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2025/09/16 税務レポート
トランプ関税に負ける日本経済――消費税が転嫁できない日本企業に再びおとずれたチャンス
はじめに去る7月22日(現地時間)、日米関税交渉が合意に達しました。米国は、日本からの自動車を含む大部分の輸入貨物に対して、15パーセントの関税を課すことなどで合意したことになります。これに対して、経団連など経済界は概ね好意的な反応を示しています。一方、日本政府は、中小企業への資金繰り支援を行うとのことです。ところで、日本経済は「失われた30年」を過ごしてきました。本稿は、関税が消費税と同じ性格を持っていること、日本企業は消費税を転嫁することなく販売価格を下げる方策を取り続けてデフレを誘発したと考えられることから、速やかに関税分を転嫁すべきことを主張するものです。1.消費税の転嫁に失敗してきた歴史を振り返る1989年4月、消費税は3%の税率で導入されました。その後、1997年4月に5%に、2014年4月に8%に、そして、2019年10月に原則10%に引き上げられて今日に至っています。消費税は、理論的には取引段階毎に転嫁されて最終小売価格に含まれることになるので、消費税の税率分だけ消費者物価が上昇することになります。そして、その状態が継続することになります。ところが、実際はそうではなさそうです。日本の消費者物価指数(CPI)の資料を見てみましょう。この資料は、2020年を100とした場合の消費者物価指数の推移を示したものです。【図表1:日本の消費者物価指数の推移】(出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構資料)図表1(特に、1990年以降の拡大図)を見ていただくと、消費税率の引き上げが行われると、その都度消費者物価指数も上がるのですが、その翌年には逆に下がるように見えます。例えば、1997年4月に5%になったので、2%の物価上昇があったものの1998年以降物価が下がっています。2014年4月には8%になったのですが、2015年に物価が少し下がっているように見えます。2019年10月以降も類似しています。つまり、消費税率が引き上げられると消費が減少するので、日本企業はその分を吸収すべく企業努力をしてしまうので、物価が下がってしまった。その結果、「失われた30年」になってしまったと言われているのです。そして、その間、日本人の給与はほとんど上がることがありませんでした。2.トランプ関税を転嫁できていない現状を確認する次に、4月以降、25%の追加関税措置により、27.5%に引き上げられた米国の自動車関税に日本企業はどのように対処したのか、です。2では、自動車業界を見ていきます。自動車については、財務省の貿易統計でトランプ関税の影響を確認することができます。【図表2:令和7年6月の自動車・自動車部品の対米輸出(抜粋)】(出典:財務省貿易統計)図表2は、2025年7月30日に公表された財務省貿易統計の中から対米輸出の自動車・自動車部品のみを抜粋したものです。これによると、令和7年6月に米国向けの自動車は、令和6年6月と比べると、台数では3.4%増加したのに対して、価額では伸率-26.7%と大幅に減少しています。これは、25%の追加関税のすべて又は大部分を日本側で負担したことを意味します。一方の自動車部品は、数量は微減しているので、少しですが一部は米国側で負担させたものと思われます。なぜ、このようなことをしたのでしょうか。それは、米国内の小売価格を値上げしたくないからです。これは、米国内における競合企業の動向を考慮して、自社の価格競争力を減らさないようにするためです。簡単に言えば、「ガマン比べ」です。なお、2025年8月28日に公表された財務省貿易統計でも、上と類似した結果となりました。3.日本の消費税と同じ対応をトランプ関税でも続けるかここで問題になるのは、自動車業界をはじめとする対米輸出企業が日本の消費税への対応と同じことを対米輸出で続けるか、ということです。昔からの日本企業のウリは、「良いものを安く売ること」です。レクサスなどの高級ブランドを構築したものの、自動車も引き続き同じかもしれません。これを今後も続けると、「失われた30年」と同じことになるかもしれません。そうすると、再び日本の給与が上がらない状態に逆戻りするかもしれません。さて、7月27日には米国とEUとの関税交渉がまとまり、日本と同じ15%の関税が適用されることになりました。これで、中国と韓国(早期に合意するでしょう。)を除いた主要国との関税交渉がまとまったことで、米国自動車業界が関税をどの程度転嫁するのか、に焦点が移ります。米国メーカーも自動車や自動車部品を海外から仕入れる場合もあるので、本格的に関税を転嫁した価格競争が行われることになるでしょう。個人的には、日本の自動車会社が、早期に関税を転嫁した自動車を米国内で販売することを期待しています。自動車は数年おきにモデルチェンジを行うので、その時まではできない、という意見もあります。しかし、図表2のように、関税を輸出元の日本で被ると、すべてを大企業が負担してくれればいいのですが、一部は中小企業に及ぶでしょう。それを前提とするかのように、日本政府は中小企業への資金繰り支援を行うと報道されています。おわりにトランプ大統領が再任されたことで、日本からの輸出品に高率の関税が課せられることになりました。関税は消費税と同じように、理論上は最終小売価格に転嫁されて消費者が負担すべきものです。しかし、日本企業は、これまで消費税への対応を上手くできずにデフレが続きました。その結果、消費税への根拠のない批判が国民に浸透してきました。一方、ここ数年は、ロシアのウクライナ侵攻を契機とする円安による輸入品の価格高騰、給与の引き上げに伴う物価上昇などにより消費者物価指数は上昇してきました。さて、トランプ関税は、日本企業にある意味でチャンスを与えてくれるものと考えられます。関税分を価格に転嫁して、米国内でより高価で販売していくことにより米国の物価上昇を促すべきです。関税を反映したインフレが生じることにより、トランプ政権の経済政策の誤りを是正させて、関税率を引き下げさせることで世界経済を正常化の方向に向かわせるべきでしょう。消費税への対応で失敗した日本企業は、今度はトランプ関税でその力を試されていると考えることができるのではないでしょうか。今度こそ、失敗しないでほしいと願っています。提供:税経システム研究所
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2025/09/16 税務ニュース
令和6年度電子商取引に関する市場調査結果の公表
経済産業省は8月26日、令和6年度電子商取引に関する市場調査結果を公表した。この市場調査は、日本のEC(電子商取引)を推進するため、経済産業省が平成10年度から実施している。内容は、電子商取引市場動向や利用者実態等について日本国内のBtoB-EC(企業間電子商取引)、BtoC-EC(消費者向け電子商取引)、CtoC-EC(個人間電子商取引)の市場規模等の調査結果である。また、近年は日本・米国・中国3ヵ国間の越境ECの市場動向、市場規模、消費者の越境EC利用実態調査等も実施している。調査結果によると2024年の日本国内におけるBtoC-ECの市場規模は、26兆1,225億円(前年24兆8,435億円、前年比5.1%増)、BtoB-ECの市場規模は514兆4,069億円(前年465兆2,372億円、前年比10.6%増)といずれも増加した。また、全ての商取引金額(商取引市場規模)に対する電子商取引市場規模の割合を指すEC化率は、BtoC-ECで9.8%(前年比0.4ポイント増)、BtoB-ECで43.1%(前年比3.1ポイント増)と増加しており、商取引電子化の進展が伺える。