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2025/05/09 商事法レポート
医療法人の社員による社員総会開催の可否 ~医療法人もガバナンスが問われる時代へ~
1はじめに近時、医療法上の社団医療法人に関する判例、裁判例が散見されます。近時の判例、裁判例においては、従前より、争いになることが多かった社団医療法人の出資持分のみならず、医療法人のガバナンスが問われる事例が増加してきました。最決令和6年3月27日民集78巻1号252頁(以下「本決定」といいます)は、医療法上の社団医療法人において、社員が理事長に社員総会の招集を請求したにもかかわらず、理事長が社員総会を招集しない場合に、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般社団法人法」といいます)37条2項を類推適用することにより、社員自身で社員総会を開催できるかが問題となりました。本決定は、一般社団法人法の規定の類推適用の問題のみならず、社団医療法人におけるガバナンスの在り方が問題となった事例といえ、参照する価値があります。そこで、本稿では、2で、医療法における社団医療法人の意義と社員総会に関する規定について確認し、3で本決定の事案と判旨、本決定に対する学説上の評価をご紹介した上で、4のおわりにで、本稿のまとめを行うことといたします。2医療法における社団医療法人の意義と社員総会に関する規定(1)医療法における社団医療法人の意義医療法は、医療を受ける者による医療に関する適切な選択を支援するために必要な事項、医療の安全を確保するために必要な事項、病院、診療所及び助産所の開設及び管理に関し必要な事項並びにこれらの施設の整備並びに医療提供施設相互間の機能の分担及び業務の連携を推進するために必要な事項を定める法律です(医療1)。医療法における医療法人制度は、医療事業の経営主体に対し、法人格取得の途を拓き、資金集積の方法を容易にすることにより、私人による病院経営の経済的困難を緩和するために設けられました(注1)。医療法人は、剰余金の配当をしてはならず(医療54)、その違反には罰則があり(医療93八)、医療法人は営利法人ではないと解されています(注2)。医療法の医療法人に関する規定においては、一般社団法人法の規定が多く準用されています。もっとも、医療法における医療法人においては、病院等の管理者が理事に加えられなければならず(医療46の5⑥)、医療法人を代表する理事長は、原則として、医師又は歯科医師である理事から選出するものとされ(医療46の6①)、都道府県知事の関与が予定されている(医療44①、46の5の3②等)点で、一般社団法人とは異なっています(注3)。医療法における医療法人は、社団医療法人、財団医療法人、一人医師医療法人、地域連携推進法人とに大別されますが、そのうち社団医療法人が99.4%を占めています(注4)。社団医療法人は、その主たる事務所の所在地の都道府県知事の認可を受けて設立されます(医療44①)。社団医療法人は、持分の定めのある社団医療法人と持分の定めのない社団医療法人とに分類することができます。持分の定めのある社団医療法人においては、出資者は出資額に応じて出資持分を有し、退社又は解散に際し、持分の払戻しを受けることができますが、社団医療法人が非営利法人であることとの関係が問題となります。持分の定めのある社団医療法人は、全医療法人の63.5%を占めています(注5)。持分ありの社団医療法人は、平成18年の医療法改正により、平成19年4月1日以後は設立することができなくなっています。(2)社団医療法人における社員総会の開催社員総会の意義社団医療法人においては、社員総会、理事、理事会及び監事の設置が義務付けらえています(医療46の2①)。社員総会は、社員により構成される会議体であり、医療法に規定する事項及び定款で定めた事項について決議をすることができます(医療46の3②)。医療法の規定により社員総会の決議を必要とする事項について、理事、理事会その他の社員総会以外の機関が決定することができることを内容とする定款の定めは、無効となります(医療46の3②)。社員総会の決議事項社員総会における法定決議事項としては、役員の選解任(医療46の5)、役員の報酬等(理事につき医療46の6の4、一般法人89、監事につき医療46の8の3、一般法人105)、役員の責任の一部免除(医療47の2②、一般法人113①)、貸借対照表及び損益計算書の承認(医療51の2③)、定款変更(医療54の9)、解散(医療55①三・②)です。また、厚生労働省は、社団医療法人の定款例を公表しており、かかる定款例においては、重要な資産の処分、社員の入社及び除名なども、社員総会の決議事項とされています(定款例19条)(注6)。社員総会の種類定時社員総会は、少なくとも毎年1回は開催されなければなりません(医療46の3の2②)。これに対して、臨時社員総会は、理事長が必要であると認めたとき(医療46の3の2③)、社員からの請求があったとき(医療46の3の2④)、監事が医療法人の法令定款違反等の報告をするために必要があるとき(医療法46の8四・五)に開催されます。社員総会の招集手続社員総会の招集通知は、社員総会の日より少なくとも5日前に、社員総会の目的である事項を示し、定款で定めた方法に従って行わなければなりません(医療46の3の2⑤)。また、社員総会における決議事項は、定款に別段の定めがない限り、招集通知に記載された事項についてのみとなります(医療46の3の2⑥)。定時社員総会における招集権者は、理事長になります(医療46の3の2②)。理事長は、総社員の5分の1(定款でこれを下回る割合を定めることが可能)以上の社員から社員総会の目的である事項を示して臨時社員総会の招集を請求された場合には、請求日から20日以内に、臨時社員総会を招集しなければなりません(医療46の3の2④)。もっとも、一般社団法人法と異なり、医療法には、裁判所の許可を得た社員自身による社員総会招集の手続の規定は置かれていません(一般社団37②)。監事は、医療法人の業務・財産の状況を監査した結果、医療法人の業務・財産に関し不正の行為又は法令定款違反の重大な事実があることを発見したときは、社員総会を招集することとなります(医療46の8四・五)。社員総会の運営社員総会の議長は、社員総会において選任されます(医療46の3の5①)。議長は、秩序維持権等を有しています(医療46の3の5②③)。理事及び監事は、社員総会において、社員に対し社員総会の目的である事項について説明義務を負っています(医療46の3の4)。社員総会の決議社員は、社員総会において、各1個の議決権を有しています(医療46の3の3①)。また、社員総会に出席しない社員は、定款に別段の定めがある場合を除き、書面又は代理人によって議決をすることができます(医療46の3の3⑤)。社員総会の定足数は、定款に別段の定めがある場合を除き、総社員の過半数の出席です(医療46の3の3②)。社員総会の評決数は、定款に別段の定めがある場合を除き、原則として、出席者の議決権の過半数です(医療46の3の3③)。議長は社員であっても議決に加わることができませんが(医療46の3の3④)、可否同数のときは、議長が決することになります(医療46の3の3③)。また、特別利害関係社員も議決権を行使できません(医療46の3の3⑥)。社員総会決議に瑕疵がある場合、医療法には決議取消しの訴えや決議無効確認の訴えに関する規定はないことから、社員総会決議の無効の主張又は無効確認訴訟を提起することができます(注7)。社員総会の議事録社員総会の議事については、議事録を作成しなければなりません(医療46の3の6、一般法人57①)。