新着 実務情報
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2025/05/07 法人税
為替予約の取扱い(法人税)
1.概要ここのところ円安の状況が続いていますが、為替相場の変動は輸出入を行う企業を中心に企業経営において重要な問題となります。為替変動のリスクヘッジのために、「為替予約」を検討する企業も増えてきているように思われます。今回は法人税における「為替予約」の取扱いについてみていきたいと思います。外貨で物を売り買いするような場合、売上・仕入などの収益・費用科目については取引時に金額が確定しますが、売掛金・買掛金等の資産・負債科目は取引から入金・支払いまでの間に為替変動の影響を受ける場合があります。このような為替変動リスクをヘッジする手段として「為替予約」があります。為替予約は予め金融機関との間で決済時の為替レートを取り決めておく方法です。予約実行時点で取引採算が確定できるというメリットがありますが、一度予約すると原則、取消ができず期日に受け渡しの義務が生じる等留意点もございます。2.為替予約の税務上の取扱い(1)外貨建取引の円換算の原則内国法人が外貨建取引を行った場合の円換算額は、外貨建取引を行った時における外国為替の売買相場により換算した金額とされています。また期末に保有する外貨建債権・債務については期末時換算法か発生時換算法により評価しますが、売掛金や買掛金等の短期外貨建債権・債務については、法定換算方法が期末時換算法とされているため、実務上、期末時換算法で評価している会社が多いと思います。(法法61条の8①、法法61条の9①、②)短期外貨建債権外国通貨を受け取る期限が当該事業年度終了の日の翌日から1年以内に到来するものをいいます。短期外貨建債務外国通貨を支払う期限が当該事業年度終了の日の翌日から1年以内に到来するものをいいます。発生時換算法外貨建資産等の取得又は発生の基因となった外貨建取引の円換算に用いた外国為替の売買相場により換算した金額をもって期末時の円換算額とする方法をいいます。期末時換算法期末時の外国為替の売買相場により換算した円換算額をもって期末時の円換算額とする方法をいいます。(2)為替予約等の先物外国為替契約等を締結している場合の円換算内国法人が為替予約等の先物外国為替契約等により外貨建取引によって取得等した外貨建資産等の円換算額を確定させた場合において、先物外国為替契約等の締結の日においてその旨を帳簿書類に記載したときは、その外貨建資産負債の円換算額はその確定した換算額によります。(法法61条の8②)為替予約等を行った場合の売掛金・買掛金などの外貨建資産負債は、為替予約により確定した円換算額で評価することになります。(3)為替予約差額の配分について(原則)法人が期末に有する外貨建資産等につき上記(2)の適用を受けたときは、先物外国為替契約等の締結の日(その日が外貨建資産等の取得又は発生の基因となった外貨建取引を行った日前である場合には、外貨建取引を行った日)の属する事業年度から外貨建資産等の決済等の日の属する事業年度までの各事業年度に為替予約差額を配分し、益金の額又は損金の額に算入することになります(法法61の10①、法令122の9)。期間配分は日数按分によるほか、月数按分によることも可能です(1月に満たない端数は1月とする)期末に為替予約等をしている外貨建資産等を有している場合には、為替予約差額について期間配分を行うことになります。外貨建取引後に為替予約をした場合と外貨建取引前に為替予約をしている場合で処理に違いがありますので、下記で見ていきたいと思います。(処理方法については様々な会計処理が想定されますので、下記はその中での1つの例示となることや説明の便宜上省略している部分もありますのでご留意下さい)為替予約差額外貨建資産等の金額を先物外国為替契約等により確定させた円換算額と、外貨建資産等の金額を外貨建資産等の取得又は発生の基因となった外貨建取引を行った時の外国為替の売買相場により換算した金額との差額をいう。①外貨建取引後に為替予約する場合イ)令和7年3月1日:商品仕入(50,000ドル)直物為替相場:1ドル=150円借方金額貸方金額仕入7,500,000円買掛金7,500,000円ロ)令和7年3月10日:為替予約契約締結直物為替相場:1ドル=152円先物為替相場(予約レート):1ドル=155円直々差額(取引日から予約締結日までの直物為替相場の差額)は予約契約締結事業年度に帰属(152円-150円)×50,000ドル=100,000円借方金額貸方金額為替差損100,000円買掛金100,000円先物為替相場(予約レート)で買掛金の円換算額を確定させる(155円-152円)×50,000ドル=150,000円借方金額貸方金額前払費用150,000円買掛金150,000円ハ)令和7年3月31日(決算日)為替予約差額(直先差額)の配分を行う(155円-152円)×50,000ドル×1ヶ月/2ヶ月=75,000円※月数按分を採用借方金額貸方金額為替差損75,000円前払費用