国税庁では、納税者の予測可能性を高め、移転価格税制の適正・円滑な執行を図る観点から、事前確認に係る相互協議を実施している。相互協議とは、納税者が移転価格課税等による国際的な二重課税を受けた場合、または受けるに至ると認められる場合に、国税庁と条約締結国の税務当局間で解決を図るための協議手続きのこと。国税庁はこのほど、2021事務年度(2021年7月~2022年6月)の相互協議の状況を公表した。

それによると、2021事務年度は前事務年度を61件(33%)上回る246件の相互協議事案が発生。そのうち「事前確認」に係るものは188件(前事務年度比28.8%増)で、全体の76%を占めていることが分かった。「事前確認」とは、納税者が税務当局に事前に申し出た独立企業間価格の算定方法を税務当局が確認した場合には移転価格課税は行わないという制度。また、「移転価格課税その他」に係るものは58件で、全体の24%だった。

ここでいう「移転価格課税その他」には、移転価格課税に加えて、恒久的施設(PE)に関する事案や、源泉所得税に関する事案などが含まれる。一方、同事務年度の処理件数は186件で、前事務年度からは31件(20%)の増加となった。このうち「事前確認」に係るものの処理件数は130件、「移転価格課税その他」に係るものの処理件数は56件。また、処理事案1件当たりに要した平均的な期間は31.6ヵ月(前事務年度30.3ヵ月)だった。

処理件数186件を業種別にみると、「製造業」が最多の125件で、「卸売・小売業」38件、「その他」23件。また、対象取引別にみると、「棚卸取引」が139件で最多、次いで「役務提供取引」96件、「無形資産取引」70件となっている。2021事務年度の相互協議事案の処理件数は186件となった一方で、発生件数は246件と処理件数を上回ったことから、翌事務年度への繰越件数は前事務年度比10.5%増の632件に増加している。

繰越事案の相手国を国別にみると、「米国」が20%で最も多く、次いで「中国」(16%)、「インド」(14%)、「韓国」(9%)、「ドイツ」(7%)の順となっている。なお、国税庁では、納税者の予測可能性を高め、移転価格税制の適正・円滑な執行を図る観点から、事前確認に係る相互協議にも力を入れている。移転価格課税による追徴課税の大規模化が進むなか、相互協議のニーズはますます高まるものとみられている。

相互協議の状況は↓
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2022/sogo_kyogi/index.htm

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