社員総会の議事録は一定期間の保存が必要であり(医療46の3の6、一般法人57②③)、社員及び債権者は、議事録の閲覧謄写請求権を有しています(医療46の3の6、一般法人57④)。3本決定の事案と判旨、学説上の評価(1)事案の概要医療法人であるZの総社員の5分の1以上に当たるX(申立人・抗告人・抗告人)らがZの理事長に対して理事選任及び理事報酬決定の件を付議事項とする臨時社員総会の招集を請求しましたが、招集の手続が行われないと主張して、一般社団法人法37条1項の準用により、社員総会招集の許可を求めた事案です。1審はXらの申立てを却下し、原審もXらの抗告を棄却したことから、Xらは抗告許可の申立てをし、原審が抗告を許可しました。最高裁においては、医療法人の社員が一般法人法37条2項の類推適用により裁判所の許可を得て社員総会を招集することができるか否かが争われました。(2)判旨最高裁の法廷意見は、以下のように判示し、抗告を棄却しました。「一般法人法は、一般社団法人の適切な運営のために、37条1項において、一定の割合以上の議決権を有する社員が理事に対して社員総会の招集を請求することができる旨規定し、同条2項において、その請求の後遅滞なく招集の手続が行われない場合などには、当該社員は、裁判所の許可を得て、社員総会を招集することができる旨規定する。これに対し、医療法46条の3の2第4項は、医療法人の理事長は、一定の割合以上の社員から臨時社員総会の招集を請求された場合にはこれを招集しなければならない旨規定するが、同法は、理事長が当該請求に応じない場合について、一般法人法37条2項を準用しておらず、また、何ら規定を設けていない。このような医療法の規律は、社員総会を含む医療法人の機関に関する規定が平成18年法律第84号による改正をはじめとする数次の改正により整備され、その中では一般法人法の多くの規定が準用されることとなったにもかかわらず、変更されることがなかったものである。他方、医療法は、医療法人について、都道府県知事による監督(第6章第9節)を予定するなど、一般法人法にはない規律を設けて医療法人の責務を踏まえた適切な運営を図ることとしている。以上によれば、医療法人について、一般法人法37条2項は類推適用されないと解するのが相当である。そうすると、医療法人の社員が同項の類推適用により裁判所の許可を得て社員総会を招集することはできないというべきである。」また、渡邉惠理子裁判官の補足意見では、以下のような判示がなされ、医療法人の社員は、訴訟手続により理事長に対して臨時社員総会の招集を命ずる旨の判決を得て臨時社員総会の招集が可能であるとしつつ、臨時社員総会の招集を命ずる旨の判決を得た場合の執行方法の可否等については今後の議論に委ねられているとしました。「医療法が、その現行規定上、社員に社員総会の招集権限それ自体を付与していない理由には、医療法人の責務や役割に照らし、社員による当該招集権限の濫用を防止する必要があるということが挙げられる。その一方で、医療法人の規模や経営形態、社員から臨時社員総会の招集を請求された理事長がこれに応じない理由や状況等は様々であり、社員において臨時社員総会の招集を実現させる法的手段を保障することが医療法人の適切な運営に必要である場合があることも否定できない。そして、医療法は、46条の3の2第4項において、理事長は、一定の割合以上の社員から臨時社員総会の招集を請求された場合にはこれを招集しなければならない旨を規定することによって、社員による社員総会の招集権限の濫用防止との調和を図りつつも、上記のような場合には社員が医療法人の運営に直接関与することを認めることによりその適切な運営を確保する趣旨に出たものと解される。このような同項の趣旨に照らすと、同項は、社員が医療法人の運営に関与する必要性があるというべき場合には、社員において理事長に対して臨時社員総会の招集を請求することができることとしたものと解することが相当であり、社員において臨時社員総会の招集を図るために採り得る法的手段として、訴訟手続により理事長に対して臨時社員総会の招集を命ずる旨の判決を得ることが考えられる。」(3)学説上の評価本決定の調査官は、医療法は、医療現場の意向が医療法人の経営に反映させるよう制度的に手当てをするなど、一般社団法人にはみられない規律を設け、医療法人の運営について都道府県知事の指導監督による是正が図られることを予定しているとして、社員からの請求にもかかわらず、理事長が社員総会を開かない場合については、裁判所の許可の申立てによる社員の権限行使よりも、医療法人の実情等に通じた監督官庁による監督権限行使等に委ねた方が適切である旨を指摘しています(注8)。本決定に対しては、濫用の予防を優先するため、結論としては一定の許可を得て総会を招集することを認めないことには十分な理由があるとする見解(注9)、渡邉裁判官の補足意見を前提に、社員が訴訟により社員総会の開催を理事長に求める際には、保全手続の利用が可能であることを指摘する見解があります(注10)。4おわりに本稿においては、医療法における社団医療法人の意義と社員総会に関する規定について確認したうえで、医療法上の社団医療法人において、社員が理事長に社員総会の招集を請求したにもかかわらず、理事長が社員総会を招集しない場合に、一般社団法人法37条2項を類推適用することにより、社員自身で社員総会を開催できるかが問題となった本決定の事案と判旨をご紹介してきました。本決定においては、医療法上の社団医療法人においては、一般社団法人と異なり、都道府県知事の関与があることから、一般社団法人法37条2項の類推適用を否定し、渡邉裁判官の補足意見で、訴訟によって社員総会の招集を求めることが可能である旨が示されました。本決定や学説の議論を踏まえると、社員が理事長に社員総会の招集を請求したにもかかわらず、理事長が社員総会を招集しない場合には、社員は、都道府県知事にその是正を求め、理事長に対し、訴訟によって社員総会の開催を求めることになります。本決定の背後には、理事長に対する監督等は、社員ではなく、都道府県知事が行うべきという考えがあるように思われます。もっとも、医療法人においては、都道府県知事による監督が必ずしも十分に機能していないとの指摘もされています(注11)。また、訴訟や仮処分による社員総会の開催には、一般社団法人法37条2項の手続に比べて、費用や時間もかかります(注12)。それらの指摘を踏まえますと、社団医療法人において、理事長に対する監督等を行うのが、都道府県知事のみでよいのか、それとも、一般社団法人の理事長に対する監督につき社員の関与をより一層認めていくべきなのかは、今後も注視していく必要があります。<注釈>昭和25年8月2日発医第98号各都道府県知事あて厚生事務次官通達厚生事務次官通達・前掲(注1)松嶋隆弘「社団たる医療法人のガバナンスの実効性に関する一考察」日法88巻4号(2023年)319-320頁今川嘉文『激変する医療法人の運営・資金調達・承継の法律実務』(日本加除出版、2023年)7頁今川・前掲注(4)7頁厚生労働省ウェブサイト(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000135131.html)(最終閲覧:令和7年3月24日)今川・前掲注(4)22-23頁一藤哲志「判解」ジュリ1606号(2025)91頁鳥山泰志「判批」法教531号(2024)113頁吉垣実「判批」新・判例解説watch民事訴訟法165号(2024)3頁(https://lex.lawlibrary.jp/commentary/pdf/z18817009-00-061652514_tkc.pdf)(最終閲覧:令和7年3月24日)松嶋隆弘「医療法人社員による社員総会招集申立ての可否」税理68巻4号(2025)112頁鳥山・前掲注(9)113頁提供:税経システム研究所