75,000円ニ)令和7年4月30日:買掛金支払いと残りの為替予約差額の配分買掛金の支払い(予約レートで確定)借方金額貸方金額買掛金7,750,000円現金預金7,750,000円残りの為替予約差額(直先差額)の配分を行う(155円-152円)×50,000ドル-75,000円=75,000円借方金額貸方金額為替差損75,000円前払費用75,000円②外貨建取引前に為替予約する場合先物為替相場(予約レート):1ドル=155円を既に締結済みイ)令和7年3月1日:商品仕入(50,000ドル)為替:1ドル=150円借方金額貸方金額仕入7,500,000円買掛金7,500,000円取引前予約の場合は仕入時に予約レートで計上することも可能である(法基通13の2-1-4)先物為替相場(予約レート)で買掛金の円換算額を確定させる(155円-150円)×50,000ドル=250,000円借方金額貸方金額前払費用250,000円買掛金250,000円ロ)令和7年3月31日(決算日)為替予約差額の配分(155円-150円)×50,000ドル×1ヶ月/2ヶ月=125,000円※月数按分を採用借方金額貸方金額為替差損125,000円前払費用125,000円ハ)令和7年4月30日:買掛金支払いと残りの為替予約差額の配分買掛金の支払い(予約レートで確定)借方金額貸方金額買掛金7,750,000円現金預金7,750,000円残りの為替予約差額(直先差額)の配分を行う(155円-150円)×50,000ドル-125,000=125,000円借方金額貸方金額為替差損125,000円前払費用125,000円(4)短期外貨建資産等に係る為替予約差額の配分方法の特例について外貨建資産等が、短期外貨建資産等である場合には、為替予約差額を一括してその事業年度に係る益金の額又は損金の額に算入することができます。(法法61の10③)選択の方法は、外国通貨の種類を異にする短期外貨建資産等ごとに選定することができます。手続きこの一括計上を選択する場合には、選択しようとする事業年度の確定申告書の提出期限までに、外国通貨の種類を異にする短期外貨建資産等ごとに、書面により納税地の所轄税務署長に届出が必要となります。変更手続き変更をする場合には、変更する事業年度開始の日の前日までに納税地の所轄税務署長に変更承認申請書を提出し、その承認を受ける必要があります。提供:税経システム研究所
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2025/05/07
防衛特別法人税確定申告書等の書式が明らかに
令和7年度税制改正法において創設された「防衛特別法人税」について、申告書様式が令和7年4月14日付の官報(号外第84号)にて公表された(財務省令第46号)。防衛特別法人税は、防衛力の抜本的強化に向けた安定的な財源を確保するために導入される付加税であり、令和8年4月1日以後に開始する各事業年度から適用される予定である。納税義務者は、法人税の課税対象となるすべての法人(人格のない社団等および法人課税信託の引受けを行う個人を含む)である。税額の算出にあたっては、まず各事業年度の「基準法人税額」から基礎控除額500万円を控除した「課税標準法人税額」を算定し、これに4%を乗じた額が防衛特別法人税として課税される。「基準法人税額」とは、以下の控除等を適用せずに計算された法人税額を指す。・所得税額の控除・外国税額の控除・分配時調整外国税相当額の控除・仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に伴う法人税額の控除・戦略分野国内生産促進税制のうち特定産業競争力基盤強化商品に係る措置の税額控除及び同措置に係る通算法人の仮装経理に基づく過大申告の場合等の法人税額の加算・控除対象所得税等相当額の控除一方、防衛特別法人税に対しては、外国税額、分配時調整外国税額、控除対象所得税額等相当額、仮装経理等に基づく過大申告の場合の更正に伴う防衛特別法人税額の控除の適用が可能とされている。例えば、法人税額が1,500万円の企業であれば、500万円の基礎控除を差し引いた1,000万円に対して4%を乗じた40万円が防衛法人特別税として課税され、法人税額が500万円以下の場合は、控除の範囲内となるため課税されないこととなる。この税は「当分の間」課税されるとされており、終了時期の明示はない。過去に東日本大震災後に復興財源として導入された復興特別法人税(時限措置3年)とは異なり、防衛費の継続的増加を背景に長期的な制度運用が想定される。財務省の試算によれば、初年度となる令和8年度には約5,280億円、令和9年度には約8,210億円の税収が見込まれている。(参考)官報(号外)https://www.kanpo.go.jp/20250414/20250414g00084/20250414g00084full00010064f.html(参考)令和7年度税制改正の大綱(六防衛力強化に係る財源確保のための税制措置)https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2025/07taikou_06.htm
