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2026/03/19 税務レポート
令和8年度税制改正大綱で導入される「企業グループ間の取引に係る書類保存の特例の創設」の解説
はじめに昨年末に閣議決定された「令和8年度税制改正の大綱」(以下、「令和8年度大綱」といいます。)70ページに、「企業グループ間の取引に係る書類保存の特例の創設」(以下、「本特例」といいます。)という耳慣れない改正項目があります。これは、令和8年度税制改正大綱の法人税法改正部分の「4公平かつ円滑な納税のための環境整備」の一環として創設されるものです。この制度は、中小企業であっても親会社や子会社を持つ法人には対象となる制度であり、場合によっては青色申告の承認取消のリスクがあります。なお、本特例は、実質的には国際課税の中の移転価格税制から多くの考え方を借用する制度であり、多くの税理士には馴染みのないものです。以下、概略を説明いたします。1.企業グループ間の取引に係る書類保存の特例の創設の趣旨近年、企業活動のグローバル化やグループ経営の深化に伴い、企業グループ内で行われる取引は複雑化しています。特に、無形資産の利用や役務提供(サービス)といった取引においては、形のある物品の売買とは異なり、その実態や対価の妥当性を外部から検証することが容易ではありません。これを簡単に言い換えると、次のようになります。昨今、いわゆるシェアードサービス会社を設置して、経理、人事、給与などの管理業務を専門に担わせる会社が増えています。一方、これまでの法人税法では、会社法に基づいて「各法人がそれぞれの拠点で書類を保存する」ことが原則でした。また、電子データの場合も、各法人が管理権限を持つ形で保存・運用することが求められ、システム構築や運用コストが各社に分散して発生していました。各子会社にITリテラシーや設備投資の差がある場合、グループ全体でのDX推進の足かせとなっていた可能性があります。本特例の目的は、企業グループ間で行われる特定の取引について、その実態と対価の算定根拠を明確化することにあります。具体的には、通常の取引書類に上記の明細が記載されていない場合に、それを補完する書類の作成と保存を義務付けることで、取引の透明性を確保し、適正な申告と納税を担保することを目的としています。これにより、税務当局が取引の実態を正確に把握できる環境を整備し、公平な課税を実現しようとするものです。2.本特例の概要(1)制度の基本構造内国法人が、その「関連者」との間で「特定取引」を行った場合において、その取引に関して保存されている「取引関連書類等」に、以下の事項の記載や記録がないときは、その記載又は記録がない事項を明らかにする書類(電磁的記録を含む)を取得又は作成し、かつ、これを保存しなければならないこととされます。不足している場合に補充が必要な事項:その取引に関する資産又は役務の提供の明細その取引において内国法人が支払うこととなる対価の額の計算の明細その他、その取引に係る対価の額を算定するために必要な事項(2)関連者とは誰のことを言うのか「関連者」とは、移転価格税制における関連者と同様の基準により判定する、とされています。移転価格税制は、内国法人が国外関連者との間で行う取引の価格が独立当事者間における価格と同じであるか否かをチェックする税制です。要するに、これまで国外関連者に適用していた制度を国内関連者にも適用しようとするものです。そこで、出資割合が50パーセント以上の子会社などを持っていれば、中小企業でも本特例の対象になる場合が出てきます。(3)特定取引とはどのような取引を言うのか本特例の対象となる「特定取引」とは、関連者が内国法人に対して行う取引のうち、販売費及び一般管理費その他の費用の額の基因となるもの(つまり、内国法人側で費用計上されるもの)に限られます。具体的には以下の取引が該当します。①工業所有権等の譲渡又は貸付け関連者が内国法人に対して、以下の資産(工業所有権等)の譲渡、貸付け、または使用させる行為を行う場合。工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式又はこれらに準ずるもの著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む)プログラムの著作物工業所有権等に係る権利の設定など、内国法人にこれらを使用させる行為も含まれます。②役務の提供(サービス)関連者が内国法人に対して行う役務提供のうち、以下のものが対象となります。関連者の経営資源を活用する事業活動内国法人と関連者との契約や協定に基づき、関連者が行う以下の活動。関連者が有する産業、商業又は学術に関する知識経験等の経営資源を活用して行われる研究開発、広告宣伝等の事業活動関連者が有する「専用資産」(専らその内国法人及び関連者の事業の用に供することを目的とする資産)を内国法人に使用させる行為、およびその専用資産の維持・管理経営管理・指導、情報提供関連者が内国法人に対して行う経営の管理や指導、情報の提供等の役務提供であって、関連者が有する産業、商業又は学術に関する知識経験に基づいて行われるもの。上記に類する役務提供上記イおよびロの役務の提供に類するもの。(4)対象となる「取引関連書類等」とは本特例で保存状況が問われる「取引関連書類等」とは、取引に関して受領または交付する以下の書類、またはこれらに通常記載される事項が記録された電磁的記録を指します。注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類これらは、法人税法および法人税に関する法令の規定により保存義務があるものに限られます。(5)違反時のペナルティ(青色申告の承認の取消し)本特例の最も重要な点は、この義務違反に対する制裁措置です。本特例により求められる「記載のない事項を明らかにする書類」の保存が、法令の定めに従って行われていない場合は、「青色申告の承認の取消事由」等となります。青色申告の承認が取り消されると、欠損金の繰越控除や各種の税額控除など、青色申告法人に認められている税制上の特典が受けられなくなるため、企業にとっては極めて重大な影響が生じます。したがって、企業グループにおいては、グループ内取引に係る文書化のルールを再確認し、必要な明細が不足している場合には、速やかに補足資料を作成・保存する体制の整備が求められることになります。3.本特例の特徴と移転価格税制の知識令和8年度大綱を読むと、本特例と移転価格税制との密接な関係を示す記述が確認できます。具体的には、以下の点において移転価格税制の考え方がベースになっている、あるいは強く意識されていると言えます。(1)「関連者」の定義が同一であること本特例の対象となる「関連者」の判定について、令和8年度大綱には明確に「移転価格税制における関連者と同様の基準により判定する」と記載されています。これは、本制度が移転価格税制と同じ枠組み(資本関係や支配関係)にあるグループ企業間取引をターゲットにしていることを直接的に示しています。(2)対象取引の性質(無形資産・役務提供)本特例が対象とする「特定取引」は、工業所有権等の譲渡・貸付けや、経営指導・技術活用などの役務提供(サービス)です。これらは、移転価格税制の実務において、対価の適正性(独立企業間価格)の算定が特に難しく、課税上の論点になりやすい分野と一致しています。(3)求められる書類の内容(対価の算定根拠)保存が義務付けられる内容として、「対価の額の計算の明細」や「対価の額を算定するために必要な事項」が挙げられています。これは、その取引価格がどのように決定されたかを説明するためのものであり、移転価格税制において価格の妥当性を検証するために求められる情報と軌を一にするものです。おわりに本特例は、これまで問題になっていなかった国内関連者を持つ企業であっても、また、中小企業であっても、移転価格税制の適用対象となるグループ内取引について、その実態や対価設定の根拠となる基礎資料の保存を求める制度となっています。そして、青色申告の承認取消しというペナルティを背景に担保させようとする強力な措置であると理解できます。なお、令和8年度大綱では、本特例の適用時期は明示されていません。令和8年度税制改正法案が公表された段階で明らかになると思われます。提供:税経システム研究所