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2025/05/09 税務ニュース
地域経済の好循環を支える中小企業・小規模事業者の「稼ぐ力」の強化に向けて
日本商工会議所は4月17日、地域経済の好循環を支える中小企業・小規模事業者の「稼ぐ力」の強化に向けて、全国の商工会議所から寄せられた現場の声や要望等を取りまとめ、公表した。コロナ禍から経済が正常化し、30年ぶりの高水準の賃上げや設備投資等、日本経済は成長型経済への移行、経済の好循環を実現する好機を迎えている。好循環実現の原動力は、雇用の約7割(3大都市圏を除くと約9割)を担う「中小企業・小規模事業者の収益改善、従業員等の所得向上」と、疲弊する「地域経済の再活性化」である。一方、地域中小企業の多くは人手不足に起因する労務費増、円安を背景とした賃上げを上回るコストプッシュインフレ、金利上昇、消費低迷等に直面し、業況の二極化が顕在化している。賃上げや投資の原資確保に向けた生産性向上、付加価値拡大への支援強化と、適正利潤が得られる価格転嫁など取引適正化に向けたビジネス環境の整備が急務である。こうした状況を踏まえ、政府に対し、以下に掲げる政策や支援の強化・拡充とビジネス環境整備を求めて行く。また、今般の米国における関税措置は、国内外の経済や金融市場への悪影響が懸念されることから、サプライチェーン全体の中小企業・小規模事業者へのきめ細かな支援など、各地域の産業や雇用を守るために万全を期すよう要望していくとしている。今回の取りまとめでは、地域経済好循環の構築への視点とし三点が挙げられている。1人手不足等に直面する中小企業等の付加価値拡大への挑戦支援(1)中小企業の付加価値創出・拡大への支援成長志向型の中小企業等への支援など(2)中小企業の人手不足対策と業務効率化中小企業の人材確保・定着・育成支援など2価格転嫁など、取引適正化に向けたビジネス環境整備(1)適正利潤を得られる取引環境の整備(2)社会全体の価格転嫁の商習慣の定着3地域への投資拡大など、地域経済の再活性化支援(1)地域に人と投資を呼び込む支援の強化民間主導・公民共創まちづくり体制の強化など(2)地域経済を牽引する中堅・中小企業の成長支援中堅・中小企業による投資促進、地域経済への波及拡大への支援など(参考)「地域経済の好循環を支える中小企業・小規模事業者の「稼ぐ力」の強化に向けて」https://www.jcci.or.jp/news/recommendations/2025/0417170000.html
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2025/05/08 会計レポート
公益法人制度の改正(5)
はじめに「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」(以下、改正前公益認定法)が、昨年2024年(令和6年)5月に改正(改正後の法律は、以下、改正公益認定法)され、新たな公益法人制度が2025年(令和7年)4月から始まりました。この改正の内容のなかで、今回は、「区分経理」を取り上げます。公益社団法人・財団法人は、公益目的事業のほか、法人の管理運営のための事業、さらに収益事業等を実施している場合があります。公益認定基準の1つである公益事業比率を把握するためには、公益目的事業を区分してその費用を把握しておく必要があります。また中期的な収支均衡は、公益目的事業について求められるため、やはり公益目的事業の収入及び費用を把握しておく必要があります。加えて、収益事業に係る所得は課税対象となるため、収益事業に係る収益及び費用を把握する必要があります。しかし貸借対照表においては、多くの法人がそれらの事業ごとの区分経理を実施していませんでした。今回の区分経理に関する改正は、収益・費用のみならず、資産・負債についても、それぞれの事業に応じた区分経理が求められることになりました。6.区分経理(1)改正前の区分経理とその理由上述の通り、収益・費用について、公益目的事業と収益事業等、法人管理運営に区分して把握することは、今回の改正に関わらず、行わなければなりません。それぞれの事業に係る会計区分(企業会計でいうところの会計単位)が設けられますが、改正前の区分経理では、複数の公益目的事業を有している場合には、それぞれの公益目的事業の区分を設けることが求められていました。その理由は、改正前に求められていた収支相償が、第一段階で個々の公益目的事業について求められており、第二段階で公益目的事業全体について求められていたためです。この二段階でのチェックは、公益目的事業全体で収支相償を充たしているとしても、その内訳となる事業のなかに恒常的に利益を生み出す事業が含まれている場合、いわば公益目的事業として相応しくない事業が含まれている場合がありえるためです。そのため、収支相償の観点から、まずは個々の事業について公益目的事業として相応しいか否かを判断するために二段階での判断が行われていました。改正前では、収益事業等会計についても複数の収益事業や共益事業を有している場合には、それぞれの収益事業等の区分を設けることが求められていました。その理由は、その実施により公益目的事業に支障が生じないことが公益認定基準に含まれていることに関連しています。すなわち、公益性のある事業を実施することを主目的とする法人にとって収益事業等を実施することは、あくまでも公益目的事業を実施するための財源確保の目的であることが想定されているため、収益事業等全体では利益を得られているものの、その内訳のなかに損失を生じさせている事業が含まれているとするならば、その損失を生み出す収益事業等は公益目的事業のための財源確保という観点からは支障がある事業であり、実施すべきではないことになります。こうした判断を行うことを可能ならしめるためには、収益事業等についても、その内訳となる個々の収益事業等について区分経理される必要があります。(2)改正の内容公益認定法第19条において、改正前には収益事業等会計を公益目的事業会計から区分し、かつ各収益事業等ごとに区分経理することが求められていたところを、次のように改められました。すなわち、公益目的事業に係る経理、収益事業等に係る経理及び法人の運営に係る経理をそれぞれ区分して整理することが求められることになりました。収益事業等を行わない公益法人にあっては、公益目的事業に係る経理及び法人の運営に係る経理を区分経理することになります。なお、収益事業等を行わない法人について、法人運営のためのものとして特定されているものを除き、全ての財産を公益目的事業会計に含めることも認められています。この措置は、「区分経理の代替措置」と呼ばれています。なお改正前に求められていた複数の公益目的事業や複数の収益事業等を有している場合の個々の事業ごとの区分については、改正前に要求されていた正味財産増減計算書内訳表での情報開示に代えて、注記事項のなかで開示されることとなります。以上の説明からは、資産と負債についても区分経理が求められるようになっただけのように思われるかも知れませんが、注目すべき点は、資産や負債についても区分経理することが、原則として全ての法人に要求されることになった点、並びに、公益目的取得財産残額の把握が簡素化された点です。公益目的取得財産とは、公益目的事業を行うために使用し、処分しなければならない財産を指し、具体的には公益認定を受けた日以後に受けた寄附金や補助金、公益目的事業におけるサービス等の提供に対する対価として取得した財産、収益事業からのみなし寄附金に相応する財産等が含まれます。