現物支給とは、会社が従業員に支給する報酬について、現金の代わりに「もの」を渡す方法だ。従業員に支払う報酬は、経費の性質を持つものを除いて現金で支払う原則があるので、退職金を現物で支給することはできない。しかし、従業員とは異なり、経営者への報酬は現金以外で支給することもできる。役員に対しても現金で支払うケースは多いが、現物支給のほうが、現金支給に比べて多くの資産を得られる可能性がある。

退職金の現物支給で用いられる代表的な方法には生命保険、不動産、自動車などがあるが、例えば不動産は、帳簿上の価格よりも低い評価額での現物支給で法人税を抑えることができる。一方で、注意点も少なくない。退職金の現物支給では、現物の適正な評価額を必ず把握しておく必要がある。不動産や自動車の適正な評価額は、帳簿に記載された減価償却後の金額ではなく、実際の市場で取引されている金額となる。

役員に、退職金として会社所有の不動産を支給する場合の注意点は、まず、その不動産の時価を算定すること。実際に取引される時価を算定する必要があるので、一般的には不動産鑑定士等に査定をしてもらう。例えば、帳簿価格は2000万円、時価は3000万円の場合、帳簿価格と時価との差額1000万円の譲渡益が会社側で計上される。そして退職金として3000万円が損金に計上され、結果的には帳簿価格と同じ2000万円が会社の損失となる。

そして、退職金を受け取るほうは、あくまで3000万円の退職金を受け取ったことになるので、それに応じた所得税や住民税を納付することになる。金銭で退職金を支給した場合は所得税や住民税を差し引いて支給するが、退職金が現物資産のみの場合は、退職者から所得税及び住民税相当額を徴収することになるので注意が必要だ。更には不動産を取得することによる不動産取得税や登録免許税などの出費も個人負担となる。

消費税の問題もある。退職金の支給を決議する際の議事録に現物支給であること及び現物資産の種類・金額等が明記されていれば消費税の課税対象とならないが、明記されず単に退職金の支給とその支給額だけを決議したような場合は、元々は金銭で支給する予定だったが事後に現物資産で弁済した、いわゆる代物弁済となる。そうなると消費税法上は土地に関しては非課税売上高、建物に関しては課税売上高として処理することになる。

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