響で、当社の物件を賃借している事業者から、「売上が急減している中、固定的に支払いが発生する賃料の負担が大変である。」といった切実な声が寄せられています。
そこで、当社としては、賃料の減額を求められた場合、契約内容の見直しを行い、今般の感染症の流行が終息するまでの期間に限って、賃料の減額に応じるつもりです。
このように当社が取引先等に対して、復旧支援のため、賃料の減額に応じた場合に、その賃料の減額分については、法人税の取扱上、寄附金として取り扱われるのでしょうか。
- 企業が、賃貸借契約を締結している取引先等に対して賃料の減額を行った場合、その賃料を減額したことに合理的な理由がなければ、減額前の賃料の額と減額後の賃料の額 との差額については、原則として、相手方に対して寄附金を支出したものとして税務上、取り扱われることになります。
しかしながら、貴社が行った賃料の減額が、例えば、次の条件を満たすものであれば、実質的には取引先等との取引条件の変更と考えられますので、その減額した分の差額については、寄附金として取り扱われることはありません。
- 取引先等において、新型コロナウイルス感染症に関連して収入が減少し、事業継続が困難となったこと、又は困難となるおそれが明らかであること
- 貴社が行う賃料の減額が、取引先等の復旧支援(営業継続や雇用確保など)を目的としたものであり、そのことが書面などにより確認できること
- 賃料の減額が、取引先等において被害が生じた後、相当の期間(通常の営業活動を再開するための復旧過程にある期間をいいます)内に行われたものであること
また、取引先等に対して既に生じた賃料の減免(債権の免除等)を行う場合についても、同様に取り扱われます。
なお、賃料の減免を受けた賃借人(事業者)においては、減免相当額の受贈益と既に費用計上した支払賃料が同額となるため、結果として課税が生じることはありません。
このFAQで気になるのは、「②貴社が行う賃料の減額が、取引先等の復旧支援(営業継続や雇用確保など)を目的としたものであり、そのことが書面などにより確認できること」という文言です。
国土交通省はこのFAQを受け、令和2年4月17日付「新型コロナウイルス感染症に係る対応について(補足その2)」(https://www.mlit.go.jp/common/001342992.pdf)において、各不動産関連団体の長に宛て、次のような事務連絡を行っています。
(抜粋)
1.テナントの賃料を免除した場合の損失の税務上の損金算入について【既に実施中】
(3)なお、本取扱いを受ける場合、新型コロナウイルス感染症の影響により取引先に対して賃料を減免したことを証する書面の確認を税務署より求められる場合がありますので、別添様式を参考とする書面等を作成の上、保存しておく必要があります(別添様式はあくまで一例であり、個別の合意内容・状況等に応じて編集可能です)。
(記載例)
- 本様式はあくまで一例であり、個別の合意内容・状況に応じて編集可能とする。また、電子メールによる形式を用いることも可とする。
覚 書(例)
【不動産所有者等名】(以下「甲」という。)と【取引先名】(以下「乙」という。)は、甲乙間で締結した○○年○月○日付「建物賃貸借契約書」(以下「原契約」という。)及び原契約に関する締結済みの覚書(以下「原契約等」という。)に関し、乙が新型コロナウイルス感染症の流行に伴い収入が減少していること等に鑑み、甲が乙を支援する目的において、以下の通り合意した。
第1条 原契約第△条に定める賃料を令和2年×月×日より令和2年▲月▲日までの間について、月額□□円とする。
第2条 本覚書に定めなき事項については、原契約等の定めによるものとする。
令和2年◇月◇日
上記「覚書」の記載例は、実務の上で参考になるものと思います。
平成2年4月7日に閣議決定された「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策における税制上の措置(案)」を確認しても、国税ではこの度の感染症を、「災害」として捉えていると考えられます。
皆様方もお身体十分にご自愛下さい。