そして公益目的取得財産残額は、特定の時点における公益目的取得財産の残額を指しますが、公益認定取消等の措置がなされた場合には、その残額相当額を国や地方公共団体に寄附、あるいは他の公益法人等に寄附しなければなりません。この公益目的取得財産残額の計算は、過去に遡及して行うことはたいへん煩雑となるため、これまで毎期、その計算のための別表の作成が求められてきました。今回の改正により、その別表の作成を廃し、公益目的事業会計の純資産(正味財産から名称を変更)の額を基礎として算定する方式に変更されました。(3)改正の基盤となる考え方区分経理に関わる基本的な考え方としては、収益と費用の区分経理と、資産と負債についても区分経理を一体化しようとする考え方があります。すなわち、公益目的事業会計に含まれる収益と費用、さらに資産と負債を1つの会計区分(会計単位)として把握することを意図しています。換言するならば、次の関係が成立するように区分経理されることを求めています。公益目的事業会計=公益目的事業財産の変動を収容する会計区分7.ガバナンス強化今回の改正では、行政手続きの簡素化が図られていますが、法人のガバナンスに関連する改正として、2,000万円を超える役員報酬等を受ける役員について、その金額やそれだけの額を支給する必要があることの理由を公表するよう求めることや、特別の利益を与えてはならない関係者を関連当事者に含めて必要な開示を行うことが定められました。加えて、法人運営が内輪の者だけで行われることで私物化されることを防ぐために、理事及び監事について、外部理事や外部監事を設置することが求められています。具体的には、理事のうち一人以上が外部理事であること、監事が外部監事であること(監事が複数である場合は、一人以上が外部監事であること)が求められるようになりました。外部理事や外部監事に関わる外部性(いわば要件)としては、現在かつ過去10年間、当該法人や子法人の理事(外部理事については業務執行理事)や使用人ではないこと、公益社団法人の場合はその社員ではないこと、公益財団法人の場合は創立者ではないこと等が求められています。なお、小規模法人(収益3,000万円未満、かつ費用・損失3,000万円未満)については、外部理事については適用が除外されます。こうした外部役員の設置については、それぞれ現在の全ての理事・監事の任期が満了する日の翌日から適用することができるよう、経過措置が設けられています。提供:税経システム研究所
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2025/05/08 税務ニュース
国税庁「特定個人情報保護評価書(全項目評価書)(案)」に対する意見募集
国税庁は、4月14日国税関係事務について特定個人情報保護評価書(全項目評価書)を公表し、意見募集を行った。特定個人情報保護評価とは、特定個人情報ファイル(個人番号(マイナンバー)をその内容に含む個人情報ファイル)を保有しようとする又は保有する国の行政機関や地方公共団体等が、個人のプライバシー等の権利利益に与える影響を予測した上で特定個人情報の漏えいその他の事態を発生させるリスクを分析し、そのようなリスクを軽減するための適切な措置を講ずることを宣言するもので、個人のプライバシー等への権利利益に与える影響が小さいと考えられる特定個人情報ファイルを取り扱う事務の対象人数が1,000人未満の場合等を除いて、公表が義務付けられているものである。(※)特定個人情報保護評価書(全項目評価書)の記載事項は、下記のようになっている。Ⅰ基本情報(別添1)事務の内容Ⅱ特定個人情報ファイルの概要1.名称2.基本情報3.特定個人情報の入手・使用4.特定個人情報ファイルの取扱いの委託5.特定個人情報の提供・移転(委託に伴うものを除く。)6.特定個人情報の保管・消去7.備考(別添2)特定個人情報ファイル記録項目Ⅲ特定個人情報ファイルの取扱いプロセスにおけるリスク対策1.特定個人情報ファイル名2.特定個人情報の入手3.特定個人情報の使用4.特定個人情報ファイルの取扱いの委託5.特定個人情報の提供・移転6.情報提供ネットワークシステムとの接続7.特定個人情報の保管・消去Ⅳその他のリスク対策1.監査2.従業者に対する教育・啓発3.その他のリスク対策Ⅴ開示請求、問合せ1.特定個人情報の開示・訂正・利用停止請求2.特定個人情報ファイルの取扱いに関する問合せⅥ評価実施手続申告書類等の情報には、個人番号(マイナンバー)が含まれているため、この評価書の内容を確認することで、申告書類等がどのように取り扱われているかの概要を把握することができる。具体的には、租税に関する法律の規定に基づく犯則事件の調査のために保有する特定個人情報ファイルを取り扱う事務に係るものであるときは、その全部又は一部を公表としないことができるとされているため、上記の一部は非公表とされているが、Ⅰ基本情報(別添1)事務の内容、Ⅱ特定個人情報ファイルの概要(別添2)特定個人情報ファイル記録項目の内容を確認することで、令和8年度から更新される国税総合管理システム(KSK2)の概要や主な機能の内容、賦課・徴収の事務の流れを知ることができる。また、Ⅱ特定個人情報ファイルの概要6.特定個人情報の保管・消去からは、申告書類等の保管・消去方法、Ⅲ特定個人情報ファイルの取扱いプロセスにおけるリスク対策からは、申告署書類等の入手から保管・消去までの管理状況を知ることができ、過去3年以内に個人情報に関する重大な事故が発生したかどうかも確認することができる。国税庁内部での情報の取り扱いについて把握することができるため、機会があれば、確認しておくとよい。(参考)「特定個人情報保護評価書(全項目評価書)(案)」に対する意見募集についてhttps://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=410070015&Mode=0(※)https://www.ppc.go.jp/legal/assessment/
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2025/05/07 税務レポート
為替予約の取扱い(法人税)
1.概要ここのところ円安の状況が続いていますが、為替相場の変動は輸出入を行う企業を中心に企業経営において重要な問題となります。為替変動のリスクヘッジのために、「為替予約」を検討する企業も増えてきているように思われます。今回は法人税における「為替予約」の取扱いについてみていきたいと思います。外貨で物を売り買いするような場合、売上・仕入などの収益・費用科目については取引時に金額が確定しますが、売掛金・買掛金等の資産・負債科目は取引から入金・支払いまでの間に為替変動の影響を受ける場合があります。このような為替変動リスクをヘッジする手段として「為替予約」があります。為替予約は予め金融機関との間で決済時の為替レートを取り決めておく方法です。予約実行時点で取引採算が確定できるというメリットがありますが、一度予約すると原則、取消ができず期日に受け渡しの義務が生じる等留意点もございます。2.為替予約の税務上の取扱い(1)外貨建取引の円換算の原則内国法人が外貨建取引を行った場合の円換算額は、外貨建取引を行った時における外国為替の売買相場により換算した金額とされています。また期末に保有する外貨建債権・債務については期末時換算法か発生時換算法により評価しますが、売掛金や買掛金等の短期外貨建債権・債務については、法定換算方法が期末時換算法とされているため、実務上、期末時換算法で評価している会社が多いと思います。