国税当局では、有価証券・不動産等の大口所有者、経常的な所得が特に高額な者などいわゆる“富裕層”に対して、資産運用の多様化・国際化が進んでいることを念頭に調査を実施しており、所得税調査における“重点課題”と位置付け積極的に取り組んでいる。今年6月までの1年間(2018事務年度)には、前事務年度比1.8%増の5313件の富裕層に対する実地調査が行われ、過去最多の申告漏れ所得金額763億円(同13.9%増)が把握された。

富裕層に対する所得税の実地調査の結果、調査件数の約85%に当たる4517件(前年対比5.8%増)から何らかの非違を見つけ、その申告漏れ所得金額763億円について、こちらも過去最多の203億円(同14.7%増)を追徴した。1件当たりの申告漏れ所得金額は1436万円(同11.9%増)、追徴税額383万円(同13.0%増)となり、追徴税額は、所得税全体の実地調査(特別・一般)1件当たり180万円と比べ約2.1倍にのぼる。

また、近年資産運用の国際化が進んでいることから国税当局では富裕層の海外投資等にも目を光らせており、同期間中にも海外投資を行っていた859件(前年対比▲0.3%)に対して調査を展開し、約85%に当たる731件(同2.5%増)から328億円(同21.9%増)の申告漏れ所得金額を把握、79億円(同11.3%増)を追徴している。1件当たりの申告漏れ所得金額は3819万円(同22.4%増)と高額だ。

調査事例をみると、従来の自動的情報交換資料とCRS情報(各国の税務当局と金融口座情報を交換する新制度)から、国外預金の利子の申告漏れが想定され調査に着手した事例が報告されている。調査の結果、国外に預金口座を複数保有していることが判明したが、調査対象者Aは、一部の預金口座の存在は認めたものの、その他の口座は保有していないと申し立てていた。

そこで、さらにAを厳しく追及したところ、CRS情報に係る預金口座の利子を、意図的に申告に含めていなかった事実を認めた。Aに対しては、所得税(6年分)の申告漏れ所得金額約5500万円について重加算税を含む追徴税額約2700万円を課している。なお、Aは、財産債務調書の提出がなかったため、その提出を受けるとともに、その財産債務に関する申告漏れに係る部分の過少申告加算税額が5%加重して賦課されている。

国税庁では、このように、いわゆる“富裕層”に対して、資産運用の多様化・国際化が進んでいることを念頭に置いて、国外送金等調書、国外財産調書、租税条約に基づく自動情報交換資料、新制度であるCRS情報などのさまざまな情報を活用し、海外取引・海外資産関連収入の的確な把握及び積極的な調査に取り組んでいる。近年の所得税調査は、富裕層を始め社会的波及効果の高い、かつ、高額・悪質を優先した深度ある調査が特徴となっている。

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