BtoC-ECを分野別に見ると、物販系分野15兆2,194億円(前年14兆6,760億円、前年比3.70%増)、サービス系分野8兆2,256億円(前年7兆5,169億円、前年比9.43%増)、デジタル系分野2兆6,776億円(前年2兆6,506億円、1.02%増)といずれも増加しており、中でもサービス系分野の伸び率が高い。物販系分野の中では、「食品、飲料、酒類」3兆1,163億円、「生活家電・AV機器・PC・周辺機器等」2兆7,443億円、「衣類・服装雑貨等」2兆7,980億円、「生活雑貨、家具、インテリア」2兆5,616億円と上位4分野が2兆円を超えている。サービス系分野では、旅行サービスが3兆5,249億円と最も大きく、ここ数年新型コロナウイルス感染症の影響を受け低迷した旅行サービス、飲食サービス、金融サービスについては大きく回復している。デジタル系分野では、オンラインゲームが1兆2,553億円と最も大きく、昨年とほぼ同額(1兆2,626億円)で横ばいの状態であるが、市場規模の伸びは前年比▲0.58%となっている。CtoC-ECの推定市場規模は、2兆5,269億円(前年比1.82%増)と推計(統計情報、関連企業のヒアリング等各種情報リソースに基づき推計)されており、順調に拡大している。また、日本、米国、中国の3カ国間における越境ECの市場規模については、日本の購入額4,410億円(4.8%増)、米国の購入額2兆7,144億円(7.3%増)、中国の購入額5兆7,769兆円(7.2%増)と各国の間でも昨年に引き続き増加している。(参考)令和6年度電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめましたhttps://www.meti.go.jp/press/2025/08/20250826005/20250826005.html(参考)令和6年度電子商取引に関する市場調査報告書https://www.meti.go.jp/press/2025/08/20250826005/20250826005-a.pdf
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2025/09/12 商事法レポート
株主提案が提出された株主総会の議事運営上の留意点
1.はじめに―増え続ける株主提案2025年6月開催の上場企業の株主総会を振り返ると、これまでにはない様々な特徴が認められます。民間の調査によると、これまで年々増えていた株主提案は、2025年度6月期総会においては過去最高の提案を数えました(注1)。株主提案は、アクティビストや個人株主から提出される場合が少なくありません。それに加えて株主提案は提案株主毎の様々な思惑に基づいて提出されることからその対応は一筋縄では行きません。そこで、株主提案が提出された株主総会の議事運営には特別な注意が必要です。本稿では、まず株主総会の議事運営について簡単に触れた後、株主提案が提出された株主総会における議事運営上の留意点について説明をします。2.株主総会の審議について(1)会社経営における株主総会の重要性まず、株主総会とは、株主が会社の基本的事項を決定する会社の最高意思決定機関です。株主総会の目標は、一言で言えば、瑕疵なき総会の実現にあります。株主総会のテーマを、株主総会の目的事項といいますが、株主総会の目的事項とは、株主への報告事項の報告と決議事項の決議です。このように株主総会の目的事項が報告事項と決議事項とされていることには以下のような理由があります。まず、経営者である取締役は、会社の実質的所有者である株主からの信認のもとに経営の委任を受ける立場にあります。そこで、株主に対する委任事項の報告義務が取締役に課されていると解されます。すなわち、報告事項を報告しなければ株主から信認を受けた経営の受任者である取締役の責任が果たすことができず、また、決議事項を決議できなければ、役員も選任できず、剰余金の分配もできなくなってしまいます。そのため取締役は報告事項を報告し、決議事項の決議を成立させなければならず、またその際、後日決議取消訴訟が起こされないように適法・適正に行なう必要があります。そこで、株主総会においては「瑕疵なき総会」の実現が求められているわけです。なお、株主総会決議の瑕疵(決議取消事由)の例は下表のとおりです。【株主総会決議の瑕疵(決議取消事由)の例】(2)株主総会の審議方式―個別審議方式と一括審議方式株主総会の審議方式については、昨今様々な議論がされていますが、大別して、個別審議方式と一括審議方式に分けることができます。まず、個別審議方式は、報告事項を報告・審議し、さらに決議事項の各議案を一つずつ個別に上程し、その都度、審議、採決を繰り返す方式です。次に、一括審議方式は、報告事項の報告後、全議案を上程し、報告事項、全議案を一括して審議する方式です。それぞれの方式の評価ですが、個別審議方式は、会議の原則には馴染みますが、議案の数だけ審議、採決を繰り返す分、総会所要時間が延びてしまい、質疑打ち切りも、報告プラス議案の数だけ必要となってしまいます。他方、一括審議方式による場合には、株主の質問時間を確保しつつ、議長が議事進行を合理的にコントロールすることができるというメリットがあります。そこで、現在は一括審議方式が主流になっています。これには理由があり、従前は、個別審議方式を採用する会社が多かったのですが、総会の長時間化の問題が生じ、そこに総会荒らしと呼ばれる特殊株主による議事攪乱の問題が絡み、企業社会の悩みの種となっていた時期がありました。本来総会の主役は株主ですが、総会の議事を主役である株主にただ委ねるのではなく、総会の所要時間を合理的な範囲に収め、かつ総会の審議を充実させるためにはむしろ会社が議事を主導するべきだという意見が多くを占めるようになり、会社主導型の議事運営方式として一括審議方式が一般化していったという経緯があります。最近では上場会社の8割がこの方式を採用しているとのことです(注2)。(3)一括審議方式のもとにおける議事進行の流れ次に、多くの上場会社が採用する一括審議方式のもとにおける議事運営の流れは、以下のようになります。これによると、一括審議方式においては、株主総会の議事は、株主への報告と議案の上程(パート1)、株主との質疑応答(パート2)、議案の採決(パート3)という3つのパートに分けられ、株主は、2番目の質疑応答のパートでのみ発言が許され、それ以外のパートでは発言が禁止され、許さないこととされています。一般論としては株主総会においてどのような審議方式を採用するかは、議長が議事整理権限に基づいて決定することもできますが、多くの会社の総会実務においては、議長は、最初のパートで株主に対して当該総会における審議方式として一括審議方式を採用したいことを提案し、議場にいる株主に諮り採決を取ります。そして過半数の株主の賛同を得たうえで一括審議方式が採用されるという慎重な方法を採っています。【一括審議方式のもとにおける議事運営の流れ】そして、議事が進み質疑応答の段階に入ったところで、株主は総会の目的事項である報告事項と決議事項について質問を発し、あるいは各種動議(手続的動議や議案の修正動議)を提出することが許されることになります。一括審議方式のもとにおいてはこの段階が株主との対話の場面になります。なお、議長がパート1において当該総会における審議のルールを株主の承認のもとに決定しているため、質疑応答以外のパートにおける株主の質問や動議の提出など一切の発言は、不規則発言となります。つまり、議長は、それらの株主の発言を採用する必要はなく、これを無視して議事を進行することができます。万一、株主が議長の指示に従わず不規則発言を続ける場合には、議長は当該株主に注意を発し、あるいは警告し、最終的には退場等を命じることもできます。また、パート2の株主の質疑応答の段階においても、議長は、議事整理権限に基づいて質疑応答に関するルールを設定することができます。