(法法61条の8①、法法61条の9①、②)短期外貨建債権外国通貨を受け取る期限が当該事業年度終了の日の翌日から1年以内に到来するものをいいます。短期外貨建債務外国通貨を支払う期限が当該事業年度終了の日の翌日から1年以内に到来するものをいいます。発生時換算法外貨建資産等の取得又は発生の基因となった外貨建取引の円換算に用いた外国為替の売買相場により換算した金額をもって期末時の円換算額とする方法をいいます。期末時換算法期末時の外国為替の売買相場により換算した円換算額をもって期末時の円換算額とする方法をいいます。(2)為替予約等の先物外国為替契約等を締結している場合の円換算内国法人が為替予約等の先物外国為替契約等により外貨建取引によって取得等した外貨建資産等の円換算額を確定させた場合において、先物外国為替契約等の締結の日においてその旨を帳簿書類に記載したときは、その外貨建資産負債の円換算額はその確定した換算額によります。(法法61条の8②)為替予約等を行った場合の売掛金・買掛金などの外貨建資産負債は、為替予約により確定した円換算額で評価することになります。(3)為替予約差額の配分について(原則)法人が期末に有する外貨建資産等につき上記(2)の適用を受けたときは、先物外国為替契約等の締結の日(その日が外貨建資産等の取得又は発生の基因となった外貨建取引を行った日前である場合には、外貨建取引を行った日)の属する事業年度から外貨建資産等の決済等の日の属する事業年度までの各事業年度に為替予約差額を配分し、益金の額又は損金の額に算入することになります(法法61の10①、法令122の9)。期間配分は日数按分によるほか、月数按分によることも可能です(1月に満たない端数は1月とする)期末に為替予約等をしている外貨建資産等を有している場合には、為替予約差額について期間配分を行うことになります。外貨建取引後に為替予約をした場合と外貨建取引前に為替予約をしている場合で処理に違いがありますので、下記で見ていきたいと思います。(処理方法については様々な会計処理が想定されますので、下記はその中での1つの例示となることや説明の便宜上省略している部分もありますのでご留意下さい)為替予約差額外貨建資産等の金額を先物外国為替契約等により確定させた円換算額と、外貨建資産等の金額を外貨建資産等の取得又は発生の基因となった外貨建取引を行った時の外国為替の売買相場により換算した金額との差額をいう。①外貨建取引後に為替予約する場合イ)令和7年3月1日:商品仕入(50,000ドル)直物為替相場:1ドル=150円借方金額貸方金額仕入7,500,000円買掛金7,500,000円ロ)令和7年3月10日:為替予約契約締結直物為替相場:1ドル=152円先物為替相場(予約レート):1ドル=155円直々差額(取引日から予約締結日までの直物為替相場の差額)は予約契約締結事業年度に帰属(152円-150円)×50,000ドル=100,000円借方金額貸方金額為替差損100,000円買掛金100,000円先物為替相場(予約レート)で買掛金の円換算額を確定させる(155円-152円)×50,000ドル=150,000円借方金額貸方金額前払費用150,000円買掛金150,000円ハ)令和7年3月31日(決算日)為替予約差額(直先差額)の配分を行う(155円-152円)×50,000ドル×1ヶ月/2ヶ月=75,000円※月数按分を採用借方金額貸方金額為替差損75,000円前払費用75,000円ニ)令和7年4月30日:買掛金支払いと残りの為替予約差額の配分買掛金の支払い(予約レートで確定)借方金額貸方金額買掛金7,750,000円現金預金7,750,000円残りの為替予約差額(直先差額)の配分を行う(155円-152円)×50,000ドル-75,000円=75,000円借方金額貸方金額為替差損75,000円前払費用75,000円②外貨建取引前に為替予約する場合先物為替相場(予約レート):1ドル=155円を既に締結済みイ)令和7年3月1日:商品仕入(50,000ドル)為替:1ドル=150円借方金額貸方金額仕入7,500,000円買掛金7,500,000円取引前予約の場合は仕入時に予約レートで計上することも可能である(法基通13の2-1-4)先物為替相場(予約レート)で買掛金の円換算額を確定させる(155円-150円)×50,000ドル=250,000円借方金額貸方金額前払費用250,000円買掛金250,000円ロ)令和7年3月31日(決算日)為替予約差額の配分(155円-150円)×50,000ドル×1ヶ月/2ヶ月=125,000円※月数按分を採用借方金額貸方金額為替差損125,000円前払費用125,000円ハ)令和7年4月30日:買掛金支払いと残りの為替予約差額の配分買掛金の支払い(予約レートで確定)借方金額貸方金額買掛金7,750,000円現金預金7,750,000円残りの為替予約差額(直先差額)の配分を行う(155円-150円)×50,000ドル-125,000=125,000円借方金額貸方金額為替差損125,000円前払費用125,000円(4)短期外貨建資産等に係る為替予約差額の配分方法の特例について外貨建資産等が、短期外貨建資産等である場合には、為替予約差額を一括してその事業年度に係る益金の額又は損金の額に算入することができます。(法法61の10③)選択の方法は、外国通貨の種類を異にする短期外貨建資産等ごとに選定することができます。手続きこの一括計上を選択する場合には、選択しようとする事業年度の確定申告書の提出期限までに、外国通貨の種類を異にする短期外貨建資産等ごとに、書面により納税地の所轄税務署長に届出が必要となります。変更手続き変更をする場合には、変更する事業年度開始の日の前日までに納税地の所轄税務署長に変更承認申請書を提出し、その承認を受ける必要があります。提供:税経システム研究所
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2025/05/07 税務ニュース
防衛特別法人税確定申告書等の書式が明らかに
令和7年度税制改正法において創設された「防衛特別法人税」について、申告書様式が令和7年4月14日付の官報(号外第84号)にて公表された(財務省令第46号)。防衛特別法人税は、防衛力の抜本的強化に向けた安定的な財源を確保するために導入される付加税であり、令和8年4月1日以後に開始する各事業年度から適用される予定である。納税義務者は、法人税の課税対象となるすべての法人(人格のない社団等および法人課税信託の引受けを行う個人を含む)である。税額の算出にあたっては、まず各事業年度の「基準法人税額」から基礎控除額500万円を控除した「課税標準法人税額」を算定し、これに4%を乗じた額が防衛特別法人税として課税される。「基準法人税額」とは、以下の控除等を適用せずに計算された法人税額を指す。・所得税額の控除・外国税額の控除・分配時調整外国税相当額の控除・仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に伴う法人税額の控除・戦略分野国内生産促進税制のうち特定産業競争力基盤強化商品に係る措置の税額控除及び同措置に係る通算法人の仮装経理に基づく過大申告の場合等の法人税額の加算・控除対象所得税等相当額の控除一方、防衛特別法人税に対しては、外国税額、分配時調整外国税額、控除対象所得税額等相当額、仮装経理等に基づく過大申告の場合の更正に伴う防衛特別法人税額の控除の適用が可能とされている。例えば、法人税額が1,500万円の企業であれば、500万円の基礎控除を差し引いた1,000万円に対して4%を乗じた40万円が防衛法人特別税として課税され、法人税額が500万円以下の場合は、控除の範囲内となるため課税されないこととなる。この税は「当分の間」課税されるとされており、終了時期の明示はない。過去に東日本大震災後に復興財源として導入された復興特別法人税(時限措置3年)とは異なり、防衛費の継続的増加を背景に長期的な制度運用が想定される。財務省の試算によれば、初年度となる令和8年度には約5,280億円、令和9年度には約8,210億円の税収が見込まれている。(参考)官報(号外)https://www.kanpo.go.jp/20250414/20250414g00084/20250414g00084full00010064f.html(参考)令和7年度税制改正の大綱(六防衛力強化に係る財源確保のための税制措置)https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2025/07taikou_06.htm
