このほど公表された2020事務年度の所得税等の調査状況では、新型コロナウイルス感染症の影響による調査事務量の減少から、申告漏れ所得、追徴税額等が減っていることが明らかになった。しかし、国税当局では同事務年度においても“富裕層”への調査を積極的に行っており、調査件数、申告漏れ所得金額や追徴税額自体は上記の理由から減っているものの、1件当たりの申告漏れ所得金額は増えていることが明らかになった。

国税当局では、有価証券・不動産等の大口所有者、経常的な所得が特に高額な者などいわゆる“富裕層”に対して、資産運用の多様化・国際化が進んでいることを念頭に調査を実施しており、所得税調査における“重点課題”と位置付け積極的に取り組んでいる。今年6月までの1年間(2020事務年度)には、前事務年度比▲51.6%の2158件の富裕層に対する実地調査が行われ、同▲38.3%の申告漏れ所得金額487億円が把握された。

富裕層に対する所得税の実地調査の結果、調査件数の約85%に当たる1843件(前年対比▲52.0%)から何らかの非違を見つけ、その申告漏れ所得金額487億円について、117億円(同▲54.8%)を追徴した。調査件数等が減少するなか、1件当たりの申告漏れ所得金額は過去最高の2259万円(同27.8%増)となり、追徴税額は543万円(同▲6.5%)で、所得税全体の実地調査(特別・一般)1件当たり275万円と比べ約2倍にのぼる。

また、近年資産運用の国際化が進んでいることから国税当局では富裕層の海外投資等にも目を光らせており、同期間中にも海外投資を行っていた517件(前年対比▲44.8%)に対して調査を展開し、約88%に当たる453件(同▲43.9%)から150億円(同▲63.5%)の申告漏れ所得金額を把握、45億円(同▲69.4%)を追徴している。1件当たりの申告漏れ所得金額は879万円(同▲44.0%)と高額だ。

調査事例をみると、内国法人の代表者である調査対象者Aは、国外財産調書から、不動産投資の目的で設立した外国法人からの収益の申告漏れが想定され、調査選定した事例が報告されている。Aに対して同法人からの配当の授受について確認したところ、同法人の決算書を提示の上、同法人からの配当はないとの申立てがあったが、その内容に疑義があったため、同法人が所在するB国の税務当局に対し、租税条約等に基づく情報提供要請を行った。

その情報提供要請により、Aが同法人から配当金を受領しており、B国においてその配当に課税されている事実を把握し、Aにその内容について説明を求めたところ、配当所得の課税を免れるため、虚偽の決算書を作成し証拠書類として提示した事実を認めた。Aに対しては、所得税3年分の申告漏れ所得金額約2億3400万円について税額(重加算税含む)約8900万円が追徴されている。

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