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2026/03/19 会計レポート
生成AIを活用した財務・非財務情報の分析(10)
1.AIのさらなる進化と管理会計担当者の役割再考前回のリポートでは、生成AIの利便性の裏に潜むアウト・オブ・ザ・ループ(効率性の向上のために作業をAIに委ねた結果、ビジネスの重要な文脈を人間が理解する能力を失い、AIが提示する結論の背後にある論理から人間が切り離されてしまうこと)の危険性と、人間がビジネスの根幹に関わるプロセスに関与し続けることの重要性について解説しました。今回は、議論を一歩前に進め、管理会計担当者がAIといかに協働していく必要があるのかについて、関連する学術研究を踏まえながら検討してみたいと思います。2026年2月、AI企業であるアンソロピック社が発表した生成AI(Claude4.6)と自律型エージェント(ClaudeCowork)は、ビジネス界に大きな衝撃を与えました。これまでの生成AIは、人間が指示(プロンプト)を与えて回答を得る対話型でしたが、ClaudeCoworkは、人間が目標を与えると、AIが自律的にPCを操作し、必要なツールを使い分けて複雑なデータ分析や報告書の作成を自ら完結させてしまう能力を持っています。AIが自律的に目標を完結させる能力を示したことで、もはや専門職人材は不要になるのではないかとの不安が広がり、関連するサービスを提供する企業の株価が軒並み暴落するアンソロピック・ショックと呼ばれる現象まで起こってしまいました。予算や業績管理を担ってきた管理会計担当者は、AIの進化によって、職を失ってしまうことになるのでしょうか。この点、AIと管理会計の関係について体系的に整理した研究であるAbbas(2025)は前向きな指針を示しています。当該論文によれば、管理会計担当者の役割は消滅するのではなく、AIという武器を手に入れることによって、よりビジネスにおける中心的な存在へと進化すると指摘されています。管理会計担当者は、正確な数値情報を集計・報告するという役割から脱却し、経営層の意思決定を支えるビジネスパートナーへと進化するというのです。2.AIと人間の新たな協働の形AIと人間の理想的な協働を考える際、多くの人が陥る罠が作業の自動化です。作業時間を短縮するためにAIに丸投げすることは、自らの専門性を否定することでもあります。Thalleretal.(2024)の研究によれば、デジタル化が進むほど、基礎的な会計知識とネットワーク的な思考(全体を俯瞰する力)を掛け合わせたハイブリッドな人材の価値が高まるとされています。実務においては、AIを使って作業効率化を図ることに躍起になっていますが、真に有効なAIの使い方は、AIの提示した答えをそのまま使うこと(Automation)ではなく、自身の思考の死角を発見するための拡張(Augmentation)として利用することなのです(RaischandKrakowski,2021)。この点は、管理会計とデジタル化の関係について論じたQuattrone(2016)も、デジタル化を通じて情報が迅速かつ正確になったとしても、必ずしもそれが賢い意思決定に直結するわけではないと強調しています。AIを適切に使いこなすためには、逆説的ですが、AIの答えを否定する感性こそが極めて重要になります。デジタル化時代の管理会計担当者の在り方について研究したThalleretal.(2024)は、まさにこの点を指摘しています。デジタル化によってデータ集計や定型レポートの作成が自動化されるようになったときこそ、システムやAIのハルシネーション(間違い)を判断するためには、会計の本質的な理論や計算ロジック理解が求められるようになるのです。くわえて、同論文は、デジタル時代の管理会計担当者には、データから全体を俯瞰する能力も求められるようになると指摘しています。すなわち、財務数値を計算・分析するだけでなく、その数値が、製造、販売、物流といった他部門の動きとどのようにかかわり、最終的な利益にどのように影響するのか、というつながりを理解できることが重要であると強調するのです。3.XAI(ExplainableAI)の効果的な活用AIが提示する点の情報を、線や面(組織全体の活動)へと繋ぎ直す作業こそが、人間が担うべき領域です。この繋ぎ直しを支える強力な武器となるのが、XAI(ExplainableAI:説明可能なAI)という考え方です。これまでのAI活用において最大の障壁となっていたのは、インプットとアウトプットの間がブラックボックス化してしまい、なぜその数値が導き出されたのかが人間には見えないことでした。しかし、前述のAbbas(2025)も指摘するように、AIがなぜその結論に至ったのかという根拠や推論のプロセスを人間に理解可能な形で提示させる技術こそが、管理会計担当者の付加価値を再定義する鍵となります。実務においてこの説明可能性を担保するためには、AIに対して単に結論を求めるのではなく、その結論が得られるまでの過程を言語化させるプロセスが不可欠です。たとえば、生成AIにプロンプトを投げる際に、分析に使用した変数の相関関係や、特定の予測値がどのデータの変動に最も強く影響を受けたのかを段階的に説明させるのです。このような対話を行うことで、AIのロジックを自身が持つ会計知識や現場感覚と照らし合わせ、批判的に評価することが可能になります。AIの予測精度に依存するのではなく、その根拠を自分の言葉で経営層に語れるまで咀嚼する。このプロセスを業務フローのなかに組み込むことこそが、AIと人間の協働に欠かせないプロセスなのです。アンソロピック・ショックのような技術革新は、会計人にとっての脅威として捉えられがちですが、むしろそれは、管理会計担当者が本来果たすべき意思決定の質を高めるという本質的な任務に立ち返る絶好のチャンスでもあります。AIとの対話を通じて、思考拡張を図ることができれば、管理会計担当者はより存在感を高め、新たなステージに進むことができるのではないでしょうか。参考文献Abbas,K.(2025).Managementaccountingandartificialintelligence:Acomprehensiveliteraturereviewandrecommendationsforfutureresearch.TheBritishAccountingReview,101551.10.1016/j.bar.2025.101551Quattrone,P.(2016).Managementaccountinggoesdigital:Willthemovemakeitwiser?.ManagementAccountingResearch,31,118-122.10.1016/j.mar.2016.01.003Raisch,S.,andKrakowski,S.(2021).Artificialintelligenceandmanagement:Theautomation–augmentationparadox.AcademyofManagementReview,46(1),192-210.10.5465/amr.2018.0072.Thaller,J.,Duller,C.,Feldbauer-Durstmüller,B.,andGärtner,B.(2024).Careerdevelopmentinmanagementaccounting:empiricalevidence.JournalofAppliedAccountingResearch,25(1),42-59.10.1108/JAAR-03-2022-0062提供:税経システム研究所