株主の質問に関する制限の仕方としては、質問時間によって制限をかける方法と質問数によって制限をかける方法、さらに両者を併用する方法があります。実際に6割近くの会社が株主の質問に制限をかけており、そのうち質問数によって制限をかける会社が比較的多数です(注3)。それでは株主総会においてどうしてこのような審議方式が採用されているのでしょうか。それは、かつては総会屋などによって議場が占拠され、議事運営を支配されていた過去の時代の教訓も皆無ではありませんが、現在はそのような危機管理的な発想だけではなく、多くの株主は株主総会も合理的な所要時間内に行われるべきであると期待しており、その限られた時間内により多くの株主から意見などの発言を受けるためには、個々の株主の発言について必要かつ相当な範囲で一定の制限をかけることは合理的なものであり許容されること、さらに株主との対話を重視し、より対話を充実させる観点からは、むしろ全議案について一括して審議することが望ましい対応と考えられていることによるものと解されます。このように現在の総会の議事運営においては、総会所要時間を合理的な範囲に収めつつ、より多くの株主の発言機会を確保し、総会の審議を充実し、実質化させることを重視する観点から議事運営上の各種工夫がされているというのが実際です。3.株主提案が提出された場合の株主総会の議事運営それでは、株主から株主提案が提出された場合に以上のような総会の議事運営はどのように変わるのでしょうか。ここでも一括審議方式が採用されたことを前提にしますが、各パートそれぞれに影響をしてきますので、順番に説明をしていきます。(1)議案の上程まず、パート1の議案の上程のところで、会社提案議案に加えて株主提案議案の上程が加わります。その際、株主提案議案についても、提案株主ではなく、議長が議案の上程をすることになります。議案の上程は議事の運営であり、議事の運営は議長の専権事項だからです。そして、議長は、議案を上程する際、会社提案のほかに株主提案がある旨と、後ほど提案株主による補足説明の機会を設けていることを説明したうえで、会社提案議案について説明をします。その説明の際、会社提案のなかに株主提案と両立しない議案や、両立するが同一事項または関連事項にあたる株主提案である場合(例えば、取締役の追加選任や追加型期末配当の議案など)がある場合には、当該同一事項または関連事項と会社提案の内容について丁寧に説明をする必要があります。次いで、議長は、株主提案を上程してその内容を説明します。その後、株主提案に対する取締役会の反対意見がある場合には、その説明を行います。多くの場合、株主提案の取締役会の反対意見は総会前に開示されており、また株主総会参考書類に記載されているので、それを読み上げる形で進みます。その後、議長は、提案株主に対して株主提案の補足説明の機会を設けます。議長は、株主提案をした株主に対して、補足説明を希望するかどうか尋ね、提案株主が希望すれば補足説明をさせることとなります。その際、議長は議事整理権限に基づいて提案株主の補足説明についても合理的な制限をすることも可能です。補足説明の中に目的事項外の発言や重複・長時間発言がある場合など、当該総会において議長が定めた発言ルールを逸脱するものについて議長が制限をかけることは当然だからです。そこで、提案株主の補足説明前に議長から当該株主に発言上の注意点を伝えておくことがよく行われます。なお、議事運営上は補足説明の機会をあらかじめ設けておくことは必要ではありませんが、提案株主が補足説明を希望した場合にはこれに応じる必要があると解されます。これに応じない場合には議案の賛否に必要な情報が提供されていないとして株主から決議取消を求められるリスクがあるからです。そこで株主提案を受けた会社の株主総会の議事進行シナリオにはあらかじめ提案株主による補足説明の時間が確保されていることが通例です。万一、議長が提案株主による補足説明を呼び掛けたが提案株主が応じなかった場合には、提案株主が補足説明の機会を放棄したものと取り扱うことになります。また、稀に提案株主が当該総会に出席しないという場合もあります。その場合も、議長は議場の株主に対して補足説明を呼び掛け、補足説明の機会を与えることが実務では多く見られます。これは、当該提案株主の出席がなかったとしても、提案株主から委任を受けた代理人が提案株主に代わって補足説明をする場合なども考えられることから、後日提案株主から補足説明の機会を与えられなかったなどと主張されるリスクを回避する必要があるからです(注4)。(2)議案の審議次に、パート2の議案の審議に入りますが、一括審議方式においては、報告事項ならびに会社提案議案および株主提案議案の全議案が質疑応答の対象となります。その際、株主提案として多数の議案が上程されている場合には質疑応答に多くの時間を要することもあります。ちなみに株主提案ができる議案の数は10個に制限されていますが(注5)、それでも議案毎に質疑応答がされると相応の時間が費やされます。なお、議案の説明義務は、会社提案および株主提案ともに取締役等が負っており、提案株主は株主提案議案について説明義務を負いません。しかし、株主提案議案について最もよく説明ができるのは当該提案株主であり、だからこそ提案株主に議案の補足説明の機会を与え、説明をさせるものです。そこで、提案株主の補足説明に対して他の株主から質問があった場合においては、提案株主に説明や質問に対する回答の機会を付与すべきであると解されています(注6)。また、質疑応答の場面で株主提案に関して提案株主に対して他の株主から説明や質問への回答を求めることがあり、その場合、議長は提案株主を指名して、回答等の発言を求めることもあり得ます。(3)議案の採決質疑応答が終了し、審議が尽くされたと判断した場合、議長は自ら審議を打ち切り、あるいは質疑打切り動議の可決により審議を打ち切ります。その後、議案の採決に進みますが、まず会社提案議案を採決し、その後、株主提案議案の採決をします。これら採決が終了したら株主総会の議事は終わり、議長は当該総会の閉会を宣言します。採決に際して困難な場面としては、例えば、会社提案議案と株主提案議案とが両立せず、両議案の賛否が拮抗するような場面です。通常、株主総会では、株主の事前の議決権行使書面による議決権行使によって議案の賛否は、総会の開催前に判明していることが少なくありません。そのような場合は、当日の出席株主による議決権行使は、事前に判明している賛否に影響することはありませんが、議案の賛否が拮抗する場合には、議決権数を正確に集計する必要があります。この場合、平時では株主の拍手によっている採決を、株主の挙手、起立またはマークシートなどによる投票によって行うことがあります。例えば、議案の採決を投票によって行う場合、総会の議事運営シナリオもそれを踏まえた内容にしておく必要があります。その際、議長は、株主に対して、議案の採決を投票によって行うことをあらかじめ説明しておく必要があります。その説明の時点ですが、まずパート1において議長就任後、議事運営について株主に説明する際に同時に採決方法について説明をすることが考えられます。次に、パート3において議案の採決に入る前に採決方法について説明をすることは必須であると解されます。実務においては、株主への説明に漏れがないように、両場面において採決方法について説明を行っているのが通例と思われます。採決をする議案によって採決方法が、拍手による場合と投票による場合とで異なる場合が想定されることから、議長は株主にその点を丁寧に説明する必要があります。なお、議案の採決を投票による場合、特に提案株主との間でプロキシ―ファイトが(注7)行われているなど、賛否が拮抗する状態にある場合には、総会の議場を封鎖して、株主の議場への入退場を一時的に止め、議決権を行使する株主とその議決権数を確定した後、株主の投票を実施することも行われます。