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2025/05/02
フリーランス法違反で行政指導
公正取引委員会は、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下「フリーランス・事業者間取引適正化等法」)の施行(令和6年11月1日)後、同法に違反する疑いのある行為を行っている事業者やその業種に関する情報収集を積極的に行っているが、令和7年3月28日、フリーランスとの取引が多い業種であるゲームソフトウェア業、アニメーション制作業、リラクゼーション業、フィットネスクラブの事業者について集中的に調査を行い、45名の事業者に対して、契約書や発注書の記載、発注方法、支払期日の定め方等の是正を求める指導を行ったと公表した。指導の対象となった主な事例として、ゲームソフトウェア業5社、アニメーション制作業1社、リラクゼーション業1社、フィットネスクラブ事業者4社があげられ、事例が記載されている。以下に事例の一部を記載する。ゲームソフトウェア業・B社は、オンラインゲームのイラスト制作を特定受託事業者に委託しているが、既に給付を受領していたにもかかわらず、給付を受領する期日及び報酬の額を明示していなかった。・D社は、ゲームイラストやテキスト等の制作を特定受託事業者に委託しているが、特定受託事業者が請求書を提出した日を基準に支払期日を設定しており、給付を受領した日から60日以内に報酬を支払わない場合、期日までの報酬支払義務違反となるおそれがあった。アニメーション制作業・F社は、アニメーション作品の制作業務の全部又は原画の作成、音響演出等の業務を特定受託事業者に委託しているが、業務委託をした場合に直ちに明示が必要な事項のうち、検査完了日並びに報酬の額及び支払期日を明示していなかった。リラクゼーション業・G社は、整体施術の業務を特定受託事業者に委託しているが、業務委託をした場合に直ちに明示が必要な事項のうち、役務の提供を受ける期日及び場所を明示していなかった。また、報酬の支払期日を「翌月10日まで」と記載しており具体的な期日を特定していなかった。フィットネスクラブ事業者・H社は、パーソナルトレーニング業務を特定受託事業者に委託しているが、業務委託をした場合に直ちに明示が必要な事項のうち、報酬の支払期日を明示していなかった。また、個々の業務委託の発注時において、共通事項(基本契約書)との関連性(参照元)を明示していなかった。・K社は、SNSの動画等の投稿業務を特定受託事業者に委託しているが、報酬の支払期日を「請求書受領月の翌月末日」と設定しており、給付を受領した日から60日以内に報酬を支払わない場合、期日までの報酬支払義務違反となるおそれがあった。公正取引委員会では、中小企業庁及び厚生労働省と共同で、フリーランス・事業者間取引適正化等法に違反する行為を受けたフリーランスからの申出を受け付けるオンライン窓口を設置しており、引き続き、フリーランスからの積極的な申出を促すために、申出窓口の周知広報を行っていくこととしている。(参考)(令和7年3月28日)特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律に基づく指導についてhttps://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2025/mar/250328_FL.html
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2025/05/01
「インターネットトラブル事例集(2025年版)」の公表
総務省は令和7年4月14日、青少年のインターネット利用に係る最新のトラブル事例を踏まえ、その予防法等をまとめた「インターネットトラブル事例集(2025年版)」を作成・公表した。また、オンラインカジノの違法性等の周知を強化するため、警察庁、こども家庭庁と連名でチラシを作成した。この「インターネットトラブル事例集」は、総務省により、2009年から毎年作成・公表されており、今回の「インターネットトラブル事例集(2025年版)」では、ニュース等で大きく取り上げられている「オンラインカジノ」に関する解説を掲載しており、青少年がオンラインカジノにおける賭博行為の違法性を認識することなく、利用してしまうことがないよう、注意喚起がされている。また、「闇バイト」や「偽・誤情報」などの最新のトラブル事例、被害状況等のデータ、その解決に向けたヒントを分かりやすくマンガ等を用いて解説がされている。「オンラインカジノ」については、警察庁ウェブサイトともリンクがされており、オンライン上で行われる賭博事犯の検挙事例やオンライン上で行われる賭博事犯の取締り状況についても記載がされており、保護者がネット利用環境を整える「ペアレンタルコントロール」、その代表の「フィルタリング」設定についても設定方法等が解説されている。