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2026/03/19 税務ニュース
中小企業庁 「モニタリング強化型特別保証制度の開始」を公表
中小企業庁は3月2日、中小企業者の経営状況の変化の予兆を早期に把握することを後押しする新たな保証制度等として、「モニタリング強化型特別保証制度」の取扱を開始することを公表した。本制度は、物価高、人手不足等の影響を受け依然として厳しい状況に置かれている中小企業者の成長に向けた事業の立て直しや投資を後押しするため、月次で財務状況や資金繰り状況等を把握し、金融機関及び保証協会に経営状況等を報告することで、中小企業者の経営状況の変化の予兆を早期に把握することが可能になり、支援者が連携しつつ必要な事業者支援を行える体制が構築される保証制度であり、3年間(2029年3月末まで)の時限措置として開始され、制度の概要については次のとおり。1要件以下に該当する中小企業者認定経営革新等支援機関(以下「支援機関」という。)との連携により、月次で財務状況や資金繰り状況等を把握し、経営状況等の報告を行うことを誓約する書面を提出している中小企業者。なお、当該支援機関が申込金融機関である場合は、申込人の金融機関からの総借入金残高のうち申込金融機関におけるプロパー融資残高の割合が5割以上であるものに限る。2保証限度額2億8,000万円3保証割合責任共有対象(80%保証)4保証期間一括返済の場合は1年以内、分割返済の場合は10年以内5保証料補助保証申込日に応じて、保証料補助率に相当する額を国が補助2026年3月16日~2027年3月31日の保証申込分は1/2相当を補助月次管理は、中小企業者の事業年度を基準として、貸付実行日の属する事業年度から5事業年度(以下「モニタリング期間」という。)において、中小企業者及び支援機関が連携し、月次で財務状況や資金繰り状況等を把握する必要があり、年1回、「モニタリング報告書」を作成し、金融機関及び保証協会に対する報告が求められている。また、モニタリング期間において、今後6か月以内に資金不足が懸念されるなどの報告基準に該当した場合については、「経営状況の変化に関する報告書」を作成し、金融機関及び保証協会に対して報告を行うことが求められており、報告後は、原則として中小企業者、支援機関、金融機関及び保証協会による4者協議が行われることとされている。(参考)「中小企業者の経営状況の変化の予兆を早期に把握することを後押しする新たな保証制度等の取扱を行います」https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/2026/260302.html
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2026/03/18 税務ニュース
総務省 「2025年(令和7年)個人企業経済調査結果」を公表
総務省は3月2日、「2025年(令和7年)個人企業経済調査結果」を公表した。本調査は、個人企業の経営実態を明らかにし、中小企業振興のための基礎資料などを得ることを目的として、全国の個人企業約170万企業のうち、農業、林業など特定の産業を主たる事業とする企業を調査対象から除き、一定の抽出方法に基づく約4万企業を対象としている。営業状況について、1企業当たりの年間売上高は1,398万9,000円で前年比1.6%の増加、年間営業利益は218万円で前年比2.4%の増加となっている。1企業当たりの年間売上高の前年比では、最も増加したのは「生活関連サービス業、娯楽業」で6.4%の増加となっており、1企業当たりの年間営業利益の前年比では、最も増加したのは「宿泊業、飲食サービス業」で13.8%の増加となっている。事業主の年齢の状況については、70~79歳の企業の割合が31.8%と最も高く、70~79歳の企業の産業別の割合では、「建設業」が37.0%と最も高くなっている。また、70~79歳と80歳以上の年齢階級を合わせた企業の割合は46.0%となっている。後継者の有無の状況について、後継者がいない企業の割合は82.3%で、前年(81.9%)に比べ0.4ポイントの上昇となっており、産業別では「生活関連サービス業、娯楽業」が88.8%と最も高くなっている。パーソナルコンピュータの使用状況について、事業で使用している企業の割合は49.1%で、前年(47.1%)に比べ2.0ポイントの上昇となっており、産業別では「その他のサービス業」が64.3%と最も高くなっている。事業経営上の問題点の状況については、事業経営上の問題点として設定している12項目のうち、「需要の停滞(売上の停滞・減少)」が25.6%と最も高くなっている。今後の事業展開の状況について、「事業に対して積極的」な企業の割合は9.3%となっており、産業別では「その他のサービス業」が10.9%と最も高くなっている。一方、「事業に対して消極的」な企業の割合は20.6%となっており、産業別では「建設業」が26.5%と最も高くなっている。(参考)「2025年(令和7年)個人企業経済調査結果」https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01toukei05_01000332.html
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2026/03/17 税務ニュース
資源エネルギー庁 「日本のエネルギー」を公表