そして、投票の終了後、集計作業を経て採決の結果が判明するまで、株主には議場に待機するように要請し、採決の結果が判明した後、その結果を議長は株主に報告をします。採決の場面では以上のような手続を取ることになります。(4)株主提案がある場合の議事運営の流れ以上の議事運営の流れをまとめると次のとおりになります。【一括審議方式のもとにおける議事運営の流れ(株主提案がある場合)】4.おわりに冒頭で説明したとおり、物を言う株主であるアクティビストの行動がますます活発化する様相を呈しています。アクティビストの行動は、同意なき買収という形で、会社支配権の獲得を目指すという直接的な形で現れることもありますが、現在最もよく見られるのが株主総会への株主提案の提出です。株主提案権の行使は、アクティビストが会社に対して自らの意思を伝える手段として最も簡易かつ効果的なものとして利用されている感があります。これに関連して、近時現れたのが、いわゆる勧告的決議を求める株主提案です。これは株主総会で決議することのできない事項(非決議事項)を議題とする株主提案であり、アクティビストなどが会社に揺さぶりをかける際の戦術となっています。勧告的決議を求める株主提案が認められるかについては争いもあります(注8)。この点については、株主提案の内容に応じて個別具体的に判断をしていく以外にはないと思われます。しかし、株主総会決議事項ではない事項を提案する場合には、定款変更議案として株主提案が行われるのが現在の株主総会の現実です。したがって、従前どおり定款変更議案の形で株主提案が行われた場合には、会社としても株主提案として取り扱わざるを得ません。最近のマスコミ報道(注9)によると、東京証券取引所の上場企業の外国人持株比率は、2024年度末で過去最高を記録したと報じられています。そのような情報からもうかがわれるように、近時主に海外投資家からなるアクティビストが日本市場に多数流入し、企業に対してガバナンス改革などを迫る事案が増えてきている感があります。今後もアクティビストの行動は活発化し、国内の上場企業を相手に、様々な形で株主提案を行ってくることが予想され、これを受け付ける会社側もこれまで以上に慎重にかつ正確な法的判断のもと対応をしていくことが求められているといえます。しばらく株主提案をめぐる企業社会の張り詰めた緊張感は続きそうです。<注釈>民間の調査(三井住友信託銀行ガバナンスコンサルティング部(2025年7月))によると、2025年6月総会における株主提案件数は114社となり、2024年6月総会において91社であったことから前年比で23社増加しており、機関投資家等からの株主提案は51社で過去最高であった前年件数から5社増加しています。ガバナンスをテーマにする議案の提案を受けた社数が増加する一方、株主提案の可決事例が複数件見られたということです。10年前の2015年6月総会においては29社、うち機関投資家等から株主提案を受けた会社は1社に過ぎず、10年間で状況は一変しています。また、機関投資家等から株主提案を受けた企業のPBRは2024年6月総会ではPBR1倍未満が約60%を占めていましたが、2025年6月総会では約50%へ低下しており、PBR1倍未満かどうかにかかわらず株主提案を受けているのが特徴的とされています。さらに、会社提案議案の否決は8社、37件となり、前年の4社、6件と比べ4社、31件増加しており、会社提案議案の可決承認が次第に難しくなる傾向が看取されます。「2024年度全株懇調査報告書」(2024年10月。以下「全株懇調査」といいます。)17頁においては、回答会社(株式上場・非上場)のうち82.9%が一括審議方式を採用しているとされています(調査項目25⑵)。全株懇調査によると、質問に関する制限の有無(質問者1人1回当たり)について、回答会社(株式上場・非上場)のうち質問時間による制限を採用する会社が3.0%、質問数による制限を採用する会社が51.9%、これらを併用する会社が4.9%とされており、以上の合計の59.8%の会社が株主の質問に何らかの制限をかけており、その割合は年々増加する傾向にあります(調査項目28⑵)。なお、総会当日に提案株主が欠席した場合については、そもそも株主提案を審議する必要があるのかという点も問題となりますが、その場合も株主提案を総会で審議すべきであると解されており、実務上もそのように取り扱っています(東京弁護士会会社法部編『株主総会ガイドライン〔第3版〕』(2025年2月・商事法務)313頁)。取締役会設置会社において、提案株主が議案要領通知請求権の行使により提出しようとする議案の数が10を超えるときは、会社は10個を超える数の議案について、議案要領通知請求を拒絶することができる(会社法305条4項本文)とされています。前田雅弘・木村敢二『株主提案対応の株主総会実務‐その実践と理論』(2024年・中央経済社)232頁株主提案が提出された株主総会において株主提案と会社提案との間で株主の議決権行使の代理権を授権する委任状をめぐり争奪戦が行われることがあり、プロキシ―ファイト(委任状争奪戦)と呼ばれています(西本強『戦略的企業防衛』(2024年・商事法務)107頁など)。勧告的決議を求める株主提案については、これを認めない裁判例(定款に定めのない買収防衛策の導入・廃止などについて、東京高決令和元・5・27資料版商事法務424号118頁。)と原則として株主提案の対象となると判示した裁判例(産業競争力強化法に基づく株式分配型のスピンオフについて、京都地決令和3・6・7資料版商事法務449号90頁)があります。ただし、いずれの裁判例も、株主提案権の対象となる事項は、株主総会の決議事項であることを前提としていると解されています(前掲ⅳ株主総会ガイドライン298頁)。日経新聞2025年7月24日記事「外国人持ち株比率最高に」によると、株式分布状況調査によると2024年度末時点の日本株の外国人保有比率は23年度末比0.6ポイント上昇の32.4%となり、過去最高を更新する一方、物言う株主(アクティビスト)が保有を増やし、企業改革を迫るケースが多かったことなどが報じられています。提供:税経システム研究所
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2025/09/12 税務ニュース
行政手続における悉皆調査の結果(令和6年)と今後の調査
デジタル庁は、8月25日、ホームページで「事業者のデジタル化等に係る関係省庁等連絡会議(第8回)の資料等」を公表し、同会議の資料で、「行政手続の悉皆調査の結果(令和6年)と今後の調査について」を公表した。この調査は、オンライン化等による行政サービス全体の利便性向上に向けて、行政手続等の実態を詳細に把握するために実施したもので、調査対象機関は、国の行政機関(26府省等)に対し、個別手続ごとに「法令を所管する府省」又は「手続を実施する府省」としたものである。調査期間は、フェーズ1が、令和6年10月~令和6年12月、フェーズ2が令和6年12月~令和7年6月であった。調査結果からは、オンライン実施状況(令和3年度調査との比較)、手続種類数と年間件数の関係、オンライン申請の実現方法、オンライン化されていない要因、オンライン化のポイント等が明らかにされており、今後、デジタル庁として事業者から地方自治体への行政手続についても、e-Gov等を利用した申請のオンライン化を支援していくとしている。オンライン実施状況(令和3年度調査との比較)については、令和6年度調査において、生成AIを用いて法令データを精査した結果、令和3年度と比較して追加で約1万件の手続が検出され、約7.5万種類の行政手続数となっており、オンラインで行える行政手続の割合(オンライン化率)は、令和3年度では約3割だったが、令和6年度では約5割に増加している。また、オンラインで申請が可能な手続のうち、実際にオンラインで申請された件数の割合(オンライン利用率)は令和3年で約6割だったものが、令和6年度では約8割に増加している。