「インターネットトラブル事例集(2025年版)」の内容は、ジャンル別にSNS、ゲーム、ショッピング、出会い、個人情報、セキュリティ、著作権、からだ・こころの健康、金銭トラブル、コミュニケーショントラブル、違法行為、犯罪被害、特集に区分されており、関心のあるジャンルの内容を確認することができるようになっている。内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)でも「インターネットの安全・安心ハンドブック」を公表しているが(※)、「インターネットトラブル事例集」は、「インターネットの安全・安心ハンドブック」よりも簡潔にトラブルの事例と解説がマンガでわかりやすく示されており、また、関連する動画も用意されており、トラブルを防ぐためには、最低限どのようなことを行わなければならないかがよくわかるようになっている。また、スマートフォン等の様々な媒体で閲覧しやすい形で掲載が行われているため、通勤途中などでも閲覧することが容易で、基本的な対策の理解ができるようになっている。税務申告においても、e-Taxを始めデジタル化が急速に進展してきており、情報セキュリティに関係する事例や基本的な対策についての知識も必要となってきているが、インターネットや情報セキュリティに関係する情報やガイドラインは、専門用語が多くわかりづらいものが多い。この「インターネットトラブル事例集」は、年齢を問わず、インターネット利用時の問題について、最近の事例を含めてわかりやすく説明が行われているため、一読をお勧めする。(参考)インターネットトラブル事例集https://www.soumu.go.jp/use_the_internet_wisely/trouble/(※)https://security-portal.nisc.go.jp/guidance/handbook.html
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2025/04/30 法人税事業承継
組織再編税制(会社分割)を利用した事業承継(2)
前回(2025年1月15日掲載)では、組織再編税制が個人や中小企業の事業承継にも利用できる制度であることの例として「相続が生じる前」に会社分割の事例を紹介し、その際、相続後においても会社分割により同様のことが可能であることを述べました。そこで、今回は「『相続後』の会社分割と株式譲渡による円滑な事業承継」が可能であることを事例(注1)を用いて確認したいと思います。(1)事例の概要X社は、もともと創業者甲の100%出資により設立された株式会社ですが、甲の死亡(相続)により甲の子供である乙と丙がそれぞれX社株式の50%ずつを承継しました。X社において乙と丙はそれぞれ異なる事業の経営を行っています。また、当社全体の経営方針等を巡って乙と丙で対立しています。そこで、乙と丙が互いに独立して事業を進めるために、X社を2つに分割して乙がX社を100%保有し、丙が新会社を100%保有する形態にすることを考えています。まず、X社は、新設分割(分割型分割)を行って新会社を設立し、新会社株式を直ちに乙と丙にそれぞれに交付します。そして、乙は交付を受けた新会社株式の全部を丙に譲渡し、丙は保有するX社株式の全部を乙に譲渡します。その結果、乙はX社株式の100%を保有し、丙は新会社株式の100%保有することとなります。(2)X社の課税関係イ適格要件分割が適格分割となる場合とは、①完全支配関係の場合、②支配関係の場合、③共同事業を行う場合、④事業を独立して行う場合(分割型分割の場合のみ)の4つの類型に分かれます。この事例の場合、乙と丙の兄弟で100%保有していますので、「①完全支配関係の場合」の要件に該当するか否かをまず検討することになり、この場合の適格要件は、①金銭等不交付要件と②完全支配関係継続要件の2つになります(法人税法2条12号の11イ、法人税法施行令4条の3第6項他)。①金銭等不交付要件金銭等不交付要件とは、分割対価資産として分割承継法人又は分割承継親法人(注2)のうちいずれか一の法人の株式以外の資産が交付されないこと(株式が交付される分割型分割にあっては、その株式が分割法人の発行済株式(自己株式を除きます。)の総数のうちに占める分割法人の各株主の有する分割法人の株式の数の割合に応じて交付されるもの(按分型の分割型分割)に限ります。)をいいます(法人税法2条12号の11、法人税法施行令4条の3第5項)。この事例の場合、新設分割において新会社の株式のみが分割対価資産としていったんⅩ社に交付され、それが直ちにⅩ社の株主である乙及び丙に全部交付されます。分割対価資産として分割承継法人(新会社)の株式以外の資産は交付されず、分割承継法人(新会社)の株式は、分割法人(Ⅹ社)の100%株主である乙及び丙に全部交付されることで按分型の分割型分割に該当します。したがって、金銭等不交付要件を満たすことになります。