資源エネルギー庁は、このほど「日本のエネルギー」(広報パンフレット)を公表した。このパンフレットは、日本のエネルギー事情を一般の国民にも分かりやすく伝えることを目的に毎年、作成されており、2024年版は「エネルギーの今を知る10の質問」という構成で主要なエネルギーの関連テーマを質問形式でまとめている。パンフレットではまず、エネルギー政策の基本方針を「S+3E」と表現している。これは、安全性(Safety)の確保を大前提に、エネルギー安定供給(EnergySecurity)を第一として、経済効率性の向上(EconomicEfficiency)、環境への適合(Environment)という3つのEを実現するため取組を進めていることを示している。日本はすぐに使える資源が乏しく、国土を山と深い海に囲まれているといった地理的制約を抱えており、エネルギーの安定供給と脱炭素を両立する観点から再生可能エネルギーを主力電源として最大限導入するとともに、特定の電源や燃料源に依存しないようバランスのとれた電源構成を目指すこととしている。安定供給の項目では、日本のエネルギー自給率が2024年度において16.4%と他のOECD諸国などと比較しても低い水準であり、これは国産のエネルギー資源が限られており、海外から輸入される石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料への依存度が80%と非常に高いためであると説明している。経済性の項目では、これまでの電気料金の変化について東日本大震災以降、燃料輸入価格の高騰に伴い、2022年度は電気料金が大幅に上昇したが、その後の燃料輸入価格の低下により、高騰時と比べると低くなってきていると説明している。また、2012年の固定価格買取制度(太陽光発電、風力発電などの再生可能エネルギーを電力会社が一定価格で一定期間買い取る制度)の導入以降、再エネルギーの設備容量は急速に伸びてきており、制度開始前から約5倍となっており、今後も導入拡大を図っていくことが明らかにされている。環境の項目では、地球温暖化対策や温室効果ガス排出削減の取組が説明されており、再生可能エネルギーの導入拡大や省エネルギー技術の普及により、脱炭素化に向けて具体的な数値目標を示して進めていくとしている。安全性の項目では、激甚化する自然災害に対してどのようにエネルギー安定供給と安全性を確保するかについて、電力インフラの強靭化や安全性を高めた新規制基準への対応のための具体的な施策を紹介している。また、再生可能エネルギー(太陽光・風力・水力・バイオマス等)の拡大、エネルギー安定供給、経済成長、脱炭素の同時実現に向けた社会変革の取組であるGX(グリーントランスフォーメーション)、原子力の安全・安定活用、福島の復興や廃炉、処理水対策などについても詳しく説明されている。このパンフレットを一読することにより、日本が直面するエネルギー課題とその政策を理解することができ、将来の展望を知るうえで役立つ内容となっている。(参考)日本のエネルギーhttps://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/pdf/energy_in_japan2025.pdf
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2026/03/16 税ワンポイント
税務調査対応と投資収益の認識
今回取り上げるのは、海外の投資商品(FX運用口座)から生じた利益の計上時期と、これに先立つ税務調査の違法性が争われた事案である(令和5年10月27日東京地裁判決・税務訴訟資料第273号順号13896)(注1)。納税者は海外の資産運用サービスを通じてFX等の取引を行い相当額の利益を得ていたが、これを申告していなかった。所轄税務署は調査の結果、所得税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分を行い、納税者が取消しを求めたものである。まず問題になったのは、調査手続きの違法性である。納税者は、事前通知が不十分であったこと、調査官が複数回にわたり電話をかけ、突然自宅を訪問したこと、体調不良を訴えたにもかかわらず書類提出を急かす発言をしたことなどを挙げ、憲法31条の法意に反する重大な違法があると主張した。これに対し裁判所は、調査手続に瑕疵があったとしても、それが直ちに課税処分の取消事由となるものではないとの従来の枠組みを前提とした。そして、調査の手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し、または社会通念上相当な限度を超えて濫用にわたるなど重大な違法を帯び、実質的に「何らの調査なしに更正処分をしたに等しい」と評価できる場合に限り、処分は違法になると判示した。この判断は手続上の不備が常に処分取消しに直結するわけではないことを改めて示すものである。調査の現場では、調査が不意打ち的に行われたことに対する不満や心理的負担から、調査の必要性や相当性を強く争いたくなる場面もある。しかし、調査手続きの瑕疵の主張のみによって処分が覆る可能性は限定的であることを踏まえて冷静に対応する姿勢が必要である。もちろん、調査官の言動が社会通念上相当な限度を超えていないかを観察し、調査の経緯を記録に残すことは重要である。次に、海外FX運用口座の利益をいつ雑所得の総収入金額に計上すべきかが争われた。所得税法36条1項は、収入金額はその年において収入すべき金額とすると定めており、判例・実務はこれをいわゆる権利確定主義として解している。納税者は、投資商品の償還期限は将来であり、日々の損益は確定していないと主張した。しかし、本件口座は、IDとパスワードにより随時ログインして取引履歴や損益状況を確認でき、償還期限前でも出金が可能な仕組みであった。裁判所は、このような実態を踏まえ、各取引日において収入の原因となる権利が確定していたとして、その年分の雑所得に算入すべきであると判断した。「まだ出金していないから申告は不要である」「投資期間が終わった後でまとめて申告すればよい」という理解は適切ではない。現在は確定申告期であり、海外の投資商品や暗号資産、各種オンライン取引を通じて利益を得ている場合には、権利が確定した時点で課税関係が生じることを前提に、申告義務の有無を慎重に確認し、期限内に適正な申告を行う必要がある。<注釈>https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2023/pdf/13896.pdf提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2026/03/16 審査事例
宗教法人が寄附されたクラシックカー1台を売却。なお数十台所有中。今後も借入金返済のために売却する継続性が認められる等から、収益事業(物品販売業)と判断された事例(棄却)
【裁決のポイント】公益法人等については、収益事業を行う場合に限り、法人税を納める義務がある。収益事業とは、「販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて行われるもの」をいう(法人税法第2条第13号)。宗教法人について、外形的に物品販売業の形態を有する事業が、収益事業に該当するかどうかは、内容が物品販売(蝋燭等)か喜捨等(お札やお守り等)か、また、その事業が民間企業と競合するものか否か等の観点を踏まえた上で、当該事業の目的、内容、態様等の諸事情を社会通念に照らして総合的に検討して判断される。本件の審査請求人は寺院である。平成18年頃にAからクラシックカー等40台とその保管場所の建物を寄附され、遠方のため、それらの維持管理等をAに任せていた。Aは寄附時点で2億円の価格がついた車両(本件車両)を修復して海外に売却先を見つけ、平成30年に審査請求人は売却して(本件行為)、売却代金を残高30億円以上の借入金の一部返済に充てた。税務調査時の令和3年には所有車両は50台以上に増え、多くはナンバープレートがなく、高額な費用をかけて維持管理されている状態であった。税務署が本件行為を収益事業の物品販売業と認定すると、審査請求人は、単発の取引で継続性はない、後世に残すための維持管理である、建物は展示場所で事業場でないと主張した。国税不服審判所は、審査請求人は今後も借入金返済のため、各車両を売却して売却益を得ることは容易に想定され、既存の施設を利用してその事業活動を行うものに該当するから、収益事業であると判断した事例である。