手続種類数と年間件数の関係については、年間件数が1万件以上の手続種類数は全体の2.3%だが、全ての手続種類数の年間件数の全体の99.8%を占めており、年間件数が100万件以上の手続では、オンライン化率、オンライン利用率ともに8割を超えている。オンライン申請の実現方法については、オンライン化されている手続のうち約6割は府省システムを通じて行われ、約4割はメールで行われており、オンラインで処理可能な手続の種類が最も多いシステムは、今後実施予定を含めると「電子政府の総合窓口システム(e-Gov)」となっている。また、年間のオンライン手続件数が多いのは「輸出入・港湾関連情報処理システム(NACCS)」「電子政府の総合窓口システム(e-Gov)」の順となっている。オンライン化されていない要因としては、オンライン化されていない手続の種類で見た場合、4割の手続が「オンライン化の費用対効果が小さい又は不明」と各行政機関が回答しており、一方、手続件数ベースでは「オンライン化実施予定」が約5割となっており、「オンライン化の費用対効果が小さい又は不明」が約2割となっている。オンライン化のポイントについては、①手数料の納付方法と、②添付書類を求める手続が示されており、①手数料の納付方法については、手数料納付が必要な手続のうち、手続種類数ではオフライン納付のみの手続が約6割を占める一方で、年間件数ベースでは5割弱となっており、オンライン納付手段としてはペイジー(ネットバンキング)、クレジットカードが多くなっている。②添付書類を求める手続については、戸籍を求める手続はオンライン化率が低い(約4割)一方で、決算書を求める手続はオンライン化率が高くなっており(約8割)、他の添付書類を求める手続は約5~6割のオンライン化率となっている。(参考)事業者のデジタル化等に係る関係省庁等連絡会議(第8回)https://www.digital.go.jp/councils/private-business-dx/578b4dd0-db54-44da-9850-d76a6248c27f
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2025/09/11 会計レポート
企業が生き残るための製品・サービスの原価計算の勘所(20)
1.岡本[2000]による販売費及び一般管理費の分類と「販売費分析」という意味前々々回の(17)で、販売費及び一般管理費を分類するにあたり、一橋大学岡本清名誉教授の名著『原価計算』の最新版である六訂版[岡本,2000]では、まず、販売費及び一般管理費を、文字どおり販売費と一般管理費に分類し、さらに、販売費を注文獲得費、注文履行費、販売事務費に分けて説明していますが、一般管理費については勘定科目を例示しているものの、本文において説明はしていません。また、前回の(19)で、岡本[2000]では、販売費は、これを経常的に製品へ配賦されることはなく、一般管理費とともに、期間原価として当該会計期間の収益と対応して計算するので、販売費の計算では、販売費会計(marketingcostaccounting)とはいわずに、販売費分析(marketingcostanalysis)というほうが普通である[p.700]と述べていることを説明しました。そして、岡本[2000]は、一般的に行われる販売セグメント別分析として、①製品品種別分析、②販売地域別分析、③顧客種類別分析、④注文規模別分析、⑤販売経路別分析の5項目をあげています[p.700]。2.岡本[2000]による製品品種別分析(その1)(1)純益法と貢献利益法では、岡本[2000]に依拠して、具体的な分析手法の説明について概説していきます。岡本[2000]は、販売費を販売セグメント別に分析する方法として、製品品種分析に純益法と貢献利益法があると説明しています[pp.701-713]。純益法では、岡本[2000]によると、全部原価計算にもとづき、製造原価、販売費及び一般管理費のすべてを各製品品種に割り当て、製品品種別の純利益を計算することにより、各品種の収益性を分析します[p.701]。一方の貢献利益法は、直接原価計算にもとづき、各製品品種別売上高から変動製造費および変動販売費を差引いて「貢献利益」を計算し、「貢献利益」から品種別の個別固定費(製造費および販売費)を差引いて「製品貢献利益」を計算して、各品種の収益性を分析する方法です[岡本,2000,p.703]。日本商工会議所簿記検定試験のテキスト[岡本・廣本,2024a]においても、同様の説明をしています[p.42]。(2)純益法における販売費及び一般管理費の直課と配賦1)販売直接費の直課今回と次回にわたり、純益法について概観します。岡本[2000]は、純益法の計算手続では、販売直接費を各製品品種に直課すると説明しています[p.701]。販売直接費の例として、岡本[2000]は、製品品種別の広告費、製品品種別の見本費、特定の製品品種のみを担当する販売員の給料、販売員手数料、特定の製品のみを保管する倉庫費などをあげています[p.701]。この販売費の分類は、機能別分類にもとづく費目を前提にしています。2)販売間接費の配賦岡本[2000]はまた、純益法において、販売間接費を特定の配賦基準によって各製品品種に配賦すると説明しています[p.701]。岡本[2000]では、販売間接費の配賦において販売費を分類するにあたり、販売直接費と同様に機能別分類にもとづいた費目ごとに、図表1のように配賦基準を例示しています[pp.701-702]。図表1販売間接費の配賦基準の例機能別販売間接費配賦基準の例広告費および販売促進費製品品種別売上高(これは、合理的な基準ではなく、便宜的基準であって、実際または予算売上高が用いられる)直接販売費製品品種別売上高販売員の報告書に記載された製品品種別の接客時間数多数の販売担当者の判断による製品品種別販売努力の平均的割合市場調査費製品品種別売上高倉庫費製品品種別専有面積×保管日数在庫品の平均価額取扱品の個数・重量運送費製品品種別売上高売上品の個数・重量(トラック運送の場合の)製品品種別トンキロ数掛売集金費製品品種別売上高製品品種別顧客数または送状数販売事務費製品品種別送状数製品品種別売上高製品品種別売上原価岡本[2000,pp.701-702]をもとに、筆者作成3)一般管理費の配賦岡本[2000]は、一般管理費の分析について、販売間接費と同様に、一般管理費を製品品種別に配賦すると説明しています[p.701]。とはいえ、「一般管理費は製品品種別売上高または売上原価で配賦されることが多い」[岡本,2000,p.702]と述べており、販売間接費のように機能別に分類した費目ごとではなく、いわば製造間接費の配賦における「総括配賦」のように、製品品種別売上高または製品品種別売上原価という「一つの配賦基準で総額を配賦する」方法を説明しています。さらにいえば、岡本[2000]では、機能別分類による「販売費および一般管理費分類表」[p.694]においては、一般管理費の分類を次のように例示しています。各管理部門費の次に示している費目はすべて給料となっていますが、この点は、「一般管理費を販売セグメントに配賦すること」の難しさを物語っていると考えます。そもそも、費用の配賦計算は、適切な配賦基準にもとづいて行われるべきです。ここでいう適切な配賦基準とは、配賦する費用のコスト・ビヘイビアを説明できる何らかの基準のことで、よく使われるのが経営の活動量を示す操業度です。たとえば、製造量を操業度とした場合、製造原価を変動費と固定費に分解したときには、製造量の増減にともなって製造原価がどのように発生するのかを把握できます。したがって、製造活動と製造原価との間に、いわば「関数関係」を描くことができるという前提で、製造原価の測定や分析を行います。しかしながら、一般管理費の発生については、各製品品種の製造活動を反映する操業度の増減によってコスト・ビヘイビアを説明することができず、いわば「関数関係」を描くのは困難です。