②完全支配関係継続要件単独新設分割である分割型分割に該当するこの事例の場合、その分割後に分割法人(Ⅹ社)と分割承継法人(新会社)との間に同一の者(乙及び丙)(注3)による完全支配関係が生ずることになりますが、完全支配関係の継続が見込まれることが求められるのは、乙及び丙と分割承継法人(新会社)との間の完全支配関係となります(注4)。この事例の場合、乙は、交付を受けた分割承継法人(新会社)の株式の全部を丙に譲渡して分割承継法人(新会社)の株式を保有しなくなりますが、同一の者の中での譲渡であり、乙及び丙という同一の者による分割承継法人(新会社)の完全支配関係には影響を及ぼしません。丙は、乙から譲渡を受けた分を含めて分割承継法人(新会社)の株式の100%を保有し続ける見込みですから、同一の者(乙及び丙)と分割承継法人(新会社)との間の完全支配関係の継続が見込まれるため、完全支配関係継続要件を満たすことになります。ロ事例の適格性この分割は、金銭等不交付要件及び完全支配関係継続要件を満たしますので、適格分割に該当することになります。ハ資産及び負債の移転価額適格分割により、資産及び負債を移転した場合には、帳簿価額による引継ぎをしたものとして所得の計算をすることとされています(法人税法62条の2第2項)。したがって、分割に係る資産及び負債の移転に関する譲渡損益は生じません。移転するこれらの含み損益は、新会社においてその譲渡等が行われたときに新会社において課税されます。(3)個人株主(親族)の課税関係イ分割後の株式の取得価額分割型分割により分割承継法人の株式のみを取得した場合、旧株の従前の取得価額のうち純資産移転割合(注5)を乗じて計算した部分の金額をその分割承継法人の株式に引き継ぐこととされ(所得税法施行令113条1項)、分割型分割後の旧株の取得価額は、旧株の従前の取得価額のうち、純資産移転割合を乗じて計算した部分以外の部分の金額を付け替えることとされています(同令113条3項)。ロ分割後の株式の譲渡の課税関係乙が行う丙に対する新会社株式の譲渡、丙が行う乙に対する貴社株式の譲渡は、いずれも一般株式等の譲渡として申告分離課税20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)によりが行われることとなります(措法37の10①、復興財源確保法13、地法附則35の2①⑤)。(4)まとめこの事例の場合には、法人税の課税は生じることはなく、乙と丙との株式の譲渡に関する課税(申告分離課税、上記(2)ロ)が生じることになります。なお、消費税等についても非課税や軽減措置が認められています(注6)。前回及び今回取り上げたように、いわゆる「事業承継税制」以外の税制(制度、手法)を用いることで、円滑な事業承継が可能になるのではないかと考えています。<注釈>この事例も、平成27年10月21日開催の九州北部税理士会「事業承継のための新たな手法」で解説した事例の一つで、その後もいくつかの税理士会で内容等を修正等して解説しており、直近では昨年5月に東京税理士会第7回会員研修会でも取り上げています。書籍としては、本職事務所客員税理士の小松誠志氏が『事例検討法人税の視点からみた事業承継・M&Aの実務ポイント』(大蔵財務協会、令和3年)等に取りまとめています。基本的に分割の直前に分割承継法人と分割承継法人以外の法人との間にその法人による完全支配関係(「直前完全支配関係」といいます。)があり、かつ、分割後に分割承継法人とその法人との間にその法人による完全支配関係が継続することが見込まれている場合におけるその直前完全支配関係がある法人をいいます。一の者が個人の場合には、その者と親族等の特殊の関係のある個人を含むこととされています(法人税法施行令4条1項、4条の2第2項)。乙と丙は兄弟(親族)の間柄ですので、乙と丙で同一の者と判定されます。乙及び丙と分割法人(X社)との間の完全支配関係が継続することが見込まれているとしても適格性に影響はありません。仮に分割後に分割法人(X社)株式を第三者に譲渡することが見込まれている(乙及び丙と分割法人(X社)との間の完全支配関係が継続することが見込まれていない)としても、この事例の場合の適格性には影響はありません。純資産移転割合は、原則として、「分割型分割の直前の移転資産の簿価純資産価額」の「分割法人の分割型分割の日の属する事業年度の前事業年度の簿価純資産価額」に占める割合をいいます(所得税法施行令61条2項2号)。消費税は、法人税法上の適格又は非適格に係わらず、分割が合併の場合と同様に権利義務の包括承継であることから資産の譲渡等に該当せず、不課税取引とされています(『平成13年改正税法のすべて』(国税庁・511、512頁)、末安直貴『回答実例消費税質疑応答事例集』18頁(大蔵財務協会、令和3年)。登録免許税は、一定の軽減はあるものの課税され(登録免許税法別表1二十四(一)ト、同表一(二)イ・ハ、租税特別措置法80条1項3号、同条1項6号)、不動産取得税は、一定の形式移転と認められるものは非課税とされています(地方税法73条の7第2号、同法施行令37条の14)。提供:税経システム研究所