(平成30年12月31日期の事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分、他・棄却・令和5年12月14日裁決(非公開))【主な争点】本件行為は、法人税法第2条《定義》第13号に規定する「収益事業」に該当するか。【裁決の要旨】法人税法第2条第13号の「事業場を設けて行われるもの」には、常時店舗等のほか、必要に応じて随時設けられる場所又は既存の施設を利用してその事業活動を行うものが含まれる(法人税基本通達15-1-4《事業場を設けて行われるもの》)。「継続して‥‥行われるもの」には、各事業年度の全期間を通じて継続して事業活動を行うもののほか、例えば土地の造成及び分譲、全集又は事典の出版等のように、通常一の事業計画に基づく事業の遂行に相当期間を要するものが含まれる(法人税基本通達15-1-5《継続して行われるもの》)。クラシックカーの売却は1台のみであるから、本件行為が事業としての継続性を有するか否か、本件行為に伴う財貨の移転が物品販売の対価の支払いか、また、宗教法人以外の法人の一般的に行う事業と競合するものが問題となる。審査請求人は、各車両を、日常的に使用するためでも、展示するためでもなく、今後も借入金返済のために販売による収益を得る目的で所有していると認めるのが自然である。販売目的で相当の期間にわたって車両を維持管理し、付加価値を高めつつ保有し、本件車両の売却先を見つけるのに約3年の期間を要して、実際に売却したと認められるから、本件行為は、事業としての継続性を有するものといえ、外形的に物品販売業の形態を有するものと認められる。また、本件車両の代金が、一部でも審査請求人への喜捨金として支払われたと認められる事情もない。そして、本件行為のような取引態様は、宗教法人以外の法人が一般的に行う中古車両販売と異なるものではなく、これらの事業と競合するものであると認められる。本件建物は、審査請求人が行う物品販売業の拠点となる場所とはいえ、本件行為は、既存の施設を利用してその事業活動を行うものに該当するから、「事業場を設けて行われるもの」に該当する。したがって、本件行為は、「収益事業」に該当する。【参照条文】法人税法第2条《定義》、第4条(納税義務者)、第7条《内国公益法人等の非収益事業所得等の非課税》法人税法施行令第5条《収益事業の範囲》法人税基本通達15-1-4《事業場を設けて行われるもの》、15-1-5《継続して行われるもの》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2026/03/16 税務ニュース
知的財産活用事例集デジタルブックの公開
日本商工会議所は、2月17日、知的財産活用事例集「知恵を『稼ぐ力』に~100社の舞台裏~」について、デジタルブックをHPに公開した。日本商工会議所では2023年11月から、「知財経営」を実践する全国の中小企業等の事例取材を開始しており、この度100社の事例をまとめたデジタルブックを公開した。この事例集では、中小企業の経営者等が「知財の活用=稼ぐ力」であることを認識し、自らも知財経営を進める契機とすることを目的として、知的財産権の取得に至ったきっかけや、取得までの過程、これから知財活用に取り組む企業に向けたメッセージなどが紹介されている。知的財産を会社の資産とするには、知的財産を創造するだけでなく、知的財産に関する制度を理解し、他社の知的財産の保有や活用状況を把握し、自社の知財管理を十分に行う必要がある。創造した知的財産を守り育てることにより、模倣品による被害や他社の権利の侵害などの知財リスクを軽減することができる。知財経営においては、「転ばぬ先の杖」と表現されることもあるように、事前の戦略や保護活用の体制づくりが重要となる。また、経営資源が限られる中小企業がニッチな領域で独自の市場を切り拓き参入障壁を作るには、知的財産は大きな武器となる。知的財産の保護活用による信用カや知名度の向上、さらには持続的な成長に繋がる知財経営の実践について、この一冊に100通りの方法が掲載されており、下記の3つの活用方法を参考に、自社への適用を検討してみるとよい。活用法1業種や企業規模が似ている企業の事例を参考にする類似する業種においては、有効な知的財産の活用方法が似ていることがある。初めて知財経営に取り組む場合には、近い業種の複数の会社の事例を自社に当てはめてみて、参考になるところをリストアップし、実践できそうなところから知財経営をスタートしてみるとよい。小規模事業者の事例も多く掲載されているため、業種以外にも、一覧表の小規模事業者の表示や、各事例の「COMPANYDATAJに記載された事業規模、従業員数、創業時期などを目安にして、参考にする事例を選ぶこともできる(掲載されている事例のうち、小規模事業者は41社、特許取得76社、商標取得95社となっており、業種別では製造業67社、建設業11社、サービス業9社、その他13社となっている)。活用法2取得・活用している知的財産権の種類や見出しを参考にする同じ製造業でも得意な分野が技術であったりデザインであったりと様々です。この事例集では、各事例において取得活用している知的財産権の種類を一覧で見ることができるので、自社が重視したい知的財産や事例の見出しで選ぶのもよいと考えられる。特許を取得・活用している企業の事例を読むと、特許のみでの保護でなく、商標などと組み合わせて多面的な知財保護を図っていることが分かる。活用法3経営者からのメッセージ、トラブル事例を参考にしてみる各事例の「知財取得を目指す経営者へメッセージ」の欄に、掲載企業の経営者から読者の経営者へメッセージが掲載されている。このメッセージは、知財経営に取り組んだ経営者の生の声であり、実感がこもったメッセージで、非常に参考になる。知的財産の戦略を後回しにしていたがために苦労した企業も少なくない。知財トラブルのリスクを事前に回避し新たな事業のチャンスとするために、トラブルを乗り越えた経営者の声に耳を傾けることは有用なものとなる。(参考)知的財産活用事例集「知恵を『稼ぐ力』に~100社の舞台裏~」デジタルブックを公開しました!https://www.jcci.or.jp/news/news/2026/0217130000.html
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2026/03/13 商事法レポート
アルゴリズムカルテル - AI時代のカルテルの新しいかたち -
1.はじめに経済のデジタル化が進展し、その利活用によって企業競争がますます激化する中で、多くの企業が最先端技術であるアルゴリズム(algorithm:計算手順)とAI(ArtificialIntelligence:人工知能)を活用して事業活動を行うようになってきています。いまやアルゴリズムとAIは、企業の事業展開や商業的・戦略的な意思決定にも影響を及ぼすに至っています。そのなかでも、企業は価格決定の迅速化と最適化を目指して、アルゴリズムとAIを用いた動的価格決定(ダイナミック・プライシング)を活用しています。これが現代の企業の競争力の源泉となりつつあります。ここでアルゴリズムとは、特定の問題を解く方法や目標を達成する方法を示した一連の「手順・計算方法」をいいます。公正取引委員会経済取引局「デジタル市場における競争政策に関する研究会報告書」(令和3年3月公表。以下「研究会報告書」といいます)(注1)によると、「アルゴリズム」の概念自体はコンピューターが誕生する以前から存在しているものの、普遍的な定義はまだないといわれており、「アルゴリズム」という用語は、デジタル分野に限って使用されるものではなく、多義的な意味を持つとされています。