とはいえ、岡本[2000]のいうように、「販売間接費(および一般管理費)は、各製品品種へなんらかの基準にもとづいて配賦する」[p.701、下線引用者]ことが求められるという前提であれば、操業度の尺度である「製品品種別売上高または売上原価で配賦されることが多い」[岡本,2000,p.702]というのも、致し方ないのかもしれません。とはいえ、各管理部門の活動との関連で、一般管理費の各費目がどのようなコスト・ビヘイビアを描くのか、ということをある程度は測定できるかもしれません。この点を詳細に検討するにあたっては、活動基準原価計算(activity-basedcosting:ABC)によって解決策を見いだせる可能性があると、筆者は考えています。参考文献伊藤嘉博・目時壮浩、2021『異論・正論管理会計』中央経済社。大蔵省企業会計審議会、1962「原価計算基準」大蔵省企業会計審議会。岡本清、2000『原価計算』六訂版、国元書房。岡本清・廣本敏郎、2024a『検定簿記講義/1級工業簿記・原価計算下巻』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎、2024b『検定簿記講義/2級工業簿記』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎・尾畑裕・挽文子、2008『管理会計』中央経済社。小林啓孝、1997『現代原価計算講義』第2版、中央経済社。小林啓孝・伊藤嘉博・清水孝・長谷川惠一、2017『スタンダード管理会計』第2版、東洋経済新報社。清水孝、2006『上級原価計算』第2版、中央経済社。清水孝、2014『現場で使える原価計算』中央経済社。清水孝・長谷川惠一・奥村雅史、2004『入門原価計算』第2版、中央経済社。園田智昭、2021『プラクティカル原価計算』中央経済社。谷武幸、2022『エッセンシャル管理会計』第4版、中央経済社。提供:税経システム研究所
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2025/09/11 税務ニュース
令和6年度租税滞納状況の概要
国税庁は、8月27日「令和6年度租税滞納状況の概要」を公表した。「令和6年度租税滞納状況の概要」は、大きく、「租税滞納の状況」と「滞納の未然防止及び整理促進に関する取組」からなっている。「租税滞納の状況」は、令和6年度末滞納整理中のものの額(次期繰越額)は、9,714億円となっており、新規発生滞納額は、9,925億円で、令和5年度と比較すると、1,928億円(24.1%)増加している。新規発生滞納額は、ピーク時(平成4年度)の約5割となっている。滞納発生割合は、1.2%となっており、引き続き、低水準で推移している。一方、整理済額は、9,488億円となっており、令和5年度と比較すると、1,818億円(+23.7%)増加している。滞納整理中のものの額は、9,714億円となっており、令和5年度と比較すると、437億円(+4.7%)増加しているが、滞納整理中のものの額は、ピーク時(平成10年度)の約3割となっている。国税庁では、「滞納の未然防止及び整理促進に関する取組」として、〈国税庁ホームページ、SNS等による広報・周知〉、〈キャッシュレス納付の推進〉、〈「予納ダイレクト」による納税資金の準備の呼び掛け〉、〈個々の納税者に対する納付指導〉を通じて、滞納の未然防止策に取り組んでいる。〈国税庁ホームページ、SNS等による広報・周知〉では、国税庁ホームページ「納税に関する総合案内」で、納付手続、計画的な納税(資金の積立て)の方法、納付が困難な方への猶予制度のご案内など、納税者の方のニーズに応じて、様々な情報を提供しており、また、SNSを活用した納期限や振替期日などの周知のほか、地方公共団体、税理士会、関係民間団体、業界団体等の協力を得て、各種広報媒体や説明会等の機会を活用し、期限内納付のための広報・周知を実施している。〈キャッシュレス納付の推進〉では、納税者利便の向上と現金管理等に伴う社会全体のコストを縮減する、更には滞納の未然防止の観点から、キャッシュレス納付(振替納税、ダイレクト納付(e-Taxによる口座振替)、インターネットバンキング等による電子納税、クレジットカード納付、スマホアプリ納付)の利用拡大に取り組んでおり、納付件数の多い源泉所得税のキャッシュレス納付の利便性を実感できるように、徴収高計算書の作成・送信から納付手続までの一連の操作を体験することができる「源泉所得税のキャッシュレス納付体験コーナー」を令和7年3月からe-Taxホームページに開設している。〈「予納ダイレクト」による納税資金の準備の呼び掛け〉では、スマートフォンなどから簡単な操作で手続が完了する「予納ダイレクト」による納税資金の準備を勧めており、税理士会、関係民間団体、業界団体及び各種説明会を通じた広報・周知を行っている。〈個々の納税者に対する納付指導〉では、滞納の未然防止を図るため、納期限の前後に納税コールセンター等において、個々の納税者の方に対する納付指導を実施しており、申告後、納期限前には、【期限前納付指導】として、最近の納付が期限後納付だった者を対象に「期限前納付指導はがき」の送付及び納税コールセンター等で電話による納付指導を実施している(年間約24万者)。納期限後には、【督促前納付指導】として、督促状発送予定の方を対象に、納税コールセンター等で電話などによる納付指導を実施している(年間約55万者)。(参考)令和6年度租税滞納状況の概要https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2025/sozei_taino/pdf/sozei_taino.pdf
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2025/09/10 税務レポート
代償分割と相続税計算の注意点
1.はじめに今回は相続における遺産分割方法の1つである「代償分割」についてみていきたいと思います。被相続人の財産のほとんどが不動産や自社株式であるような場合のほか、財産の取得者を個別に決定するのが煩雑な場合など、相続実務においては、遺産規模の大小にかかわらずよく検討される方法になります。実務上注意すべき点もありますので、下記事案をもとに代償分割と相続税計算における注意点等をみていきたいと思います。2.事案(1)前提事項被相続人:母A相続人:長男B(Aと同居)、次男C相続財産(みなし相続財産も含む)Aの自宅土地と建物(相続税評価額1.2億円、時価1.5億円):長男Bが取得現金2,000万円:次男Cが取得死亡保険金:3,000万円:長男Bが取得代償金:7,500万円(長男Bから次男Cへ支払い)長男Bが自宅土地と建物を取得する代わりに、長男Bから次男Cへ代償金を支払う。代償金の算定については、自宅土地建物の時価の1/2で算定している。(1.5億円×1/2=7,500万円)3.代償分割について(1)意義代償分割とは、遺産分割の方法のうちの1つで、遺産の分割に当たって相続人などのうちの1人または数人に相続財産を現物で取得させ、その現物を取得した人が他の相続人などに対して債務を負担するもので、一般的に現物分割が困難な場合等に行われる方法です。参考)遺産分割の主な方法の概要現物分割遺産をそのままの形(現物)で分割する方法共有分割遺産を共同(共有名義)で分割する方法換価分割遺産を売却して現金化して分割する方法代償分割遺産を現物取得した人が、他の相続人には代償金として支払うことにより分割する方法■相続税基本通達11の2-9注書き「代償分割」とは、共同相続人又は包括受遺者のうち1人又は数人が相続又は包括遺贈により取得した財産の現物を取得し、その現物を取得した者が他の共同相続人又は包括受遺者に対して債務を負担する分割の方法をいいます。