2022年度税制改正大綱は、次年度以降に検討を先送りした重要項目が目立つ。それは、岸田文雄首相が意欲を示していた金融所得課税の強化と、「暦年課税」の見直しを念頭に置いた相続税・贈与税のあり方の検討だ。大綱では、金融所得課税について、「高所得者層において、所得に占める金融所得等の割合が高いことから、所得税負担率が低下する状況がみられる」として、課税のあり方を検討する必要性を明記した。

金融所得課税の税率は現在一律20%のため、株式譲渡益や配当などの金融所得割合が相対的に高い高所得層は、株式譲渡益がいくら大きくなっても、累進的に課税されることはなく、年間の所得が1億円を超えると所得税負担率が低下する“1億円の壁”と呼ぶ問題が指摘されている。そこで、税負担の公平性の面から、その1億円の壁の解消を目指す。ただし、具体的な議論は2023年度税制改正に先送りされている。

また、相続税・贈与税のあり方の見直しが2021年度税制改正大綱に引き続き盛り込まれた。2015年に相続税の基礎控除額が引き下げられて以降、相続税の課税対象者が増加したことから、相続対策として「暦年贈与」と「相続時精算課税」の生前贈与が活用されている。大綱は、資産の再分配機能の確保を図りつつ、資産の早期の世代間移転を促進するための税制を構築することが重要との考えを示した。

その上で、「諸外国の制度を参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度の在り方を見直すなど、資産移転の時期に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める」との考えを明記した。「暦年贈与」は、1年間にもらった財産の合計額が110万円以下なら贈与税はかからないことから、多くの納税者が相続対策として利用している。

その暦年贈与の効果が下がるような見直しが行われたらインパクトは大きい。見直しの方向性としては、一つは暦年贈与を廃止し相続時精算課税制度のみを残す方法か、もう一つは暦年課税を存続させるが、実態は相続税に近づける方法が考えられる。暦年贈与の突然の廃止は国民の影響が大きいことから、可能性が高いのは、暦年課税を相続税に近づける方法が考えられる。

具体的には、現在暦年課税の相続扱いは3年以内だが、これを10年以内あるいは15年以内などに拡大するというものだ。実際、参考にするという諸外国ではより長い期間の贈与を課税対象としており、イギリスは死亡前以前7年間、フランスは15年間、アメリカに至っては生前贈与すべてに相続税を課している。来年以降の税制改正では、こういった諸外国の制度を参考に、実質相続税と贈与税を一体化する方向で議論する可能性が高いようだ。

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