このアルゴリズムの経済活動における活用は、市場効率性を高める有益なものであるとともに、他方において新たな競争法上の問題を惹き起こすに至っています。特にアルゴリズムを利用した情報プラットフォームの開発や運用についてカルテル(不当な取引制限)が問題になっています。2.アルゴリズムカルテルとは前述のように、競争事業者の価格の調査や自社商品・サービスの価格決定にアルゴリズムやAIが活用されるようになっており、カルテルの合意や実施がこれまで以上に容易になったり、新たな形態の協調的行為が出現するようになってきています。それがアルゴリズムカルテルと呼ばれるものです(注2)。アルゴリズム・AIとカルテルの問題については既に海外においてはOECDや欧州競争当局をはじめ諸外国において活発に議論がされており、デジタルカルテルの出現が予見されていました。いまやそれが現実のものとして企業社会の公正な競争への新たな障害となりつつあるのです。上述の研究会報告書によると、アルゴリズムカルテルに分類されるものとして、①監視型アルゴリズム、②アルゴリズムの並行利用による協調的行為、③シグナリングアルゴリズムを利用する行為、④自己学習アルゴリズムによる協調的行為に分けられます。〈図表1.アルゴリズムカルテルの分類〉①監視型アルゴリズム競争事業者間で価格カルテルなどの合意が行われている場合に、その合意の実効性を確保する目的で、競争事業者の価格情報等を収集したり、合意からの逸脱がある場合に報復したりするために価格調査アルゴリズムを用いる類型②アルゴリズムの並行利用による協調的行為アルゴリズムが競争事業者間の価格を同調させる役割を果たす類型。さらに競争事業者以外の第三者が慣用するかどうかにより、ⅰ)競争事業者間で価格カルテルなどの合意が行われている場合にその合意に従って価格を付けるように設定されたアルゴリズムを当該事業者間で用いる場合、ⅱ)複数の競争事業者が同一の第三者(価格アルゴリズムベンダーなど)が提供するアルゴリズムを利用することにより価格が同調する場合とに分けられる。③シグナリングアルゴリズムを利用する行為値上げのシグナリングを行うとともに、それに対する競争事業者の反応を確認するためにアルゴリズムを用いる類型。シグナリングを行う事業者は継続的に将来の値上げの意図に係る情報などのシグナルを送るとともにそれに反応して他の事業者が送るシグナルを監視する。④自己学習アルゴリズムによる協調的行為各競争事業者が機械学習や深層学習を利用して価格設定を行った結果、互いに競争的な価格を上回る価格に至る類型。各事業者は自己学習アルゴリズムを利用して価格設定を行うだけで相互に価格を同調させる意思がなくても自己学習アルゴリズム間の相互作用により競争的な価格を上回る価格に至る可能性がある。〈図表2.アルゴリズムカルテルの分類(図解)〉(デジタル市場における競争政策に関する研究会報告書「アルゴリズム/AIと競争政策」(概要)より)以上の類型のうち特に重要なものは、アルゴリズムの並行利用による協調的行為(類型②)であり、さらにそのうちの第三者が関与する場合ⅱ)が問題とされています。前述のとおり、第三者が関与する場合としては、複数の競争事業者が価格設定アルゴリズムのベンダーなどの同一の第三者が提供するアルゴリズムを利用することによって価格が同調する場合が問題です。たとえば、複数の競争事業者が、特定のアルゴリズムベンダーにそれぞれの価格を同調させるような価格設定アルゴリズムを開発させ、そのアルゴリズムを利用する場合などです。また、利用事業者間に価格を同調させる意思はないものの、特定の市場において利用される価格設定アルゴリズムの大半を提供しているベンダーが、利用事業者に知らせずに、利用事業者間の価格を同調させるアルゴリズムを提供する場合も、協調的な価格設定をもたらすといわれています。3.アルゴリズムカルテルと独占禁止法⑴不当な取引制限(カルテル)規制の概要独占禁止法は、複数の事業者が相互に連絡を取り合い、各事業者が個別に自主的に決めるべき商品の価格や販売・生産数量などを共同で取り決める行為を不当な取引制限として禁止しています(カルテルの禁止)。独占禁止法はカルテルを共同行為として禁止行為としているため、他の事業者と「共同して」行うことが要件とされています。「共同して」行うとは、複数の事業者に相互に「意思の連絡」があることが必要であるとされています。ただし、合意は「明示」に行われる場合だけではなく、相互に他の事業者の対価の引上げ行為を認識して、これを暗黙で認容する「黙示」による意思の連絡をも含むと解されています。すなわち、競争者間の明示的な合意は認められなくとも、各事業者による独立の価格設定(後記の意識的並行行為)とは評価できないような場合には、並行的な価格の引上げといった外形的な事実に加え、それが独立の行動によって行われたことを排除する事実等によって、黙示による意思の連絡が推認されます。また、事業者が競争事業者の価格引上げを観察して、自らも追随することが利益になると判断して、自らも値上げをすることを決定する場合など、事業者間にコンタクトがなく、それぞれが独立して価格決定した結果、同じ価格水準に至ることもあり得ますが、このような行為は意識的並行行為と呼ばれて、カルテル規制の対象とはされていません。このように、独占禁止法のカルテル規制では、競争事業者間の相互の意思の連絡が要件とされていることには注意が必要です。この点、アルゴリズムカルテルにおいては、競争事業者間の意思の連絡の認定に関して、アルゴリズムを介した協調行為であって、従前のカルテルのように人間同士の会話や文書による合意が存在しないために立証が困難であるといわれています。そこで、黙示的意思の連絡の認定が問題となり、同一アルゴリズムや同一データソースを利用することで、結果的に競争事業者間の価格戦略が一致することで意思の連絡が推認される場合があります。その際、価格変動の同期性、アルゴリズム設計の共通性、ベンダーを介した情報共有などが意思の連絡を推認する際の間接事実となります。⑵ハブアンドスポーク型カルテルの意義ところで、前述したような第三者である同一のアルゴリズムベンダーを複数の事業者が利用することによって価格が同調する場合は、当該第三者を中心(ハブ)として価格が同調することから、ハブアンドスポーク型カルテルと呼ばれています。アルゴリズムベンダーを介したハブアンドスポーク型の価格協調行為は、スポーク(アルゴリズム利用事業者)間で情報交換を行わない場合やスポークが価格を同調させるアルゴリズムの存在を知らない場合であっても(結果的に)価格の同調がもたらされることがあります。そして、競争事業者間に意思の連絡が要件とされている独占禁止法のカルテル規制の適用において、アルゴリズムを利用した価格協調的行為については、競争事業者間の意思の連絡が明確ではなくその適用に困難を伴うことが少なくありません。特にアルゴリズムベンダーを介したハブアンドスポーク型カルテルにおいては、アルゴリズムを利用する競争事業者間で情報交換を行わなくても、それぞれの価格を同調させることができるため、価格の協調はあくまで結果に過ぎないともいえます。また、値上げを公に発信するシグナリングアルゴリズム(図表1③)においても、競争事業者に向けた価格引上げの勧誘とみるかあるいは通常の事業活動であるかの区別は困難です。さらに、自己学習アルゴリズム(図表1④)の場合、アルゴリズム利用の結果として価格の協調がもたらされているにすぎず、事業者間に協調的意思が存在しない場合もあります。