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2025/04/30
2025年新卒者の採用・選考活動動向に関する調査
東京商工会議所は令和7年3月17日、東京商工会議所が主催した「会員企業と学校法人との就職情報交換会」に参加した企業を対象に、新卒者の採用・選考活動等の動向を把握するために標記調査を実施し、結果を取りまとめた。「会員企業と学校法人との就職情報交換会」は、新卒者や既卒者(卒業・修了後3年以内等)の採用を検討している会員企業と会員学校法人(大学・専門学校等)の就職支援担当者が一堂に会する情報交換会で、年に3回程度実施し、毎回300を超える中堅・中小企業と、90程度の学校法人が参加しており、採用やインターンシップ等について直接情報交換を行うというものである。今回の調査は、2024年度第3回「会員企業と学校法人との就職情報交換会」(1月24日開催)の参加企業303社を対象に2025年1月24日~1月31日Webアンケートシステムを利用して実施し、270社(回答率:89.1%)から回答を得ている。回答企業の属性としては、その他サービス業66社(24.4%)、製造業62社(23.0%)、情報通信業・サービス業51社(18.9%)等となっており、従業員規模は、101人から300人が最も多く91社(33.7%)、501人以上が61社(22.6%)となっていた。調査結果のポイントは、〇2025年新卒者の採用環境(採用市場)の感じ方について・2025年新卒者の採用環境(採用市場)について尋ねたところ、「厳しい採用環境である(採用が困難)」と回答した企業の割合は96.4%に達した。〇2025年新卒者の採用計画人数に対する充足率・計画以上の内定者数を確保している企業は13.4%にとどまる。・充足率が50%未満の企業の割合は、40.3%を占めている。また、14.6%が実質的な内定者がいない企業であることから、企業が新卒採用に苦戦している様子がうかがえる。〇2025年新卒者の採用・選考活動の終了(予定)時期・2025年1月以降も採用・選考活動を実施する予定の企業が60.5%に達することから、企業が新卒採用に苦戦している様子がうかがえる。〇内定辞退者の有無・内定・内々定の辞退者がいると回答した企業の割合は、73.1%に達する。〇2025年新卒者の初任給引き上げの実施状況・2025年新卒者の初任給引き上げの実施状況について、「初任給を引き上げた(引き上げる予定)」と回答した企業の割合は55.6%と半数以上を占めた。・「初任給を引き上げた(予定)」企業のうち、初任給の引き上げに連動して「新卒者以外の正社員の基本給も引き上げた」と回答した企業の割合は84.7%を占めた。(参考)2025年新卒者の採用・選考活動動向に関する調査についてhttps://www.tokyo-cci.or.jp/page.jsp?id=1205505
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2025/04/28
4つの事項に照らして、出来高払いの給与であるという審査請求人の主張を認めなかった事例(棄却)
【裁決のポイント】消費税法は、国内において事業者が行った資産の譲渡等に消費税を課するとし、消費税法基本通達1-1-1《個人事業者と給与所得者の区分》は、個人の行う役務の提供が、事業者によるものか給与所得者によるものかの判断は、当該役務の提供の基礎となった契約を基に行うこと、さらに、契約形態が明らかでない場合には、契約内容について、当該役務の提供にあたって指揮監督の有無など4つの事項に照らして判断することを示している。本件の審査請求人は損害保険会社の営業職員で、会社には営業職員就業規則があり、直販社員給与規則及び直販社員給与適用上の細則に基づき、審査請求人に役務の提供の対価(本件対価)が支払われた。税務署は審査請求人の役務提供は消費税法上の「事業」に該当するとして消費税の無申告に対して処分を行った。審査請求人は「出来高払いの給与所得者である」と主張した。なお、会社の本件対価の経理処理は課税仕入れであった。国税不服審判所は、本件対価が出来高払の給与か、請負あるいは委任による報酬(事業)かについて、上記の基本通達1-1-1に沿って、審査請求人が損害保険会社の指揮監督の有無などを総合勘案し、事業に該当すると判断し、請求を棄却した事例である。(平成29年、平成30年、令和3年の消費税等の各決定処分及び無申告加算税の各賦課決定処分他・棄却・令和5年6月13日裁決(非公開))【主な争点】審査請求人の役務の提供は、消費税法上の「事業」に該当するか【裁決の要旨】(1)役務の提供に当たり事業者の指揮監督を受けるか審査請求人は、所属している本件損害保険会社に出勤することなく、保険契約の募集については、所属上長の指示や許可によらず自らの責任と判断で決定しており、所得上長は報告を求めることはなかったことからすると、役務の提供に当たり損害保険会社の指揮監督を受けていたとは認められない。