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2025/05/02 税務ニュース
フリーランス法違反で行政指導
公正取引委員会は、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下「フリーランス・事業者間取引適正化等法」)の施行(令和6年11月1日)後、同法に違反する疑いのある行為を行っている事業者やその業種に関する情報収集を積極的に行っているが、令和7年3月28日、フリーランスとの取引が多い業種であるゲームソフトウェア業、アニメーション制作業、リラクゼーション業、フィットネスクラブの事業者について集中的に調査を行い、45名の事業者に対して、契約書や発注書の記載、発注方法、支払期日の定め方等の是正を求める指導を行ったと公表した。指導の対象となった主な事例として、ゲームソフトウェア業5社、アニメーション制作業1社、リラクゼーション業1社、フィットネスクラブ事業者4社があげられ、事例が記載されている。以下に事例の一部を記載する。ゲームソフトウェア業・B社は、オンラインゲームのイラスト制作を特定受託事業者に委託しているが、既に給付を受領していたにもかかわらず、給付を受領する期日及び報酬の額を明示していなかった。・D社は、ゲームイラストやテキスト等の制作を特定受託事業者に委託しているが、特定受託事業者が請求書を提出した日を基準に支払期日を設定しており、給付を受領した日から60日以内に報酬を支払わない場合、期日までの報酬支払義務違反となるおそれがあった。アニメーション制作業・F社は、アニメーション作品の制作業務の全部又は原画の作成、音響演出等の業務を特定受託事業者に委託しているが、業務委託をした場合に直ちに明示が必要な事項のうち、検査完了日並びに報酬の額及び支払期日を明示していなかった。リラクゼーション業・G社は、整体施術の業務を特定受託事業者に委託しているが、業務委託をした場合に直ちに明示が必要な事項のうち、役務の提供を受ける期日及び場所を明示していなかった。また、報酬の支払期日を「翌月10日まで」と記載しており具体的な期日を特定していなかった。フィットネスクラブ事業者・H社は、パーソナルトレーニング業務を特定受託事業者に委託しているが、業務委託をした場合に直ちに明示が必要な事項のうち、報酬の支払期日を明示していなかった。また、個々の業務委託の発注時において、共通事項(基本契約書)との関連性(参照元)を明示していなかった。・K社は、SNSの動画等の投稿業務を特定受託事業者に委託しているが、報酬の支払期日を「請求書受領月の翌月末日」と設定しており、給付を受領した日から60日以内に報酬を支払わない場合、期日までの報酬支払義務違反となるおそれがあった。公正取引委員会では、中小企業庁及び厚生労働省と共同で、フリーランス・事業者間取引適正化等法に違反する行為を受けたフリーランスからの申出を受け付けるオンライン窓口を設置しており、引き続き、フリーランスからの積極的な申出を促すために、申出窓口の周知広報を行っていくこととしている。(参考)(令和7年3月28日)特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律に基づく指導についてhttps://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2025/mar/250328_FL.html
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2025/05/01 税務ニュース
「インターネットトラブル事例集(2025年版)」の公表
総務省は令和7年4月14日、青少年のインターネット利用に係る最新のトラブル事例を踏まえ、その予防法等をまとめた「インターネットトラブル事例集(2025年版)」を作成・公表した。また、オンラインカジノの違法性等の周知を強化するため、警察庁、こども家庭庁と連名でチラシを作成した。この「インターネットトラブル事例集」は、総務省により、2009年から毎年作成・公表されており、今回の「インターネットトラブル事例集(2025年版)」では、ニュース等で大きく取り上げられている「オンラインカジノ」に関する解説を掲載しており、青少年がオンラインカジノにおける賭博行為の違法性を認識することなく、利用してしまうことがないよう、注意喚起がされている。また、「闇バイト」や「偽・誤情報」などの最新のトラブル事例、被害状況等のデータ、その解決に向けたヒントを分かりやすくマンガ等を用いて解説がされている。「オンラインカジノ」については、警察庁ウェブサイトともリンクがされており、オンライン上で行われる賭博事犯の検挙事例やオンライン上で行われる賭博事犯の取締り状況についても記載がされており、保護者がネット利用環境を整える「ペアレンタルコントロール」、その代表の「フィルタリング」設定についても設定方法等が解説されている。「インターネットトラブル事例集(2025年版)」の内容は、ジャンル別にSNS、ゲーム、ショッピング、出会い、個人情報、セキュリティ、著作権、からだ・こころの健康、金銭トラブル、コミュニケーショントラブル、違法行為、犯罪被害、特集に区分されており、関心のあるジャンルの内容を確認することができるようになっている。内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)でも「インターネットの安全・安心ハンドブック」を公表しているが(※)、「インターネットトラブル事例集」は、「インターネットの安全・安心ハンドブック」よりも簡潔にトラブルの事例と解説がマンガでわかりやすく示されており、また、関連する動画も用意されており、トラブルを防ぐためには、最低限どのようなことを行わなければならないかがよくわかるようになっている。また、スマートフォン等の様々な媒体で閲覧しやすい形で掲載が行われているため、通勤途中などでも閲覧することが容易で、基本的な対策の理解ができるようになっている。税務申告においても、e-Taxを始めデジタル化が急速に進展してきており、情報セキュリティに関係する事例や基本的な対策についての知識も必要となってきているが、インターネットや情報セキュリティに関係する情報やガイドラインは、専門用語が多くわかりづらいものが多い。この「インターネットトラブル事例集」は、年齢を問わず、インターネット利用時の問題について、最近の事例を含めてわかりやすく説明が行われているため、一読をお勧めする。(参考)インターネットトラブル事例集https://www.soumu.go.jp/use_the_internet_wisely/trouble/(※)https://security-portal.nisc.go.jp/guidance/handbook.html