またハブアンドスポーク型において、競争事業者間で情報交換を行わずに価格を同調させるためにはハブであるアルゴリズム提供者の役割が重要となり、アルゴリズム提供者が協調的行為において積極的役割を担うこともあります。⑶アルゴリズムカルテルに対する独占禁止法適用上の問題点さらに、アルゴリズムカルテルに対する独占禁止法適用上の問題点について検討します。ここでは特に問題の大きい、監視型アルゴリズム(図表1①)と並行利用型アルゴリズム(図表1②)について説明をします。アまず、監視型アルゴリズムについてです。ここにおいて、合意の実施を監視するためにアルゴリズムを用いる場合および合意に従った価格設定を自動で行うためにアルゴリズムを並行利用する場合においては、アルゴリズムを利用して合意の実施状況を監視したり、合意に従った価格設定を行っているものの、アルゴリズムの利用以前に一定の行動を取ることについて複数事業者の合意が存在するためにカルテルとなり得るとされています。これらの場合において、アルゴリズムは、合意参加者の合意からの逸脱の監視や逸脱に対する報復、合意に従った価格設定を自動化するなど、合意の実施を促進する役割を果たしているものです。イ次に、並行利用型アルゴリズムについてですが、これは前述したハブアンドスポーク型になります。ハブアンドスポーク型については、競合関係にある複数のアルゴリズム利用事業者が、同一の第三者から提供されるアルゴリズムを用いることにより価格が同調することについて共通の認識がある場合と、利用事業者には当該アルゴリズムを利用することにより価格が同調するという認識はないものの、同一の第三者が、複数の利用事業者にそれぞれの価格を同調させるようなアルゴリズムを提供する場合とに分けることができます。前者の利用事業者間に価格が同調することの共通の認識がある場合については、複数の競争事業者が、同一のベンダーや事業者団体といった同一の第三者が提供する価格設定アルゴリズムを利用することによって相互に価格が同調することを認識しながら当該アルゴリズムを用いる場合や、価格設定アルゴリズムを提供するプラットフォーム事業者がすべての利用事業者の販売価格に同じ割引率の上限を課すことを利用事業者に周知し、利用事業者がそれを認識しながら利用する場合などは、利用事業者間において直接・間接の情報交換はない場合でも、利用事業者間で価格が同調することの共通の認識があると考えられます。そのような認識のうえで当該アルゴリズムを利用している場合には、利用事業者による独立の価格設定とは評価できず、利用事業者間に意思の連絡が認められ、カルテルとして独占禁止法違反となり得ると考えられます(注3)。また、後者の利用事業者には価格が同調することの認識はないものの、アルゴリズムの提供事業者が複数の利用事業者の価格を同調させる場合、たとえば、特定の市場において利用される価格設定アルゴリズムの大半を提供している事業者が、利用事業者に知らせずに、利用事業者間の価格を同調させるアルゴリズムを提供するような場合には、利用事業者間の意思の連絡を認めることはできませんが、利用事業者間の価格の同調を主導したアルゴリズム提供事業者の行為は、一定の場合には独占禁止法違反(支配型私的独占)となり得ると考えられます。4.アルゴリズムと独占禁止法(競争法)に関する国内外の動向⑴国内の動向について-食べログ事件価格アルゴリズムと独占禁止法に関する最近の事例として食べログ事件があります。これは、飲食店のポータルサイトの一つである食べログを運営する株式会社カカクコムが実施した(価格)アルゴリズムの変更が独占禁止法に違反するかが問題となった事案です。すなわち被告が食べログにおける飲食店の点数(評点)を算出するためのアルゴリズムに同一運営主体が複数店舗を運営している飲食店(チェーン店)の評点を下方修正する変更を実施したのに対し、ユーザーである原告が被告によるアルゴリズムの変更が優越的地位の濫用に当たるとして、独占禁止法違反を理由とする損害賠償請求ならびにアルゴリズムの使用差止請求をし、一審は、被告の行為は優越的地位の濫用に当たるとして損害賠償請求を認容し、差止請求を認めませんでした(東京地判令和4・6・16LEX/DB【文献番号】25593696)。これに対し、控訴審は、控訴人(原審被告)の敗訴部分を取消しています(東京高判令和6・1・19裁判所WEBhttps://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/890/092890_hanrei.pdf)。なお、本事件はわが国で初めてのアルゴリズム変更の独禁法違反性を争点としたもので社会的にも大きな注目を集めました。本稿は判例評釈ではないので同事件を巡る諸検討については各評釈を参照いただくこととして詳細には触れませんが、いわゆるデジタルプラットフォームが優越的地位に該当することならびにアルゴリズムベンダーによるアルゴリズム変更が独占禁止法違反の可能性を生じ得ることを判示した点で重要な意義を有すると考えます。⑵海外の動向米国においては既にアルゴリズムが価格決定や取引条件に何らかの形で影響することによって競争の制限が生じたとして、市民または連邦政府もしくは州政府によって、ソフトウェア運営事業者や当該事業者と取引を行っていた関係者に複数の訴訟が提起されるとともに、各州などにおいて一定のアルゴリズムによる価格決定を禁止する法律または条例が制定されるに至っています。特にアルゴリズムを用いた値付けが反トラスト法(シャーマン法)に違反するかどうかが多くの訴訟の争点となっています。アルゴリズム価格設定が問題とされている業界としては、ホテル事業(ホテルの客室価格の設定)、医療保険業界(医療報酬の設定)、賃貸マンション事業(賃料の価格設定)などがあります。アルゴリズム価格設定に係る訴訟のうち最も注目を集めている事件としてはRealPage事件があります。同事件は、RealPage社のソフトウェアを利用する家主から、アパートの賃料等の非公開かつ競争上重要な情報を、当該ソフトウェアの訓練等のために収集した上で、賃料価格や他の条件を含む「推奨値(recommendations)」を共通のアルゴリズムを用いて生成し、算出した推奨価格に従ったことが価格固定の合意とみなされたというハブアンドスポーク型の事案です。現時点(2026年1月)においてまだ裁判所による重要な判断はされていない状態です(注4)。5.おわりにアルゴリズムカルテルに関する議論が本格化してまだ間もなく、明確な基準が示されているというわけではありません。この点、公正取引委員会が2025年6月20日に公表した「実効的な独占禁止法コンプライアンスプログラムの整備・運用のためのガイド」(令和7年6月改訂版)(注5)においてアルゴリズムカルテルについて、「競争事業者の価格の調査や自社の商品・役務の価格設定にアルゴリズムが活用されるようになっていることに伴い、カルテルの合意や実施がより容易になったり、新たな形態の協調的行為が出現」しているとして注意喚起をしています。確かにAIの進歩により様々なアルゴリズムベンダーから次々と提供されるサービスは事業者にとって利便性が高く、競争力の強化にも資する魅力あるものではありますが、そのようなサービスを活用した事業活動には独占禁止法違反のリスクも伴い、いつの間にか自社が、例えばハブアンドスポーク型カルテルに関わっていたなどということがないように、平時から高い独占禁止法コンプライアンス意識を持ちながら利活用をするように努める必要があります。