最低賃金の引上げや人手不足を背景に、パート労働者の時給は年々上昇しているが、それにもかかわらず、年収はほぼ横ばいで推移。その要因として、年収が税金や社会保険料の支払い対象外となる範囲にとどまるよう、自身の労働時間を調整する「就業調整」を行うパート労働者が少なくないことが挙げられる。野村総合研究所(NRI)は、物価上昇に対する賃上げ対策の一つとして「年収の壁」を越えるための施策を求める提言を発表した。

税金、社会保険料、配偶者の勤め先から支給される「家族手当」に関わる「年収の壁」がある。例えば税金では、これを超えると住民税納付が必要となる「100万円の壁」、同配偶者控除(38万円)が受けられなくなる「103万円の壁」、同配偶者特別控除(38万円)が満額受けられなくなり、以降段階的に控除額が減少する「150万円の壁」、同配偶者特別控除が受けられなくなる「201万円の壁」がある。

NRIが9月に全国の20~69歳の有配偶パート女性3090人を対象に実施した調査結果によると、「就業調整」をしている有配偶パート女性の8割近くが「『年収の壁』を越えても働き損にならないのなら、今より年収が多くなるように働きたい」と回答している。この調査の結果を踏まえ、NRIは、現在の急速な物価高において実質的賃上げの実現につながる「『年収の壁』による働き損」の解消策を提案している。

提案は、「年収の壁」を自ら越えて収入を上げることができる支援策として、(1)「年収の壁」を越え、社会保険料の支払い負担が増えたことで発生する手取りの減少を補う施策、(2)「年収の壁」につながる「家族手当」の所得制限撤廃を企業に促す施策を、政府に求めている。「家族手当」には、妻の年収が103万円又は130万円を超えると、多くの企業で「家族手当」の支給対象外となる「103万円又は130万円の壁」がある。

NRIは、「『年収の壁』による働き損」解消策により、「働き損」を解消し、「年収の壁」を意識せずにパートタイム有配偶女性が労働時間を2割増やせば、世帯年収を20万円増やすことができ、配偶者の給与収入が500万円(手取り約400万円)とすると、世帯年収4%増、4%の賃上げに相当すると試算。物価高による一世帯当たりの負担額は、二人以上の勤労世帯で10万円との試算があり、それを上回る効果が期待できると指摘している。

この件については↓
https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/knowledge/report/cc/mediaforum/2022/forum345.pdf?la=ja-JP&hash=8C85C76EDDA8207EC313CF7DF1C745AF944FD2EB

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