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2025/04/30 経営レポート
昨今労務事情あれこれ(209)
1.はじめに4月から新入社員を迎えた会社も多いのではないかと思います。1日も早く職場や仕事に慣れてもらい、戦力として一人前になってもらうべく、熱い気持ちで指導する上司や先輩社員もいらっしゃると思います。特に営業系の部署などでは、新人であっても早い時期からそれなりに成果を出すことが求められることがあるのではないでしょうか。なかなか成果が上がらない新人に対して、一昔前のように、他の従業員の面前で、人格を否定するごとき言葉を次々に浴びせて吊し上げる……といった典型的なパワハラ指導が横行している企業は、この令和の世の中にあっては少ないでしょうが、そのような部下に対し、いくらか厳しめの言動で指導や叱咤激励して成果が出るように導くことは、上司の職務として必要な対処と言えます。企業におけるハラスメント防止のための規制は徐々に厳しくなっています。特にパワハラについては労働施策総合推進法(いわゆる「パワハラ防止法」)において法的に定義が定められるとともに、パワハラ防止は事業主の義務と定められています。パワハラが原因で、従業員が心身の健康を害するようなことがあれば、損害賠償を求められることもありますし、その事実が公になれば会社として社会的信頼の損失にもつながることになります。一方で、昨今では、従業員側が自分の意に沿わない言動や指導を受けると、パワハラの定義に該当していないにも関わらず「パワハラだ!」と騒ぎ出すようなケースも珍しいことではありません。このようなことが続いてしまうと、指導する側も萎縮してしまい、部下に気を遣いすぎて十分な指導ができないといった悩みを聞くことも多くなっています。パワハラの定義は法令で定められていても、現場において、どこまでが「指導」でどこからが「パワハラ」なのか、明確に線引きをすることは簡単ではないというのが実情です。今回はグレーゾーンとも言える「パワハラ」と「指導」の境目と企業の対応について考えてみたいと思います。2.パワハラの定義とは?先述のとおり、パワハラ防止法においてその定義が定められています。パワーハラスメントとは優越的な関係を背景とした言動であって業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであり労働者の就業環境が害されるもの(身体的・精神的な苦痛を与えること)(労働施策総合推進法第30条の2第1項)また、厚生労働省ではパワハラに該当する具体的な例として「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」など6つの類型を提示しています。(※)パワーハラスメントの定義について(H30.10.17厚生労働省雇用環境・均等局)https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/000366276.pdfしたがって、上記の定義が全て満たされなければ法的にはパワハラではないということになるのですが、定義や6つの類型に当てはめてみたときに、判断に迷うような微妙なケースも実際の職場では多く存在します。部下への配慮と思って発した一言やちょっとした行動が、部下にはハラスメントと認識されてしまう恐れもあることを、まずは認識しなければなりません。では、具体的にどのような言動が、いわゆる「グレーゾーン」として注意しなければならないものなのでしょうか。3.これってパワハラ?グレーゾーンの事例例えば、度重なる遅刻や勤務に相応しくない服装などを繰り返し注意しても改まらない部下に対し、一歩進んでやや強めの態度で注意するような場合は、先述の定義②③には該当せず、法律上のパワハラとは言えないと考えられます。では、以下のような場合はどうでしょうか。■ケース1仕事でミスをしてしまい、落ち込んでいる部下に対して激励の目的で「しっかりしろ!」と語気を強めて言ったり、背中や肩を叩いたりした。■ケース2部署の任意の飲み会にあまり乗り気ではなく、出席しても毎回つまらなそうにしている部下に対し、「あまり誘うのも悪いかな」と、上司が気を遣ってその部下を飲み会に誘わなくなった。■ケース3育成を目的として、部下が現在担当している業務とは別に、横断的な業務や関連する事務作業を新たに担当させた。どのケースも、上司の立場で見れば、「これのどこがパワハラ?」と首を傾げたくなるようなケースでしょう。しかし、部下の受け止め方によってはどのケースもパワハラと認定される恐れがあるのです。ケース1:背中や肩を叩いたことを部下が「暴力を振るわれた」と感じたり、「しっかりしろ!」と固い表情で語気強く言葉を発したりした場合に「精神的な苦痛」を感じたとしたら、パワハラに該当する可能性あり。ケース2:上司は良かれと思って飲み会に誘わなかったのに、部下の方は「自分だけ外された」と疎外感を覚えた場合、「人間関係からの切り離し」でパワハラに該当する可能性あり。ケース3:育成目的は理解できるものの、部下のスキルからすると負担の方が大きく、結果的に労働時間が長くなってしまった場合などは「過大な要求」でパワハラに該当する可能性あり。全てのケースに共通しているのは、上司の思いや言動の目的と部下の受け止め方がすれ違ってしまっていることです。上司からすれば「これがパワハラにされたら立つ瀬がないな」となってしまうでしょうが、今や部下とのコミュニケーションや指導の場ではここまでの注意が求められることを心に留めておかなければなりません。ではこうしたグレーゾーンと言える対処の際に、上司はどのような注意が必要なのでしょうか。4.ありがちな一言に気をつけよう法令で示された定義に該当するかどうか微妙なケースでパワハラの指摘を受けないためには、部下の心情や受け止め方に十分な配慮が必要です。「以心伝心」「空気を読む」というのは我が国の文化なのですが、これに頼りっぱなしだと、先述の「すれ違い」が起こることになります。受け手が「パワハラだ」と感じてしまえば限りなくパワハラ認定に近づいてしまいます。自分では思ってもいなかった受け止め方をされてしまうことを防ぐため、自分の言動の目的や、その言動がどのように受け止められるのかを、いま一度よく考えて部下に接するとともに、その目的も含めてはっきり言葉にして部下に伝えることが大切です。上司が指導のつもりで何気なく発した一言、冗談とも本気ともつかない一言を、部下は苦痛に感じてしまうこともあります。上司にとっては厳しい時代と言ってもいいのかもしれませんが、常に部下の立場で考える習慣をつけ、適切な指導で成長に導いていきたいものです。提供:税経システム研究所
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2025/04/30 税務レポート
組織再編税制(会社分割)を利用した事業承継(2)