(2)役務の提供に係る材料又は用具等を供与されているか接待交際費、販売促進費並びに審査請求人の事務補助社員の給与及び通勤費等は全て審査請求人が負担していることから、役務の提供に係る材料又は用具等を本件損害保険会社から供与されていたとは認められない。(3)既に提供した役務に係る報酬の請求をなすことができるか審査請求人は取り消された保険契約に係る報酬を得ることはできない。そうすると、審査請求人は、既に提供した役務に係る報酬の請求をなすことができるとはいえない。(4)その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替を容れるか審査請求人が選任した他の営業職員又は社員に審査請求人の業務を行わせる場合があることから、審査請求人の役務の提供の内容は他人の代替を容れるものであると認められる。以上のとおり、上記の事項に係る事情を総合勘案したところ、本件対価は請負あるいは委任による報酬と認められるから、請求人の役務の提供は消費税法上の「事業」に該当する。消費税法上の「事業」に該当するか否かは、消費税法の各規定やその趣旨に従って判断すべきであるから、各社会保険料が課されていること及び審査請求人が労働組合法上の営業職員労働組合に加入している各事実は、当審判所の判断を左右するものではない。【参照条文】消費税法第2条《定義》、第4条《課税の対象》、第5条《納税義務者》消費税法基本通達1-1-1《個人事業者と給与所得者の区分》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/04/28
消費税調査の強化
近年、税務当局は消費税の調査を強化しており、特に不正還付の防止に注力している。税務署の税務調査だけでなく、国税局査察部も消費税調査に重点を置いている。不正還付の手口としては、同一の高級腕時計のシリアルナンバーや不正に入手したパスポートの写しを用いて書類を偽造し、架空の課税仕入れおよび架空の輸出免税売上を計上するもの、虚偽のパスポート情報を用いた免税商品の販売を装うものなどがある(注1)。これらは消費税の仕入税額控除制度や輸出物品販売所制度を悪用する典型例であり、国税庁はこうした不正還付に対して厳格に対応している。企業にはコンプライアンス強化が求められる。インボイス制度の導入により、今後、税務調査の方向性も変化すると予想される。インボイス制度では、適格請求書(インボイス)の保存が仕入税額控除の要件とされているため、税務調査ではインボイスおよび帳簿の記載が正確かつ適切であるか、申告された仕入税額控除が適正であるかが精査されることが見込まれる。会計ソフトを使用して記帳している場合、1つ誤りが発見されると、芋づる式に検索機能で同様の誤りを簡単に抽出できるため、税務調査も効率的に実施されるだろう。効率的な調査を行うため、国税局や税務署にはITに特化した専門部署があり、必要に応じて調査に協力している。インボイス制度が始まって間もない現段階では、国税庁は軽微な記載不備を目的とした調査は行わず、まずは制度の定着を図るために柔軟な対応をとっている。しかし、これを理由に対策を怠ることはできない。制度が浸透し、適用が厳格化されるにつれ、税務調査も厳しさを増していくと考えられる。インボイス制度に関しては、法律ではなく国税庁ホームページ内のみで取り扱いが示されている場合もあり、実務者は知識のアップデートが欠かせない(注2)。消費税調査において誤りが見つかり、修正申告を行った場合、過少申告加算税が課される(注3)。また、不正が発覚した場合は重加算税が課される。重加算税は、仮装や隠蔽といった不正行為を行った際に適用され、税額の35%または40%と非常に重い負担となる。これらに加えて延滞税も課されるため、企業にとっては大きなリスクとなる。確定申告期が終わり、税務署は7月に向けて事務年度最後の税務調査に乗り出す。7月の人事異動後には税務調査の最盛期を迎える。実務担当者にとって税務調査は負担となりがちだが、日頃から適切な処理を心掛け、税務調査に備えることが求められる。<注釈>https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/01.pdfhttps://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice.htmhttps://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/tins/n04_3.pdf提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/04/28
我が国の企業の研究費
