このほど公表された2019事務年度の所得税等の調査状況では、新型コロナウイルス感染症の影響により調査事務量の減少等から調査件数及び申告漏れ件数、追徴税額等が減っていることが明らかになった。しかし、国税当局では同事務年度においても“富裕層”への調査を積極的に行っており、調査件数自体は上記の理由から減っているものの申告漏れ所得金額や追徴税額は増えていることが明らかになった。

国税当局では、有価証券・不動産等の大口所有者、経常的な所得が特に高額な者などいわゆる“富裕層”に対して、資産運用の多様化・国際化が進んでいることを念頭に調査を実施しており、所得税調査における“重点課題”と位置付け積極的に取り組んでいる。今年6月までの1年間(2019事務年度)には、前事務年度比▲16.0%の4463件の富裕層に対する実地調査が行われ、過去最多の申告漏れ所得金額789億円(同3.4%増)が把握された。

富裕層に対する所得税の実地調査の結果、調査件数の約86%に当たる3837件(前年対比▲15.1%)から何らかの非違を見つけ、その申告漏れ所得金額789億円について、こちらも過去最多の259億円(同27.6%増)を追徴した。1件当たりの申告漏れ所得金額は1767万円(同23.1%増)、追徴税額581万円(同51.7%増)となり、追徴税額は、所得税全体の実地調査(特別・一般)1件当たり222万円と比べ約2.6倍にのぼる。

また、近年資産運用の国際化が進んでいることから国税当局では富裕層の海外投資等にも目を光らせており、同期間中にも海外投資を行っていた936件(前年対比9.0%増)に対して調査を展開し、約86%に当たる807件(同10.4%増)から411億円(同25.3%増)の申告漏れ所得金額を把握、147億円(同86.1%増)を追徴している。1件当たりの申告漏れ所得金額は4393万円(同15.0%増)と高額だ。

調査事例をみると、内国法人の代表者である調査対象者Aは、CRS情報(各国の税務当局と金融口座情報を交換する新制度)から、多額の国外預金が把握され、その原資を解明する必要があることから、調査に着手した事例が報告されている。調査の結果、海外に預金口座を保有し、金融商品への投資とともに、海外に不動産を複数購入し貸付を行っていた事実及び取得した不動産の一部を売却していた事実を把握した。

調査対象者Aは、過去に海外で法人を設立していたが、その法人の閉鎖に伴い、海外での金融資産の投資を開始した。投資で得た利益、不動産貸付に係る所得及び不動産の売却による利益は海外で納付済みとの認識だったものの、日本でいう消費税等の納付であり、その所得を申告している事実はなかった。Aに対しては、所得税5年分の申告漏れ所得金額約2億7900万円について税額(加算税込み)約6800万円が追徴されている。

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