(2)代償分割の活用が想定される主な遺産分割のケース相続財産の大半が自宅不動産や自社株式等の場合で、共有や分散しての取得が状況に適していないような場合に、取得すべき者(自宅不動産であれば同居親族、自社株式であれば会社の後継者等)が取得して、他の相続人には代償金として支払うようなケース預貯金や有価証券の口座数が多すぎる等、個別に取得者を定めて分割を行うことが実務上煩雑となるような場合に、いったん相続人のうちの一人が全てを取得して、他の相続人には代償金として支払うようなケース(3)代償金の金額は自由に設定できる代償金は相続人間で合意すれば、金額や支払方法を自由に決めることができます。ただし、現物財産を取得した相続人は、他の相続人へ支払う代償金を工面する必要がありますので注意が必要です。(4)他の分割手法に比べ小規模宅地特例の適用を有利に行える場合がある遺産が不動産の場合、小規模宅地特例の適用は相続税計算において大きなポイントとなりますが、遺産分割方法の観点から見ると、換価分割では売却が絡みますので、申告期限までの所有の要件等に抵触する可能性があり、また、共有分割では全ての共有者が適用要件を満たすとは限りませんのでフルに特例の適用が受けられない可能性があります。一方、代償分割による取得の場合は、特例の適用を受けられる者に全て現物取得させることで、特例をフルに受けられる可能性が高く、他の分割手法に比べて、小規模宅地特例の適用を有利に行える可能性があります。上記2の事案でも同居親族の長男Bが自宅を全て取得すれば、小規模宅地特例(特定居住用宅地)をフルに適用することができます。3.代償財産の価額と相続税の課税価格へ算入する金額代償金の算定については、対象となる現物財産を「相続税評価額」若しくは「時価」のどちらをベースに算定するか等算定のベースとなる価格について、時に相続人間で大きく争いになることもあります。代償金の決定は相続人間で自由に決めることができますが、相続税の課税価格の計算においては相続税基本通達11の2-9、相続税基本通達11の2-10を基に決めることになります。上記2の事案においては、長男Bが次男Cへ交付した代償金は7,500万円ですが、この代償金の算定は、特定されている現物財産(自宅土地建物)の時価ベースで算定がされていますので、相続税の課税価格計算上は下記の通りこれを相続税評価額ベースに引き直して計算を行うことになります。※相続税基本通達11の2-10(1)の方法による場合はその方法も認められます。■相続税基本通達11の2-9(代償分割が行われた場合の課税価格の計算)代償分割の方法により相続財産の全部又は一部の分割が行われた場合における法第11条の2第1項又は第2項の規定による相続税の課税価格の計算は、次に掲げる者の区分に応じ、それぞれ次に掲げるところによるものとする。代償財産の交付を受けた者相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額と交付を受けた代償財産の価額との合計額代償財産の交付をした者相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額から交付をした代償財産の価額を控除した金額(注)「代償分割」とは、共同相続人又は包括受遺者のうち1人又は数人が相続又は包括遺贈により取得した財産の現物を取得し、その現物を取得した者が他の共同相続人又は包括受遺者に対して債務を負担する分割の方法をいうのであるから留意する。■相続税基本通達11の2-10(代償財産の価額)11の2-9の(1)及び(2)の代償財産の価額は、代償分割の対象となった財産を現物で取得した者が他の共同相続人又は包括受遺者に対して負担した債務(以下「代償債務」という。)の額の相続開始の時における金額によるものとする。ただし、次に掲げる場合に該当するときは、当該代償財産の価額はそれぞれ次に掲げるところによるものとする。共同相続人及び包括受遺者の全員の協議に基づいて代償財産の額を次の(2)に掲げる算式に準じて又は合理的と認められる方法によって計算して申告があった場合当該申告があった金額(1)以外の場合で、代償債務の額が、代償分割の対象となった財産が特定され、かつ、当該財産の代償分割の時における通常の取引価額を基として決定されているとき次の算式により計算した金額A×(C÷B)(注)算式中の符号は、次のとおりである。Aは、代償債務の額Bは、代償債務の額の決定の基となった代償分割の対象となった財産の代償分割の時における価額Cは、代償分割の対象となった財産の相続開始の時における価額(評価基本通達の定めにより評価した価額をいう。)4.代償分割を行った場合の相続税計算にあたり留意すべきその他のポイント(1)遺産分割協議書への記載は必須遺産分割協議書に、代償金の支払いが代償分割によるものであることの記載がない場合には、単純に金銭を贈与したものと判断される恐れがありますので注意が必要です。贈与とみなされることのないように、遺産分割協議書には代償分割であること、代償金の支払い内容について明確に記載します。(2)取得した遺産額を超えて代償金の支払いをした場合取得した遺産額を超えて代償金の支払いをした場合にはその超える部分は金銭の贈与があったものとして贈与税課税の対象になる可能性があります特に、死亡保険金を取得して代償金を支払う場合がありますが、死亡保険金は税務上はみなし相続財産として相続税の課税価格に算入しますが、民法上は受取人固有の財産であるため被相続人の遺産には含まれません。死亡保険金を取得した者が他に取得した遺産が少ないような場合で、代償金の交付額がその取得遺産額を超えてしまうような場合は、その超えた部分は贈与となってしまいますので注意が必要です。(3)不動産等の現物で代償金支払いをした場合代償金の支払いを現金で行わずに、不動産等の現物で支払いを行うことも可能ですが、その場合、不動産等の譲渡になりますので、譲渡所得税の対象となります。提供:税経システム研究所
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2025/09/10 税務ニュース
2026年1月施行! 下請法は取適法へ 改正ポイント説明会の実施について
令和7年5月に「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」が成立したことに伴い、法律の名称が「下請代金支払遅延防止法」(通称:下請法)から「製造委託等に係る中小受託者事業に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(略称:中小受託取引適正化法、通称:取適法)となった。取適法は令和8年1月の施行となっていることから、対象事業者及び関係者に規制内容、規制対象の追加や執行の強化等などについて事前に十分な周知を図る必要があるため、公正取引委員会、中小企業庁、経済産業局の共催による改正ポイント説明会が現在、開催されている。下請法は強い立場にある親事業者(委託事業者)が弱い立場にある委託先の下請事業者(受注事業者)に対して、下請代金の減額、下請遅延、買いたたきといった行為をしないよう規制し、保護することとしていた。改正後の取適法は、下請事業者から親事業者に対する価格転嫁の問題をはじめとしたさまざまな面での下請取引の適正化を図ることを目的として適用範囲の拡張、用語の変更、価格協議の義務化、勧告可能範囲の拡張など親事業者に大きな影響を与える内容となっている。改正ポイント説明会は、取適法対象事業者(委託事業者、受注事業者)、地方自治体、産業支援機関、金融機関等を対象に取適法の概要及び改正内容等の説明を行っており、開催については公正取引委員会のホームページで日程の一部が公表されており、東京(8月21日開催)と京都(9月5日開催)については終了している。今後、都道府県において少なくとも1回は説明会を開催する予定であり、日程等について順次ホームページに公表される。説明会は事前予約制・先着順であり、公正取引委員会のホームページにある申込フォームから申込む(中小企業庁ホームページ(※)からも申込可)ことになっており、申込の入力を完了すると入力されたメールアドレス宛に受講確定通知メールが送信され、メールを受信することで申込登録が終了する。なお、電話やファクシミリでの受付は行っていない。会場の収容人数を超えて申込があった場合は、申込を締め切る可能性があるため、会場と日程を確認して早めに申込みを行う必要がある。(※)https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/kaiseihou_setsumeikai.html(参考)2026年1月施行!~下請法は取適法へ~改正ポイント説明会の実施についてhttps://www.jftc.go.jp/event/kousyukai/toriteki.html