前回(2025年1月15日掲載)では、組織再編税制が個人や中小企業の事業承継にも利用できる制度であることの例として「相続が生じる前」に会社分割の事例を紹介し、その際、相続後においても会社分割により同様のことが可能であることを述べました。そこで、今回は「『相続後』の会社分割と株式譲渡による円滑な事業承継」が可能であることを事例(注1)を用いて確認したいと思います。(1)事例の概要X社は、もともと創業者甲の100%出資により設立された株式会社ですが、甲の死亡(相続)により甲の子供である乙と丙がそれぞれX社株式の50%ずつを承継しました。X社において乙と丙はそれぞれ異なる事業の経営を行っています。また、当社全体の経営方針等を巡って乙と丙で対立しています。そこで、乙と丙が互いに独立して事業を進めるために、X社を2つに分割して乙がX社を100%保有し、丙が新会社を100%保有する形態にすることを考えています。まず、X社は、新設分割(分割型分割)を行って新会社を設立し、新会社株式を直ちに乙と丙にそれぞれに交付します。そして、乙は交付を受けた新会社株式の全部を丙に譲渡し、丙は保有するX社株式の全部を乙に譲渡します。その結果、乙はX社株式の100%を保有し、丙は新会社株式の100%保有することとなります。(2)X社の課税関係イ適格要件分割が適格分割となる場合とは、①完全支配関係の場合、②支配関係の場合、③共同事業を行う場合、④事業を独立して行う場合(分割型分割の場合のみ)の4つの類型に分かれます。この事例の場合、乙と丙の兄弟で100%保有していますので、「①完全支配関係の場合」の要件に該当するか否かをまず検討することになり、この場合の適格要件は、①金銭等不交付要件と②完全支配関係継続要件の2つになります(法人税法2条12号の11イ、法人税法施行令4条の3第6項他)。①金銭等不交付要件金銭等不交付要件とは、分割対価資産として分割承継法人又は分割承継親法人(注2)のうちいずれか一の法人の株式以外の資産が交付されないこと(株式が交付される分割型分割にあっては、その株式が分割法人の発行済株式(自己株式を除きます。)の総数のうちに占める分割法人の各株主の有する分割法人の株式の数の割合に応じて交付されるもの(按分型の分割型分割)に限ります。)をいいます(法人税法2条12号の11、法人税法施行令4条の3第5項)。この事例の場合、新設分割において新会社の株式のみが分割対価資産としていったんⅩ社に交付され、それが直ちにⅩ社の株主である乙及び丙に全部交付されます。分割対価資産として分割承継法人(新会社)の株式以外の資産は交付されず、分割承継法人(新会社)の株式は、分割法人(Ⅹ社)の100%株主である乙及び丙に全部交付されることで按分型の分割型分割に該当します。したがって、金銭等不交付要件を満たすことになります。②完全支配関係継続要件単独新設分割である分割型分割に該当するこの事例の場合、その分割後に分割法人(Ⅹ社)と分割承継法人(新会社)との間に同一の者(乙及び丙)(注3)による完全支配関係が生ずることになりますが、完全支配関係の継続が見込まれることが求められるのは、乙及び丙と分割承継法人(新会社)との間の完全支配関係となります(注4)。この事例の場合、乙は、交付を受けた分割承継法人(新会社)の株式の全部を丙に譲渡して分割承継法人(新会社)の株式を保有しなくなりますが、同一の者の中での譲渡であり、乙及び丙という同一の者による分割承継法人(新会社)の完全支配関係には影響を及ぼしません。丙は、乙から譲渡を受けた分を含めて分割承継法人(新会社)の株式の100%を保有し続ける見込みですから、同一の者(乙及び丙)と分割承継法人(新会社)との間の完全支配関係の継続が見込まれるため、完全支配関係継続要件を満たすことになります。ロ事例の適格性この分割は、金銭等不交付要件及び完全支配関係継続要件を満たしますので、適格分割に該当することになります。ハ資産及び負債の移転価額適格分割により、資産及び負債を移転した場合には、帳簿価額による引継ぎをしたものとして所得の計算をすることとされています(法人税法62条の2第2項)。したがって、分割に係る資産及び負債の移転に関する譲渡損益は生じません。移転するこれらの含み損益は、新会社においてその譲渡等が行われたときに新会社において課税されます。(3)個人株主(親族)の課税関係イ分割後の株式の取得価額分割型分割により分割承継法人の株式のみを取得した場合、旧株の従前の取得価額のうち純資産移転割合(注5)を乗じて計算した部分の金額をその分割承継法人の株式に引き継ぐこととされ(所得税法施行令113条1項)、分割型分割後の旧株の取得価額は、旧株の従前の取得価額のうち、純資産移転割合を乗じて計算した部分以外の部分の金額を付け替えることとされています(同令113条3項)。ロ分割後の株式の譲渡の課税関係乙が行う丙に対する新会社株式の譲渡、丙が行う乙に対する貴社株式の譲渡は、いずれも一般株式等の譲渡として申告分離課税20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)によりが行われることとなります(措法37の10①、復興財源確保法13、地法附則35の2①⑤)。(4)まとめこの事例の場合には、法人税の課税は生じることはなく、乙と丙との株式の譲渡に関する課税(申告分離課税、上記(2)ロ)が生じることになります。なお、消費税等についても非課税や軽減措置が認められています(注6)。前回及び今回取り上げたように、いわゆる「事業承継税制」以外の税制(制度、手法)を用いることで、円滑な事業承継が可能になるのではないかと考えています。<注釈>この事例も、平成27年10月21日開催の九州北部税理士会「事業承継のための新たな手法」で解説した事例の一つで、その後もいくつかの税理士会で内容等を修正等して解説しており、直近では昨年5月に東京税理士会第7回会員研修会でも取り上げています。書籍としては、本職事務所客員税理士の小松誠志氏が『事例検討法人税の視点からみた事業承継・M&Aの実務ポイント』(大蔵財務協会、令和3年)等に取りまとめています。基本的に分割の直前に分割承継法人と分割承継法人以外の法人との間にその法人による完全支配関係(「直前完全支配関係」といいます。)があり、かつ、分割後に分割承継法人とその法人との間にその法人による完全支配関係が継続することが見込まれている場合におけるその直前完全支配関係がある法人をいいます。一の者が個人の場合には、その者と親族等の特殊の関係のある個人を含むこととされています(法人税法施行令4条1項、4条の2第2項)。乙と丙は兄弟(親族)の間柄ですので、乙と丙で同一の者と判定されます。乙及び丙と分割法人(X社)との間の完全支配関係が継続することが見込まれているとしても適格性に影響はありません。仮に分割後に分割法人(X社)株式を第三者に譲渡することが見込まれている(乙及び丙と分割法人(X社)との間の完全支配関係が継続することが見込まれていない)としても、この事例の場合の適格性には影響はありません。純資産移転割合は、原則として、「分割型分割の直前の移転資産の簿価純資産価額」の「分割法人の分割型分割の日の属する事業年度の前事業年度の簿価純資産価額」に占める割合をいいます(所得税法施行令61条2項2号)。消費税は、法人税法上の適格又は非適格に係わらず、分割が合併の場合と同様に権利義務の包括承継であることから資産の譲渡等に該当せず、不課税取引とされています(『平成13年改正税法のすべて』(国税庁・511、512頁)、末安直貴『回答実例消費税質疑応答事例集』18頁(大蔵財務協会、令和3年)。登録免許税は、一定の軽減はあるものの課税され(登録免許税法別表1二十四(一)ト、同表一(二)イ・ハ、租税特別措置法80条1項3号、同条1項6号)、不動産取得税は、一定の形式移転と認められるものは非課税とされています(地方税法73条の7第2号、同法施行令37条の14)。提供:税経システム研究所
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関連項目 税務レポート,法人税,事業承継
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