国税不服審判所はこのほど、2023年4月から6月分の裁決事例を同審判所ホームページ上にある「公表裁決事例要旨」及び「公表裁決事例」に追加し公表した。今回公表された裁決事例は、7事例(国税通則法関係2件、法人税法関係1件、相続税法関係3件、租税特別措置法関係1件)だった。今回は、2事例において、賦課決定処分の一部を取り消しており、実務家にとっても参考となると思われる。

ここでは、租税特別措置法関係の小規模宅地等の特例の適用の有無を巡って争われた事例を紹介する。この事例は、共同住宅の貸室のうち、相続開始の時に5部屋が空室であったところ、うち3室は、その状態が長期にわたっており、残る2室についても積極的に新たな入居者を募集していたとはいえないことなどから、賃貸されていたのと同視し得る状況にはなく、一時的に賃貸されていなかったものとは認められないと判断したもの。

請求人は、相続開始の直前に、被相続人が所有していた共同住宅の8部屋あるうち5部屋が空室だったが、被相続人は、共同住宅を貸付事業以外の用に供さず維持管理を行い、インターネットサイトで各空室部分の入居者の募集をしていたことから、その敷地の全てが貸付事業の用に供されていたとして、本件宅地の全てに租税特別措置《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》に規定する特例の適用がある旨主張した。

しかしながら裁決は、各空室部分のうち3部屋については、相続開始の時に長期にわたって空室の状態が続き、客観的に空室であった期間だけみても、相続開始の時に賃貸されていたのと同視し得る状況になく、一時的に賃貸されていなかったものとは認められない。また、本件各空室部分のうち残る2部屋については、相続開始の時に空室であった期間は長期にわたるものではないと指摘。

2部屋については、インターネットサイトに入居者を募集する旨の広告が掲載されていたものの、不動産業者ではオーナーから広告の掲載を取りやめたい旨の申出がない限りその掲載を継続する扱いをしていたことからすれば、被相続人が一般媒介契約及び上記広告を放置していたにすぎず、積極的に新たな入居者を募集していたとはいえないし、現に相続税の申告期限までの期間をみても、新たな入居者はなく、空室のままだったと指摘した。

したがって、2部屋についても、相続開始の時に賃貸されていたのと同視し得る状況になく、一時的に賃貸されていなかったものとは認められないとした。以上のことから、本件各空室部分は、被相続人の貸付事業の用に供されていたとは認められないから、本件宅地のうち、本件各空室部分に対応する部分に本件特例の適用はないと判断して、相続開始に係る相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を認めている。

2023年4月から6月分の裁決事例は↓
https://www.kfs.go.jp/service/JP/idx/131.html

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