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2025/09/09 税務ニュース
マイナンバーカードと電子証明書の有効期限をご確認ください
デジタル庁は8月18日、政府広報オンラインの各府省庁新着情報において「マイナンバーカードと電子証明書の有効期限をご確認ください(有効期限と更新方法のご案内)」を掲載した。2025年は、マイナンバーカードの交付開始から10年目にあたり、当時、カードを交付された約1,200万人がカード本体の有効期限を迎えることや、マイナンバーカードの新規取得によるポイント付与(マイナポイントキャンペーン第一弾)からちょうど5年目で、約1,600万人が電子証明書の有効期限を迎えることから、多くの人が更新手続きを行う必要が生じるため、マイナンバーカード本体と電子証明書の有効期限、更新方法、更新時の注意点を紹介している。マイナンバーカードには、カード本体とカードのICチップに搭載された電子証明書の2つの有効期限があり、いずれも有効期限日がカードの表面に印字されている。カード本体の有効期限は、カード発行時に18歳以上であれば10年、18歳未満の場合は5年となっており、電子証明書の有効期限は年齢に関わらず5年となっている。カード本体の有効期限が切れた場合、本人確認書類としての使用ができなくなり、電子証明書の有効期限が切れた場合は、各種行政手続きのオンライン申請やコンビニ交付サービス等に使用できなくなるため、更新手続きを行う必要がある。有効期限については、いずれも期限の2~3ヶ月前を目途にJ-LIS(地方公共団体情報システム機構)から「有効期限通知書」が自宅に届くことになっている。マイナンバーカード本体の更新には地方公共団体情報システム機構への申請が必要であり、スマートフォン、パソコン、証明用写真機(撮影料金が必要)、郵便の4つの方法で行うことができる。申請後は約1~2ヶ月で新しいマイナンバーカードの交付通知書が届くことになっており、交付通知書とマイナンバーカードを市区町村へ持参することで新しいカードが交付される。電子証明書の更新手続きは、住所地の市区町村の窓口にマイナンバーカードと有効期限通知書を持っていくと持参したカードのICチップに新しい電子証明書を入れることで終了する。なお、更新時にはカード交付時に設定した署名用電子証明書(6~16桁の英数字)、利用者証明用電子証明書(4桁の数字)が必要となる。更新手続きはマイナンバーカード、電子証明書のいずれも有効期限の3ヶ月前から行うことができ、更新手数料は無料である。(参考)マイナンバーカードと電子証明書の有効期限をご確認ください(有効期限と更新方法のご案内)https://digital-agency-news.digital.go.jp/articles/2025-08-07-2
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2025/09/08 審査事例
帰国後に住民登録を戻して短期間寝起きした旧居宅マンションの譲渡に、居住用財産の買換え等の特例が認められなかった事例(棄却)
【裁決のポイント】所有期間が5年を超える旧居宅を売却して譲渡損失が生じた人で、新居宅を購入した人は、全ての要件を満たせば、《居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除》の特例(租税特別措置法第41条の5、本件特例)を適用できる。譲渡資産(旧居宅)については、居住の用に供している家屋、以前に居住の用に供されていた家屋(住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡に限る)などの要件が設定されている。本件の審査請求人は、海外赴任(家族同行)で自宅マンションに住まなくなり、5年後に帰国するとマンションに住民登録を戻し、その約3か月後には、先に帰国し社宅に入居していた家族と一緒に新築戸建住宅(買換資産)へ転居した。さらに2か月後にマンションが売れ、本件特例を適用して確定申告をしたところ、税務署は帰国後のマンション住まいは仮住まいに過ぎず、マンション(譲渡資産)は本件特例に規定する「個人がその居住の用に供している家屋」に該当しないとして本件特例の適用を認めなかった。国税不服審判所は、ガス水道電気の契約をしていないマンションは生活としての基本的な機能が欠けている、自治会費について請求されておらず生活状況の外観もこれに沿うものである、審査請求人は不動産仲介業者には現況は空き家、即時引渡可能と説明していることなどから、税務署の処分は適法であると判断した事例である。(平成26年分の所得税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分・棄却・令和3年1月12日裁決(非公開))【主な争点】本件マンションは、本件特例に規定する「その居住の用に供している家屋」に該当するか。【裁決の要旨】本件特例に規定する「その居住の用に供している家屋」とは、その者が生活の拠点として利用している家屋をいい、これに該当するかどうかは、その者の日常生活の状況、その家屋への入居目的、その家屋の構造及び設備の状況その他の事情を総合勘案して判定するのが相当であり、また、本件特例の適用を受けるためには、譲渡資産に、短期間臨時に、あるいは、仮住まいとして起居していたというのみでは足りず、真に居住の意思を持って客観的にもある程度の期間継続して譲渡資産を生活の拠点としていたことを要するものと解するのが相当である。一般に、都市生活における電気、ガス及び水道の利用状況は、利用されている場所での日常生活の状況を反映するものであるところ、審査請求人又はその家族は、帰国してから買換資産に入居するまで、本件マンションで電気ガス水道を利用していなかったと認められ、生活としての基本的な機能が欠けたものであるといえる。審査請求人は、帰国後に本件不動産仲介業者に対し、本件マンションは空き家であり、即時明渡しが可能であると伝えていたことからすれば、売却が成約すれば、直ちに本件マンションを明け渡すことができる程度の状況であったと認められる。また、居住者であればマンション管理会社から請求されて支払うべき町会費について請求されていないことからしても、審査請求人の生活状況の外観もこれに沿うものであると認められる。そうすると、審査請求人は、帰国後、本件マンションを、真に居住の意思を持って客観的にもある程度の期間継続して生活の拠点としていたと認めることはできない。したがって、本件マンションは、本件特例に規定する「その居住の用に供している家屋」に該当しない。【参照条文】租税特別措置法第41条の5《居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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