商事法研究リポート

MJS税経システム研究所・商事法研究会の顧問・客員研究員による商事法関係の論説、重要判例研究や法律相談に関する各種リポートを掲載しています。

1.はじめに旧商法では、会社は営利の目的をもって設立された社団法人と定義されていました(旧商法52条、54条1項)。それに対して、会社法では、「会社は、法人とする。」と規定されているだけで(会社法3条)、営利性も社団性もそのことを示す文言が条文上は消えてしまいました。しかし、立法担当官の説明によると、会社の株主や社員には、利益配当請求権と残余財産分配請求権が認められているのは明らかなので(会社法105条1項1号・2号、621条、666条)、会社が対外的活動...
大阪地判平成17・5・27判タ1217号304頁1.事実の概要平成15年12月25日、株式会社である原告が、大阪法務局に対し、同月19日を原因日付とする発行済株式総数及び資本の額を変更する旨の登記申請(以下、本件登記申請といいます)を行い、その際、申請書の添付書類として、取締役会議事録の写し、株式申込書の写し、原告名義の普通預金口座の預金通帳の写し、及び「払込金保管証明書に関する申立書」を提出しました。...
3.会社法における非公開会社の管理運営機構と運用上の問題点(2)取締役による業務執行についての問題点ア.取締役会非設置会社における業務の決定とその方法非公開会社の業務執行体制のうち、取締役会の設置されない場合における非公開会社の業務執行について見ると、この種の会社において取締役が1人だけ選任されている場合は当該取締役の会社業務執行権と代表権が専属することになります。これに対し、2人以上の取締役が選任されている場合は、前述のように、会社の業務執行の体制として...
(東京地判平成19年5月23日金融・商事判例1268号22頁)1.事案の概要原告であるXは、商品取引所法上の商品取引員であった破産者A株式会社(以下、「A社」とする)の従業員Nらの勧誘により、平成11年11月から商品先物取引を開始しました。Xは、その後、Nらによる勧誘や関与の下で平成13年3月までの間に約10種類の商品にかかる先物取引を行いましたが、結果として合計1469万7100円の損失を生じさせるこ...
(大阪高判平成19・3・15判タ1239号294頁)1はじめに今回紹介する大阪高判平成19・3・15(判タ1239号294頁)は、昭和38年2月4日に設立された①環境衛生・清掃用資器材等の製造・販売、②料理飲食店等の経営・これらの事業を経営するフランチャイズ店に対する経営指導・業務委託等、③シニアケア事業、④その他の事業を目的とする株式会社ダスキン(以下、ダスキンと表記)の株主代表訴訟です。本件は、ダス...
1はじめにわが国に閉鎖的な株式会社が多数存在するという実態を踏まえて、機関構造や新株発行の規律等の点で株式会社に対する法規制の区分を図ることが、長年の立法課題とされてきました(注1)が、会社法により一応の規制区分が実現したことは周知の通りです。この点に関する学界の問題指摘は昭和30年代にまで遡るだけに、会社法が株式会社の規模の大小と公開・非公開の別により、とりわけ機関設計の面での規律を区分するに至ったことは、懸案事項に対する一応の立法的手当てを実現するもの...
はじめに親子会社は、グループ経営を可能にする手法として優れているといわれています。そこで、平成9年の独占禁止法の改正によって持株会社が解禁されてから、持株会社を中心とした企業グループを形成する例が増えてきています。しかし、持株会社には、全体の経営と個々の事業を分離することによって意思決定の迅速化が図れるなどのメリットがあるといわれる一方で、企業統治上の種々の困難な問題を生じることが指摘されています(注1)。また、会社法(平成17年法律第86号)においては、...
I法人格否認の法理の意義法人格否認の法理とは、独立の法人格を有する会社において、特定の具体的法律問題を解決するにあたり、その形式的独立性を貫くことが正義・公平に反する場合に、当該事案に限り法人格を無視して、会社とその背後にある社員とを同一視して事案を処理する法理をいいます。具体的問題の解決に必要な限りで、法人格の機能を否定し、独立の法人格が存在しないかのように擬制するわけであり、法人格を全面的・絶対的に否定する解散命令(会824条)や設立取消・無効判決(会...
1取締役の報酬規制(1)定款の定めまたは株主総会の決議委員会設置会社(会社法404条3項により報酬委員会が決定します)以外の株式会社では、取締役の報酬は、定款に定められていなければ、株主総会の決議によって定めなければなりません(会社法361条1項)。このため、定款の定めや株主総会の決議を経ずに報酬が支給された場合には、その支給は無効と考えられています。この報酬規制の趣旨について、判例・多数説は、取締役が会社から受ける報酬の決定自体は業務執行に属するので、取...
1はじめに平成19年6月20日に通常国会において電子記録債権法(以下、「電債法」と略します)が成立し、同月27日に公布されました。この電債法は、公布の日から1年6か月を超えない日から施行されることが予定されており、実際に施行されますと、民法上の指名債権や手形法上の手形債権とは異なる新たな金銭債権である電子記録債権が生まれることになります。ご案内の通り、わが国では、企業が支払・決済を行ったり、事業活動に基づいて取得した売掛債権を資金化する手段として従来から約...