国税当局では、有価証券・不動産等の大口所有者、経常的な所得が特に高額な者などいわゆる“富裕層”に対して、資産運用の多様化・国際化が進んでいることを念頭に調査を実施しており、所得税調査における“重点課題”と位置付け積極的に取り組んでいる。今年6月までの1年間(2017事務年度)には、前事務年度比24.6%増の5219件の富裕層に対する実地調査が行われ、同51.9%増の申告漏れ所得金額670億円が把握された。

富裕層に対する所得税調査の結果、調査件数の約82%に当たる4269件(前年対比25.3%増)から何らかの非違を見つけ、その申告漏れ所得金額670億円は現在の統計方法となった2009年以降最多。加算税を含め177億円(同39.4%増)を追徴。1件当たりの申告漏れ所得金額は1283万円(同21.7%増)、追徴税額339万円(同11.5%増)となり、追徴税額は、所得税全体の実地調査(特別・一般)1件当たり178万円と比べ約1.9倍にのぼる。

また、近年資産運用の国際化が進んでいることから国税当局では富裕層の海外投資等にも目を光らせており、同期間中にも海外投資を行っていた862件(前年対比61.7%増)に対して調査を展開し、約83%に当たる713件(同49.2%増)から269億円(同96.4%増)の申告漏れ所得金額を把握、71億円(同73.2%増)を追徴している。1件当たりの申告漏れ所得金額は3119万円(同21.1%増)と高額だ。

調査事例をみると、国内外の仮想通貨取引に係る事案を初公表している。調査対象者Aは、仮想通貨の取引による利益について自主的に修正申告書を提出していたが、部内資料等から、修正申告書の内容を大きく上回る利益を得ていることが想定された。調査の結果、Aは、多数の仮想通貨取引所に本人及び妻名義の取引口座を開設し、自身で開発した仮想通貨の自動売買プログラムを使用して多額の利益を得ていた事実が把握された。

Aは、インターネット情報で、仮想通貨取引の利益は申告する必要があることを知り、本人名義のうち、一部の仮想通貨取引の利益は修正申告したが、妻名義などで行った仮想通貨取引による利益は修正申告書に含めていなかったことを認めた。Aに対しては、所得税1年分の申告漏れ所得金額約5000万円について、追徴税額(重加算税を含む)約2400万円が課されている。

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