総務省統計局は、我が国における科学技術に関する研究活動の状態を調査し、科学技術振興に必要な基礎資料を得ることを目的として、科学技術研究調査(※)を毎年実施している。今回、2023年度の調査結果から、科学技術研究費(以下「研究費」という。)のうち、我が国の企業の研究費について4月11日に公表した。研究費総額の推移について、2009年度はリーマンショック(2008年9月)の影響により大きく減少したが、その後はおおむね増加傾向で推移しており、2023年度は22兆497億円(前年度比+6.5%)と2021年度から3年連続で増加し、過去最高となっている。研究主体別について、企業が16兆1,199億円(73.1%)と最も多く、大学等(17.9%)、非営利団体・公的機関(9.0%)となっている。産業別について、自動車・同附属品製造業の割合が26.9%で最も高く、次いで、医薬品製造業9.5%、電子部品・デバイス・電子回路製造業8.5%、情報通信機械器具製造業5.3%、生産用機械器具製造業5.1%となっており、製造業全体が占める割合は85.9%となっている。2023年度に研究費の支出が多かった5産業について、2007年度と対比すると2010年度以降は、情報通信機械器具製造業を除き、おおむね上昇傾向となっており、特に自動車・同附属品製造業178.9%、生産用機械器具製造業176.8%、電子部品・デバイス・電子回路製造業164.0%と大きく伸びている。技術輸出の対価受取額は5兆476億円となっており、産業別では製造業が4兆7,249億円で93.6%を占めており、自動車・同附属品製造業が2兆9,022億円で最も多く、全産業の57.5%(製造業の61.4%)を占めている。また、技術輸入の対価支払額は6,858億円となっており、産業別では製造業が4,569億円で66.6%を占めており、次いで、情報通信業が1,751億円で25.5%となっている。製造業の中では、医薬品製造業が2,530億円で最も多く、全産業の36.9%(製造業の55.4%)を占めている。(参考)我が国の企業の研究費https://www.stat.go.jp/data/kagaku/kekka/topics/topics144.html※科学技術研究調査調査の結果https://www.stat.go.jp/data/kagaku/kekka/index.html
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2025/04/25
経済産業省、「工場セキュリティの重要性と始め方」を策定
経済産業省は4月11日、「工場セキュリティの重要性と始め方」を策定し、公表した。背景として、工場では、IoT化によるネットワーク接続機会の増加に伴いサイバー攻撃リスクも増加するほか、ネットワークの接続に乏しい工場であっても不正侵入等による攻撃の可能性があり、過去にはインターネットに接続していなくても外部からのUSB接続でウィルスに感染した事例も報告されている。また、意図的に攻撃を受ける場合もあれば、たまたま攻撃される場合もあるなど、いかなる工場でもサイバー攻撃を受けるリスクがあり、現にサイバー攻撃による工場の被害が国内外で生じていることから、工場のサイバーセキュリティ対策が求められている。こうした課題認識の下、これまで同省では、令和4年11月に工場システムのセキュリティ対策を実施する上で参考となるような考え方やステップを示した「工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン」※(以下「ガイドライン本編」という。)を、令和6年4月には「別冊:スマート化を進める上でのポイント」を策定してきた。近年、取引先まで被害が波及するなど、サプライチェーンを介したサイバー攻撃のリスクが高まっており、こうした状況において製造業全体を守るためには、工場の規模を問わずサプライチェーンを構成する全ての企業において、セキュリティ対策を実施する必要がある。今般、主に工場を有する中小規模の製造事業者の経営層や工場のセキュリティ担当者として選任された者を対象に、ガイドライン本編の内容をより分かりやすく解説し、具体的な事例・手順を示した解説書として、「工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン」Appendix【工場セキュリティの重要性と始め方】を策定した。今後、同省では中小企業向けサイバーセキュリティ対策促進施策と一体的に、関係省庁や関係団体と連携した広報活動等を通じて、本書の普及展開を図っていく予定であり、中小規模の製造事業者における工場セキュリティの意識が啓発され、製造業におけるサプライチェーン全体のセキュリティが向上することを期待している。(参考)経済産業省、工場セキュリティの重要性と始め方を策定https://www.meti.go.jp/press/2025/04/20250411005/20250411005.html※工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドラインhttps://www.meti.go.jp/policy/netsecurity/wg1/factorysystems_guideline.html
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