<注釈>https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2021/mar/210331_digital.html矢吹公敏「実務解説『事業者間の協調行為』となるケースとは『アルゴリズムカルテル』による独禁法違反リスク回避の留意点」経理情報1756号(2025年10月)58頁以下アルゴリズム・AIによる意思の連絡があり得るか、という点については、これをハブアンドスポーク問題の一つとして捉えられるものの、アルゴリズム・AIを道具として用いて伝統的な意味での意思の連絡が行われるということはあるが、人や組織の作用があるわけではないのにアルゴリズム・AIが独自に動いて価格の斉一化などをもたらした、というに過ぎない場合は、意思の連絡と扱って人や組織を法的に非難するというコンセンサスは、まだない、という指摘があります(白石忠志『独占禁止法〔第4版〕』(有斐閣・2024年)234頁)。しかし、その後の技術の進歩状況を見ると、アルゴリズムベンダーによるアルゴリズム等の設定が恣意的に行われることへの懸念は払拭し切れず、法的対応の可能性については引き続き検討が必要と思われます。池田武義・浅尾昇太・赤川圭「海外紛争解決トレンド(59)米国におけるアルゴリズムによる価格設定に関する訴訟の動向」JCAジャーナル73巻1号(2026年1月)47頁以下https://www.jftc.go.jp/dk/250620_compliance_tougoguide.pdf提供:税経システム研究所
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2026/03/13 税務レポート
賃上げ促進税制の改正とその影響~令和8年度税制改正の確認~
賃上げ促進税制は令和6年度に改正が行われ、その適用期限は令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する事業年度、つまり3年間の措置とされていました。ところが、昨年12月26日に閣議決定された令和8年度税制改正大綱において、更なる改正が行われています。今回はその改正の内容とその影響を確認していきたいと思います。1令和6年度の改正の概要令和6年度においては、構造的・持続的な賃上げを実現するため、次のような改正が行われています。大企業向けについては、賃上げ率の要件を維持しつつ、更に高い賃上げ率の要件の創設地域において賃上げと経済の好循環の担い手として期待される中堅企業(原則として従業員数2,000人以下の企業)向け制度の創設中小企業向けについては、5年間の税額控除の繰越措置の創設教育訓練費を増やす企業への上乗せ措置の要件の緩和子育てとの両立支援、女性活躍支援に積極的な企業への上乗せ措置の創設(くるみん、えるぼし認定)2令和8年度改正の内容今回の大綱では、賃上げ促進税制の改正の内容について、以下の記載があります。給与等の支給額が増加した場合の税額控除制度について、次の措置を講ずる(所得税についても同様とする)。全法人向けの措置は、令和8年3月31日をもって廃止する。常時使用する従業員の数が2,000人以下である法人向けの措置は、適用期限(令和9年3月31日)の到来をもって廃止することとし、令和8年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する事業年度について、次の見直しを行う。イ原則の税額控除率(10%)が適用できる場合を、継続雇用者給与等支給額の継続雇用者比較給与等支給額に対する増加割合が4%以上(現行:3%以上)である場合とする。ロ継続雇用者給与等支給額の継続雇用者比較給与等支給額に対する増加割合が4%以上である場合に税額控除率に15%を加算する措置を、その増加割合が5%以上である場合に税額控除率に5%(その増加割合が6%以上である場合には、15%)を加算する措置とする。ハ教育訓練費に係る上乗せ措置は、廃止する。中小企業向けの措置における教育訓練費に係る上乗せ措置は、廃止する。3改正の経緯(基本的考え方)自由民主党・日本維新の会による与党税制改正大綱には、冒頭に「改正の基本的考え方」が示されています。その中で、賃上げ促進税制に係る部分については、次のような記載があります。物価高に負けない構造的・持続的な賃上げを強化する観点から、令和6年度税制改正において、賃上げ促進税制を抜本的に強化した。一方、足元では賃金上昇率がバブル期以来の水準となる高い伸びを示しており、本税制の要件となる水準を大きく上回る状況にある。このように、企業の賃上げをめぐる状況は令和6年度税制改正当時と大いに様変わりしている。こうした状況に鑑み、コーポレートガバナンス改革に基づく人的資本への投資促進の要請や、税制が生産性の高い分野への労働移動を阻害する可能性、中小企業の人手不足感が大企業よりも強い状況等を踏まえ、大企業向け措置については適用期限を待たずに廃止する。中堅企業向け措置については、令和8年度においてはより高い賃上げを促す方向で要件を強化しつつ継続し、適用期限をもって廃止する。一方、中小企業向け措置については、人材獲得競争の中で防衛的賃上げに取り組む企業にも配慮し、令和8年度は現行制度を維持することとし、期限到来時に適用状況等を踏まえ、必要な見直しを検討する。なお、教育訓練費を増加させた場合の上乗せ要件については、教育訓練費の増加額を税額控除額が上回る場合があるという会計検査院の指摘を踏まえ、廃止する。4改正の影響(1)大企業向け措置今回の改正により、令和8年度は制度自体が廃止され、適用が受けられないことになります。自民党税制調査会の資料によれば、令和5年度の大法人の適用件数は5,268件、適用金額は3,337億円となっています。単純に適用金額を適用件数で除して計算すると、1件当たりの税額控除額は約6,334万円となり、金額の大きさがわかります。(2)中堅企業向け措置従業員数が原則2,000人以下の中堅企業向け措置については、適用期限の到来をもって廃止ということですが適用要件が厳しくなります。現行では継続雇用者給与等支給額の増加割合が3%以上であれば適用され、また、4%以上の場合はプラス15%の上乗せ措置が受けられるところ、改正後は4%以上で初めて適用が可能となり、上乗せ措置は5%、6%以上の増加が必要となります。令和6年度において現段階ではどの程度の適用件数、適用金額があったかは不明ですが、いずれにせよ減少するものと考えられます。(3)中小企業向け措置教育訓練費に係る上乗せ措置については、以前は、例えば比較年度の支出がなく、適用年度に1,000円支出があれば適用を受けることができたため、令和6年度改正において、比較年度からの増加割合の要件を緩和する一方で、適用年度の支出額が雇用者給与等支給額の0.05%以上であることが新たに要件に加えられました(大企業、中堅企業も同様)。しかし、今回の改正により、中堅企業のみならず、中小企業向けについても廃止されています。前述の資料における令和5年度の中小法人等の適用件数は249,215件、適用金額は3,941億円となっており、単純に適用金額を適用件数で除して計算すると、1件当たりの税額控除額は約158万円となります。また、令和6年度改正で5年間の繰越控除措置も創設され、適用件数はますます増加すると考えられますが、前述の「基本的な考え方」によれば、令和8年度も現行制度を維持し、期限到来時に適用状況等を踏まえ、必要な見直しを検討することとされています。提供:税経システム研究所
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